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転生無双  作者: 平朝臣
204/225

外伝2「スサノオの冒険14」


 グイベルの砦でゆっくり休んでから旅を再開する……、と思ってたけどどうやらそうはいかないらしい。


ハイドル「だからまずはスサノオが自分の力を自由に使えるようにしようじゃないか。」


 ハイドルがそんな話をし始めたからだ。


 どうやら前回俺がウカノとのやり取りがあった際にミカボシに引っ張ってもらわないと力を解放出来なかったことを言ってるらしい。


ハイドル「スサノオの力があれば助かるはずの場面でスサノオが力を出せないから仲間が死にましたじゃ話にならないだろう?だからスサノオにはその力を自在に使えるようになってもらわないといけないんじゃないか?」


スサノオ「なるほど………。」


 確かにハイドルの言うことも尤もだ。俺もお母さんとの修行で変身を使えば力を出せるようになったと思い込んでいた。でも実際にはまだ俺は出せていない力がたくさんあると自覚させられた。


 そもそも俺に自覚はなかったけど仲間が言うには俺は敵の強さに合わせるかのように変身して力を解放していたらしい。


 つまりミカボシのような強い敵の時は俺も強いけど、弱い敵と戦ってた時は俺が出せていた力も弱かったってわけだ。


 もしこれがハイドルの言うように俺が自分の力を自在に操れていれば、ウカノのように力を見せるだけで引き下がって争いにならなかった者もいたかもしれない。


 あるいはこれまではなかったけど、今後俺の仲間が危機に陥る可能性もないとは言えない。その時に俺が力を出せていなかったから犠牲を出してしまうという可能性もある。


 それならハイドルが言うように俺の力をきちんと使えるようにしておくのが良いのだろうとは思う。ただ問題はそれじゃどうやって俺の力を自在に使えるようにするのかってことだ。


 これでも俺はお母さんとの修行で力をつける修行よりも力を出せるようになることを中心に修行した。その結果力を出せない俺の力を引き出すために変身を考えてくれたんだ。


 前でも何年もかけてようやく今の変身で何とか力を出せるようになったのに今からいきなり自由自在に力を使えるようになる方法なんてあるとは思えない。


スサノオ「ハイドルの言うことはわかった。でもはいそうですかと言って自由に力を使えるようになる方法なんてないよ。あったらとっくに俺がしてるわけだし………。」


アン「ですよねぇ~……。」


 アンの相槌に皆もウンウンと頷く。やっぱり皆俺の精神が弱いってわかってたんだ………。


ハイドル「そうでもないぞ。俺がその方法を考えてやった。」


スサノオ「え…?」


 ハイドルっていっつも偉そうなしゃべり方だし、命令してくるような時もあるし、俺達のことを召し使いか何かと勘違いしてるんじゃないかと思ってたけどちゃんと俺達のことも考えてくれてたのかな?


アン「どうせ碌でもないことを考えてるんでしょう?!」


ニンフ「でしょうね~。こいつあたしに夜這いしてきたしね!」


アン「え?ニンフにも?私にもよ!?」


ゾフィー「ゾフィーにも。」


 何か続々と新事実が明らかになってきた。


 どうやらハイドルはアンとゾフィーとニンフに夜這いをかけたらしい。この野郎……。もちろん三人は俺と何か男女の関係にあるってわけじゃないけど、だからってハイドルに夜這いされてうれしい気持ちにはならない。


ウカノ「あれ?私には来てないね。私は女として見られてないってことかね?」


 そこへウカノが割って入る。そう言えば私も私もと皆で言い合ってる中にウカノは入ってなかった。


アン「ウカノ様はまだ一緒に旅をするようになって日が浅いからじゃないでしょうか?!それとも神様相手だから流石にビビッたのか?!」


ゾフィー「それにゾフィー達は夜這いには来られたけど追い返した。そもそも何もされてない。」


 ほっ。よかった。そうだったのか。もしハイドルの手篭めにされてたら俺はハイドルに何かしてたかもしれない。未遂だったと聞いて俺は胸を撫で下ろした。


イフリル「ふむ…。恐らくこの前ウカノ殿との時に初めてスサノオの本当の力を見て、これまでのスサノオへの態度から恐怖心を抱いたんじゃろう。だからウカノ殿に夜這いする暇もなくスサノオへの対応をどうしようかと考えるので精一杯だったんじゃろうな。」


ハイドル「うぐっ……。」


 イフリルの言葉でハイドルが顔を歪める。それはつまり図星だったってことでいいのか?


