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転生無双  作者: 平朝臣
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第十八話「魔法の訓練」


 マンモンを連れていくことになったが死なれては元も子もない。


アキラ「おいマンモン。自力で回復できないのか?」


マンモン「ガウの攻撃で魔力を根こそぎ吹き飛ばされた。暫くはどうにもできない。」


 マンモンが素直に負けを認めたのは敵わないと悟ったからではない。全ての能力を人間並に制限していたとはいえガウが妖力を纏って攻撃したのでマンモンの魔力まで切り裂き吹き飛ばしてしまったのだ。姿を現したくて現れたのではなく魔力がなくなり姿を消すこともできず戦う力も全て失ったからに他ならない。


 それでも今の制限の中で一切手加減せず殺す気で放ったガウの攻撃をあれだけ食らって生きていることがマンモンの強さを物語っている。


マンモン「死ぬことはないがこのままでは動けない。魔力が回復するまで待ってもらいたい。」


 『死ぬことはない』か。大したものだ。俺はマンモンの元まで歩いていき旅用袋に手を突っ込む。


アキラ「お前を待つほど暇じゃない。これを飲め。」


 袋から出す振りをしてボックスから神水を取り出し渡す。


マンモン「これはっ!あり得ない!なんだこの濃度の神水は!」


アキラ「いいからさっさと飲め。こっちも暇じゃないと言ってるだろう。」


 マジマジと眺めているので強引に口に突っ込んで飲ませる。治癒の術では肉体的ダメージは回復できるが魔力を回復させることはできない。


マンモン「この程度の傷や消耗でこれほどの神水を使うことはないだろう。」


アキラ「うるさい奴だな。俺達の持ち物をどう使おうと俺達の勝手だろう?お前がぐずぐずしてたら俺達の旅が遅れるんだ。」


マンモン「傷も魔力も全快だ。お前達の足手まといになることはないだろう。」


アキラ「名乗ってなかったな。俺はアキラだ。」


狐神「私はキツネと呼んどくれ。」


ミコ「えっと、ミコ=ヤマトです。」


ガウ「がうなの。」


マンモン「大ヴァーラント魔帝国…」


アキラ「お前の名乗りはもういい。さっき聞いた。さっさと行くぞ。」


マンモン「…。いくつか聞きたいことがある。さっきの戦い…。ガウは本気じゃないと言ったな?俺には完全に本気だったように感じた。はったりではないのか?」


アキラ「やれやれ…。面倒な奴だな。ガウ、俺と同じまで緩めていいぞ。」


ガウ「がうがう。」


 急にガウの存在感が強くなる。俺と同じまでと言ったが俺はこれほど力を放出しているんだろうか?


アキラ「師匠…。俺ってこんなに緩めてますか?」


狐神「う~ん…。ガウの方が少し強いね。ガウはまだまだ制御が甘いよ。」


マンモン「な…んだ、これは…。こんな馬鹿な…。これではまるで…。」


 マンモンがだらだらと汗を流している。マンモンにはガウの強さがわかるようだ。弱い者はこれを見ても相手の強さに気づかない。ヴァーターが良い例だが俺は単に馬鹿だからというわけではないのではないかと推測している。何十tもの加重を加えたら人間は耐え切れずに潰れて死ぬ。それと同じようにあまりに相手の力が強すぎる場合にそれをまともに感じてしまったら弱い者は死んでしまうのではないだろうか。だから無意識のうちに相手の強さを感じ取る機能が遮断されてしまう。もしこの推測が正しいとすればそれでもこの強さを感じられているマンモンはやはり相当強いということだろう。


