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転生無双  作者: 平朝臣
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外伝2「スサノオの冒険3」


 北大陸を支配してた国津神を纏めてお互いに争わないようにさせた僕は西大陸へ渡ることにした。


 北大陸はもうぐるっと一周旅をしたしお互い争わなくなったんだからもういいと思う。魔人族以外にも人間族や精霊族、獣人族もいたけどそこを支配してる国津神がもう争うなって言ったら他種族同士でも争いはなくなった。


 だから僕は西大陸へ渡るために北大陸の西の端へやってきた。ここには西大陸に繋がる道がある。その道は中央大陸から北大陸へやってくるために渡った道と少し様子が違ってた。この道は岩場がずっと続いてるような地形になってる。


 まぁどっちにしろ歩き難いだろうし、また波で濡れるんだろうし、海の魔獣がひっきりなしに襲ってくるんだろうけどね………。


アン「さぁスサノオ様!それでは参りましょう!」


スサノオ「………アン。本当について来るつもり?」


アン「もちろんです!」


 何でか知らないけどアンは僕についてくるって言ってきかない。ウィッチ種の集落はどうするの?とか危険だからやめておいた方がいいよって言っても引き下がらなかった。


 結局いつもの強引さで僕が押し切られて旅に同行することになってしまった。今ならまだ北大陸にいるから何とか戻れると思うけど、西大陸に渡ってしまったら当分は戻ってこれないと思う。


スサノオ「ここからならアン一人でも集落に帰れるけど、西大陸に渡ったらアン一人で戻るのは無理だよ。そうなったらもう北大陸へ戻ってくるのはずっと先になっちゃう。アンはそれでいいの?」


アン「はい!私はスサノオ様から離れません!」


 それは何度も聞いたけど何でアンがそこまで僕についてくるのかよくわからない。でもここで押し問答しても結局いつも通り僕が押し込まれるだけだからもうこれ以上言っても無駄かな。


 確かにアン一人なら危険かもしれないけど僕がしっかりアンを守ればたぶん大丈夫だよね……。それなら西大陸を回る間くらいは一緒に行ってもいいかもしれない。


 それでもう僕についてくるのが嫌になったら北大陸に戻ってきた時にウィッチ種の集落に帰せばいい。それしかないね。


 というわけで僕はアンを連れて西大陸へと渡っていった。



  =======



 波に濡れながら岩場を歩いて西大陸へと渡った。それからしばらくあちこちを歩いていたら変なのに囲まれてしまった。


???「そこで止まれ。これより先はヤマタ様に仕える火の精の地だ。貴様らが何者で何の用があってここにやってきたのか述べよ!」


 僕達の周りを囲んでるのは小さくて火の帽子を被ったような者達だった。


スサノオ「うわわ…。どうしよ…。彼らは?」


 僕はこっそりアンに聞いてみる。


アン「あれは火の精ですね!………ところでスサノオ様!どうして国津神様にも簡単に勝ってしまうスサノオ様が、いつも国津神様よりもずっと劣る原住民達を怖がられるのでしょうか?」


スサノオ「そんなこと言われても………。」


 国津神や天津神は皆僕と同族で昔からたくさん見てたからよく知ってるしそれほど怖くない。だけどほとんど見たことも会ったこともない他種族のことはよく知らないし何か怖いんだよ。


???「何をコソコソと話しをしている!お前達は何者だ?ヤマタ様の敵か?!」


スサノオ「ひっ!ちちち違うよ。ここが誰のものかなんて知らずに通りかかっただけだよ。ついでにこの辺りを支配してる国津神がいるなら会いたいと思ってるけど。」


???「………。」


 僕達に声をかけてきてる火の精がじっと僕を見つめてくる。僕はしどろもどろになりながらも何とか答えてじっと見つめ返す。視線を逸らしそうになっちゃうけどアンが言うにはこういう時は胸を張って目を逸らさずに見返せって言われてる。


