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転生無双  作者: 平朝臣
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外伝2「スサノオの冒険5」


 南大陸に上陸するとすぐに何者かに包囲された。本当はいつもみたいに取り乱してるんだけどヤタガラスがいつも俺を憧れを持った目で見ているから、最近はあまり無様な姿は見せられないと思ってぐっと堪える。


スサノオ「えっと…。君達は天津神みたいだけど俺達に何か用かな?」


 今俺達を包囲してるのは天津神だ。それは神力を感じればすぐにわかる。だけど何で天津神がこんなところにいて、俺達を包囲してるのかはまったくわからない。


???「お前らこそ何の用があってこんなところにやってきた?」


 天津神の中から一人の男が出て来た。その天津神は俺達と比べてかなり年上だな。普通におじさんとかおっちゃんとか呼んでも差し支えないくらいだ。


スサノオ「俺の目的は葦原中国の国津神を全て纏め上げてこの世界から争いをなくすことだ。そのために南大陸に渡ってきた。」


???「ほ~ぅ…。おもしれぇ。お前の言ってることが本当だったらそりゃすげぇこったな。けどお前みたいなガキがそんな大それたこと出来るのか?」


ヤタガラス「アニキを馬鹿にすんじゃねぇ!アニキはもう北も西も中央も三つの大陸を制覇してんだぞ!」


 天津神の物言いに逆上したヤタガラスが食って掛かる。でもやめてほしい…。それでもし天津神達が強硬手段に出てきたらどうするつもりなんだ……。


 確かに俺は天津神や国津神の相手をするのは得意だ。子供の時からずっと見てきた俺と同じでよく知る種族だからそんなに怖い気がしない。


 でもこれほど何人もに囲まれた状態でアンやゾフィーを守りながら戦うのは正直厳しい。俺一人なら勝てると思う。でも大切な仲間であるアンやゾフィーを無傷で守れるとは限らない。


 だからここはなるべく穏便に済ませたい。最悪争いになるとしてもゾフィーの時のように一対一とかで決闘するみたいな感じが理想だ。安易に天津神達を挑発して全面衝突になるようなことは断じて許容できない。


 イフリルとヤタガラスが入ってないって?別に男だから守る気がないってわけじゃないぞ。イフリルは最悪空間移動して逃げられる。ヤタガラスはまだ子供とは言え国津神だ。一対一なら自分の身くらいはある程度守れるだろうし、ヤタガラスも素早さがウリであって逃げるだけなら何とでもなる。


 もしこの天津神達と争いになった場合に危険なのはアンとゾフィーだ。だからこの二人は俺が守らなければならない。


???「北に西に中央だぁ?………はは~ん。お前が最近話題になってる野良の国津神か。」


 え?野良って何だよ……。そりゃ俺はもう帰る場所もない根無し草だけど……。それに話題って何だ?俺の話題が天津神の間で流れてるのか?


スサノオ「話題とか野良とかはよくわからないけど……。」


ミカボシ「そうかそうか。まぁそれはいい。俺はミカボシってんだ。それでお前はこの南大陸も征服しようと思ってやってきたのか?」


 この天津神の集まりの棟梁っぽいおっちゃんがミカボシと名乗った。………ミカボシ?何か聞いたことがある。確かツクヨミ兄ちゃんと揉めてた相手だったっけ?


 最も近く最も大きな星である月の神のツクヨミ兄ちゃんに従えって言ってるのに一向に従わない星の神だった気がする。


スサノオ「征服って…。別に俺は征服しようと思ってるわけじゃないよ。ただその地を支配してる国津神達に、もうお互いに争わないように言ってるだけだよ。」


ミカボシ「けどそこのガキみたいに皆お前の手下にして纏めてるんだろう?南大陸でも同じように国津神を従えようと思ってたんだろう?」


 ミカボシがヤタガラスを顎で指してニヤリと笑う。


スサノオ「うっ…。まぁ…、襲われたらそうなってたかもしれないけど…。俺は説得しようとしてるだけで相手が襲ってこなければこちらから力ずくで従えたりはしないよ。」


 確かにこれまで全部結果的には力ずくで従えてるけど、それは相手が襲い掛かってくるからであって俺から勝負を仕掛けたことは一度もない。


 口で言って納得して周囲と争うことをやめてくれれば、別に俺に従う必要もない。俺はただ争いのない世界を作りたいだけなんだ。


ミカボシ「けど残念だったな。南大陸にはこの地を支配する国津神なんていやしない。この大陸を支配してるのはこの俺様、ミカボシとそれに従う不順わぬ神々だ!」


 ミカボシが両手を組んで胸を張って足を肩幅に開きででーんと宣言する。


スサノオ「そもそも何で天津神が葦原中国にいるの?」


 それがおかしい。国津神は葦原中国にいる神々だ。天津神は高天原にいる神々だ。確かに両者は葦原中国と高天原を行き来する。だから高天原にだって国津神はいるし、葦原中国に天津神だっている。


