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転生無双  作者: 平朝臣
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外伝2「スサノオの冒険2」


 お母さんの下で修行に励むようになってからどれくらい経っただろう…。お母さんの修行のお陰もあるけどどうやら僕は最初からここらの魔獣くらいには負けないくらい強かったみたい。


 何でも葦原中国の魔獣は高天原の魔獣より弱いのが普通なんだって。だから高天原のどんな魔獣よりも強い僕が葦原中国の魔獣に負けるなんて普通はまずありえないみたい。


 それからここは葦原中国の中でも中央大陸っていう場所らしい。ここに住むのは基本的にほとんど人間族っていう種族が住んでるんだって。


 人間族は僕らに比べてずっと弱いから自分達以外を見つけたら怖くてすぐに襲ってくるんだって。だから僕が追い掛け回されたのも僕が怖かったからだって聞いた。


 追いかけてくる足も遅いし、攻撃も大したことないから手を抜いてるのかなと思ってたけどそうじゃなかったんだ。あれが人間族の限界だった。それなら僕でも何とかなるね。


ヨモツオオカミ「これ。油断するでない。」


スサノオ「あいたっ!」


 お母さんと修行してる間に考え事をしてたらポカリと殴られた。


ヨモツオオカミ「まぁ良い。修行は終わりじゃ。」


スサノオ「あっ、それじゃご飯の用意するね。」


 今日の修行は終わりと聞いて僕はご飯の用意をしようと思った。お母さんにも作ってあげたいけど、前に作ってあげたら『現世の物は食べられぬ』って言われちゃった。


ヨモツオオカミ「そうではない。もうそなたには修行など必要ないと言ったのじゃ。もう十分そなたは一人で生きていけよう?」


スサノオ「………え?」


 どういう意味?何か嫌な予感がするぞ……。


ヨモツオオカミ「わらわは常世の住人。そなたは現世の住人。本来ならばお互い触れ合うことも出来ぬ世界とイザナギが決めたのじゃ。その理を曲げてはならぬ。………もう行きなさいスサノオ。これからは一人で………。」


 お母さんの言うことはわかるよ…。だけど何であんなお父さんが決めたことを守らなくちゃいけないの?あんなひどいお父さんなんて知らないよ!


スサノオ「うぅっ…、ぐすっ…。やだ…、いやだよ。お母さんと一緒にいたいよ!」


ヨモツオオカミ「ほんにいつまで経っても泣き虫な子よ…。ここへおいで。」


 岩から出た腕が手招きする。僕はお母さんの手が届くところまで近づいた。


ヨモツオオカミ「可愛い可愛いわらわのスサノオ。わらわはいつまでもそなたを見守っていよう。じゃからそなたは現世で生きるがよい。」


 お母さんが優しい手で僕の頭を撫でる。そうだ…。僕がいつまでも泣いてたらお母さんだって安心出来ない。僕がしっかりしなくちゃ………。


スサノオ「………お母さん。僕、旅に出るよ。きっと立派になってここに戻ってくる。お母さんが心配しなくても良いように、立派になって帰ってくるから!」


ヨモツオオカミ「おおっ、おおっ。そうかそうか。それは楽しみじゃ。ほほほっ。」


 こうして僕はお母さんと一時の別れを告げて旅に出た。目的なんてない。どこに行けばいいかわからない。


 ただ一つ言えることは僕は立派になって次にお母さんに会う時に胸を張って会えるように生きようって決めたってことだけだ。



  =======



 どこへ行けばいいのかわからないからぐるっと中央大陸を歩きまわってみた。人間族っていうのはまだ未発達で僕達みたいに大きな集まりになってなくて小さな集落みたいなのがあちこちにある程度だった。


 それに中央大陸をぐるっと回ったけど、他の大陸って言うのに行くためには北と南にあった地続きの砂浜を歩いて渡るしかないみたい。


 僕は特に理由もなく、ただ今の位置から近いからという理由で北へ渡る砂浜へ向かった。


 そこには長く細い砂浜がずっと続いている不思議な場所があった。僕は意気揚々と砂浜を渡りだしたけど途中で後悔することになった。


 まず砂浜だから歩き難い。足はとられるし波で濡れるしでひどい場所だ。それに距離が長い……。いつまで経っても同じ砂浜と見渡す限りの海しかなくて退屈。


 その上さらに海の魔獣がひっきりなしに襲ってくるから面倒臭い。今の僕ならこの程度なんて敵じゃないけど休みなく襲ってくるのは面倒で仕方がない。


 長い長い砂浜をぼんやり歩きながら考え事をする。中央大陸の住人達は『人間族』って纏まりだった。国もなくて各集落が点々とあるだけなのに何故か族としては纏まってる。それに比べて僕達は一つの集まりとして纏まってるのに族としての名前がない。


