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転生無双  作者: 平朝臣
212/225

外伝2「スサノオの冒険22」

 今日書き上がりました。外伝2は全35話となります。終わりそうと言ってから1.5倍ほど膨れるのはいつものことということで……。


 あと二週間ほどお付き合いのほどよろしくお願い致します。


 はぁ…、疲れる………。根之堅州国を建ててから早半年が経とうとしている。その間に色々なことがあった。建国準備の時の方がまだ楽しかった。今はひたすら堅苦しく疲れるだけだ。でもこれも俺達の夢のためには必要なことだから我慢するしかない。


 まずはそのあった出来事を思い返す前に建国当初のことから思い出そう。


 建国前の準備として俺達は仲間の故郷などに協力要請を行った。東大陸の北部の大部分はタケちゃんの号令でほとんどは従ってくれた。


 中部辺りはウカノとニンフの故郷があるのでそちらは二人が取り持ってくれたお陰で問題もなく俺達に協力してくれることになった。


 南大陸西部はミカボシ達不順わぬ神々と月兎のコト達の協力もあってこちらもすぐに協力体制が出来上がった。


 隠れていたコトだけどいつの間にかお嫁さんの実家、つまり獣人族兎人種達が集まって集落が出来上がっていた。どうも兎人種達はあまり力が強くなくて色々な場所で苦労してきたらしい。


 だからコトを頼って兎人種達が集まり次第に大きくなって今では普通の集落くらいの規模になっている。


 コトも兎人種に紛れることで月兎の追っ手達から姿を隠すことが出来るのではないかと方針を転換して兎人種達を受け入れて兎人種の里としてやっていくことにしたようだ。


 それがうまくいったのかどうかはわからないけど今の所はコトはツクヨミ兄ちゃんの追っ手に見つかってはいないようだった。


 少し問題があったとすれば東大陸南部から南大陸東部にあるドラゴニアだろうか。ドラゴニアは俺達には従えないと協力要請を突っぱねた。


 別に従う必要などないから世界平和のために協力体制を作りたいと何度も要請して交渉を行ったが、終始『遠呂知様の意思に逆らうことは出来ない』と言ってまったく交渉は進まなかった。


 その遠呂知様は俺が殺しちゃったんだけど………。ハイドルからその知らせは入っていないのか、あるいはハイドルからの情報はあっても握りつぶされているのか、何にしろドラゴニアの意思は固かった。


 中央大陸は主に二つの勢力に分かれている。一つは東部方面を勢力圏とするロベリアとそのロベリアに服従する国家群。もう一つが西部にある、ロベリアには西部部族連合と呼ばれているゾフィーの故郷を始めとする勢力の集まりだ。


 ロベリアは俺が昔子供の時に追い掛け回された地域だな。お母さんの岩があるのは西部地域だ。まぁ過去のことを恨んでるってわけじゃないから別にそれはいいとして…。


 西部部族連合と呼ばれる方にはゾフィーを介して協力要請が問題なく行き渡った。ゾフィーの集落はその勢力の中でも相当強い発言権を持っていたようで誰も反対する者すらいなかったらしい。


 ロベリアについては俺達は交渉しようにも顔も知れていない。だからロベリアとの交渉は建国して国家としての体を成してからにしようと決まった。


 北大陸はヴァーラント国というのが出来つつある。とは言ってもヴァーラント国の勢力は北大陸の西の一部だけだ。勢力圏の東端がウィッチ種の集落、アンの故郷ということになる。


 そのアンの故郷を介してヴァーラント国へも協力要請を行いこちらの交渉はすんなり進んだ。ヴァーラント国は今東へ勢力を伸ばしている最中で北大陸を統一するのに俺達との協力関係が利用出来ると考えたみたい。


 アンの故郷であるウィッチの里も尖兵としてかなり駆り出されているようでそれは少し不安だとアンも心配していた。


 ともかく北大陸の西部はヴァーラント国との協力があるので問題はない。問題があるとすれば東部地域になるけどこちらも俺がその辺りを支配していた国津神達を従えて派遣しているのですぐに纏まるだろう。


 そして西大陸………。西大陸は唯一何の成果も挙げられなかった地域だ。もちろん西大陸の国津神達はもう従えてある。親しくなった集落もあった。でも結局うまく纏めることが出来なかった。