 でもそれはそこに用があって訪れるだけの者がほとんどで定住することはほとんどない。極稀に定住する者もいるけどそういう者は直接その地を支配したりはしない。


 あくまで葦原中国を支配するのは国津神、高天原を支配するのは天津神、であってそこに間借りして住んでるだけの者がその地を乗っ取ってしまうようなことはしない。


 もしすれば周囲の者全てを敵に回すことになって、支配を奪った者は追放されるか殺されるだろう。


ミカボシ「俺は誰の下にもつかねぇ。俺を支配出来るのは俺だけだ。天津神だの国津神だの関係ねぇ。それに俺に高天原に居場所なんてあるわけねぇだろ?ツクヨミの野郎がしつこく追ってくるからな!がはははっ!」


 それは笑うとこなの?それにツクヨミ兄ちゃんに追われるってことは負けてるんじゃないのかな?


スサノオ「君達が周囲と争ったりしないなら俺は君達に何もしないよ。ただ現地民達に迷惑をかけないようにしてくれればそれでいい。」


ミカボシ「そいつぁ無理な相談だな。ツクヨミが俺を追ってくる限り迎え撃つしかねぇ。現に南大陸にもすでに多くのツクヨミの追っ手が放たれてる。そいつらに黙って殺されろとでも言うのか?」


スサノオ「そうは言わないけど……。」


 それに追っ手?ツクヨミ兄ちゃんが葦原中国に手の者を放ってるっていうの……?


ミカボシ「まぁ細けぇこたぁいいんだよ。ようは俺とお前のどっちが強いか。それだけだろう?」


 ……え?この人何言ってるの?何で俺とミカボシのどっちが強いかっていう話になるの?


ミカボシ「おいおい。何不思議そうな顔してんだ?お前が勝って俺を従えるか、俺が勝ってお前を従えるか、それだけだろうが?それともそっちの女共が犠牲になるような衝突がお望みか?」


 ミカボシはチラリとアンとゾフィーを見る。やっぱりこいつは争いになれば二人の身が危ないってわかってる。それを盾にして俺に戦いを申し込んでる。


スサノオ「………お前も…、結局お前も婦女子を人質にとるような下衆か?いいよ。俺ももう頭にきた。相手して欲しいってんならしてやるよ…。スサノオ~…、へんっ…、しんっ!とうっ!!!」


 俺は空力を解き放つ。けど…、何だろう?いつもと違う?何か俺の中から黒いものがザワザワと這い出してくるような感じがする。


ミカボシ「ヒュー…。お前ツクヨミ以上か。こりゃ楽しめそうだな。」


 ミカボシが獰猛な笑みを浮かべて身構える。………なるほど。ミカボシも単純な力の量だけならツクヨミ兄ちゃん以上みたいだ。


 もちろんこの階位になってくると単純な力の量だけじゃなくて特殊能力や戦闘方法によっては結果が覆ることもある。


 でもミカボシは相当な強者だ。俺の記憶にある頃のツクヨミ兄ちゃんならどう頑張っても勝てない相手だろう。今は成長してるだろうからわからないけど………。


 それほどのミカボシが何で高天原を追われて葦原中国に潜伏してるんだ?それもここにまで追っ手をかけられて?堂々と追っ手を倒してツクヨミ兄ちゃんを倒せば良いんじゃないか?


