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転生無双  作者: 平朝臣
198/225

外伝2「スサノオの冒険8」


 コトに案内されて少しだけ森に入っていく。するとすぐにみすぼらしい小屋が見えてきた。


コト「あそこが俺の家だ。何のおもてなしも出来ないがゆっくりしていってくれ。」


 案内された家は確かに何もなかった。ギリギリ家族五人が生活出来る程度の狭い家。室内に保存されている食料にも余裕はないことがわかる。


 全員は入れないのでミカボシの手下達は外で周囲を警戒することになった。


コト「俺の自己紹介はもういいな。こっちが俺の妻のノウ。」


 コトの紹介を受けてまだ事情がよくわかっていないノウと呼ばれた兎人種の女性は固い表情のまま頭を下げた。


 コトは真っ白に見えるくらい白く、その顔は若干兎を思わせる顔つきをしている。それにくらべてノウは普通の一般的兎人種であり兎の耳が生えただけの人間族という感じだ。尻尾もあるはずだけど今の俺の位置からは見えていない。


コト「それからこの三人が俺の大切な子供達。長男のジャッカ、次男のヴォルプ、長女のダウ。三つ子なんだ。」


 そう言って寝かされている赤ん坊を覗き込んでいた。その顔はだらしなく緩んでおりコトがこの三人の子供達を溺愛しているのがわかる。


 それはいいけどこの子供達………。


スサノオ「大変な子供が生まれてしまったみたいだね。」


 俺の言葉にコトは深刻そうな顔になった。こと戦闘に関しては鋭いミカボシも黙って頷く。アン、イフリル、ゾフィー達には何のことかよくわかっていないようだった。ヤタガラスはこの子供達のことについてはわかっているだろうけど何がそんなに大変なのかということは理解していないようだった。


スサノオ「両方の親の特性を兼ね備えた子供…。それも三人とも……。こんなこと聞いた事がない。」


 この子供達は三人とも月兎であるコトの能力と獣人族兎人種であるノウの能力を両方とも兼ね備えている。


 そもそも異種族での交配自体が珍しいこの世界では混血児自体が少ない。でも確かに一部には存在する。特に今のように大きな国も少なく種族も一つに纏まりきっていない状況では、隣の村が異種族の村でお互いに交流がある場合もある。


 そんな状況で極稀に異種族で結ばれる夫婦もいるわけだが、異種交配で生まれた子供のほとんどはどちらかの親の特性しか引き継がない。そして最悪の場合はどちらの力もない無力な子供が生まれてしまう。


 戦力や種族の発展の助けにならないという意味で混血児を禁忌とするのも確かにあるけど、それだけじゃなくて無力な子供が生まれてしまったら子供の将来は大変なことになる。


 こんないつ誰と争わなければならないかわからない世界では力のない者は奪われるだけの存在になってしまう。


 どんな親でも子供の幸せを願うものがほとんどだ。そんな親が子供が将来奪われるだけの弱い立場になってしまうようなことを望むはずもない。だからこそ混血を禁忌として避けようとしているんだから……。


 そんな中にあっても例外というものは存在する。それが両方の親の力を引き継いだ子供達だ。異種族の両親の両方の能力を持つ子供。それはこの争いの時代において夢のような存在だろう。


 様々な種を掛け合わせていって全ての能力を持つ子供なんてものが生まれようものなら世界が大きく変わる可能性もある。でも最初に言った通り現実にはそんなことは起こり得ない。


 何しろ一度両親の両方の特性を引き継ぐ子供が生まれる可能性ですらほとんどないんだから、その先さらに何度も両方の特性を引き継ぐように子孫を残すなんて不可能だ。


 何より現時点でわかっていることは両方の特性を引き継いだ子供の子孫も両方の特性を引き継いでいるとは限らない。コトの子供達は確かに今両方の特性を引き継いでいるけど孫達もそうなるとは限らないわけだ。それが曾孫、玄孫と進んでいけばますますそういう子供が生まれてくる確率が下がる。


 でも今目の前でそんな珍しいはずの子供が三人も同時に生まれている。偶々月兎と兎人種の相性が良かったからか?それともコトとノウが特別だった?


