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転生無双  作者: 平朝臣
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第二十話「魔法の師」


 俺達は南から魔の山に登ったが下りは西へと向かっていた。西の麓には森が広がっている。森と山の境、山への入り口のところにアーチのような物があった。


ミコ「あれも古代の遺跡というものなの?」


アキラ「いや…。違うな。俺の前の記憶ではこんな物はなかった。」


マンモン「………!」


 マンモンは何か気づいたようだが俺達には教えないつもりのようだ。


アキラ「ここに居ても仕方ない。行こう。」


 俺達はアーチを潜って森へと入った。暫く進むと複数の気配に囲まれた。今度は悪魔と違って実体のある者達だ。隠れているつもりかもしれないが俺達にはすぐにわかる。


???「どうやってこんな場所まで入り込んだのか知りませんが出て行きなさい。私達は帝国には屈しません。」


 正面からやって来た気配は堂々と目の前に出てきてそう宣言した。黒い外套にとんがり帽子。緑の髪でおかっぱのような髪型だが毛先がくるりと内側に丸まっている。眠そうな目をしているが赤い瞳の視線は鋭い。身長は俺とほとんど変わらないように見える。手には先がゼンマイのように丸まった身の丈ほどもある杖を持っている。眠そうな目のせいかほんわかした感じの美少女だが格好はまるで魔女のようだった。


アキラ「帝国って何のことだ?」


狐神「さぁねぇ?」


ミコ「大ヴァーラント魔帝国と言ってた国のことかな?」


???「恍けるのはおやめなさい。六将軍まで直々に来ているのです。私達を討伐しに来たのでしょう?マンモン=アワリティア。」


マンモン「………。」


アキラ「俺達はその帝国とは無関係だ。こいつは捕虜みたいなものだ。」


???「六将軍が捕虜?とても信じられません。」


アキラ「おいマンモン。六将軍ってそんなに強いのか?」


マンモン「大ヴァーラント魔帝国では序列は強さで決まる。六将軍は軍の中での上位六名ということだ。」


アキラ「ふぅん…。お前程度で六位以内なのか。ガウ一人でもその帝国潰せそうだな。」


ガウ「がうがう!」


狐神「黒の魔神が出てこなければガウだけで潰せるだろうね。」


アキラ「なるほど…。じゃあその魔神とやらが出てきたら俺か師匠が相手をしましょうか。」


狐神「黒の魔神の階位は私より高いからね。あまり油断しないほうがいいよ。アキラなら簡単だろうけどね。」


 師匠は第七階位と言っていた。俺は神格は持っていても神ではないので第何階位になるのかわからないがその間ということだろう。


アキラ「これまで戦いらしい戦いもしたことないですから少し楽しみですね。」


ミコ「無駄に戦わなくていいようにマンモンさんを連れてるはずなのにどうして戦うことになってるの?」


 それはそうだ。別に戦うことが目的ではない。


???「話が見えません。貴方達は何者ですか?」


アキラ「マンモンも同じセリフを吐いたがお前は自分が何者かと問われて答えられるのか?自分が何者か何て哲学の研究でもしているのか?」


フランツィスカ「私はこの森を守るウィッチ種のフランツィスカです。」


アキラ「お前が今言ったのは自分の所属や種や個人の固有名詞に過ぎない。それがお前の言う何者かの問いの答えなのか?」


ミコ「アキラ君…。意地悪してても先に進まないよ。」


アキラ「それなら種族と名前は何ですかと聞けば済む話だろう?何者かなんて言い回しをするから何を聞きたいのか抽象的でわからなくなるんだ。」


フランツィスカ「それでは貴方達の種族と名前は何ですか?」


アキラ「俺は妖怪族のアキラだ。」


狐神「私も妖怪のキツネだよ。」


ガウ「ガウなの。」


ミコ「私は人間のミコ=ヤマトです。」


マンモン「大ヴァーラント魔帝国六将軍マンモン=アワリティアだ。」


アキラ「いつもはだんまりの癖にこういう時は張り切って答えるんだな。」


マンモン「………。」


フランツィスカ「まだ生き残っている妖怪族が居たなんて…。それに人間と魔人まで一緒にいるなんて不思議な集まりですね。貴方達の目的は何ですか?」


アキラ「俺達は旅をしている。この大陸を通りたいだけだ。北大陸に上陸してから間もなしにマンモンが襲ってきたから返り討ちにした。こいつに帝国が俺達に攻撃しないように警告させようと思って連れているだけだ。」