 俺は別にハイドルの態度に怒ってはいない。だから何か仕返ししてやろうとかは考えてないけどハイドルはそれを心配してたのかな。


 でもそれってつまり俺達に横柄な態度をとっていたって自覚があるってことだよな……。自覚があってああいう態度だったなんて…。何ていうかすごい性格だな。領主の息子だとそうなるのかな?


 あれ?でも俺も一応天津神の棟梁の息子のはずだけど全然そんなことないや。じゃあやっぱり生まれじゃなくて育ち、つまり本人の性格次第かな。


ウカノ「ふぅん。それで私への夜這いは先延ばしになったのかい?それは残念だねぇ。」


スサノオ・ハイドル「「………え?」」


 一瞬の間を置いて俺とハイドルの声が重なった。え?それってウカノは夜這いされたら受け入れるつもりがあったってこと?


ハイドル「何だ。お前は俺に抱かれたいのか?そうかそうか。それなら今夜にでも…、いや、今すぐでもいいぞ。さぁ別室に行こうか。」


 すぐに立ち直ったハイドルがウカノを連れて行こうとする。すると沸々と俺の中で何か言い知れない不快感が広がった。


 どうしてこんな気持ちが湧くんだろう。俺とウカノは別に何でもないはずだ。出会ったのだってついこの前だ。


 それなのにこんなに不快になるのはやっぱりウカノを見てるとダキちゃんを連想してしまうからだろうか?


 もちろんウカノのことだって嫌いじゃない。でもまだウカノが誰と付き合おうとも俺が何か言うほどの関係じゃない。


 今後一緒に旅を続けて好きになったり、男女の関係にはならなくとも仲間として色々言うような仲になる可能性はある。


 でもそれは将来そういう可能性もあるってだけで現時点ではそんな関係じゃない。それなのに湧いてくるこの気持ちに俺自身が戸惑っている。


ウカノ「あん?あんたの相手なんてするわけないだろう?もし夜這いなんて来ようもんならぶっ殺してたのにって意味だよ。」


スサノオ・ハイドル「「………。」」


 俺とハイドルは押し黙った。ウカノさんマジこえぇっす………。表情は笑ってるのに目は笑ってない。これは冗談とかじゃない。本当にハイドルが夜這いしてたら殺されてた映像が目の前に浮かんでくるかのようだ。


ウカノ「スサノオが夜這いに来たら相手するけどハイドルが来てたら確実に殺してるね。その覚悟があるならいつでも来なよ。」


 え!?俺ならいいの?ウカノの言葉にドキッとさせられた。まだ出会って間もないのに何でウカノはそんなことを……。俺からかわれてるのかな?


アン「あっ!ずるいですよ!スサノオ様の初めては私が貰います!」


 アンが割り込んでくる。初めてって何だよ…。いやまぁ…、そりゃ俺はまだ未経験ですよ?でも男の初めて貰うってどういう感性なわけ?ウィッチ種にとっては男の初めてって何か意味あるのか?


ゾフィー「初めてはアンに譲る。でも子種はゾフィーも貰う。」


 おい…。ゾフィーの言葉はそれはそれで何か生々しいな…。子種だけ貰えば他はどうでもいいのか?


ニンフ「はいはい!じゃああたしも!」


 何でだよ…。ニンフも出会ったのはウカノとそれほど変わらないくらいだろう。まだそんなにお互い知り合うほどでもないはずだ。


ハイドル「ええい!そんな話はどうでもいい!それよりもスサノオの力の話だ!」


 ハイドルの一喝で全員の視線がハイドルに集まる。そう言えばそうだった。その話が始まりだったんだ。男女の仲については今話す必要はない。


ミカボシ「それで具体的にどうするってんだぁ?」


 ミカボシは胡散臭そうにハイドルに問いかける。俺だってそんな簡単にいくとは思えない。そんなことが出来るのなら俺だってとっくにそうしてるはずだ。


ハイドル「まずスサノオは仲間に頼りすぎだ。危機感が足りない。」


ヤタガラス「どういう意味っすか?アニキは全部一人で解決してるっすよ。」


 ハイドルの言葉にヤタガラスが噛み付く。そう言ってくれるのはうれしいけど俺はヤタガラスが言うほど何でも自力でやってるわけじゃないから、そこまで言われると逆に何か俺の方が居心地が悪くなる。


