第二十九話「精霊王会談へ向けて」
すでに俺達がザラマンデルンに滞在して七日が過ぎている。その間俺は女王としての政務などに追われていた。その政務の合間を縫って精霊魔法の練習や記憶を取り戻すこともしている。思い出した記憶やイフリルに聞いた知識を整理しておく。
まず精霊族について。大半の○○の精と呼ばれる者達は半精神生命体のようなものである。魔の山で見た悪魔に近いのだ。エルフやドリュアデスのように物質世界との繋がりの強い者は実体を持っている。もちろんここにいる火の精達も悪魔と違い実体は持っているが非常に希薄なのだ。ソドムの街やザラマンデルンに来た時に現れたり消えたりしたのはその希薄な実体を消し空間の裂け目のような物を通って移動していたからだ。
その精霊達の生命や死生観は水に例えることができる。水は全て海につながっている。海という大きな塊から蒸発し雲になりやがて地に雨となって降り注ぐ。そして降り注いだ雨はやがて川となり海へと帰る。それと同じように生命の源から切り離され精霊として誕生する。やがて切り離された命は川のようにその生命の一生を送りやがて死に元の生命の源へと帰ってくる。切り離された瞬間にその精霊の寿命も力も全ては決定されるのだ。
大半の精の寿命は数年~数十年の間である。だがイフリルを見てもわかる通り数千年生きる者もいる。逆にほんの数秒でその命を終える者もいるのだ。生命の源から切り離された時にどれほどの力を持って生まれるかで決まってしまうのだ。だがそれは精霊達にとって悲しむべきことではない。例え数秒の命であったとしてもまた生命の源へと帰るだけなのだ。また力の強い存在は生命の源に帰っても完全に自我を失うことなくまた同じ存在として生まれてくる者もいる。
だから生まれ変わっても精霊族は精霊族だけがわかる何らかの力によって個体を判別できるのだ。俺は火の精霊王になっているが精霊族ではないのでそれを感じることはできないから具体的にどんなものかはわからないが、人間族が言葉で今日から自分が王だとか子供に王位を譲るので子供が明日から王だなどと言うのとはわけが違う。火の精霊王を譲られた俺にはなんらかのその王位の正当性を主張できる物が宿っているのである。
ではなぜ火の精達は俺が王であると気づかず襲ってきたのか。理由は二つ。一つ目は俺が千三百年以上もこの地から離れていたためほとんどの者は俺のことを知らない。ほぼ同じ存在として生まれ変わって俺のことを覚えている者もいたが大半の者は俺がいなくなった後で生まれた者達なのだ。俺の発しているなんらかの気配を察知できたとしてもそれが自分達の王の気配なのだと知らなかったのだ。このことから神になった者の神力のように明らかにそれを発してる者が神とわかるようなものとは違うのだと推測できる。ただこの気配はAさんだ、こっちの気配はBさんだ、と判別できるだけなのだろう。誰のものか知らない気配ならば気配自体は察知できても誰かまではわからないのだ。
もう一つの理由はさらに致命的だ。俺が記憶を失っているのでその気配自体を遮断してしまっていたのだ。俺達のパーティーでは誰も感知することが出来ない上に俺がそんな立場なのだということすら知らなかったのだから俺も気づくはずはない。イフリルに言われるまで無意識にその気配を遮断してしまっていた。だが今では気配を発しているはずでありその状態でこの国の者達と会っているので次からは一度会った者達にはわかるはずだ。俺自身がその気配を感知できないのでイフリルの言っていることが確かならの話だが…。仮にイフリルのように俺の気配を知っている者だったとしてもその気配自体が遮断されていては気づくはずもない。イフリルがやってきたのも俺の気配を察してではなく俺が精霊魔法を使った際に出た精霊力を感じてのことだったのだ。
次に精霊魔法について。地球にも四大元素や五大元素という考え方がある。地球では科学文明が発達し観測できないことからその存在は現在では否定的に見られている。だがこのファルクリアでは火の元素、水の元素といった元素はあるのだ。全ての元素はどこにでもある。例えば海中にですら火の元素は存在している。ただ数が多いか少ないか、力が強いか弱いかの違いでしかないのだ。火の近くには火の元素が集まり数が多く力も強い。水辺には水の元素が集まり多く強い。逆に水辺では火の元素は数も少なく弱いのだ。