フランツィスカ「それが本当だとしてどうやってこんな所までやって来たのですか?この森は私達が警戒しています。気づかれずにこんな森の奥深くまで来れるはずはありません。」


アキラ「そこの山から下りて来ただけだ。」


フランツィスカ「そんなっ!あの山には強力な悪魔が居るはずです。無事に通ってこられるはずがありません。」


アキラ「現実を見ろ。通って来たから俺達がここにいるんだろうが。」


フランツィスカ「…今までの言葉が全て本当だったとしても、それではなぜあの山を通るような危険を冒し私達の森に侵入したのですか?旅をしたいのならば他に安全な道はたくさんあります。」


アキラ「ただ物見遊山で旅しているわけじゃない。俺は過去の記憶を失っている。過去の俺が通った旅路を通ると記憶が思い出される。だから過去の記憶の通りに旅をしているだけだ。」


フランツィスカ「それでは貴方は私達の村を訪れたことがあると言うのですか?」


アキラ「ない。俺の記憶では山の入り口にあったアーチもなかった。」


フランツィスカ「………。あのアーチもこの村も遥か昔から存在します。貴方の言っていることは矛盾しています。何か証拠でもあるのですか?」


アキラ「別にお前達が信じないならそれでも構わない。俺は俺のためにただここを通るだけだ。」


フランツィスカ「六将軍まで連れている以上それで黙って通すわけにはいきません。」


ガウ「がう。やっつけるの?」


アキラ「ふむ…。邪魔をするなら皆殺しにするか…。」


ミコ「ちょちょちょ、ちょっとアキラ君。何も争わなくても話せばきっと通してくれるよ。」


アキラ「…じゃあミコに任せる。俺はこういう話をしても平行線にしかならない相手は嫌いなんだ。」


ミコ「それでも黙って通すか皆殺しかなんて極端すぎるよ。」


フランツィスカ「…それでは村で詳しいお話を伺いましょう。ただし妙な素振りを見せればすぐに攻撃します。」


アキラ「そちらから手を出してくれば皆殺しにして押し通る。全員死ぬ覚悟が出来てから攻撃してこい。」


フランツィスカ「…。こちらへ。」


 フランツィスカの案内で村とやらへ通される。堀や塀はないが村に入る時に違和感があった。恐らく何らかの結界のようなものが張ってあるのだろう。一軒の家に入り俺達五人とフランツィスカが座りながら話をしている。あまり姿は見せないが他にも周囲を囲うように人が配置されているのは気配でわかっている。何かあればすぐに俺達を攻撃できるようにというつもりだろうが俺達にとっては無意味な行動だ。


 この村の者達は皆ウィッチ種というものなのか成人や老人でもフランツィスカとそれほど身長や体格に違いがなかった。皆小さく魔女のような格好をしている。


 通されて以来ミコとフランツィスカは交渉をしているがずっと平行線だ。いつまで経っても終わりが見えない。


フランツィスカ「ですからそれは…。」


アキラ「おい。」


フランツィスカ「…何ですか?」


アキラ「ウィッチ種と言うのは帝国に追われているのか?」


ミコ「アキラ君…。」


アキラ「こういう何を言ってもこちらの話を聞かない相手と交渉しても時間の無駄だ。それなら気になったことでも聞いたほうがまだ有意義だろう?」


ミコ「…それはそうかもしれないけれど。」


フランツィスカ「何を今更…。帝国の者ならばご存知でしょう?」


アキラ「知らないから聞いている。俺達が帝国の者だと思っているとしても聞かれたら答えればいいだろう?」


フランツィスカ「…ウィッチ種は魔人族の異端として帝国から迫害され討伐対象として追われています。」


アキラ「異端認定の理由は?」


フランツィスカ「ウィッチ種は悪魔崇拝だと糾弾されているのです。」


 それからフランツィスカはウィッチ種と帝国との争いの歴史を語りだした。


 魔人族とは受肉した悪魔とこの地に住んでいた者の混血として誕生したとウィッチ種では伝えられている。だから悪魔への友誼と尊敬を込めて帝国の将軍には代々大悪魔の名前が受け継がれているのだと。しかし他の魔人族はそれを認めず自分達は誇りある魔人族であり悪魔の子孫ではないと主張した。これによりウィッチ種は悪魔崇拝の異端として帝国から追放された。だが強力な魔法を使えるウィッチ種は野放しにしておけば危険だとされて幾度となく帝国による討伐が行われ住む地を追われ仲間を失いながらようやくこの地に辿りついたということだった。


