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転生無双  作者: 平朝臣
205/225

外伝2「スサノオの冒険15」


九頭九尾龍「ギャオオオォォォーーー!!!!」


 鎌首を擡げた巨大な龍が咆哮を上げる。はっきり言おう。怖い。今すぐ逃げ出したい。


 何だよこれ…。何でこんな化け物がいるんだよ。その威圧だけで俺なんて吹き飛ばされてしまいそうなほどだ。


 でも今俺が逃げ出すわけにはいかない。イナリって娘の気配はまだすぐそこだ。この龍の移動速度がどれくらいかは知らないけど俺ならこんな距離あっという間に追いつける。


 だから俺はイナリって娘が…、そこに一緒にいるだろうダキちゃんがこいつから離れて隠れられるくらいは時間を稼がなくちゃならない。


 折角ここまで近づけたのにまた俺もダキちゃんを見失ってしまうかもしれない。でもそんなことを言ってる場合じゃない。生きていればまたいつかどこかで会えるかもしれないけど命を落としたらそれまでだ。


 とにかく俺がイナリって娘の気配を探れなくなるほど遠くに逃げるまで時間を稼がないと……。


 そうして覚悟を決めた俺は九頭九尾龍を刺激しないようにゆっくりと手に持つ十束剣を持ち上げる。龍にまだ動くなよと思いながらいきなり先制攻撃を仕掛けた。


 少しずつ持ち上げていた剣の残りを一気に振り上げ振り下ろす。ただそれだけ。何の工夫も技もない。下手に何か力を使おうとすればこの龍には即座に感知されて対応されるに違いない。だから俺は敢えて何の変哲もない斬撃を叩き込んだ。


 それなのに……、この龍は避けた。完全なる不意打ち。相手はまったく警戒も動く前の予備動作もなかった。それなのに……、俺の斬撃に反応するかのようにギリギリで回避した。


 もちろん無傷とはいかなかった。その頭の一つを斬り落とせた。でもそれだけだ。俺は出来れば今の一撃で決めてしまいたいとすら思っていた。その必殺の一撃をこの龍はあっさりと避けて見せた。


 やばい……。この龍は本物の化け物だ。今まで見てきた中で最強だったミカボシですら今の一撃をいきなり避けることは出来ないだろう。


 もちろん戦ってる最中だったなら避けてくることもあるかもしれない。でも今みたいな完全なる不意打ちで相手も何の備えもしていなかった状態から避けてくるなんてのは今まで出会った誰もが出来なかっただろう。


 それはつまり単純な力の量以上にこの九頭九尾龍が強敵だってことだ。神力量が多いからって必ずしも俺の方が格上とは言えない。こんな強敵と戦いつつ負けずに時間を稼がなければならない。


 幸いだったのは初撃で首の一つを斬り落とせたことだろうか。これだけ頭と尻尾が多いってことは攻撃の手数も多いはずだ。それを先制して一つ減らせたのは幸運だった。


 と思ってた時期が俺にもありました。


 何だこれ…。おい!おい………。マジか……。斬り落としたはずの龍の首がすぐさま再生されてしまった。こんなイカサマありかよ!


 その再生能力は半端じゃない。まさに一瞬と見紛うほどの速度で頭が一つ生えてきた。ありえねぇ……。何だこれ?頭を落としても止められないんじゃどうすればいいんだ?


 これはあれか?全部の頭を同時に落とさないといけないとかそういうことか?


 やべぇ…。本物の化け物だ……。何か勝てる気がしなくなってきたぞ。


 そんな考え事をしてるとあっという間に龍の巨体が迫ってきていた。速い。今の考え事の時間なんて刹那ほどの時間しかなかったはずだ。それなのにもう龍は反撃に出ていた。


 こんな巨体での体当たり。もし避けたら多分辺り一帯の森とか消し飛ぶと思う。それは俺にとって得策じゃない。


 あまり周囲に影響を与えすぎたらダキちゃん達が逃げるのにも影響しかねない。だから俺は剣を持ってない方の腕で龍の体当たりを受け止める。


 巨体が触れた瞬間ズシリと重い感触がした。地面からほんのちょっとだけ浮いててよかった。もしこの衝撃で地面に立ったままだったなら絶対足が沈んで地面に埋もれるところだった。


