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転生無双  作者: 平朝臣
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第十七話「北大陸の洗礼」


 大和巫女を加えて俺達四人で北回廊を歩いている。どうしてこうなった…。極最近も同じセリフを吐いた気がする。だが言わずにはいられない。どうしてこうなった?すでに長い距離を歩き回廊以外には前にも後ろにも陸は見えない。回廊以外の全てが海だ。


狐神「改めてよろしくねミコ。私は狐神だよ。」


 師匠はフードを取りながら大和に自己紹介をする。


ミコ「綺麗…。あっ!私はミコ=ヤマトです。よろしくお願いします。それで狐神さんは九狐里君とは…どういったご関係ですか?」


狐神「私は…そうだね。改めて聞かれると困っちゃうね。」


 師匠は両手を頬にあてイヤンイヤンをしている。


狐神「私はアキラの師匠で母で姉で恋人で妻…かね。キャー言っちゃったよ。」


 興奮が最高潮に達したのかクネクネと体を動かしている。


ミコ「え?どっ、どういことですか?」


 大和は俺を見ながら問いただしてくる。


ガウ「がうはがうなの。ご主人のしもべなの。」


 ガウもフードを取りながら自己紹介?らしきものをする。そもそも俺は僕になどした覚えはないのだが…。


ミコ「かっ、かわいぃ~。ガウちゃんはいくつなの?」


ガウ「がうぅ…。わかんないの。」


 大和はガウを見ながら顔を綻ばせている。


ミコ「それで…九狐里君。どういうことか説明してくれるよね?」


 だが顔を上げ俺を見る大和の視線は厳しい。自分は悪くなくとも恋人や妻に謝る男の気持ちとはこういうものなのかもしれない。有無を言わせない迫力につい謝ってしまいそうになる。俺もフードをとって顔を見せながら答える。


アキラ「最初に人違いだと言ったはずだ。俺はお前なんて見たこともない。」


ミコ「っ!こっ、これが九狐里君?」


 大和は俺を真っ直ぐ見据えながらフルフルと震えている。


アキラ「人違いだということがわかったか?ここからならまだ戻れる。さっさと北回廊大門まで戻れ。」


ミコ「かわいい!ううん。綺麗?どっちもだわ。かわいいのに綺麗で…。はぁ…、ずっと見ていたいわ。」


アキラ「話を聞けよ…。」


 大和は俺を前から眺めたり横から眺めたりしながら何事かを呟いている。


ミコ「九狐里君。一つだけ言っておきたいのだけれど例えどれだけ姿形が変わろうとも私には九狐里君はすぐにわかるよ。九狐里君は私のことなんてなんとも思ってないのかもしれない。だけど私はずっと九狐里君が好きだったんです。ずっと見てました。だから私は今度こそ九狐里君の隣を歩きたい。今度は絶対に離れないって決めたんです。例え九狐里君に恋人がいたとしても!私はこの気持ちをもう諦めたくない!」


 ババーン!と効果音が聞こえてきそうなほどのポーズで俺に指を指し高らかに宣言する。


アキラ「大和ってこんなキャラだったか?」


ミコ「恋する乙女は強くなるのよ。私は何度も九狐里君に告白する機会がありながらしなかった自分に後悔していました。だから…今度はもう後悔したくない。狐神さんみたいな綺麗な恋人がいても簡単には諦めません。」


 師匠を正面から見据えてそう宣言する。


狐神「諦めることなんてないだろう?ミコもアキラのはーれむに入りなよ。」


ミコ「へっ?ハッ、ハーレム?」


狐神「アキラはこれからたくさんの子供を作らないといけないんだ。だからミコもアキラの子を産めばいいよ。ミコなら大歓迎さ。」


ミコ「こっ子供って…。そんな…。私達にはまだ早すぎます…。あっ、でも九狐里君がどうしても欲しいなら私は…。」


 今度は大和が頬に手を当ててクネクネしだした。これは今女子の中で流行りなのだろうか…。


狐神「アキラ。いい加減諦めて受け入れなよ。」


アキラ「………はぁ。アキラ=クコサトだ。久しぶりだな大和。」


ミコ「やっぱり…九狐里君…。どんなに姿形が変わっても私は九狐里君が好きです。だから傍にいさせてください。」


 そう言って大和は頭を下げる。


アキラ「俺のどこに好かれる要素があったのかまるでわからないな。むしろ嫌われるようなことをしていたと思うが…。」


ミコ「くすっ。やっぱり自覚はあったんだね?」


 そう言ってクスクス笑う大和はかわいい。学園に居た頃はどこか取り繕ったように感じていた。だが今目の前にいる少女は年相応の純粋な笑顔で眩しい。


狐神「アキラ…。見惚れているね。」


ミコ「え?そっ、そうなの?九狐里君?」


 今度は頬を赤らめモジモジしている。確かにかわいい。もしこの大和と二人でずっと一緒にいたらそのうち惚れるだろう。そんな予感がある。だが今の俺はそれを素直に受け取ることはできない。師匠のこともある。だが大和を見ていると感じる胸の高鳴りは大和が変わったからだろうか?それともそれを見る俺が変わったからだろうか?そんな答えの出ない問いが俺の頭の中でループしていた。