アキラ「なるほどな。道理でマンモンなんてご大層な名前の割りに弱いと思った。」


フランツィスカ「…六将軍が弱いというのですか?」


アキラ「ああ。他の将軍は知らないがマンモンは魔の山でもビビりまくっていたからな。」


フランツィスカ「マンモンという名の重みを知っているのですね。」


マンモン「………。」


フランツィスカ「本当に…あの山を越えてきたのですか?」


アキラ「だから何度もそう言ってるだろう?」


フランツィスカ「とても信じられません。あの山にいる悪魔は並の悪魔ではないのです。」


アキラ「お前達は魔の山にいるのが悪魔だと知っているんだな。」


フランツィスカ「…はい。数百年もの間この地で暮らしているのです。当然でしょう?」


アキラ「マンモンは知らなかったからな。」


マンモン「………。」


フランツィスカ「どうやってあの山を越えてきたのですか?」


アキラ「どうもこうも…、ただ歩いてきただけだ。門から出てきた受肉していない低級悪魔共は勝てない相手には襲ってこない。上にいたバフォーメにも会って来た。」


フランツィスカ「悪魔に襲われないほど強いと?それに上にいるのはあのバフォーメだというのですか?」


アキラ「『あの』なんて言われてもどのバフォーメか知らないが上にいた受肉している悪魔はバフォーメだ。」


フランツィスカ「受肉までしているのですかっ?!…それなのに殺されることなく通過できたと?」


アキラ「バフォーメは俺の使い魔だからな。使い魔が主人を殺すわけないだろう?」


フランツィスカ「!!!バフォーメが貴方の使い魔?」


アキラ「ふぅ…面倒になってきたぞ。やっぱり皆殺しにしてさっさと通るか?」


ミコ「ちょっと待ってアキラ君。あまりそういうことばかりしてたらだめだよ。」


アキラ「…バフォーメ来い。」


 いくら話しをしても平行線にしかならないフランツィスカに疲れた俺は使い魔を呼び寄せる魔方陣を発動させる。空中に光る魔方陣が現れそこから悪魔帝バフォーメが現れる。


バフォーメ「お呼びでございますか?主よ。」


 現れたバフォーメは恭しく跪く。


ミコ「アキラ君!」


アキラ「心配するな。まだ皆殺しにするつもりはない。いくら口で言っても信じないんだ。論より証拠だろう?」


フランツィスカ「っ!………。この気配は…、確かに山頂からしていた気配と同じ物です。」


 フランツィスカは驚愕に目を見開こうとしているのだろうがやっぱり眠そうな目にしか見えない。冷や汗を流しているが冷静に分析している。


魔女っ娘A「フランツィスカ様何事ですか!」


 俺達を包囲していた魔女っ娘達がバフォーメの気配を感知して飛び込んでくるが間近でバフォーメの力を感じて全員硬直して動けなくなっている。中には蹲って泣き出した者もいた。


アキラ「これで俺達が魔の山を通過してきたことは信じたか?」


フランツィスカ「…信じるより他にないでしょう。」


 まったくもって疲れる。


アキラ「すまんなバフォーメ。つまらないことで呼び出してしまった。もう戻っていいぞ。」


バフォーメ「滅相もありませぬ。主の命とあらばいつ何時どのようなことであろうともご命令いただけることこそが我が喜び。それでは戻ってかの山を治めてまいります。」


 バフォーメは音もなく消え去った。


フランツィスカ「あの山を治めると言っていましたね。それではあの山にいる悪魔はバフォーメの、いえ貴方の手の者なのですか?」


アキラ「低級悪魔共は古代遺跡の門から勝手に出てきているだけだ。バフォーメに門から出てきた悪魔が外へ出て暴れないように魔の山から出ないようにさせている。」


フランツィスカ「バフォーメが貴方の使い魔ということは悪魔召喚し受肉させたのは貴方ですか?」


アキラ「そうだ。記憶を失くす前の俺がやった。」


フランツィスカ「記憶がないのにわかるのですか?」


アキラ「あそこへ行ったら少し思い出したからな。そして同じように他の記憶も取り戻すために旅をしている。」


フランツィスカ「………。わかりました。すぐには通せませんが皆で相談します。しばらくこの村で滞在してください。」


アキラ「なぜ通過するだけでそれほどこだわる?俺達が帝国の関係者でなければさっさと出て行ってもらったほうがお前達にも都合が良いんじゃないのか?」


フランツィスカ「…この地を帝国に知らされることも確かに警戒しています。ですが何よりもこの地はウィッチ種にとって聖地なのです。私達を救ってくださった救世主様との約束の地なのです。他所の者にその聖地を汚されるわけにはいきません。」