 それにしてもなんつー力だよ…。今の俺はミカボシと戦った時よりもさらに力を出せているはずだ。その俺が片手で受け止めるのに精一杯だった。もしもうちょっと威力が高かったら片手じゃ支えきれなかったかもしれない。


 でも動きが止まった。この好機を逃す手はない。俺は空いている剣で龍を斬りつける。けどまたしても避けられた。尻尾の方を数本斬り落としたみたいだけどこの化け物の再生能力からすれば傷のうちにも入らないだろう。


 事実斬り落とされたはずの尻尾はもう再生されている。そして俺の前後左右上全てを包囲するかのように九つの首が迫ってきていた。


 やべぇ…。もし一発でも直撃したら俺はどれほどの傷を負うんだろうか?それが逃げ場を塞ぐように周囲全てから迫ってくる。


 迷えば迷うほどに首が迫ってきて逃げ場がなくなる。そう理解した俺は一番隙間の大きかった首と首の間へ飛んですり抜けた。


 よし!龍の首はまだ俺がさっきまで居た方へ向かって伸ばされたままだ。慣性が働いて動きが若干鈍ったんだろう。


 この化け物相手には中途半端な攻撃じゃ傷を与えられない。いや…、傷は与えてるんだけどね…。ただ再生能力がすごすぎて小さい傷じゃ意味がない。こいつを倒すには頭を全て斬り落とす一撃が必要だろう。


 そう思った俺は無防備に首を晒している九つの頭を同時に斬り落とそうと力を込めて大振りの攻撃を放った。


 でも一つ逃した。いや…、この化け物が一つだけ逃がしたんだ。他の八つを落とされてもいいから一つを逃した。つまりやっぱりこの龍は首を全て落とされたら活動出来なくなるんだろう。だから一つだけでも逃がした。


 じゃあ次こそは全部落とせばいいじゃないかと言えばそんな簡単な話じゃない。こいつは八つを全て盾にしてでも一つを守り切ればいい。そしてあれだけの再生能力だ。


 一つずつ落としていったんじゃ全部を落とす前にまた最初の方で斬った頭を再生されて終わりがない。かと言って今のように大振りになるとあっさり避けられてしまう。


 八方塞だ。こいつ本当に強い。勝負を仕掛ければ勝てるかもしれない。でもそれは確実じゃない。確実に勝てるわけでもないのに下手に勝負を仕掛けて俺が負ければダキちゃんが危ない。そんな危険な橋は渡れない。


 それはつまりこの化け物との決着は簡単にはつけられないことを意味する。勝負を決めに行って負けるわけにはいかない。普通に攻撃してては倒し切れない。俺に出来ることは今暫くこの均衡のまま時間を稼ぐことだけだ。


 どうせ時間稼ぎに徹するのなら俺としてはゆっくり戦いたかった。それなら時間も稼ぎやすいはずだから。


 それなのに、あるいは俺のそんな内心を感じ取ってか龍は一切俺に時間を与えてはくれなかった。連撃!連撃!また連撃!


 呼吸する時間もないほどに尻尾による連撃に次ぐ連撃。いくら斬り落としてもきりがない。斬ったはしから再生されてしまう。


 万が一俺が受け損なって一撃でも食らえばいきなり戦局が傾くかもしれない。そんな綱渡りの攻防なのに龍は息継ぐ暇もないほどに俺に肉薄してくる。


 こいつは本当に強い……。正直ハイドル達から話を聞いてた時は九頭竜のことは侮っていた。ドラゴン族にとっては強い程度なんだろうと思ってた。


 でも違う。こいつはそこらの国津神なんて比べ物にならないほどに強い。まさかこんな化け物がいたなんて……。


 何でこんな化け物が東大陸にいるんだ?東大陸も他の大陸同様に国津神が割拠してたけどタケちゃんが総括してるらしいって聞いた。タケちゃんならこんな化け物がいれば早々に討伐に乗り出してそうだ。


 それなのに今まで何の行動も起こさず放置していたのか?あるいはタケちゃんはすでに何か手を打ったことがあるけど全て失敗していたとか?討伐隊を出したけど全滅させられたとか?


