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転生無双  作者: 平朝臣
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外伝2「スサノオの冒険6」


 私は空を見上げる。先ほどまで世界を覆っていた破滅の力はもう感じられない。でもだからと言って危機が去ったわけではない。


 ただあの破滅を齎す者が力を抑えただけ。だからいつでもまたあの力は宇宙せかいに牙を剥く。そしてそれを止めることが出来る者は誰一人いない。


 それが例え天津神であろうとも、国津神であろうとも…。あの破滅の力に立ち向かえる者すら居はしない。この宇宙の力全てを集めようとも破滅の力の前には無力。何の意味もない。


 でもだからと言ってただ何の抵抗もせず殺される気はさらさらない。精一杯生き足掻く。


 あるいは………、あの力の主は泣いている子供のようだった。もちろん姿が見えたわけじゃない。どこに居たのかもよくわからない。ただあの不吉な力がファルクリア全土を覆っただけだ。


 その力の主は心が張り裂けそうなほどの悲しみに泣いているように感じた。もし…、そうなのだとすれば……。その心を慰め鎮めることが私の役目なのかもしれない。


 何故なら私は―――。


イナリ「ダキお姉さまっ!」


 同じ九尾の妖狐のイナリが抱き付いてくる。この娘は妖狐の里を出た時から…、ううん。里に居た時から一緒に育ってきた。少し年下でまるで妹のようなものね。


イナリ「怖かったですお姉さま。」


 先ほどの力が怖かったのか私に抱き付いてくる。その気持ちもわからなくはないけど…、この娘の場合は多分違うかな。それを口実に私に甘えたいだけだと思う。イナリはいつまで経っても甘えん坊だから。


ダキ「まぁまぁ…。イナリったら…。甘えん坊さんね?」


イナリ「甘えん坊でも何でもいいです。こうしてダキお姉さまのお胸に包まれていられるなら。」


 私がイナリの頭を撫でるとますます私の胸に顔を埋めてくる。薄い茶色の髪は獣耳の毛と色が同じだから境目がわからない。


 肩甲骨の辺りまで伸ばされた髪は癖っ毛であちこちがぴょんぴょんと跳ねている。茶色がかった銀色のような瞳の目を細めて気持ち良さそうに私に撫でられていた。


咬竜「ごほんっ!遠呂知様、失礼します。」


 部屋の隅に控えていた咬竜がわざとらしく咳払いしてから声をかけてくる。その顔は真っ赤になっていた。どうやら私とイナリが抱き合っているのを見ただけで興奮してしまっているらしい。


 咬竜の目が見るまい見るまいとしながらも、チラチラとイナリに触られて動く私の胸を見ている。これくらいの男の子がそういうことに興味を持つのはむしろ当たり前のことで健全な証拠だ。だから私は無理にそれを咎めたりはしない。


 ただ出来ることならば同じ種族の者にそういう興味を向けて欲しいと願う。これまでも私に求愛してくる者は数多くいたけどそれらに応えるわけにはいかない。私には私のお役目がある。


咬竜「そういうことは出来れば閨でお願いします。」


イナリ「そうですね!それでは閨に参りましょう!」


 咬竜の言葉にイナリが我が意を得たりと私の手を引いて行こうとする。


ダキ「イナリ…。私のお役目は知っているでしょう?」


イナリ「………何で、………何でダキお姉さまをわけのわからない者に奪われなければならないのですか!」


 それまでニコニコしていたイナリが突然激昂する。


ダキ「奪われるのではないのですよ。それが私のお役目です。」


イナリ「そんなのっ!………そんなのあんまりです。」


 最後の方の声は掠れて聞こえないほど小さな声になっていた。イナリが私のことを思って心配してくれていることはわかっている。


 まぁ…、それ以外にこの娘は私と子作りしたいという願望も持っているようだけど………。だけど私はその気持ちに応えることは出来ない。


 私は中央大陸にある妖狐の里で生まれた。もちろんイナリも同じ里で生まれた妖狐だ。その里には一つの信仰があった。それはこの世界、ファルクリアそのものを崇めるもの。


 この世界の中心にあって、最も高い霊峰をこの世界の象徴として崇めている。もちろんそれはこの山がこの世界の一番の象徴であるからであって山だけを信仰しているわけじゃない。その証拠に西大陸にあるという霊峰の次に高い山も祀られている。