 その失敗の大きな要因は西大陸で協力要請をするにあたって大きな力になってくれるだろうと思っていたイフリルに協力を取り付けることが出来なかったからだろう。


 オオトシを何度も派遣して協力要請を行おうとしたんだけどどうやらうまくいかなかったらしい。


 でもそのことについてオオトシもイフリルも責めることは出来ない。お互いにそれぞれ事情というものがある。


 当時イフリル達火の精霊は西大陸で纏まって勢力を拡大していた獣人族連合との戦争真っ最中だった。どうやらイフリルが俺達の旅から急に別れたのはそういう理由があったからみたいだ。


 その戦争への協力も申し出たんだけど断られてしまった。まぁ断るのもわかる。自存自衛の戦いだったんだ。


 確かに俺達が協力すれば火の精霊はもっと楽に勝てたかもしれない。でもそれじゃ自力で勝ち生き残ったとは言えないかもしれない。種や族としてこれから纏まり発展するためには自分達の力で勝ったということの意味は大きい。


 だから多少苦戦しようとも被害が出ようとも俺達の協力を断って自力で勝利したのだろう。そのことについて部外者である俺が何か言うことはない。


 ただ心残りがあるとすれば獣人族連合との戦争が終わった今でも火の精霊達との協力体制作りが始まっていないということだろうか。


 押し売りでも何でもいいから無理やりにでも戦争に介入していればまた違った結末があったかもしれない。ただしそれは彼ら火の精霊の誇りも傷つけることだったかもしれないし、最悪の場合はそれが原因で袂を分かつことになっていたかもしれない。


 結局のところ何が正解でどうすればよかったのかなんてわからない。こうしておけばよかったなんて考えるだけ無意味だな…。だから今後どうすれば火の精霊達との協力関係を結べるかを考えよう。まぁ今の所何の案もないんだけど………。


 そしてこうやって各大陸での協力体制やこちらの建国準備を進めている間に大勢の国津神達が集まっていた。


 旅をしていた時に出会った各地の支配者であった国津神達はそれほど多くなかった。でもそれは表立って支配者になっていた者が少なかっただけで国津神の人口が少なかったわけではないらしい。


 俺達が国津神達の国を建てると知って世界各地から続々と集まった者達によって根之堅州国の人口は爆発的に増えた。その結果各大陸、世界各地に拠点を築くこととなった。


 まず最低限各大陸に一つ以上は中心となる拠点を建設すること。余裕があれば戦闘用の砦と国民が暮らすための普通の町で分けて建設出来るのならそうすることにした。


 出来れば争いたくはないけど備えは必要だからね。町にも一応ある程度の防衛機能はあるようにすることになってるけど、普通の一般国民が住んでる町中を戦場にするわけにはいかない。


 だから要所要所には砦なんかを建設してなるべくそういう場所での戦闘になるようにしている。だから立地条件なども難しく建設場所の選定なんかもかなり大変だった。


 基本的には各大陸の協力相手の勢力圏内や近くになってるけど西大陸みたいに何も協力体制が出来ていない所もあるからね。


 ともかくこうして建国するにあたっての箱というかガワというか、体裁的なものの準備は着々と進んでいった。


 幹部が集まっての会議で拠点や砦はそれなりに見栄え良く作ろうと決定した。俺は別に外観なんてどうでもいいんじゃないかと思ったんだけど、幹部達が言うにはあまりにみすぼらしいと相手に舐められるらしい。


 舐められるって言ってもちょっと侮られるくらいならそう問題でもないんだけど、完全にこっちを舐め切って相手が高圧的になりすぎたらまともに交渉も出来なくなると言われては俺も拒否することは出来なかった。


 俺の理想としてはなるべく穏便に世界統一を果たしたい。だから城の外観や装飾程度で交渉が楽になるのならそういう部分でケチる必要はないと思ったからだ。


 そもそもほとんど自分達で作ってるから費用の問題とかも特にない。国津神の職人達が建ててくれた砦は立派なものだった。規模が小さいから侮られるかもしれない、もっと大きくしよう、なんていう幹部もいたけど俺はそうは思わない。とても素晴らしい出来だ。


 ただ規模が小さい分手の込んだものにしようという意見はすぐに通った。そのお陰で傷つけたらもったいないくらいに美しい砦だ。砦の通路にも国民達の彫刻や絵画といった作品が並べられている。俺はあまり芸術には詳しくないけど良い出来だと思う。


