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転生無双  作者: 平朝臣
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外伝2「スサノオの冒険4」


 西大陸の国津神を全て従えた僕…、いや、俺達はようやく北大陸へと戻ってきた。


スサノオ「懐かしいね。ウィッチの集落に寄っていく?」


アン「はいっ!」


イフリル「北大陸は初めてだな。」


 ここ数年一緒に旅を続けてる二人が同意を示す。アンにとっては数年振りに故郷に帰ることになるんだからそのうれしさもひとしおだろう。


 ぼっ…、いや、俺達は三人でウィッチの集落へと向かったのだった。



  =======



 以前と同じ場所に変わらずウィッチの集落はあった。それを見てアンが駆け出す。


アン「皆っ!」


ウィッチA「ああっ!アンよ!アンが帰ってきたわ!」


ウィッチB「本当!皆アンよ~!」


 駆け込んできたアンを見てウィッチの集落が騒がしくなり始めた。俺もイフリルと一緒にアンに続いて集落に入る。


ウィッチC「おおっ!スサノオ様までご一緒だ!」


ウィッチA「まぁっ!まだアンとスサノオ様がご一緒だったってことはやっぱりアンと結ばれたんですか?」


 キャッキャとウィッチの女の子達がぼく…、じゃなくて、俺とアンの関係について興味津々という感じで根掘り葉掘り聞いてくる。


スサノオ「ちょっと待って…。俺とアンはまだ何もないよ。」


ウィッチB「え~?若い男女がこれほど一緒に冒険の旅に出ていて何もないなんてありえないですよ~!」


ウィッチC「そうですよねぇ…。スサノオ様もこんなに立派になられてるんですし、男の性欲もあるでしょう?」


 うっ…。男の人まで一緒になってウリウリと俺に聞いてくる。そりゃ…、俺もこの数年でさらに背も伸びたし色々と変わった。


 アンは前とほとんど変わらないけど、相変わらず可愛いし俺だってちょっとはムラムラする時もある。でもイフリルがいるからなぁ…。


 もしアンと二人っきりだったら何か手を出してたかもしれないけど、俺達の旅にはイフリルもいたからアンに何かするような隙なんてなかった。


スサノオ「イフリルもいたからね…。そんなことするような隙なんてないよ。」


ウィッチA「えぇ~?」


 ウィッチ達がじっとりとした目でイフリルを睨みつける。どうやらウィッチ達は俺とアンが結ばれることを応援してるみたいだ。


 前回の時の俺はまだそういうこともよくわからない子供だったけど、さすがに今ならちょっとくらいはそういうこともわかる。


 アンが俺のことを好きで付いて来てくれてるってことも、ウィッチの集落の皆がアンを応援してるってことも…。イフリルが俺とアンが妙なことにならないようにあえて邪魔してるのもわかってる。


 俺だってアンのことは憎からず思ってるけど性欲に負けて欲望の赴くままに襲うのは違うと思う。そういうことはちゃんとお互いに愛し合った相手でないとしちゃ駄目だ。


 だからイフリルが余計な邪魔をして!なんて俺は思わない。むしろ俺を止めてくれて助かってる。


 アンはいつもハキハキしてて元気だけど、時々俺がアンに手を出さないから寂しそうにしてることも知ってる。


 だけど駄目だ。そういうことをするなら本当に好きになって愛し合って結ばれなきゃきっとアンを傷つけるだけになってしまう。だから俺はいつもアンに迫られてもはぐらかして逃げていた。


アン「どうしたんですかスサノオ様?さぁ!早く入って休みましょう!」


 そんなことを考えてるといつの間にかアンが俺の前に立って下から覗きこんでいた。


 昔よりさらに身長差が拡がって今じゃアンは俺の胸元くらいになってる。それなのに俺よりずっと年上のお姉さんなんだから何か妙な気分になるってもんだ。


スサノオ「何でもないよ。それじゃ行こう。」


アン「はいっ!」


 こうしてアンとイフリルを連れて久しぶりにウィッチの集落で休むことになったのだった。



  =======



 ウィッチの集落の建物の一つで休んで三人で集まる。もちろん寝る時はアンは別になる。今は夕食も終わって休んでるだけだから一緒にいるだけだ。


アン「やっぱり異族同士が同じ大陸にいるから争いがひどくなるんだと思います!いっそ種族毎に住み分けたらどうでしょうか?」


イフリル「そうだな…。わしもそう思う。西大陸でも人間族や獣人族は精霊族を見れば目の敵にして襲ってくる。同じ大陸で住んでいる限りどちらかが滅びるまで争いは終わらん。」