 とにかくこれは大変なことだ。月兎と兎人種の両方の能力を持った子供が今後たくさん生まれるとしたら大変な騒ぎになるだろう。コトが家の外で待ち構えて警戒していたのはこのことだったんだ。


 確かに妻と子供を心配して後ろに隠したまま俺達の前に現れたんだろうけど、それよりも両方の能力を持った混血児がたくさん生まれる可能性を知られるとまずいと思って自分だけ出て来たんだろう。


スサノオ「これはまずいね………。ミカボシ。」


ミカボシ「おう。わかってる。俺ぁ一度隠れ家に戻って手下に指示してくるぜ。ここを守ればいいんだなスサノオ様?」


 普段はあまり深く考えてないミカボシはやっぱりこういう時だけは妙に鋭い。コト達のことが知れ渡ったら絶対にあちこちから狙われることになる。


 だからって俺達が助けて匿ってあげる理由はないんだけど、ここまできたら放っておく気にはなれない。知らなければそのまま旅を続けられただろうけど知ってしまった今は出来る限りのことはしよう。


スサノオ「それじゃ任せるよ。あと移動は気をつけてね。」


 ミカボシは光の速さで移動出来るからここから隠れ家まで戻るのにもそれほど時間はかからない。でも本気で光の速さで移動したらすぐにツクヨミ兄ちゃんに見つかる。


 追われてる身のミカボシは敵に見つからないようにこっそり移動しなきゃならない。それでも一番早く隠れ家まで戻れるのはミカボシだ。俺達が転移を使わなければ……。でも手下に指示出来るのはミカボシだけ。だから多少の危険を冒してでもミカボシに行ってもらわなきゃならない。


ミカボシ「任された。それじゃ行ってくるぜ。」


 ミカボシが手下を連れて戻ってくるまでは俺達がここを守ろう。そう考えているとコトが何事かわからないという顔でポカンとしていた。


コト「どういう…ことでしょう?」


スサノオ「両方の能力を持ったすごい子供が生まれると知られたら君達家族は絶対狙われる。それはわかってるでしょう?だからそうならないように俺達が出来る限り守ります。」


コト「何……で?スサノオ様にとっては俺なんて今日、いや、さっき会ったばかりの見ず知らずの者でしょう?何で俺のためにそこまで?」


 コトはちょっと警戒した顔で俺を見つめてる。何か見返りでも要求されると思っているのかもしれない。例えばその能力を持った子供達を俺に仕えさせろ、とでも言うと思ったのかもしれないな。


スサノオ「別に見返りを要求するつもりはないよ。強いて言えば君達の子供達が敵になったら厄介だから敵の手に落ちないようにするため…、かな?でもそれより……、この子供達の寝顔…。俺はこの子供達に普通の幸せを掴んでもらいたいと思った。だからその手助けを出来るだけしたい。もちろん何でもかんでも全て守るわけじゃないし、守りきれるとも限らない。その辺は理解しておいてほしい。」


 そうだ。俺がずっとここで守るのならともかくミカボシの手下達じゃツクヨミ兄ちゃんは止められない。いくら守ろうと思っても絶対守れる保障はない。それだけは勘違いしないで自分でも自分達の身を守ることは忘れないで欲しい。


コト「…ありがとう…ございます……。」


 コトはただ黙って頭を下げた。もちろんすぐに俺達を信用することは出来ないだろう。そもそもで言えば俺だってミカボシの手下達を全員すぐに信用してるわけじゃない。俺が手下達に任せるのはミカボシを信用してるからだ。


ノウ「今日はここでお休みください。」


 ノウが柔らかい笑顔でそう言ってくれた。まだ俺達のことをよくわかっていないだろうけど、旦那であるコトとのやりとりで少しは何かを感じ取ったかもしれない。


 ミカボシ一人ならともかく連れて来る手下達の足を考えれば一日や二日はかかるだろう。そこでアンとゾフィーだけ小屋に泊めてもらうことにして俺達男連中は外で寝ることにしたのだった。



  =======



 翌日の夕方頃にミカボシが三人の手下を連れて戻ってきた。どうやらこの三人は足が速い者をとりあえず連れて来ただけらしい。彼らが状況とコトの家の場所を理解して他の手下達を巡回させるなどの手を考えるらしい。


 まずコトの家の近くに不順わぬ神々であるミカボシやその手下がいてはまずい。月人種から脱走したコトと不順わぬ神々が一緒にいる所など見られようものならすぐに敵認定されてしまうだろうからね。