 玉座と俺の天叢雲剣を置くための専用の台座だけはやりすぎだと思うけど……。


 何故か玉座と剣の台座は全てヒヒイロカネで出来ている。加工の大部分を負担したのは俺だけど細かい細工は俺には出来ないから神力を流して加工しやすいようにして職人に加工してもらうのを何度も繰り返した。


 そもそもこのヒヒイロカネはどこから出て来たのか?それは根之堅州国の国民からの献上品らしい。国津神達もそれなりにヒヒイロカネなどを持っている。それらを根之堅州国の国民として合流した際に国王、つまり俺に献上したいと持ってきたそうだ。


 そんな大事なものをたかが玉座みたいなただの椅子にこんなに使って良いのかと思わなくもない。でもこれも幹部達が言うには必要なことらしい。


 城や砦の件と同じであまりにみすぼらしいと王が、国そのものが侮られる。そうなれば相手はどんどんこちらへの要求をましてくる。だからこういう部分ではちょっと贅沢なくらいに見栄を張る必要があると言われたら俺には何も言えない。


 それにいざとなればヒヒイロカネが足りなくなればこの玉座を解体すればいい。町中に銅像を建てるのは何も芸術のためでも景観のためでもない。あれは戦時には鋳潰して利用するために蓄えている戦略物資だ。だからこの玉座もそういうものだと思えばいい。


 ついでに言えばこの玉座を解体しなくとも国民達からの献上品でヒヒイロカネはかなりの在庫があるそうなので当分不足するようなことはないらしい。皆どんだけ献上してんだよ……。俺としては自分達のために使って欲しいと願う。俺に献上したって幹部に言われなければ何もわかってない俺じゃ使いこなせないだろうからな。


 まっ、城や砦や拠点の建設も、美術品や芸術品も、装飾も貴金属や宝石も、全部根之堅州国が自力で賄っているものだ。それもここにあるのは大した量や質じゃない。


 交渉相手国をビビらせるくらいとことん華美にするのならもっとやりようはあるけど、そこまで行くと今度は国力を見せることになるからある程度は隠しておけと幹部達は言う。そういうのは俺にはよくわからないから丸投げだ。


 砦なんかは戦争で使うものだから最悪全部潰れてもいい程度にしか置いてない。そりゃそうだよな。戦争になったら美術品も芸術品も関係ない。ただ破壊されてしまうだけだ。あまりに良い物を置いていたら壊されたらもったいない。だからさすがにこういう砦に置いてるのは壊されても良い程度のものだ。


 とにかくこうして準備も完了間近となった。そして俺達は全世界に向けて建国を宣言。まだ協力体制を築いていない全ての集まりに対して今後の協力を呼びかけた。


 そしていつの間にか俺達は海を越えてやってくる民、海人種と呼ばれていた。そりゃ世界各地に拠点や砦があって空間転移で海を越えて移動してるからね。


 別に海を渡る民ってわけじゃないんだけど、周囲がそう呼んでるうちにもう定着してしまってどうにもしようがない。元々国津神という括りしかなかったからこれからは俺達国津神は海人種ということでいいだろう。


 それから俺はタケハヤスサと名乗ることになった。タケハヤスサノオなんだけど、旅の間はスサノオと呼ばれていた。建国して国王になるのならタケハヤスサと呼びましょうということになった。何でかは知らない。


 そもそもタケハヤスサノオと呼ばれないのは何でだろう…。タケハヤスサノオは高天原にいた時の名前だからかな?まぁいいか……。


 建国すればすぐに賛同してくれるんじゃないかと期待していたイフリル達火の精霊からは何の応答もない。建国がなれば態度が軟化するかと思っていたドラゴニアも何の反応も示さなかった。唯一動きがあったのがロベリアだけだ。


 ロベリアからは先遣使節団というのがやってきた。俺はあまりこういうのが得意じゃないし、またタケちゃんにいきなり襲われた時みたいなことがあってはいけないからほとんどの場合お面を被って過ごしている。もちろんお面なしでも力を使える特訓はしてるんだけど……。成果はいまいちだ。