  =======



狐神「アキラは右を。ガウは後ろを頼むよ。」


アキラ「やれやれ。」


ガウ「がうぅ!」


 北回廊は砂浜のような地形がずっと続いているがその上に石造りの橋がかかっている。橋は海面から2mくらいはあるのだが両側の海面からひっきりなしに海の魔獣が襲いかかってくる。だが獣人並に能力を制限していても所詮は俺達の敵ではない。いずれ俺達の胃袋に入るべく俺達に始末され俺のボックスへと収納されていく。


ミコ「すごい…。」


狐神「ミコ。関心してる場合じゃないよ。あんたもアキラの妻になるつもりならこれくらい簡単に出来るようにならないと付いていけないよ。」


ミコ「うっ…。はい!」


 どうしてそんなにやる気になっているのか…。大和は師匠に色々とアドバイスを受けていた。


ミコ「ところで…九狐里君はどうしてそんな姿に?」


 聞きづらいことを聞いたという風な顔で大和が尋ねてくる。


アキラ「大和の言った通りだ。俺はお前達の召喚に巻き込まれてあの光で死んだ。そしてファルクリアに転生した俺はこの体で生まれ変わった。」


ミコ「それって…。ううん…その姿になってしまったことはもう言っても仕方ないよね。私達のせいで巻き込んでしまってごめんなさい。その姿はやっぱり獣人族なの?…その耳触ってもいい?」


 口で一応聞いてはいるが大和はすでに俺の耳を触っている。本気で謝っているのはわかるが耳に興味津々になっているせいで説得力が皆無だ。


ミコ「うわっ。ふかふか…。はぁ…。この手触り…。ずっと触っていたい。」


 それはお断りだ。そもそも許可もしていないのに触っているしくすぐったくてあまり長時間我慢できない。


アキラ「俺達はみんな妖怪族だ。」


ミコ「え?妖怪族…って何?」


アキラ「何も教えられなかったのか?この世界には6族がいることを。」


ミコ「え?え?私が習ったのは人間族、獣人族、魔人族、精霊族、ドラゴン族の5族だったよ?」


アキラ「何?」


狐神「う~ん…。」


 ぐぅ~~


ガウ「がうぅぅ…。お腹すいたの…。」


狐神「ご飯にしようかね?」


 ガウはいつもナイスタイミングでお腹を鳴かせる。大和の手から逃れて俺達は食事にすることにした。まずはテーブルと椅子を取り出す。そしてそれぞれの前に料理を並べる。


ミコ「どうなってるのこれ?さっきまでの魔獣達が消えたのもテーブルが出てきたのも九狐里君がやっているの?」


アキラ「ああ。俺の能力だ。誰にも言うなよ。例え瀬甲斐や葉香菜であってもだ。」


ミコ「え?…うん。九狐里君は…、二人のこと信用してないんだね…。」


アキラ「大和があの二人とどういう関係でどれだけ信用してるかは知ったことじゃない。俺はあいつらのことを信用するような関係ではない。」


ミコ「そう…だね…。」


アキラ「それで何を食べる?師匠とガウも。」


ガウ「がうはすてーきが食べたいの。」


狐神「私はから揚げを頼むよ。」


アキラ「師匠…またから揚げですか?から揚げばっかり食べてたらだめですよ。」


狐神「まぁまぁ。堅いことは言いっこなしだよ。」


 ひとまず四人分それぞれおにぎりを出して並べる。そしてリクエスト通りの物をそれぞれに出していく。


狐神「アキラ…、私はさらだは頼んでないよ…。」


アキラ「肉ばっかり食べてたらだめです。野菜もちゃんと食べてください。」


ミコ「クスッ。九狐里君がお母さんみたいだね。」


アキラ「ちっ。それで大和は?」


ミコ「おにぎりがあるんだ…。この世界に来てからずっと洋風な料理ばっかりだったから和風な料理が恋しかったの。他に何があるのかわからないから九狐里君にお任せしてもいい?」