アキラ「これでもう一戦してみるか?最もこのままやれば一撃でお前は死ぬがな。ガウもういいぞ。」


ガウ「がう。」


 ガウは力を抑えると戦いで外れた外套を拾いに行った。


マンモン「なんなのだ貴様らは。一体何者だ。何が目的なのだ。」


アキラ「一度にいくつも質問するな。」


ガウ「がうぅ!穴がいっぱいなの!」


 ガウが拾い上げた外套には穴が開いていた。咄嗟に外套まで守るほどの余裕はなかったのだろう。下に着ていたワンピースとかぼちゃパンツは無事だ。


アキラ「新しいのをやるから…。それとやっぱり俺達と同じレベルまで制限を緩めておけ。また同じような襲撃があったら面倒だ。」


 ガウならば例え直撃していても死ぬことはないが中央大陸と同じだと思っていれば余計なダメージを食らいかねない。ミコのカバーをしなければならない分ガウの制限を緩めておいた方がいいだろう。なによりここでは人間族の振りをしなければならない理由はない。


ガウ「がうがう!お気に入りだったの。マンモンにも同じ穴を開けてやるの!」


 長らく着ていたので愛着があったのかもしれない。さよならマンモン。君の勇姿は忘れない。


マンモン「ガウが勝ったのだ。やりたければいつでもやるがいい。あれほどの力を見せられては抵抗するだけ無意味だ。俺ではガウには勝てない。」


アキラ「やけに素直だな。だがマンモンを殺されたらわざわざ生かしておいた意味がない。新しいのをやるからこれで許してやれ。あとは進みながら話をするぞ。」


 マンモンも回復したので俺達は旅を続ける。



  =======



マンモン「貴様らは何者だ?」


アキラ「俺はアキラだと言ったはずだ。」


マンモン「名前を聞いているわけではない。」


アキラ「じゃあお前は何者だ?」


マンモン「俺は大ヴァーラント魔帝国六将軍の一人マンモン=アワリティアだ。」


アキラ「お前も結局所属と名前を言ってるだけじゃないか。」


マンモン「むっ…。では貴様らの所属はどこだ?」


アキラ「俺達は別にどこにも属していない。」


マンモン「馬鹿な!これほどの者達が何の野心もなくどこにも属さずただいるだけだと言うのか。」


アキラ「逆だろう…。俺から言わせれば世界征服だろうと世界の破滅だろうと簡単だ。簡単すぎてつまらないからそんなことには興味が沸かない。」


マンモン「………。では貴様らの目的はなんだ?」


アキラ「俺は自分の記憶を探している。昔自分が通った旅路を通るとその景色が思い出される。それを思い出したからと言って全ての記憶が戻るとは限らないが今は他に方法がない。」


マンモン「それこそありえない。ここ数百年もの間北大陸に上陸して生きて帰った者などいない。」


アキラ「お前達も知らない間に通って帰ったかそれより前かどちらかなんだろう。」


マンモン「………。なぜ記憶を取り戻したい?」


アキラ「お前は自分の記憶がなく、それを取り戻せるかもしれない方法があっても試さないのか?」


マンモン「俺にとって大事なのは今だ。過去の記憶などなくとも構わない。」


アキラ「それはお前が記憶を失っていなくて今が大事だと思えることがあるからだな。例えばお前は国に忠誠を誓っているのかもしれないが記憶がなくなればその忠誠も忘れている。『今大事なこと』すら記憶を失くせばわからなくなっているということが理解できているか?」


マンモン「俺は例え記憶を失おうとも皇帝陛下に忠誠を誓っている。」


アキラ「そんな精神論は聞いてないんだよ。記憶を失うということは誰に忠誠を誓っていたか、なぜ忠誠を誓っていたかすらわからなくなるということだ。」


マンモン「むっ……。だから記憶を取り戻したいと?」


アキラ「そうだ。でなければ何も下手なことはできない。今俺が大事だと思う者が記憶を失くす前の俺には殺したい相手だったかもしれない。今俺が殺したい相手が記憶を失くす前に大事だった者かもしれない。記憶がないとはそういうことだ。何か取り返しのつかないことをしてしまう前に取り戻したいと思うのは当たり前だろう?」


