外伝2「スサノオの冒険10」
二十数話だと言ったな?あれは嘘だ!
……まだ書き上がってませんけどどう考えても三十話超えますですはい。
南大陸から東大陸へ渡る場所はこれまでとは少し様子が違った。これまでは何とか一本の道として繋がってたけどここは大小の島が点々と浮かんでるだけだ。
島同士はそんなに離れてないし、間もほとんど浅瀬だから足が濡れる覚悟があれば普通に歩いても進める。濡れるのが嫌ならちょっと飛べば隣の島に渡っていける程度の距離しか離れてない。
東大陸の南部もドラゴニアの支配領域らしいから国境を越える心配はいらないだろう。ここに来るまでもハイドルのお陰で簡単に砦を通過することが出来た。
大陸を渡った先がどうなってるかは知らないけどハイドルが平然としてるんだから多分大丈夫なんだろう。
最初はこいつが同行することにそれなりの不安があったけど、今となってはその心配もない。何故か知らないけど最初の数日が過ぎた辺りからハイドルの様子が大人しくなり始めた。
ただ大人しく俺達を案内してるだけなら何の問題もない。案内がついただけよかったとすら思える。
ハイドル「俺は濡れたくないからさっさと飛んでいきたいんだが?」
ハイドルが不満げに顔を顰めて海岸から島へと渡る手前で立ち止まった。
アン「そうですか。だったら勝手に飛んでいかれれば良いんじゃないでしょうか?」
ゾフィー「………。」
アンがハイドルに答えると同時にゾフィーの短刀がカチンと音を鳴らした。
ハイドル「いいいいえ、行きますとも。」
ん?何かハイドルの様子がおかしいか?
スサノオ「おい…。」
アン「さぁスサノオ様っ!少し濡れてしまいますがそれは今までと同じです!さっさと渡ってしまいましょう!」
ゾフィー「スサノオ遅いならゾフィーが前歩く。」
三人の様子がおかしい。だから聞こうと思ったのにアンとゾフィーが『さぁ!さぁ!』と言って俺を押し出すからうやむやにされてしまった。
まぁいいか……。何か知らないけどこの二人が俺達にとって不利になるようなことをするはずはない。こっそり裏で俺達のために何かしてくれているんだろう。
………でも、まさかハイドルを大人しくさせるために二人がハイドルの要求を飲んでるとかじゃないだろうな?
ハイドルが二人のことをやらしい目で見ていたことは俺だってわかってる。そのハイドルがこんな旅についてきて…、しかも旅が始まってすぐに城で見た横柄な態度も鳴りを潜めたなんて何か出来すぎだ。
ハイドル『ぐへへっ!良いではないか!良いではないか!』
アン『あ~れ~!』
ゾフィー『お戯れはおやめください!』
ハイドル『良いのか?其方らがわしの言うことを聞かねば其方らの仲間がどういう目に遭うかわかっているのだろうな?』
アン『うぅっ…。』
ゾフィー『………。』
こうして二人はハイドルにその美しい肢体を………。
スサノオ「いかん!いかんぞ!それはいかん!」
アン「どうされたんですかスサノオ様?」
ゾフィー「スサノオお腹痛い?」
二人が俺を心配そうに覗き込んでる………。
スサノオ「うっ!皆の…、皆のために二人が体を差し出すなんて駄目だ!二人は俺が守るから!」
アン「えっ?えっ?ああああのっ!スサノオ様?!」
ゾフィー「スサノオここで子供作る?」
俺が覗き込んできてる二人を抱き締めたらアンはアワアワと慌て出してゾフィーは子作りしようと準備し始めた。準備って何かはともかく………。
イフリル「スサノオがいつも通りのわけのわからん妄想をしておるだけであろうよ。」
ヤタガラス「あぁ~…。アニキは時々どっかいっちゃうっすもんね。」
おい!どういう意味だよ!俺が妄想癖でもあるって言うのか?しかも時々って何だよ!そんなに頻繁にか?
