外伝1「妖狐の里5」
まったく…。あのようなくだらん茶番につき合わせおって…。あの双子は一体何を考えている?
俺は自分の星に帰ってからどっかりと床に座った。そして手に持つ酒を一杯煽る。
ミカボシ「あんなつまらん仕事に俺を行かせるなど腑に落ちん………。」
いくらウズメが居たとは言ってもあの妖怪族の里には俺の相手を出来る者など誰もいなかった。大陸ごと消し飛ばすほどの攻撃を撃ち込んでやったが、ウズメがいればいくらか威力を相殺したはずだ。
俺の予想ではウズメほどの者ならば死んではいないだろうが、俺の攻撃を完全に無力化することも出来ずに周囲の者達は消し飛んだはずだ。
俺にあそこに行ってちょっと突いて帰ってこいなどと偉そうに指示しておいて、そのくせ徹底的に皆殺しにする必要はないなど何をさせたかったのか意味がわからん。
???『くすくす。ご苦労様。』
???『ご苦労様。』
ミカボシ「あぁ?!ご苦労様だぁ?何偉そうに言ってんだ?俺とお前達に上下はないはずだよな?」
それなのに今回俺を使いっ走りみたいに使いやがって。
???『確かに立場に上下はないわね。』
???『だけど頭を使うのが苦手なミカボシの代わりにボク達が…。』
???『私達が考えてあげてるのよ?』
ちっ…。いつもそれだ。何が考えてあげてるだ。偉そうに。確かに『じゃあお前が作戦を考えろ』って言われたって俺にはまともな作戦なんて考えられない。ただ皆で天津神のところへ乗り込んで皆殺しにしてくればいいんじゃないかと思ってる。
その点この双子が作戦を考えてきたから今まで色々とうまくいったことも確かにある。だが今まではちゃんと意味のあることをしてきたが今回のことは何の意味があるのかさっぱりわからない。
そもそも何故俺にまで何の説明もしない?こいつらは何を企んでいる?今まで真っ当だったからといって、今回も、そしてこれからも真っ当だとは限らない。
俺達を信用させるためにこれまで真っ当な振りをしていただけかもしれん。そう思うとこいつらを安易に信用しようとは思えない。
???『そう警戒しないでよ。』
???『ボク達の目的は一緒でしょ?』
ミカボシ「ふんっ!目的ねぇ?」
俺達の目的はスサノオ様を弑した天津神共に思い知らせてやることだ。俺達だけで全ての天津神を殺すことなど最早出来ない。そんなことはわかっている。だがだからと言ってただ黙って引き下がるわけにはいかん。
俺達が全て殺されようとも天津神に自分達のしでかしたことの重大さを思い知らせ、その身に少しでも罪を償わせる。そのためならば俺達は命を惜しまない。
だがこの双子はどうだ?本当に俺達と同じ目的なのか?わからない………。この双子が何を考え、何を目的に行動しているのか………。
???『ところでミカボシ?』
???『ボク達は妖狐の里を壊滅させてこいって言ったのに…。』
???『何の被害も与えずに戻ってくるとはどういうことかな?』
ミカボシ「………何?」
何の被害も与えずに?俺は確かに辺り一帯を消し飛ばすくらいのことはして帰ってきたはずだ。ウズメが俺の攻撃を完全に防いだ?そんな馬鹿な…。あの時のウズメにそこまでの力はなかった。それとも誰か別の者が?
確かにあの場で他にも天力や暗黒力を放っている者達もいた。空力を放つ者もいたが……。それで俺の攻撃が鈍った?国津神を殺すのが忍びないと思って?