ハイドル「確かに主要な戦いはスサノオが自ら戦ってきたかもしれない。だが考えてもみろ。スサノオが戦ってきた中で命の危機、仲間の危機、国の危機なんてものがあったのか?俺は確かにスサノオの戦いをほとんど見たことはない。だが俺の知る範囲での戦いではスサノオは気楽に構えていた。それはもし自分が負けても何とかなるっていう余裕の表れだったんじゃないのか?」


 ………。言われて思い返してみる。確かに俺は危機感が足りなかったかもしれない。いざとなれば何とかなるんじゃないかと楽観していた部分がある。


 それは俺が葦原中国に降り立ってから…、お母さんに修行してもらってから負けたことがないからだ。それに負けたからって俺は失うものがなかった。


 命を取られたら取られたでいいかと思ってた。故郷はすでになく仲間もいない。そんな俺が負けても俺が死ぬだけだと思ってた。


 そしてアンをはじめとした仲間達が出来た頃には今度は俺が負けても仲間達が何とかしてくれるんじゃないかと甘えていたかもしれない。


 俺が仲間を守ってみせるとかそこまで固い決意があったわけじゃない。ただ漠然と皆で力を合わせれば俺が負けても何とかなるんじゃない?みたいな軽い気持ちだった。


 ハイドルの言う通り俺には危機感が足りなかった。それは否定しようもない。


ハイドル「だからまず始めにスサノオには一人で九頭竜討伐を行ってもらう。」


スサノオ「え?」


 俺一人で討伐?それ自体は別にかまわない。仲間達に危険が及ばないなら俺としても気が楽になるくらいだ。でもそれじゃ仲間が危険になるっていう危機感はなくなってしまうんじゃないだろうか?


ハイドル「わからないって顔だな。まずお前は仲間が何とかしてくれるだろうっていう甘えがあった。だから仲間と別行動しろと言っている。」


 なるほど……。それは俺も今さっき考えてたことだ。俺が負けても仲間がなんとかしてくれるだろうと思ってた節はあったかもしれない。


ハイドル「今回の九頭竜討伐はスサノオ一人で敵を探して戦ってもらう。誰も助けてくれない中での戦いとなれば今まで出せていなかった力が出せるかもしれない。ついでに言っておくとお前が九頭竜に負けて帰ってこなければ仲間達が大変な目に遭う。」


ウカノ「はぁ?あんたが私らをどうにか出来るとでも思ってるのかい?」


 ハイドルの言葉にウカノが不機嫌そうに応じる。そりゃそうだ。ついさっきもそんな話になったのにまた同じ話になればそういう態度になってもおかしくはない。


ハイドル「まっ、待て。ちゃんと話を聞け。俺が実際にスサノオの仲間達に何かするっていう話じゃない。そういう気持ちを持って臨めって意味だ。自分が負けたら仲間達も大変なことになる。そういう危機感を持てっていう話だ。」


 ウカノに睨まれたハイドルはたじろぎながらもなんとかそう答えた。


スサノオ「なるほど……。」


 確かにそういう覚悟を持って戦いに赴くのは良いかもしれない。俺一人だけが敵に向かっていき、そして俺が負ければ皆もひどい目に遭うんだと思って全力で事に当たる。そうすれば出せていない力も出せるかもしれない。


ハイドル「それからもう一つ。お前ゾフィーみたいに面を被れ。変身ってのはつまり自分じゃない別人になったつもりで力を引き出してるんだろう。だったら面を被ることでもっと強く別人になった気になればいい。」


ゾフィー「スサノオ、ゾフィーとお揃い?」


 ゾフィーが『お揃い?お揃い?』って言いながら俺のまわりをウロチョロとする。そんなにお揃いだとうれしいのかな……?でも俺はそれどころじゃない。流石にゾフィーみたいに不気味なお面は被れない。


スサノオ「何の皮かわからないあのお面を俺にも被れと…?」


 そうだ。ゾフィーのお面は物凄く精密に出来ている……。まぁはっきり言えばあれって精密に作ったんじゃなくて誰かの顔の皮を剥いでそのまま被ってるんじゃないのか?って俺は思ってる。そんな不気味なお面はさすがに被りたくない。