 この世界そのものを崇め奉り、慰め鎮める。それが私の…、私達の信仰。そこで私はファルクリアの巫女として生を受けた。


 ファルクリアの巫女たる私の役目はその身を…、いいえ、身だけでなく心も力も血の一滴に至るまで全て捧げなければならない。


 そしていずれこの身はファルクリアを救うために捧げられる。それがどういうことか具体的にはわからない。ただそういう運命の下に生まれついたのだと妖狐の占いでわかっているだけ。


 私はそれを確かめるために旅に出た。中央大陸を周り、北大陸へと渡り、西大陸にも行った。各地で様々な人に出会い、時に争い、時に救い、時に救われてきた。そのうちに私はヤマタ様と呼ばれるようになっていた。


 私もイナリも九尾だからね……。確かに先が九つということは股が八つある。だからヤマタ様なんじゃないかと思うけど、どうしてヤマタ様と呼ばれてるのか確認したことはないからはっきりとはわからない。


 そして三つの大陸を回った私は中央大陸へと戻り、今度は南大陸へと渡った。南大陸の西部はどうも一部の天津神達が縄張りにしてるみたいだけど、南大陸の東部から東大陸の南部にかけて、大陸を跨ぐようにドラゴニアという国が興っていた。


 まだドラゴン族全てを纏めるほどには到っていないようだけど、このままいけばそう遠くないうちにドラゴン族を纏めてしまいそうだ。


 そのドラゴニアを訪ねた時にドラゴン族と争いになってしまった………。



  =======



 イナリと二人で南大陸へと渡り東大陸を目指して東へ進む。大陸の三分の二ほど進んだ辺りで初めてドラゴン族と出会った。


ドラゴン族A「貴様ら何者だ?!ここから先はドラゴニアの領土と知って無断で立ち入ろうとしているのか?」


 鎧を着た人型のドラゴン族兵士に怒られる。ドラゴン族はもっと…、悪い例えをすると爬虫類の蜥蜴のような姿をしているって聞いたけど普通に人型だった。


イナリ「いきなり何なのよ!ダキお姉さまに喧嘩売ろうっての?!」


 イナリがドラゴン族兵士の態度に怒りを顕わにする。でも待って欲しい。もし無断で相手の領土に入り込んでいたのなら私達の方が悪いだろう。


 どこから誰の領土なんて線が引いてあるわけでもないし、じゃあ入国するにはどうすればいいのか?っていうこともわからないのにドラゴン族の言い分は滅茶苦茶ではある。


 だけど無断で越境したのならそれを管理し監視している兵士達が止めるのは当然のことだ。だから彼らに怒りをぶつけても仕方がない。


ダキ「やめなさいイナリ。ごめんなさいね。私達はどこからがどの国の領土かも知りませんし、どうすれば正規の方法で入国出来るのかも知らないのです。よければ貴方方が案内していただけませんか?」


ドラゴン族A「ふざけるな!どこの誰かもわからないような不審者を入れられるわけがないだろう!」


 やっぱり不審者である私達は入れてもらえないようだ。南大陸西部で聞いた話では西部の支配を奪った天津神に散々にやられたらしい。そういうことがあったばかりだからドラゴニアの方も余計に気が立っているのだと思う。


ドラゴン族B「まぁそう言うなよ。いいじゃねぇか。通してやれば。」


 そこへ他の兵士が声をかける。何を考えているのかはその表情と私とイナリの体を嘗め回すように見ている視線で大体察しがついた。


ドラゴン族A「おい。それは命令違反だろうが。」


ドラゴン族B「そう固いこと言うなよ。なぁ?姉ちゃんらも通りたいんだろ?だったらわかるよな?ひひひっ。」


 もう一人の兵士は露骨に私とイナリの体を要求している。それがわからないほど私も子供じゃない。でも残念ながらファルクリアの巫女である私はそこらの男に体を穢されるわけにはいかない。


ドラゴン族A「おい…。お前な……。」


 片方の兵士は比較的真面目なようだ。こちらは職務に忠実で体を要求する代わりに目溢ししようというつもりもないらしい。


ダキ「……もう行きま……。」


 当然こんな馬鹿な話に付き合うつもりはない。彼らのことは放ってもう行こうかと思いイナリに声をかけようとした。でもそこで止まってしまった。


 それはイナリが危ないことになってたから………。


イナリ「このゴミ虫どもがっ!!!言うに事欠いてダキお姉さまの体を要求しようだなんて……、身の程を弁えろっ!!!人生千回やり直してこい!!!狐火の術!」


ダキ「ちょっ!!!イナリ!貴方はこっちに来なさいっ!!!」


 イナリの狙いは下卑た欲望を顕わにしていたもう一人の方だけど、これだけの威力の狐火を撃ち込めば真面目な方も消し炭になってしまう。私はギリギリで真面目だった方の手を引いてもう一人から急いで離れた。