マンモン「………。では記憶を取り戻したらどうする?」


アキラ「それこそ記憶に聞いてくれ。何かしたかったのかもしれないし何の目的もなかったかもしれない。取り戻してみなければわからない。」


マンモン「………。最後の質問だ。お前達は魔人族と敵対する意思はあるか?」


アキラ「こちらから何かする気はない。だが攻撃されれば殺す。」


マンモン「俺は生きているぞ。」


アキラ「お前は偶々運がよかっただけだ。最初に会った者でそれなりの地位があったからな。お前が国に働きかけて俺達に敵対しないように説得できれば無駄に争う必要はなくなる。」


マンモン「くっくっくっ。本当に魔人族を滅ぼせると思っているのだな。確かに貴様らは強いが上には上がいることを知った方がいい。」


アキラ「お前ら魔人族が俺の警告を聞かずに敵対することを選んだら俺の言葉がハッタリかどうかわかる。だが一つだけ忠告しておいてやる。俺は敵対する者には容赦しない。二度目はないからよく考えて選ぶことだ。」


マンモン「………。」


狐神「アキラ。魔獣がいるけどどうするんだい?」


アキラ「マンモンにやらせましょう。魔法を見てみたい。」


マンモン「いいだろう。マジックアロー!」


 何もないところから灰色の矢が現れ熊のような魔獣に向かって飛び出して一撃で絶命させた。これまで調べてきた知識や思い出した記憶によってこの魔法が何であるのか理解する。無属性の魔力を撃ち出すシンプルな魔法だ。無属性とは所謂虚無のような概念ではなく火や水のような属性を持たせていないただの魔力の塊という意味だ。ただしシンプルなだけに威力や付加する性能は術者自身の能力に寄って大きく変わる。俺達と戦った時にマンモンは最大十二本の矢を同時に出し高威力でありながら自動追尾の性能があった。あれほどの威力で数で高性能な追尾が付加されているのは並の術者ではできない。それはマンモンが相当魔法に精通していることを表している。


アキラ「次は俺がやりましょう。」


狐神「そうかい。それじゃ任せるよ。」


ガウ「がうがう。次が来たの。」


アキラ「マジックアロー。」


 能力を制限しているから大丈夫だろうと思って込めた魔力は多すぎたようだ。五十本の矢が現れ自動で飛んでいき矢が当たった所は威力が大きすぎて大爆発を起こしていた。魔獣は消し炭も残らず消し飛び辺りはクレーターだらけになった。何事も最初は基準値がわからず多すぎたり少なすぎたりするものだ。だから何度も同じような失敗をしているのは決して俺が学んでいないからではないと断言しておく。