アキラ「ああ。それなら俺が勝手に見繕わせてもらう。」


 味噌汁、焼き魚、肉じゃが風の煮物に漬物、一先ずこんなものでいいだろう。


ミコ「すごい…。この世界で日本の料理が食べられるとは思ってなかったわ。ありがとう、九狐里君。ところでこれは九狐里君が作ったの?」


アキラ「そうだ。俺が作った物だし素材も似たような物で代用したりしているから味は保証できないぞ。」


ミコ「ううん。とってもおいしそうだよ。」


全員「「「「いただきます(なの)。」」」」


ミコ「おいしいよ九狐里君。」


アキラ「そんなものでよければいつでも食わせてやる。」


ミコ「え?それって…。」


 大和は急に真っ赤になって視線を彷徨わせていた。


狐神「アキラ。それは殺し文句だよ。」


アキラ「………。どこら辺がですか?」


狐神「はぁ…。アキラは女心はてんでだめだね。」


 そうは言われても俺は男だ。女心などわかるはずもない。そもそもあの言葉のどこら辺に殺し文句の要素があるのかさっぱりわからない。


 食事中も空気を読まない海の魔獣が襲い掛かってきていたが全て食材として俺のボックスに収納されることになった。大和が俺達に色々訊ねながらの食事は無事終了したのだった。


 片付けも終わりまた北回廊を歩きながら話を続ける。


ミコ「あの…、九狐里君。私のことは大和じゃなくてミコって…呼んでもらえないかな?」


アキラ「そうだな…。それじゃあこれからはミコと呼ばせてもらう。」


ミコ「うん!…それで、私も九狐里君のこと、アキラ君って呼んでもいいかな?」


アキラ「好きに呼べばいいだろう?」


ミコ「うん。それじゃこれからはアキラ君って呼ぶね。」


狐神「二人の世界に入ってるところ悪いけど私のことも忘れないでおくれよアキラ。」


アキラ「別に二人の世界に入ってませんし、俺が師匠のことを忘れるはずないでしょう?」


ガウ「がうのことも忘れないでほしいの。」


アキラ「ガウのことだって忘れたことはないぞ。」


ガウ「がうがう。」


ミコ「それで妖怪族って言うのは一体何なのかな?アキラ君達は獣人族のように見えるけれど…。」


狐神「それは見たほうが早いんじゃないかい?」


 そう言いながら師匠は俺の外套を外す。師匠が自分のを脱ぐか口で言えば俺が自分で脱ぐのになぜこういう所は強引にくるのだろうか…。


ミコ「かわいぃ~。素敵なドレスね!それに…その胸。私より大きいんじゃ…。」


 後半は口ごもりながらしゃべっているが俺には聞こえている。


アキラ「胸って…。どこを見ている。」


ミコ「あっ!その…、ごめんなさい。でも本当にアキラ君は女の子になっちゃったんだね…。それでどうやって子供を作るの?」


狐神「安心しなよ。妖狐種は女同士でも子供を作ることが出来るのさ。だからミコもちゃ~んとアキラの子が産めるよ。」


ミコ「そっ、そうなんだ…。」


 前々から師匠はそんなようなことを言っていたが今回ははっきり言い切った。つまりはそういう方法があるということだろう。ミコは真っ赤になりながら俺をチラチラ見ている。だが今の俺には子供を作る気なんてないぞ…。


アキラ「ミコ。話がそれているぞ。師匠が見せたかったのはこれだろう。」


 そう言って俺はミコに後ろを見せる。妖力を抑えているので20cmほどまで縮まっている九本の尻尾だ。


ミコ「うわぁ。ふさふさだ。触ってもいい?」


 ふさふさだと言ってる時点ですでに触っている。確認を取るなら許可されてから触って欲しいものだ。驚かせるために少しだけ妖力を流して長くしてやった。


ミコ「わっ、わっ。伸びたよ!」


狐神「妖狐は獣人族の人狐種に似ているけど尻尾がたくさん生えているのさ。アキラは混血児らしくて何かと混ざっているから猫人種に似ているけどやっぱり尻尾が多いのさ。」


ミコ「妖怪族って獣人族に似ているんですか?」


狐神「そうとは限らないよ。妖狐は獣人に似ているだけさ。ガウは狼なんだよ。」


ミコ「え?ガウちゃんは狼なんですか?」


狐神「ああ。今は私達は力を隠しているから変身できないけど変身すればガウは狼になるよ。それに妖怪族はとても人間に似ても似つかない形の種もたくさんいるよ。」


ミコ「へぇ、そうだったんですか…。」


 言葉では真面目に感心しているようだがミコはずっと俺の尻尾をモフモフしている。


アキラ「ミコ。もういいだろう?」


ミコ「ああ…もう少しだけ…ううん。ごめんなさい。ありがとうアキラ君。」


 ミコが名残惜しそうに俺の尻尾を離す。


狐神「二人がそうして並んでいると本当の姉妹みたいだね。」


 猫耳があることや俺の瞳が金色なのを除けば同じ長い黒髪のストレートで似ていると言えば似ている。この世界の住人は彫りの深い、日本人から言えば外人のような顔つきの者が多いが今の俺も和風な顔つきをしているのでミコとも近い。そういった益体もない話からこの世界についてのことまで色々な話をしながら俺達は進んで行った。



