表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生無双  作者: 平朝臣
2/225

第二話「死から始まる異世界ライフ」


 一瞬「熱っ」と思った気がするがそれもほんの一瞬のこと。おそらく俺は一瞬にして消し炭も残らないほどの熱で消滅したのだろうと漂いながらぼんやりと考えていた。「漂いながら」?…。わからない。何となくそう思ったのだろうか。立っているのか寝ているのか。浮いているのか沈んでいるのか。動いているのか止まっているのか。辺りは真っ白のようで透明なようで真っ暗なようにも感じる。途轍もなく広い空間のようで身動き一つできないほどぴったりと狭い空間のようにも感じる。まだここに来て一瞬も経っていないような気がするし永遠とも言える時間が過ぎたような気もする。これが死後の世界というやつだろうか?そんなことを考えているとどこかで誰かが話しているような気がした。一人で話しているのか誰かと話しているのか。たくさんの気配に囲まれているような気もするし誰一人の気配もないような気もする……。





???「…手違……。…巻き込……。」


???「…。……転生……。…者…と同…時代……。」


???「想…外……時間軸…ずれ……。…の者と……勇…とは時…が…異な…。」


???「…ずれ…修正…。………償い……。」


???「…かし…どのよう…。」


???「意識…半…封印……同…時代……。勇者……同…代…真の……覚醒…。」


  =======



 ハッ!と目が覚めた。寝そべっていた体を起こす。目の前は見渡す限りの草原。遠くに山が見える。体を横たえ枕にしていたのは木の根。木の方を向くとそちらは森のようになっている。森と草原の境目の辺りに寝転んでいたようだ。ここはどこだ?俺は誰だ?なぜこんなところにいる?………。


 俺は九狐里 晶。オーケー、それは覚えてる。だがここがどこで、なぜこんなところにいるのかはわからない。いや…本当は何となく感じているのにわかりたくないだけかもしれない。どれほどの時間が経ったのかはわからないが意識のあった最後の記憶では学園の教室にいたはずだ。そして学園一有名な幼馴染三人組に絡まれていた。その三人が下から現れた光る魔方陣に吸い込まれたように見えた直後に溢れた光に貫かれて俺はおそらく死んだ。ということはここが死後の世界なのか?なんとも長閑な景色だ。


 そうか…。死んだのか…。エリートになって世の不正を正して、自分勝手な者たちにその罪を償わせてやろうと思っていたのに…。そのために体も鍛え、勉強も頑張り、その時が来るまではと、どんな苦労も耐えてきたのに。結局何もできずに、何もする前に…俺は死んでしまったのか…。


 そんなことを考えていると背後の森からガサリと葉の鳴る音がした。振り返ってみるとそこには……。


晶「………ゴブリン?」


 そう、ゴブリンだ。いや、俺は本物のゴブリンなんて見たことはないがイメージそのままのゴブリンだ。緑色の肌に赤いとんがり帽子。襤褸切れを貫頭衣のように被り腰に荒縄のような物を巻いてとめている。背丈は小さく、おそらく幼稚園児か小学生低学年くらいの身長しかなさそうだ。顔に比べて大きく魔女のように尖がった鼻をしている。醜悪な顔にぎざぎざの歯が見えている。それぞれの手には刃のかけたナイフや石斧のような物を持ったゴブリンが五匹。森の中をガサガサと歩きながら俺の方に近づいてくる。


 どうする…。こちらは武器になりそうな物は何もない。ゲームでは雑魚扱いだが実際今目の前にいるこいつらの強さはわからない。ゴブリンは完全に俺を見つけて明らかに狙っている。今更隠れることは不可能だ。逃げるか戦うか。ともかく座ったままはまずい…。そう思って立ち上がってみると…。


 でかい。ゴブリンは少し俺より小さいだけだ。見た感じ小さな子供くらいしかなさそうだと思ったのだが俺が立ってみると思ったより俺との身長差が少ない。いや、ゴブリンだけじゃない。周囲の木も草も俺が感じていたより大きい。…これはもしかして周囲が大きいのではなく俺が小さいのではないだろうか…。