 それにしてもここでもヤマタ様か……。北大陸を旅してた時も、西大陸に渡ってからここに来るまでも、度々そのヤマタ様という名前を聞いた。


 各地を支配してるのは国津神達みたいだけど、当然各集落とかには村長とか酋長とか、場合によっては種長とか族長みたいな人がいる。


 名目上の支配者が国津神だとすれば実質の支配者が各地にいて実際に実効支配してる。だけど不思議なことにあちこちで、その名目上の支配者である国津神と、その場を実際に支配してる者との間の地位にあたるようなものが存在していた。


 一部の地域でわかりやすい例があったからその名前を使って説明してみる。まず北大陸の西部にはヴァーラント国っていう国が出来かけていた。


 そこの名目上の一番の支配者は僕が倒して従えた国津神ヤシマジヌミだった。だけど国津神は名目上の支配者だったとしても基本的にほとんど何も干渉しない。


 国津神が出てくる場合は他の国津神が自分の支配地域を奪いに来た場合に同じ国津神である自分が対処するっていう時くらいしかない。


 じゃあヤシマジヌミの支配地域は誰にも纏められずに各自、各集落がバラバラに生活してるだけかと言うとそうじゃない。


 ヤシマジヌミの支配地のほとんどはヴァーラント国という国の支配地として纏まっている。アンのいたウィッチ種の集落もヴァーラント国に所属しているから、実質の支配者はヴァーラント国の王様っていうことになる。


 さらにウィッチ種の集落にはウィッチ種の集落の種長がいる。それがびっくりすることにアンだったんだけどそれは今はいい。


 とにかく、その場を実際に支配してるのはウィッチ種でその種長が現場の支配者になる。そして各集落がいくつも集まり徐々に国として出来上がりつつある。その国全体を支配してるのが国の王様ってこと。


 そして王様も含めて地域の全ての者はそこを支配する国津神に仕えてるってことになってる。ただ国津神は実際には何かしたりはしないし貢物も別に強要しないし、ただ崇めてるだけってくらいだね。


 そうして国として纏まって守護者として国津神を崇めてるだけならまだ話はわかる。だけどそれ以外に一つ不思議なことがあった。


 それがヤマタ様。このヤマタ様っていうのが何者なのかよくわからないけど、旅をしてる間に各地でヤマタ様の名前を聞いた。


 一つの種が集まって出来た集落の支配者ってわけでもなく、国を纏める王様ってわけでもない。そして国津神を追い出して自分が崇められてるわけでもない。不思議な立ち位置。


 言うなれば国津神よりは一歩下の地位でありながら王様より上の地位。そして種も族も地域もバラバラであちこちでその名前を聞く。


 北大陸の各地でも点々とヤマタ様に従ってるっていう地域があったのに、西大陸に渡ったここでもヤマタ様の名前が出て来た。


 この火の精が言うには火の精もヤマタ様に従ってる。国津神が動いてないってことはヤマタ様は討伐すべき侵略者の国津神ってわけじゃないんだろうけど、これほど各地で飛び地で信仰されてるって一体何者なんだろう?


スサノオ「一度そのヤマタ様っていう人に会ってみたいな……。」


???「何だと!?ヤマタ様に何かしようと言うのか!」


 あっ…。僕がボソッと独り言を言うとどうやら火の精に聞こえちゃったみたいだ。ヤマタ様の命を狙う不届き者とでも思われたみたい。


スサノオ「違うよぉ。ただここに来るまでも各地で崇められてたヤマタ様っていうのがどういう人か一度会ってみたいって思っただけだよ。」


???「………。」


 また火の精にじっと睨まれる。全然話が進まないなぁ…。どうしたらいいんだろ……。


人間A「ひゃっはー!殺せ殺せ~!」


人間B「今度こそ火の精は血祭りだ~!」


人間C「汚物は消毒だぁ~!」


スサノオ「え?人間族?これは一体?」


 僕達を包囲してる火の精の周囲をさらに人間族が囲んでいた。どうやらこっちを襲うつもりみたいで外周部にいた火の精と人間族ですでに戦いが始まっている。


???「ぬぅ…。いかん。これほど接近されては身体能力で劣る火の精には勝ち目がない……。貴様らの役目はこの者達が我らを包囲するまで注意を引き付けておくことであったか。」


 えっ!何か僕達まであの人間族の仲間みたいに思われてる?