 この程度の威力じゃ私に常時展開されてる防御を貫くことはない。それがわかってるからイナリも私を巻き込みかねない距離で術を使ってる。


 でもそれじゃ真面目な方まで死んでしまう。イナリは両方仲間なんだから同罪だと思っているのかもしれないけどそれはさすがに可哀想すぎる。なんとか真面目な方を庇いながらイナリの後ろへ周り込んだ。


 そして眩しい光と熱が過ぎ去った後にはイナリの前に立つものは何もなかった。木も草ももう一人の兵士もイナリの前方には円形に黒くなった地面だけしか残っていなかった。


イナリ「こんなものじゃ腹の虫が収まりません!ドラゴニア全てを滅ぼしてやります!!!」


 コハーと蒸気のようなものを吐き出しながらイナリがギギギッと音がしそうな動きで首を私が引っ張って助けた兵士に向ける。


ドラゴン族A「ひぇっ!」


 兵士はそれを見て腰を抜かしてへたり込んだ。無理もない。誇張でも何でもなくイナリ一人でドラゴニアを滅ぼせてしまう。そんな者の怒りを目の前で浴びせられたら普通のドラゴン族ではこうなってしまうだろう。


ダキ「イナリ落ち着きなさい。たった一人の犯罪者が犯した罪を同族だからというだけで種族全員に罪を問うのはおかしいでしょう?」


 まぁ今殺された兵士の場合は見逃す代わりに私達の体を要求しただけで、少なくとも私達の方からすれば犯罪者ではないけど……。


 ドラゴニアの法では犯罪でしょうけどそれは私達には関係ない。犯罪者と言ったのは例えであって実際にあの兵士を犯罪者と思ってるわけじゃない。


イナリ「犯罪者ならそうですね。でもこの蜥蜴どもはダキお姉さまを穢したのです!種族全てを根絶やしにしてもまだ足りませんっ!!!」


 フーッ!フーッ!と荒い息を吐きながら腰を抜かしているもう一人の兵士を見ている。


ダキ「もういいからイナリは落ち着きなさい。………ごめんなさいね。あの娘は一度怒らせると手がつけられないから……。それで、私達をドラゴニアへの入国が出来る場所まで連れて行ってもらえないかしら?」


 私はそっと腰を抜かした兵士の前に屈みなるべく刺激しないようにそっと話しかけた。


ドラゴン族A「―ッ!―ッ!―ッ!」


 ドラゴン族の兵士は声にならない声を上げて必死に何度も首を縦に振っていた。



  =======



 兵士に国境に案内してもらいながらいくらか話をした。彼はイナリを恐れてほとんどまともに話してくれないけど、怒らせたら大変だとは理解したのか聞けばそれなりに答えてくれた。


 ドラゴン族の簡単な生態やドラゴニアの内情について多少は予備知識が出来たと思う。国としてまとまりつつあり、もうすぐ種族を統一しそうなほどだからそこそこ発達した国になっているようだった。


