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転生無双  作者: 平朝臣
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外伝2「スサノオの冒険35」


 たった一撃で高天原を真っ二つにした。その衝撃で高天原が天上から落ちる。


タケハヤスサ「ムカツちゃん!皆っ!」


 皆がどうなったかはわからない。直撃さえしていなければ高天原が崩れて落ちるのに巻き込まれても死ぬようなヤワな者は少ないと思う。


 一瞬気を取られて落下中の高天原の様子を見てみれば空間転移出来る国津神達が空を飛べない者達を抱えて救助活動をしている様子が見えた。


 やっぱり直接攻撃の被害を受けた者以外はそれほど大きな被害はなかったようだ。もちろんこの落下でもまた巻き込まれる犠牲者が出るだろうけど連れてきていた国津神達が救助することでかなりの犠牲は減らせると思う。


 高天原を掌握するために連れて来た軍勢だったけど思わぬ形で役に立ってよかった。それからムカツちゃんやアマテラス姉ちゃんの気配を探そうとした俺は動けなくなった。


 油断したつもりはなかった。でも気を逸らしたのはまずかった。今俺の後ろにはさっきの奴がいる。たった一撃で高天原を真っ二つに割り叩き落した張本人。カーリーなんて目じゃないほどに禍々しい黒い気配を纏う者。


???「………なるほど。お前がこの世界での我か。」


 背後から話しかけてくる。でも俺は振り返ることも答えることも出来ない。まるで金縛りにあったかのようにピクリとも動けなかった。動いた瞬間に殺されそうで。呼吸を悟られただけで殺されそうで。だから俺は呼吸することも出来ずにただ固まる。


???「どうした?力は使わぬのか?使わねば何の抵抗も出来ずに刹那のうちに消滅するだけだぞ?」


 チリチリと…、背中をゆっくりじっくり弱火で炙られているような感覚がする。痛みもあってすぐに体を捩ってしまいたくなる。でも動けない。動けばその途端にこいつが言うように一気に消滅させられるだろう。


タケハヤスサ「お前は……、何者だ?」


 俺は辛うじてそれだけを搾り出す。声も震えていただろう。でもこれだけ搾り出すのが精一杯だった。これだけ声を出せただけでも大したものだと自分で自分を褒めてやりたい。


 とにかく今は時間を稼がないと……。何の考えもなしに相手に出来るような易しい相手じゃない。何か考えないと……。


バイラヴァ「ふむ…。どうせあそこへ還る者が知っても意味のないことだが……。我が名はバイラヴァ。異世界におけるお前が我だ。我はすでに九つの世界を滅ぼしている。そして次はここだ。」


タケハヤスサ「な…ん……?」


 どういう意味だ?お前が俺?意味がわからない。ただわかることはバイラヴァと名乗ったこいつは俺なんかよりも圧倒的に強い力を持っている。それもカーリーが纏っていた黒い靄の力だ。全てを消滅させてしまう力。


 それですでに九つの世界を滅ぼしてきた?ここが十個目だってことか?冗談みたいに聞こえるけどこいつの、バイラヴァの力ならそれも可能だと思える。それだけの確信がある。


バイラヴァ「お前がこの世界を滅ぼすというのなら待ってやっても良いぞ?我はどちらが滅ぼそうともかまわない。今後は共に他の世界を滅ぼしてまわるか?」


 何だ?それは俺を部下にしようってことか?俺がこの世界を滅ぼしてバイラヴァに力を貸すのなら今後も他の世界を滅ぼすのに使ってやろうってか?


 くそっ!ふざけるなよ!そんな提案が呑めるか!


 ………でもだったらどうするっていうんだ?ここで精一杯の抵抗をしてみせるか?一秒も掛からず殺されるだけなのに?


 俺だけが死ぬのなら別にそれまでのことだと諦めもつく。でもダキまで巻き添えにするのか?仲間達や国民達まで巻き添えにするのか?


ダキ「……あなた。」


 その時そっとダキが俺の手を握ってくれた。俺は馬鹿か?こいつはこの世界を滅ぼすと言っている。例え俺が従おうとも俺がこの世界を滅ぼさなければならない。


 こいつがカーリーを連れていたことからダキくらいならもしかしたら助けてもらえるかもしれない。だけどこの世界の仲間も国民も全て犠牲にしなければならないってことだ。


 そんなことをしてダキだけ生き長らえさせてもらってダキが喜ぶか?俺に笑顔を向けてくれるか?そもそも俺は胸を張ってお母さんに会えるのか?