ハイドル「何も同じものを用意する必要はない。スサノオが別人になるための面を作って被ればいい。」


 ハイドルもあのお面はちょっと普通じゃないと思ってるようだ。若干引き攣った顔をしながら別の物を用意すればいいと言った。


 あのお面が何の皮でどうやって出来ているのか誰も聞けない。だってあまりにお面の顔が精密に出来すぎているから…。皮で出来た精密な顔のお面…。誰でも考える。それは誰かの顔を剥ぎ取ったんじゃないかって…。もしそうだと答えられたと思うと怖くて聞けない。


ニンフ「それじゃさっさとスサノオのお面を作りましょ!」


 ニンフはまだゾフィーがお面を被ってるところを見たことがないから気楽にしていた。もちろん誰もそれ以上ゾフィーのお面について詮索したくないのでニンフの提案に乗ってさっさと話題を変えてお面を作りに場所を移動することにしたのだった。



  =======



 お面を作ることになったのはいいけどまずは素材選びだ。当然皮は却下。理由はもちろん気持ち悪いから……。ということで他に考えられるのが木か土か金属ってところか。


ウカノ「ヒヒイロカネで作ったらどうだい?やっぱり一番の者が身に付けるにはそれなりのものでないとね。」


 ウカノの提案に俺以外の全員が目を剥いて一斉にウカノを見た。


アン「ヒヒイロカネでそれなり?!」


イフリル「そもそもそんなにヒヒイロカネがあるものなのか?」


 アンはウカノの言葉を深読みしすぎているだけで、ウカノだってヒヒイロカネが大したことがないと言ってるわけじゃないから今はおいておく。


 イフリルの疑問は尤もだ。確かに葦原中国にはヒヒイロカネはほとんど存在しないらしい。そして高天原にだってそんなに大量にあるわけじゃない。だからイフリルの疑問の通りウカノが言うほど簡単にホイホイとヒヒイロカネは使えない。


スサノオ「流石にイフリルの言う通りヒヒイロカネの持ち合わせはないよ。」


 高天原に昇れば調達自体は出来るかもしれないけど、高天原を追放された俺が昇ればまた余計な騒ぎになるだろう。だから手持ちにヒヒイロカネがない以上はヒヒイロカネで作るというのは現実的じゃない。


ウカノ「そうかい……。でもそれじゃ他にスサノオに相応しい素材なんてないしお面なんて無理だね。」


 何でウカノはそんなに俺に高級品を身に付けろというのだろうか……。高天原にはヒヒイロカネはそれなりにあるけど、それでもやっぱり高天原でも高級品だ。天津神でも庶民的な家ではヒヒイロカネなんて触れることも出来ない。


 俺がヒヒイロカネ製の十束剣を持っているのはお父さんが天津神の棟梁で俺にもそれなりの身なりをしろって持たさせられていたからだ。俺が自力で手に入れたわけじゃないし、手に入れようと思って手に入れられるようなものでもなかった。


 大人になった今なら高天原に昇れば手に入れる方法もあるかもしれないけど、そもそも高天原に昇れないんじゃ土台無理な話だ。


スサノオ「ヒヒイロカネの持ち合わせはないけど王金…、じゃなくてオリハルコンならあるけど。」


 高天原で王金と呼ばれていた金属は葦原中国ではオリハルコンって呼ばれてるらしい。呼び方が違うだけで物は一緒だ。


 オリハルコンの生成なら俺にでも出来る。葦原中国じゃオリハルコンも珍しい品らしいけど自力で生成出来る俺にとっては大したものでもない。


ウカノ「王金かぁ…。まぁ一先ずはそれで仕方がないかねぇ……。」


 ウカノも納得した所で早速オリハルコンでお面を作ることにした。天津神や国津神の俺達にとってはオリハルコンはそれほど珍しい金属でもないけど葦原中国の皆にとってはオリハルコンがホイホイ出てくるだけでもすごいことらしい。目を白黒させていた。


 とりあえずそれらは無視してオリハルコンでお面らしいものを作ってみた。


スサノオ「これでどうかな?」


 俺が出来上がったお面を皆に見せてみると皆の反応はいまいちだった。


アン「スサノオ様!可愛すぎます!」


ゾフィー「戦の面じゃない。」


イフリル「用途を考えてデザインするべきじゃな。」


 皆に散々な言われようだった。そんなに変かな?