スサノオ「違うよ!僕達とあの人間族とは関係ない。それに君達の注意を集めるも何も僕達がただここを通ろうとしたら君達が勝手に僕達に絡んできたんだろう?僕達が君達に絡んだわけじゃない。」


 あんまりな物言いにさすがの僕もカチンときた。


アン「あっ…。スサノオ様がお怒りに!これで何とかなりますね!スサノオ様は怖がりで、本気を出せば簡単に突破でも何でも出来るのに怖がってる間はまるで頼りになりませんからね!」


 うん…。何かアンにさらっとひどいことを言われた気がする。でも事実だから反論は出来ない。ちょっと頭が冷えかけたけど強引にこの怒りのままにいくことにする。


スサノオ「僕達が人間族と関係ないって証明するために僕が人間族をやっつけてやる!」


 僕は周囲を囲む火の精を飛び越えて襲撃してきている人間族へと飛び掛ったのだった。



  =======



 僕が前に出るとあっという間にケリが着いた。そりゃそうだよ。だって人間族はそんなに強くないもん。その人間族と良い勝負の火の精達もそんなに強くないのかもしれないけど、冷静に戻った僕が初めて見る相手に対して強気に出れるわけもなく…。またさっきまでと同じようなことが繰り返されていた。


イフリル「一先ず人間族を追い払ってくれたことには感謝しよう。わしの名はイフリル。ヤマタ様に仕えし者だ。………しかしお前達を信用したわけじゃない。さっきの襲撃を追い払ったのだって自作自演かもしれん。だから妙な真似はするなよ。」


スサノオ「ふぅ……。」


 またこうして僕達は火の精に囲まれたまま問答を繰り返すことになってる。


アン「一つ言っておきますけど!スサノオ様がその気になれば包囲してるあなた達なんて一瞬で全滅させることも出来るんですよ?!それなのに何故人間族と結託して自作自演する必要があるんですか?!」


イフリル「ぬぅ……。それはその通りかもしれんが……。」


 お?お?アンが口を挟むとトントン拍子で話が進み出した。何で僕の場合は誰も言うことを聞かずに信じてくれないんだろう。


アン「そうでしょう?スサノオ様のお力の一端はさっき見た通りですもんね?でも本当のスサノオ様のお力はあの程度じゃないんですよ!スサノオ様の目的はこの地を支配する国津神と会って、もう周囲と争わないようにと説得することが目的なんです!だから早く私達を通しなさい!」


イフリル「むぅ……。」


 アンの迫力に火の精達が一歩下がる。アンは迫力とか勢いがあるからついアンの言うことを聞いてしまうのは僕もよく身に染みてる。


 でも何で僕の話は聞いてくれないんだろう…?この火の精だけじゃなくて今まで襲ってきた相手で僕の話を聞いてくれる人なんて全然いなかった。僕って威厳っていうか、迫力とか説得力とかないのかな………。


イフリル「………ただ通すだけというわけにはいかん。お前達が何をしでかすかわからないからな。だから火の精の集落に来てもらおう。」


 こうして何でかわからないけど僕達は火の精の集落に呼ばれることになったのだった。



  =======



 集落へ向かう道すがらアンと話をする。


スサノオ「ねぇアン。北大陸だけじゃなくてこの西大陸にまでその名前が出て来たヤマタ様って何者だと思う?」


アン「そうですねぇ…。スサノオ様の予想ではヤマタ様は国津神様ではないんですよね?!」


スサノオ「うん。もし国津神だったならこれまで他の国津神が支配地を奪いに来たからって争いになってないのはおかしいから。ヤマタ様が国津神なら支配地を巡って争いになってるはずなのにそれがないってことは、逆説的にヤマタ様は国津神じゃないってことだと思う。」