 何を考えてたんだ俺は……。答えなんて最初から一つしかないだろう。


タケハヤスサ「お前に従う理由はない。そしてお前に俺の世界を滅ぼさせる理由もない。お前なんぞお呼びじゃない。とっとと帰れ。この世界を諦めて帰るのなら見逃してやる。けどこの世界に手を出そうってんなら俺がお前を滅ぼしてやる。」


 俺はダキの手を握り返してから振り返る。そこに浮かんでいたバイラヴァの顔は……、狂気と見紛うほどの喜悦に歪んでいた。


 カーリーと同じような青黒い肌。ただしカーリーよりも一層黒いものが纏わり付いておりほとんどは真っ黒に見える。そこにギョロリと見える目は三つ。普通の位置に二つ、そしてその間に縦に裂けたような目が眉間の上にある。


バイラヴァ「いいぞ…。いいぞっ!!!ははははっ!!!やってみろ!我を楽しませてみせろ!我が体を引きちぎり奪い取り作り上げた世界など消滅させてくれる!だがただ消滅させるだけでは飽き足らぬ。我が味わった以上の苦痛と恥辱に塗れてのた打ち回り死に絶えるがいい!!!」


 ゴゥッ!!!とバイラヴァから吹いた風が世界を揺らした。


タケハヤスサ「ぐっ!!」


ダキ「きゃあっ!」


 俺とダキは空中で耐えることも出来ずにバイラヴァが解き放った力の奔流だけで吹き飛ばされた。


 従っても全員殺されるだけ。抗っても負ければ世界ごと滅ぼされる。だったら勝つしかない。他の選択肢なんて最初から存在しない。


 だけど……、勝てるのか?この出鱈目な化け物相手に?タケミカヅチやミカボシを加えて天津神も国津神も全ての強者を集めてもこいつに毛筋ほどの傷も与えることは出来ないだろう。それだけの力がある。


 こんな者を相手にどうやって戦えばいい?高天原を落としたのはまるで本気じゃなかった。こいつにとっては挨拶代わりに少し撫でた程度だった。それであれだ。


 なら本気で攻撃を放てばどうなる?わかりきったことだ。こいつは俺達一人一人を相手にする必要すらない。ちょっと強めにこの世界に攻撃すればそれだけでこの世界が滅ぶことになる。そんな相手にどうやって戦えばいいって言うんだ?


ダキ「あなた……、あなたも『破滅を齎す者』なのです。その力を……、開放した上で制御するしかありません。」


タケハヤスサ「ダキ………。」


 抱き合いながら吹き飛ばされている俺をダキは真っ直ぐ信頼の篭った目で見つめる。ダキの言う通りだ。俺がこの世界でのバイラヴァと同じ力を持った存在なのだとすれば俺にもあいつと同じことが出来るはずだ。


 そしてそれをする以外に俺もダキも仲間もこの世界も存続する方法はない。俺があの力を解放した上で制御してその力をもってあいつを倒す。


ダキ「どうやら私も同種の力を持つ者のようですから…。微力ながらお手伝いします。」


タケハヤスサ「…よしっ!やろうダキ!俺達があの力を制御してバイラヴァを倒すんだ!」


 俺が応えるとダキも頷いてくれた。二人で両手を繋いで輪になる。そっと目を閉じて自分の中の『あれ』に意識を向ける。


 今まで一度しか発現したこともなく、それも意識的に制御したわけでもない。それを自分の意思で呼び出し制御するなんてことが出来るかどうかはわからない。だけど出来るか出来ないかじゃない。出来なければ全ては滅んでしまう。それだけのことだ。だったらやるしかない。


???『滅ぼせ!』


タケハヤスサ(これが俺の中にいるものか……。お前は、いや、お前達は一体何なんだ?)


虚無『我は虚無。無にして全なるもの。全てを我に還せ。』


 どういう意味だ?虚無?全て?………でも一つだけわかったことがある。やっぱりこいつはバイラヴァの『あれ』と同じものだ。俺もバイラヴァも各々の世界での虚無の器でしかない。


タケハヤスサ(力を貸せ!)


虚無『世界を滅ぼし我に還すのならばいくらでも力を貸してやろう。』


タケハヤスサ(あのバイラヴァとかいう異世界のあれを滅ぼすために力を貸せ!)