 だからミカボシの手下達は少し離れた所に仮拠点を作り、そこを中心に周囲を警戒する形で話は纏まった。


 見かけ上はコトの方もミカボシの手下の方もお互いに不干渉というか存在自体知らないかのように活動することになる。


 ミカボシの手下達の拠点や巡回はコトと相談して決めることになっているから俺達はもう用がないだろう。そう思って出発する旨を伝えた。


コト「えっ!スサノオ様はもう行ってしまわれるのですか?せめて何かお礼を……。」


スサノオ「いや…、気持ちだけ貰っておくよ。それよりも子供達を大切にな。」


コト「………はい。ありがとうございました……。このご恩は一生忘れません。必ずや、いつの日か必ずや我が家系の者がスサノオ様のお役に立ってご覧にいれます。」


 そう言ってコトはまた頭を下げた。そんな大袈裟な、と思わなくもないけど彼は本気だ。だから俺もきちんと受け止めよう。


スサノオ「わかった。その時を楽しみにしている。」


コト「はっ!」


 あまりに真剣なコトにそれ以上何も言えずに俺は皆と一緒に旅を再開したのだった。



  =======



 コトと別れてから南大陸の南沿岸付近を東に向かって旅を続けた。そこそこ進んだ辺りに何かの砦があった。


ミカボシ「ありゃあドラゴン族だな。どうやらここはもうドラゴニアに入ってるみたいだ。」


 ミカボシが説明してくれた。どうやらドラゴニアとは南大陸の東三分の一くらいと東大陸の南部をどれくらいかはわからないけど支配してるドラゴン族の国らしい。


 ミカボシ達が南大陸の西部を支配するにあたってドラゴニアの領土だった所も一部奪い取ることになったと言っていた。


 まぁ…、つまり何が言いたいかと言うと……。


スサノオ「このままミカボシを連れて行ったら俺達敵だと思われるんじゃないか?」


ミカボシ「そうかぁ?そんなこと未だに気にしてるかな?」


 いやいや…、そりゃするだろ……。ミカボシは戦った結果のことならすぐに忘れて恨まないのかもしれないけど世の中のほとんどの者はそうじゃない。一度やられればいつかやり返してやろうと虎視眈々と狙っているだろう。


 ドラゴニアもミカボシから奪われた領土を取り返す準備くらいしてそうだ。そんなところへノコノコとミカボシが行けば即座に攻撃されてもおかしくはない。


イフリル「問題はミカボシがドラゴニアの者達に自分達の領土を奪った者の棟梁だとばれているのかどうかじゃな。」


 イフリルの言葉に全員の視線が集まる。そうか…。ミカボシが敵の棟梁だと思われてなければやり過ごせるか?


ミカボシ「そいつぁ無理だろうなぁ。何しろ俺がドラゴニアの王城に乗り込んで行ってここら辺を寄越せって地図を示して言ってやったからな!がはははっ!!!」


 あぁ…。やっぱり戦い以外に関してはミカボシは何も考えていない………。これじゃ正攻法でミカボシを連れたままドラゴニアを渡るのはほぼ不可能だろう。


 全員がミカボシに白けた目を向けてるのにそれに気付きもせずにミカボシは豪快に笑い続けていた。何でそんなことで胸を張ってるのか意味がわからないぞ………。



  =======



 俺達は一先ず砦から少し離れた所で野営することにした。まだ何の策も思い浮かばないし強行突破する気はない…。今のところはだけど………。


 もしこのまま何の解決策もなければ強行突破もやむを得ない。それかミカボシとはここでわかれるかの二択が最後の手段だ。


 でもそう焦ることもない。それらはあくまで最終手段であって今すぐしなければならないほど状況は逼迫していない。


 特に急いでいる旅路でもないしこれまでも似たような状況で何度もあちこちで足止めを食らったことがある。今回今すぐここをどうにかしなければならないということはなかった。


アン「スサノオ様!晩御飯の用意が出来ましたよ!」


 いつもの騒がしいアンが戻ってきたのはいいけどこれはこれでどうなんだろう……。一応隠密行動中なのにこの騒がしさ…。そして野営の灯りや煙が砦からも見えてそうな気がする。


 ついでに言えばドラゴン族は知らないけど鼻の良い獣人とかならご飯を調理してる匂いも嗅ぎ取ってるだろう。これは果たして隠密行動と言えるのだろうか?