ハイドル「俺の話を聞いてたか?お前が別人になるためのお面だぞ?お前はそんなやわな表情の者に変身するつもりなのか?」


 ハイドルに言われて俺もお面を正面から見つめてみる。………別に普通の顔に見えるけど?


ヤタガラス「アニキ。その面は表情が柔らかすぎるっす。もっと格好良くビシッとした表情にしましょう!」


ミカボシ「そうだな。戦いに向かう者の表情にゃ見えねぇわな。もっと締まった顔にしたらどうだ?」


 そう言われてもう一度しっかり見てみる。………確かにやんわり微笑んでるように見える。


ウカノ「それじゃ私が表情を作ってやるよ。」


 そう言ってウカノはひょいっと俺の手からお面を奪い取った。それなりに力のある国津神であるウカノならオリハルコンの加工なんてお手の物だろう。というわけで暫くウカノに任せてみることにした。


ウカノ「これでどうだい!」


一同「「「「「おお~~~!!!」」」」」


 パチパチパチッ!と拍手が鳴り響く。ウカノは手先が器用なようだ。ウカノが手を加えたお面の出来はとてもよかった。でも問題がある。それは……。


スサノオ「これはさすがに怖すぎじゃない?」


 そう。お面の表情が滅茶苦茶怖い。ただのお面のはずなのにすごい迫力がある。これを被った者に襲われたらきっと俺ならビビる。


ニンフ「だから良いんでしょ?あんたはそれくらいじゃないと意味ないじゃん!」


ウカノ「まぁ試しにつけてご覧よ。」


 皆にそう言われてお面をつけてみる。そして部屋にあった鏡を覗き込んでみると………。


スサノオ「怖っ!」


 自分で見て自分が怖かった。そりゃもう……。どこの鬼かと思うほどに怖い。


ハイドル「それを見て怖いと思ってどうする。いや、思ってもいいんだが…。それが変身したお前だ。わかるか?それがお前だ!」


 ハイドルが何度も『それがお前だ!』って俺に言い聞かせてくる。


 ……何か…、段々……、俺も…、そんな気になって…くる。


スサノオ「俺は鬼神だ。俺は鬼神だ。俺は鬼神だ。俺は………。」


ハイドル「そうだ。お前は鬼神だ。悪の権化たる九頭竜を始末してこい!」


スサノオ「………いってくる。」


 俺はいつの間にか城を出て一人で九頭竜を探して回っていたのだった。



  =======



 ………あれ?俺何してるんだっけ?


 あぁ…、九頭竜を探してたんだっけ…。あてもないのにウロウロしてるだけで見つかるわけもない…。


 いや…、待てよ?この先に知ってる気配を感じる。これは…、イナリって呼ばれてた娘の気配だ。うまく隠してるけど俺にはわかる。この娘がいるってことはつまりこの先にダキちゃんもいるのか?


 前はあまり話せなかったけど今会いに行けばダキちゃんともっとお話できるかな?それなら向かってみるか?


 いやいや…、それどころじゃないだろ…。待てよ。九頭竜っていうのがこの辺りにいるはずだ。それなのにダキちゃん達もこんな場所にいたらもしかして襲われたりすることもあり得るんじゃないのか?


 ………やばい!もしダキちゃん達が襲われたら大変だ!早くダキちゃん達の所に向かってこの辺りから離れるように言わなきゃ!


 そう思い立った俺は急いでイナリっていう娘の気配に向かって走り始めた。走るっていうかもう途中から飛んでた。ただ速く移動するだけならもっと速くイナリって娘の所まで行けるけどそれだと周囲への警戒が疎かになる。