 それで最初のお面は何か怖く見えるから新しく作ったほんのり笑顔っぽく見えるお面で先遣使節団達と引見した。


 でも何だかこの先遣使節団って人達は態度がでかいし色々変な要求をしてくるしでどうしていいか困った。


 さすがに引見の最中に堂々と幹部達に相談するのは難しい。確かに国の体制や王によっては何をするにも大臣とかと相談して決めるという国や王もいる。


 だけど引見の最中にまでコソコソと後ろに控える大臣達と相談してたらその王の資質を疑われるだろう。俺だってそんな王だったら何か情けないなと思う。


 だから引見の最中に幹部達の意見は聞けない。ようやくロベリアと交渉が出来るようになったわけだし丁重におもてなしするようにしたんだけど、引見が終わった後にかなり幹部達に怒られた。


 まぁ俺が怒られたのもあるんだけど、俺よりも先遣使節団に怒っていたのが大部分かな。確かに結構失礼な態度だったからね。もし俺のお父さんがあんなふざけた態度の者達と引見したら絶対即死刑にしてたよね。


 それで幹部達は返礼としてこちらも先遣使節団の帰りの案内も兼ねて使者を出すべきって言っていた。そこで選ばれたのがヤタガラスなんだけど……、どえらいことをしでかしてくれた。


 ロベリアに先遣使節団の帰りの供と俺からの返礼の使者を兼ねて出て行ったヤタガラスはロベリアの王都のすぐ隣に大穴を開けてきたらしい。それって脅しじゃねぇの?そんなことしたらすぐさまロベリアと戦争になってもおかしくない。


 どこの馬鹿が使者として出向いて相手に喧嘩売ってくるっていうんだよ………。何故か幹部達は『よくやった。』とか『計画通り。』とか『腰を抜かしたクズどもを目の前で見たかった。』みたいなことを言ってたけど全然よくやってないだろ!


 俺はヤタガラスがしでかしたことに頭を抱えそうになったけど頭を抱えてる暇もなかった。他の案件をしている間にすぐにロベリアから新たな使節団がやってきたからだ。


 こっちはまだヤタガラスがしでかした件についてどうすればいいか何も考えが纏まっていない。幹部達は俺に前のお面を被って座ってれば大丈夫とか言ってたけど本当か?そもそもあのお面何か見方によっては怖い顔にも見えるのに失礼じゃないのかな?


 とにかく俺は言われるがままに前の怖いお面を被って玉座に座って使節団を待った………。


 やってきた使節は前の先遣使節団とは違う。外務卿と外交部の精鋭達らしい。こりゃますますやばい。ロベリアは本気で怒ってそうだ。


 そりゃそうだよなぁ…。いきなり王都の隣に大穴を開けられたら『喧嘩売ってんのか!』ってなるよな。俺だってロベリアと戦争になっても負けるとは思っていない。別に負けるかもしれないから弱腰になってるってわけじゃない。


 ただ出来るだけ争いは避けたい。それに相手の怒りは尤もだ。使者と名乗った者がいきなり脅しみたいな真似をすれば相手だって怒るだろう。そんなの当たり前の話だ。


 俺の国の理念は対等で公平だ。戦争になれば勝てるからって俺達が好き勝手していいってわけじゃない。


 そこから外務卿との交渉の開始だ。俺はこういうのは苦手なんだけど………。外務卿フランク=ド=ギレムがくれたお土産……。これは高天原のそこらにいる妖精がそこらの鉱物に簡単な能力を付与したものだ。


 これ自体そもそも珍しいものじゃない。その上この石にかけられている力は……、幻覚作用。この石を使った者が見たい幻覚をほんの僅かな間だけ見せてくれる。


 例えば家族を失った者がこれを使えば失った家族との楽しかった頃の幻を見ることが出来るだろう。でもそれは所詮幻覚でしかない。むしろこれは使った者に幻覚中毒を起こし堕落させるものだ。


 まぁどちらにしろそんなに大したことがない妖精が作ったおもちゃみたいなものだし俺達には効果ないだろうけどね。


 でも……、こんなものを贈ってくるなんて……。相当怒っているのか?あるいはこれで俺を堕落させようと?


