外伝2「スサノオの冒険1」
早めに更新すると言ったな?あれは嘘だ!
………いやほんとごめんなさい>< 言い訳のしようもねぇです!
もっと早く更新する予定でしたけど……、まだ書き上がらず…。とりあえず二十話まで出来てます。多分二十数話で終わる…かな?
あまりに更新が遅いと忘れ去られそうなのでとりあえず見切り発車で…。ストック尽きる前に書き終わらなければ最後の更新遅れるかもしれません。言い訳は活動報告にて!
それではよければお楽しみください。
スサノオ「うえぇぇ~んっ!!!」
僕は泣きながらお家に帰った。
アマテラス「どうしたのですかスサノオ?」
スサノオ「お姉ちゃ~ん!タケちゃんが僕をいじめるの~!」
大好きなお姉ちゃんに泣き付こうとしたけど、座ってたはずのお姉ちゃんは一瞬のうちにいなくなってて僕は勢い余って転んだ。
スサノオ「いたい~~!!うわぁぁ~ん!」
アマテラス「まったく……。三貴子であるあなたが他の者にいじめられてどうするのです。あなたはこれから我ら種族を導いていかなければならない立場なのですよ?」
いつの間にか僕の後ろに回ってたお姉ちゃんが『やれやれ』って言いながら顔を押さえて首を振ってる。お姉ちゃんは綺麗だけど何かその表情はあんまり可愛くない。そんなこと言ったら多分殴られるから言わないけど……。
いじめられたから助けてもらおうと思ったのにますますいじめられてる!お姉ちゃんは普段優しいのにこういう時は怖い!余計な敵まで作ってしまった。どうしよう。
ツクヨミ「まぁまぁ姉上。スサノオはまだ小さいんです。俺達が守ってあげればいいでしょう?」
スサノオ「ツクヨミ兄ちゃん!」
救世主だ!僕はいつも助けてくれるツクヨミ兄ちゃんに抱きついた。
アマテラス「ツクヨミはスサノオに甘すぎます。いいですか?これからこの子は我が種族を背負って立つ身なのですよ?まだ幼いからなどと言って甘やかしてはいけません。これでは先が思いやられます。」
ツクヨミ「はははっ。姉上は大袈裟だな。なぁスサノオ?俺達が父上に代わって種族を纏めるんだからスサノオは心配なんてしなくていいんだからな。」
僕はツクヨミ兄ちゃんの足にしがみついてアマテラス姉ちゃんから隠れる。ツクヨミ兄ちゃんがアマテラス姉ちゃんを止めてくれるから二人で言い合いになってる。
いつもお兄ちゃんは僕を守ってくれるから大好きだ。お姉ちゃんだって本当は大好きだけど僕がいじめられて助けてもらおうとしてる時はいつも厳しいからそういう時のお姉ちゃんはちょっと苦手……。
お母さんは死んじゃって僕達にはお父さんしかいない。お父さんも種族を纏めるためにって言っていっつもいないから一緒に遊んでもらったこともない。
だから僕はお父さんと怒ってる時のお姉ちゃんは苦手だ……。僕はお母さんとお兄ちゃんが好き。だからこうしていつもお兄ちゃんの影に隠れてる。
アマテラス「聞いているのですか?スサノオ!?」
スサノオ「はいっ!!!」
全然聞いてなかった。いつもお兄ちゃんが止めてくれるから二人の言い合いはほとんど聞いてない。
ツクヨミ「まぁまぁ。もういいじゃないか。もう行っていいぞスサノオ。」
スサノオ「うんっ!」
アマテラス「あっ!待ちなさいスサノオ!まだ話は終わっていませんよ!?」
これ以上ここにいたらもっとアマテラス姉ちゃんに怒られそうだから僕はツクヨミ兄ちゃんに任せて逃げ出した。
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アマテラス「まったく………。どうしてツクヨミはそうスサノオを甘やかすのですか?あの子の将来のためにもここはしっかり言っておくべきでしょう?」
ツクヨミ「そんなに心配しなくてももう少し大きくなればそれなりに自覚するよ。俺達だってそうだろう?子供の時から何でもかんでもわかっていて出来たわけじゃないさ。スサノオだってそうだし、そもそもスサノオは後を継がないんだからそこまで厳しくしなくてもいいだろう?俺達がしっかりしてればいいさ。」
ツクヨミはいつもこれです……。確かにあの子があの力を使わなくて済むのならそれに越したことはありません。でもいつあの子が力を使わなければならないようになるかわからないのですよ?