 二人はどうすれば争いのない世界がつくれるかで議論してる。でもぼく…、じゃなくて俺の考えは違う。


スサノオ「それは違うと思う。異族同士が争うのはお互いのことをよく知らないからだ。相手のことを知らないから未知のものが怖くてそれを排除しようと争いになるんだ。」


 そうだ。知恵のある者は未知のものが怖い。そういう自分に理解出来ない未知のものに接した時に、それを知ることで安定を取り戻すか、それを自分の周りから排除して安定を取り戻すか、それの下に降って庇護下に入るかのどれかで安定を保とうとする。


スサノオ「ぼく…、俺だって昔から知らないものが怖かった。初めて見る種族が怖かった。だけどウィッチ種だって、火の精だって、こうして知り合って話し合えばそんなに怖いものじゃないってわかる。だから種族毎に隔離すればいいんじゃないんだよ。それじゃ解決にならない。もっと異種族同士がお互いを知り合って、打ち解けあう。そうしなけえれば本当に平和な世界なんて訪れないと思うんだ。」


 俺の考えは甘いかもしれない。そんなことでこれほどあちこちで争ってる者達が打ち解け合って争いがなくなるなんて楽観的すぎるかもしれない。


 でも住む場所を離すことで隔離して、出会わないから争えない、という形にしたとしてもそれは本当の平和じゃない。


 俺がそう思って二人を真っ直ぐ見つめると二人も表情を崩した。


アン「そうですね!きっとスサノオ様ならそういう世界をおつくりになることが出来ると思います!」


イフリル「うむ…。精霊族は住む場所を離されたところで一瞬で移動してしまうからな。……わしとしたことが考えが浅はかだったようだ。」


 二人が俺の考えに賛同してくれた。それだけでうれしくなってくる。その日は時間も忘れて三人で議論に熱中したのだった。



  =======



 一晩ウィッチの集落でお世話になってから旅を再開した。ウィッチ達に見送られながら歩き出す。


スサノオ「アン。もう今更だけどウィッチの集落に残るっていう選択肢もあるんだよ?」


アン「ちょっとスサノオ様!私がスサノオ様と離れて集落に残るとでも思っておられるんですか!?」


スサノオ「うん…。思ってない。でも一応ね。またここを旅立ったら次はいつ故郷に帰れるかもわからないから……。」


 俺はもう帰ることが出来なくなった故郷を思い浮かべながら空を見上げる。お姉ちゃん、お兄ちゃんは元気かな………。


アン「………。スサノオ様。」


 アンがそっと俺の手を握った。


スサノオ「さぁ。行こう。」


 だから俺はカラ元気で声を張り上げて旅を再開したのだった。



  =======



 ずっと続く砂浜のような道を通って中央大陸へと戻ってきた。


スサノオ「ようやく…、戻ってきた。三年振り…か。」


 お母さんの下から旅立って三年。ようやく俺は中央大陸まで戻ってきた。本当なら一番にお母さんの所へ向かいたい。


 だけどそれは駄目だ。まだ俺はお母さんと約束したような人物にはなっていない。だから今会いに言ってもお母さんをがっかりさせるだけだろう。


 そもそも俺は中央大陸はまだ纏めてもいない。前回中央大陸を一周した時はただ歩いて回っただけだった。ここら辺一帯を支配してる国津神とも会ってない。


アン「スサノオ様……。」


 アンが遠慮がちに声をかけてくる。いつも元気なアンにしてはこういうことは珍しい。


スサノオ「ん?どうしたの?」


アン「スサノオ様の故郷は中央大陸なのでしょうか?」


スサノオ「なんだ…。そんなこと?違うよ。俺の故郷はもっと遠く…。もう帰ることも出来ない場所だよ。」


 俺は我知らず空を見上げていた。何でアンはそんなことを聞くのに遠慮なんてしてるんだろう。


アン「そう…ですか……。スサノオ様は…、いつも……、故郷のことを考えておられる時は……。」


スサノオ「ん?何?」


 俺が空を見上げたままでいるとアンが何かを呟いた。


アン「いえ…、何でもありません。」


スサノオ「そう?」


