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転生無双  作者: 平朝臣
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第二十三話「黒き獣」


 俺達はパンデモニウムの門の前に来ていた。


門番A「マンモン将軍のご帰還だ。開門っ!」


 こちらを見つけた門番が開門の合図を送り巨大な門が開いていく。開いた門の先には大勢の兵士が並んでいた。


バアルペオル「早かったなマンモン。乗れ。道中で話そう。」


 街へと続く道の真ん中にバアルペオルが立っていた。バアルペオルの指す先には馬車が止めてある。俺達が乗り込むと馬車は中央の塔に向かって進みだした。


バアルペオル「また会えてうれしいよ美しいお嬢さん。」


アキラ「お前を先行させて俺達はここに向かっていたんだからまた会うのは当たり前だろう。そんなこともわからないほどお前は馬鹿なのか?」


バアルペオル「………。」


アキラ「………。」


 バアルペオルが言いたかったのは言葉通りではなく会話の取っ掛かりとして言ったのはわかっている。だがこいつの相手をすると何かイライラするので揚げ足を取ってやる。何だろう…。俺はこういうタイプは嫌いなようだ。生理的嫌悪感なのだろうがどういうところが嫌なのか考えてみる。………わかった気がする。きっとキザな男がむかつくのだ。こいつもそうだが中身スッカラカンの癖に口だけは達者でキザな言動がうざいのだ。


マンモン「………何か話しがあったのではないのか?」


 痛い沈黙が続いていたのでマンモンが助け舟を出す。


バアルペオル「ああ。皇帝陛下に討伐の経緯と美しいお嬢さん達のことについて上奏したのだが六将軍を集めた会議では他の将軍は懐疑的でな。俺がヘマをしたから誤魔化すためにでっち上げを言っていると言う者までいる始末だ。ゼブルのじいさんくらいしかまともに話しも聞かない。」


マンモン「………。そうだろうな。俺も目の前で見てもなお疑いたい気分なのだからな。」


バアルペオル「………確かにな。だから実際に見てもらうことになった。早馬が報せに行っているはずだからこのまま美しいお嬢さん達は六将軍と会ってもらいたい。」


アキラ「皇帝は出てこないのか?」


バアルペオル「陛下も来られるだろう。だがまずは六将軍と会うことになる。」


アキラ「そうか…。面倒な奴らだ。今すぐこの街を消し飛ばして証明した方が早そうだな。」


マンモン「………関係ない臣民まで巻き添えにするのがアキラのやり方か?」


アキラ「ふぅ…。わかってるよ。ただ俺はこういう面倒は嫌いなだけだ。特に話しても理解できない馬鹿の相手はな。」


ミコ「そうだね…。ちょっとだけわかるよ。アキラ君みたいにすぐに皆殺しだ!っていうのは駄目だと思うけれどただ通りたいだけなのにこんなことしなければならないのはおかしいよね。相手から何かされなければアキラ君だって何もしないのに…。」


狐神「でもこれがアキラの選んだ道だろう?無視して通り過ぎるだけだって出来たのにわざわざ相手をしているのもさ。」


アキラ「え?」


狐神「…え?」


アキラ「………そうか。そうですね。あの時マンモンをさっさと始末して俺達は俺達の進むべき道を進んで目の前に立ち塞がる敵だけ全て排除していればこんな面倒じゃなかったんですね…。」


フラン「ですが…そのお陰でウィッチ種は救われたのです。アキラ…さんのお陰で。」


 フランは真剣な目で俺を見つめている。俺は別に救っていないがそう言われて悪い気はしない。少しだけすっきりした気持ちになった。


アキラ(むしろフランに救われたのは俺の方かもしれないな。)


