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転生無双  作者: 平朝臣
207/225

外伝2「スサノオの冒険17」


 翌日俺は約束の時間のずっと前に野営地から出て移動を開始した。今日は旅を再開せずにこの野営地に留まることになっている。


 当然真っ直ぐ約束の場所になんて向かわない。その理由は言うまでもなく旅の仲間達が、まぁミカボシとヤタガラスは我関せずで来てないけど、俺の後をつけているからだ。


 どうして女性陣が俺の後をこっそりつけようとしているのかは知らないけど…、こういうことをするのならこっちにだって考えがある。


 多分俺が外で女の子と会ってるのは昨日のやり取りでわかったはずだから、今日旅をやめて一日留まってるってことは俺がその女の子と会うんだろうということはわかっているんだろう。


 だから俺がその女の子と会うところをこっそり覗き見しようって魂胆なのは俺にでもわかる。それで覗いたからってどうするつもりかは知らないけど…。


 俺とその女の子の密会の邪魔をするのか、女の子に直接危害を加えるのか、自分達も雪崩れ込んで密会自体をうやむやにするつもりなのか。


 色々考えられるけど女の子に直接危害を加える可能性はほぼないと思う。さすがに俺の仲間達はそこまで考えなしじゃない……、と思いたい……。


 例えばだけどこんな後をつけるような真似をせずに堂々と俺に同行したいと申し出てくれば俺だって少しは考えただろう。


 でもコソコソと俺の後をつけるような真似をするっていうのなら素直に尾行させてあげたりなんてしない。ただ俺が会ってる女の子、つまりダキちゃんを見てみたい、会ってみたいのならそう言えばいい。


 こんな卑怯な手段を使うなら俺も全力でそれを阻止する。そう考えて早めに野営地を出て尾行してる皆を巻く。


 まずは敢えて最初に約束の場所の方向に向かって進む。そして途中で何度も方向転換を繰り返して野営地の周りをぐるっと回ってみる。


 そこからはギザギザに進んだり、一旦引き返したり、もう思いつくままに滅茶苦茶に移動した。そして最後に全員を振り切る速さで約束の場所に向かう方向から右に125°の方向へ向かって走り出す。


 そこまでは俺をつけまわしていた仲間達だけど流石に俺の速さについてこれる者はいない。全員を振り切ったことを確信した俺は大きく迂回して山を回って反対側からダキちゃんと約束していた場所に向かって行った。



  =======



 昨日とは逆側から約束の湖に近づいた俺はある気配を察知した。それはイナリっていうダキちゃんと一緒にいたはずの娘の気配だ。一応もっと遠くに、こちらもダキちゃんに同行してると思われるドラゴン族っぽい気配もある。


 とりあえずドラゴン族の気配はかなり遠くだしウロウロと移動してることから哨戒任務でもさせられていると思われる。だからこっちは放置でいい。それよりも問題はイナリって娘の方だ。