 視線をアンに向けてもアンは俯いたままこっちを向いてもくれなかった。


アン「(いつも…、寂しそうな顔をしておられますよね………。)」


 それからは暫く無言で三人で歩き続けたのだった。



  =======



スサノオ「どどどどうしよ?!」


アン「落ち着いてくださいスサノオ様。」


イフリル「まったく…。スサノオはいつも初めてのことに遭遇するとすぐに取り乱す…。少しは自分の力を信じてはどうだ?」


 今俺達は変なのに囲まれてる。中央大陸に戻ってから暫く森の中を歩いてると妙な気配を感じた。妙な気配って言っても人間族のものだっていうのはわかってるんだけど、普通の人間族とは何かが違った。


 そもそも人間族はあちこちに住んでる集団毎におかしな能力を持ってる場合が多い。例えば火の精ならどこに住んでる火の精でも皆火の精の能力しか持ってないのが普通だ。イフリルはちょっと例外みたいだけどイフリルはそもそも火の精じゃないからね。それは今はいい。


 それなのに人間族だけは住んでる地域によって持ってる能力が全然違ったりする。だから下手に油断すると何をされるかわからなくて怖い。


スサノオ「そそそそんなこと言ったって……。だいたい見てよあの変な姿……。あれ本当に人間族?」


 今俺達を囲んでる人間族らしき者達の姿は森に隠れてほとんど見えない。だけどちらちら森の陰からこちらの様子を窺ってる者達はとても普通の人間族には見えなかった。


アン「はぁ…。だから落ち着いてくださいスサノオ様!あれは面を被ってるだけです!」


スサノオ「え?お面?」


 そう聞いてじっくり見てみようと思ったら俺達の前に飛び出してくる影があった。


スサノオ「うわっ!」


 俺はそれを見て腰を抜かしそうになった。辛うじて倒れるようなことはなかったけどまだ心臓がバクバクいってる。


???「お前達何者だ?この森を汚すこと許さん!」


 前に出て来た人をじっくり観察する。何か変なお面を被ってるけど確かにあれはただのお面だ。妙にリアルだから怖いけど………。っておい!あれって何かの皮じゃないか?魔獣か他種族か知らないけど何かの皮を剥いで繋ぎ合わせて作ったお面みたいだ。


 なにこれこわい!


 被ってるお面はそれぞれ形が違う。もしかして本人の手作りでその形や出来を競ってるのかもしれない。


 そして片手には短めの槍。もう片手にはちょっと長い刃物を持ってる。普通に服は着てるみたいだけど、その上から葉っぱとか木の皮とか蔓を巻いてるみたいだ。


 俺達の前に飛び出してきた影が刃物と槍をこちらに突き付けながら問うてくる。


スサノオ「あっ!いやっ!その…。俺達は怪しいものじゃないよ。ちょっとここを通らせてもらいたかっただけなんだ。君達にとって大事な場所だったなんて知らなかったんだよ。」


???「もう遅い。お前達ここに入った。我らのしきたりに則って勝負する。」


スサノオ「うわっ!ちょっ!待ってってばっ!」


 槍と刃物で斬りつけてくる。人間族だから俺から比べればそれほど速いわけでも強いわけでもないけど、やっぱり刃物を振り回してくる未知の相手っていうのは怖い。


???「問答無用!…霊剣……疾風斬りっ!!!」


スサノオ「―ッ!!」


 突然人間族の剣速が速くなった。油断してた俺の脇腹に刃物が………。


スサノオ「………あれ?」


 斬られると思ってじっと体を硬くして待ってるけど一向に痛みがやってこない。ソロソロと目を開けると俺の前で呆然としてる人間族がいた。


???「お前何した?お前何者?」


 その手に持つ刃物は根元からぽっきり折れていた。どうやら俺の体の硬さに刃物がついてこれずに折れてしまったらしい。


 ふぅ…。助かった。でもやっぱり人間族怖い。いくら本気じゃなかったと言っても俺が見失うような攻撃をしてくる敵なんて今までいなかった。


 それなのにこの人間族は威力はともかく速度は俺が一瞬見失うほどの攻撃を出してきたんだ。もしこれで威力やそれに耐えれる剣があったら俺も真っ二つにされてたかもしれない。