精霊魔法とはこの元素を操る力だ。だから火を点けて燃やすという過程が存在しない。火の元素に働きかけて燃えるという結果だけを引き出す。魔法のファイヤーボールが火球を作り出し対象にぶつけて燃やすものなら精霊魔法のスピリチュアルフレイムは対象にした物や場所に火の元素を集めてその場に火を点けるのだ。威力は込められた神力、つまり精霊力の強さで決まる。どれだけの元素を集め強く働かせられるかの違いでしかないのだ。故に精霊魔法には多くの種類の魔法はない。各元素への働きかけの力なので元素の種類の数だけしかないのだ。そして属性を持つ精霊はその属性の元素しか扱えない。火の精霊は火の精霊魔法しか使えないのだ。だが恐らく俺は全ての属性を扱える。まだ見てもいないし思い出していないので使えないが火以外の属性が使える気がするのだ。
性能だけで考えれば魔法より精霊魔法のほうが優れている感じを受けるだろう。なにしろ火球を発生させて投げつければ避けられるかもしれない。狙った場所に火をいきなり起こせるのならそのほうが確実に思えるからだ。だが必ずしも精霊魔法の方が魔法より優れているとは言えない。なぜならば物理的に点いた火は消火するしかないが精霊魔法の火はその発生自体を抵抗できるからだ。ザラマンデルンに着いて最初に俺が火の精達の精霊魔法を打ち消したのと同じことだ。精霊力によって特定の物や場所に元素を集めるのだからその精霊力を妨害すれば良いのだ。俺の場合は圧倒的神力で完全に遮断してしまったので火の発生自体を打ち消した。同程度の実力同士ならば俺の時ほど完全に打ち消すことは出来ないだろうが元素の集まりを悪くしたり働きを弱くしたりは出来る。精霊魔法のことを知らなくともなんらかの神力を纏っている相手に直接火を点けようと思えばその相手の神力の防御を突破して精霊魔法を発動させなければならないのだ。
フラン「どうして急にミコさんはそんなに強くなったんですか?」
ミコ「え?どうしてだろうね?…わからないわ。」
狐神「アキラと魂の繋がりが出来たからだろうね。」
フラン「魂の繋がり…って!もしかしてスピリットリンクですか?」
狐神「私にはそのすぴりっとりんくっていうのはわからないけどアキラとミコの魂が繋がってアキラの力がミコに流れ込んでいるんだよ。」
ミコ「そうだったんだ…。ただアキラ君の心が近くにあるだけじゃなかったんだ。」
フラン「そんなっ!スピリットリンクが存在していたなんて…。いえ。それよりもどうしてミコさんだけ…。」
狐神「…ミコだけじゃなくてフラン以外は私もガウもとうに繋がっているんだけどね…。」
ガウ「がうがう。」
フラン「ええぇっ!私だけ…。」
廊下が騒がしくなってきた。どうやら師匠達が修行から戻ってきたようだ。精霊族や精霊魔法についてまだ整理したいことはあったが次の機会にすることにした。俺の執務室の扉が開き声の主達が入ってくる。
フラン「アキラさんどういうことですかっ!?」
アキラ「いきなりどういうことかと言われても意味がわからない。順を追って話せ。」
フラン「どうして私だけスピリットリンクしていただけないんですか?」
実際には廊下で話している時から聞こえていたのでわかっていたがやはりそのことについてのようだ。
アキラ「どうしてって言われてもな。俺も狙ってやってるわけじゃない。気づいたらそうなっている。それだけだ。」
フラン「それではどうすればいいんですか?」
アキラ「恐らくだが相手が俺に好意や忠誠や信頼を寄せて、俺がそれを受け入れたらいつの間にか繋がっていると思う。」
狐神「忠誠でもいいのかい?」
アキラ「はい。バフォーメは俺に忠誠を誓い繋がっています。俺はバフォーメのことは師匠達のように愛情を持っているわけじゃありません。それでも繋がっている以上は忠誠でも大丈夫なんだと思います。」
フラン「バフォーメとも繋がっているなんて…。私はバフォーメ以下なのですね…。」