マンモン「………。」


 マンモンは驚愕に目を見開き動かなくなった。


アキラ「これはミコでも使えそうだな。今度覚えるといい。おいマンモン。他の魔法も見せてみろ。」


ミコ「うん。アキラ君が教えてくれるなら頑張るね。」


マンモン「………。どういうことだ…。なぜ獣人族が魔法を使える?」


アキラ「俺は別に獣人族だと言った覚えはないぞ?」


マンモン「貴様何者だ?」


アキラ「また同じ質問に戻っているぞ。自分が何者であるかなど抽象的すぎて答えようがない。」


マンモン「…貴様の種族はなんだ?」


 さて…。ここはなんと答えるべきか…。嘘を付くのは容易い。魔人族の中にも見た目が獣人族に近い者達がいるからだ。だが嘘を付けば後々面倒になるかもしれない。


アキラ「俺達は妖怪族だ。」


マンモン「それでもおかしい。妖怪族が残っているのも驚きだがなぜ妖怪族が魔法を使える?」


アキラ「さぁな。それは俺も知りたい。記憶が戻ればそれもわかるかもしれない。」


 マンモンが信じるかどうかはわからないがこれは本当のことだ。俺は妖力、魔力、精霊力が使える。なぜだかはわからない。


マンモン「………。他の者も妖怪族で魔法が使えるのか?」


アキラ「ミコは人間だ。他の二人は使えない。」


マンモン「貴様だけ特別なのか?」


アキラ「特別かどうかは知らないが俺は使える。ただそれだけだ。」


マンモン「魔法を見せろと言ったな。魔法の秘技を盗むのが目的か?」


アキラ「魔力があるのに魔法が使えないのなら宝の持ち腐れだろう?記憶を探して折角北大陸まで来たのだから魔法もついでに覚えられたらいいとは思っている。」


マンモン「ついでか…。随分と軽くみられたものだ。そんな簡単に奪えるとでも思っているのか?」


アキラ「奪うとは失礼な言い方だな。教えてもらうだけだ。」


マンモン「物は言い様だな。それを奪うと言っているのだ。」


アキラ「魔力は俺自身の物だ。だが使い方がわからなかった。だから知っている者に聞けば早い。それだけのことだ。お前は生まれつきその魔法が使えたのか?」


マンモン「………。師に習った。」


アキラ「ほらみろ。じゃあお前は師から奪ったのか?」


マンモン「奪ってなどいない!」


アキラ「ならば俺と何が違う?」


マンモン「………。俺は教えるとは言っていない。師は俺に教えると言った。」


アキラ「そうか…。じゃあマンモン、俺に魔法を教えてくれ。」


マンモン「断る。」


アキラ「なるほど。ならこれから俺の前では魔法を使わないことだ。俺は一度見たら覚えてしまうからな。」


マンモン「ふざけるなっ!そんな馬鹿な話があるか。見てすぐ覚えられるほど魔法の秘技は軽いものではない。」


アキラ「今目の前で見たところだろう。お前がマジックアローを使ったから俺が使えるようになった。」


マンモン「………。」


アキラ「まぁいいさ。魔法はミコから習おう。」


ミコ「うん。一緒に練習しようねアキラ君。」


 それからマンモンは口を利かなくなった。俺は初歩的な魔法をミコから習いながら進んで行った。



  =======



ミコ「えっと…、これでどうかな?アキラ君。」


アキラ「もっとスムーズに…。」


 俺がミコから魔法を教えてもらっていたはずだがすでに俺がミコに教える側になっていた。だがミコから習った魔法は歪で無理やりなんとか発動させているような感じだった。


マンモン「くっくっくっ。」


 マンモンも児戯でも見ているかのように笑っている。


ミコ「アキラ君はすごいね。本当に一度見ただけで覚えちゃうんだもん。」


アキラ「確かにミコに教えてもらった魔法は一度で覚えたがこの魔法は何かおかしい。」


ミコ「え?どういうこと?私ちゃんと覚えてなかったのかな?」


アキラ「いや…。ミコのせいじゃない。恐らく人間族自体が魔法をきちんと把握できていないのが原因だろう。」


マンモン「………。」


アキラ「ミコ、よく見ておけ。これがミコから教わったファイヤーボールだ。」


 掌を前にかざし魔力を練る。火の球が現れ飛んで行き命中した場所で火球が弾けて炎を辺りに撒き散らした。


アキラ「そしてこれがマンモンが使っていたマジックアローだ。」


 目の前の空間に灰色の矢が一本現れ飛んでいく。


アキラ「わかったか?」


ミコ「え~っと…。ごめんなさい。わからなかったわ…。」


アキラ「マジックアローの方は魔力の流れも発動プロセスもスムーズでロスなく魔力が矢に変換されている。それに比べてファイヤーボールの方は歪な魔力の流れで発動プロセスも複雑で使った魔力に比べて火球に変換されている魔力が少ない。人間族が魔人族に魔法で遥かに劣るのはこれが原因だろう。」


 発動させるために練り上げなければならない魔力が多く複雑なプロセスが必要な分発動までにも時間がかかる。その上無駄にロスしている分使った魔力に比べて威力が劣る。まったく魔力量が互角でもその差の分だけ劣ることになるのに人間族は魔人族よりも遥かに魔力量でも劣る。これでは魔法で対決しても勝ち目はない。


アキラ「…。師匠、ガウ、暫く魔獣は任せてもいいですか?」


狐神「ああ、構わないよ。」


ガウ「がぅ…。」


 ガウはよっぽどあの外套が気に入っていたのか元気がない。ともかく周囲の警戒は二人に任せたので俺は魔法の改良を試みる。無駄な流れを廃しスムーズに魔力を魔法へと変換する。体内に魔力を循環させてイメージを作り上げる。魔法を使えなかった今までと違ってミコやマンモンから学んだ魔法があるので両者を比較していけばなんとかなるかもしれない。