 馬車は塔の近くまで来ていた。塔の下には中世ヨーロッパの城のようなものがある。馬車はその城へと向かって行った。



  =======



 塔の下にある城に辿り着いた俺達は城内の一室に案内された。謁見の間と言うには玉座もなく狭いが会議室というには上座に立派な椅子があり広すぎる。上座には立派な椅子が一つ。左右には三つずつ椅子と机がある。そして俺達の入ってきた下座には椅子が五つ。左右の席にはすでに三人の男女が座っている。


???「入室の作法も挨拶もできぬのか。無礼者が。名乗れ。」


 部屋に入って一言目がこれだ。でかくてごついおっさんが偉そうにしゃべっている。


アキラ「礼儀のなってない相手には相応の態度で応えるだけだ。黙ってろ三下。」


???「なんだとっ!」


 でかいおっさんは顔を真っ赤にして立ち上がる。


バアルペオル「まぁまぁそう喧嘩するなよ。………この国が無くなるぞ。」


 歩み出たバアルペオルは軽い感じで仲裁に入ったが後半は真剣な顔になっていた。


???「ふんっ!こんな小娘共に何が出来るというのだ。マンモン、ペオル、貴様ら何を企んでいる?」


マンモン「何も企んでなどいない。この者達への対応を誤れば国が滅ぶ。それだけだ。」


 室内の空気はまさに一触即発といった雰囲気だ。


アキラ「やっぱりどいつかぶちのめすか。その方がこの馬鹿共にもわかりやすいだろう。」


狐神「私はそれでもいいよ。」


ガウ「がう。ご主人の言う通りにするの。」


ミコ「だっ、駄目だよ。折角ここまで来たんだからあともうちょっとの辛抱だよ。」


フラン「私としても出来るだけ死人は出したくありません。」


ルキフェル「話が進まない。まずは自己紹介しようじゃないか。私はルキフェル=スペルビアだ。」


 玉座から見て右の一番上座に座っている男が声を上げる。水色の髪に茶色の瞳をしている。髪は長くストレートで腰くらいまでありそうだ。座っているが体格身長はおそらくバアルペオルとそう変わらないように見える。美男子と言われるような美形の顔だ。この国では右上位なのだろう。こいつがこの中で一番強い。


レヴィアタン「ふんっ。わしはレヴィアタン=インウィディアだ。」


 さっき俺達が入ってきた時に偉そうにしていたおっさんだ。右の二番目に座っている。茶色い髪で角刈りだ。瞳も茶色く顎鬚を生やしている。さっき立ち上がった時に見た感じでは2m50cmくらいはありそうなほどでかい。でかくて厳つい顔に下顎から上に向けて牙が飛び出している。体も服が張り裂けそうなほどむきむきだ。おそらく本心ではしぶしぶであろうが一位と思われるルキフェルが名乗ったので倣ったのだろう。


アスモデウス「私はアスモデウス=ルクスリアよ。」


 左の二番目に座っている女も名乗る。オレンジ色の髪は肩辺りまでの長さのソバージュだ。青い瞳に妖艶な笑みを浮かべている。座っていても色気がにじみ出ている。師匠と同じように胸が飛び出そうなほど開いた服を着ている。矢印のような形の日本の悪魔の尻尾のイメージそのままのような尻尾がゆらゆらと動いていた。


バアルペオル「俺達はもういいよな。」


 そう言いながらバアルペオルが右の三番目に、マンモンが左の三番目の席に向かう。並びと内包している力からしてこいつらの序列は一位ルキフェル、二位左一番目不明、三位レヴィアタン、四位アスモデウス、五位バアルペオル、六位マンモンの順だろう。ただしそれはマンモンが俺達に付いて来る前の話だ。現在の力関係で言えばマンモンはルキフェルの次に実力者だろう。だがそれでもルキフェルには及ばない。この二人だけ他の六将軍より抜きん出ている。