 この娘………、明らかに俺が昨日やってきた方向を監視してる。かなり離れた場所からだけど昨日俺とダキちゃんが出会った場所の様子を窺ってるのがわかる。


 何でそんなことを…、とは言うまい。うちの女性陣と同じだ。ダキちゃんが昨日俺と会ったことを何かで知って今日はそれを妨害しようと待ち伏せしてるんだろう。


 結構な距離がある場所から監視してるけど、これは逆に言えばこれだけの距離からでも監視出来る能力を持ってるってことだ。


 前回ダキちゃんの水浴びを覗いてしまった時でも俺の気配には気付いてなかったようだから、普通に気配を隠していればこの娘に俺の気配を察知される恐れはないとは思う。


 でもいくら気配を察知されなくても姿を目視されればまったく意味はない。だから多分イナリって娘はこの距離でも気配察知以外に目視等の方法で監視出来ているんだろう。


 気配の殺し方のうまさといい、これだけの距離からでも監視出来る能力といい、この娘は相当能力が高いことがわかる。


 まぁそれでも俺には気配を察知されてしまっているし、俺からだってこの娘が見えてるんだから俺より隠密行動や気配察知が劣るのはその通りだろう。


 でもそれは比べる対象が悪いだけの話だ。俺は高天原に居た頃でもかくれんぼとか得意だった。俺を見つけられる者なんていないくらいに……。


 だから俺を見つけられないとか、俺に見つかってしまってるからってイナリって娘が能力的に大したことがないってわけじゃない。


 むしろ今まで見てきた中でも相当上位だろう。国津神を除けばだけど………。葦原中国に暮らす者の中では最上位を争うような存在かもしれない。


 そんな相手がばっちり監視してるんだからノコノコと約束の場所に向かえば、いくら俺が気配を隠すのがうまくてもすぐに見つかってしまうだろう。


 今日は偶々反対側から近づいたお陰で俺の方が先に気付いたにすぎない。いくら俺の察知能力が優れていても先に隠れて備えている相手の方が圧倒的に有利だ。


 それで肝心のダキちゃんの気配だけど………。駄目だな。見つからない。前の時もそうだったけど目の前に居ても本当にいるのか疑問に思うほどダキちゃんの気配の隠し方は上手だった。


 そのダキちゃんが気配を隠して隠密行動していれば俺でも見つけるのは難しい。偶然目視出来る距離で鉢合わせでもしない限り見つけることは出来ないだろう。


 じゃあダキちゃんが気配を消してイナリって娘が監視してるんだから俺はダキちゃんと会えないのかと言うことになる。そもそもダキちゃんはどう考えているんだろうかということも問題だ。


 ダキちゃんが俺を嵌めるために自分は隠れてイナリって娘に監視させている?その線は薄いだろう。となればやっぱりイナリって娘がダキちゃんと俺の密会を何かで知ることになって妨害しようとあそこに潜んで監視しているってことになる。


 そして今ダキちゃんがこの周辺にいないということは何か理由と意味があるはずだ。それはつまり…、俺が仲間の女性陣を巻いて来たようにダキちゃんもイナリって娘の目を欺き振り切ろうとしていると思われる。


 実際にダキちゃんを見失ったからイナリって娘は昨日俺とダキちゃんが出会った場所の周辺を監視しているんだろう。約束をしている相手がまたこの周辺に現れる可能性が高いと思って……。


 それは間違いじゃない。実際俺はダキちゃんとそこで会う約束をしたし他にお互い共通の場所なんて存在しない。ここを張っていればノコノコやってきた俺を見つけることが出来る。


 それに対してダキちゃんが何もしていないとは思えない。ダキちゃんは俺にイナリって娘に見つからないように何かの方法と、会う場所を変更するための何かの仕掛けを施しているに違いない。


 俺はその考えに基づいてイナリって娘の監視から隠れつつ周辺の調査を開始したのだった。



  =======



 ダキちゃんが俺に何か暗号などを残すとすれば昨日俺がやってきた方角に設置するだろう。俺が約束の場所に近づく前にイナリって娘のことを伝えるか、場所を変更したい旨を伝えなければいけないからな。


 というわけで俺はまた大きく迂回して昨日ここへ来るために通った道の方へ周り込み何かダキちゃんが残した手掛かりがないかと調べていった。


 もちろん表立って道には出られないので少し離れた藪の中からこっそり見たりすることしか出来ない。そんな状況の中でどこにあるかもわからない手掛かりを探すのは大変だけどダキちゃんと会うためにはやるしかない。


 そうこうして手掛かりを探していると見つけた……。これはきっとダキちゃんの手掛かりに違いない。俺にしかわからないほどのほんの僅かな気配の残滓。


 ダキちゃんが途中から道を外れて森の奥へと入って行ったと思われる痕跡がほんの僅かに残っている。気配を隠すことに長けているダキちゃんが、俺くらいしかわからないほどにほんの少しの痕跡を残して道を外れているってことはこっちへ来いってことに違いない。


 まだ約束の時間よりずっと早いけど早めに野営地を出発しててよかった。この先もどれほどこうやって仲間やイナリって娘の目を欺くための仕掛けがあるかわからないし、どれだけ時間がかかるかわからないからね。


 そうしてついに俺は最終目的地と思われる場所に辿り着いた。僅かに水の流れる音が聞こえている。この先には川のようなものがあるんだろう。


 ようやく…、ようやくだ……。ようやくダキちゃんと会える!