ゾフィー「スサノオ早く。」


 ゾフィーがぐるぐるとお腹を鳴かせながら俺の腕を取って引っ張る。よっぽどお腹が空いてるらしい。まぁ音で丸分かりだけど…。


 ゾフィーは何故か…、というにははっきり理由はわかってるけど夫を立てて自分が先にご飯に手をつけたりはしない。俺はゾフィーの夫じゃないけどね。


 夜も必ず俺が寝静まるまで起きている。もちろん本当に寝ているかどうかは別だけど…。俺ってあまり睡眠は必要じゃないし…。ただ俺が灯りを消して寝転がるとようやくゾフィーも寝てくれる。俺が起きてると絶対寝てくれない。


 ゾフィーの集落の慣習か何か知らないけどそういう遠慮はしないでいいって言ってるんだけど絶対にやめることはなかった。


 こっちも気を使ってしまうけど、それでもここまでしてくれて悪い気はしない。何だかゾフィーが可愛く思えることも多くなった。


 でももちろんゾフィーをお嫁さんに貰うつもりはない。理由はもちろん色々あるけど……。やっぱり俺の中の『あれ』の問題が解決しない限り俺はそういうことはしちゃいけない気がする。


 今ならまだ俺一人の問題で自分で自分の始末をつけることも出来るけど、家族が出来てしまったらそうはいかない。俺の命は俺だけのものじゃなくなってしまう。


 だからだろうか……。俺はアンもゾフィーも嫌いじゃない。っていうかこれまで高天原で一人を除いて女の子とまともに接したこともない俺は二人のことをかなり好きになってる。


 女の子と接したこともないような奴が、ちょっと優しく話しかけてくれる女の子にあっさり惚れるのと似たような感情かもしれないけど、実際俺はその通りの生活を送ってたから仕方がない。


 それでも俺はアンともゾフィーとも結ばれようとは思えない。それどころかいっそ遠ざけてしまおうかとまで考えている俺がいる。


 二人のことは嫌いじゃない。でも嫌いじゃないからこそ二人には幸せになってもらいたい。俺の傍にいちゃ二人は不幸になるかもしれない……。そう思うとやっぱり俺は人と親しくならず、なるべく接しないで生きていった方がいいのかと考えてしまう。


 ………駄目だな。こうして一人で静かに考える時間があるといつもこんなことを考えてしまう。


 イフリルやヤタガラスやミカボシが含まれてないって?野郎のことなんて知るか。野郎共は自分で自分のことを考えろ。


 まぁ…、本当に危なくなりそうだったらどっかに追い出すさ………。


 結局砦をどうやって通過するか考えるつもりで何も浮かばないまま、俺は星が一杯の夜空を眺めたまま草原で眠りについたのだった。



  =======



 朝目覚めるとゾフィーが上から逆さまに俺の顔を覗き込んでいた。


ゾフィー「スサノオ。風邪ひく。」


スサノオ「あぁ…、ごめん。」


 どうやら俺は野営に戻ることなく少し離れた草原でそのまま眠ってしまっていたらしい。俺が野営に戻らないからゾフィーは見に来てくれたんだろう。


 そしてゾフィーの眼の下には隈が出来てる。どうやら俺が魔獣にでも襲われないように守ってくれていたようだ。


 実際には俺の気配を察した魔獣達は即座に逃げ出すから襲われることはない。でも例えほぼ襲われないとしても絶対とは言い切れないかもしれない。だからゾフィーはずっと俺を見守ってくれていたんだろう。


スサノオ「ごめん。ゾフィー、今日はゆっくり休んで。」


ゾフィー「ん……。たぶん無理。」


スサノオ「え?」


 寝不足でふらふらしてるゾフィーに今日は昼寝するように言おうと思ったらゾフィーが首を振った。どういう意味かと思って考えている途中で野営の近くに降り立つ空飛ぶ巨大蜥蜴がやってきた。


スサノオ「あれは…、あれがドラゴン族?……やばいっ!皆のところに戻ろう。」


 俺はゾフィーを連れて野営に急いで戻る。


ミカボシ「おうスサノオ様。どうやらこいつらが話しがあるそうですぜ。」


 慌てて戻った俺達にミカボシが余裕で話しかけてくる。何かちょっとその笑顔がイラッとするぞ。俺が慌てて戻って来たってのにミカボシは余裕の表情でニヤニヤ笑ってる。


ドラゴン族A「お前がこの集まりのリーダーか?」


スサノオ「りぃだぁって?」


ドラゴン族A「………お前が棟梁か?」


スサノオ「あぁ…。そういうことか。ああそうだ。俺がこの集まりを率いてる。」


 ドラゴン族の言葉は独特らしい。一瞬何を言われたのか理解出来なかったけど言いなおしてもらったらわかった。


ドラゴン族A「そうか。ならば主の言葉を伝える。お前達はただちに砦に出頭せよ。」


スサノオ「………。」


ドラゴン族A「………。」


 ん?もしかして終わりか?まだ何か言うのかと思って待ってたけど何も言う気配はない。どうやら砦に来いと伝えたかっただけらしい。


ミカボシ「おうおう。お前ら立場ってもんがわかってねぇようだな。てめぇらの主とやらがこの場に来てスサノオ様に頭を下げて引見を願うのが筋ってもんだろうが。それをスサノオ様を呼びつけるだぁ?てめぇら全員あの砦ごと灰にしてやろうか?」