ミカボシ「いいからさっさと行こうぜ。」
ミカボシがスタスタと歩き始めたのを見て皆東大陸へ向かって海を渡り出したのだった。
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東大陸へ渡ってきたけどこれと言って特徴はない。南大陸や中央大陸は草木が生い茂り、密林のようになってる場所も結構あった。北大陸や西大陸は地域によって気候が大きく変化していた。
もちろんその中でも中央大陸の方が温暖で安定した気候だったとか、南大陸はほとんどが密林のような森だったとか、北大陸は一歩過ぎれば突然気候が変わるほど不安定だったとか、西大陸は比較的徐々に気候が変化していたとか、それぞれ厳密には特徴が違う。
でも一歩上陸した東大陸に対して思うことは『平凡』。この一言に尽きる。まだ上陸したてで今後東大陸を旅すれば突然気候が変わる場所があったり、徐々にでも様々な気候に変化したりするかもしれない。
ただ今見えている限りでは普通の荒野と草原のような雰囲気だ。本当に何の特徴もない。岩場や砂地のようになってる荒野と、そこそこ高い草原が広がってる。気候的には温かくて乾燥してるっていうところか。
少し先には山が見え、その山には緑が見える。森もある。うん…。何の特徴もないただのやや乾燥した気候だ。
スサノオ「それで…、これからどこへ行けばいいんだ?」
ハイドル「ふざけるな!ちょっと休ませろ!それに濡れたままで気持ち悪いんだ。乾かさせろ!」
ここからどこへ向かうのか確認しようとしたらハイドルが怒鳴り声を上げた。どうやらハイドルは島を渡ってくる間に濡れたのが気に入らないらしい。
スサノオ「そんなの歩いてるうちに乾くだろ。」
ハイドル「これだから野蛮な蛮族共は……。俺の装備はお前らのような安物とは違うんだ。最高級品なんだから手入れも大変なんだよ!お前ら貧乏人と一緒だと思うなよ!」
う~ん?チラッとハイドルの装備を確認する。麻っぽい下穿きに何かの魔獣の皮と思われる靴。ただの鉄製の全身鎧だけど動き易いようにか、重量の関係か、一部分は剥がしているために鎧のない部分もあちこちにある。兜はなく腰に剣と背中に槍。盾は持ってない。
全体的に白で統一されて清潔っぽくは見えるけど、布の部分はほとんどただの麻。鎧も武器も鉄製。特に高級装備には見えない。染色もしてないから真っ白だしね。
アン「スサノオ様の衣類は全て魔獣のキングボムビークスモリーの繭から採られた最上級の絹製です!また鎧の大半はアダマンタイトとミスリルの合金で出来ており、一部のアクセサリーはオリハルコン製!剣に至ってはヒヒイロカネ製です!貴方の麻と鉄のゴミ装備と一緒にしないでください!」
スサノオ・ハイドル「「………。」」
一部意味のわからない言葉もあったけど言ってることは大体わかった。そして当たってる。でも何でアンが俺の装備のことをそこまで詳しく知ってるわけ?
俺がチラッとアンを見たらアンがニッコリ笑った。………でもその可愛い笑顔が何か怖く感じる。何だろう……。俺ってば行動も持ち物も全てアンに監視されてるんじゃないだろうか?