アキラ「バフォーメは1350年近くも俺の命令を守って魔の山を管理していた。その忠誠心は本物だ。バフォーメを侮辱するのならフランといえども許さないぞ。」
フラン「うぅっ…。侮辱するつもりはなかったんです。ごめんなさい。ただ…、皆さんがスピリットリンクしているのに私だけしてもらえていないのが悔しくて…。」
アキラ「ふむ…。こればかりは『じゃあ繋げましょう』と言って出来ることじゃない。」
フラン「でも…私はアキラさんに好意も信頼も忠誠も寄せています。それなのに繋がっていないのはアキラさんが私を受け入れてくれていないからじゃないんですか?」
アキラ「その面もないとは言えないがそれだけじゃない気もするな。…恐らくだがフランの気持ちも本物じゃないからだろう。」
フラン「どういう意味ですか!それこそ私を侮辱しているんじゃないですか?」
アキラ「あぁ…すまない。言い方が悪かった。フランが黒き救世主に憧れ慕っているのは本物だろう。だがそれは本当の俺じゃない。ドロテーから聞かされた御伽噺の登場人物に憧れている気持ちだ。その憧れを俺に投影しているだけだと思う。だから本当の意味でのありのままの俺への気持ちとは違うんだろう。だから繋がらない。」
フラン「………。そんな…ことは…。私だってあの時アキラさん達と出会ってからずっと黒き救世主様ではなくアキラさんを見てきました。その気持ちも本物ではないといわれるんですか?」
フランは三白眼で睨んでいる。だが慣れてきた俺にはこれが睨んでいるのではないとわかる。悲しくて涙を堪えている顔だ。
狐神「その気持ちが偽物とは言わないけど黒き救世主への憧れもまた本物ってことだろうねぇ…。黒き救世主への憧れもアキラに投影してしまって二つの気持ちが混ざり合っているから繋がらないのかもしれないね。」
ミコ「そんな…。気持ちが強すぎるから却って繋がらないなんて…。アキラ君、なんとかならないの?」
アキラ「そう言われてもな…。俺自身ではどうすることも出来ない。」
狐神「解決策がないわけでもないよ。」
師匠が得意満面に声を上げる。だが俺はあまり良い予感がしていない。
フラン「本当ですか?一体どうすれば?」
狐神「二人が心の底から愛し合えばきっと繋がるよ。黒き救世主への憧れじゃなくてアキラ自身を愛するのさ。」
やはり予感は的中した。こういう時の師匠はいつも碌でもないことしか言わない。そもそもフランは俺に特別な感情を抱いているわけじゃない。ドロテーから聞かされていた黒き救世主への憧れと魔法の修行のために俺に同行しているにすぎない。
フラン「黒き救世主様ではなくアキラさんを愛する…。」
フランは眠そうな顔でぶつぶつと師匠の言葉を反芻している。だがこの顔は真剣に考えている時の顔だ。決して寝ぼけてぶつぶつ寝言を言っている顔ではない。
イフリル「女王陛下これもお願いします。」
そこへ新たな書類を持ってイフリルがやってきた。俺の執務机の上には書類の山が出来上がっていた。
アキラ「まだこんなにあるのか…。」
イフリル「まだまだありあますぞ。」
アキラ「ふぅ…。俺がいなくても1300年以上も大丈夫だったんだ。俺がしなくてもいいことじゃないのか?」
イフリル「確かに女王陛下がおられない間は代わりの者がやっておりましたが女王陛下がおられる以上は女王陛下のお仕事です。」
フランのことは気になったが俺はイフリルにこき使われてそれどころではなくなってしまった。
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イフリル「お疲れ様でした。今日の分はこれまでとしましょうぞ。」
ようやく終わりのようだ。大量の書類の山はほぼ全て片付いた。だがこれは今日に限った事ではない。ここに着いて以来毎日書類の山とにらみ合っている。今日はむしろやや少なかったくらいだ。
アキラ「いつまで経っても終わらないな…。毎日これほど書類の処理を王がするのはおかしくないか?これでは他のことは何も出来ない。」
イフリル「何を仰います。女王陛下が1300年以上も城を空けておられたからではないですか。」
アキラ「そうか…。………ん?1300年前のものから今までずっと放置したままだったのか?」