 ミカボシが少し神力を出して威圧してる。仲間達はミカボシの威圧で息苦しそうに顔を歪めてるけどドラゴン族の使者としてやってきたらしい二人は平然としている…、と思う。蜥蜴の表情はわからないけど…。


 ただ二人には動揺は見られなかった。つまりミカボシの威圧を受けても平然としていられるほどの強者だということか?


 俺にはこの二人はおろか砦にいる者全てが協力してもミカボシに掠り傷一つ負わせることは出来ないと思えるんだけど、もしかしたらドラゴン族はもっと強いのかもしれない。


 それこそその種族しか知らない何かの奥義のようなものや変身なんかがあれば、今感じてる力じゃ計れない何かがあるのかもしれない。


 そう考えるとあまり油断しない方がいいだろう。これでもミカボシは俺の次に強い。その次はヤタガラスだろう。ヤタガラスはまだ子供だけどミカボシの手下達よりもすでに強い。


 ドラゴン族にはミカボシの威圧が平気なほど強い者達がゴロゴロいるんだとすれば、上位三人以外は命の危険が大きい。あまり下手に刺激して争いになるのはまずいかもしれない。


スサノオ「まぁ待てミカボシ。今の俺達には何か特別な地位や後ろ盾があるわけじゃない。ドラゴニアという国で砦を任されるほどの人物からすればそういう対応もやむを得ないだろう。」


 俺達が国津神や天津神の後ろ盾、つまりそれらの国でのはっきりした身分と地位を持っていれば砦の主とやらも相応の態度で俺達を迎える必要があっただろう。


 でも今の俺達にはそんなものはない。俺達はそこらにいる野良だ。国にも所属していないし領地も持たない。領主たる者ならそんな相手に下手に謙ることは出来ないだろう。


 何しろ自分達の領主がそこらの野良に謙っていれば部下や領民達が主人を侮るだろう。そうなれば国や領地を纏めるのが難しくなる。だからある程度は向こうが領主然とした態度で臨んでくることはやむを得ない。


アン「はぁ…。スサノオ様がそう仰られるのなら従いますが!がっ!しかし!………たぶんスサノオ様が考えておられるような理由ではないと思いますよ?」


 アンが最後だけ小さな声で俺にそう耳打ちした。どういう意味だろう?


 それはともかく俺達は砦の主の招きに応じて砦へと向かうことにしたのだった。


 因みに俺達がここで野営しているのがばれてこうして使者がやってきたのは、やっぱり昨晩の灯りや料理の匂いなどだったようだ。


 そりゃこんなすぐ近くで野営してたら誰かいるってことくらいすぐばれるよな………。まぁそれでもいいかと思ってここで野営してたわけだけど……。



  =======



 使者としてやってきたドラゴン族二人に先導されて砦に辿り着き、さらに中を進んでいく。砦に着くと二人は人型になっていた。どうやらドラゴン族は人型と蜥蜴型を切り替えることが出来るらしい。


 砦の中を進んでいくと大きな扉の前に辿り着いた。先導役が声をかけると扉が開かれた。そこは謁見の間だ。こういう石造りの城や砦は高天原にはなかったけど、これが謁見の間だということは俺にでもわかる。


 左右にドラゴン族の兵士らしき者達が並ぶ中を俺達は歩いていく。ドラゴン族達は俺達を見て侮蔑や嘲笑を向けてくる。


 でもここにいる奴らはそんなにすごいか?ミカボシの手下どころか下手すればアンやイフリルでも勝負出来そうな者達がほとんどの気がする。


 ゾフィーは残念ながら厳しいだろう。ゾフィーは種族柄遠距離用の特殊能力に乏しい。蜥蜴型で空高くに舞い上がられては攻撃する手段がほとんどなくなってしまう。そうなればゾフィーに勝ち目はない。


 ドラゴン族はその程度に感じる。それなのにドラゴン族の余裕は崩れない。俺が彼らの実力を見誤っている?もしかして見せ掛けの力は偽装で本当はもっとすごい力を持っているのだろうか?