アキラ「ふぅ…。どうする?」


 俺は仲間を振り返って声をかける。


狐神「私はアキラの思う通りにすればいいと思うよ。」


ガウ「がうがう。がうはご主人に付いて行くだけなの。」


ミコ「私は少しここで休めるのなら休みたいかな…。」


マンモン「………。」


 マンモンは別に仲間ではないのでこいつの意見は聞く必要はない。


アキラ「じゃあこの村で少し休憩にしますか。急ぐ旅でもないですしね…。」


狐神「そうだね。」


ガウ「がうがう。」


ミコ「それじゃアキラ君。その間に魔法教えてもらってもいいかな?」


アキラ「ああ。俺も練習しておこう。」


フランツィスカ「!人間はともかく妖怪である貴方が魔法を使えると言うのですか?」


 ちなみに召喚魔方陣は術式が正しく神力さえ流せば妖力であろうと魔力であろうとどんな力でも発動できる。


アキラ「お前らウィッチ種と言ったな。俺達の旅を邪魔するんだ。俺達が滞在する間お前が俺に魔法を教えろ。」


 ウィッチと言うからには魔法が得意そうだ。どうせ暫く足止めされるのならこの機会を利用しよう。


フランツィスカ「わっ、私がですか?」


 フランツィスカは慌てたような顔をしたいようだ。眠そうな目のせいであまりそうは見えないが…。


アキラ「お前がだ。」


フランツィスカ「…なぜ私なのですか?」


 少し顔を伏せ三白眼でこちらを見ている。


アキラ「お前がこの村で一番強い。それに正面から堂々と勧告に来たり、こうして交渉したりお前が代表のようなものじゃないのか?」


フランツィスカ「………そんな理由なのですか?」


アキラ「?他に何か理由が欲しいのか?」


フランツィスカ「もういいです。」


 何か怒っているような顔をしている。


フランツィスカ「私達は魔法によって帝国の討伐から生き延びているのです。何者かもわからない者にその命綱を簡単に教えるわけにはいきません。」


アキラ「ふむ…。言っていることはわかる。では対価を払おう。」


フランツィスカ「…対価、ですか?」


アキラ「この村をバフォーメに守らせよう。それからこの先帝国の首都に向かうかもしれないからその時ウィッチ種に干渉しないように帝国に命令しよう。」


フランツィスカ「命令って…。」


アキラ「帝国が命令を断れば滅ぼしてやろう。」


マンモン「………。」


フランツィスカ「そんなことが出来るというのですか?」


アキラ「まぁ出来るだろ。六将軍とやらですらこの程度の雑魚なんだからな。」


マンモン「………。」


フランツィスカ「………悪魔帝バフォーメに守られるという約束が本当ならばそれだけでも十分です。ですがその約束が守られるという保証はどこにあるのですか?」


アキラ「…。契約の魔方陣を使おう。それなら文句ないだろう?」


 契約の魔方陣とは悪魔召喚魔方陣を思い出した時に一緒に思い出したものだ。本来は悪魔と契約を交わすための魔方陣でありその魔方陣によって成された契約は双方とも破ることは出来ない。


 悪魔召喚が術者の神力を与え受肉させ使い魔として使役するためのものに対して、契約魔方陣は対価を支払って相手にお願いをするものだ。例えば魂を一つ渡して代わりに誰か殺して欲しいと相手に頼む。双方が合意すれば契約は成りその内容が達成されるまでは双方とも契約に縛られる。


フランツィスカ「契約の魔方陣…。そんなものまで使えるのですか。」


アキラ「ああ。それなら契約が達成されるまで破ることは出来ない。契約内容は…、バフォーメはウィッチ種に対して攻撃してくる者があればウィッチ種を助け守ること。期間は大ヴァーラント魔帝国がウィッチ種に対して攻撃しないと誓うか誓わなければ国が滅ぶまで。悪魔に支払う対価は俺の神力。ウィッチ種から俺に対しての対価はフランツィスカが俺に魔法を教えること。これでどうだ?」