 これが逆なら僕もこんなことを考えたりしなかった。纏まってる僕らが全員で一つの族だと言うのなら何もおかしくない。そして一つに纏まってない人間の族名がなくとも不思議じゃない。


 それなのに実際にはその逆のことが起こってる。何でだろう?僕にはわからないけど、お母さんに中央大陸に住むのは人間族だって聞いてからずっと疑問だった。


 これから向かう北大陸という場所も魔人族っていう人達が住んでるらしい。生活様式は人間族に似てるんだって。つまり魔人族も一つに纏まってなくてばらばらの集落で敵対しながら生きてるってこと。それなのにやっぱり族名があるんだ…。


スサノオ「わぷっ!!!」


 そんなことを考えて歩いてたら大きな波に飲み込まれてしまった。


スサノオ「あ~ぁ…。全身びしょ濡れだ……。」


 波をかぶってびしょびしょになってしまった。もういいや…。どうせ今僕が考えてもわかることじゃない。それにわかったとしてもだからって何の意味があるのかわからない。


 それと僕は一つ誓いをたてた。この歩き難い砂浜を何とかする。ここを渡る者がもっと楽に渡れるように……。いつか必ずここをもっと渡りやすいようにしてやろう。


 だから僕はもう族名のことを考えるのはやめて一気に駆け足で砂浜を渡っていったのだった。



  =======



 怖い怖い怖い!何が人間族と一緒だよ!北大陸に住む魔人族の方が凶暴じゃないか!


 僕が砂浜を渡り終えて暫く北大陸を歩いてると魔人族に出会った。だけど出会った瞬間にすぐ何か特殊能力を使って攻撃されてしまった。


 当たってないから強さははっきりとはわからないけど、どう考えても人間族より強い。当たったら痛いかもしれない。だから僕は必死で逃げ出した。


 そして道に迷った………。まぁ最初から道なんて知らないけど…。


 だけどお母さんに旅の仕方を聞いて一つ知ったことがあった。それは片方の海岸をずっと伝っていけば大陸を一周出来るってこと。


 僕が最初に葦原中国に降り立った時は森の中をあちこちウロウロ歩いてたからほとんど同じところをグルグル回ってたみたい。


 だから腕のどちらかを海岸に向けてずっと同じ海岸沿いに歩いていけば、ぐるっと一周出来るって言われてなるほどと思った。


 それなのに暫く歩いてたら魔人族に追いかけられて陸の奥深くにまで来てしまった……。


 僕って方向音痴らしいからまた迷うこと必至だ…。どうしよ……。


スサノオ「とりあえずお腹が空いてきたな…。ご飯にしようか……。お?あの大きな熊にしよう。」


 大人の倍くらいの大きさがありそうな熊が歩いてる。あれは前にも倒したことがあるから僕でも大丈夫なのは証明済みだ。


 風下からそっと近づいて背後から飛び掛って手刀の一撃で首を切り落とした。何か対処する暇もなく熊は一撃の下に絶命して倒れる。


スサノオ「よ~し。晩御飯はこれでいいや。」


 僕は倒した熊を晩御飯にしようと思って準備しようと思ったら近くの藪から急に飛び出してきた人がいた。


 やばい…。熊の気配にばっかり集中してたから他にもまだいたなんて思ってもみなかった。それに人の形をしてるから魔獣じゃなくて魔人族に違いない。また追い掛け回されるのかと思って逃げようとしたらその魔人族が話し掛けて来た。


???「危ないところを助けていただきありがとうございましたっ!」


スサノオ「…え?はい?」


 何のことだろう?助けた?誰が誰を?