それに…、きっと我が種族を纏めるのはスサノオになるでしょう。確かにわらわ達がスサノオをきちんと支えてあげれば良いですが、スサノオ自身だってしっかりしてもらわないと……。
ツクヨミ「それじゃこの話は終わり。」
アマテラス「あっ!ちょっとツクヨミ!」
ツクヨミも話を切り上げて立ち去ってしまいました。
………何でしょう。何かいつも不安を感じてしまいます。わらわ達はとても仲の良い姉弟のはずで…、お父上は種族を纏めておられて…、我ら種族に攻撃してくる敵もいません。
全ては順調で平和なはずなのに……。何か言い知れぬ不安を齎すこの気持ちは何なのでしょうか………。
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もう何年も経って僕は大きくなった。昔はよくタケちゃんにいじめられてたけど、最近はタケちゃんもあまりいじめてこなくなった。
タケミカヅチ「おいスサノオ。勝負しようぜ。」
スサノオ「えっ!?あぁ~。僕用があるから帰るね!」
嘘だった。いじめは続いてた!ただ勝負っていう名前に変わっただけだ!最近は僕が一人で森に入ったりしてタケちゃんから離れてたからいじめが少なくなったように感じてただけだった!
何でタケちゃんはあんなに力が強いのに僕みたいな弱虫をいじめるんだろう……。とにかく用事があるってでっち上げてタケちゃんから逃げ出して家に帰った。
スサノオ「………あれ?お父さん?」
イザナギ「スサノオか。」
僕がタケちゃんから逃げ出して家に帰るとお父さんがいた。お父さんはいっつも仕事だって言ってほとんど家に帰ってくることもないのに、こんなお昼時にいるなんて珍しいどころじゃない。
スサノオ「お父さんも家でご飯食べるの?急に帰ってきてもたぶんご飯ないよ?僕のを分けてあげようか?」
僕はお父さんと何か会話しようと思って話しかけたけどお父さんは面倒臭そうに顔を顰めた。
イザナギ「家で食べるつもりはない。」
スサノオ「お父さん…。お父さんはそうやっていっつもアマテラス姉ちゃんやツクヨミ兄ちゃんを放ったらかしにしてるけど……、二人は何も言わないけどお父さんがいなくて寂しくて心細く思ってるよ?せめてもうちょっと家族皆で………。」
イザナギ「そんな暇はない!イザナミがいなくなった分俺がもっと働かなければならないことくらいわかるだろう!お前達だけではなく我が種族全てのために身を粉にして働いている俺の苦労もわからないのか!」
スサノオ「ひっ!!!」
お父さんが怒った……。怖くて足が竦んで動けない。目にジワジワと涙が溜まってくる。
スサノオ「………僕はお父さんとの思い出なんて何にもないよ。お父さんは血の繋がりではお父さんかもしれないけど、僕にとってはただの他人だよ!!!これならお母さんと一緒にいたかったよ!!!」
イザナギ「っ!!!だったら出て行くがいい!ここにお前の住む場所などない!」
スサノオ「――ッ!!」
お父さんが本気で怒ってる。怒らせたのは僕だ。泣きそうだけどここで泣いちゃだめだ。だからぐっと我慢して堪える。僕はそのまま走り去ったのだった。
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僕はあてもなくブラブラと歩いてた。どうしよう…。アマテラス姉ちゃんとツクヨミ兄ちゃんに挨拶した方が良いのかな………。
でも僕が追い出されたからさよならを言いに来たって言ったら、二人ならお父さんに直談判して止めさせにいくよね………。
じゃあ手紙を………。でも紙も筆もない。どうやって手紙を書こう………。
スサノオ「そうだ!魔獣を狩ってその血で書こう。魔獣くらいなら僕でも倒せるぞ!」
僕は森に入って魔獣を狩った。血で書こうと思ったけど今度は書く紙がない。仕方がないから魔獣の体に文字を刻んで家に放り投げることにした。
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最近はスサノオが一人でどこかに行ってコソコソと何かしている…。一体どこで何をしているのやら……。それに周囲の噂ではスサノオが悪さをしていると噂になっている。
実際にはスサノオは何か悪さをしているということはないはずだけど……。でも一人でどこかへ行って何をしてるのかもわからないのはよくない。そういう噂が出てしまうのもそれが原因でしょうね。
ワカヒルメ「きゃ~~~っ!!!」
アマテラス「何事ですか?」
お父上がおれらない間家のことを手伝ってくれているワカヒルメの悲鳴が聞こえてきました。わらわがそこへ向かうと……。
アマテラス「何ですかこれは?」
窓を破って魔獣の死骸が投げ込まれたようです。辺りには壊れた窓が飛び散っていて魔獣の死骸に驚いたのかワカヒルメがひっくり返っています。少しどこかを怪我したようで血が流れているので治療してあげましょう。
ワカヒルメ「スサノオ…。」
アマテラス「え?」
ワカヒルメがボソッと何かを言いました。今何と言いましたか?