フランツィスカ「それで構いません。」


アキラ「ならばそれで契約をする。」


 俺は魔方陣の術式を発動させる。バフォーメが呼び出され先の契約内容を伝える。バフォーメはすでに俺の使い魔なので否やはない。滞りなく契約は成された。


アキラ「これでお互い障害はなくなった。あとはお前達が俺達を通すまで魔法を教えてもらう。」


フランツィスカ「はい。それではこちらへ。」


 師匠とガウは魔法を使えないので一緒に教えてもらう必要はない。マンモンもウィッチ種からすれば敵なので手の内を教えることはない。マンモンが勝手な行動をしないように二人に見張ってもらうことにした。俺とミコはフランツィスカに付いて行く。村から出て森を少し歩いたところに小さな滝のある広場のような場所があった。


アキラ「ここでやるのか?狭すぎる上に村が近すぎる。周囲に被害が出ても責任は取れないぞ。」


フランツィスカ「ここは村の人々のための練習場です。結界が張ってあるので周囲に被害が出ることはありません。」


アキラ「ふぅ…。結界…ね。よく見てろ。」


 俺は結界の境界へと近づき手をかざした。


 キイィィン


 ガラスが割れるようにあっさりと結界が砕ける。


フランツィスカ「そんなっ!この結界が破れるなんて…。」


アキラ「わかったか?俺が威力を誤れば辺り一帯消し飛ぶことになる。」


フランツィスカ「………アキラ…さんが力加減を間違えなければ良い話ではないですか?」


アキラ「アキラでいい。俺は初めて使う術や魔法はいつも加減が効かないんだ。注意はするが保証はできない。」


フラン「私のことはフランとお呼びください。それでは場所を変えましょう。こちらへ。」


 フランは滝へと近づいて行った。高さ3mほどの小さな滝の裏には洞窟があった。その中へと入っていく。暫く奥へと進むとありえない広さの場所に出た。天井までの高さは10m以上はあり入ってきた場所から反対側まで1km以上はありそうなドームになっている。滝の上と下で3mほどしかなくここへ来るまでの通路も下へと進んでいたわけではない。地質も岩ではなく普通の土だ。柱もなく壁もくり貫いただけの剥き出しでこれほどの広さを掘って崩れないはずはない。明らかに空間的におかしい。


アキラ「ここは…。」


フラン「ここはこの地に辿り着いた私達の先祖が最初に隠れ住んだ場所です。ここならば外に被害が出ることはないでしょう。」


 確かにここは空間的に断絶されている。それに俺が多少暴れても簡単にはこの空間の結界を破ることはないだろう…。なぜならこの空間の結界は俺の力で出来ている…。


アキラ(前の俺がこの場所を作ったのか?だがこの場に来ても記憶が思い出されない…。ウィッチの村へ行った所までの道順は記憶と同じ物なのになぜだ?)


 村へ辿り着いた辺りから旅の記憶が思い出せない。これまでの経験上進路を外れて記憶の景色の見えない場所まで行けば記憶は蘇らないのはわかっている。だが今回は別の方向へ進んだからではない。そこからどう動いたのかすらわからないのだ。進むべき道さえわからないのは初めてのことだった。だが今は魔法を覚える時だろう。記憶を取り戻す方法なら後で考えれば良い。悩んだところでわからないものはわからないのだから。


アキラ「それじゃ始めてくれ。よろしく頼むフラン。」


フラン「…はい。」


 フランはほんのり頬を赤くして答えた。こんな地で他種と交わることなく暮らしてきたのだ。こういう事には慣れていないだろうから緊張しているのかもしれない。


フラン「それでは良く見ていてください。ウォーターボール!」


 フランは美しい術式でウォーターボールを放った。名前の通り水の球を撃ち出す魔法だ。


アキラ「………。フラン、言い忘れたがある程度は俺達も魔法が使える。ウォーターボールもファイヤーボールもとばして次の魔法にしてくれ。」


フラン「同じ魔法を使おうとしても術式によって発動までの早さも威力も精度も全て変わります。外で覚えてきた魔法であればウィッチ種の魔法には敵いません。」


アキラ「…ミコ、ウォーターボールを見せてやれ。」


ミコ「え?うん。…ウォーターボール。」


 現時点で俺が考え得るベストの術式で改良されたウォーターボールが飛んでいく。


フラン「そんなっ!外で覚えられる魔法でウィッチ種並みの術式だなんて…。いえ…ウィッチ種の魔法より優れている…なんて。人間族はこれほどの魔法を習得しているというのですか?」