 そうだとしたらふざけた話だ。もちろんヤタガラスがしでかしたことに関してはこちらに非がある。その点については詫びはするし責任も取ろう。


 でも仮にも一国の王に対してその王を堕落させ意のままに操ろうとするような物を贈りつけるというのは見過ごせない。


 俺なら確かにこんなものは効果はない。でも普通の人間の王ならこれで幻覚中毒にされたり、あるいは操られたり、骨抜きにされたりするかもしれない。


 ロベリアとは国家ぐるみでそのようなことをするような国なのか?だとすればあまり感心できないな。


タケハヤスサ「ふざけているのか?」


 俺は自分でも驚くほど低い声が出た。俺もちょっと怒っていたのかもしれない。


フランク「ひっ!けっ、決してそのようなことは………。」


 外務卿も顔を青褪めさせる。でもそれは俺の怒りに対して恐れたからだろうか?それとも自分達の悪事が俺にばれたからだろうか?もし俺にこの石で幻覚中毒にする計画がばれたことへの恐れなのだとすれば、外務卿という地位にいる者が知っているということは国家ぐるみでの計略ということになる。それは黙って見過ごせない問題だ。


 だから俺は二つの問題を一度に解決する妙案を思いついた。それはタケミカヅチを送ることだ。まずタケミカヅチにヤタガラスが開けた穴を埋めさせる。


 穴を埋めたからってヤタガラスがしでかしたことがなくなるわけじゃないけど後始末をするのはこちらの責任だろう。


 それからタケミカヅチをロベリアに入らせてロベリアという国がどういう国か調べてきてもらおう。もし他国の王に贈り物と言って幻覚中毒を起こすようなものを贈りつけているのだとすれば何か対処しなければならない。


 ヤタガラスがやらかしたことへの後始末とロベリアの調査。これで一石二鳥だ。問題はロベリアがこの提案を蹴ったら全ては無駄になることだったけどすんなり受け入れてくれた。


 それはやっぱりヤタガラスが開けた穴なんだから俺達に何とかしろっていうことかもしれないな。ロベリアだって埋めるくらい簡単だろうけどそれで人手を割けば余計な損失だ。人手も費用も無限じゃないからな。


 国津神なら一人いれば一日で終わるだろうから、作業用の人夫一人とタケミカヅチが行けば済むだろう。後はタケミカヅチがロベリアという国について調査するのに何人か補助する者がつけば十分だと思ってた。なのに……。


 あるぇ?何か知らないけどタケミカヅチは大々的に軍を率いて出て行っちゃったぞ?何で?数名もいれば足りるんじゃない?


 それから幹部達に『タケハヤスサ様GJ!』って言われた。GJって何?どういう意味?


 もう意味わかんね……。やっぱり俺に政治は無理だ。政治のことは幹部達に任せて俺は軍政でも担当した方がまだマシだろう。まぁ軍政は軍政でタケちゃんの方が専門だし俺のすることもないんだけど………。


 はぁ疲れた。ほんと気苦労ばっかりで疲れる。これならまだ戦闘で体を動かしてる方がずっと楽だ。政務の間はタケちゃんのこともタケミカヅチ!とか呼ばないといけないし…。威厳を出すために俺じゃなくて余って言わないといけないし……。


 とりあえず中央大陸とロベリアのことはもうこれでいいだろう。後はタケちゃんの報告を聞いてから判断すればいい。


 ちゅうわけで…、俺は脱走することにした。もう疲れた!半年も休みなしでこんな気疲ればっかりするような政務ばっかりもう嫌だ!


 一番強敵のタケちゃんが離れた隙を見計らって俺は無駄に鍛えられた気配隠蔽能力を駆使して砦から脱出したのだった。



  =======



 はいっ!というわけでやってまいりました西大陸。何で西大陸なのか?もちろん理由もありますとも。それは西大陸だけまだ協力を取り付けた地元勢力がいないことだ。


 本来ならイフリル達火の精霊をあてにしてたけどそれはうまくいってない。だから西大陸では根之堅州国は単独で行動している。


 そ・こ・で!俺がイフリルに協力を取り付ければそれは立派な政務だ。


 ただ黙って脱走しただけなら後で絶対怒られる。でも何も話が進んでいない西大陸の案件を俺が片付けたらどうだ?砦から脱走した正当な理由になると思わないかね?


 というわけでイフリルと協力を取り付けるという名目のもと西大陸へと遊びにやってきたというわけです!