キングボムビークスモリーっていうのは俺達がカイコって呼んでる魔獣のことらしい。高天原じゃ珍しくもなくて、養殖で繭を採って布を織ってるんだけどアンが言うには葦原中国じゃカイコは出会ったら死を覚悟しなきゃならないほど危険な魔獣に分類されてるらしい。
ハイドル「ふっ、ふざけるなよ!全て絹製!?しかもアダマンタイトにミスリルにオリハルコン!?果ては実在すらしない伝説のヒヒイロカネだと?!法螺を吹くのも大概にしろ!」
ゾフィー「ここにある。確認すればいい。」
そう言ってゾフィーが俺の背中を押してハイドルの前に立たせた。ハイドルはジロリと俺を睨んでからまずは胸当に触れた。
ハイドル「―ッ!馬鹿なっ!!!」
驚いた顔をして一瞬で手を離す。そして鎧の隙間から出てる布に触れる。
ハイドル「………まさか。」
今度はその手触りが気に入ったのかいつまでも摘んだままだった。
ハイドル「剣を抜いて見せろ。」
そう言われて俺は腰に差した剣を抜いて刀身をハイドルに見えるように目の前まで持ち上げる。
ハイドル「――ッ!!!?こっ…、これがヒヒイロカネ!美しい!剣を動かしてもいないのに七色の光だけが勝手に煌くかのように移り変わっている。」
ハイドルは俺の剣をうっとりした顔で見つめていた。剣を挟んで俺の顔もあるからまるで俺を見つめられてるみたいで気持ち悪い。それもハイドルがうっとりした表情をしてるんだ。俺の気持ちもわかってもらえると思う。
ハイドルがそっと刀身に手を伸ばしそうになったから剣を鞘に収めた。完全に鞘に収まる瞬間まで名残惜しそうに見つめていたハイドルは剣が収まるとすぐに顔を上げて俺を睨みつけていた。
ハイドル「ふんっ!どうやってそれらを手に入れた?どうせ誰かから奪ったんだろう!お前みたいな卑しい奴がこんなものを持ってるはずはないからな!」
ミカボシ「おい、もういいからさっさと行こうぜ。スサノオ様はやんごとなき血筋のお方なんだ。本来お前みたいな小物が張り合っていい相手じゃねぇんだよ。察しろよボンボンが。」
ミカボシの言葉でハイドルは顔を真っ赤にした。
ハイドル「やはりな!所詮お前の持つものは全て生まれや親に恵まれ与えられたものだ!お前自身が手に入れたわけでも偉大なわけでもない!」
アン「それって貴方のことじゃないですか…。思いっきりブーメランですよ?貴方自分で自分を貶めてるんですか?」
アンが容赦なくハイドルを追い詰める。さすがにハイドルが可哀想に……、ってほどでもないな。こいつは自業自得だからいいか。放っておこう。
ゾフィー「スサノオ何でも自分で手に入れてる。親の脛齧りのお前と違う。」
あ~ぁ…。ゾフィーにまでバッサリ斬られちゃったな……。
その後もハイドルが何か言う度に俺以外の全員から突っ込みを入れられてハイドルの精神は燃え尽きていた。真っ白に…。装備よりも真っ白に見えるほど肌も髪も真っ白に燃え尽きていたのだった。
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東大陸に上陸してから少し歩いてみた。気候は本当に何の特徴もない。少し乾燥してるだけの温暖な気候。草原と荒野。そして一部に森。
東大陸の支配者は国津神のようだ。南大陸はミカボシ達に支配権を奪われて国津神はいなかった。ミカボシ達に討たれたか、手下に収まったか、南大陸から出て行き中央大陸や東大陸へ移動したか、のいずれかがほとんどだ。
その移動してきた国津神達の受け皿となったはずの東大陸だけど特に混乱などはないようだった。これなら今までの大陸同様に国津神達と話をつければ比較的容易に東大陸も纏まるかもしれない。
そう思ってた時期が俺にもありました。
どうやら話はそう単純じゃなかったみたい。ドラゴニアの支配地を支配する国津神とその周辺、謂わばドラゴニアに侵攻されてる地域を支配する国津神は血で血を洗うような抗争を繰り返してるらしい。
そして………、東大陸を総括する国津神………。その名はタケミカヅチ………。
その名を聞いた瞬間俺の手足がガクガクと震えそうになった。タケちゃん………。俺が高天原に居た頃いつも俺をいじめてたいじめっ子。
タケちゃんからすれば俺をいじめてたつもりはないだろう。そこそこ大人になった今ならタケちゃんの考えてたこともある程度はわかる。
タケちゃんがいじめてたのは俺だけじゃない。周辺の子供達は皆大なり小なりタケちゃんにいじめられた覚えがある。
でも当のタケちゃんの方にいじめたつもりはない。タケちゃんが何かするのにはそれなりの理由があった。
まず一つ目が特訓。才能がなくて弱い子供達を鍛えるために特訓と称して様々なことをさせられていた。普通にすごしたいだけの大人しい子供達からすればそれはいじめと捉えてもおかしくないようなことだ。でもそれはタケちゃんからすればひ弱な子供達を強く育てるための特訓だった。