アキラ「俺は妖怪族のアキラ=クコサトだ。」


狐神「妖怪のキツネだよ。」


ガウ「がうなの。」


ミコ「人間のミコ=ヤマトです。」


フラン「ウィッチ種フランツィスカです。」


 俺達の方はというとミコとフランは現在ほぼ互角だ。魔法に関して言えばフランの方が上だがミコは魔法剣士のようなスタイルだ。接近戦になればミコの方が有利であり戦いの流れ次第ではどちらが勝つかわからない。実力伯仲と言えるだろう。この二人はマンモンに少し劣る。ルキフェルとマンモン以外の六将軍が相手なら問題なく勝てるだろう。師匠とガウならば全員を相手にしても瞬殺するだろう。…俺はどうだろうか。ただ殺せば良いのならいくらでも殺せる。北大陸を吹き飛ばすほどの攻撃をすればこいつらなど一撃で葬り去れる。だがなるべく周囲に被害を出さずこいつらだけを殺すとなれば俺はどれほどうまく戦えるだろうか。


レヴィアタン「妖怪族だと?笑わせる。そんなものは伝説にすぎん。妖怪族などをでっち上げて何をする気だ?ペオル、マンモン。」


???「静まれ。」


 その時上座の方にある扉が開き小さな老人が入ってきた。丸坊主頭で長い髭が生えている。六将軍達は全員口を閉ざし頭を垂れている。老人も扉の横で跪くと壮年の男が入ってきた。その男は中央の上座に座ると声を上げた。


???「皆の者面を上げよ。」


 六将軍が顔を上げ老人は左一番目の席に座った。この壮年の男が皇帝だろう。最後に入ってきた二人は実力も飛びぬけている。ルキフェルですら相手にならないだろう。なぜ老人が二番手に座っているのかわからないくらいだ。


サタン「余がサタン=イラである。」


バアルゼブル「わしはバアルゼブル=グラじゃ。」


レヴィアタン「貴様ら陛下に向かって跪きもせぬとは!」


アキラ「俺は別にこいつの部下でも家臣でもない。臣下の礼をとる謂れはない。」


レヴィアタン「貴様っ!」


 レヴィアタンが立ち上がりかける。


バアルゼブル「静まれと言った意味がわからぬか?」


レヴィアタン「うっ…。申し訳ない…。」


 静かな声ではあったがバアルゼブルの一喝でレヴィアタンは項垂れ静かになった。


サタン「久しいな。アキラ殿。いや他の者には黒き獣と言ったほうが通りが良いかな?」


 事前にバアルペオルに聞いていた話では皇帝はもっと後に出てくるはずだった。それに名乗る前から俺の名前を知っているということはこの部屋を監視していたのだろう。


ルキフェル「こちらが黒き獣殿ですか。」


アスモデウス「道理で…。でなければこのような戯言に陛下が付き合うはずもございませんものね。」


 ウィッチ達に聞いた黒き獣とは俺のことだったようだ。だが…。


アキラ「俺はお前など知らない。」


サタン「はっはっはっ。それはそうであろうな。余もそなたの名前を知ったのはつい今しがたのこと。前に会った時には目の前の虫でも追い払うかの如くあしらわれ無様に逃げ回ったに過ぎん。」


