外伝2「スサノオの冒険19」
スサノオ「はうあ!!」
………あれ?キョロキョロと周囲を見渡すけど見覚えのない景色だ。どこかの山小屋かな?
って、そうじゃない!やばい!またタケちゃんにボコボコにされる!
アン「あっ、お目覚めですかスサノオ様?」
スサノオ「あっ!アン!大変だよ!早く逃げないと!」
山小屋で寝かされていたらしい俺が上半身を起こすと丁度アンが山小屋に入ってきた。開けた扉の外の景色が森だから山小屋で合ってると思う。
でも今はそんなことはどうでもいい。それよりも早くタケちゃんから逃げないと。今度は何をされるかわからない。
アン「落ち着いてくださいスサノオ様。一体何から逃げると言われているのですか?」
アンがわからないという顔をしながら暢気に小屋に入って手に持っていた篭を机の上に置く。どうやら山菜を摘んできたようだ。
何から逃げるってそりゃ……、タケちゃんから……?あれ?でも何でタケちゃんから逃げるんだっけ?あれ?
俺は記憶を探ろうとして途中から記憶がないことに気付く。まずタケちゃんと山の中で再会して…、いきなりぶん殴られて…、その上何か雷の技を使われて…、そこから記憶がない。恐らく俺はその時気を失ったんだろう。
そう言えば傷もない。体に痛いところもないし手も足もどこを見ても火傷の痕一つなかった。あれほどの怪我だったのに…、誰か治してくれたのかな?
スサノオ「ところで誰が俺の怪我を治してくれたの?」
アン「はぁ?スサノオ様がご自身で治されたではないですか?……え?覚えておられないんですか?」
アンが何言ってるの?って顔で俺を見てくる。……え?俺が?自分で?
………駄目だ。まるで思い出せない。俺が覚えているのはタケちゃんの雷で打たれたところまで。そこからどうしてここで寝かされていたのか間の記憶はまったくない。
スサノオ「怪我はもういいや。それより早く逃げないと今度は皆がタケちゃんに何かされるかもしれないよ!」
アン「タケちゃんって…。スサノオ様が倒された国津神の方ですか?あの方でしたら大人しくされてますよ?」
んん?誰が誰を倒したって?俺がタケちゃんに倒されたんだよね?聞き間違いかな?それともアンが言い間違えたかな?
もう何が何やらさっぱりわからない。ただ一つわかることは俺は何の傷もなく無事に布団に包まって眠ってたってことだけだ。
スサノオ「………何が何やら。ちょっと外の空気を吸ってくるよ。」
アン「はい。私は夕飯の準備をしますね!」
ようやくいつもの元気な声でアンが応えてくれた。夕飯の準備をすると言ったアンを残して布団から出た俺は扉を開けてすぐさま閉めた………。
アン「どうされたんですか?」
スサノオ「………あれ何?全然大人しくなくない?」
アン「え?そうですか?いきなりスサノオ様に襲い掛かったことから考えれば大人しいと思いますけど?」
スサノオ「………。」
俺はもう一度無言でこっそり扉を開けて隙間から外の様子を窺う。
ミカボシ「あ゛あ゛?もういっぺん言ってみろや!」
タケミカヅチ「天津神を裏切った反逆者は失せろと言った。」
………あぁ。何この状況?いや…、意味はわかるよ?多分だけど…、タケちゃんが不順わぬ神であるミカボシに裏切り者がって詰め寄ったか何かしたんだろう。そして口論…、というか争い寸前になっていると。
それはわかるよ?だけどアンが言ったみたいに全然大人しくしてないじゃん!むしろ元気いっぱいに俺の仲間に絡んでるじゃん!