二つ目が手下の編成。って言うとまるでタケちゃんが好き勝手に手下を引き連れてるように聞こえるけどそうじゃない。
天津神だって戦いに関する仕事に就く者や、それこそまさに兵になるような者もいる。そういう将来戦いに関わる者達をタケちゃんが選抜して編成して訓練していた。
将来の兵役のための特訓、あるいは軍事に関する仕事に就く者にはそれがどういうものなのか、現場を教えるためのものでもあった。
最後に三つ目。これは完全にタケちゃんの趣味。一と二が周辺や今後のためだったとすれば三つ目はタケちゃんの独自の行いだったと言える。
それは自分の特訓。タケちゃんは同世代の高天原の子供達の中でも群を抜いて強かった。その自分の強さについてこれるような者を選抜して自分の相手をさせることで自分の特訓にしていた。
そこに選ばれるということは同世代の中でも精鋭ということで兵や軍事関連を目指す者にとっては名誉だったようだ。
それで俺も散々タケちゃんにいじめられた。当然俺は一だっただろう。何度もタケちゃんに呼び出されては戦いを挑まれてボコボコにされた。他の子達の特訓が終わっても俺だけは残されてタケちゃんにしごかれるなんてザラだった。
そうしてタケちゃんに散々やられた後はよくアマテラス姉ちゃんに泣き付いてたっけ……。
その思い出だけなら今となっては懐かしい子供の頃の思い出でしかない。だけど今実際に目の前にその恐怖の対象だったタケちゃんが立ちはだかっていると思うと子供の頃の恐怖が蘇ってきて、俺の手足は勝手にガクガクと震えてくる。
いやだ…。東大陸にはいたくない。タケちゃんと再会なんてしたくない。俺の心はもう折れて逃げていた。この先タケちゃんと出会わないことだけを考えていた。
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久しぶりに綺麗な泉で水浴び。とっても気持ちいい。最近はゆっくり出来る暇もなかったし、川くらいならあったけど人目につかずに水浴び出来るような場所はなかった。
森の中にあったこの泉を見つけるまでは水を汲んで布で体を拭くくらいしかできなかった。それを思えばこの泉での水浴びはまるで命の洗濯のよう。
イナリも一緒に入りたがったけど今日は遠慮してもらった。イナリと一緒に水浴びすることもあるけどあの子はただ水浴びするだけじゃなくて、色々と悪さもするから一緒だと落ち着けない。
私のお役目も理解しているしいきなり襲われるってことはないと思うけど……。それでも体中を撫で回されたり、抱き付いて舐められたり、それなりに過激な接触をしてくるから油断は出来ない。
久しぶりの水浴びだから一人でゆっくり入りたいって言って今回は諦めてもらった。だからイナリと咬竜は周辺の警戒にあたってる。
私から見れば二人の気配も普通にわかってしまうけど、そこらの魔獣や現地民じゃ二人の気配もなかなか感じることは出来ないと思う。
もちろん二人の間にも大きな差があって、咬竜の気配くらいなら少し腕の立つ人ならすぐに見つけてしまうでしょうね。それに比べればイナリの気配は私でもなんとか気付けるくらいのものでうまく隠れてる。
咬竜の気配が比較的わかりやすいせいで周辺をうろついてる人がいたとしても、咬竜の気配を察した時点で安心して油断してしまうと思う。そこへ完全に気配を消してるイナリが近づけばよほどの相手でも簡単に二人に仕留められるはず。
って、どうして争うことを前提に考えているのかしらね。長く旅を続けてるせいか他者を見つけたらまずは争いになった場合のことから考えるようになってしまった。
こんな世界じゃそれも仕方がないと言えばそれまでだけど、それはとても悲しいことだと思う。誰もが安心して暮らせる世界にしたいと心から願う。
そんなことを考えているとパキッと枝が折れる音が聞こえてきた。
いくら私が考え事に没頭してたとしても気配に気付かないなんてあり得ない。それに魔獣なんかだと私を恐れて寄ってくるはずもない。この泉にだって泉の魔獣がいるはずなのに私が泉に入った途端に逃げ出したことが何よりそれを証明している。
それなのに………。私にも気付かれることなく、そして私の気配を恐れることもなく誰かが近寄ってきていた。
その相手は気配を隠しているわけでもなく、私を狙ってこっそり忍び寄ったわけでもない。だってこれほどあっさりと私に近づいておきながら枝を踏みしめて音を出してしまうなんて間抜けなことをするほど弱い相手とは思えないもの。
つまり枝の音がしたのは失敗でもなんでもなく、ただ歩いて泉に近寄ってたら偶々踏んで枝が折れて音が鳴っただけ。
そんな極自然に私に近寄っておきながら私に気付かれることもなかったほどの手練?それともあまりに自然すぎたから私が警戒出来なかった?