レヴィアタン「信じられません。このような者が黒き獣だと言われるのですか?」


バアルゼブル「陛下の言葉が信じられぬと言うのか?」


レヴィアタン「…そのようなことは…。」


サタン「アキラ殿。そのマントを脱いでみせてはいただけぬかな?この者達には見せた方が早いのでな。」


アキラ「お前の言う通りにするのは癪だが手っ取り早く済むというのなら見せてやろう。」


 俺は外套を脱ぎ姿を見せる。ついでに尻尾も伸ばして見やすくしておくことにする。伸びた尻尾は俺の後ろでフリフリ振られている。


ルキフェル「ほう…。確かに伝え聞いている姿そのままだ。」


バアルペオル「美しいお嬢さんが黒き獣だったなんて聞いてないぞマンモン。」


マンモン「………俺も知らなかったのだ。だが聞けば確かに納得出来るところもある。」


アキラ「まずその黒き獣とやらから説明しろ。お前達だけで盛り上がられてもこちらはわからない。」


サタン「少し長い話になる。席に着かれよアキラ殿。」


 俺達は下座に置いてある椅子に座った。


バアルゼブル「それではわしから説明しよう。この国にはある御伽噺が伝えられておる。新しく生まれた子供はみなその話を聞いて育つ。それは………。」



 ………

 ……

 …



 昔ある国では権力争いが続いていた。同族同士で争い殺しあう日々。ある種は栄えある種は滅ぶ。そんなことを繰り返しいつ果てるともしれない争いだった。そんな殺し合いの日々を嘆いた天はその者達に神罰を下した。


 魔の森から解き放たれた獣。その姿はまるで闇から這い出したかのように長い髪は黒く同じく黒い衣を纏っている。瞳と耳と尻尾は金色に輝き九本の尾がある。


 ある将軍はそれをみて言った。


将軍「あんなものは虚仮威しに過ぎません。序列一位の私が討ち取ってみせましょう。」


 ここで皆が恐れる黒き獣を討ち取れば権力争いが有利になる。そう考えた者達はお互いに協力し合うことなく自分の陣営こそが討ち取ると揉めた。そして討伐役に決まったのは序列一位の将軍だった。


 六人の将軍の中で最も強かった将軍が自身の配下数万の軍勢を引き連れて黒き獣の討伐に向かった。しかし誰一人戻ってくることはなかった。


 別の将軍はそれをみて言った。


別の将軍「王よ。最早内輪揉めをしている時ではありません。第一軍を失った以上次は全軍をもって止めるより他に方法はありません。」


 若き王は答える。


王「黒き獣に対して大軍は意味がない。精鋭のみをもってあたることとする。」


 王自身と六人の将軍の内残った五人全て、そして各軍から選りすぐられた精鋭五千人が黒き獣討伐へと向かう。


王「これより退けば都が危険に晒される。必ずここで黒き獣を止めよ。」


 若き王の号令により不退転の覚悟で臨んだ将兵は悠然と歩む黒き獣にほんの一太刀すら浴びせることなく僅かな時間で全滅した。生き残ったのはたった二人。若き王と六人の将軍のうちの一人のみ。


王「もはやこれまでか…。」


 若き王は嘆いた。しかし黒き獣は二人に止めを刺すことなく通り過ぎた。


王「助かったのか?しかしこのまま進めば都が危ない。だが最早どうすることもできない。」


 しかし都に戻った若き王は驚くべき光景を目にした。都は何の被害も受けていなかった。黒き獣を止めようと立ち塞がった兵は全て殺された。しかし逃げ出した住人や兵士は誰一人殺されることはなかった。


 この時若き王は気づいた。自身と一人の将軍が生き残ったのは黒き獣の進路とは違う方向にいたからだったのだと。黒き獣は自分達を攻撃しにきたのではない。ただ進む先に立ち塞がる者だけを排除していたのだ。王と将軍は他の者への攻撃に巻き込まれ大怪我は負ったが進路とは違う方向にいたから助かったのだ。


 多くの将兵を失ったが権力争いをしていた者達も大勢死に結果的には国は一つに纏まった。



 黒き獣の邪魔をするな。邪魔をすれば国が滅ぶ。

 黒き獣は黙って通せ。黙って通せば何もせぬ。



 ………

 ……

 …



バアルゼブル「この国の子供達はみなこの話を聞いて育つ。言う事を聞かない子供には『黒き獣の前に置いていくぞ』と親が叱るのじゃ。そしてこの御伽噺は真実を多く含んでおる。同じ過ちを犯さぬように御伽噺として伝えておるのじゃ。」