アキラ「ファイヤーボール。」


 今度はスムーズな流れで魔力が火球へと変換されて飛んでいく。前よりはマシになったはずだ。さっき撃ったファイヤーボールと同じだけ、ほんの少しの魔力しか込めていなかったはずの火球はさっきとは違い対象にした岩に当たった後も破裂せず岩を包み込んで炎を上げて溶岩のように溶かしてしまった。


マンモン「馬鹿なっ!信じられん…。まさか自力で魔法の秘技に至ったというのか?」


ミコ「すごい…。」


アキラ「自力じゃない。ミコに教わった魔法をマンモンの魔法をお手本に改良しただけだ。前よりはマシになったがまだまだ改良の余地はあるはずだ。ミコも単に理屈で覚えるんじゃなくて魔力の流れを意識して見極められるようになれ。」


ミコ「うん。わかったわ。アキラ君が教えてくれているんだからちゃんと出来るようにならなくちゃね。」


 この後もミコに魔法を教えながら魔法の改良を行っていった。



  =======



 時間はかなり経っているが俺達はあまり進んでいなかった。原因は北大陸の環境のせいだ。熱風の吹き荒ぶ砂漠を歩いていたかと思うと一歩先から突然極寒の氷雪地帯に変わったりと気候が滅茶苦茶なのだ。俺達はそれでも平気なのだがミコには辛い環境だった。


 そこで俺は考える。なぜ俺達は大丈夫でミコには辛いのか。種族の違いだと言えばそれまでだが俺はその違いに気づいた。


アキラ「ミコ。体に魔力を循環させて纏ってみろ。」


ミコ「え?う、うん。こう…かな?」


アキラ「もっとスムーズに流れるように。全身に血が自然と流れているように魔力も流してみろ。」


ミコ「うぅっ。難しいけどやってみるね。」


アキラ「大分よくなった。無意識にでも常にそれが出来る様になるまで慣らしておけ。」


ミコ「頑張る!」


 これは修行にもなる。俺が師匠に最初に習ったことでもある。


アキラ「どうだ?少しは寒くなくなったか?」


ミコ「え?…そういえば。うん。かなり楽になったよ。」


 それからはペースが上がった。環境に対して楽になっただけではなく身体能力の補助機能もあるのでミコの移動ペースが上がったからだ。


マンモン「………。」


狐神「そろそろご飯にするかい?」


アキラ「そうですね。それじゃあそこでご飯にしましょう。」


 極寒地帯を抜けた俺達は熱帯雨林のようなジャングルの中で少し開けた場所に陣取った。毎度お馴染みのテーブルと椅子を出しそれぞれ座る。


マンモン「なんだこれは?どうなっている?」


アキラ「お前は知る必要はない。」


マンモン「………。」


 北回廊で海の幸がたくさん獲れたのでお刺身にしようと思う。俺達には毒は効かないだろうが念のため毒の確認と味見はしている。刺身に出来そうなものを見繕って出す。


ミコ「すごい包丁捌きだね。料理上手なんだ。」


アキラ「これはこっちに来てから出来るようになったことだ。向こうではそんなに得意じゃなかった。」


ミコ「そうなんだ。」


アキラ「ガウ。他に食べたい物があったら出してやるぞ。」


ガウ「それでいいの…。」


 まだ立ち直っていないのかガウはまだ元気がない。他にもご飯や煮物などを出していく。醤油のような物はあるがわさびがないのが残念だ。


アキラ・狐神・ミコ「「「いただきます。」」」


ガウ「がぅ…。」


マンモン「………。」


アキラ「ガウ。体調が悪いのか?」


ガウ「平気なの…。」


 どうすればガウが元気になるだろうか…。マンモンにも出してやったが手をつけずにじっと座っている。


アキラ「おいマンモン。それはお前の分の食事だ。残したら命を捧げて食料になったものに対して失礼だ。毒は入ってないからきちんと食えよ。お前の口に合うかは知らないがな。」