わからない。その人の気配の消し方はまるで野生の魔獣のように自然に溶け込むようなものだった。知恵ある者が暗殺などを行うために磨いた不自然な気配の殺し方とは違う。
まるでそれが自然の一部であるかのような、何の違和感も感じさせない気配の消し方。いえ、消してすらいない。ただ薄めているだけ。そのためにますますそれを警戒することが出来ない。
そんな野生の獣を思わせるような気配を発する相手と目が合った。
???「………。」
ダキ「………。」
その人とただ黙って見詰め合う。距離は十歩も離れていない。本当にすぐそこ。きっとこの相手にとってはこの程度の距離なんてあってないような時間で詰められるだけの距離でしかない。
だけど…、何ていうか……。あれ?この人…、呆然としてる?この人も私がここにいることに気付いてなかった?
とてもじゃないけどその見た目からは強そうには見えない。
真っ黒な短髪に真っ黒な瞳。着ている服は絹のようね。ここから見てもわかるほどに光沢を放っていて、動きに合わせて形を変えることから相当柔らかい手触りだとわかる。
絹の服についている跡からして普段は鎧を身に付けているということもわかる。でも今は鎧もないし武器も持っていない。その手には桶が二つ握られていることからここに水を汲みにきたのだと思う。
高級な絹を身に付けて普段は鎧を着ているであろうことから考えると、どこかの国の貴族か将軍の子息かもしれない。
その顔は穏やかで優しげな顔立ちをしている。歴戦の戦士という感じがしないことから生まれからして良い所の生まれなのではないかと思わせる。何よりその気品に満ちた雰囲気がこの人の生まれや育ちが良いことを証明している気がした。
そうして見詰め合うこと数瞬……。次第にその人の顔が赤く染まりだした。
???「ごごごっ、ごめん!わざとじゃないんだ!君が水浴びしてるなんて知らなくて!!!」
そう言って彼は後ろを向いた。
ダキ「………え?」
………あああぁぁぁっ!!!私丸裸だった!!!彼が現れたことで驚いたのと、観察するのですっかり忘れてたけど水浴びしてる最中で未だに真っ裸だ。
みみみみ見られた………。あわわわ…。どどどどどうしましょう。どどどどうしたら?
男の人に裸を見られた?どうしたら?えっと…、こういう場合は………。
ダキ「責任とってください!」
???「え?」
ダキ「裸を見たんだから責任をとってください!!!あ………。」
私今何言ったの?これじゃまるでこの人に結婚を迫ったみたいじゃない!もう!もう!何言ってるの?そうじゃないでしょう!