スサノオ「そ・こ・だ!」


 俺は思い切って森の藪から川原へと飛び出した。


スサノオ・ダキ「「………え?」」


 ………

 ……

 …


 はて?ここは天国か?美しい肢体を惜し気もなく晒している女神がいるぞ?俺と女神の視線が絡み合う。


ダキ「きっ……。」


スサノオ「き?」


ダキ「きゃあぁぁぁ~~~っ!!!」


スサノオ「ぶっ!!!」


 俺が美しい肢体に目を奪われている間に鉄拳が飛んできていた。まぁ拳じゃなくて伸びた尻尾だったんだけどそれはどっちでもいい。


 完全に固まっていた俺は避けることはおろか防御することも出来ずに思い切り鼻を殴られて、飛び出して来た藪へと吹っ飛ばされ強制的に押し戻されたのだった。



  =======



 気がつくと俺は川原に寝かされていた。どうやら気を失っていたらしい。まだ鼻が折れたように痛いからあれは夢じゃなかったんだとわかる。


 それに頭の後ろには柔らかい感触があり上からは美しい女神が俺のことを覗き込んでいる。どうやら膝枕してもらっているらしい。


 はぁ…、柔らかい。良い匂い。スベスベだ……。


ダキ「スサノオ様?お目覚めになられましたか?」


 俺を覗き込んでいた女神、ダキちゃんが心配そうに声をかけてくれた。


スサノオ「あぁ…、うん……。えっと…、なんていうか…。二度も覗いてごめん……。」


 そう。俺はまたしても水浴び中の真っ裸なダキちゃんを覗いてしまった。藪から飛び出した俺の目に飛び込んできたのは裸で水浴びしているダキちゃんの姿だった。


 あぁ…、綺麗だったな…。天津神の芸術品でもダキちゃんの美しさには敵わない。かなりの大きさがあるのに崩れることなく綺麗な形をしている胸。細く括れた腰と小さくてかわいいおへそ。丸いお尻にムチムチの太腿。思い出しただけで興奮してくる。


ダキ「あっ…。いえ………。」


 俺の言葉を聞いてダキちゃんが真っ赤になって顔を逸らした。可愛い……。って、そんなこと言ってる場合じゃないな。これは何とかしないと俺が覗き魔として認識されてしまう。


スサノオ「えっと…、覗いてごめんなさい。でもこれには深いわけがあるんだ!」


 俺は飛び起きて頭を下げるとまずは謝った。それから何とか言い訳を聞いてもらおうと必死に言い募る。


ダキ「……はい。スサノオ様がそのようなことをされるとは……、ちょっとしか思ってないです。」


スサノオ「えっ!?ちょっとは思ってるってこと!?」


 っていうかむしろそれって本音で言えば絶対俺がそういう奴だって思ってるってことだよね?違うから!事故だから!


 でも覗いたのは事実だからあまり偉そうには言えない………。


ダキ「………。」


 ダキちゃんは俺の言葉に答えずに真っ赤な顔のまままたしても視線を逸らした。やばいぞ。本格的にやばい。このままでは覗き魔として記憶されてしまう。


スサノオ「あのね!聞いて欲しい!これは………。」


 ………

 ……

 …


ダキ「つまりスサノオ様の仲間の方もスサノオ様のことをつけるような真似をして、イナリも待ち合わせ場所を見張っていたから、私が待ち合わせ場所を変えるだろうと思って私の居場所を探していたと?」


 俺は野営地を出てからここに至るまでの道のりを全て話した。


スサノオ「うん…。俺はてっきりダキちゃんの気配が道から外れて藪に入って行ってた痕跡は俺にこっちに来いっていう合図かと思って………。」


ダキ「まぁ……。私はただスサノオ様とのお約束の時間までまだ間があったので水浴びをして恥ずかしくない姿でお待ちしようかと………。」


 そこまで言ってダキちゃんはまた真っ赤になった。どうやら俺にばっちり覗かれたのを思い出しているらしい。


スサノオ「本当にごめんなさい!俺が勝手に勘違いして大変なことをしてしまいました!どうか許してください!」


 俺は必死に土下座をした。このままダキちゃんに嫌われてもう会えなくなってしまうかもしれないと思うとこういう行動も自然に出ていた。


ダキ「………頭を上げてください。怒っていませんから。」


 ダキちゃんがそっと俺の頭に手を添えて上げてくれる。顔を上げた俺と目が合ったダキちゃんはまた真っ赤になって顔を逸らしたけど怒っていないっていうのは本当だろうとわかった。