虚無『断る。あちらに任せても世界を滅ぼし我に還すことになる。我にはどちらがそれを成そうとも関係ない。世界が我に還ればそれで良い。お前が滅ぼす気がないというのなら力を貸す理由などない。』


 そりゃそうだよな……。世界を滅ぼしたいっていう目的は虚無もバイラヴァも同じなんだ。むしろバイラヴァは虚無に飲み込まれて操られているだけだろうから俺が虚無に乗っ取られた場合と同じようなものなんだろう。


 それなのに虚無の操り人形であるバイラヴァを倒すのに力を貸せって言っても虚無が力を貸すわけがない。だったら……、力ずくで虚無の力を奪って引き出すしかない。


タケハヤスサ(ならお前の合意がなくても無理やりでも使わせてもらう!)


虚無『愚かな……。逆に我がお前を乗っ取ってやろう!』


 俺と虚無がお互いを飲み込み操ろうとしのぎを削り主導権争いを繰り広げる。でも………。


虚無『我の力を奪えるとでも思ったか!思い知るが良い愚かなる者よ!お前を操りこの世界を滅ぼしてくれよう!』


 駄目だ……。こんなのに勝てるわけがない。こいつと交じり合ってわかった。こいつは全ての世界の元なんだ。こいつの一部を切り取って出来たのが今の世界だということがわかった。


 その全ての世界の元である相手に、その世界の中のほんの一部でしかない俺が個人でどうにか出来る道理なんてない。全ての世界の全てのものを合わせても虚無になど敵うわけがないんだ……。


 もう…、駄目だ……。ここまで…か……。いや、それどころか事態は余計に悪化した。もし俺が虚無に操られてしまえば虚無の操り人形がバイラヴァと俺の二人になってしまう。それではますます世界の脅威が増えたことになる。俺のこの行動は何の意味もなかったどころかますます事態を悪くしてしまっただけということになる。


 何て間抜けなんだろう…。そりゃそうだ。バイラヴァに勝てない俺がバイラヴァを操っているものに勝てるはずなんてなかった。そして俺が操られればバイラヴァが二人になるのと同じだ。


 あぁ…、馬鹿なことをせずに大人しく殺されていた方がまだマシだったのか………。


ダキ(あなた!)


 ……これは。


ダキ(あなた!しっかりしてください!負けないで!)


 ……ダキの心が流れ込んでくる。………そうか。俺一人じゃ確かに虚無になんて勝てない。でもどうだ?俺は一人じゃない。


 俺の中には姉が、兄が、ムカツちゃんが、母が、アンもゾフィーもニンフもウカノも、ヤタガラス、ミカボシ、タケミカヅチ。故郷で暮らしていた時に支えてくれた人々。旅の間に知り合った仲間達。建国前から尽くしてくれている家臣達。国民達。


 そして…、愛する人がいるじゃないか。


 物質的に、物理的に、質量や力では虚無には敵わないだろう。でも俺の中の想いはどうだ?いつも一人っきりでしかない虚無の中には何の想いも詰まってはいない。でも俺の中には数多くの想いが詰まっている。その想いの力だけは俺が虚無に勝っている部分だ。


 だから力ずくじゃなくて…。想いで虚無を従える。


虚無『………馬鹿な。何をした?貴様何をしたぁっ!!』


タケハヤスサ(虚無。お前も俺の、俺達の輪の中に入れ。そうすればお前ももう一人じゃなくなる。想いは繋がる。その中にお前も………。)


 ………

 ……

 …


 そっと目を開くとそこには……、両手を繋いで輪になったままのダキがいた。まだほとんど時間は経っていないようだ。虚無と出会った空間での時間はこちらの時間とは流れが違うらしい。


タケハヤスサ「ダキ?その姿は?」


 目の前にいるダキには体中に黒い模様が浮かんでいた。ダキの白い肌に黒い模様がついた姿も蠱惑的ではあるんだけどこれはちゃんと元に戻るんだろうな?折角のダキの白い肌も好きだからな。もちろんこの白と黒の混ざった姿も綺麗ではあるんだけど……。


ダキ「そういうあなたこそ…。」


タケハヤスサ「え?…あっ!」


 俺も自分の体を見てみる。俺の体にもダキと同じような黒い模様が浮かび上がっていた。自分の顔は見えないけどきっと俺にもダキと同じように顔にも模様が浮かんでいるんだろう。


ダキ「……どうやらうまくいったようですね。」


タケハヤスサ「あぁ…、うん。この模様はやっぱり『あれ』の力だよな。」


 俺とダキに黒い模様が浮かび上がってきたのは虚無の力を引き出したからだろう。もちろんまだまだ完全にじゃない。ほんの一部を引き出しているだけだ。だけど俺達の中には今確実に虚無の力が流れている。