 まさかタケちゃんが勝ち目がなさそうだと思って手を引いたってことはないと思うけど……。俺の知ってるタケちゃんの性格なら例え殺されても戦う道を選ぶはずだし……。


 いや、待てよ?これまでの旅で俺はタケちゃん自身にも出会ってないしタケちゃんの話もほとんど聞いたことがない。


 この大陸の総括をしてるはずなのに?俺は今まであまり深く考えてこなかったけどもしかして…、もしかしてだけどタケちゃんはすでにこの化け物に戦いを挑んで敗れたとか?じゃあもうタケちゃんは死……。


 いやいやいや…。あのタケちゃんに限ってそんなことあるはずは……。でも今目の前にいるこの化け物の強さはどうだ?本当にタケちゃんがこの化け物と戦って勝てるって言い切れるか?


 そもそも何でタケちゃんがまだ無事なら俺と一切出会っていない?何の情報も出てこない?出てこないんじゃなくて出てこれないんじゃないのか?例えば命はまだあるけど瀕死で動けないとか?


 そんなことを考えていたのがまずかった………。気がついた時には龍は九つの頭に力を溜めていたのだった。


 ………やべぇ。あれってドラゴン族のぶれすってやつか?


九頭九尾龍「グググッ……、グアアァァァーーーー!!!!」


スサノオ「………。」


 あぁ…、これは死んだわ……。タケちゃんが戦ってたとしてもこうして一手失敗すれば今の俺と同じように負けてただろうな。そう思ったら案外タケちゃんも負けたかもしれないということに納得がいった。


 九つの頭からぶれすが吐き出される。しかもこれ…、こんなのありかよ…。どんだけ常識はずれなんだよ………。


 このぶれすは一つの頭につき一つずつ違う属性の攻撃を放ってきている。九つの属性を同時に撃ち出すとかどんだけ反則なんだよ。こんなのどうやって防御すればいいんだ?


 あぁ…、俺もこんなところで死ぬのか………。


 ………

 ……

 …


 いやだ!絶対にいやだ!こんなところで死にたくない!俺はまだダキちゃんに好きだって伝えてない!


 まだほんの一目会っただけで好きとか何の冗談だって思わなくもない。俺だって自分じゃなかったらそう言って笑って馬鹿にしたかもしれない。


 でも俺は自分の気持ちに嘘はつけない。本当にほんのちょっと会っただけのあの娘を俺は本気で好きになっている。だから俺は絶対こんな所で死ぬわけにはいかない。


スサノオ「―ッ!!!」


 俺はこのぶれすを耐えようと力を込めて備える体勢をとった。


 あぁ…。わかる。俺が今まで使ってきた力なんて俺の力の表層でしかなかったんだ。ほんの少しだけ自身の力への扉を開いた俺はそこから溢れた力を身に纏う。


 ただそれだけで九つの属性のぶれすは俺に触れることなく纏った力に阻まれて消え去っていたのだった。


 ぶれすを凌いだ俺と龍が睨み合う。戦いは次の段階へと進んでいた。



  =======



 それから一体どれほどの時間を戦い続けていただろうか。ほんの短い時間のような気もするし果てしなく長い時間のような気もする。


 龍がぶれすを吐く。俺は身に纏った力で耐える。龍が尻尾で乱打してくる。ほとんどは途中で斬り落とすけど偶に当たる。


 龍はいくら斬ろうが殴ろうがすぐに再生するのに対して俺は疲労の蓄積もあるし傷を負えば龍ほど瞬時に再生出来るわけでもない。


 楽しい。この化け物との戦いはとても勉強になる。もっとずっと戦っていたい。


 戦いなんて嫌いだった。力なんてなくてもいいと思っていた。そのはずなのに今俺はもっと戦いたい。もっと力が欲しいと思っている。


 だけどいつまでもこうしてるわけにはいかない。俺はいずれ力も尽きるし、今は軽傷に思えても傷が蓄積すれば衰える。


 それに比べてこの化け物はどれほど傷を与えても瞬時に再生してしまう。これだけ戦っているのに力の底が見えない。このままじゃ俺の方が先に力尽きるかもしれない。


 確かにもっと戦っていたいのは本心だけどそれで負けてしまうわけにはいかない。だったらこのまま同じことの繰り返しじゃ俺の方がジリ貧なんだ。こっちから動くしかない。


 俺は龍の水のぶれすの中へと突進する。ぶれす攻撃してきてるってことはその間はその頭は無防備になる。俺もぶれすの中を突き進んでいくだけ傷も負うし力も消耗するけどこのままじゃジリ貧の俺は仕掛けるしかないんだ。