 各地を支配してる国津神は支配地に侵略して来た他の国津神に対しては戦いを挑むけど、その地に住む原住民達が覇権争いをしても直接介入したりはしない。


 つまるところ誰が実効支配してようとも自分を崇めて名目上の支配者として認めるのならば、それが誰であろうと気にしないっていうことだと思う。


 それが国津神で自分の支配地を奪いに来たのなら戦う。国津神ではないなら現地民同士がどれほど争おうと誰が支配者になろうと気にせず放置する。


 つまり国津神達が放置してたってことはヤマタ様は国津神じゃなくてこの葦原中国の原住民であるってことだと思う。


アン「それなのに、少なくとも北大陸と西大陸を自由に行き来してるってことですよね?!私は北大陸の魔獣も西大陸の魔獣も、そして大陸を渡るための岩場の魔獣も強くて大変でした!それを自由に移動出来ているのだとすればヤマタ様は相当強いってことになりますよね!」


スサノオ「そう…だね……。」


 僕にとってはどこの魔獣も大したことなかった。大陸を渡る時は海の魔獣がひっきりなしに襲ってくるから面倒ではあったけど、強さ自体は大したことがない。ただキリがないから精神的に疲れるだけだ。


 でもアンが言うように僕や国津神達以外の原住民達にとっては普通に陸地で現れる魔獣でもとっても危険な敵となる。


 それなのに単独で自由に大陸間を移動出来るんだとすればそれは現地民としては飛びぬけて強いっていうことになると思う。


アン「それから、ヤマタ様っていうのが八股、八又なのだとすれば何かが九つあるってことですよね?!」


スサノオ「うん……。」


 股が八つあるってことは先が九つないと八股にはならない。指で数えてみればわかると思うけど五本の指の間は四つの股しかない。


アン「それって頭が九つとか?!あるいは手足が九本?!もしかして尻尾が九本でしょうか?!どう考えても怪物しか想像できませんよね!」


スサノオ「………うん。」


 確かにアンの言う通り頭とか手足が九つだったらそれはもうすごい化け物だろうね。想像するとブルッと身震いした。


アン「それに飛び地で支配地を持つってどうしてなんでしょうね?!一つの地域を徐々に拡げていくのならわかりますけど、あちこち飛び地で支配しても面倒なだけですよね!国を作り上げるつもりなら連続して繋がった地域を支配する方が良いはずです!ヤマタ様の狙いがいまいちわかりません!」


スサノオ「そうだね……。それもわからないね。」


 これもアンの言う通りだ。今出来つつあるヴァーラント国みたいに国として纏まるつもりなら支配地は連続して繋がってる方がいい。飛び地になってたら各地を守るのも大変になる。敵に囲まれるばかりで連携も連絡も難しくなるからね。


 それなのにあちこち飛び地でヤマタ様に従う地域があるってことは…、そういうことを何も考えていないだけか。それとも……、本人には別に支配地にしてるつもりがない?勝手に通った場所が自分に従っているだけでヤマタ様自身は別に支配しようとか思っていないのかもしれない。


 そんなことを考えていると周囲を柵で囲んだ集落が見えてきた。あれが火の精の集落かな?


イフリル「着いたぞ。あまり下手な行動はするなよ。」


 イフリルに注意されながら火の精の集落へと入って行ったのだった。



  =======



 集落では一応の歓迎を受けた。下手なことをしたらすぐ敵として攻撃するとは言われてるけど、人間族の襲撃時に助けたことも事実であり火の精達は一応僕達を恩人として迎えてくれたからだ。