ミカボシ「考え事か?随分余裕だな!」


 俺が考え事をしてるとミカボシが仕掛けてきた。速い。天津神の一部の者達は光と同じ速さで動ける。ミカボシもその一人みたいだ。


スサノオ「ここじゃ周りを巻き込む。上で相手をしてやるよ。それと…、俺の仲間には手を出すなよ。」


 殴りかかってきたミカボシの拳を受け止めてから周囲を囲うミカボシの手下達を睨みつける。俺が睨むと手下達は縮み上がってカクカクと首を縦に振ることしか出来なかった。


 どうやらこれほどの力を持つのはミカボシだけで手下達はそれほど強者でもないみたいだ。………そうか。ミカボシが後退してるのは手下達を無闇に犠牲にしないためか。


 でもいくらこいつが手下思いだろうと俺の仲間達に手を出そうって言うんなら黙って見過ごすわけにはいかない。


 掴んだ拳を一回引き付けてから上空に向けて押し出す。


ミカボシ「ちっ!」


 俺に押し出されたミカボシは物凄い勢いで空へと舞い上がった。俺もそれを追って飛び上がる。


スサノオ「出来れば周囲を巻き込まないようにやりたい。お前だって手下達が巻き添えになるのは本意じゃないだろう?」


ミカボシ「……いいぜ。だったらもっと上に行こう。」


 ミカボシがさらに上へと飛び上がる。俺もそれを追ってさらに高く高く舞い上がった。次第に周囲が薄暗くなってくる。空気も薄いような気がする。


ミカボシ「これくらいならいいだろう。」


スサノオ「そうだね。」


 ここまでくればよっぽど大暴れしない限りは下に被害を出すことはないと思う。


スサノオ「―ッ!」


 と考えた所でミカボシがいきなり殴りかかってきた。卑怯だ!とは言うまい。これは戦いだ。もう戦いは始まっているのに油断してる方が悪い。だから俺ももっと戦いに意識を集中していく。


ミカボシ「ちっ…。俺の速さについてこれるなんて…、お前本当に国津神か?」


 確かに一部の天津神は光と同じ速さで動ける。最も速く動ける者達だろう。だけど例えばイフリルやヤタガラスは『目的地に着くまでの早さ』という意味では最も速く動ける者達よりも早く着くことが出来る。何も単純に動ける速さだけが早さではない。


 俺もヤタガラスと同じ空間転移が出来る。転移なら移動するという過程が必要ないから移動する速度がミカボシより劣っても移動についていくことは出来る。攻撃の回避は目は追いついているから避けるだけならなんとかなる。だから速いだけなら俺の敵じゃない。


ミカボシ「ちぃ…。やるな。だったらこれでどうだ!」


スサノオ「―ッ!!!」


 ミカボシが手を動かすと後ろから光が飛んできた。俺は辛うじて回避したが余計な旋回をしたせいで迫りかけていたミカボシにまた離された。


 さっきの光の帯は天津神の一部の者達が使う技だ。まさか誰か仲間がいるのか?でも俺の感知出来る範囲には誰もいない。俺が感知出来ない距離から攻撃してきた?あるいは………。


ミカボシ「おい。言っておくが誰かの手を借りてるわけじゃねぇからな。今のは俺の技だ。どういう技かっていうのは……、自分で理解するんだな!」


スサノオ「くっ!!」


 ミカボシが手を動かすと様々な方向から光の帯が飛んでくる。辛うじて回避出来てるけどこのままじゃまずい。


 右から光が迫ってくる。少し前進して右の光をかわす。そこに合わせていたかのように、いや、ミカボシがそこに合わせて左前から斜めに光が迫ってくる。それを左手で弾くと右やや下からも光が迫っている。体を左に捻ってその光も避ける。そこへミカボシが直接俺に迫っていた。


ミカボシ「くらえっ!」


 ミカボシが振りかぶるその手にはいつの間にか剣が握られている?……いや、違う。これは剣じゃない。光の帯を棒状に留めて持っているんだ。ただの剣のつもりで対処したらすり抜けて斬られるだろう。


スサノオ「手転門っ!」


ミカボシ「うぉっ!」


 俺は咄嗟に掌を光の剣に向けて転移の門を開く。直接受けることが出来ないのなら転移させてこの場から失くしてしまえばいい。


 剣が飲み込まれたことで自分も飲み込まれることを危惧したミカボシが手を離して俺から離れようとする。でも折角の好機だ。このまま黙って逃がす手はない。


ミカボシ「何?!」


 手転門の出口をミカボシの後ろに開く。するとさっき飲み込まれたはずのミカボシの光の剣がミカボシの後頭部目掛けて振り下ろされてくる。それに気付いたミカボシは驚きながらももう一つの光の剣を出して鍔迫り合いで受け止めた。