ダキ「ただ…、ちょっと恥ずかしいだけですので……。それにイナリがそんなことをしているとは露知らず。スサノオ様がそのように考えて行動されたのも頷けます。なによりイナリはスサノオ様に害を為す恐れもありますので結果的にはこれでよかったのでしょう。」


 ダキちゃんはあのまま最初の待ち合わせ場所で会っていればイナリって娘が絶対に俺に何かしてただろうから、これはこれでよかったのだと言ってくれた。


スサノオ「ダキちゃん…、ええ娘や…。あんたほんまにええ娘やで。」


ダキ「スサノオ様?」


 おっと!口から言葉が漏れてしまっていたらしい!気をつけないとな。


スサノオ「それじゃ…、ちょっと手違いで変なことになったけどこのまま逢引きしようか。」


ダキ「逢引きだなんて……。恥ずかしいです………。」


 あっ…。またやってしまった。確かに俺は逢引きのつもりだけどダキちゃんにまでその気があるかはわからない。それなのにまた俺だけ逢引きだと言ってしまった。


 さっきもこういう思い込みや考えすぎで失敗したところなのに全然直ってない。これからはもっと気をつけないとな。


スサノオ「ごめんごめん。俺はダキちゃんのこと好きだしもっと俺のことを知って欲しいからこれは逢引きのつもりだったけど、ダキちゃんがそこまで俺のことを気にしてくれてるかどうかもわからないのに早とちりしちゃ駄目だよね。さっきもそれで失敗したところなのにごめんね。」


ダキ「あっ!いえ!違うんです!私もスサノオ様のことをお慕いしております!ただ…、少し恥ずかしくて…。私は男性とこのようなことは初めてで………。」


 ダキちゃんはモジモジしながら俯いてしまった。あぁもう可愛いなぁ!抱き締めたい!


 ………って、今何て言った?俺のことをお慕いしている?それって好きってことでいいんだよな?また俺の勘違いってことはないよな?


スサノオ「えっと…、今の言葉だとダキちゃんも俺にそれなりの好意は持ってくれてるって意味でいいのかな?」


 今度は失敗しないようにちゃんと確認しとかないとな。俺だけ盛り上がってまた変な失敗をしたら大変だ。


ダキ「そのようにはっきり言われてしまうと照れてしまいます……。」


 ダキちゃんが両手を両頬に当ててクネクネしだした。何か可愛い…。美しいとかの意味じゃなくて何ていうかほっこりする。


スサノオ「それじゃこのままイナリって娘に見つからないように行こうか。」


 俺はそっとダキちゃんの手を握った。一瞬固まったダキちゃんは、でもはにかんだ笑みで応えて俺の手を握り返してくれた。


 そのまま二人で手を繋いだまま山を歩きつつ話をしたのだった。



  =======



 はぁ…。幸せだ。愛するダキちゃんと手を繋いで二人で森の中を散歩しながらの逢引き。俺達はお互いに色々な話をした。


 どっちも相手のことを知りたいと思っていたからいっぱい質問し合った。でももちろん俺には色々と言えないこともある。ダキちゃんも言葉を濁すことがあるから言えないようなこともいっぱいあるんだろう。


 もちろん俺だってダキちゃんに言えないようなことだらけだから、ダキちゃんが俺に秘密にしてることがあってもとやかく言うつもりなんてない。そこはお互い様だ。


 だから俺達の話は本当に他愛無いような話ばかりだった。子供の時どうだったとか、今の仲間達との思い出だとか。ダキちゃんとイナリって娘の話も色々と聞けた。


 イナリって娘はダキちゃんのことを愛していて大の男嫌いらしい。だから俺が迂闊に近づいたら何をされるかわからないと言われた。


 流石に俺が遅れを取ることはないとは思うけど、ダキちゃんも気配の隠し方は上手だしイナリって娘も俺達には劣るけどかなり上手い。舐めてかかると怪我じゃ済まない可能性はある。


ダキ「それで…、あの…、スサノオ様………。」


スサノオ「ん?」


 ダキちゃんが急に立ち止まったから握っていた手はスルリと抜けてしまった。振り返るとダキちゃんは俯いたまま何かを言おうとしてやっぱり言えずにモゾモゾしている。


ダキ「………スサノオ様は妖狐のことについて御存知ですか?」


 ようやくダキちゃんが言った言葉はそんな言葉だった。妖狐について?ダキちゃんとイナリって娘が妖狐だということは本人からも聞いているし知っている。


 でもそれがどうしたんだろう?そんなに聞きにくいようなことかな?