ミカボシ「てめぇこそ国津神を裏切って天津神にケツを振ってるクソヤロウだろうが!」
タケミカヅチ「我が家は裏切ってなどいない。仕えた主君に忠義を尽くしているだけだ。その仕えた相手が天津神であっただけにすぎない。」
ミカボシ「つまりてめぇは生まれや種族じゃなく生き様だって言ってんだろうが?それなのに俺は天津神に生まれたからって天津神に味方しなきゃならねぇってのか?てめぇの言ってることが矛盾してるだろうが!俺は俺の仕えたい者に仕える。俺は俺の助けたい者を助ける。それが国津神だったにすぎねぇ!てめぇと何が違うってんだ!」
おぉ!ミカボシ…。『俺ぁ馬鹿だからよ。』なんていつも言ってるけどちゃんと考えてるじゃないか。俺はミカボシの言ってることを支持するぞ。応援するだけで手伝いはしないけどな!タケちゃん怖いし!
タケミカヅチ「………そうか。それはすまなかった。俺が知る情報では不順わぬ神々は仲間を裏切り寝返ったと聞いていた。そもそも最初から所属していなかったのならば裏切りではない。最初から国津神についていたのなら寝返りではない。それは俺の知らぬことではあったが、知らぬのに批難したことは訂正しよう。」
……タケちゃんもさすが自分で自分を武人とか言っちゃうだけあってこういうことはきっちりしてるな。名誉とかそういうことを重んじるもんな。
ミカボシ「まぁそういうこったな。俺達は天津神に生まれはしたけど別に天津神に忠誠を誓って仕えてたわけじゃねぇ。だから俺達は俺達が仕えたい、助けたい相手のところへ行った。それだけだ。わかってくれたならいいぜ。このことについてはお互いもう水に流そうじゃないか。」
ミカボシがタケちゃんの謝罪を受け入れて右手を差し出す。
タケミカヅチ「わかった。このことについてはこれで手打ちだ。」
タケちゃんもその手に応じて二人は握手した。どうやらこれで仲直り出来たみたいだ。二人とも武人気質っていうか何ていうか…。そういう種類の性格だから案外気が合うのかもしれない。
ミカボシ「……けどそれはそれ。これはこれだ。てめぇが天津神の将軍だってならケリはつけぇねとなぁ!」
タケミカヅチ「その通りだ。不順わぬ神々の棟梁がいるとなれば黙って帰すわけにはいかない。」
おいおいおい!チリチリと周囲に痛いくらいの闘気が満ちる。ミカボシとタケちゃんの二人とも握手したまま臨戦態勢だ。握った手もギリギリと音がしている。
ちょっと待てミカボシ!タケちゃんと戦ってわかったけどやっぱりタケちゃんの方が強い。ミカボシじゃタケちゃんに勝つのは難しい。
もちろん勝負に絶対はない。いや、あるけどね?絶対に覆らないっていうかどうやっても防御を突破出来ないほどの力の差があれば負けてあげようと思っても負けることが出来ないっていうのは確かにある。
けど今はそれはいい。そうじゃなくてミカボシとタケちゃんがお互い全力で戦えば十中八九タケちゃんが勝つ。ミカボシが勝つ可能性もなくはないけど非常に低い。
よほどうまく戦って作戦が嵌ってなんとかってところだ。単純な力比べでは勝ち目はない。それなのにそんな相手に安易に喧嘩を売るんじゃないよ!
スサノオ「二人ともやめないか!」
堪らず俺は扉を開けて二人を一喝していた。
タケミカヅチ「はっ!申し訳ありません。」
パッとミカボシの手を離したタケちゃんはすぐに跪いた。あるぇ?これって主君にする姿勢じゃなかったかな?
ミカボシ「ちっ!スサノオ様が出てきたら急に良い子ちゃんぶりやがって……。けど俺も倣うことにするぜ!」
ミカボシも俺に跪いた。何これ?何でこんなことで二人が張り合ってんの?
ヤタガラス「俺も俺も!」
そこへヤタガラスもやってきて一緒になって跪く。君達の中ではこれは最近の流行なのかね?