  =======



狐神「そっちはミコがやってみな。」


ミコ「はいっ!」


 師匠はミコにも戦わせている。いくら異世界人が強いとは言ってもミコ達はついこの前まで普通の学園生だったのだ。生き物を殺すことへの忌避感や本気で殺そうと掛かってくるものへの恐怖心があるはずだ。だがミコは恐れることなく戦っていた。今も飛び掛ってきた鮫のような魔獣を一刀両断にしてしまった。


 ミコの実力はロベールよりも高い。剣技で言えばロベールの方が上だが高い身体能力を使ってミコも堅実な技で敵を仕留めている。


アキラ「怖くないのか?」


ミコ「アキラ君…。怖いよ。怖い。この手で相手を殺してしまうのも、私を殺そうとかかってくる相手も…。私の手が血に染まっていくみたいで…私が変わってしまうみたいで怖い。だけど日本にいた時だって本当は私は生き物を殺して生きてきたの。自分の手を汚さないで他の誰かにやらせてそれを食べて…目を逸らして自分は汚れていない気になって生きてきただけだった…。でももうこの世界でアキラ君の隣を歩いて生きていくって決めたから…。他の誰かに押し付けたりしないで自分の道は自分で切り開いていかなくっちゃ。」


アキラ「強い…な。」


 ロベールより強いとはいえガウにも到底敵わないほどミコは弱い。だがその心は強い。真っ直ぐ前を見据えるミコの中には強い芯が通っているのだとよくわかる。


ミコ「うん。アキラ君の傍にいるためだもん。言ったでしょ?恋する乙女は強いのよ。でも女の子に向かって強いはひどいよアキラ君。」


 そう言って笑うミコの笑顔が眩しかった。


ガウ「がうがう!陸が見えるの。」


 ガウの言葉で前を見る。水平線の向こうにうっすらと陸が見え始めていた。俺達はついに北大陸へと到着したのだった。



  =======



 北大陸側は中央大陸側と違って特に門などはなかった。周囲には何もなく誰もいない。警戒しているのは人間族だけで魔人族からすれば人間族など上陸したければ勝手にすれば良いとでも言わんばかりだ。


アキラ「こっちです。」


 俺の記憶ではここから北西方面に進んでいる。そのまま北西に暫く進んでも誰もいない荒野が続くばかりだった。そう、誰もいないはずだった。俺にも師匠にもガウにも感知できなかった…。


アキラ「っ!ガウッ!」


ガウ「がうっ?!」


 どこからか突然飛んできた無数の矢にガウが吹き飛ばされる。


???「まずは一匹。」


 声は聞こえるのに気配は感じない。その声を辿ろうにもどこから聞こえているのかすらわからない。こんなことは初めてだ。これが北大陸か…。


アキラ「ミコ!」


ミコ「きゃっ!」


 今度はギリギリ受け止められた。ミコがこれを食らえば無事では済むまい。その攻撃は十二本の矢だった。だが普通の矢ではない。俺が受け止めた矢は徐々に崩れて消えてなくなってしまった。これは恐らく…。


アキラ「これが魔法…か。」


???「ほう…。まさかこれを受け止めるとはな。無謀にも上陸してくるだけのことはあるがその過ぎた自信が命を縮めることになったな。」


アキラ「ふぅ…。死ぬのはお前だがな。」


???「くっくっくっ。すでに一人仲間は死んだ。俺の姿を見つけられないお前達がどうやって俺を殺すというのだ?さっきは偶然受け止められたようだがそう何度も幸運が続くかな?一人ずつ死んでいくのを嘆きながら見ているがいい。」