 それは非常にまずい。小さいということはパワーもスピードも落ちている可能性が高い。俺も体を鍛えたりアルバイトで荷物運びをしていることからそれなりに体力、腕力には自信があった。しかし俺より少し小さい程度の体格差では魔物っぽいこいつらのほうが力が強いかもしれない。また俺が小さいということは今までの体感より逃げ足も遅い可能性がある。もしかしたらまずいかもしれない。そう思ってゴブリンの方を注視しながら少し後退りしようと思って足に力を入れた瞬間…。


 まるで瞬間移動でもしたかのようにものすごい速度で一瞬にして5mほど後方へとバックステップしてしまった。だがそんな速度であったにも関わらずまるでふわりとでも音がしそうなほど静かに、何の衝撃もなく一切ぶれることもなく着地した。


晶「なんだこれ…。どうなってる…?」


 ゴブリンたちは俺の動きを目で追えていなかったのか一瞬俺を見失ったようだった。


晶(今の状態でパワーがどれくらいあるかわからないが…、これならいけるか。)


 俺は戦うことに決めた。最悪でもこの速度なら奴らに捕まることはない。攻撃してもダメージを与えられそうになければ逃げればいいだけだ。どの道こんなところにポツンと一人でいる以上、これから先にもまたこういうことが起こるだろう。ならばこの速度についてこれていないゴブリン共で実力を試しておかなければならない。もしここで何もせず逃げ出して、この先こいつらより強い敵と出会った時に逃げることもできず戦う術もなければ今度こそ本当に死ぬことになるかもしれないのだから。


晶(「今度こそ」か…。さっき死後の世界だなんだと考えていたはずなのにな…。生きていようが死んでいようが、どちらにしろここでこいつらに何かされるつもりはないってことだな。)


 そうと決まればさっさとやるべきことをする。五匹は扇状に広がりながら俺を半包囲しようと森から草原に出てくる辺りだ。俺は俺から見て一番左側の一匹を最初のターゲットに決めた。理由は包囲されないように左右どちらかの端から倒そうと思ったことと、右の奴よりもマシそうなナイフを持っているからだ。


晶(こいつらの包囲よりさらに左側に回りこみ一番左の奴に右の奴らに向かってぶっ飛ぶように蹴りをぶち込み、怯んだ隙にナイフを奪い取る。)


 行動を思い浮かべて足を動かした瞬間。


晶(速いなんてもんじゃない。世界が流れるようだ。)


 とんでもない速度で視界が流れ左側に大きく迂回しゴブリンの包囲の外側へと出て即座に一番左のゴブリンに接近する。そしてナイフを奪う隙を得るために繰り出した右足の蹴りが当たった瞬間。


 蹴りを受けたゴブリンは破裂してミンチになった。左側から包囲している右側の奴らに向けて蹴り飛ばすつもりだったゴブリンが破裂し散弾のように他のゴブリン達に襲い掛かった。途轍もない速度で飛び散ったゴブリンの散弾は他のゴブリン達を貫いて、当たったゴブリン達三匹まで同じように破裂させて遥か遠くにまで飛んで行った。俺から一番遠く森と草原の境目辺りまでしか出てきていなかった最後の一匹は木の幹が盾となっていた。まだ生きているだろうと思い即座に木の幹に周り込むと幹を貫通した散弾になったゴブリンの骨に頭を破裂させられて死んでいた。一匹に蹴りを入れただけで五匹全てを倒していたのだ…。そして俺の右手にはボロいナイフが一本。左のゴブリンから奪おうと思っていたが蹴った瞬間破裂してあっという間に飛んでいったので奪う暇などなかったはずのナイフは、いつの間にかしっかりと俺の右手に握られていたのだった。


 そのナイフを見て俺の動きが止まった。いや、正確にはナイフを握っている俺の右手を見て…だ。ナイフをポロっと落としてしまう。


晶(なんだこれは…。俺の手じゃない…。)


 そこにあったのは見慣れたゴツゴツした男の手ではない。丸くて小さな…それはまるで子供のような手だった。そして今更重力が追いついたかのようにふわりと下りてくる髪。頭から首筋、背中、膝裏くらいまで感じる長い…長い髪。そう、それは髪の毛だ。ありえない。人によって一般的がどの程度かは変わるとしても俺は一般的男性の髪の長さと言える程度の髪の長さだ。長く伸びている状態でも肩まで掛かるようなことなどあり得ない。毛先のほうを確認しようとして下を向いた俺の目にはさらに衝撃的な物が映った。


晶(ス…スカート?)