 何を言われているのか意味がわからず混乱してる僕を他所に飛び出してきた魔人族はさらに捲くし立てるように話を続けた。


アンネリーゼ「私はウィッチ種のアンネリーゼです!そのグレイウルルスに襲われそうになっていた所をあなたに救っていただいたんです!あなたのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?!」


 グレイウルルスってこの熊のことかな?救ったっていうつもりはなかったんだけど…。ただ食料にしようと思って偶々近くにいた奴を狩っただけで……。


 それにしてもこの女の子早口で捲くし立ててくるし声も大きいし変な娘だなぁ。背もちっちゃいし…。へんてこな帽子を被ってるし…。


 また北大陸に上陸してすぐみたいに襲われたりしないかな?もう逃げるのは疲れたよ。


 まぁこの娘が今いきなり何かしてくることはなさそうだから返事くらいはしてあげよう。


スサノオ「僕はスサノオ。」


アン「スサノオ様…。あぁスサノオ様!私のことはアンとお呼びください!大したお礼も出来ませんが是非私の集落にお越しください!」


 げっ…、どうしよう…。この娘は悪い子じゃないかもしれないけど、大人達がいっぱいいる集落に行ったら僕はまた追われるかもしれない。


 何とかここでお別れする方向にもっていった方がいいかな?


スサノオ「あぁ~…。気持ちだけでいいよ。僕は異種だし君の集落にお邪魔しても迷惑でしょ?」


アン「そんなことはありません!ウィッチ種は異種だからと言って差別や迫害したりなどしません!私の命の恩人なのですから皆大歓迎してくれます!」


 異種ならまだ大丈夫かもしれないけど僕はそもそも魔人族ですらないんだよ…。異族じゃまた話は違うでしょ…?君だって実際に僕が異族だって知れば今の態度も変わるかもしれないでしょ…?


スサノオ「………僕は魔人族ですらないんだ。異種じゃなくて異族なんだ。ね?そんな相手を集落になんて招くことは出来ないでしょ?」


 僕はアンから視線を外して地面を見ながらそんなことを言った。どうして自分で言っちゃったんだろう。これでまた敵として追われるのに…。


アン「え?魔人族じゃないんですか?でも大丈夫です!そんなことは関係ありませんから!ささっ、それで問題解決でしたら私の集落へ向かいましょう!」


 え!僕が異族だって知ったのにアンネリーゼと名乗ったこの女の子はまるで意に介した様子がない。


スサノオ「でもアンネリーゼがそうだったとしても集落の大人達はそうじゃないでしょ?異族が入り込んだなんて知ればまた襲ってくるんじゃないかな?」


アン「あぁ…。他の場所で追われたんですね?でも大丈夫です!ウィッチ種はそのようなことはしません!さぁさぁ!スサノオ様!問題は解決したので私の集落まで来てください!あとアンって呼んでください!」


 これはどうなんだろう…。また中央大陸のお爺さんとお婆さんの家の時みたいなことになるのかな…。


 でも僕はアンの勢いに負けて集落に付いて行くことになった。もちろんグレイウルルスっていう熊はその場でいくらか解体してから持って行った。



  =======



 解体した大きな熊、グレイウルルスを背負って歩きながら先を歩くアンを眺めてみる。


 僕は葦原中国に降り立ってから随分背が伸びた。僕とアンを比べると頭一個分くらい差がある。アンの頭に僕の顎が乗るくらいの差だ。


 アンは緑の髪で毛先が内向きにクルンと巻いてある。赤い瞳の可愛い女の子だ。しゃべりでもわかる通りはっきりシャキシャキしてて声も大きい。


 鍔が大きくて先が長くて尖がった帽子を被ってる。全身は外套を羽織っててよく見えない。おっぱいはアマテラス姉ちゃんより小さいな。それも僕の記憶にあるアマテラス姉ちゃんだから今はもっと大きくなってるかもしれない。


 足首まで隠れるほどの長い履き物を穿いてる。手には自身の身長を超えるほどの長い杖を持ってて、杖の先もアンの髪みたいにクルンと巻いてある。まるで大きなゼンマイみたいだ。


アン「さぁ着きましたよ!ウィッチの集落へようこそ!」


 アンの言葉で我に返って周囲の様子を窺う。集落って言う通り小さな集まりだ。開けた平野にポツンと柵があってその中に家みたいなのが点々と建ってる。


ウィッチA「え?アン?皆~!アンが戻ってきたわよ~!」


 アンに続いて僕も集落に入ると周囲が騒がしくなって人が集まってきた。とは言っても今この集落の中にいるのは三十人くらいかな。小さな集落みたいだ。その三十人のうちのほとんどが集まってきていた。