サタン「話に出てくる生き残りとは余とバアルゼブルのこと。そして黒き獣とはそなたのことだ。アキラ殿。」


アキラ「なるほどな。その時に会ったということか。」


 今の俺にその記憶はない。だがこの話を聞いても違和感はあまりない。前の俺ならそうするであろうことばかりだ。


レヴィアタン「ふんっ。まさか伝説の黒き獣がこの程度の小娘とは。」


ルキフェル「確かに…。それほど恐れる相手とは思えないな。」


アスモデウス「あら?かわいいじゃない。うふふっ。」


 初めて会った三人には俺達の強さは理解出来ていない。


バアルペオル「お前らの目は節穴か?もっとよく相手を見たらどうだ?」


マンモン「………まったくその通りだな。相手の強さもわからぬのは弱者の証だ。」


レヴィアタン「なんだとっ!たかが序列五位と六位程度の貴様らがわしに向かって偉そうな口を利くな。貴様らが弱いからその程度の相手に恐れを抱くのだろうがっ!」


 バアルペオルとマンモンの方が正しい。他の三人は目が曇っている。そもそも今のマンモンはレヴィアタンよりも強い。そのことにすら気づかないのだからこいつらが如何に小物かということがよくわかる。


アキラ「ふぅ…。こうなる気はしていたさ。所詮弱い上に馬鹿には何を言っても理解出来ない。………いっそパンデモニウムごと塵にしてやろうか?」


 俺は皇帝に視線を向ける。皇帝はやや引き攣った笑みを浮かべていた。


サタン「余はそなた達と敵対する気はない。大ヴァーラント魔帝国内を通りたければどこでも好きに通るが良い。ウィッチ種討伐もやめる。これも先の御伽噺に出てきた権力争いの名残に過ぎぬ。近年では軍を出すことすらなくなっていたほどだ。」


アキラ「ではなぜバアルペオルが大軍を連れてやってきた?」


サタン「新兵の実戦訓練を兼ねて過去の討伐令に従い出陣したいとバアルペオルが申し出た。命令が撤回されていない以上止める理由はなかった。それだけのことに過ぎぬ。」


 確かに前の俺が討伐中止を言ったわけではないのでこれは帝国とウィッチ種の問題だ。撤回されていないことについては俺は何も言えない。そして今回の件で中止命令を出すというのだからこれでいいだろう。


ルキフェル「くっくっくっ…。皇帝陛下、貴方は確かに偉大な皇帝だった。ですが貴方は引き際を間違えた。過去の弱かった将軍達が敗れたからと徒に黒き獣を恐れている。最早貴方の時代は終わったのです。これからは私の時代だ。私がこの黒き獣を嬲り尽くし蹂躙し尽くして新たなる皇帝となりましょう。」


バアルゼブル「ルキフェルよ。反乱を起こす気か?」


ルキフェル「反乱とは失礼だなバアルゼブル。私は今でも帝国に忠誠を誓っているよ。だが陛下もバアルゼブルも耄碌した。これはこの先の帝国のためを思ってのこと。この程度の者に帝国が屈するなどあってはならないことだ。私が本来あるべき帝国の姿へと戻すにすぎない。」


サタン「やめぬかルキフェル。アキラ殿、これは帝国の総意ではない。どうか許してもらいたい。」


アキラ「確かにこれはルキフェルの独断だろう。だがそっちの二人もルキフェル寄りの考えだろう?」


 俺はレヴィアタンとアスモデウスに視線を向ける。二人は答えないが態度からルキフェルに賛同しているとわかる。はっきり言ってこの三人は無能だ。バアルゼブル一人にも敵わないということすら理解できていないのだろう。バアルゼブルは老人に見えるがその実力はこいつらの比ではない。


アキラ「節穴の目しか持っていない奴らには現実を見せなければわからないということだ。俺がルキフェルと戦えば少しは目が見えるようになるかもな。」


 いい加減うんざりしているので一匹くらい生贄に殺してやろう。そうでもしなければこの無能な馬鹿共には永遠に理解出来ないのだ。


ルキフェル「はっ、あはははははっ。戦う?私とか?戦いにすらならないということが獣には理解出来ないようだ。貴様はただ私に嬲り尽くされるだけの存在にすぎない。私の実力は他の六将軍全員を相手にしても勝てるほどなんだよ。」