 自分の姿をよく見てみる。所謂ゴスロリファッションというのが一番近いのだろうか。俺はファッションには疎いのでよくわからないが、真っ黒いドレス、スカート部分には白いヒラヒラがたくさんついていてボリュームがあるようにふわりと広がっている。襟と袖にも白いヒラヒラ。胸の部分だけドレスの下の衣装が見えている。イメージとしてはア○ミラの衣装のような感じなのだろうか。巨乳というほどではないが背丈から考えれば結構なボリュームの胸がついていると思う。髪も真っ黒でやはり膝くらいまであるストレートヘアーだ。どういうことかと頭を抱えて手に当たる物に気づく。何か頭の上にある…。触っている方にも触られている方にも感触がある。神経が通っているということだ。物を乗せているだけというわけではない。体の一部分だ。この手触り、形、そして動く。これは…まるで猫の耳のような………。


晶(もう訳がわからないよ…。)


 鏡がないので顔はわからないが背格好からしてまるで少女のような体。頭の上には猫のような耳。途方に暮れそうになる。悩んでいると尻の上、尾てい骨の辺りが何やらソワソワする。もう何があっても驚かないと思いつつもやっぱり内心は焦りながらソロソロと手を近づける…。そこにあるのは…毛。髪ではない。毛の塊だ。それもかなりの量がある…。両手でよ~くまさぐってみる。それは尻尾だ。20cmかそこらくらいの長さであろう尻尾が何本も生えている。ドレスがどういう構造になっていて穴があいているのかわからないが、これは紛れもなくこの体から生えている尻尾だ。数えてみると全部で九本ある。


晶(九本の尻尾?九尾?猫のような耳…九尾の狐?これは俺じゃ…俺の体じゃない?)


 さすがに俺でもどうすればいいかわからなくなってくる。わからないことだらけだ。見知らぬ土地。今どこにいるのかどこへ向かえばいいのか。突然モンスターに襲われ、驚異的な身体能力で助かったとはいえ明らかに俺の物ではない誰とも知れない体。一つだけわかることはこのままここに居続けることは得策ではないだろう。ゴブリンの死体から血の匂いが漂っている。ここの生態系はわからないがいずれ血の匂いを嗅ぎつけた他の肉食動物が集まってくるかもしれない。だが立ち去ろうにもどこへ行けば…どっちへ行けばいいかすらわからない。


晶(落ち着け俺。こういう時だいたいクソの役にも立たないラノベの主人公はオタオタと戸惑い動揺し何も決められないまま、何もしない無駄な時間を垂れ流し、力をつける訓練もせず、知識を得るために情報収集もせず、平和にのほほんと暮らして、突然平和を壊す敵に襲われて結局仲間は守れず、敵を殺す決意もできず、己の無力を嘆き周囲に迷惑だけかけて、何の苦労もせずご都合主義で解決して自分だけ幸せになる。そんな都合の良いことがあるわけないとそういうラノベを読むたびにイライラしてたじゃないか。今俺に必要なものは力と知識と覚悟だ。第一目標は生き延びること。そのためには知識を得るための情報収集。何をするにも自分のことを理解するにも情報がなければ何もわからない。どこかコミュニケーションの取れる相手のいる場所へ向かう。そして道中に力をつける訓練をする。それらを行うためには覚悟が必要だ。俺はヌルい事は言わない。状況がわかるまではまず生き残ることが大事。邪魔する者は人だろうとモンスターだろうと踏み越えていく。)


 方針は決まった。あとはどっちへ行くかだ。暫し考えたあと俺は草原の向こうに見える山を見据えた。


晶(教室で三人組が消えたのはラノベ的には勇者(笑)の召喚だろう。俺はそれに巻き込まれて死んだ。だがこの別人の体になって今ここにいる。ここは勇者(笑)を召喚した世界だと考えておこう。もし異世界だとすれば俺はこの世界のことについて何一つ知らない。明らかに人間ではないこの姿で常識も知らない。うっかり何も知らずに敵対種族の所にでも行こうものならいきなり攻撃されるかもしれない。だがじっとしてても始まらない。向こうに何か大きな気配を感じる気がする。この体は異常なほどに高性能だ。並の敵ならどうにかなりそうだし向こうの気配からは嫌な感じはしない。ここは異世界らしく第六感を信じてみるか。)


 俺は山の方に感じる気がする気配に向かって進むことに決めて歩き出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