 何とか首まで突進出来た俺は剣を振るう。ドサリと首が落ちたけどまだ六つだ。さすがにぶれすの中を突進してきて勢いが弱まってた状態じゃ全部の首を落とし切れない。


 当然このまま全ての頭を黙って落とされるような敵じゃない。即座に尻尾が俺に迫ってくる。ここまで温存していた俺の中の力を引き出す。


スサノオ「滅。」


 翳した手の先、九頭九尾龍の後ろの半分は俺の力で消滅した。でも俺の中の力もごっそり減った感じがする。これ以上手間取ったらやばい。これで決めてしまわなければまたこの化け物は再生するだろう。


 再生させる前に残った三つの首も斬り落とした。森の中には頭と後ろ半身を失って巨大な丸太のようになった龍の胴体が転がっていた。


 これでもまだ再生する可能性はある。頭が全て落ちたら再生しないかもと思ったのは俺の単なる想像でしかない。


 確実に止めを刺すために俺は龍の胴体も粉微塵に斬り刻んだのだった。



  =======



 何とか勝てた……。いや…、本当に勝ったのか?まだ動き出すかもしれない。俺は目を離せばまた再生するのではないかと思って九頭九尾龍の残骸をいつまでも見つめ続けていた。


 そこでふと右手に持った十束剣に違和感を感じた。


 何だ?何か剣が熱いような気がする。


 そう思って剣を持ち上げてみる。熱いような気がするんじゃない。どう見ても熱いだろうと思うほど赤熱していた。


 まさかあの九頭九尾龍の力はヒヒイロカネを溶かすほどのものだったのか?


 じっと剣を見つめ続ける。どうやら九頭九尾龍の力のせいだけじゃないみたいだ。俺も戦いの間中剣に力を流し込み続けていた。


 俺の力を流し込まれ続けていたことと、龍と斬り合うことで龍の力も剣に流れ込みこんなに赤熱しているらしい。


 その二つの力が交じり合い剣を別の物へと変えていく。この剣に蓄えられた熱により気流が変化し上空に暗雲が立ち込める。


 周囲に散らばっていた九頭九尾龍の残骸が剣に吸い寄せられるように集まってまるで飲み込まれるように消えていく。


 でも消えたわけじゃない。その力の全ては剣に集まり内包されている。俺の力と九頭九尾龍の力の混ざり合った神剣………。


 上昇気流によって発生していた雲からとうとう雨が降り始めた。


スサノオ「内包するその力により雨を呼ぶ剣……。神器、天叢雲剣あめのむらくものつるぎ………。なんてな……。」


 俺は自分の口から出た言葉にふっと笑う。何を馬鹿なことを……。それじゃまるで俺が神器を作り出したみたいじゃないか。俺みたいな半端者が………。


 いくら九頭九尾龍との合作だとしても俺がそんな大それたことを出来るはずもない。これはちょっと今回の戦いで変な力を持ってしまっただけのただの十束剣の一振りに過ぎない。


 九頭九尾龍も復活することはなくこの剣に吸い込まれてしまったしもうここで監視している必要もないだろう。


 それにいつの間にかイナリって娘の気配もわからなくなっている。それほど長い時間戦っていたのか。あるいはどこかで意識でも失ったのか。今この場では俺でも探すことは出来ない。


 もう九頭九尾龍はいなくなったから逃げる必要はなくなったかもしれないけど、うまく逃げられたのならそれはそれでよかっただろう。


 ダキちゃんとは……、いずれまたどこかで会えるさ。それが二人の運命ならば……、きっと………。


 だからそっちのことについてはもういい。それよりもこっちのことを片付けよう。


スサノオ「おい。もう安全になったし出てきたらどうだ?」


 俺は戦いで消し飛んだ森の跡地から移動して少し離れた所に残っていた森の藪に声をかけた。するとガサリと藪から音がして一人の男が飛び出してきた。


ハイドル「すみませんでした!!!」


 出て来たハイドルはいきなり頭を下げた。下げたっていうかこれは土下座だな。高天原には土下座っていうものがあったけど葦原中国でも土下座があったのか。


 似たようなことになったことはあったけどそれを土下座と認識してやっていたかどうかはわからない。でも今目の前のハイドルはこれをそういう謝り方だと認識した上でやってるように思える。