 この程度の虚無じゃまだバイラヴァに劣る力しかないけど、さっきまでの何もなかった時の圧倒的な力の差を考えればまだ何とかなるかと思える程度にはなっている。


バイラヴァ「……何だ?ようやく力を出す気になったか?」


 空中で止まった俺達の前にバイラヴァがやってくる。顔の大部分は黒いものに覆われていて表情なんてほとんどわからないのに明らかに嗤っているのだとわかった。


タケハヤスサ「最後にもう一度だけ問う。自分の世界へ帰れ。そうすれば見逃してやる。これ以上この世界に何かするつもりだったら俺が相手になる。ここは俺の世界だからな。」


バイラヴァ「くっ…、くくく。ははははははっ!!!笑わせる!その程度の力しか出せない雑魚が!力を出せたことで増長したか?今初めて力を出した者が今まで長らく力を使い続けてきた我に勝てる道理などない!」


 俺の最後の問いに笑ったバイラヴァが答える。確かにその通りだろう。俺が今出せている虚無の力はバイラヴァに比べれば微々たるものだ。


 そして仮に力の量が同等でも今までどれほどかは知らないが力を使い続けてきたバイラヴァと、まだこの力を出すのは二回目の俺とでは慣れが違う。同じ力でも一日の長でバイラヴァの方が上手だろう。


タケハヤスサ「交渉決裂ってことでいいんだな?」


バイラヴァ「くどい。我が貴様に負けることなど…、ぐっ!」


 俺の突きがバイラヴァの頬を掠めて切り裂く。バイラヴァは俺の拳が見えていなかったが今回はあえて当てなかった。ただ掠っただけで頬が切れるとは思ってなかったからそこは俺の想定外ではあったけど…。


タケハヤスサ「だったら力ずくでお帰り願おう。覚悟はいいか?」


バイラヴァ「図に乗るなよ虫けらが!」


 激昂したバイラヴァが力を放つ。その余波だけで世界が悲鳴を上げていた。これ以上この世界に影響を与えてはまずい。俺がバイラヴァに勝ったとしても俺とバイラヴァの戦いの余波で世界が滅んでいては意味がない。


タケハヤスサ「ダキ!鏡を使って俺とバイラヴァを隔離してくれ!」


ダキ「あっ、はいっ!!」


 俺の言葉を理解したダキがすぐに行動に移る。


ダキ「八咫鏡よ……。貴狐天王護法陣!!!」


 どこから取り出したのかはわからないけどダキがいつも持ち歩いている神鏡を取り出してその力を広げる。全ての害意を弾き返すという八咫鏡とダキの力に覆われた俺達の戦いの余波はかなり軽減されるだろう。これで心置きなく戦える。


タケハヤスサ「いくぞバイラヴァ!」


バイラヴァ「があああぁぁぁ!!!」


 力を解き放ったバイラヴァはもう目以外のほとんどが真っ黒に覆われていた。まるでこいつ自身が世界に開いた穴そのもののようだ。でも今更俺が怖気づくはずもない。そのまま突っ込んで拳を突き出す。


バイラヴァ「遅いわ!」


タケハヤスサ「それはどうかな?」


バイラヴァ「何を…、がっ!!!」


 俺の拳をスルリとかわしたはずのバイラヴァが何かに殴られて吹き飛ぶ。


タケハヤスサ「ふん。油断するからそうなる。」


バイラヴァ「きさまぁぁぁぁっ!!!」


 バイラヴァを殴ったのは俺の殴った腕から枝分かれするように伸びた黒い靄の塊だ。バイラヴァの全身を虚無が覆っているように俺にだって虚無が纏われている。その虚無を避けられた腕から枝分かれさせて避けて安心したバイラヴァを殴ったんだ。


 もちろんこんな程度で大きな傷を与えることは出来ない。ただの子供騙しだ。それでも自分が殴られ俺に翻弄されていることでバイラヴァは冷静さを失っている。


 本気で戦えば俺はまだバイラヴァには勝てないだろう。でもこうして冷静さを失って暴れるだけのバイラヴァを往なすくらいは出来る。


バイラヴァ「しねぇぇぇ!」


 伸ばした両手の爪を滅茶苦茶に振り回す。型も技術も何もあったもんじゃない。ただ有り余る力にものを言わせて暴れているだけだ。


タケハヤスサ「甘い!」


 俺は腰から抜いた天叢雲剣で受け止める。そしてもう片方の腕で天羽々斬剣を抜き放ち斬り付ける。


バイラヴァ「ぎゃあぁっ!ばかなっ!ばかなっ!何故我が斬れる?!何故その剣は我に蝕まれぬ!?」


タケハヤスサ「……さぁ?何故って言われても?」


 バイラヴァの言ってることも意味不明だし理由を聞かれても答えようがない。ただ言葉から察するに恐らく普通の武器や攻撃方法じゃバイラヴァを覆う闇に呑まれて攻撃が通らないんだろう。