 マンモンの実力が前のままでバアルゼブルを抜けば確かにルキフェルは四人を相手に戦えたかもしれない。このクラスの高位実力者同士の戦いでは神力の削りあいが基本だ。四人の神力を合わせればルキフェルを上回るがそれも戦い方次第でなんとかなる。自分の10の神力で相手の10の神力しか削れないのは並程度の実力しかないということだ。実力の高い者は10の力で相手の力をそれ以上に削ることに長けている。一対一ならば神力が多い方が有利なのは間違いないが多人数ならば単純に合計した神力が戦力になるとは限らない。持ち主の実力次第でその神力が有効活用されるか無駄になるか変わるからだ。


アキラ「サタンよ。こいつを始末しても文句はないな?それと広い場所に案内しろ。ここでやったら周りを破壊してしまう。」


サタン「…止むを得まい。修練場へ行くがいい。」


ルキフェル「くくくっ。伝説の黒き獣を退治して私の伝説の始まりとしてやろう。」


 こうして俺達は修練場へと向かった。



  =======



 整備された広いグラウンドのような場所へとやって来た。周囲を囲ってあるだけでほとんど何もない。俺とルキフェルだけが中央で向かい合い他の者は離れた場所に立っている。


ルキフェル「最後に言い残すことはあるか?」


アキラ「そうだな………。お前に三分間やろう。俺は三分間回避以外は何もしない。それがお前の最後の時間だ。」


ルキフェル「はははははっ。最後の言葉がくだらないジョークになったな。」


 そして合図もなく戦いは突然始まった。


ルキフェル「サンダーストーム!」


 ルキフェルが魔法を使う。これは雷魔法と風魔法の複合魔法だ。風魔法で竜巻を起こし周囲に雷魔法で放電させる。竜巻から不規則に襲ってくる真空の刃と不規則に広がる放電により予測困難な攻撃が効果範囲内に広がる。俺はそれらを全てぎりぎりで回避する。


ルキフェル「はっ!」


 魔法を回避している俺にルキフェルが斬り掛かってくる。長剣を上段から振り下ろす。これも俺はぎりぎりで回避する。


ルキフェル「甘いっ!ライトニングソード!」


 かわしたルキフェルの長剣から稲妻が迸る。これも不規則に広がる雷で周囲に攻撃する魔法だ。これらはあくまで雷や電気を模した魔法であり電気のように通りやすい道に向けて一本に進むわけではない。何本もに枝分かれさせることも術者次第で可能であり雷のようにどこかに必ず落ちるというわけでもない。左手を15cmだけ後ろに逸らす。その手前ぎりぎりまで雷が迫る。


ルキフェル「ふんっ。サンドニードル。」


 地面から針のようになった砂が飛び出す。俺は軽いバックステップで距離を取る。


ルキフェル「ウォーターレイン!」


 距離を取った俺に上から降ってくる雨のような水の弾が迫る。小刻みに体を動かし全ての水弾を避ける。


ルキフェル「終わりだ。クロウルサンダー。」


 ルキフェルは地面に手を付き魔法を使う。サンダーストームとサンドニードルによって変えられた地形にウォーターレインの水が貯まっている。その水を伝って雷が俺へと迫った。一連の攻撃は全てこの攻撃のための伏線だったというわけだ。


 ………


 俺はルキフェルに三分もの時間を与えたことを後悔していた。これは非常にまずい。俺が考えていたよりずっと大変な状況だ。


 ………


 ルキフェルの実力は俺が考えていたよりずっと低かった。いや、弱くはないはずだ。確かにバアルゼブルを除いた四人を相手に出来ると思ったのは間違いではなかっただろう。だが他の四人も弱いのだ。それこそ俺が一突きすれば跡形もなく消し飛ぶほどに。神力を感知できる俺にとっては魔法も体の移動も全て行われる前からどこにどういう動きがあるのか手に取るようにわかる。