 まぁそれはいいか。葦原中国に土下座があろうがなかろうが俺には関係ないしどうでもいい。それよりハイドルが何をそんなに謝っているのかわからない。


スサノオ「どうしたんだ?何でいきなりそんなに謝っているんだ?」


ハイドル「………。」


 一瞬だけ肩をビクリと震わせたハイドルは頭を下げたまま暫く押し黙った。俺はそれ以上急かせることなくハイドルが話し始めるのをただじっと待つ。


ハイドル「俺は……、スサノオを…、あっ、いや…、スサノオ様を九頭竜とぶつけて戦わせてあわよくば両方を消そうと考えてた。九頭竜だって本当はそんなに悪い奴じゃないかもしれない。もちろん俺はそんなに九頭竜のことを詳しく知ってるわけじゃない。だから悪い奴かもしれないしそうじゃないかもしれないって程度の関係なんだ。」


 そこまで一息に言ったハイドルは頭を上げた。


ハイドル「でもドラゴニアで盟主として認められた九頭竜は俺にとって邪魔だった。俺が権力を握るには九頭竜を始末するしかないと思った。だからスサノオ様と戦わせて勝った方を俺が倒せば俺がドラゴニアで一番になれると思ってた。俺はどうかしてたんだ…。俺みたいな奴が一番なわけない。俺はただの小物だった。スサノオ様と九頭竜の戦いについていくなんて出来なかった。」


スサノオ「ふむ………。」


ハイドル「だから許してほしい!許すというのは俺を許して命を助けて欲しいって意味じゃない!今回の件はドラゴニアの総意じゃないんだ!俺が勝手にやったことだ!だから俺の命をもって許してもらいたい。ドラゴニアには責任はないんだ!頼む!」


 そこでもう一度ハイドルは頭を下げた。いや、地面に額を擦り付けた。


スサノオ「まぁ知ってたよ。」


ハイドル「………え?」


 俺の言葉を受けてハイドルは間の抜けた顔で俺を見上げた。


スサノオ「知ってたっていうと変だけど、九頭竜が本当に悪い者かどうかは俺も疑ってたのはわかってるだろ?それにヒュードルとハイドルが俺達を利用して九頭竜にぶつけようとしてたのはわかってる。それを黙って自分だけが罪を被ってハイドルがヒュードルを庇ってるのもな。」


ハイドル「―ッ!!!」


 ハイドルが目を見開く。そりゃわかるだろ…。どう考えてもヒュードルだってグルだ。むしろ場合によっては向こうが主犯かもしれない。


 でもハイドルは自分の独断専行だと言った。ドラゴニアに罪はないと言いながら、その裏で言っていた意味はヒュードルも知らなかったのだと、罪はないのだと言っていたんだ。それくらいなら俺にだってわかる。


スサノオ「だから今更ハイドルに何か責任をとらせようとは思ってないよ。それよりもさっき重要なことを言ったよな。九頭竜がドラゴニアの盟主?それは遠呂知って奴じゃなかったのか?つまり遠呂知と九頭竜は同一人物ってことか?」


ハイドル「あぁ…、そうだ。」


 なるほどな。それは最初から考えていたことだ。それからもう一つ……。


スサノオ「それで遠呂知っていうのはヤマタ様って奴のことか?」


ハイドル「らしいな…。ドラゴニアで遠呂知様って呼ばれるまではヤマタ様って呼ばれてたそうだ。」


 やっぱりな。そもそもヤマタ、八つ股ってことは先が九つあるってことだ。つまり九頭の竜は八つ股。遠呂知っていうのは大蛇みたいな意味かな。


 ドラゴン族の中では竜はドラゴン族を意味する。ドラゴン族じゃないけど竜の一種のようなものは龍と呼ばれる。大蛇も龍だろう。


 ってことは八つ股の大蛇、即ち八岐大蛇、八俣遠呂知は九頭の龍ってわけだ。ただ何故九頭竜が龍ではなく竜なのかはわからない。


 推測としてはドラゴン族つまり竜の盟主となったから龍ではなく竜としているのかもしれない。


 そしてヤマタ様。ヤマタ様はイフリル達火の精霊の間でも敬われていた。今日見た九頭九尾龍も基本的には炎、火の属性だった。イフリル達火の精霊がヤマタ様に従ったのもその辺りが関係しているかもしれない。