ウカノ「あっはっはっ!暑苦しいね!スサノオも男ばっかりにモテて大変だね。あっはっはっ!」
それを見ていたウカノは大爆笑だ。何がそんなに面白いのかさっぱりわからない。むしろ笑い事じゃない。
こうして何故かタケちゃんまで俺達に同行することになったのだった。
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あれ以来タケちゃんも一緒になって旅についてくるようになった。まぁ…、皆と喧嘩したりいきなり俺を殴ったりしないのなら別に一緒でもいい。タケちゃんは俺にとっても数少ない友達で幼馴染だしね。
ただやっぱりタケちゃんは他の国津神達やミカボシ達とは相性が悪いみたいだ。何かにつけて喧嘩のようになっている。
今の所本気で殺しあうまでにはなってないけど、今までなかったからって今後もずっと大丈夫だという保障はない。むしろあまり張り合ってると本当にそのうち揉め事にならないかと気が気じゃない。
それから……、俺の記憶にはないんだけどやっぱり俺がタケちゃんに勝ったことになっている。俺の記憶からすればタケちゃんにボコボコにされた上で失神しただけのような気がするんだけど皆はそうは思ってないらしい。
あんな無様にノビただけなのに何で俺の勝ちになるんだろう?その辺りはよくわからないけど詳しく聞こうとするといつも何か話がすり替わって誰かが凄かったって話になる。皆はそれが俺だと思ってるみたいだけど何か変な幻術にでもかかって記憶がおかしくなってるんじゃないだろうか?ともかく俺がそれを詳しく知る術はない。
タケちゃんはこの中で一番強い。単純な力量だけなら余裕でミカボシをも超えてる。実際に戦えばミカボシも力量だけじゃなくて技量もあるからそう簡単には負けないだろうけど、それはあくまで簡単に負けないだけで勝てるというものじゃない。
もしタケちゃんが暴れたりしたら残り全員で戦わないと駄目だろう。でもそれはそれでどうかとも思う。
もちろん理由もなくただタケちゃんが暴れたり俺達に害を為そうとすれば全員で立ち向かうのは当然だろう。でもただ誰かと意見が分かれて争いになっただけだとすれば、ただ力が強くて勝ってしまうからというだけで全員でタケちゃんを攻撃するのはどうかと思う。
でもだからってタケちゃんの好きにさせてたらバラバラじゃ俺達に勝ち目はない。これが難しい所なんだよなぁ…。どうしたらいいんだろう……。まぁタケちゃんが揉めたり暴れたりしなければ済む話ではあるんだけどただ何の対策もなくそれを期待するのは愚策だ。
俺はタケちゃんと戦うことに…、って、まぁ一方的に襲われただけだけどむしろだからこそ、何の備えもなしにのほほんとしてるだけじゃ駄目だって思い知らされた。
先の戦いだって俺がいつでも本気を出せるようになっていればもっとマシな戦いにはなったはずだ。それが不可能でもせめて折角作ったお面を被って力を出した状態で居ればよかった。それらをまったくせずに何の備えもしていなかったのが先の戦いの結果だ。
タケちゃんは俺の仲間まで襲い掛かるようなことはしなかった。だから俺がボコボコにされただけで話は済んだけどあれがもしもっと他の敵だったら?タケちゃんだったとしてもミカボシと話もせずにただ不順わぬ神だからって即座に攻撃してたら?
俺が気を失っている間に仲間まで失っていたかもしれない。それを考えると今でも身が震える。……俺は今まであまりに楽観しすぎていた。俺達がいればそうそう何かあることなんてないだろうと油断し切っていた。
でも現実はどうだ?ちょっとタケちゃんが襲ってきただけで俺の仲間達は全滅の危機だったじゃないか。今回はタケちゃんにその気がなかったから無事で済んだに過ぎない。それで結果的に全員無事だったからよかったじゃないかとは最早言えない。
俺はもっと…、そうだ、仲間達に対して責任を持たなければならない。勝手についてきてるだけだから、なんて言い訳はもう通用しない。
俺は彼ら彼女らを仲間と思っているし、皆も俺を仲間だと思ってくれている。それも俺はただの仲間の一人じゃない。俺は道順も皆が目指すべき所も全て決めてる指導者だ。その指導者が仲間に対して責任を持たないでどうする?