 それなのにこの二振りの剣はバイラヴァを受け止め傷つけた。そのことに驚いているのだろうと思う。もちろんその理由なんて俺にはわかるはずもない。


タケハヤスサ「………天羽々斬剣は代々受け継がれてきた我が一族の想いが詰まっている!そして天叢雲剣は俺と妻の二人の想いと力が詰まっている!中身がなにもないお前に防げる道理はない!」


 わかるはずもないけど適当に理由をでっち上げる。これが当たってるかどうか、本当かどうかなんてどうでもいい。俺がそう想っていてバイラヴァがそれで動揺するのならそれでいい。


バイラヴァ「想い…、想い、想い、想い想い想い!そんなまやかしなどが我に通用するはずはない!」


 バイラヴァの爪を剣で受ける。逆の手の爪は逆の剣で受ける。でもこれは若干まずい。俺は剣で間合いが長い。バイラヴァは伸ばした爪だから俺の剣よりは間合いが短い。お互いにこんなに接近した状況じゃ長い剣を振り回す俺の方が不利だ。


 それをわかってかわからずかバイラヴァはどんどん間合いを詰めてこようとする。俺は剣で爪を捌きながら距離を取ろうと離れるがどんどん詰められて徐々に接近されている。このまま懐に入られたらまずい。


 そうは思うけど短い爪を巧みに使って徐々に間合いを詰められる。さっきまでの滅茶苦茶な動きから一転して今度はきちんと格闘技のようなものを使っている。しかも見たこともないような動きだ。これはバイラヴァのいた世界での技術なんだろう。


バイラヴァ「もらった!」


 とうとう間合いに入られた俺にバイラヴァの爪が迫る。


タケハヤスサ「くっ!!!………なんてな。界渡り二の秘技、瞬影転!」


バイラヴァ「何?!」


 バイラヴァは一瞬のうちに転移した俺を見失った。これは俺が開発した新しい界渡りの秘技だ。界渡りは転移するための門を作って開かなければならない。そのために門を作ることによって転移を見破られ開くための手間も掛かって転移することがバレたり時間がかかったりしていた。


 そこで考え出したのが瞬影転だ。これは自分の影に門を作り開く。影に潜ませておくからこっそり門を作ることも出来るし瞬間的に開いて即座に転移することも出来る。


 バイラヴァの後ろに転移した俺が二振りの剣を振り下ろす。


バイラヴァ「ぐっ…、があああぁぁぁ!ふざけるなよゴミが!」


タケハヤスサ「ちっ…、浅いか……。」


 確かにこの二刀ならバイラヴァを斬れる。でも斬れるのと倒せるのはまた別だ。完全に背後から捉えたはずの一撃でも浅く切り裂いただけで斬り落とすまでには至らない。これじゃ勝ち切ることは難しい。


バイラヴァ「トリシューラ!!!」


タケハヤスサ「うぐっ!」


 どこからともなく突然出て来た三叉槍が俺の脇腹を掠める。俺も同じ虚無で防御しているはずなのにあっさり切り裂かれて血が噴出した。


バイラヴァ「図に乗るのもこれまでだ!消え去れゴミ!」


タケハヤスサ「うっ、おっ…。ぐっ!!!」


 速い!俺は二刀で対応しているのに間に合わないほどの速さで三叉槍が繰り出される。徐々にではあるけど俺はあちこちを削られて次第に不利になっていた。


ダキ「あなた!負けないで!」


タケハヤスサ「―ッ!!!ダキっ!」


 俺とバイラヴァを隔離する結界を張っていたはずのダキが何故か一緒に中にいる。そしてバイラヴァに飛び掛って……。


バイラヴァ「邪魔をするな!出来損ないが!」


ダキ「―――ッ!!!」


タケハヤスサ「ダキーーーっ!!!」


 ゆっくりと…、ゆっくりとバイラヴァのトリシューラがダキに迫る。何とか止めたいのに俺じゃ間に合わない。ほんの僅かずつしか体が動かないのに目に映る景色ははっきりと見える。三叉槍がダキの胸の中心に吸い込まれそうになって……。