 あぁ…、イフリルに何て言おう………。お前達の崇めるヤマタ様は俺が斬り刻んで殺してしまいまいたよとは中々言えない。


 火の精霊やドラゴニアが力ずくで従えられたのではなく進んで服従したような節があることから、ヤマタ様はそれほど悪い者ではなかった可能性が高い。それなのに殺す必要もなかった相手を俺が殺してしまった。


 どうしよう……。でも何かまだ腑に落ちないな。何が…、とは言えない。はっきりとはわからないけどまだ何か違和感がある。


 それにあのままじゃイナリって娘やその周りにいたかもしれないダキちゃんが被害を受けていたかもしれないんだ……。だからやむを得なかったと思うしかない。


スサノオ「とにかく一度グイベルの砦に戻ろうか。」


 ここでこうしていても仕方がない。イフリルに何て言えばいいのかまだ考えはまとまってないけどこのままここでじっとしてても何も解決しない。


ハイドル「とりあえずその面を取りませんかね?」


スサノオ「ん?何で?」


 ハイドルがお面を被れって言ったのに…。それにこのお面のお陰で俺は今までにないほどの力を出せたし操ることが出来た。


 これまでも敵が強いほどこちらも力を出せていたそうだから、あれほど強かった九頭九尾龍と戦っていればお面がなくても自然とこのくらいの力を出せていた可能性はある。


 でもそれはあくまで可能性の話であって実際にそうだったかどうかは最早知りようはない。ただ一つ確実なことはこのお面のお陰で俺は今回力を出せたということだけだ。


ハイドル「えっと…、怖いんで……。」


 ハイドルは目を逸らしながらそれだけを言うのが精一杯だったらしい。そう言えば頭を下げてた時は必死だったからか俺を見つめてたハイドルは落ち着いてから一度も俺と目を合わそうとしない。どうやら本気で怖いらしい。


スサノオ「はぁ…。それじゃこれでいい?さぁ戻ろう。」


ハイドル「ありがとうございます。」


 俺がお面を外すと何とかこっちを見れるようになったらしいハイドルがしおらしくお礼を言った。今まで偉そうだったし、今だって完全に口調が変わったわけじゃなくて時々偉そうな口は出るけど、ここまでしおらしくなると何かすごい違和感を感じる。


 そんなハイドルを連れて二人で砦まで戻ったのだった。




  ~~~~~ハイドル~~~~~




 何なんだ?何なんだこれは?意味が分からない。スサノオと九頭竜の戦いは俺の想像を遥かに超えていた。


 俺なんかじゃとてもついていけない。俺が今間に割って入ったら一瞬もかからず蒸発して消え失せるだろう。


 次元が違いすぎる。勝った方を俺が止めを刺す?馬鹿か俺は。どちらが残ろうとも俺の歯が立つ相手じゃない。傷一つつけることも出来はしない。


 駄目だ。こんな奴らと争ってはドラゴン族全てが滅びてしまう。俺の権力がどうだとかそんなことはもうどうでもいい。


 何とかしてドラゴニアの、いや、ドラゴン族の存続だけは認めてもらわなければならない。俺一人の命で許しを乞えるとは思えないがそれでもやるしかない。


 全てを、本当のことを話そう。それで俺の独断だとして俺だけを処分して貰って他の者達を許してもらうように願い出るしかない。


 俺がそんなことを考えているうちに決着はついた。スサノオが、いや、スサノオ様が圧倒的力で九頭竜を捻じ伏せたように見える。


 でも実際はそうじゃないだろう。九頭竜もとんでもない化け物だった。俺は九頭竜なんてちょっとそこらのドラゴン族より強い程度だと思っていた。それが今のスサノオ様とあれほど戦えるほどの化け物だったんだ。


 結果的に負けたとは言え遠呂知様にも逆らったらドラゴニアなんて簡単に滅ぼされてしまうような相手だった。何があってもこの二人と敵対するような未来は避けなければならない。


 もし…、もし俺に未来があるのだとすれば、これからはドラゴニアがこの二人と争うことのないように未来を作っていかなければならない。


 そうしてスサノオ様に全てを話して頭を下げた俺をスサノオ様は苦笑を浮かべて許してくださった。


 この時俺は決めた。俺の残った命はこれから全てドラゴニアをスサノオ様と遠呂知様に敵対しないためだけに使う。そのために俺はこの場で生き残ったんだ。


 その決意を持って俺はグイベルの砦へと戻ったのだった。



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