俺は今までふわふわした気持ちのまま自分の責任なんて考えてなかった。これを改めない限りお母さんに胸を張って会えないし、ダキちゃんと結ばれることも出来ない。
力が弱いのは仕方が無い。タケちゃんは武人で俺はただの旅人だ。俺がタケちゃんより弱いと言われてもそれは受け入れる。でも指導者が一番強くなければならないわけじゃない。一番強いわけじゃないからって責任を持たなくていいわけでもない。
俺は指導者として例え力で劣ってもタケちゃんもきちんと制御しなければならない。それと同時に責任も持たなければならない。それが例え誰であろうともこの集まりの中に入りたいというのなら、俺より地位が高かろうが、力が強かろうが、この集まりの指導者である俺が全てを背負わなくちゃ……。
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タケちゃんを加えた一行はほんの数日で東大陸の北端へと到達した。岬の上に立つと後ろ以外の全てが海だ。
ミカボシ「んでこれからどうするんだ?」
タケミカヅチ「口の聞き方が悪い。家臣なら身の程を弁えろ。」
ミカボシ「あぁ?後から入ったてめぇが他所の常識で語るんじゃねぇよ!ここぁそういう場所だ。主君だって畏まったしゃべり方されんなぁ嫌いなんだよ。」
はぁ…、またミカボシとタケちゃんが言い争ってる。まぁこれくらいなら毎度のことでもうお互いただの挨拶みたいなものだと思ってるのかもしれないけど……。
スサノオ「とりあえず………、どうしよう?ここから北西に進んだら北大陸があるんだよね?そう遠くないはずなのに北大陸へ戻るには南、中央、北とまた長い距離を旅しないといけないんだよね………。」
俺は北西を見据えて独り言のように呟いた。別に急いで北大陸へ向かわなければならない理由はない。でも北大陸へ戻るには南、中央、北とこの世界の三分の二以上を旅しなければ戻れない。
ここからなら少しこの海峡を越えれば北大陸のはずなのに不便なものだ。世界の大陸には四箇所の地続きの場所と二箇所の海峡がある。
大陸の形と配置がこうなってしまっているのは俺達ではどうすることも出来ないけど、せめて地続きの場所と海峡くらいはもう少し便利になってもいいんじゃないだろうか……。
ヤタガラス「アニキ!心配いらないっすよ!ここから海峡を越えて北大陸へ向かえばいいんっす!」
そりゃわかってるよ。でもどうやって海峡を越えるかって話だろう?まったく…。ヤタガラスはやっぱりまだ考えなしの子供かな。
ヤタガラス「あっ!何すかその胡乱な目は!俺だってちょっとは考えてるっすよ!海峡はこうやって越えればいいんす!いくっすよ!」
スサノオ「おっ?おっ?おおっ?!」
ヤタガラスは短い空間転移を繰り返して少し先の海上に転移しては現れ、また海に落ちる前に即座に転移を繰り返し進んでいた。
空間転移は国津神の結構な割合の者が使うことが出来る。中には使えない者もいるし使えてもあまり能力が高くないとか、長距離使えないとか、精度が低いという者もたくさんいる。
でも短い距離なら結構使える者も多いはずだ。目に見える範囲であれば精度もあまり関係ない。あとは連続して使うことと、使用回数が多ければ確かにヤタガラスが今実践してる方法で大陸間の海峡を渡ることが出来るかもしれない。
スサノオ「あ……。」
調子に乗って短距離転移を繰り返してたヤタガラスだけど途中で力尽きたらしい。さすがにあまり連続で使うのは厳しいみたいだ。力尽きて転移出来ずに落下し始めた。そこへ狙い済ましたかのように、っていうか狙ってたんだろうな、海の魔獣が飛び上がってヤタガラスを一飲みにしてしまった。
飛んでる鳥とかを狙って飛び上がる海の魔獣も結構いるからそりゃあまり低い高度で飛んでたらこうなるわな。今はヤタガラスの連続転移が止まって落下してたってのもあるけど、普通に連続転移しててもあの高さならそのうち飛びつかれていただろう。
前に責任がどうのとか言ってたのに、ヤタガラスが飲み込まれたのに随分余裕じゃないかって?そりゃそうだろう。ヤタガラスはまだ子供だけどあれでも国津神なんだ。そこらの魔獣にやられるなんてことは弱り果てて死ぬ寸前でもあり得ない。
ヤタガラス「臭ぇっす!!!」
ヤタガラスは奇声を上げながら魔獣の腹を内側から突き破って出て来た。当然腹を裂かれた魔獣は死んでる。自分を丸呑みにした魔獣を掴んだままヤタガラスがまた転移で戻ってきた。