タケハヤスサ「うおおおおぉぉぉっ!!!させるかぁ!フツシミタマ!!!」


 俺の中にある全ての力が混ざり合う。そうか……。何族だとか何種だとか関係なかったんだ。皆もとは同じところから産まれた同じ力を持つものなんだ。


 その中の自分の属性に合う力を発現させているにすぎない。だから天津神の生まれだった俺が国津神の力を使えたんだ。そしてそれは天津神と国津神だけじゃない。


 俺の中には魔人族の魔力だって、精霊族の精霊力だって、人間族の霊力だって、獣人族の獣力だって、ドラゴン族の龍力だって、そして妖怪族の妖力だって、全てがある。


 普段は使えないはずのその力を全て混ぜ合わせて高めあう。これこそが全ての力の根源。本来の姿。同じ量の力が何倍も、何十倍も、何百倍にも高まる。これが俺の力だ!!!


 そして俺自身の力が高まれば制御出来る虚無の力もまた増す。そうして先ほどまでとは比べ物にならない力を制御している俺は三叉槍がダキに刺さる前にその槍を砕きダキの前に回っていた。


ダキ「え?あなた?」


バイラヴァ「なっ!ばかなっ!貴様どうやって………。」


 二人が驚愕の声を上げる。でも今の俺は落ち着いてる。それはバイラヴァなど比べ物にならないほどの力を手に入れたからだろうか?それとも愛する妻を救えたからだろうか?


タケハヤスサ「もう…、終わりにしよう。お前も俺の中で眠れバイラヴァ。八雲封神!!!」


 空力を除く八つの力がバイラヴァを縛り上げる。それぞれの力がお互いを高めあいその上を俺の虚無が覆うためにいくらバイラヴァとその中にある虚無の力をもってしても破ることは出来ない。


バイラヴァ「放せ!はなせぇぇぇぇ!」


タケハヤスサ「お前も俺の中の虚無へと還れ。界渡り……、冥府門!!!」


 最後に空力で俺の中の虚無へと通じる門を開く。その中へ封じたバイラヴァを飲み込んだ。


バイラヴァ「ふざけ…、ふざけるな!この我が…、虚無である我が虚無に送られたとしても意味はない!我は必ず戻ってくる!かなら………。」


 バイラヴァは虚無に飲まれてボロボロに砕けて跡形もなくなった。例えバイラヴァが虚無の依り代だったとしてもその肉体はこちらの世界にあるものだ。それを虚無の世界に送られては存在することすら出来はしない。


ダキ「あなた。やったのですね?」


タケハヤスサ「あぁ。やった。勝ったんだ。勝ったぞ!ははっ!」


ダキ「あなた…、んっ!!んんっ!!!」


 うれしさのあまり俺はダキを抱き寄せて唇を重ねた。最初は驚いていたダキも俺に身を任せるようになったのだった。



  =======



 あれから色々とあった。一連の戦いと高天原が葦原中国に落下したことで大勢の命が失われた。もちろん俺の仲間や家族は強い力を持つ者がほとんどで難を逃れていた。お姉ちゃんもお兄ちゃんもイザナギも、ムカツちゃんや国津神の仲間達もだ。


 でもやっぱり亡くなった者も多い。特に国津神で犠牲が多かったのは軍人関係だ。高天原に昇っていてカーリー、バイラヴァの襲撃に対応したり落下する天津神達を救うために多くの軍関係者が亡くなった。


 いつも俺を英雄を見るように憧れの眼で見ていた者。古強者として根之堅州国の軍政に貢献してくれていた者。多くの者を失った。そしてもちろんそれ以上に天津神達も命を落とした。


 でも嘆いてばかりもいられない。俺達はまだ生きているしこれから先のことをしていかなければならない。高天原を失い住む場所もなくなった天津神達はイザナギと俺が纏め上げた。これはイザナギの狙い通りだったんだろう。


 いきなり俺が天津神達に指示してもうまく聞いてくれなかっただろう。また他の天津神が指導していればそちらに主導権が渡ってしまっていた。そこでイザナギがうまく纏めながら俺の功績として天津神を導いたお陰で今では天津神も国津神もなく根之堅州国は纏まることが出来た。


 もう少し落ち着けばダキとの結婚をしよう。今まで大変なことがあって正式に結婚式をすることが出来ていなかった。落ち着いたら大々的に俺のお嫁さんを皆に自慢してやる。


 それから…、ムカツちゃんも迎えに行かないとな。高天原が落下してからは天津神は大変な状態だったからまだあれから会えてもいない。生きていることはわかっているけど俺が訪ねようと思った時には手紙がきていて断られた。