ダキ「私は巫女です。本来この身はファルクリアに捧げられるものなんです。その私を穢した以上は貴方が責任をとってください。」
それなのに…。どうしてかしら……。私の口からはさらに彼に迫るような言葉が紡がれていた。まるでこれが運命かのように………。
これこそがあるべき姿であるかのように…。自然と私の口からはそんな言葉が次々に溢れ出したのだった。
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東大陸に上陸して数日。結構あちこち歩いた気がするけど何か方向も一定方向に進まずフラフラとあっちへ行きこっちへ行きしている。
もしかしてだけど迷った?それとも何かを探してるのか?どこかへ向かっているとは思えない。そうかと言って町に行って情報収集をするわけでもない。まさかあてもなくフラフラと移動して何かを探してるんじゃないだろうな?
という疑問をハイドルにぶつけてみる。
ハイドル「お前は黙ってついてくればいいんだ!」
アン「ごほんっ!」
ゾフィー「………。」
アンが咳払いすると同時にカチンッとゾフィーの短刀が鳴る。
ハイドル「ひぃぃっ!」
すると途端にハイドルの顔が恐怖に歪んだ。………うん。いくら俺が底抜けの馬鹿でもわかる。どう考えてもハイドルはアンとゾフィーを恐れてる。
何をやって恐れさせたのかは知らないけどよっぽど怖い目にでも遭わされたのかもしれない。その恐れ方はちょっと尋常じゃない。
二人がハイドルの言いなりになって体を差し出してるわけじゃなかったようでそれはよかったんだけど、ハイドルを脅しまくる二人というのもこれはこれでどうなんだろうか………。
まぁそれはいい。それよりも俺にはもっと切羽詰った事情がある。というのもあまり下手に東大陸をうろうろしてるとタケちゃんと出会ってしまうかもしれないという恐怖が拭えない。
実際にはタケちゃんはいつも東大陸にいるかどうかもわからないし、居たとしても俺と出会う可能性なんて微々たる確率だと思う。
俺がいつも国津神に出会うのは周辺に住む者達にその地の支配者の国津神の居場所を聞いてそこへ訪ねて行くからだ。こちらから訪ねて行かない限り国津神に出会うことなんてほとんどない。
だけどほとんどないからと言って絶対ないとは言い切れない。そしてその相手がタケちゃんである可能性もないとは言えない。
俺が今までの旅で支配者の国津神達にわざわざ会いに行ってたのと同じように、タケちゃんも俺が東大陸にいると知れば訪ねて来る可能性だってある。
そうなると俺はまた幼少期の頃のようにタケちゃんに………。
嫌な想像にブルルッと体が震える。とにかく俺にとってはそういう事情があるからあまり下手に東大陸をウロウロしたくない。
それなのにハイドルがどこへ行くかも告げずにウロウロするもんだからイライラしてきてる。
スサノオ「とにかくどこへ向かってるかくらい教えてもらえないと俺達も動き難いんだけど?」
ちょっと語気を強めて言うとハイドルは苦々しい顔を俺に向けた。
ハイドル「ふんっ。従者に恵まれてるからってお前まで偉そうにするな。お前が偉いわけじゃないからな。………で、目的は九頭竜を始末することってのは前に言った通りだ。ただどこに九頭竜がいるかは自力で探すしかない。東大陸のどこかにいるはずだ。」
………おい。それって東大陸を虱潰しに探していくってことか?それじゃタケちゃんまで見つけてしまうかもしれないじゃないか!
そんなの断固拒否だ!お断りだ!もう東大陸までは渡れたからドラゴニアとの関係どうこうなんてもうどうでもいいんじゃないのか?