ワカヒルメ「悪ガキのスサノオがこれを投げ入れたんです!皆に言いふらさなくては!やっぱりあの悪童はいつもこのような悪さをしていたんですね!」
アマテラス「あっ!待ちなさいワカヒルメ!」
止める暇もなくワカヒルメは瞬く間に高天原全てにスサノオのことを触れ回ったのでした。
スサノオがただの悪戯でこのようなことをするはずはありません。ですが誰も話も聞いてくれませんでした。
投げ入れた魔獣にも何か意味があるのだろうと言ったのですが証拠として預かると言われて警備の者がやってきて押収されてしまいました。
そしてそれ以来スサノオの姿を見た者は誰もいませんでした……。
高天原の者達は皆スサノオが悪さを働いて高天原にいられなくなったから逃げ出したとか、追放されたからいなくなったなどと勝手なことを噂しています。
それを止めようと思ってもわらわ達が庇えば逆効果でますますスサノオの悪評が広がってしまいました。ですからもうわらわ達には何も出来ません。後はただスサノオが帰って来て身の潔白を証明するしかありません。
アマテラス(いえ…、そんなことよりも……。どこへ行ってしまったというのですかスサノオ?無事で……、早く帰ってきなさい………。)
今日もわらわはスサノオの安全を願って天に祈りを捧げたのでした。
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僕は初めて降り立った葦原中国を見て驚いた。
スサノオ「なぁ~んだ。葦原中国って言っても高天原と変わらないよ。皆は葦原中国は怖い所だって言ってたけどこれなら平気だね。」
そうだ。高天原とあんまり変わらない。これなら僕でも旅が出来そうだ。
………ところでお母さんがいる黄泉の国ってどこにあるんだろう?
僕はどっちへ行けば良いのかもわからず、あてもないまま彷徨い歩いたのだった。
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もうやだ!もう帰りたい!全然高天原と違う!変な人には追い掛け回されるし、見たこともない魔獣もいるし怖い!
誰もいない!夜一人で寝てるといつも何かしらが僕の命を狙って襲ってくる!ゆっくり寝ることも出来ない。
もちろん魔獣は見たこともないやつが多いってだけで倒せないことはない。でもそれは確かめてみないとわからない。
もしかしたら僕より強い魔獣もいるかもしれない。高天原に居た時は全部の魔獣は僕より弱いってわかってたからどれでも見かけたら倒して食べればよかった。
でもここじゃそうはいかない。もし下手に知らない魔獣を襲って僕よりも強かったら僕の方が危険になる。だから狩れる魔獣はよ~く見極めないといけない。
僕より強い敵を攻撃してしまわないように敵を選んで観察してたら高天原に居た頃ほど獲物が狩れなくなっている。それじゃ足りなくていつもお腹が空いてる。
毒を持つ植物や虫もいて気を抜くことも出来ない。夜に寝ようと思ったら夜に出歩く魔獣や虫が僕を狙ってくる。夜もゆっくり眠れなくてずっと寝不足で辛い。
それに姿形は僕達と似てるけどたぶん葦原中国の住人と思う人達は何故か僕を見かけたら襲ってくる。僕を追って来る時はそれほど動きも速くないし攻撃してきてもそんなにすごい攻撃には見えない。
だけどもし実際に戦いになったら僕が負けるかもしれないし、僕はいつも逃げ回っていた。そもそもここはどこなのかもよくわからない。
もうお家に帰りたい……。アマテラス姉ちゃん、ツクヨミ兄ちゃん……。でも帰ろうにももう家にもどうやって帰ったらいいのかわからない。ここがどこで家がどっちかもわからないのに帰りようもない。
???「こんな所に子供一人でどうしたんだ?」
スサノオ「えっ!?」
僕は疲れと空腹で集中力がなくなってたんだと思う。こんなに近づかれるまで気付かなかったなんて…。でも悪い人のようには見えないな。
声をかけてきたのは優しそうなお爺さんだった。手には鉈と背中に背負子を背負ってる。この近くに住んでる人かな?軽装だから遠出してきた人には見えない。
スサノオ「あの…、僕道に迷って……。ここはどの辺りなんですか?」
向こうから話し掛けて来たから会話出来るかと思って思い切って聞いてみた。
???「ふぅ~む…。こんな山奥に子供が一人で?物の怪の類じゃないだろうね?」
スサノオ「違います!僕は道に迷って……。もう何日も山の中を歩いてるんです。」
何日っていうかもう何ヶ月も経ってるけどそれを言ったらますます不審がられそうだからちょっと短めに言っておく。だって百日だったとしても僕が何日って言えばそれは百日でも何日って言えるよね!言った人の感覚次第だもんね!