マンモン「むっ………。いただこう…。」


 マンモンとガウも食べ始めた。


ミコ「新鮮でおいしい。これは鯛に似てるね。こっちは鮪みたい。」


 俺はミコのその言葉で違和感を感じた。新鮮。確かにその通りだ。今まで例えば出来立ての物を入れても温かいまま保存されていた。新鮮な物を入れておけば新鮮なまま保存されていた。だがアジルのように中で生きている者もいる。ボックスの中の時間が停止されているわけではなさそうだ。ボックスはそういうものだと思っていたがこの違いはなんなのだろうか。この能力にはまだ俺の知らないことが隠されているのではないだろうか。


マンモン「………うまい。」


アキラ「そうか。それはよかった。魔人族の好みはわからないからな。」


 どんな名探偵でも情報がなければ謎は解けない。ボックスについて何も情報がない以上考えてもわかるはずもない。それ以上は考えるのをやめて食事を楽しむことにした。



  =======



 食事も終わりジャングルを抜けて荒野に出たところで今日は休むことにした。二つテントを張り二つの間で焚き火をする。マンモンが一人で一つのテントに入り残りの三人はもう一つで休んでいる。


 俺は俺の意識が覚醒する前からボックスに入っていた金属を取り出して焚き火の前で座っている。狐火の術やミコから習った火属性の魔法を使って熱しながら形を変えていく。色々な術を使っているのは火力が足りないからだ。この金属は熱に強くしなりも強い。能力制限しているとはいえかなり本気で術を使っているのにそれでも溶かすことなどできない。熱しながら少しずつ形を変えていくので精一杯だ。加工するのは大変だが徐々に加工していく。


 作業を続けているうちに神力を直接流し込みながら熱を加えると加工しやすいことに気がついた。それでも簡単ではないし大量の神力を消耗する上に俺は師匠ほど器用ではないので綺麗に加工するのは難しい。俺が黙々と作業を続けているといつの間にか全員が俺の作業を見学していた。


狐神「アキラ………、それ…もしかしてヒヒイロカネじゃないのかい…?」


マンモン「………。」


ミコ「綺麗…。」


ガウ「がうがう。」


アキラ「ヒヒイロカネ?さぁ…。わかりません。記憶を失くす前から持っていた物です。」


狐神「はぁ…。まぁアキラならもう何を持っていても驚かないけどね…。」


 俺はあまりこういう細工は器用ではないので見られながらはやりにくいがそんなことを言っていては終わらないので作業を続ける。そしてついに完成した。


狐神「これはなんだい?」


ガウ「がうぅ。」


 我ながら不細工で決して出来が良いとは言えないが素人の俺にこれ以上を求められても酷と言うものだ。何より俺ですら大量の神力を消耗したと実感している。普通の者ではまず加工すらできないだろう。


アキラ「これはですね…。ガウ、腕を出して。」


ガウ「がう?」


 何かはわかっていないが素直に出したガウの右腕に巻き付けて留める。


アキラ「こうやって…。これはブレスレットです。」


ガウ「がうがう。ご主人…これはがうのなの?」


アキラ「ああ。それは俺からガウへのプレゼントだ。不細工で良い出来じゃないけどよかったら付けておいてくれ。」


ガウ「がうぅ…。ご主人ありがとうなの!」


 ガウが満面の笑顔で飛びついてくる。ようやく元気になってくれたようだ。いつも元気なガウの元気がないとこちらまで調子が狂ってしまう。いつものガウに戻ってくれてよかった。


狐神「よかったねガウ。…アキラはガウに甘いね。」


ミコ「でもガウちゃんの元気がないのも心配でしたから…。さすがアキラ君だね。」


マンモン「………。」


ガウ「がうがうがう!」


 ガウは大はしゃぎで俺に抱きついたまま暴れている。ガウの元気も戻ってようやく心配事がなくなったので明日に備えて休むことにした。



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