イフリル「代理の者が処理できることは全て終わらせております。ですが女王陛下のご裁可を仰がねばならぬことは残ったままでございます。」
アキラ「なるほどな…。」
その時俺の目の前の空間が揺らいだ。
ポイニクス「ママっ!」
ポイニクスが目の前に現れ俺の顔面目掛けて飛び込んでくる。さすがに顔面キャッチはお断りなので怪我をさせないようにふわりと手で受け止めた。
ポイニクス「どうして受け止めるの?ママは僕が嫌いなの?」
ポイニクスは悲しそうな顔で俺に問いただしてくる。だがここでは言うべきことは言っておかなければならない。
アキラ「いいかポイニクス。俺はポイニクスが嫌いだから手で受け止めたわけじゃない。いきなり顔に飛び掛られたら驚く人だっているだろうし相手に対して失礼でもある。だからいきなり顔に飛び掛ったりしてはいけない。わかったか?」
ポイニクス「うぅぅっ。」
目をうるうるさせて今にも泣き出しそうだ。だがここで甘い顔をしてはいけない。きちんと駄目なことは駄目だと教えておかなければならない。
アキラ「わかったか?」
ポイニクス「………はい。」
アキラ「わかればいい。」
手から飛び立ったポイニクスは俺の右肩に座り首に抱きついている。1300年以上経ってもまだガウとそれほど変わらない年齢のようだ。その事実から推測するにポイニクスの寿命は精霊族としてはとんでもなく長い部類に入るだろう。
ここでポイニクスについても整理しておく。前述の通りポイニクスは前火の精霊王を核にして俺が力を与えて生み出した存在だ。ポイニクスに性別はない。どちらかでも両方あるでもなくどちらも無いのだ。胸も息子さんもない。大きさは15cmほどで他の火の精より少し小さい。まだ大きくなるだろうが最終的にどれくらいの大きさになるかはなってみないとわからない。
精霊族は生命の源から分離して誕生する。そして力の強い者はまた同じ存在として生まれ変わるのが普通だ。だから前火の精霊王もそのまま死んでも本来ならばまた火の精霊王に相応しい存在として生まれてくるはずであった。だがそれはいつになるかわからない。死んだ次の瞬間に生まれる場合もあれば何千年何万年と生まれてこない場合もあるのだ。そのため火の精霊王になれる存在は複数名いた。その時に生まれている王に相応しい存在が王となるのだ。数名が同じ時代に生まれている場合もあれば一人しかいない場合もある。誰もいなければ新たに相応の者が選ばれ王候補に加えられる場合もあった。
だが前回はそうはいかなかった。他の王候補は全て死んでおり新たに王候補に加えられるような者もいなかったのだ。そしてもう生まれてくることもない。前火の精霊王も他の王候補も戦争によって大きく力を失い同じ存在として生まれ変われるほどの力は残っていなかったのだ。その失われた力を補い新しい王候補として誕生させたのがポイニクスだ。生まれてからほんの少ししか一緒にいなかった俺をママと呼んでいるのはまったく同じ存在ではなくともいくらか前火の精霊王の記憶や知識を引き継いでいるからだろう。
前回まだ生まれていなかった他の王候補もいるはずだが1300年以上経った今でもまだ生まれてきていない。他に王の器の者がいればすぐにでも王位を譲ってもいいのだが…。俺は精霊族ではないのでそれを察知することは出来ないが王位を譲る方法はなぜかわかる。おそらくそういう知識も同時に継承されるのだろう。ポイニクスに強引に譲るにはまだ幼すぎる。まだまだ当分の間は俺が王位にいなければならないようだ。
コンコンッ
扉がノックされた。
アキラ「入れ。」
ムルキベル「失礼いたします。王子をお迎えにあがりました。」
気配で察していた通りムルキベルがやってきた。ポイニクスとこの国を守るのがムルキベルの役目なのでポイニクスがどこかへ行ってもすぐにムルキベルがやってくるのだ。だがある意味当然ではあるがムルキベルはポイニクスやザラマンデルンに忠誠は誓っていない。あくまでも俺のゴーレムであり俺の命令だから守っているのだろう。
イフリル「ふむむっ!ムルキベル殿、ちょうど良いところへ参られた。女王陛下、実は重要なお話があります。」