???「まぁいいかね。ここじゃ何だからちょっと家へ来なさい。」
スサノオ「え?いいんですか?」
???「ああ。ええよええよ。お前さんが物の怪だったとしても精々わしらじじばばが殺されるだけでな~んも問題ない。」
どうやらこのお爺さんの家にはお婆さんもいるみたいだ。もちろん僕は二人に何かするつもりなんてない。お腹が減って寝不足で判断力が鈍って正常に判断出来ずに警戒心が緩んでた僕はお爺さんに着いて行ったのだった。
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ちょっと歩いたらすぐに小屋に辿り着いた。どうやらお爺さんはここでお婆さんと二人で暮らしてるらしい。
お爺さん「まぁあがって。ゆっくりしていきなさい。」
お婆さん「お爺さん。誰かいるんですか?」
お爺さんにあがるように言われてると奥からお婆さんが出て来た。
スサノオ「えっと…、山で迷子になってる所をお爺さんに助けてもらいました。」
出て来たお婆さんに挨拶をする。
お婆さん「………そう。それは困っただろうねぇ。何にもない家だけどゆっくりしておいき。」
暫く黙って僕を見つめてたお婆さんは笑顔になってそう言った。よかった。良い人みたいだ。こうして僕はお爺さんとお婆さんの家にあげてもらって久しぶりにゆっくり出来た。
………そして気づいたら僕はいつの間にか眠ってたようだ。覚えてるのは…、確か家にあげてもらってご飯を出してもらって………、そこから記憶がないや。お腹が膨れて安心したから寝ちゃったのかな。
今はどれくらいの時間だろう?外はいつの間にか真っ暗になってる。……あれ?それなのにお爺さんの気配はない。今この家にいるのは僕とお婆さんだけだ。
もうちょっと探る範囲を広げると………。お爺さんが他の大勢の気配と一緒にこの家に向かってきてる。
………何か嫌な予感がする。でもどうしたらいいかわからない。僕はただじっと息を殺して眠ってる振りを続けた。
何しろ僕がちょっとでも動くとすぐにお婆さんが僕の様子を窺ってくる。下手に逃げることも声を出すことも出来ない。何か言い知れぬ不安だけが広がる。
そしてお爺さんが家に戻ってくると扉を叩かずに外の木をコツコツと叩いた音が聞こえた。すると即座にお婆さんが外へと出て行った。
何で扉を叩かずにそんな合図を送るの?扉を叩くと僕にすぐに誰かが来たって気付かれるから?自然の音に紛れさすように木を叩いた音で合図を送ったの?