このまま東大陸を虱潰しにしてタケちゃんと出会った方が大変なことになる。それならもうハイドルはここで放って行って俺達だけで旅をした方が………。
ゾフィー「スサノオまたいつもの。」
アン「あぁ…。いつもの妄想癖ですか………。」
おい!聞こえてるぞ!妄想癖とは何だ。それに実際タケちゃんと出会ったらやばい。皆も死ぬかもしれない。そんなのは駄目だ。
イフリル「ともかく今日はもうここで休むのが良いと思うぞ。」
イフリルの言葉に皆が同意して休む準備をし始めた。俺もてんととか言うやつを張ろうとしたらアンにやんわり断られた。理由は以前俺がてんとを張ろうとして一個ぶっ壊したことがあるからだ。
何か組み立てる順番とかもあるらしいし、軽くするために素材も柔な物を使ってる。だから俺が力を入れたらあっさり壊れてしまったのだ。それ以来てんとを張る作業は俺にはさせてはいけないという風潮が出来てしまった。
かと言ってこのまま俺だけ何もせずに作業を眺めているというわけにもいかない。俺は桶を片手に一個ずつ持って歩き始めた。
スサノオ「俺は水を探して汲んでくるよ。」
アン「は~い!お願いします!」
皆てんとを張るのに必死で俺の言葉を軽く聞き流しながら手を振ってくれた。俺はそのまま深い考えもなく少し離れた場所にある森まで入って行ったのだった。
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ここら辺の地理なんて当然知らない俺は何となく少し離れた所にあった森に入って行った。理由はまぁ…、森があるってことは水があるだろうっていうだけだ。
じゃあ離れた森じゃなくて近くの森でもよかったんじゃないかって言うと、近くの森は小さかった。小川みたいなものはあるだろうけど大きな川や湖はないかもしれない。
それに比べて少し離れた所にあったこの森は大きかった。森が大きいということはそれだけの水量があるだろうと思ってこっちへ来てみただけだ。
実際この程度の距離なら俺達にとっては何の苦にもならない。というわけで森の中をあてもなく歩いていく。
そうして歩いていると森の先が切れているのが目に入った。それに僅かに水の流れる音がする。どうやら湖か何かあるようだと思って俺はそっちへと歩いていく………。
そこで俺は天上の女神を見つけた。いや、天女?言葉なんて何でもいい。そもそも彼女を言い表すことが出来る言葉なんて存在しない。
およそ人知の及ばない美。チンケな言葉じゃどんな言い方をしても足りない。
スサノオ「………。」
???「………。」
二人の視線が絡まりお互いに黙って見つめあう。俺は突然のことで頭が働かず動けなかった。そもそも人の気配なんて感じなかった。俺が感知出来ないほどの手練?
いや…、僅かに気配は発している。つまり完全に気配を殺すのではなく自然に溶け込むようにほんの僅かな気配にして存在を薄めているんだ。
俺達の察知能力ならそこらにいる虫の気配ですら全て察知出来てしまう。だから普段はそういう気配は無意識に無視することに慣れている。虫だけに無視な。
………ごほん。とにかくそういう自然に溢れかえってる気配までいちいち感知はしても認知はしないようになってる。その程度まで薄められた気配のせいでまるで自然の一部のように思って認識出来なかったんだ。
その女は黒い髪は長く、水に浸かってる腰よりまだまだ長い。金色の瞳は縦に細くなっている。頭の上には金色の毛並の獣耳。同じく金色の毛並の尻尾が九本、ゆらゆらと揺らめいていた。
美しい。そんな言葉じゃ言い表せないけど他に言葉も思い浮かばない。ただただ美しい。
その豊かな胸が上下に動いていることが彼女が実際にこの場に生きている者だと証明している。それがなければ本当に天上から降りて来た実体のない夢か幻かと思うところだ。
………ん?胸?あっ………。ああっ!!!この女裸!下は水に浸かってるからはっきりとは見えないけど腰から上は完全に丸見えだ。
豊かな胸。細い腰。そこから丸いお尻が少しだけ見えている。その下は残念ながら揺れる水面のせいではっきりとは見えない。
ってそうじゃない!俺女の子の裸なんて生まれて初めて見た!アマテラス姉ちゃんのだって見たことはない!それか幼馴染のあの娘ならちょっと肌は見たことあるけどそれは服の隙間とかであって真っ裸なんて当然見たことはない。
スサノオ「ごごごっ、ごめん!わざとじゃないんだ!君が水浴びしてるなんて知らなくて!!!」
俺は慌てて後ろを向いた。これが彼女との最初の出会いだった。