ミコ「違うよ。これは私が人間族に教わった魔法をアキラ君が改良したものなの。」


 フランは俺をまじまじと見ている。


フラン「そう…ですか。それほどの魔法を使えるのなら私から習うことなどあるのですか?」


アキラ「俺は一度この目で見てみないと使えないんだ。フランが一度手本を見せてくれればいい。」


フラン「…それでは現在使える魔法を教えてください。それ以外をお見せしましょう。」


 こうして俺とミコとフランは魔法の練習を重ねた。



  =======



フラン「私の魔法まで成長してしまいました。これではどちらが教えているのかわかりませんね。」


ミコ「アキラ君は特別だから。ね?」


アキラ「うん?あぁ…、ちょっと待ってくれ。」


 ミコが何か言っていたが曖昧に答えて考えていたことを整理する。フランに魔法を教わってから魔法というものがどういうものかわかってきた気がする。


 魔法は発動させる術式に魔力を流して発動させる。だが発動すると術式が増える。例えば魔力5で発動させるという術式を作る。次にその魔力5を火の球に変換させるという術式を作る。そして魔力を5流すと魔力が火の球へと変換されて現れるわけだ。


 だがこれを敵に飛ばそうと思ってもこの段階ではその術式はない。発動してから時速10kmで前方に飛ばすという術式が追加され前に飛ばすことが出来る。しかしこの術式では魔法としては出来が悪い。どのような火の球を出すとかその火の球がどういう効果を現すのか等が不明だからだ。


 ならば全て細かく指定すれば良いかと言えばそうでもない。細かく指定していけばいくほど術式は複雑になり発動が遅く魔力から魔法への変換効率も落ちる。だいたいアバウトな指定でも精密な指定でも発動すること自体がおかしい。原因があって結果が出るのであって2と5を足して8になるということはない。それでは根本の定義が崩れてしまう。発動させるための法則がありその法則に則っているからこそ結果として発動するのだ。


 それではなぜこのようなことが起こるのか。それはつまり…


アキラ「…魔法とは……イメージを具現化する力…か?」


 先の例でいけば魔力5を流す術式を作る。次に頭の中で考えている火球をその魔力5を使って発現させる。という術式だということだ。そのイメージが弱かったり精密に描けていないとうまく発動しない。また逆に術式で細かく指定してしまうとイメージとの差が大きくなりその調整のために余計な魔力が消費されて変換される魔力が減る。


 だがこれだけではまだ不完全だ。なぜなら頭は無意識にでも常に色々なことを考えている。火球のことだけを考えることは難しい。戦闘中ならばなおさらだ。だから考えていることというよりはイメージの中の火球を発現させる。というニュアンスになるだろう。そして火球が出現するとオートで術式が書き足される。俺のイメージが50cmの火球なら50cmの火球が目の前に現れるという術式が追加され火球が出現するだろう。そしてその火球が敵に向かって飛んでいくとイメージすればそれに必要な術式が順次追加されていく。


 最初の術式はイメージを発動させるためだけのもの。そしてその術式は可能な限りシンプルでありながら的確である必要がある。これが俺が今まで改良し最適化してきた手順だ。発動さえ上手くいけばあとはイメージが正確であるほど自動で術式が追加されその通りの結果を導き出す。それが魔法だと俺は結論付けた。


フラン「…すごいですね。この僅かな間に魔法の極意にまで達してしまったんですね。その通りです。魔法とはイメージの力で働くものです。ですからウィッチ種ではイメージを明確にする訓練をしています。」


アキラ「なるほどな…。だから発動させる術式が正確で、明確なイメージさえ持てていればマンモンのように新しい魔法を作り出せるというわけだ。」


フラン「はい。確かに新しい魔法を生み出すことも可能でしょう。並大抵の者ではそこまで到達できませんが…。」


アキラ「基本的な魔法は見せてもらった。これからはイメージの訓練や新しい魔法の実験でもするか。」


 そうして俺達三人はウィッチの隠れ里にいる間中この広場で魔法の訓練に明け暮れた。



 今日は夕方か夜にもう一話投稿できれば投稿する予定です。

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