バクバクと心臓の音がうるさい。怖い。お婆さんは外へ出て行ったんだから今なら逃げられるかもしれない?そんなことはない。お爺さんと一緒にここに来た他の気配が家の周りを囲んでる。
僕はただ耳を澄ませて外の音と気配に集中する。
お婆さん「遅いですよ!もう私は気が気じゃありませんでしたよ!」
お爺さん「そう思うならもっと静かにしなさい。まだ中にいるんだろうね?」
お婆さん「もちろん居ますよ。まったく…。あんなのと二人っきりなんて恐ろしかったんですからね。」
………ああ。やっぱりここに来ちゃ駄目だったんだ。もうわかっちゃった……。
???「それで本当に最近出没してる物の怪なんだろうな?」
お爺さん「へぇ。そりゃもう。子供の姿でこの山をずっとうろついてるなんて言えば他におらんでしょう?わしらも困っておったんです。きちんと退治してくださいよ。」
やっぱり……。僕を殺すつもりだったんだ。もしかして食べ物の中にも何か?と思うけどこんな山奥の小屋に二人っきりで住んでる老人が眠り薬みたいなものまで用意してるとは思えない。
僕がすぐに寝ちゃったのは僕が疲れててお腹が一杯になったからと思う。今は体調も悪くないし薬を飲まされたってことはないと思う。
だけど体調は悪くなくてもどうしよう…。どうすれば………。どこかに隠れる?ううん。こんな狭い家で隠れてもすぐに探されて見つかっちゃう。
じゃあ包囲を突破して逃げる?どうやって?向こうは大人がいっぱいいる。それにたぶん武器も持ってる。僕は丸腰で子供だ。
相手がどんな種族でどんな力を持ってるのか知らないけど子供の僕が大勢の大人を相手に出来るとは考えないほうがいい。
ガチャガチャと硬い音がするところから考えると相手は鎧や武器を持ってるに違いない。重い鎧を着た兵士が包囲してるところを強行突破しようと思ったら大変だ。だからわざとこの狭い小屋の中まで誘い込もう。
この小屋の中だったら長い槍や剣は使い難い。それにもう夜で視界も悪いし狭いから体が大きくて重い鎧を着てる大人より僕の方が身軽で素早いはずだ。
小屋の暗さを利用して入ってきた相手の間をすり抜けて外に出る。中を捜索するために人手を割いたら外の包囲もちょっとは緩んでるはずだ。あとは飛び出す前に気配で包囲の薄い箇所を確認しておいてそこを突破する。
今無理にここを突破するよりはその方がうまくいきそうな気がするぞ。よし……。もうやるしかない。ただここでじっとしてても殺されちゃうだけだ。
僕は覚悟を決めて深呼吸する。おかしいな…。僕怖がりなのに何か妙に落ち着いてる。うん…。きっと大丈夫。全部うまく行くよ。
僕はここを乗り切ってアマテラス姉ちゃんとツクヨミ兄ちゃんにまた会うんだ。……よしっ!!!
兵士A「よし。いくぞ。」
兵士B「おう。」
十人くらいが小屋に入ってきた。僕は物陰に隠れて様子を窺う。僕はまだ寝てるってお婆さんが言ったから皆物陰とか押入れとか調べることなく一直線に僕が寝てるって聞いた部屋に向かってる。
これなら中に入ってきた十人をやり過ごすのは難しくないと思う。そして十人が奥の部屋に入って行ったのを確認してから僕はそっと物陰から姿を現す。
兵士A「おい!物の怪がいないぞ!」
兵士B「捜せ!どこかに隠れてるかもしれないぞ!」
中で僕がいないことに気付いた兵士達が騒ぎ出した。その声を聞いて外も騒がしくなり始めた。
よし!今だ!
僕は外の包囲してる兵士達が動揺した隙を突いて一気に飛び出した。事前に包囲が手薄だと把握してた間を駆け抜ける。
兵士C「あっ!こっちだ!今ここを走り抜けていったぞ!」
兵士D「追え!追え!」
僕が走り抜けたのに気付いた兵士達が追いかけてくる。だけどこっちは鬱蒼と茂ってて重い鎧を着た大人が大勢で通れるような道なんてない。
僕はまだ体が小さいから藪の間や下を潜って闇雲に逃げ回る。気配は察してるからとにかくこの人達がいない方へ向かって走り続けたのだった。
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どこをどれくらい走ったのかもうわからない。とにかく何日も何日もひたすら走り続けた。どこへ向かってるのかもわからない。
ただ一つわかったのはもう誰も信用しちゃ駄目だ。きっとまたこの前みたいなことが起こる。ここの…、葦原中国の人達は仲間じゃないと思ったらすぐに追いかけてきて攻撃してくる。
だから誰にも見つからないように…、誰にも接しないようにしなきゃ………。