 神力は全てのエネルギー源であり何かをしようとすればそこに神力が流れる。その量や質でどこに何をするのかわかってしまうのだから事前に避けておけば済む話だ。そして今の俺には全ての動きがスローモーションのように何十倍にも引き伸ばされて感じている。


 これがどれほど退屈かわかるだろうか。事前にここにこういう攻撃が来ると全てわかっている。来る攻撃は全てスローモーションのように遅い。次の攻撃は風魔法の真空の刃だ。顔を3度傾けながら右に10cm移動する。真空の刃は俺に当たることなく通り過ぎていく。こんなくだらないことを何十倍か何百倍かに引き伸ばされた三分間ずっと続けなければならないのだ。


 だが最初に三分間回避しかしないと言った手前こいつをさっさと始末するというのも俺の美学に反する。非常に退屈な時間を延々と続けなければならない。


 そこで俺はふと疑問に思ったことがある。能力制限をしていなければもっと早く動けるし反応できるのだがその感覚と今の感覚が違うのだ。単純に俺の感覚が冴えているのではない。これは感覚的なものなのでうまく説明出来ない。


 例えるならば本来1秒で100m動けるとしよう。能力制限をして1秒で10mしか動けなくなっている。このままでは十分の一しか動けないのだが今の俺の状態は0.1秒が1秒のようになっている。だから1秒で10mしか動けないはずのものが1秒で100m動ける。しかし能力制限をかけていない時に1秒で100m動くのとは感覚が違うのだ。結果はどちらも1秒で100m動く。だが今俺の中ではその1秒が10秒に感じている。感じているだけではなく実際に1秒の間に10秒分動ける。そういうことだ。


 やはりうまく説明出来ない。もっともわかりやすく言えば俺だけが時間が引き延ばされている。あるいは加速しているとも言えるのだろうか。そしてその引き延ばされた時間の中でも俺は通常通り動ける。他の物全ては時間通りに動いているのにだ。結果だけを見れば能力制限を取れば同じ時間で同じ動きをすることは簡単だ。だがその能力制限を解いた状態でこの加速状態になればさらに早く動けるのではないだろうか。


 そんなことを考えているとルキフェルが飛び上がった。


ルキフェル「ちょろちょろと逃げ回るのは上手いようだな。だがこれで終わりだ。デスファイヤー。」


アキラ「ふぅ…。三分だ。」


 上から逃げ場のないように火魔法を使うつもりのようだ。しかしすでに三分経とうとしている。こいつの攻撃を待つまでもない。俺もルキフェル目掛けて飛び上がりながら拳に魔力を纏わせる。


狐神「アキラッ!それは大きすぎるよ!」


 師匠の慌てた声が届き俺はルキフェルに当たる前の拳を引きながら魔力を弱めた。


 ルキフェルの視線はまだ俺が居た地上を見ている。まるで目で追えていないのだ。いや…。そもそも加速した状態の俺に付いてこれているのは師匠かガウくらいだろう。他の者には俺がただ攻撃をぎりぎり避けていただけに見えたはずだ。


 俺の加速に付いてきている師匠の言葉で力を弱め、拳を当ててもいなかったのだがルキフェルの体が衝撃だけで消し飛んだ。胸の下から膝の上までの間は何もない。残っているのは胸から上と膝から下だけだ。だが不気味なことにまだルキフェルの顔は勝利を確信した歪んだ笑顔になっている。


 寸止めにしても発生した衝撃はルキフェルの胴体を消し飛ばしながらさらに上空へと飛んで行き空にあった雲が全て吹き飛んだ。上に向けて撃ってよかった。違う向きならば大惨事になっていただろう。