アキラ「なんだ?」
イフリル「実は精霊王会談が開かれることになっております。今回は女王陛下もおられますので必ずご参加ください。」
アキラ「どうしてもか?」
イフリル「必ずでございます。他の精霊王様にポイニクス様のお披露目も兼ねてご一緒にご参加ください。ムルキベル殿も護衛としてご同行願いますぞ。」
ムルキベル「それは私では判断できない。アキラ様にお聞きいただきたい。」
二人の視線が俺に集まる。
アキラ「ムルキベルがこの地から離れたらこの国はどうする?」
イフリル「以前女王陛下がおられた頃とは違います。この国も立て直されておりますぞ。魔人族が攻めてこようともすぐに落とされることはありませぬ。何より最も大事なのは女王陛下とポイニクス様の御身の安全でございます。」
アキラ「ふむ………。その精霊王会談というのはいつどこで開催されるんだ?」
イフリル「十日後に精霊の園で開かれます。普通の精霊族ならば実体を消しすぐに精霊の園へと入れますが女王陛下は実体を消すことができませぬのでグリーンパレスにある門を潜られる必要があります。」
精霊の園やらグリーンパレスやら知らない単語が出てきたので少し聞いてみた。
師匠はまったく教えてくれなかったのだがどうやら神になった者は新しい世界を造れるらしい。というと少しオーバーだがある意味ではその通りなのだ。完全に無から新しい世界を造るのは非常に難しい。それが出来るのは現在のところ最高神だけのようだ。だが最高神が用意した何もない空間に新しい世界を造ることは比較的簡単に出来るらしい。神になった者はその何もない空間を貰えてそこに世界を造ることができるというわけだ。
その世界は造った者の神力次第で広さや物質量などが決まる。一人用の小部屋を造って自分だけが出入りすることも出来るし広い空間を造って一族を移住させることも出来る。精霊族は神になっている者が大勢おりその神々が協力して一つの世界を造り上げたそうだ。その世界こそが精霊の園だという。精霊族の本当の国はその精霊の園でありファルクリアにある国は謂わば出先機関のようなものらしい。もちろん俺は火の国の女王であり精霊の園にある本国においてもその立場は変わらない。出先機関の長官というわけではない。謁見の間で会った火の精霊の有力者達もその本国から来た者達であり顔合わせも済んでいる。ただ俺が本国へと行ったことがないだけというわけだ。
小さな精霊達は元々希薄な実体を消し空間の裂け目を通り精霊の園とファルクリアを行き来出来るのだ。だが力の強い者や実体の濃い者ほど空間の裂け目を通過できなくなる。それに裂け目では一度に通れる数には限りがあるようだ。そこでファルクリアへと出入りできる門が設置されている。その門の管理とファルクリアでの出先機関の元締めとしてグリーンパレスという都市があるそうだ。
アキラ「わかった。それじゃ明日出発する。ムルキベルも同行させよう。」
ムルキベル「ははっ!」
ムルキベルは跪き頭を垂れた。
イフリル「なんとっ!なぜ明日なのです。女王陛下ならば三日前に発っても間に合いましょうぞ。」
アキラ「書類から逃げるためじゃないぞ。俺の記憶を取り戻すために一直線にはグリーンパレスに向かわず前の記憶通りに進む。だから念のために余裕を持って早めに出発するんだ。」
イフリルには俺の記憶の件はすでに話してある。
イフリル「むむむぅ…。わかりました。それでは準備もありますので明日は午後からご出発ください。」
アキラ「そうだな。師匠達にもまだ何も言ってないからな。今から話してきて明日は午後から発つことにする。」
イフリル「それではそのように手配いたします。」
こうして突然ではあったが俺はザラマンデルンから出発して旅を再開することになった。師匠達は事情を話すとすぐに承諾してくれた。元々急いでいる旅ではないがここに留まっている理由もない。俺のせいで足止めしてしまっていただけなので出発の準備をする時間さえあればいつでも出発することに問題はないのだ。しばらくはゆっくり休めないかもしれないのでザラマンデルンでの最後の夜はゆっくりと体を休めることにした。