ウィッチB「アン、無事だったの?どこか怪我はない?」


アン「うん!大丈夫!このスサノオ様が救ってくださったの!だから皆スサノオ様を歓迎して!」


 そこで一斉に皆が僕を見る。なんていうかすごい圧力を感じる。この場違い感がたまらなく辛い……。


 それにしてもウィッチ種って皆小さいんだ…。ほとんど全員アンと身長が同じくらいだ。だからって皆若いわけじゃない。中には明らかに年上とわかるような年配の人もいる。


 それでも皆同じくらいの身長ってことは種族柄そういう特徴なのかもしれない。


ウィッチC「おお?これはまさかグレイウルルスか?これをそのスサノオという人が倒したのか?」


 男の人もいるんだ…。同じような背格好で帽子まで被ってるから皆女の子かと思った…。実際女の子の比率が高い気がするし……。


アン「そうよ!スサノオ様はすごいの!手でスパッとグレイウルルスの首を一撃で切り落としたのよ!」


ウィッチA「へぇ~!すごーい!」


 女の子達が僕をすごいすごいって言いながら囲んでくる。高天原にいてもこんなに女の子達に囲まれるようなことがなかった僕はどうしていいかわからず固まってしまった。


アン「ちょっと皆!スサノオ様に目を付けたのは私なんだからね!スサノオ様もデレデレしてないでシャキっとしてください!」


 何でか知らないけど膨れたアンに怒られちゃった。


ウィッチB「アンだけずる~い!」


アン「そんなことないもん!私とスサノオ様は運命の出会いだったんだから!」


 何だろう…。何か知らないけど僕の何かが危険を知らせてる。このままだときっと何か大変なことになりそうな気がする。


スサノオ「ちょっと待って!まず僕は皆さんとは違う別の族だから!その点は覚えておいて!」


 何で僕が自分でこんな自分の身を危険に晒すようなことを宣言しないといけないのかと思うけど、このままアンに任せて放ってたら何か取り返しのつかないことになりそうな予感がして僕はそう叫んだ。


ウィッチA「へぇ。他族なんだ。それで何て族なの?」


スサノオ「………え?」


 ………僕の族?何だろう?実際僕らは族名がない。天津神と国津神とは呼ばれてるけど族名じゃない。じゃあ僕らは一体何ていう族なんだろう………。


スサノオ「えっと…、僕の族には族名がないんだ……。天津神と国津神と呼ばれてて僕は国津神だよ。」


ウィッチ達「「「「「ははぁ~~っ!!!」」」」」


 えぇ?!僕が国津神って言った瞬間皆僕に向かって両手両膝を地面につけて頭を下げた。


スサノオ「え?え?何?一体どういうこと?」


アン「スサノオ様!どうしてそんな大変なことをもっと早く教えてくださらなかったのですか!」


 アンに怒られちゃった。でもそんなこと言われてもよくわからない。何で国津神だって早く言わなきゃならないんだろう?


スサノオ「そうは言われても…。大体なんで国津神だって言わなきゃならないの?」


アン「国津神様と言えばこの世界の支配者様です!つまりスサノオ様もこの世界の支配者様なのです!」


 え?そうなの?そんな話聞いたこともないけど………。


スサノオ「僕はそんな話聞いたこともないし、仮に国津神がそうだったとしても僕は国から出て来たんだからもう関係ないよ。」


アン「そんなことありません!いいですか?!つまりですね………。」


 それからアンに色々と説明された。まだ全世界ってほどじゃないみたいだけど、どうやら国津神はすでにこの葦原中国のほとんどの地域と種族に対して支配権みたいなものを持ってるみたい。


 ただ色んな国津神がそれぞれ自分の支配地を持ってるような形だからお互いに喧嘩してるみたい。だから見慣れない相手を見つけたら追っかけてきて攻撃してくるんだって。


 種族として支配地が分かれてるんじゃなくて、そこを支配する国津神の縄張りでお互いに別れてるってことらしい。


 じゃあもしかして全ての国津神を纏めたらもう追いかけられたり急に攻撃されたり襲われたりしないってことかな。


 そっか…。そういうことなんだ。よっし!じゃあ僕があちこちを支配してる国津神に話をつけて皆で仲良く暮らせるようにすればいいんだ。


アン「それじゃスサノオ様!今夜は宴を開いてここに泊まっていってください!何なら私の体も捧げます!」


スサノオ「え?!宴も宿もいいよ。僕野宿に慣れてるし…、ちょっとここの国津神に会っていきたいから……。ってアンの体!そんなのもらえないよ!?」


 アンは急に何を言い出すんだ?女の子の体を捧げられる?うぅっ…。そういや高天原で何かそんな話を聞いたことがある。


 僕にはどうせ無縁だろうと思ってよく知らないけど、あれだよね?子作りするってことだよね?