 そして一晩お世話になって翌朝すぐに旅立つことにした。僕達は別に火の精の集落に用はない。ただ監視と接待を同時にするというから付いてきただけだ。


スサノオ「世話になったね。それじゃ。」


イフリル「待て。お前達はここの支配者である国津神に会いたいと言っていたな?わしが案内してやろう。」


スサノオ「え?」


 イフリルの突然の申し出に驚きを隠せない。イフリル達は国津神よりもヤマタ様に従ってるみたいだから国津神の所へ僕達を案内して何かあっても別にいいと思ってるんだろう。それどころか僕達と国津神が争って両者が弱ってヤマタ様の支配が強まる方がうれしいのかもしれない。


 だけど昨日までは全然僕達に協力的じゃなかったのにどうして急に意見が変わったんだろう?僕が不思議そうな顔をしてるとイフリルが語り出した。


イフリル「お前達は別に敵じゃなかったからな。それどころか恩人となった。だからその恩人の恩に報いるくらいはする。お前達が国津神の所へ行きたいというのならその案内くらいはな。」


アン「それで私達とここの支配者の国津神が争ってお互いに弱れば良いって意味かしら?!」


 うわぁ…。アンがぶっちゃけちゃった。僕もそういうことかなとは思ったけどそれをはっきり言っちゃったらまたお互い険悪になっちゃうんじゃないかな……。


イフリル「ふむ…。確かにそうなればわしらにとって一番利益があるが…、だからと言って恩人達にそのようなことをさせようとは思っておらん。ただお前達が行きたいというから案内するだけだ。」


 イフリルは特に気分を害した風もなくあっさりと答えた。どうやら一応僕達のことを少しは信用してもらえたみたいだね。


スサノオ「それじゃ行こうか。」


 こうして僕達はイフリルの案内の下この地域を支配する国津神の下へと向かったのだった。



  =======



 イフリルに案内されて辿り着いた場所には一柱の国津神が鎮座していた。


スサノオ「君がここの支配者の国津神?」


オオトシ「如何にも。我こそはオオトシ。この地を支配する国津神なり。」


 う~ん…。何か気難しそうな人だなぁ…。


スサノオ「僕は国津神のスサノオ。君に話があってきたんだ。」


オオトシ「話など無用。この地が欲しくば我に勝ってみせよ!」


アン「きゃっ!!!スカートが!」


 オオトシが空力を開放するとすごい突風が吹き荒れた。アンの…、腰に巻いてるのはすかーとって言うんだって、そのすかーとが捲れて下着が見えそうになってる。


スサノオ「話も聞いてくれないのか…。仕方ない。スサノオ~…、へん…、しんっ!とうっ!!!」


 僕はいつもの変身をする。これをすると何か自分が別人になったみたいな気がして普段の自分とは違うことが出来るようになる。


 まぁお母さんが言うには本当は元々僕にはこれくらい出来るのに気が弱いから、気持ちのせいで出来ないような気になってるだけだって言ってたけど………。


オオトシ「ほう…。大した力だ。これは我の負けかもしれんな。」


スサノオ「じゃあ無駄な争いはやめて話を聞いてくれる?」


オオトシ「それは出来ん。例え負けるとしても我はこの地を守る者としてこの地に住まう者を見捨てるわけにはいかん。ゆくぞ!」


 あぁ…。やっぱり戦いになるんだね……。オオトシの拳を右に避け……、え?


スサノオ「うわっ!」


オオトシ「ふむ…。力はとんでもないがやはり子供は子供か。」


 避けようと思ったのにオオトシに殴られてしまった。大して効いてないけどこれまで国津神と戦ってきて初めて攻撃を食らったことに驚きを隠せない。


アン「あぁっ!スサノオ様が相手の攻撃を食らうなんて!」


オオトシ「もう一度ゆくぞ!」


 またしてもオオトシが拳で攻撃してくる。それを僕が避けようとしたらまた体が動かなくなって殴られる………、と誰もが思っただろうね。だけど残念ながらもう同じ手は食わない。


オオトシ「馬鹿なっ!もう見切ったというのか!」


スサノオ「うん。僕が避けようとする一瞬だけ地面から植物が生えてきて僕を絡め取るんだよね。それで身動き出来なくなったところを君に殴られる。でも一度見たらもう僕には通用しないよ。」