っていうか一発でここまで転移出来るんならさっきまでの連続転移は何だったんだ?無駄に連発して疲れただけじゃないのか?事実途中で連発出来なくなってその様なわけだし………。
スサノオ「この距離を一発で転移出来るならさっきのは何で?」
ヤタガラス「何言ってんすか?そりゃアニキに見せるためっすよ!俺ならもっと先まで一発で飛べますよ!アニキも知ってるでしょ?」
あぁ…。ただ見せるためにやってくれてたわけね。こういう風にすればいいだろうって…。でも自分の連続転移の限界を理解してなくて途中で落下したと……。そこを海の魔獣にバクー……。
スサノオ「うぷぷっ……。」
ヤタガラス「あっ!何笑ってるっすか!?」
スサノオ「お?っていうかおえぇ!くさっ!臭い!ヤタガラス臭い!向こう行け!」
何かヤタガラスからひどい臭いがする。滅茶苦茶臭い。
ヤタガラス「ちょっ!ひどいっすよ!泣くっすよ?!」
スサノオ「泣いてもいいからこっちくんな!せめて体洗って臭いを落としてからこい!」
このあと皆わりと本気でヤタガラスから逃げ回るという事態が発生した。女性陣はかなりマジだった。もしあれで抱きついたりしたら絶対冗談じゃ済まないことになってただろう。
そう…。それが例え俺や子供のヤタガラスであったとしてもだ。女性とはこういう時は容赦がない………。
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ヤタガラスの思わぬ事態が発生したけど体を洗って臭いを落としてきたので一応の落ち着きは取り戻した。ウカノはまだヤタガラスに臭い臭いと言ってる。鼻が良すぎるのも困りものだな。
ヤタガラスの件はとりあえず置いておくとして…、ってやっぱりまだ近くにいるとちょっと臭うな。俺はウカノほど鼻が良いわけじゃないけどまだ臭い。後でもっと洗ってくるように言う必要がある。
それはともかくヤタガラスが示してくれた可能性について考える。俺達国津神なら少し練習すればヤタガラスが示した方法で大陸間を渡れる可能性が高い。
俺ならもっと遠く。それこそここから東内海を越えて中央大陸まででも連続転移で渡れるだろう。これは大きい。大変なことだ。
だって考えてもみて欲しい。世界中の俺達以外の者は地続きの場所でしか大陸を渡れない。それこそ西大陸から東大陸まで渡るには世界中の全大陸を縦断する必要がある。
それにくらべて俺ならばここから真っ直ぐ東内海を越えて中央大陸へと渡り、中央大陸の西海岸から西内海を越えれば西大陸へと渡ることが出来る。
南北大陸を縦断する必要もないし、東と西大陸内を南北に移動する必要もない。陸を旅するのと違って障害物もないし山や湖を迂回する必要もない。まぁそれは同じ条件ならば転移で越えればいいだけだけど…。それにしても圧倒的に優位で早く旅が出来る。
これってもしかしてとんでもないことなんじゃないのか?国津神達を纏め上げて転移で大陸間を渡れば……。圧倒的すぎる。物資の輸送でも軍事侵攻でも、ありとあらゆる面に置いて圧倒的な優位性だ。それこそあっという間に世界征服出来てしまうほどの……。
俺はこれまでの旅で様々なことを学んだ。この世界は決して優しい世界じゃない。むしろ理不尽な目に遭うことの方が多い。他種族どころか同種族ですら血で血を洗うような世界だ。
こんな世界に終止符を打ち、誰もが幸せに暮らせる世界を作りたい。もちろんそれは我欲でもある。俺が俺の幸せのためにそんな世界を望んでいる。俺とダキちゃんの幸せな未来のために。
でもそれは誰でも同じだろう。この世界に住むほとんどの者だって自分や家族の幸せを願っている。でも争いは終わらず不幸が蔓延る。
だから俺が終わらせる。その可能性が見えた。最初は力ずくになる部分もあるだろう。どうしても更生出来ない者は粛清しなければならないかもしれない。でも俺は世界を変えたい。こんな悲しい世界を終わらせたい。
スサノオ「ヤタガラスが今やった方法を使って世界中の国津神を集めて葦原中国を纏め上げる。」
ミカボシ「おおっ!ようやくその気になってくれたかいスサノオ様よ。」
タケミカヅチ「口の聞き方を弁えろと言ったばかりだが?ともかくそれは良い案かと。」
ミカボシが俺の言葉に即座に反応する。タケミカヅチもミカボシの俺への態度には色々言うが俺が言った目標自体には反対はないらしい。それどころか積極的に支持している。
ヤタガラス「やろうぜアニキ!」
ヤタガラスもやる気満々だ。でもお前はまずはもっときちんと体を洗おうな?