アン「それは後で考えるとしてとにかくまずはゆっくりしていってください!さぁ皆!スサノオ様が食べ切れないグレイウルルスを分けてくださるっていってたから料理しましょう!」


 うん。それはそう言った。どうせ全部は食べ切れないからアン達もよければどうぞって分けてあげた。でもアンの体を貰うなんて駄目だよ。そういうのは好きな娘としかしちゃいけないんだよ。


 僕が困惑してる間に皆に手を引かれて集落の中心に連れていかれて座らさせられた。後は周りで皆が僕の世話をしたり、料理をしたり、色々と接待されて大変だった。


 だって僕こんなに女の子に囲まれたことないし……。


アン「スサノオ様!鼻の下が伸びてます!私だけを見てください!」


 何でか知らないけどアンに怒られた………。



  =======



 それから夜通し宴が開かれて、明け方頃にようやく皆疲れて寝静まった。僕も暫く休んだけど元々あまり休みが必要ない僕はすぐに目が覚める。


 散らかったままの集落の後片付けとかをしてる間に朝になって皆が次第に起き始めたのだった。


アン「えっ!スサノオ様!何をしておられるんですか!こんな雑用はスサノオ様はしてはいけませんよ!」


 起きてきたアンにまた怒られた。何かアンには怒られてばっかりだなぁ。


スサノオ「うん、まぁ昨晩お世話になったからね。これくらいは僕にもやらせてよ。」


 こうして僕は後片付けの手伝いをしてから集落を出発することにした。


アン「本当にもう行かれるのですか?!もっとゆっくりしていってください!」


スサノオ「ありがとう。気持ちだけ貰っておくね。僕はこの辺りの国津神に会いに行きたいからもう行かなくちゃ。」


 僕が会ったからって何か出来るわけでもないかもしれないけど、あちこちを支配してる国津神と会ってみたい。そして出来ればお互い争わなくて済むように皆で仲良く纏まれたらなって思う。


アン「そうですか!それじゃ私がご案内いたします!」


スサノオ「………え?いやいや。危険かもしれないしそんなこと駄目だよ。」


アン「いいえ!スサノオ様が何と言われようともついて行きます!」


 こうしてまたしてもアンの勢いに負けて結局連れて行くことになってしまったのだった。



  =======



 そしてアンの案内ですぐにこの地域を支配してるらしい国津神の所まで行くことが出来た。僕一人だったら絶対辿りついてない。迷子になってた自信がある。


???「何者だ?俺に何か用か?」


 そこに居たのは精悍な男の国津神だった。何ていうか怖い。たぶん僕より弱いと思うけど、悲しいかなタケちゃんに散々いじめられてたせいでこういう高圧的な人は苦手だ。


スサノオ「僕は国津神のスサノオ。ここら辺一帯の支配者の国津神に会いに来たんだけど君がその支配者の国津神でいいのかな?」


 僕はなるべく笑顔でそう聞いてみた。もしかしたら若干笑顔が引き攣ってたかもしれないけど………。


ヤシマジヌミ「そうだ。俺がこの辺り一帯を支配するヤシマジヌミだ。スサノオなど聞いたこともない。さっさと去れ。」


 あぁ…。まぁそうだろうね。僕って別に有名人でも何でもないし、そんなに名前が知れ渡ってるわけない。高天原だとアマテラス姉ちゃんやツクヨミ兄ちゃんの弟ってことで皆に知られてただけだもんね。