オオトシ「ぬぅ………。」


 そう。オオトシは多分穀物の神様とかそういうものだと思う。だから自由自在に植物を生やしたり出来る。僕が避けようとすると植物を伸ばして体を絡め取って動けないようにして本体で攻撃してくる。


 だけど種さえわかれば僕にとっては大した攻撃じゃない。伸びてくる植物を振り払うのも簡単だし、僕の空力で邪魔をして伸びてこないようにすることだって出来る。


スサノオ「それじゃ今度はこっちから行くね!」


オオトシ「―ッ!」


 この後暫くしてオオトシは僕の軍門に降ったのだった。



  =======



 無事オオトシを降してその場から旅立ったのはよかったけど何故か思わぬ同行者が増えている。


スサノオ「ねぇイフリル。どうしてついて来てるの?案内はしてもらったし十分お礼はしてもらったからもう戻ってもいいんだよ?」


 そう。何故かオオトシを降した後もイフリルがついてきてる。僕達の次の目的は西大陸の各地を支配してる国津神を全て纏め上げて争いをやめさせることだ。ヤマタ様に仕えてるっていうイフリルが僕達についてくる理由はない。


イフリル「スサノオは力が強すぎる。警戒に値する。だからわしがついて監視せねばなるまい。」


スサノオ「そうなの?よくわからないけど…。何もする気がない僕を監視して集落を離れてる間に集落の方に何かあったら大変じゃないの?」


イフリル「精霊族には特別な移動方法があるから心配無用。何かあればすぐに集落へと帰れる。」


スサノオ「ふぅ~ん…。君達がそれでいいなら好きにすればいいけど……。」


 まぁついてきたければ勝手にすればいいんだけどね。別に僕は見られて困るようなことをしてるわけでもないし…。


 それで自分達の集落に何かあっても僕のせいだって言わないなら好きにすればいいんだけど…。一人納得してない人物がいる。


アン「よくないですよ!私とスサノオ様の愛の逃避行に余計な邪魔者が入ってくるなんて駄目です!とっととどっかいきやがれです!」


 アンはイフリルにどっか行けってずっと言ってる。


スサノオ「イフリルについてくるなって言うのはいいとしても愛の逃避行って何………?」


 そうだ。そこが問題だ。別に僕とアンは何かから逃げてるわけじゃない。それなのにどうして逃避行なんだろう?


アン「スサノオ様はスサノオ様で何にもわかってなさすぎです!ちょっとは乙女心を理解してください!」


 そうは言われても僕は男で乙女じゃないから乙女の心なんてわかるはずはない。でもそう言ったらアンがますます怒るのは目に見えてるから黙っておくことにした。


 それから暫く西大陸で旅を続けてすでに八柱の国津神を従えた。西大陸に残るは二人の国津神だけだと情報が入ってる。その残った二人のもとへ向かう途中で僕達は死にかけている精霊族を見つけた。


スサノオ「これは……。この子死にかけてるみたいだけど何か普通の死に方と違う気がするね。」


 僕だってこれまで西大陸を旅する間に何度も精霊族の死を見てきた。だから精霊族の死に方もちょっとは知ってる。


 西大陸で一番多い原住民は精霊族で他の種族とよく争っているからだ。もちろん西大陸にも他に人間族や魔人族や獣人族もいる。でも圧倒的多数はやっぱり精霊族だった。


 その精霊族は死ぬ時に光の粒になって天に昇るように消えていくのが普通の死に方だった。でも今目の前で死にかけてる精霊族は何かボロボロと崩れて砂が散るように消えてしまいそうになっていた。


イフリル「この者は存在する力を失って消滅しようとしておるということだ。」


 イフリルが軽く説明してくれた。普段天に昇るようにして死んでいる精霊族は皆生命の源って呼ばれる場所に還ってるんだって。そして生命の源から切り離されてまた生まれてくる。