 俺がこんなに目立って飛んでるのに周囲を警戒もせずに行って、逆に俺が敵を、九頭竜を引きつける結果になってしまったら本末転倒だ。


 だから俺は周囲に警戒すべき敵がいないか確認しながら出来るだけ急いでイナリって娘の気配へと向かって行った。


 けどおかしい。俺が向かってから少ししたらイナリって娘の気配が方向を変えて移動し始めた。何かあったのか?まさか…、敵に出くわしたなんてことはないだろうな…。


 俺は逸る気持ちを抑えながら周囲を警戒しつつ出来る限り急いで気配が移動した方向へ方向転換したのだった。



  =======



 幸いこの辺りには敵の気配は感じない。そしてもうちょっとでイナリって娘に追いつくと思ったその時に……、そいつは現れた。


 山と見紛うほどの巨体。九つの頭。九本にわかれた尾。圧倒的な炎の熱量を内包した巨大な力の塊。まさに暴力の権化。


 九頭九尾の巨大な龍が突然森を割って姿を現したのだった。


 まさかイナリって娘の気配が急に方向を変えて移動し始めたのはこいつのせいか?ダキちゃんがこの敵に気付いて敵を避けるために方向転換した?それなら一応話の筋は通るか。


 そんなことを考えている間に俺は九頭九尾龍の目の前に降り立っていた。でかい。圧倒的なでかさだ。前までの俺ならこれを見ただけでビビってただろう。まぁ今も内心ビビってるわけだけど。


 だけどこのお面のお陰か、少しだけ冷静に物事を見ている自分がいる。戦って勝てるだとか負けるだとかそんなことは二の次だ。今俺がするべきことはイナリって娘の気配、そしてそこに一緒にいるだろうダキちゃんが離れるまでこいつの注意を俺に引きつけておくってことだ。


 もちろん勝てるなら勝てばそれに越したことはない。だけど無理に勝ちにいって失敗するわけにはいかない。だから無理せず時間稼ぎに徹する。


 俺がこいつと戦ってる間にイナリとダキちゃんが逃げられるまで…。俺は負けるわけにはいかない。


 ただ一つ気になることがあるとすればイナリって娘の気配の近くにドラゴン族と思われる者の気配があることだろうか。


 一緒に逃げてるんだろうから少なくとも敵対者ではないと思うんだけど…。何でダキちゃん達にドラゴン族がついているのかよくわからない。


 そう言えばこの気配も前に感じたことがある気がする……。どこで……。あっ!ダキちゃんが水浴びしてた泉の近くでか?そうか。そうだ!


 あの時も近くにいたってことはやっぱりダキちゃんの仲間なのか?詳しいことはわからない。ただ俺はこの気配は男だと思う。ダキちゃんの周りに男が……。何か沸々と嫌な気分が湧いてくる。


 そんなことを考えていると巨大な龍は俺を敵と認めたのか九つの頭が同時に鎌首を擡げて咆哮を上げたのだった。




  ~~~~~ハイドル~~~~~




 くくくっ!やったぞ!スサノオを丸め込むことに成功した。あのお面を被るとスサノオの性格が変わって放つ威圧も段違いになるからそれはちょっと困ったものだがな。


 だって考えてもみろ。もしあの性格であの力で俺に敵意を向けられたら……。


 うん…。死ぬな……、俺。抵抗は無意味だ。あれはドラゴン族の勝てる相手ではない。決して俺が弱いからではない。


 だからとにかく俺にスサノオの目が向かないように他の敵に目を向けさせる必要がある。幸い少し前に遠呂知がここを訪れたことはわかっている。今から探せば何とか見つけられるだろう。


 そうしてスサノオを誘導して遠呂知と潰し合わせる。どちらが勝とうともお互いに相当疲弊するはずだ。そこで俺が勝った方を始末すれば邪魔者を二人も同時に消せる。


 くくくっ!完璧だ。完璧すぎる!これで俺がドラゴニアの実権を握れる。


 スサノオが遠呂知を探して城を出た後をつける。……けど即座に見失った。速すぎだろ!もっとゆっくり移動しろよ!


 くそっ!くそっ!俺が追跡してないと意味がない。スサノオと遠呂知の戦いの場に俺もいなければ……。


 とにかく何とかして見つけ出さないと。そう思ってスサノオが向かったらしい方向へと進む。


 途中で方向転換してたらもう知らん。ここは賭けだ。真っ直ぐこっちへ向かったんだと思って進むしかない。


 そう信じて真っ直ぐ突き進んだ俺に天は味方した。あるいは俺を見放したとも言える。俺はこの日超常なる者同士の争いを目にした。


 巻き込まれたら俺など即座に消し飛ぶ…。そんな異次元の戦いを………。



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