ウカノ「まぁ私は面白けりゃ何でもいいよ。国津神だの天津神だの、高天原だの葦原中国だのなんてのは興味ないんだけどね。」
ほんとウカノは自由人だな。けど一番付き合い易い。ノリが軽いって言えばあまり良い言葉には聞こえないかもしれないけど、こっちを疲れさせない、適度な付き合いがし易いって意味ではとっても良い意味だ。
アン「ついにスサノオ様がたたれるのですね!」
アンは今まで俺に何を期待してたんだろうか?もしかして最初に仲間になった時から俺がいずれ世界征服すると思ってついてきてたのか?まさかな……。今でもそんなこと本気で考えてるわけじゃないのに…、まさか…、ねぇ?
ゾフィー「スサノオ、王になってもゾフィーに子種くれる?」
うんうん。ゾフィーはぶれないな。でもそれはそれでいい。それこそがゾフィーだ。
ニンフ「ついにね!」
うん…。ニンフはノリと勢いだけでしゃべるのはやめようか?ウンウン頷いてるけど全然意味わかってないよね?ノリだけで周りに合わせてるよね?まぁいいけど……。
こうして俺達は動き出した。まずは各地で従えてきた国津神達に連続転移の練習をさせる。ある程度一堂に会して仲間同士の顔合わせもさせたりした。
俺もまだちょっと意思が軽いっていうかちょっとフワフワした部分はある。それは世界征服っていう言葉のせいかな。それがあまりに現実味がなさすぎて正直なところよくわからないままあれよあれよと事を進めている。
だから言葉を変えよう。そう。俺達がこれからするのは世界征服じゃない。建国、そして世界統一だ。この世界から種族間での争いも貧困もなくす。そのために俺は国を建てる。
とは言えいくら国津神達が強い力を持っていると言ってもこんな少数でいきなり何の準備もなしに世界統一なんて出来るわけもない。やったとしてもこちらも甚大な被害を出すことになる。
だからまずは準備だ。世界各地に散っている国津神達を集めつつ鍛える。さらにアンの故郷の集落やゾフィーの集落など俺に、いや、俺達に協力してくれる現地民とも交流を深める。
もちろん俺達に貴賎上下などない。皆が対等な集まりだ。強さも種族も関係ない。
そりゃ建前はそうでも実際に発言力の差などはあるだろう。それは組織への貢献度や役割の重要性によって変わってくる。でもだからこそ公平だ。
誰もが等しく同じということは不公平でしかない。働かない者がより多く働いた者と同じでは多く働いた者が損をする。それは等しく同じではあっても公平ではない。
だから結果的に発言力や地位に差が出てくるのは当然のことだ。働きに応じた扱いをすることこそが公平だ。
ただしそこに種族や力の差を入れて考慮してはならない。それこそが最も愚かな行いだ。誰もが同じ条件で公平に比べられる。それこそが俺の目指す世界。
仲間の故郷。これまで立ち寄って友好関係を築いてきた種族や集落。俺に従うと決めた者達。それらがお互いに少しずつ集まり距離を縮めて一つの組織として纏まり始めた。
国津神達も修行に励みかなりの者達が海峡を空間転移で越えられるようになった。中には内海ですら越えられる者もチラホラ出始めている。
そうして下準備に奔走すること数年。すでに数年も経っている。でも俺達の寿命からすればこの程度の年数なんてあってないようなものだ。