 どうやら光の剣同士、あるいはミカボシの力同士ならあの攻撃を受け止めることが出来るらしい。これで隙が出来た。


スサノオ「はぁっ!八重垣之術やえがきのじゅつ!!!」


ミカボシ「むっ!おっ!うぐっ……。」


 ミカボシが後頭部に迫っていた光の剣に気を取られている隙に接近した俺は新しい術を使う。俺の力で八重に相手を包みその動きを封じてしまう術だ。


ミカボシ「まだ…まだぁっ!」


スサノオ「お?」


 光の剣を受け止めていた右腕だけは八重垣之術で拘束出来ていなかった。その右腕を動かすとまた色々な方向から光の帯が俺を攻撃してくる。


 と見せかけて自分を拘束している俺の八重垣を光で焼き切ろうと考えたようだ。でも残念ながらその程度では俺の八重垣は崩せない。八重のうちの外側一つですら突破出来ずにミカボシは八重垣に包まれたままだった。


ミカボシ「くそっ!この程度で!」


 まだまだ右腕を振って光の帯で俺を攻撃してくるけど全て軽やかに避ける。


スサノオ「もうその攻撃は見切った。降伏することを勧めるよ。」


 ミカボシは星の力を使える天津神だ。だから周囲にある星を操ってこの光の帯を出して攻撃してきてる。けど下にあるファルクリアの方からは攻撃がこない。それはつまり物陰になってる所には攻撃してこれない。あるいはファルクリア自体を貫通したり破壊したりしてしまうかもしれないからその方向へは攻撃してこないということだ。


 ファルクリアのある方向からも攻撃は来ないし、ファルクリアに当たる方向への攻撃も来ない。上下の別がないこの暗い空間において平面的にしか攻撃してくることは出来ない。それは致命的だ。


 ファルクリアに攻撃が当たることを気にせず全周囲から攻撃されたら俺でも防ぎきれないかもしれないけど、ファルクリアに当たる射線上は攻撃してこないんだから避けるのは容易い。


ミカボシ「………ふざけるなよ。こんなところで終われるか!俺は手下達の命も背負ってるんだ!天津神になど頭を垂れることは出来ん!」


 ミカボシの神力が増大して一箇所に集まってくる。最後の攻撃を仕掛けるつもりか?でもその右手の射線の先にはファルクリアがある。ミカボシ、俺、ファルクリアの順に一直線に並んでいる以上は俺への攻撃は即ちファルクリアへと当たってしまうことを意味する。


 それなのに血走った目をしているミカボシはますます力を集めている。あんな攻撃がファルクリアに当たったら皆死んでしまう。


ミカボシ「くらえっ!カガセオッ!!!」


 とうとうその手に集まった強大な光を撃ち出した。


スサノオ「何やってんだよ……。こんな…、こんな攻撃したら皆死んじゃうだろ!お前の手下だって!俺の仲間だって!皆死んじゃうんだよ!そんなこともわからないのか!!!!」


 俺なら受け止められる?確かに自分の身を省みず受け止めればファルクリア自体にはそれほど被害を出さずに抑えることが出来るかもしれない。


 ただいくら俺がこれを受け止めようと思っても周囲に散ってしまう分まで全て止めることは出来ない。絶対にファルクリアのどこかにはこの攻撃の散った分が落ちることになる。


 そこに俺の知り合いがいるかもしれない。友達がいるかもしれない。仲間がいるかもしれない。俺の仲間達の家族がいるかもしれない。


 ミカボシの手下だって、その家族だっているかもしれない。それなのに……、それなのに後先も考えずこんな攻撃をするなんて……。


 コノオロカモノガ………。


???『解き放て。』


 ダレダ?


???『我を解き放て。』


 トキハナッテドウナル?


???『我が止めてやろう。』


 トメテドウナル?


???『愚か者共を全て消し去ってやろう!』


スサノオ・???「『全ての愚かな者共はあるべき所へ還るがいいっ!!!』」


 俺の内からこれまで感じたこともないほどの力が沸きあがってくる。そうか…。これが本当の力というものか。他の者共のなんと矮小なことか。


 俺についてこれる者など存在しない。何故ならば俺こそがこの世界全てを飲み込む力そのものなのだから。


ミカボシ「んなっ!なん…だ…?何なんだ?お前は一体何なんだ!!!」


 あぁ…、目の前の木っ端がかしましく捲くし立てる。


スサノオ「まずはこれを返すぞ。」


 俺が腕を一振りするとこちらに迫ってきていたカガセオという術が跳ね返った。


ミカボシ「うおおおぉぉっ!!!」


 弾き返されたカガセオに飲み込まれてミカボシが宇宙せかいの彼方へと飛んでいく。しかしそれで許してやる気など毛頭ない。


 俺は右手で門を開き空間の穴に手を突っ込み吹っ飛んでいったミカボシを掴んで引っ張り出した。カガセオに吹っ飛ばされながら焼かれ続けていたミカボシはまだ生きている。俺の八重垣之術に包まれていたお陰でそれが盾の役割にもなったからだろう。