 もちろん変身して本気を出せば十分俺でも対処出来る速度だったのはわかってるけど、いくら通常状態と言っても見失うほどの攻撃が出来るなんてやっぱり人間族がそれぞれ独自に持ってる能力は不気味だ。


スサノオ「えっと……。これで俺の勝ちでいいか?」


 俺は腰に下げた剣を目の前の人間族の首に突き付けた。これで勝負は俺の勝ちってことで終われないかと思ったんだ。


ゾフィー「俺ガルハラの戦士ゾフィー。俺負け。お前の好きにしろ。」


 そう言って目の前の人間族、ゾフィーがお面を脱いだ。


スサノオ「あっ!女の子?!」


 俺の前に立ってた人間族は女の子だった。それも野生的だけど可愛い。だけど俺の考えや呟きが漏れるよりも前に大きな歓声が沸き起こった。


人間達「「「「「おおおお~~~~っ!!!」」」」」


スサノオ「え?一体何事?」


アン「耳が痛いです!」


イフリル「ぬぅ………。」


 アンとイフリルも身構えるけどどうやら鬨の声じゃないみたい。襲ってくるような様子はない。それどころか何か熱狂してるような?


ゾフィー「俺一族最強の戦士。俺負けた。俺お前のもの。お前新しい戦士。」


スサノオ「え?え?」


 困惑してる俺にゾフィーが抱き付いてきた。そして周囲の歓声は最高潮に達した。


アン「ス~サ~ノ~オ~様~?」


スサノオ「ひぃっ!待ってアン!僕のせいじゃないでしょ!?」


 鬼の形相のアンが僕に迫ってくる!怖い!これまでで一番怖い!


イフリル「やれやれ………。」


 周囲の人間族の熱狂とアンの攻撃は暫く続いたのだった。



  =======



 暫くして落ち着いてからゾフィーの集落に案内された。何ていうかここの人間族は自然と一体になった生活をしている。


 まぁぶっちゃけて言えば貧しいし農耕もしてない。ただ森に入って狩猟と採集で生活してるみたい。


 それで俺達が通ろうと思って入った森は彼らが生活するために狩猟と採集を行う森で、彼らにとってみれば生活を支えてくれる森の恵を与えてくれる神聖な場所だったってわけ。そこへ俺達が入り込んだから襲われた。


 それで最初にゾフィーが言ってたしきたりに則った勝負っていうのが、双方から代表者を出して戦わせて勝った方に負けた方が従うっていうものらしい。


 お互いに無闇に相手を追い詰めるような真似をしたらどちらかが滅ぶまで争い続けることになるから、彼らなりに考え出した知恵みたい。


 それで向こうの代表がこの集落で最強の戦士だったゾフィー。俺が前に出て応えた(ことになるらしい)からこっちの代表は俺ってことで戦うことになった。


 結果はご覧の通り俺が勝って彼らは俺に従うことになったんだけど、その中で一つだけ思わぬ事態に転がったことがある。


 俺が彼らに勝ってここでの自由を勝ち取ったこと自体は別に良い。ここ以外にも似たようなことはあったからね。実力で一番になれ、でなければ通さない、みたいなことはわりとどこでもある。


 問題なのは………。


ゾフィー「スサノオ子供作る。俺孕ませろ。」


スサノオ「ちょっと待って!裸で迫ってくるのはなし!」


 こうしてゾフィーが俺に迫ってくることだ。何でも負けたら相手に最高の女を捧げるらしい。そしてこの集落で最高の女もゾフィーだ。一番の戦士でもあるゾフィーが俺に捧げられた。


 その役目は俺の子供を産むことらしい。まぁある意味当然だけど……。何でそんなことをするかっていうと、つまり両者を結びつけるには婚姻が一番手っ取り早い。これはどこでもよく取られる手段だ。


 さらにその二人の間に生まれた子供が統治者となれば両方をうまく纏めることが出来るようになる。


 それ自体はわかる。天津神や国津神だって似たようなことをしてるし理屈ではわかる。だけど今俺がここでゾフィーと結ばれる必要性は断じてない!