 ドラゴン族は南大陸でしか見たことがない。まだ行ったことがない東大陸にもいるそうだけど、東大陸側のドラゴン族はまだ完全には纏まっていないようだった。


 逆に何故南大陸のドラゴン族が纏まってるかというと西部に現れて一部の地域を奪った天津神が原因みたい。


 つまりドラゴン族にとって共通の敵が現れたために、まだ統一されていなかった地域もドラゴン族同士で争っている場合ではないと協力体制を整えたということ。


 もちろん天津神が現れるまでにも人間族や獣人族、魔人族なんかとの争い自体はずっと昔からあった。当然東大陸では今もそれらとも争っているだろう。


 それなのに南大陸にいたドラゴン族が纏まったのはそれだけ天津神がドラゴン族にとって危険な敵だと判断されたからだと思う。


 まぁ危険っていうか残念ながらドラゴン族じゃ天津神には勝てないんだけど……。


 ともかく皮肉にも天津神に領土を奪われたからこそ、残りの地域も協力するようになり南大陸のドラゴン族は纏まり奪われた以上に領土が広がった。


 天津神は一部の地域だけ奪ったようだけどそれ以上支配地を拡げてはいないらしい。


 ドラゴン族の兵士はそれが何故なのかもわかっていないようだったし、いつかドラゴン族が領土を奪い返すと思ってるみたい。


 私の見立てではドラゴニアが滅ぶまで戦っても天津神に勝てる見込みはない。それに奪われた地を諦めればこれ以上天津神が攻めてくることもないだろう。


 その理由だけど、たぶんこの地を奪った天津神はどこかから追われてきた者達で棲み家を求めてやってきたんだと思う。


 そして最初に領土を奪って以来まったく動いていないということは必要な部分だけ奪って満足したからだと思う。もしまだ足りていないのならもうとっくにドラゴニアに攻め込んでるはずだからね。


 そもそも世界各地は国津神が名目上の最上位の支配者であってそこに住む者は国津神の庇護下にあるということになっている。


 だから天津神が実際に戦ったのは国津神とだろう。ドラゴン族と天津神では力が違いすぎるからそもそも相手にもされていないと思う。


 天津神のことは放っておけばこれ以上手を出してこない可能性が高い。もちろん可能性の話だから来る時は来ると思うけど…。でも自分達から下手に攻撃して怒らせればドラゴニアが滅ぶだろう。


 それならもう奪われた地は諦めて天津神を放っておく方がいい。これ以上攻められた場合の対策は必要だけど天災だとでも思って諦めるしかないかもしれない。それほど天津神と国津神はファルクリアに生きる者達よりも突出している。


 そんなことを聞きながら歩いていると何か砦のような場所が見えてきていた。あれが一応の国境の入り口なのかな。


 連れて来た兵士はもう一人の相方が何故死んだのか彼らに言うだろう。別に口止めもしてない、どころかきちんと説明するように言ってある。その話を聞いて私達の正当防衛だと思われるか、同胞を殺した敵だと思われるかはまだわからない。


 ただ殺してしまったことは事実だからそれをありのままに報告するようにと言っておいた。その結果敵対することになってしまったらドラゴニアは実力で突っ切るしかないかもしれない。


 そして砦で一時足止めされた私達は移動することになった。どうやら王都という場所に連れていかれるらしい。


 この砦の者じゃ私達の処遇を判断が出来ないし争えば勝てないと連れて来た兵士が必死に説得したようだ。九尾である私やイナリの耳には壁を何枚も隔てて遠く離れた彼らの会話もはっきりと聞こえている。


 ほとんどの兵士達が連れて来た兵士の話を信じてなかったけど、そのあまりの必死さに何かを感じ取ったらしい。徐々に他の兵士達も私達への認識を改めたようだ。


 だからそれほど危険な相手なのだとすれば自分達では判断しかねるとして王都に送ることにしたらしい。


 普通に考えたら、今までの国を見てきた限りでは王都と言えば国の中心で一番栄えている場所のはずだと思う。


 そんなところに危険な敵かもしれない者を安易に送って良いのだろうかと他人事ながら心配したけどどうやらそんな心配はいらなかったらしい。その疑問は王都に着いた時にすぐに解けた。



  =======



 ドラゴニアの王都に着いた途端に私の疑問は解けた。森の中に佇むそこそこ大きな城。城下町はない。ただの城だけがある。つまり王都と言っても砦と変わらないのだ。ただ王がいるだけの砦にすぎない。


 堅牢な城とそこにいるのは全て覚悟を持った兵士だけ。これならば私達を危険だと思いながらも王都に送った理由もわかる。


 場合によってはここで戦いになっても構わない。むしろ彼らからすれば最高戦力と堅牢な城があるここで戦う方が良いということだろう。


 そうして案内された玉座の前で私は驚いた。中央の玉座に座る竜王と名乗った者。この者はもう神になりかけている。


 さらにその後ろには四人の神がいた。彼らはもう神になっている。恐らく玉座の竜王も同格。多分だけど本当は神になれるのに王に足る人物がいないから今はまだ神にならずに王をやってるっていうところかしら。