アキラ「ああ。俺は見ているだけだ。お前のせいでやる気になった奴がいるからな。俺が手を出すまでもない。」


???「なんだと?」


ガウ「がううぅっ!」


???「ばかなっ!生きているだと!?」


 吹き飛ばされたガウは起き上がり四つん這いになっている。その顔は険しく牙を剥き出しにして鋭い目つきで周囲をキョロキョロと探っている。


ガウ「ううぅぅっ!がうっ!」


 ガウが何もない空間に飛び掛り爪を振るうと空中から血が噴き出した。


???「ぐあぁぁぁっ!なぜ俺が見える!」


 着地した拍子に外套が脱げてガウの体が露になる。その体には傷一つない。


???「俺のマジックアローを受けて無傷だと!そんな馬鹿な!貴様らは一体…。」


アキラ「そんなことを気にしている余裕はあるのか?」


???「何?うおぉぉぉっ!」


 ガウが物凄い速さで次々に爪を繰り出し姿を消している魔人族らしき者はあちこちから血を流している。姿自体は相変わらず見えないが体から離れた血までは消せないのか何もない空中のあちこちからピューピュー血が噴き出している。


???「ぐっ…。」


 とうとう膝を突いたようだ。消えていた姿も現れる。緑の長い髪に頭の左右から角が生えている。緑の瞳で彫りの深い顔だ。角以外は人間族とあまり変わらない。引き締まった体躯であちこち肌が露出している。ベルトのような物があちこちにありその下には肌が見えているのだ。日本でもこういう服はあったかもしれないがあまりファッションに興味のない俺では何と表現すればいいのかわからない。もっとも今はガウに付けられた傷が体中にある。どれも深い傷でガウが正確に打ち込んでいたのがわかる。


???「待てっ!話がある。」


アキラ「命乞いか?」


???「いや…。そんなつもりはない。」


アキラ「だったら何だ?」


マンモン「俺は大ヴァーラント魔帝国六将軍の一人、マンモン=アワリティアだ。死ぬ前に俺を倒した者の名を聞きたい。」


 ガウを見つめながらそう語るマンモンはすでに戦う意思がない。ガウに視線を向ける。


ガウ「がうなの。」


マンモン「そうか。ガウよ。俺は貴様に敗れた。だが最後に戦えたのが貴様であったことを俺は誇りに思う。さぁ、勝者の証に俺の首を取れ。」


 ご大層な名前の割りにはあまり強くない気がするがそれは間違いだろう。俺達の桁が違いすぎるのだ。それでもガウは制限されている範囲とはいえ妖力を使っている。人間の振りをして人間の能力だけで戦えるほど弱い相手ではなかったのだ。まだミコの全力は知らないが今まで見た範囲でのミコやロベールが千人や一万人いてもこのマンモンには敵わない。いかに人間族と魔人族の能力に差があるかわかるというものだ。


ガウ「がうぅ。」


 ガウは俺を見上げてくる。どうすればいいのか俺の指示を待っているのだろう。


アキラ「思わぬ大物だったようだな。お前はなぜこんなところに居た?北回廊を監視していたのか?」


マンモン「偶然通りかかっただけだ。大ヴァーラント魔帝国は北回廊など監視していない。人間族が攻めてきたいのなら好きなだけ攻めてくればいい。」


アキラ「それで俺達を見かけたらから襲ってきたわけか。」


マンモン「そうだな。別に監視はしていないが攻めて来たとなれば始末はする。そして俺は敗れ貴様らが勝った。それだけのことだ。」


アキラ「一つ言っておくが俺達は人間族の国とは関係ない。ここへ来たのも攻めてきたわけでも偵察にきたわけでもない。」


マンモン「ほう…。ならば何の用があってこんなところに来た?」


アキラ「俺達は世界を旅しているだけだ。お前達が俺達を襲うのなら叩き潰すのは容易いが俺達も無用な争いをしたいわけじゃない。俺達がこの国を旅するのに余計な揉め事が起こらないようにお前が取り持てないのか?」


マンモン「それを信じろと?皇帝陛下の命を狙うために近づくための虚言かもしれないのにか?」


アキラ「ガウはまだまるで本気を出していない。六将軍などと言うくらいだからお前も弱くはないんだろう?そのお前が手も足も出ないんだ。俺達にとってはこの国をどうにかするつもりなら正面から乗り込んで皆殺しにすれば済む話だ。」


マンモン「………。わかった。だが俺一人では決められない。途中まで俺も同行させてもらう。そこで貴様らについてどうするか決定させてもらうことにするがそれで構わないか?」


アキラ「ああ。それでいい。お前がいれば無駄な争いをしなくて済みそうだしな。もし俺達を殺そうという結論になればその時お前達を皆殺しにでもすればいい。」


マンモン「くっくっくっ。その揺らがない自信。本気でそう思っているんだな。面白い。お前達の旅を見届けさせてもらおう。」


 こうして俺達は暫くの間マンモンを連れて旅を続けることになった。



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