 だって俺達はここを通り過ぎるだけのただの旅人だし統治する気もない。それにこの集落と俺の方との融和という意味でも、俺はもう国を追われた根無し草で身内もいない。俺と婚姻関係を結んでも親しくする縁戚がいないんじゃ意味はない。俺が支配してる部族も村もない。


 そういうことを説明しても一向に聞き入れてもらえない。それどころかこうして俺に子供を作れと迫ってくる。


スサノオ「だから俺はもうすぐここからいなくなるんだよ?だからゾフィーは俺に構わずにこの集落のためにこれまで通りに暮らしていればいいだよ?」


ゾフィー「スサノオ出て行く。俺も出て行く。」


スサノオ「ちょっ、ちょっ、ちょっ!それは駄目だよ!この集落はどうするんだよ?」


ゾフィー「ゾフィー嫁ぐ。スサノオの集落に行く。これ普通。」


 ずっとこの調子で話が一向に纏まらない。それにここでこうするようになってからアンがますます怖い。今みたいにゾフィーが裸で俺に迫ってる所をアンに見られようものなら………。


アン「ス~サ~ノ~オ~様~?!」


 ゾクリと背筋が凍る。恐ろしいまでの殺気が俺の背後からヒシヒシと伝わってくる。


スサノオ「おっ、落ち着こうアン。まずこれは俺がやらせてるわけじゃないんだ。な?まずは落ち着いて?」


アン「ブリザードストーム!!!」


スサノオ「ひぃぃっ!!!」


 アンが放てる極大の魔法が集落を凍て付かせる。イフリルが火で溶かして回るまで集落は氷に閉ざされたのだった。



  =======



 何とかアンは説得出来たしゾフィーには無闇に俺に迫ってこないようにとは言って聞かせた。だけど俺に付いて来るというのはどうやっても覆せなかった。


 それでやむを得ずゾフィーを連れたまま集落を出発することになった。ゾフィーの集落の者達も皆喜んでゾフィーを送り出してる。


 普通に考えたら集落一番の戦士で一番の女であるゾフィーがいなくなるなんて喜ぶようなことじゃないと思うんだけど、彼らからすれば他の集落に勝てば女が嫁いでくるし、負ければ女が嫁いでいくというのは極当たり前のことみたいだ。


 それに嫁いだ女だってただいなくなるんじゃなくて、その血筋が相手の集落に入ってお互いの繋がりが強くなる。そうして仲間が増えることで自分の集落も安全になったりより高い地位になったりする。そういう見返りも理解しているから女が嫁いで行っても喜んで送り出すんだ。


 でも彼らにもゾフィーにも説明したけど俺にはそういうものは一切ない。仮に俺がゾフィーを娶って血縁関係を結んでもどこの集落とも繋がりはないし地位の向上にもならない。ただゾフィーという良い女を俺に取られるだけでこの集落にとって良いことは何もない。


 そう説明しても彼らもゾフィーもわかっているのか、わかっていないのか。ニコニコと俺に嫁がせると言うだけだった。


 置いて行くということは出来なかったからやむを得ずゾフィーも旅に同行させることになった。もちろん中央大陸を回る間にゾフィーが嫌になればまたこの集落まで送り届けるつもりではある。


ゾフィー「ガルハラの戦士ゾフィーそんなことで逃げ帰らない。」


 ゾフィーはフンスと胸を張って言い切る。下に一応服は着てるんだけど生地が粗いから肌が透けて見えてる。そうやって胸を張るとぽっちりが見えそうで………。


アン「スサノオ様?」


 アンがにっこりと俺の前に立った。顔はにっこりだ。可愛い。でも……、その背後から立ち昇る闘気はどこの鬼神かと思うほどに恐ろしかった。


スサノオ「さぁ!早く行こう!」


 もうゾフィーを置いていくという選択肢はない以上は俺はさっさと逃げ出すことにしたのだった。



  =======



 ゾフィーに連れてもらってこの辺りを治める国津神の下へと向かった。


ゾフィー「あそこ。あれ。」


 ゾフィーが指差す先には一柱の国津神がいた。両手を組んで足は肩幅に開きこちらをじっと見据えている。………でもまだちょっと子供だな。たぶん俺より幼い。


スサノオ「君がこの辺りを治める国津神かな?」


ヤタガラス「そうだ!俺様はヤタガラス!いずれ世界を征服する者だ!」


 ヤタガラスと名乗った子供はフンスと鼻息荒く胸を逸らして言い切った。


 あぁ…。何かゾフィーを見てるみたいだ……。あれ?そう言えば……。もしかして支配してる国津神と支配されてるそこに住む者達は色々と影響を与え合っているのか?