竜王「ここを通りたいだと?だったら俺を倒してぶっ!!!」


 竜王が何か言いかけたけど後ろから別の神が頭をひっぱたいて言葉を無理やり止めた。


天龍神「やめぬか火龍。この者は他に王になれる者がおらぬから王をしているだけでな。ここからは我が話を聞こう。我が名は天龍神。このドラゴニアの守護者達の長だ。」


 天龍神と名乗った神がわざと威圧して力をぶつけながら話している。でも私にもイナリにもその程度はそよ風にもならない。平然としている私達を見て他の神達に若干動揺があった。


ダキ「これはどうもご丁寧に。私はもう名乗る必要はないですよね。それにお話ももう先ほどさせていただきました。私達はただ南大陸と東大陸を旅したいだけです。貴方方が何もしてこないのならばこちらから手を出すようなことはしません。」


???「何という態度だ!それではまるでお前の方が上だとでも言うかのようではないか!」


 後ろにいる他の龍神と思われる者達が騒ぎ出す。でも天龍神だけはただ黙って目を瞑った。


 天龍神は恐らく気付いたんでしょう。四人の龍神とそれと同格に近い竜王を加えてもイナリ一人にも勝てないということが。そして私とイナリの間にも大きな力の差がある。


 ドラゴン族達は龍神がいるから私達とも戦えると考えているのでしょうけど、残念ながら龍神を何人連れてきても結果は変わらない。そのことに天龍神だけが気付いている。


 それなのに天龍神が出した答えに私は驚きを隠せなかった。


天龍神「戦いもせずドラゴン族に頭を垂れよと言われて黙って従うわけにはいかぬ。我らを従えたければそれを示してみせよ。」


 こうして何故かドラゴン族と戦うことになってしまった。いきなり襲い掛かってこないだけまだマシなのかな。城の外へと出てお互いに準備する。


 私は特に何の準備も必要ないけど……。向こうはやっぱり四人の龍神と竜王の五人でくるみたい。こちらはイナリに任せたら絶対殺しちゃうから私が一人で相手をする。


天龍神「本当にそれで良いのだな?負けた後で二人で戦えば勝てたのになどと言っても聞かぬぞ。」


 天龍神が念を押してくる。でも天龍神もわかってるだろう。私一人でも負けることどころか苦戦すらしはしないということを。


 ただの茶番。あるいは自分達が私一人に圧倒的にねじ伏せられることで他のドラゴン族達に現実を見せつけて、下手に私達と敵対しないようにさせるためかしら。


天龍神「それでは行くぞっ!!!」


 開始の合図もなく龍神達が仕掛けてくる。動きの速い二人が私に突撃。残りの三人は支援らしい。突撃してくるのは天龍神と風を纏った龍神。この二人は速さに自信があるのだろう。事実そんじょそこらの者ではついていけないだけの速さがある。


 そして残った三人は火を撃ち出してくる者。水を撃ち出してくる者。土で私の後ろに壁を出した者。どうやら彼らは一人一属性を極めているらしい。でもこの程度じゃ肩慣らしにもならない。


 退路を土壁で覆い正面から火と水という正反対の属性攻撃を仕掛けてくる。確かに普通の者なら対処が難しいだろうと思う。


 その上さらに壁の影に隠れながら速さが自慢の光と風の属性の者が突撃してきている。開いている上に逃げようとしたり、火と水の攻撃を凌いでも即座にこの二人が肉弾戦を仕掛けてくるだろう。


 厄介でよく出来た連携ではあるけど………。私とじゃ力量差がありすぎて何の意味もない。


 さて…、どうしたものか。全てを避けるのは容易い。あるいは結界で全てを防ぐのも容易い。でもそれじゃちょっと印象が薄いかな。


 もっと圧倒的な…、もう絶対私達に手出ししないと思えるような勝ち方が良いと思う。でないと軽い勝ち方だと『あれなら次にやれば勝てるかもしれない!』なんて言う強硬論者が出てくるはずだ。


 だから私はあえて火と水を避けずに直撃を食らう。一瞬爆ぜた火と水の所為で視界が遮られる。それでも光と風の属性は突っ込んでくる。あんなもので私に傷を負わせることは出来ていないと最初からわかっていたみたい。


 舞い上がった埃と煙と霧状になった水を吹き飛ばしながら二人が迫ってくる。晴れた視界の中で周囲の者達は信じられないものを見たという顔をしている。


天龍神「がっ!」


風龍神(仮称)「けふっ……。」


 突っ込んできていた二人の攻撃をあえて直接その身に受けながらこちらも反撃とばかりに拳を突き出す。それだけでミシミシと骨の軋む音が聞こえてきた。彼らは脆すぎる。私が少し撫でただけで殺してしまいかねない。