 でも最初にいきなりイフリルの所へ出向いたら本当に仕事の話だけになってしまいかねない。さらに言えばイフリルから根之堅州国へ使者を出されてしまったら俺がここにいるのがすぐにバレてしまう。だからまずは休暇を堪能しよう。それからでもイフリルのところに行けばいいだろう。


 そう思ってフラフラとあてもなく森の中を歩いていると………。できる……。滅茶苦茶気配を隠すのがうまい奴がこっちに近づいてきてる。この隠密っぷりは相当な実力者とみた。


 そいつは気配を隠しながら俺に近寄ってきてる。それも偶々じゃない。俺が動いた方へ方向を修正していることから確実に俺を捉えている。


 この距離で今の気配を隠してる俺を見つけるなんて相当だ。幹部達がいないからちょっと気配隠蔽も雑になってたけどそこらの国津神にも見つからないくらいには隠してた。それを見つけて近寄ってくるなんてどう考えても只者じゃないよな。


 そして俺がほんの少しこいつへの警戒を出してしまったことに向こうも気付いた。本当に何者だ?ほとんどわからないほどほんの僅かに俺がこの相手への警戒を出してしまった。それはつまり俺も向こうに気付いているということを向こうも察したということだ。


 俺が向こうに気付いていると向こうも知ったことで、向こうはさらに警戒を上げた。う~ん……。本格的にやばいかもしれない。


 今日は当然ながらお面を持ってない。まだお面なしで本気は出せない。こんな状況でこれほどの相手と戦うことになったら負けるかもしれない。それに戦いになれば絶対幹部達に気づかれる。そうなれば即座に俺が抜け出してここにいることがバレて連れ戻されるだろう。


 あ~ぁ…。参ったね。折角抜け出してきたのに強敵と戦いになりそうだし、休暇は満喫出来てないし、次からは同じ手は使えないだろう。一度脱走すればそれ以降同じ手では脱走出来ない覚悟はあった。それがこんな形で脱走一回目を終えてしまうなんて……。せめてもっと満喫したかった。


 まぁ言っても仕方ないね。ここでこの相手を見過ごすことも出来ない。イフリル達の集落からそれほど離れていないしこの相手がイフリル達の敵になったら大変だ。ここで何とかするしかない。


 覚悟を決めた俺はこちらから打って出ることにした。一気に相手の気配に駆け寄る。そして藪から飛び出し相手の前に降り立った。


???「―ッ!!!」


 俺の予想外の行動に相手はまだ対応出来ていなかった。急に目の前に降り立った俺を見て息を飲むその相手は………。黒髪に金の耳と瞳…、九本の尻尾がある……。


タケハヤスサ「………ダキちゃん?」


ダキ「え?……スサノオ様?」


 そこに居たのはダキちゃんだった。


 ………ダキちゃんだ。やった!ダキちゃんだ!


タケハヤスサ「うわぁ~い!ダキちゃんだ!ダキちゃん!ダキちゃん!」


ダキ「え?あっ!ちょっ!スサノオ様?!」


 俺はうれしさのあまりダキちゃんを抱き締めていた。別に洒落じゃないぞ。はぁ、良い匂い。柔らかい。もう離したくない。


ダキ「あの…、スサノオ様…。このような場所で…、恥ずかしいです。」


 俺の腕の中で真っ赤になって俯いてるダキちゃん。あぁ可愛い!このまま連れ去ってしまいたい!いっそ駆け落ちでもするか?


 いやいや…。いくら何でもそれは駄目だな。根之堅州国は俺達の夢だ。それを放り出して行くわけにはいかない。


 そう言いながら脱走してるじゃないかって?それとこれとは違う。これは自主休暇だ。全てを投げ捨てて逃げ出すこととは違う。


タケハヤスサ「どうしてダキちゃんがこんなところに?」


 ここは少し前まで戦争真っ只中だった地域だ。何でまたダキちゃんがこんな場所にいたんだ?ダキちゃんが巻き込まれたらどうするんだ!まったく…。誰だ!こんな所で戦争なんてしやがって!