スサノオ「一般的に知られてる程度には知ってると思うけど……。あれでしょ?妖狐は女の子しか生まれない。だから他種族から子種を貰ってきて種を維持してる。とかその程度だけど…。それがどうしたの?」


ダキ「そこまで御存知ならばおわかりではないですか?………私はスサノオ様のことをお慕い申し上げております。ですがもし…、このままスサノオ様と私が結ばれた場合………、私が、妖狐がスサノオ様を誑かしたということになります。それに生まれる子供は妖狐です……。スサノオ様やご家族の方が黙ってそれを受け入れることが出来るとは思えません。ですから………。」


 ダキちゃんが言いたいことはわかった。でもそんなこと何の問題もない。


スサノオ「あぁ…、そういうこと?だったら気にしなくていいよ。俺は勘当されて帰る家も家族もいないし、世継ぎがどうとかいう家柄でもない。妖狐に誑かされたって言うけど、偽の姿で騙されたわけでもなく、俺はダキちゃんが妖狐だって知った上で結ばれたいと思ってる。それは騙してるわけじゃないでしょ?妖狐と結ばれたから騙された誑かされたってことにはならないよ。」


 俺は一歩近づきダキちゃんの正面に立つとそっと両肩に両手を置いた。


ダキ「―ッ!!!スサノオ様!」


スサノオ「おっ…と。」


 ダキちゃんが俺の胸に飛び込んでくる。結構すごい勢いだったけどなんとか倒れずに済んだ。やっぱりダキちゃんも結構な力を持ってるな………。


 それにしても………。抱き締めたダキちゃんから何やら良い匂いが立ち昇ってくる。それに柔らかい胸が押し付けられて何だか変な気分になりそうだ。だけどここで照れて引き剥がしてしまってはダキちゃんを傷つけることになるだろう。


 だから俺はそっと肩に置いていた手を背中に回してダキちゃんを抱き締めた。




 ………

 ……

 …




 どれくらいそうしていたのか。いつの間にか少し肩を震わせていたダキちゃんも落ち着いていた。


ダキ「すみません……。スサノオ様にこのように甘えてしまって……。」


スサノオ「あぁ、ううん。全然そんなことないよ。むしろ俺としてはもっとダキちゃんに甘えて欲しいし。」


ダキ「スサノオ様……。」


 二人で見詰め合う。本当は口付けしたい衝動に駆られてるけどここではまだ駄目だ。ダキちゃんに聞いた話ではダキちゃんとイナリって娘は何かの巫女をしているらしい。


 その役目が終わるまでは男を作ってそういうことはしないことにしていると言っていたから、ここで焦って俺が無理に迫ったらダキちゃんに嫌われてしまうかもしれない。


スサノオ「俺はダキちゃんと結婚したい。お互いの状況からして今すぐに何かが変わるっていうのは無理だと思う。だけどいずれ俺はダキちゃんと結婚したいんだ。妖狐だとか誑かされるだとかそんなことは関係ない。俺がダキちゃんのことを愛しているから。それだけなんだ。」


 俺は真っ直ぐにダキちゃんを見詰めて心の底からの言葉を伝える。


ダキ「はい……。はい………。」


 ダキちゃんはただ静かに涙を流していた。



  =======



 さて…、まだダキちゃんとの逢引きは続いてるわけだけど、ちょっと時間を置いて冷静になった分色々と思い返してしまった。俺って冷静に考えたらかなり恥ずかしいことをいっぱい言った気がする。


 ああぁぁぁっ!!!急に恥ずかしくなってきたぞ!まぁ覆水盆に返らず。言ってしまったことはなかったことには出来ない。幸いダキちゃんも俺の言葉を受け入れてくれたみたいだからこれでよかったと思うしかない。


ダキ「それでスサノオ様はこれからどうされるのでしょうか?」


 俺達はこれからの二人のことについて色々と相談していた。いくら俺がお父さんから勘当されて天津神の棟梁と関係なくなったとは言っても、いきなりダキちゃんと簡単に結婚出来るというわけじゃない。