 その際に本人の力が強ければ前回までの自我を失わずにまた同じ存在として生まれてくる。だけど逆に自我を保てるほどに力がなければ前回までの記憶も引き継げず同じ存在とはなれない。


 でもそれ以外にもう一つ、完全なる死があるんだって。同じ存在として記憶を引き継げなくても生まれ変わりとしてはもう一度生まれてきていることに変わりはない。


 だけど生まれ変わりも出来ない完全なる死を迎えるとその精霊の存在は全て失われて消滅してしまう。それが今目の前で死にかけてる精霊の死に方なんだって。


スサノオ「そんな…。何とか出来ないの?」


 確かに今までも幾人もの死を見てきた。それを全て僕が救うなんて出来はしないししてもいけない。それこそが自然の摂理なのだから。


 だけど今目の前で存在そのものが消えようとしているこの精霊を見ていると何か心が痛んだ。だから何とかしてあげたいと思ってイフリルに問いかける。


イフリル「この者は…、獣人族にやられたのだろう。やり口が獣人族のそれだ。精霊の存在するための力そのものを消し去ってしまって次に生まれてこれないように完全に消滅させてしまう。この風の精は存在するための力を全て獣人族の特殊能力で抜き取られて消滅する寸前になっている。」


スサノオ「うん。それで何とかする方法はないの?」


 今も目の前でボロボロと崩れ去って消えてしまいそうな風の精を見つめながらイフリルの答えを待つ。


イフリル「存在するための力を注ぎ込めばあるいは消滅は免れるかもしれない。しかし死は避けられないし精霊に存在するための力を注ぎ込む方法など聞いたこともない。」


スサノオ「そっか…。存在するための力がなくなっちゃったんだからそれを補充してあげたらいいんだね?」


 僕はそっと風の精に手を翳して力を注ぎ込んでみる。


イフリル「あっ!こりゃ!なんてことを!スサノオは精霊族ではなかろうが!注ぎ込む力は何でも良いというわけじゃないのだぞ!」


 イフリルがそう言って僕を止めようとするけど僕はやめない。イフリルじゃこの子に力を注ぎ込むことは出来ない。僕の力は確かに精霊の力と違って空力だけどこの子が消滅しないようには出来るかもしれない。


 そう思って暫く力を注ぎ込み続けたら風の精がサラサラと砂のようになって消滅しかけていたのが止まった。


???「アリ…ガ…ト………。」


 そう言って緑の髪に緑の瞳をした風の精が僕の翳した指を握る。温かい…。この子の死は僕には止められないし止めちゃいけないけど、多分この子が消滅してしまうことは防げたと思う。


 何よりこの子が僕の手を掴んでお礼を言ってくれたことが僕にとっての救いとなった。そして次第に光の粒子となって風の精は天へと舞い上がった。


イフリル「あの風の精が消滅することは免れたかもしれんが……。あの子はスサノオの力の影響を受けて普通の精霊ではなくなってしまっただろうな…。それにまだ力の弱い精霊だったあの子は今回の記憶は引き継げまい。スサノオに救われたことも知らず、次に生まれたら異端な力を持った精霊として迫害されるかもしれん。これでよかったと思っておるのか?」


 イフリルは今までよりずっと厳しい視線で僕を睨む。僕だってこれで正しかったのかはわからない。だけどあのままただ消滅してしまうのを見過ごすことは出来なかった。


スサノオ「確かに僕が余計なことをしたせいでこれからのあの子に苦労をかけることになってしまったかもしれない。だけど僕は消滅してしまうよりも…、また生きられる方がよかったはずだと信じてる。もし異端として迫害されてもあの子にはきっと守ってくれる人が現れるよ。」


 僕はそれ以上語らずに立ち上がって歩き始めた。イフリルもそれ以上は追及してくることはなくただ黙ってついてくる。


 その後僕達は西大陸を支配する全ての国津神を従えたのだった。



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