ダキ「はい…。この近くにお友達の集落がありまして…。この辺りは少し前まで戦争真っ只中でしたので心配で……。」


 あぁ~、ダキちゃん。何てええ娘なんや。自分の身の危険も顧みず戦争真っ只中な場所で友達を案じるなんて……。


タケハヤスサ「そっか……。それは大変だったね。」


ダキ「いえ…、私にとってはそれほどの危険もありませんでしたので。」


 確かにダキちゃんやイナリって娘は葦原中国ではかなりの力を持ってる方だとは思う。ダキちゃんの本気は知らないけどね。これだけ気配隠蔽や気配察知に優れてるってことは戦闘能力もかなり高いだろうというのはわかる。


 でも…、それでも友達のために戦地まで出向くなんて大変なことだ。どんなに強くとも一発の流れ弾で突然死ぬ可能性だってある。それなのにこんなことが出来るダキちゃんはやっぱり優しくて良い娘だ。


タケハヤスサ「俺さ、あまり時間がないかもしれないけど一応今休暇中でね。よかったら俺と逢引きしない?」


ダキ「えっ!それは……。」


 ダキちゃんが答えを渋っているようだ。あれれ?この会ってない数年の間に嫌われちゃったかな……?


タケハヤスサ「俺のこと嫌いになっちゃった?」


ダキ「そんなわけありません!そうではなくて……、獣人族連合が瓦解したとは言えこの辺りはまだ戦火が燻っているんです。私とスサノオ様は平気とは思いますが私が離れている間にお友達の集落に何かあったらと思うと……。」


 なるほど。確かに俺達にとっては平気だけど折角ダキちゃんが守ってた集落が、俺と逢引きして離れてる間に何かあれば全て台無しだもんね。


タケハヤスサ「でもダキちゃんが全てを犠牲にしてそこまでしなければならないの?それにイナリって娘もいるんでしょ?戦火も下火になってるしそんな大変なことは起こらないと思うけど?」


ダキ「それは……、普通の相手ならば…、そうでしょうね。ただ…、国津神の方もこの辺りをうろついてるので……。」


 あぁ…、オオトシかな?イフリルの集落と交渉するために何度もこの辺りを訪れているはずだ。オオトシが何かするようなことはあり得ないけど普通の現地民達からすれば国津神がうろついてるというだけでも恐怖の対象かもしれないな。


タケハヤスサ「それなら大丈夫だよ。俺が保障する。」


ダキ「スサノオ様が……。くすっ。何故だかスサノオ様にそう言われると本当に大丈夫な気がしてきますね。わかりました。いつも国津神の方が来られる方面周辺でよければ…、あの…、あっ、逢引き…、しましょう。」


 逢引きって言うだけでダキちゃんは何度も詰まって真っ赤になっていた。可愛すぎ!


 万が一オオトシが来たらと思って対応出来る方面で備えながらっていうところも中々冷静だね。どうせ今はオオトシに急いで交渉するようにとは言ってないからこっちへ来ることはないけど、ダキちゃんがそれで安心するならそれでいいだろう。


タケハヤスサ「それじゃ逢引きしよう!さぁ!あまり時間がないかもしれないからね!」


 俺はダキちゃんの手を握って歩き始めた。


ダキ「…はいっ!」


 少し戸惑ったダキちゃんもすぐにはにかんだ笑顔で応えて手を握り返してくれた。



 はい。というわけで外伝2が書き上がりましたが…。ちょっと早いですが反省会などを…。


 まずいつも感想をくださる方が決まっているので感想が少ないのはいつものこととして…。各種数字から考えると恐らく外伝2は不評であろうということです……。その原因を少し自分なりに考えてみます。


 その1 どうでもいいサブキャラばっかりである。


 これは自分が他の作者様の作品を読んでても思うことですが、○○という作品のAというキャラが無双する話を読みに来てるのにまったくAが活躍しない!となると結構評価が厳しいんじゃないかと思います。


 ええ、これは自分が思うことなんで世間一般ではどうかわかりませんけどね?でも転生無双はアキラ君が無双する話なのにアキラ君は時系列上やむを得ないとは言え出ないし無双もない。それは果たしてこの作品を読んでくださっている方が望む展開なのかと…。


 で、その2 さらにそのサブキャラばっかの話がやたら長い。


 これも致命的じゃないだろうかと…。本編で数話主人公が出ずにサイドストーリーみたいなことが繰り返されても辟易するのに、それが三十五話もあれば嫌にもなるのでは?と。


 自分が他の作品を読んでそう思ってたのに自分の作品で同じことをやらかしたのではないかと…。ちょっと反省です。

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