ダキちゃんとこれほど長い時間再会出来ていないのは寂しいけどいつかきっと再会出来ると信じてる。だから寂しくとも我慢は出来る。
そしていよいよ俺達は歴史の表舞台に飛び出す。海を渡る仲間と、陸を治めてくれる仲間と、皆一緒になって新たな国を建て歴史を刻む瞬間がやってくる。
ウカノ「ようやくだねぇ…。さすがの私でもここ数年の準備は疲れたよ。」
ミカボシ「そうだな。でもお陰でこれまでにないほどに順調に進んだじゃねぇか。」
ウカノとミカボシがお互いの苦労と成果を語り合う。建国準備においてアンやゾフィー達は足がそれほど早くないから遠くまで急いで行く役目は国津神やミカボシ達の役目となった。
国津神達は海峡や内海を越えることが出来るし、ミカボシは最速で光の速さで移動することが出来る。もちろんそれも無制限に好きなだけ出来るわけじゃないみたいだけど光の速さで移動出来るのは圧倒的優位となる。
だから皆はこの数年世界中を駆けずり回った。そりゃもう何度も…。俺だってだ。この数年だけで世界を何周したかもわからない。そうして俺達は新たな国の建国の準備を行った。
もちろんまだ終わりじゃない。これからが始まりだ。今までのはただの準備に過ぎない。それでもこれが一つの節目。これからの未来に思いを馳せて久しぶりに主要な者達が一堂に会している。
ヤタガラス「俺だって走り回ったっすよ。」
タケミカヅチ「そうだな。」
この二人も色々と尽力してくれた。まぁ俺の仲間達は全員そうであって誰か一人が特別ってことはない。俺達全員の努力と苦労の結晶だ。
アン「これが…、今日が世界の夜明けなのですね…。」
ゾフィー「スサノオ王ばんざーい。」
アンはもう感極まって涙を流している。本当に最初に出会った時から涙脆い娘だ。それが可愛い所でもあるけど…。俺と違って感情豊かで元気一杯のアンは本当に可愛らしい。
ゾフィーも…。まだ気が早い。確かに俺は王になる覚悟は持った。でもまだその国すら今ようやく立ち上げるという段階でしかない。けど今だけは皆ゾフィーと同じ気持ちらしい。
ニンフ「それはいいけど国を建てるなら名前が必要よね?国名はもう決まってるのかしら?」
スサノオ「うん……。俺が決めていいって言われてからずっと考えてたんだ。」
俺はニンフの言葉に応えてからちょっと間を空ける。もったいぶってるって言われたらその通りだけどそれくらいはいいだろう?これがこの数年の努力の結晶なんだから。
スサノオ「俺…、いや、俺達の国……。それは根之堅州国。この世界に…、葦原中国に根ざした国っていう思いを込めて、………どうかな?」
俺はちょっと自信がなくて皆の様子を伺いながら俺達の国の名を告げる。
ミカボシ「根之堅州国…。いいんじゃねぇか?」
ウカノ「私に反対はないね。」
タケミカヅチ「根之堅州国。」
ヤタガラス「かっけぇっす!」
アン「素敵です!」
ゾフィー「根之堅州国ばんざーい。」
ニンフ「いいじゃないのさ!」
皆反対はないみたいだ。まぁここで反対とか言われたらすごい微妙な空気になりそうだからそうそう反対って言える人もいないかもしれないけど……。
とにかくこうして俺達の国の名前は決まった。
スサノオ「さぁ…、ここからが俺達の…、根之堅州国の始まりだ!」
俺達の世界統一が始まった。