 曰く『スサノオ様はこの大変な状況を乗り越えるための指導者としてするべきことを行なってください。こちらは無事なので心配はいりません。』というようなことだ。そうまで言われて仕事を投げ出して会いに行くことは出来なかった。


 ………でも一番の問題があるな。それはダキとムカツちゃんがまだお互いに会ったことがないということだ。俺は両方を知っている。二人はお互いが俺のお嫁さんに加えられることは知っている。


 だけど直接会ったこともない相手が突然家にやってきたらどうなるだろう?もしかしたら気が合わないかもしれない。言葉では納得しててもいざ相手が来れば嫉妬するかもしれない。


 あああぁ。自分で撒いた種とは言え今から二人の初対面が怖い……。でも避けては通れない道だから覚悟するしかない。


 それから俺とダキは先の戦いで亡くなった者達の玉を集めて一つの勾玉の首飾りを作り上げた。それは特殊な力を宿し全てのものの動きを封じるという力を持つ。今それは八尺瓊勾玉と呼ばれ高天原が落下して一番ひどい被害を出した南大陸東部に安置されている。


ダキ「あなた。お仕事ですよ。」


 そんなことを考えているとダキがやってきて俺を呼んだ。


スサノオ「ああ。わかった。それじゃ行こう。」


 俺はスサノオという名に戻った。理由は特に無い。むしろタケハヤスサが偽りの仮面だった。でも今はそんな仮面を被る必要はなくなった。


スサノオ「ダキの美しい黒髪が真っ白になってしまったな。」


 俺はそっとダキの髪に手を入れる。あの戦いの前までは美しい艶のある黒髪だったのに今ではその髪は真っ白だ。


 ダキも俺と一緒に虚無の力を受け入れたせいであの状態から戻ると髪が真っ白になっていた。銀髪のような綺麗なものではなく白髪のような白だ。艶も失われて何だか急に老け込んだようにも見える。


 もちろん俺の可愛い奥さんはまだまだピチピチだぞ?ただ後姿で髪だけを見ればの話だ。


ダキ「ただ色が抜けただけですからそのうち戻りますよ。これは…、そうですね。勲章のようなものです。」


 ダキは良い笑顔で自分の髪を揺らしてそう答えた。その笑顔を見たら俺からは何も言えない。


スサノオ「そうか……。あまり皆を待たせても悪いな。行こう。」


 俺は呼びに来たダキの手を握って一緒に歩き出す。王として妻の手を握って登場するというのはどうなのかと言われることも多々ある。だけどそんなこと知ったことじゃない。


 俺はこの手を守るためにこれからもこの世界を守っていくんだからな!




  ~~~~~




 アンネリーゼ


 根之堅州国とウィッチ種の繁栄にその叡智を存分に揮う。アンネリーゼの子孫達はウィッチ種が大ヴァーラント魔帝国の襲撃を受けた際に種を守るために大勢が討ち死にする。たった一人生き残った直系の少女はウィッチ種の救世主に懐きやがてウィッチ種最高の魔女と呼ばれるまでになる。その孫はアンネリーゼの野望通りにある者の子孫と結婚し魔導を極めた神へと到ることになる。



 ゾフィー


 ガルハラの戦士を名乗る少女は西部部族連合がやがて国として纏まるとその国が滅びるまで子々孫々に到るまで戦士として仕え続けた。ガルハラとはどこかの地名と言われている。ただしそれはこの世界に存在する地ではなくあの世のようなものを指す。


 やがて西部部族連合を母体とした国が滅びた後にガルハラの戦士の血を引く者が動き出す。その子孫達は中央大陸北西にガルハラ帝国という国を築き上げる。ガルハラ帝国は長い苦労の果てに中央大陸を統一して長く統治することになる。



 ニンフ


 精霊でありながら人間大の大きさを持つ精霊の始祖。ニンフの子孫は生まれは水の精霊と同じような大きさでありながら大人になり愛を注がれると初代であるニンフと同じ大きさにまで成長する特性を持つ。ニンフは何度も生まれ変わりながらある人の子孫を待ち続けるが残念ながらその座はとある子孫に奪われることとなった。今はまだその人の子孫とも出会えていない。



 ウカノ&イナリ


 異種でありながら子供を授かる。その子孫は妖狐でありながら特異な力を持つ者を多数輩出する。やがて妖狐の歴史の中でも突出した力を持つ九尾の神『最後のファルクリアの巫女』が生まれるがその子供は種に忌み嫌われ追い出される。知ってか知らずかやがてその九尾の神はこの後ウカノとイナリが暮らした霊峰の上にある庵に住み着くことになる。



 コト&ノウ&ジャッカ&ヴォルプ&ダウ


 月兎種と兎人種の夫婦と子供達。この三つ子はそれぞれ家を興す。やがてそれは三玉家と呼ばれて周辺の兎人種達から敬われることとなる。



 スサノオに力を注がれた消滅寸前だった風の精霊


 名もない風の精の一人だったその者はやがて生命の源から切り離されて再びこの世界へと生れ落ちる。その時当然ながら過去の記憶など持って生まれてはいない。ただその風の精は特異な力を持ち突出した能力を持っていた。その風の精は歴代最高の精霊王候補と呼ばれ長い苦しみの中にその身を置くことになる。



 大神種


 力を封じられ狼の姿へと変えられた大神種は長い時を主の言葉を守り霊峰を守り続ける。やがて時代の流れで一人を除いて滅ぶことになるが残った一人は主の子孫と出会い見事に元の力を取り戻しさらなる飛躍を遂げる。



 ドラゴン族


 この後の太古の大戦にて龍神と竜王がいなくなると長年根回しをしながら雌伏していたハイドルは雄飛の時を迎える。その後竜王の地位を独占し続けるハイドルの子孫達に伝えられたことはある者とその子孫血族に敵対することなかれ、という家訓だった。しかし残念ながら実際にその子孫と出会う時にはその家訓は忘れ去られてしまっていた。その時の王もまた若かりし頃のハイドルとよく似た性格だったのは何の因果であろうか。


 また咬竜はこの後に成される約束により自らの孫娘をその者の子孫に嫁に出すことになる。