 そんなことを考えていると俺達は玉座の前に辿り着いていたようだ。数段高みにある玉座に座った男が俺達をつまらなさそうに見ている。


???「ふんっ…。お前達が『荒れすさぶ鬼』の一味か。どいつが『荒れすさぶ鬼』だ?」


 玉座の男は名乗りもせずにいきなりそんなことを言い出した。何だこれは?いくら何でも失礼を通り越して喧嘩を売ってるとしか思えない。


 それに荒れすさぶ鬼って何のことだ?そんな名前は聞いたこともない。誰か仲間で知ってる人はいないかな?そう思って俺は後ろからついて来ていた仲間達を振り返る。


スサノオ「………。」


皆「「「「「………。」」」」」


 ………あるぇ?何か皆がじっと俺を見つめてる?


ドラゴン族A「この者がこやつらの棟梁だそうです。」


 使者としてやってきたドラゴン族が俺を指して玉座の男に答える。おいおい…。だからいくら礼儀作法が種族のよって多少違うとしてもそれは流石にどの種族でも失礼を通り越してるだろうってば……。


 仮にも主が招いた客を客がしゃべる前に指差して口を出すなど礼儀以前の問題だ。こいつらは俺に喧嘩を売ってるんだろうか?


 いやいや、待て待て。短絡はよくない。俺は世間知らずでドラゴン族のことなんて何も知らない。もしかしたらドラゴン族ではこれが普通なのかもしれない。


 他種族から見れば大変失礼なことだと誰でもわかると思うんだけど、彼らには彼らなりの礼儀作法があるだろう。


???「使えそうか?」


ドラゴン族A「どうでしょう……。我々の力に腰を抜かしていたようですから…。遠呂知様が言われるほどの者達とは思えませんね。」


 ん?遠呂知様?何か気になる言葉だな。この国の王か?少なくともこいつらよりは上の立場の者なんだろうけど………。


 そういえば南大陸に入ってからは、今まで散々あちこちで聞いたヤマタ様の名前を聞かない。別に今そのことを言った理由はない。


 普通に考えたら遠呂知様はドラゴン族の関係者で相当上の立場の者だと思う。けど俺は何故か何の根拠もなくヤマタ様と遠呂知様には何か関係があるんじゃないかと考えてる。


???「そうか…。まぁ使えんなら使えんで良い。おいお前達、少しばかりわしの役に立て。そうすれば多少の自由は与えてやろう。」


 んん?これはつまりドラゴニア、かどうかはわからないけど少なくともこの砦周辺を通りたかったら、この領主らしき者にいくらか協力しろってことだろうか。


 そういう話ならこれまでの旅でもよくあった。特に珍しい話じゃない。旅人が自由に通過できるようにするために領主に何らかの見返りを支払うのは割りと普通だ。


 それが例えば金銭であったり、今回言われたように何かに力を貸したりだ。それならこの話に乗って領主に力を貸して通行許可を貰った方が手っ取り早いか?


スサノオ「どう思う?今までみたいに協力すれば通行許可を貰えるって話だと思うんだけど。」


アン「まぁ…、スサノオ様の思われる通りになされば良いと思いますが……。たぶんスサノオ様の考えておられることとは違うんじゃないかなぁと思いますけど………。」


ゾフィー「ゾフィーはスサノオに従う。」


イフリル「わしは…、あまり良い予感はせんな。この話は蹴るべきだろう。」


ヤタガラス「アニキなら何があっても平気っすよ!」


ミカボシ「俺ぁこいつらをぶっ飛ばせば済む話だと思うがなぁ。」


 皆の意見を聞いてみた。どうやらほとんどはあまり乗り気じゃないみたいだな。俺の決断に従うとは言ってるけど明らかに皆やめておいた方が良いって顔してる。


 でもじゃあこの話を蹴ってどうするのかという策はない。ここで領主と対立すればこの場では俺達が勝ってもいずれドラゴニアという国全体と対立することになりかねない。


スサノオ「まぁ話を蹴った場合の策もないし一応聞くだけ聞いてみよう。」


ミカボシ「だからこいつらをぶっ飛ばせば………。」


 ミカボシが何か言ってるけど無視だ。ここで揉めてもしドラゴン族がミカボシの威圧に耐えれるほどの強者揃いなんだったら仲間達の身が危険だ。


 それにドラゴニア全体とも敵対しかねない。それじゃ安全な旅をするにはドラゴニアを征服してしまうしかなくなる。


 そんなことをするつもりがない俺は領主らしき者に話を聞いてみたのだった。



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