 軽く出したつもりだった拳を受けて二人は吹き飛んで行った。ちょうど火と水の二人に向かって飛んでいく。火と水は咄嗟に反応できずに飛んできた光と風にぶつかり四人で錐揉みになって転がった。私は残った土に近づいていく。


土龍神(推定)「ぬ…ぅ…。うおおっ!!!」


 ゆっくりと歩いて近づいてくる私に気圧され固まっていた土はついに恐怖に耐え切れずに私に攻撃をしかけてくる。土を体に纏った突進。土の渾身の体当たりも私に片手で止められる。


ダキ「これで三人。」


 土の突進を受け止めた手を下に動かすと土龍神(推定)は声を上げる暇もなく地面に押し付けられ減り込み気を失った。死んではいない…よね?相手があまりに弱すぎてちょっと手加減間違えたらすぐ殺してしまうから注意しなくちゃね……。


 そこでようやく光と風の体をどけて立ち上がった火と水。ちょうど二人と目が合う。その目に表れていたのは恐怖。どうやらもう二人に戦意はないみたい。


ダキ「どうする?まだやる?」


(火)竜王「…あっ、あったりめぇだ!」


水龍神 (かも)「……いきますよ。」


 それでも神としての矜持なのか二人は果敢に向かってきた。そんな相手を称えこそすれ苦しめることはないだろう。二人の意識も一撃で刈り取り四人の龍神とそれに匹敵する竜王は私の前に倒れ伏したのだった。



  =======



 それ以来私はドラゴニアでは遠呂知様と呼ばれ竜王の上の地位に位置する者として位置づけられた。遠呂知様ってどういう意味かは知らない。それと実際に統治してるわけでもない。ただ名目上竜王の上ということになっているだけだった。


 そのお陰でドラゴニア領内を自由に移動出来るようになった私は南大陸を見て回った。


 その時にある子供のドラゴン族が私に戦いを挑んできた。確かに力はそこらの大人よりもずっと強いけど龍神やそれとほぼ同格の竜王とは比べるまでもない。まだまだ未熟な子供だった。


 その子供は咬竜と言う名前らしい。私が軽く往なすと彼は私の何が気に入ったのかついてくると言い出した。特に断る理由はないけど同行させる理由もない。だから断ったんだけど彼には親兄弟も仲間もいないと言っていた。


 まだ下手すれば少年とも言えるほどの子供が天涯孤独。それはあんまりかと思って今は一緒に南大陸を回ってる。


 いずれどこか彼が腰を落ち着けることが出来る場所に辿り着けばそこに残すつもりだけど、まだ暫くは一緒に旅をすることになりそうだった。


ダキ「それじゃ東大陸へ渡りましょうか。」


イナリ「はいっ!ダキお姉さま!」


咬竜「はっ!」


 二人は私の意見に何も言うことなく従っている。でも本当に東大陸に渡っていいのか…。正直私は迷っていた。


 東大陸自体は別に危険でも何でもない。私とイナリがいれば天津神と国津神以外ならばどうとでも出来る。問題はそうじゃなくて………。


 何でも私達が中央、北、西と大陸を旅したのと同じような地域にとある者達が訪れたそうだ。その者は『荒れすさぶ鬼』と呼ばれているそうで現地民達には攻撃されない限り何もしないけど、その地を治める国津神達を時に討ち取り時に配下に加えているらしい。


 そんな強力な鬼が各地の国津神を討っている。それについ先日現れた破滅を齎す者…。この時期に厄介な鬼神が二人も?そうじゃないでしょうね。恐らくは荒れすさぶ鬼と破滅を齎す者は同一人物。


 下位の神なら私でも対処出来るけど、国津神を悉く平定しているこの鬼神には勝てるかどうかわからない。その者の動きからするともしかして私の後を追っている?私がファルクリアの巫女だから?


 ならばいずれこの南大陸にもやってくるかもしれない。その時私がいなければドラゴニアに攻撃されるかもしれないという不安がある。だから私は東大陸へ渡ることに躊躇していた。


 でも噂が本当ならば荒れすさぶ鬼は手出ししない限り現地民には手は出さないはず。それを信じてドラゴニアには決して荒れすさぶ鬼と敵対しないよう釘を刺してから東大陸へと渡ったのだった。



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