ミカボシ「うぅ…。げほっ……。」


 ミカボシが口から血を吐き出す。いくら体のほとんどを八重垣之術で包まれていたとは言っても口や鼻まで全て覆っていたわけではない。口や鼻から入り込んだ熱が臓腑を焼いたのだろう。


スサノオ「まだ終わらんぞ愚か者。その身に己の愚かさを刻み込むがいい。」


ミカボシ「ぐわっ!うわああぁぁっ!」


 俺の黒い炎が徐々にミカボシを焼く。決して深く早くは焼かずに、表面だけを薄く広く少しずつ焼く。全てを蝕みあるべき場所へと還すこの黒い炎に焼かれて正気でいられる者はいない。


 顔を激痛と恐怖に歪めて泣き喚くミカボシの姿が俺の心を満たす。


スサノオ「くくく。はっはっはっ!は~っはっはっ!!!もがけ!苦しめ!お前の次はこの宇宙せかいを全て……。ぐぅっ!!!」


 俺の胸がズキリと痛む。この宇宙全てを何だって?まさか滅ぼそうっていうんじゃないだろうな?そんなことさせない。


 ここにはアマテラス姉ちゃんが、ツクヨミ兄ちゃんが、アンも、イフリルも、ゾフィーも、ヤタガラスも、皆みんないるんだ!お前なんかに滅ぼされてたまるか!俺の中から出て行け!


???『何をいう?我はお前、お前は我だ。出て行くも入り込むもない。』


 うるさいうるさい!


???『この世界がお前に何をした?お前にどんな仕打ちをした?この世界に守る価値などない。』


 それは……。


???『高天原でお前に友などいたか?親などいたか?お前は誰のせいでこうして葦原中国を彷徨わなければならなくなった?お前にこんな仕打ちをした者共に思い知らせてやれ!』


 だけど!それでも優しい人達がいる。俺みたいな何者かもわからない者でも受け入れてくれる人がいる。友が、仲間が出来た!


 反りの合わない人がいるからって何で世界全てを滅ぼさないといけないんだ!俺はそんなこと望んでない!俺の中から出て行け!!!


???『お前はまだ知らぬだけだ。この世界の残酷さを……。いずれまたお前は我を望む。今回のこともお前が望………。』



 ………

 ……

 …



 それから声は聞こえなくなった。………俺の中からいなくなったのか?あれは何だったんだ?俺は今起きたことで自分の体が震えていることに今更気付いた。


 さっきまで俺の中にいた『アレ』……。あれは駄目だ…。とんでもないものだ……。俺でも…、アマテラス姉ちゃんでも…、ツクヨミ兄ちゃんでも…、お父さんとお母さんだってあれはどうすることも出来ない。


 あれは触れてはいけないナニカだ……。だから…、これからはもう二度とあれが出てこないようにするしかない。


ミカボシ「うぅっ!ぐあっ!ぎゃあぁっ!」


スサノオ「あっ!」


 ミカボシの声で我に返った俺は驚いた。まだミカボシを焼く黒い炎は消えてなかった。いや、それどころかこのままじゃ消えないことが何となくわかる。でもどうすれば………。


 これを操れるのはさっき俺の中にいた奴だけだ……。このままじゃミカボシを焼き尽くした黒い炎は徐々に徐々にこの世界を焼き続けるだろう。この小さな火種一つでこの世界が破滅してしまう。


スサノオ「あまり出来る気はしないけど、うまくいけよ!はぁっ!!!」


 俺は自分の中にこの黒い炎を取り込もうと力を揮う。やっぱりなかなかうまくいかない。でも少しずつ俺の中に吸い寄せられている。もうちょっとだ………。


ミカボシ「うっ………。」


 全ての黒い炎が俺の中に収まるとミカボシは気を失った。今までは気を失うほどの苦痛を与えられながら、例え気を失おうとも即座に次の痛みで起こされて気を失うことすら出来なかったんだろう。