  ~~~~~




 コンコンッと扉を叩く音がする。


イザナギ「入れ。」


 中から声が返ってきて俺は扉を開ける。部屋へと入ると椅子に座ったこの部屋の主が俺をチラリと見てからまた書類に目を落とす。


イザナギ「どうした?何か用か?」


 書類を見ながら軽く声をかけてくる。だが俺はその言葉には答えずに椅子へと近づく。そしてその後ろに立った時ようやく椅子に座った主は異変に気付き顔を上げる。


イザナギ「おい。何の……、あっ?…がはっ!!!」


 俺は椅子ごと座っていた人物を貫いた。手に残る感触がイザナギの命を刈り取ったことを明確に示している。


イザナギ「何…、の…つもり……、だ。ツ……クヨ……ミ。」


ツクヨミ「ほう。まだ息があるか。さすがに天津神の棟梁だっただけのことはある。」


 椅子から滑り落ち転げているイザナギを踏みつけながら俺は余裕の表情で見下ろす。


ツクヨミ「父上……。お前が愚か者だからこのような手間が増えたのだ!俺を後継者にしていればこんな余計な手間などかからなかったものを!スサノオなんぞを後継者にしたがために俺がこんな余計な手間をかけねばならんのだ!」


イザナギ「お前に…、棟梁は……無理だ……。己の器を…、知るがいい……。やはり…、俺は見る目が……なかっ………。」


 踏み続けているといつのまにかイザナギの反応がなくなっていた。どうやら死んだらしい。


ツクヨミ「ふんっ。所詮この程度の雑魚の分際で……。まぁいい。お陰で俺はあれを知ることが出来たんだからな。くっくっくっ、はっはっはっ、は~っはっはっ!!」


 そうだ。何も悲観することはない。高天原が落ちた時に見た侵略者とスサノオ。あの纏っていた力。あれこそが俺に相応しい。全てを飲み込む闇。夜にして闇の支配者たるこの俺様ならばスサノオよりもうまくあれを扱えるに違いない。


 そしてあの力さえ手に入れば俺が全てを自由に出来る!そう!このクソみたいな世界を滅ぼして新天地へと向かうことも出来る!そこが気に入らなければまた滅ぼして違う世界へ行けばいい!


 俺の理想の世界を手に入れるまで、いくらでも世界を壊し、いくらでも世界を渡って探せば良い!はっはっはっはっ!!!!



 →転生無双へ続く


 予定を変更します。


第三段→無期限延期。

第四弾→続編と話をくっつけて続編から見た人でもわかる形でまとめて投稿。


 詳細は活動報告にて。


 今日から新作投稿してます。話は転生無双とは趣が変わりますが大雑把に

TS転生、序盤は内政多め、でも後半から無双も増える予定、文字数はこちらの半分くらい、なんで話の進みは文字数一緒でも話数が倍になるのでこちらよりは遅く感じるかも。


 HTMLでurlのリンクを貼るのが面倒なので右上の作者の名前から作者ページに行くと他の作品や活動報告を確認できます。そちらでご確認ください。

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