スサノオ「うぅっ……。ぐすっ……。アマテラス姉ちゃん…、ツクヨミ兄ちゃん………。」
僕は知らないうちに泣いていた。空を見上げるとまん丸なお月様が出てた。あそこからツクヨミ兄ちゃんが見ていて僕を見つけて連れ帰ってくれる。そんな妄想をしながらとにかく歩き続けた………。
スサノオ「うわぁ…。おっきな岩だなぁ………。」
どこをどう歩いて今どこにいるのか。何にもわからないけどとにかく歩いてると少し森が開けた場所にとっても大きな岩があった。もう疲れたし今夜はここで休もう。そう思って岩の前に腰掛ける。
???「イザナギぃぃ!また来たのか!」
スサノオ「ひっ!」
僕が岩の前に腰掛けると突然後ろから怖い声が聞こえてきた。でも後ろを振り返っても誰もいない。そりゃそうだよ。だって後ろは岩だもん。それなのに……。
???「わらわを笑いものにしにきたのかぁ!!!口惜しい!口惜しい!」
ガリガリと岩を引っ掻く音が聞こえてくる。…この岩の裏に誰かいるんだ。今もその人は爪で岩を引っ掻いてる。
でも最初は驚いたけど僕は不思議と怖い気持ちが湧いてこなかった。何か……、何だろう…。この気配を感じると安心する。
スサノオ「もしかして……、お母さん?」
何か懐かしい感じがする。だから我知らず僕はそう問いかけていた。
???「………誰じゃ?」
スサノオ「僕はスサノオです。イザナミお母さんを探してここまで来ました。」
僕は本当のことを言う。もちろんここに着いたのは偶然だけど………。
ヨモツオオカミ「ほほほっ!わらわはもうイザナミではない。ヨモツオオカミじゃ。そなたの母など知らぬ。こんな場所に居っても意味はないぞ?どこへでも行くが良い。」
スサノオ「違うよ!お母さんはいつまで経ってもお母さんだよ!」
僕は大きな岩に抱きつきながら必死にお母さんに呼びかけた。
ヨモツオオカミ「それはそなたがわらわの姿を見たことがないからじゃ。イザナギはわらわの醜く腐り爛れた姿を見て腰を抜かして逃げ出しおったわ。スサノオ、そなたもわらわの姿を見ればそうなるであろう?」
スサノオ「そんなことない!」
ヨモツオオカミ「………。これでもかの?」
お母さんがそう言うと岩から腕が生えてきた。あれ?穴も空いてないのに?
スサノオ「え?穴もないのにどうして手が?」
ヨモツオオカミ「この千引の岩は物質としての意味などないのじゃ。これはイザナギが常世と現世を分けるために置いた呪物。それゆえにわらわの力とイザナギの力比べでしかないのじゃ。そして…、くくくっ。イザナギめはわらわを封じたつもりであろうが、この程度越えることなどわけはない。その気になれば千引の岩を越えること自体は出来ぬわけではない。ただこれを越えればわらわの力が弱るからせぬだけのこと。」
スサノオ「そっか……。うん。これはやっぱりお母さんの手だ。うっ…、おか…、おかあさんの…。ううぅ…。ぐすっ…。うわぁ~ん!!!」
僕はその手を抱き締めた。腐臭が漂って肉がべちゃべちゃになってるけど、やっぱりこれはお母さんの手だ。だから僕はその手に縋り付いていつの間にか泣いていた。
ヨモツオオカミ「この手を見ても恐れぬのか?……不憫な子じゃ。どうしてこんなところまでやってきた?」
スサノオ「えっと…、(タケちゃんに)よくいじめられて泣いてたんだ。それでお母さんに会いたいって言ったらお父さんがもう出て行きなさいって…。」
僕はうまく説明出来なくてお母さんにそう言った。
ヨモツオオカミ「そうか…。(父、姉、兄に)いじめられておったのか。それでわらわの下へ……。」
お母さんはわかってくれたのかな?
ヨモツオオカミ「わらわはここから出るわけにはゆかぬ。この千引の岩をわらわが越えたとあらばたちまちイザナギがやってくるであろう。そうなればこの岩を越えるために力を使ったわらわではイザナギに敗れよう。」
スサノオ「うん。いいんだ。こうしてお母さんに会えたから。お母さんの傍にいられるから。それでいいんだ………。」
もう僕は高天原にも帰れない。ここでこうしてただお母さんと一緒にいられるならそれでいい。
ヨモツオオカミ「行くところがないのかの?ほんに不憫な子じゃ………。せめてわらわがそなた一人で生きていけるように術を教えてやろう。暫くそこで己を鍛えるが良い。」
スサノオ「え…?うん。そうだね。いつかこの岩もどかせてお母さんに会いたいし僕が強くならなくちゃね!」
お母さんの言ってる意味はあんまりわからなかったけど、僕がここで強くなって生きていけるようにって言ってくれたのはわかった。
それから僕の修行の日々が始まった。