 完全にまったく一緒ということはないけど、国津神と支配されてる者達は攻撃方法や性格的なものがある程度似通ってる気がする。


 っていうことはこのヤタガラスもゾフィーみたいに速さがウリか?力はあまり大したことがなさそうだけど速さには注意した方がいいかもしれない。


スサノオ「先に俺の要求を言わせてもらうと、もう周囲と争うのはやめてもらえないかな?周りの国津神達にも争わないように言うから君もそれに従って周囲に喧嘩を売るような真似はやめてほしい。」


ヤタガラス「ばーか。ばーか。俺様は世界を征服するんだい!それなのに他の者達を征服しなかったら世界征服出来ないだろ!大体俺様より弱い奴の言うことなんか聞くもんか!くらえ!」


 ヤタガラスが消えたかと思うほどの速度で俺の後ろに周りこんでいた。そして足を繰り出してくる。


スサノオ「はぁ…。やっぱりこうなるか。」


ヤタガラス「なっ!お前俺様の速さについてこれるのか?!」


 俺は後ろを向くこともなくヤタガラスの蹴りを剣の鞘で受け止めた。ヤタガラスは驚いてるようだけど注意してれば俺なら普通についていける程度の速度でしかない。


スサノオ「スサノオ~…、へんっ…、しんっ!とうっ!!!」


 ヤタガラスの蹴りを払って追い払った俺は力を解き放つ。


ヤタガラス「うぇっ!何だよそれ!そんな空力なんて反則だぞ!」


スサノオ「何が反則か知らないけど…。おイタが過ぎる子供にはおしおきだ。」


ヤタガラス「ひぃぃ~~~っ!!!」


 この後暫くヤタガラスを可愛がってやったら泣いて謝ってたからもうこれからはおイタすることはないだろう。


 それから俺達は中央大陸を回って七柱の国津神を従えた。これでもう中央大陸で争う国津神はいないはずだ。


 それと何故かヤタガラスが俺を気に入ってついてくるようになった。もちろんいつも一緒ってわけじゃないんだけど、ヤタガラスの速度なら一度離れたってすぐに追い付いて来るから距離や時間はほとんど意味がない。


スサノオ「なぁヤタガラス。お前にはお前の支配地があるだろう?それを放り出して俺について来るようなことはやめろよ。」


ヤタガラス「ああ。それなら心配無用っす。アニキについて行くために人に譲ってきました。だからこれからはもう支配地に戻ることもないっす。」


 おい…。こいつ今さらっと爆弾発言しなかったか?支配地を人に譲った?じゃあこいつが支配してた所を支配してる奴をまた俺が従えに行かないといけないんじゃないのか?


スサノオ「お前の後で支配者になった奴は……。」


ヤタガラス「それも心配無用っす。アニキも知ってる俺の隣の支配地だった国津神に譲っただけなんで、隣の奴の支配地が広がっただけっす。アニキに逆らうような奴が支配者になったわけじゃないっす。」


スサノオ「本当か?それなら……。ってそれでもよくねぇよ…。まったくお前は…。」


 そうは思うけどもうやってしまったものは仕方がない。こいつが何度か俺達の旅から離れていたのはその交渉をしてたからなんだろうな。


 これで中央大陸の国津神達も纏まった。じゃあお母さんに会いに行くか?答えは否。まだ俺はやり遂げたわけじゃない。まだお母さんに会いには行けない。


スサノオ「もう今更言っても仕方ないな。それじゃ…、次は南大陸へ行こうか。皆まだ俺について来るのか?」


アン「当然です!もし今私が離れたらスサノオ様とゾフィーさんがどうなるかわかったものじゃありませんからね!」


イフリル「わしはいつでも帰れるからな。いけるところまでお前達を見届けてやろう。」


ゾフィー「ゾフィーはスサノオのもの。どこまでもついて行く。」


ヤタガラス「さぁそれじゃ南大陸に渡るっすよ!」


スサノオ「お前が仕切るな。それじゃ行こうか。」


 こうして俺はまた細い海の道を渡ることになった。この道は北大陸へと続いてた道と同じような砂浜だ。また皆で濡れながら俺達は南大陸へと上陸したのだった。



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