 体中にひどい傷を負ってるし、この黒い炎の火傷はこれからずっとミカボシを苦しめるかもしれない。でも俺にはこれ以上どうすることも出来ない。


 俺はただミカボシを抱えて地上へと降りることしか出来なかった。



  =======



 傷ついたミカボシを連れて地上に降りたらすぐに手下達が俺達に恭順を示した。どうやらミカボシが敗れたら俺に従うように指示してあったらしい。


 その後彼らの隠れ家に案内されてすでに数日が経っている。


 ミカボシはまだ眠ったままだ……。すぐに死ぬほどではないと思うけど持ち直すかどうかはミカボシ次第かな………。


 仲間達は少し複雑な顔をしてる。それは俺の力を地上にいながらも感じ取ったからだ。あの戦いの時の俺の力は、高天原も葦原中国も全ての地域の全ての者に感知されていたらしい。


 イフリルは明らかに恐れを含んだ顔と態度で俺に接してる。アンもゾフィーも同じように恐る恐るといった風だ。ヤタガラスだけは『アニキすげー!』って喜んでるけどまだ子供で事の重大性がわかってないだけだと思う。


スサノオ「それで…、もしミカボシがこのまま持ち直せなかったらどうするの?」


 俺はミカボシの手下達に問いかける。今はまだ意識はなくともミカボシの命はある。だけどこのまま死んでしまったら俺は彼らの棟梁を討った敵となる。そのことを問うておく必要はあるだろう。


手下A「へぇ。親分が言うには自分が死んでもその相手を恨まず従うようにと常々言われてます。ですからスサノオの旦那に従いやす。」


スサノオ「ふぅん……。そんなので納得出来るの?」


手下A「それは……。」


 俺はその答えに手下を真っ直ぐ見据える。手下は言葉に詰まって他の手下達に視線を向けた。だけど誰も答えない。


 そりゃそうだ。理屈ではミカボシの言ってることをわかっていても、いざ実際に棟梁を討たれたとあっては黙ってその相手に従うなんて出来ないだろう。


 それがわかった俺はもう彼らに問いかけることはやめた。もしこのままミカボシが命を落とせば彼らは俺の敵になる。その覚悟だけはしておく。


 アンやゾフィーともギクシャクしてて何だか心にぽっかりと穴が空いたような気がしてくる。


 どうしたらいいだろう。これから俺はどうすればいいんだろう?わからない……。このまま旅を続けるのか?それでどうなる?俺自身がこの世界を破滅させるかもしれない邪神そのものなのに?


 駄目だ……。考えが纏まらない……。


スサノオ「少し休ませてもらう。」


 俺はそれだけ言うとミカボシが寝かされている部屋から出て自分に宛がわれた部屋へと向かった。誰もついてこない。ただ全員が複雑な表情をしながら俺を見送った………。


 部屋で一人になった俺は寝転がりながら考える。本当に…、これからどうしたらいい?俺は何をすべきだ?あるいは俺はもう何もしない方が良いのか?


 一人になるとまた俺の中からアレが沸いて来そうで不安になる。だけど誰にもそんなこと言えない。もし俺がアレの力を制御出来ていないなんて知れたら、俺を殺してでもアレを封じてしまおうとこの世界全てが俺の敵になるんじゃないか?そんなことを考えて誰にも相談出来ない。


 これからどうしたらいいのか…。いや…、そもそも俺は最初から何がしたかったんだ?何で旅なんてしてた?


 ただ生きていくだけならどこか山奥で魔獣でも狩って生きていけばいい。俺が狩れない魔獣なんて葦原中国にはいない。それなら生きていくだけならそれで十分だ。


 何で俺は大陸を旅してた?何の目的があって?俺は本当に世界の平和なんて望んでたのか?争いのない世界を作りたかったのか?


 お母さんに旅立てって言われて…。それで何となく旅に出ただけじゃないのか?立派になって帰ってくるって約束したから、じゃあ立派になるって何だろうって、世界を平和にでもしようって安易に考えただけじゃないのか?


 俺は本当にそんなことを望んでるのか?俺は一体何がしたいんだ?………わからない。俺は空っぽだ…。俺の中には何もない…。


 家族も…、友も…、仲間も…、恋人も…、何もない。ただそれに近い者達に縋ってただけだ。


 見てみろ。家族と思ってた者には遠ざけられ追い出されこんな目に遭ってる。高天原には友なんていなかった。葦原中国で仲間になったと思った者も俺の本性を知るとご覧の有様だ。


 俺は空っぽだ……。だったら…、こんな世界…いらな………。



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