 ダキちゃんの方も巫女としてのお役目が終わるまでは…、と言っていたからお互い即座には動けない。でもだからってただ何も考えずに時間を浪費すればいいってもんじゃない。今のうちから出来ることをしたり、出来ることすべきことはたくさんある。


 特に俺達はまだ知り合って間もない。出来るだけお互い一緒に居たいという思いはある。だからダキちゃんの今の質問があるってわけだ。


スサノオ「俺はまだ東大陸ですることがあるから…。もっと北まで、出来れば東大陸の北の端まで行く必要がある。」


 そう。俺の目的は東大陸の国津神達を纏め上げること。まだ北部には俺が出会っていない国津神がいるはずだ。


 何より…、ある意味俺の天敵とも言えるタケちゃん。タケちゃんが東大陸の国津神達の総括だというんだからタケちゃんを何とかしなければならない。


ダキ「そう…ですか……。私は…、これから南下して南大陸へ渡ることになります。」


 それも聞いている。ダキちゃんの旅の目的は聞いてないけど東大陸での用は終わったようだ。だから南大陸へと渡ることになると言っていた。


 その先もまた西大陸まで旅をすることになるかもしれないとも……。何でも西大陸に知り合いがいてそっちの手助けもするらしい。これじゃ次にいつどこで会えるかまったく見当もつかない。


スサノオ「大丈夫。絶対また会えるよ。」


ダキ「………はい!」


 俺がそう言うと少しだけ思案した後にダキちゃんは笑顔で応えてくれた。きっと大丈夫だ。俺とダキちゃんは結ばれる運命にあるんだから…。絶対にまた会える。


 そう言って俺は次の約束も出来ずにダキちゃんと別れたのだった。



  =======



 ダキちゃんと別れて野営地に戻ってくると女性陣がむくれていた。女性陣とは言ってもゾフィーは子種さえ貰えばいいと公言している通り俺がどこで何をしていてもあまり気にしている様子はない。ウカノはただ面白がっているだけのようなのでこちらもあまり俺のことでとやかく言いはしない。


 つまりむくれているのは主にアンとニンフということになる。もちろん男二人は俺に何か言うこともなければ女性陣とのことにも口を挟む気はない。完全に我関せずで二人でこちらに関わらないようにしている。


アン「スサノオ様のばかぁ~~~!」


 うん…。アンに浴びせられた第一声がこれだ。まぁ馬鹿だけど…。


ニンフ「何で逃げるのよ!それじゃ面白くないでしょ!」


 ニンフはこれだ。どうやら俺が外で女の子と会っていたことどうこうよりも、それを野次馬出来なかったことにご立腹らしい。


 それを面白そうにニヤニヤ眺めてるウカノと、周囲のことなどお構いなしのゾフィーがいつものように接してくる中で俺はご立腹の二人を一晩中宥めたのだった。



  =======



 翌朝俺達は旅を再開する。今日は別にここに留まる理由はない。ダキちゃん達は今日から南下していくはずだ。俺達は北端まで移動する予定なのでまだ北上する。これから暫くはダキちゃんと会える機会はなさそうだ。


 ………ダキちゃんと結婚するためにはタケちゃんともきっちり向き合わないとな。覚悟を決めた俺はいずれ出会うであろう天敵のことを思い浮かべた。


 天敵だ何だとは言ってるけど俺の数少ない幼馴染の一人だ。九頭九尾龍と戦った時はもしかしたらタケちゃんも九頭九尾龍と戦って負けたのかもしれないなんて考えたけど今ではそんなこと考えていない。


 子供の時でもあれだけ強かったタケちゃんはきっと立派な武人になっていることだろう。そのタケちゃんがそうそう遅れを取るとは思えない。


 俺達も大人になって……、何か変わっただろうか………。幼馴染のタケちゃんと出会えば何かわかるだろうか。そんなことを考えながら北上していった。


 ………

 ……

 …


 けどこれはないんじゃないだろうか………。確かにタケちゃんのことは考えてたよ?出会うだろうとも思ってたよ?


 でも旅を再開して間もなしにいきなり出会うことはないんじゃないかな………。


タケミカヅチ「………お前、スサノオ……、か?」


スサノオ「………うん。久しぶりだね…、タケちゃん。」


 普通の森の中を歩いているといきなり天敵と再会してしまった。覚悟を決めたとか言ってたけどいきなりこんなとこで出会うとか覚悟が出来てなかったよ………。



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