 だが能力制限をしている今の状態でなぜこれほどの威力が出たのだろうか。俺は一つの仮説を考えた。物に掛かる力は加える力の大きさと力を掛けた時間の長さで大きくなる。一番わかりやすいのは高いところから物を落とすことだろう。高くなるほど落下時間が長くなり加速していく。あるいは銃も同じことだ。銃身が長いほど長距離長時間火薬の膨張エネルギーを弾丸が受け取り加速する。銃身の短い拳銃より銃身の長いライフルの方が速度が早くなり射程が伸びるのだ。神力もこれと同じことが起こるのではないだろうか。


 俺は今加速状態にある。実際に何十倍か何百倍になっているのか正確な数字はわからない。仮に十倍としても俺が今の加速状態で神力を込めれば実際の時間の十倍の神力が込められることになり威力が格段に上がったのではないだろうか。


 ともかく未だに胴体を消し飛ばされながら笑顔で地面を見据えているルキフェルが気持ち悪いので俺は着地して加速を解除する。


 ドンッ


 と俺の放った拳の衝撃波が大気を震えさせ今更ながらに振動が届いた。どさどさと三つのパーツが地面に落ちてくる。ルキフェルの胸から上と膝から下の足が二本だ。


レヴィアタン「なっ!何が起こったというのだっ!」


ルキフェル「げほっ…。なんだこれは…。」


 ルキフェルは虚ろな目で首を上げ自分を見ようとしている。


ルキフェル「なんだこれはっ!どうして!なぜこんなことに!いつの間に…げほっげほっ。」


アキラ「まだ生きているとはいえ肺すらもうほとんどないんだ。あまり大声を上げるなよ。」


 俺は倒れているルキフェルに近づきながら声をかける。


ルキフェル「貴様がやったのか。どんな汚い手を使ったっ!私が貴様ごときにやられるはずはないっ!」


 ルキフェルはごぼごぼと血を吐き出しながらも喚くことをやめない。


アキラ「やれやれ…。事ここに至ってもまだわからないらしいな。」


 俺は能力制限をしている状態で隠している分の神力を解き放つ。


レヴィアタン「ぁ…あぁ……。なん…なのだ…これ…は。」


 レヴィアタンは尻餅をついてがたがたと震えだした。


アスモデウス「これが…黒き獣なの…?………こんなものどうしろと言うのよ…。」


バアルゼブル「まだまだ力を隠しておるわい。あの時の黒き獣はこんなものではなかったのじゃからな。」


ルキフェル「馬鹿なっ!認めない。こんな…こんなもの…。こんなことがあるはずはない!げほっ…。」


アキラ「お前が認めようが認めなかろうが関係ない。事実は変わらない。そしてお前はもう死ぬ。」


ルキフェル「………。一つだけ聞きたい。その力を出していれば最初から誰も貴様に歯向かう者など……いなかっただろう。なぜ力を…隠して弱い振りなどして……いた?」


 ルキフェルの言葉は途切れ途切れになり弱弱しい。もう長くはないだろう。


アキラ「だからこそ見えるものもある。お前達の本性がまさにそれだろう?相手が弱いと思えば偉そうに振る舞い強いと思えば媚び諂う。」


ルキフェル「我ら…を…計る…た…めにか……。ふっ、ふふふ…まさに私が…その手に……引っか…かった…というわけ…だな…。」


アキラ「俺はチャンスをやった。自業自得だ。」


ルキフェル「私は…この国に忠…誠を誓っている。より良い国…にしたいと思った。だが私…の目は曇っていた…のだな…。はぁはぁ…。」


アキラ「他者を踏み躙って自国が良くなる道理などない。いずれは自分に返ってくるだけだ。」


ルキフェル「そう…か…。そうだな…。お前…達は間違え…るなよ。レヴィ…アタン、アスモデ…ウス。俺は……………。」


 それきりルキフェルは動かなくなった。俺は神力を抑える。


アキラ「さっさと戻るぞ。まだ話はある。」


 俺達は元の会議室へと戻ることにした。



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