 僕自身には何かがあるわけじゃない。ただ家系的にお父さんやお姉ちゃん達のお陰で有名だっただけだ。


スサノオ「ちょっとだけ話を聞いて。僕は国津神の皆がお互いの支配地同士で喧嘩してるのをやめさせたいんだ。皆同じ国津神なんだからもっと仲良く出来ないかな?」


ヤシマジヌミ「はっ!仲良くだと?はははっ!そんなこと出来るわけないだろう!相手が攻撃してくるのにただ黙って殴られろと言うのか?」


スサノオ「そうじゃないよ。攻撃されたからって攻撃し返したらいつまで経ってもずっと喧嘩したままだよ。だからちょっとだけ我慢してお互いに攻撃しないようにしようよ。」


ヤシマジヌミ「ふんっ…。自分より劣る相手に頭を下げろと言うのか?俺を従わせたかったら俺に勝ってみせろ!」


 ヤシマジヌミが神力を解き放つ。大きな空力だ。


アン「ひぇっ!たたた大変です!怒らせてしまいましたよ!」


スサノオ「アンは下がってて。僕が何とかするから。」


アン「あぁ~ん!スサノオ様!素敵すぎます!」


 僕がアンの前に立って庇うとアンが赤くなってクネクネし始めた。だけど今はアンに構ってる場合じゃない。


スサノオ「僕だって頭にくる時くらいあるんだよ?ヤシマジヌミの言い分はおかしい。君が力があるのならそれこそ力なき民達のために君の力を揮ってあげるべきだ!偉そうにふんぞり返って周囲と争うためだけに暴れればいいってもんじゃない!」


ヤシマジヌミ「ふん。もう口で語ることなどないだろう。さっさと来い!」


 あんまりな態度のヤシマジヌミに腹を立ててる僕は怒りで恐怖を忘れてヤシマジヌミを真っ直ぐ見据える。


スサノオ「いくよ!空力解放!」


 お母さんが教えてくれたポーズを取って空力を解放する。左手は腰に引き付けて、右手は左斜め上に真っ直ぐ伸ばす。そして右手をぐるんと半周させてから右腰に引きつける。その時左手は今度は逆に右斜め上に伸ばす。そして両手を上げて飛び上がる!!!


スサノオ「スサノオ~…、へん…、しんっ!!!とうっ!!!」


ヤシマジヌミ「………何だこの空力は!お前何者だ!?」


 どうやらうまくいったみたいだ。お母さんが言うには僕は本当は弱くないのに気が弱いせいで力を出せてないって言われた。


 だからその気が弱くて力が出せないのを何とかするために変身を教えてもらった。まぁ実際には何も変身してないんだけど、こうすることで自分が別人になったみたいな気になって力が出せるだろうって。


 実際その通りでこれがうまくいくと僕の力は大きく出せるようになる。今の僕ならヤシマジヌミに負ける気はしない。


スサノオ「僕はタケハヤスサノオ!いくぞヤシマジヌミ!」


ヤシマジヌミ「うそん……。それって三貴子?」


 戦いが始まったけどそれは戦いとは呼べないようなものだった。僕が一方的にヤシマジヌミをボコボコにしちゃったから。


 もちろん殺したりなんてしてない。僕の目的は殺すことじゃないから。暫くボコボコにしてたら途中で泣きながら謝ってきて手下にしてくれって言いだした。


ヤシマジヌミ「三貴子のスサノオ様ならそう言ってくださればよかったではないですか。国津神のスサノオと言われても誰も気付きませんよ。」


 僕の一の手下になったヤシマジヌミは最初にそう言ってきた。


スサノオ「でもそうは言っても僕はもう高天原を追放されてただの国津神のスサノオになったんだよ。」


ヤシマジヌミ「それでもです。これからは三貴子のタケハヤスサノオと名乗られるべきかと。」


 そうなのかな?ううん。そうじゃないよね。


スサノオ「確かに争いを避けるだけならそれでお父さんやお姉ちゃんの名を利用した方がいいかもしれない。だけどそれじゃ結局僕に従ってくれてるわけじゃないよね。だからやっぱり僕はただの国津神のスサノオとしてこの世界を回るよ。」


 そうだ。僕はただお父さんやお姉ちゃんの名前を使って皆を従えたいわけじゃない。僕の目的は国津神の皆がうまく纏まることだ。ここでお父さんやお姉ちゃんの名前で纏めてもきっとうまくいかない。


ヤシマジヌミ「さすがはスサノオ様です。」


アン「さすがはスサノオ様です!」


スサノオ「あぁ…。うん…。」


 何か二人にキラキラした目で見られててちょっと居心地が悪い。別にそんな大したことじゃないんだけど……。


 ともかく僕はこうしてヤシマジヌミを始めとして北大陸の各地を支配している七柱の国津神を従えて、北大陸を一つに纏め上げたのだった。



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