わからん………。ただ一つわかることは俺の興味は既に双子から離れあの妖怪族の里へと向いているということだけだ。
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もう妖狐の里に留まるようになって一ヶ月も経っている。仕事はこっちでしてるから何の問題もない。ヤタガラスの転移の精度が低いから俺がカムスサに書類を取りに戻って終わったら持って行くという手間がかかるけど、その程度なら仕方ないだろう。
ヤタガラスほどの者でもカムスサから世界中に転移するには転移先の精度がかなり落ちてしまうようだ。先の戦争で嫁や親衛隊の者達を各地に転移してもらった時もかなり予定外の場所に転移してしまっていた。
それでもあれだけの距離を転移させられるヤタガラスは海人種の中でも相当界渡りに精通していて優れているのだが…。やっぱり俺と比べると雲泥の差になってしまう。
まぁ世界のどこにでも完全にピンポイントで転移出来る俺の方が異常なわけだが…。それは第四世代の創造神だからでも、ファルクリアの守護者だからでもない。
スサノオとダキの娘としての力だけでそれが出来ている。つまり海人種ももっと鍛えたら俺くらいになる可能性はある……、かもしれない…。
俺が今日の分の仕事を終わらせてヤタガラスに渡して妖狐の里に戻るとアコがすぐに抱き付いてきた。最初の時以来こういうことは恥ずかしがっていたはずのアコが急に抱き付いてくるなんて何か様子がおかしい。
アキラ「どうした?大丈夫か?」
アコ「アキラ様ぁ~。」
完全に顔を上気させてうるんだ瞳で俺を見つめる。色っぽいけど単に発情してるのとは違う。
だって酒臭いもん………。こいつ酔っ払ってやがる。
アキラ「お前こんな真昼間から酒飲んでるのか?」
アコ「うへへぇ~。飲んでません~。」
いや、飲んでるだろ………。もう完全に出来上がってる。何で酔っ払いは酔ってるのかと聞くと酔ってないと答えるんだろうか。酔ってるなら酔ってるって答えれば良いだろうに………。
ミコ「あ~。アキラ君た~。えへへ~。スリスリ~。」
アキラ「おい…。ミコまで酔ってるのか?」
アコの後ろから現れたミコまで俺にスリスリし始めた。
ミコ「酔ってなんていません~。」
うん…、酔ってるね。だって酒臭いし……。
玉藻「あっ、アキラお帰り~。」
ベロベロに酔ってるアコとミコを支えて誰かいないかと社の外へ出てみたらそこで何か宴会みたいなことをしていた。俺に気付いた玉藻が声をかけてくる。
アキラ「何してんの………?」
玉藻「あん?見ての通り宴会だよ?」
ああそうですか…。ってそうじゃないよ。何で宴会なんかしてんの?って聞いてんですけど?
玉藻「何でかって言えば、それはもちろん………、理由なんてないよ?」
アキラ「ああそう……。もう何もいえねぇ…。」
崖の下の様子を窺うと下でも大騒ぎになってる。妖狐達はもちろん、ここに遊びに来てる客達も皆ベロベロに酔ってどんちゃん騒ぎだ。
何が切っ掛けで突然こんなことをし始めたのか知らないけど、あっちもこっちも酔っ払って大変なことになってる。
玉藻「アキラも、ささっ、ぐいっと!」
さらに玉藻は俺にまで酒を勧めてくる。
アキラ「ん………。おい…、これ……。」
俺は勧められた酒を飲んで気付いた。今振舞われている酒は………。
玉藻「八塩折酒だよ。」
八塩折酒…。ドラゴン族に伝わる酒で非常にアルコール度数がきつい。それなのにまろやかで飲みやすくどんどん飲めてしまう。だから気付いた時にはもうベロベロの酩酊状態になることが多々ある。
さらにカムスサに俺達が持って帰った物をスクナヒコナが改良を加えてさらに飲みやすく、その上度数が高くなるという鬼殺しの酒になっている。
他の種族よりも種的に何故か酒に強い海人種達ですら途端に酔ってしまう、この世界でも凶悪な酒の一つになっている。
そんなものを普通の他の種族がガブガブ飲めばたちまち酔っ払ってご覧の有様になるのは想像に難くない。それなのに玉藻はどんどんあちこちに改良された八塩折酒を振舞っている。
アキラ「玉藻…。一体何が目的だ?」
玉藻がわざわざこんなことをしてるんだからただ理由もないなんていうのは嘘だろう。何か目的があってこんなことをしているのだと俺にはわかる。
玉藻「ふ~む…。まだいいじゃないかい。今知っても宴会を楽しめなくなるだろう?今は楽しんで飲もうじゃないかい。」
アキラ「そうか…。」
まぁいい。玉藻に何か考えがあってのことだというのなら俺が無理にとやかく言う必要もないだろう。
こうして暫く改良された八塩折酒を振舞っての宴会が続いたのだった。
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辺りは静まり返っている。俺の仲間以外で意識を保っている者はいないだろう。俺の嫁や愛妾達でも大半の者はもう動くのも億劫だと言わんばかりの状態だ。
まともに動けそうなのは玉藻くらいかな。玉藻も酔ってはいるけどこれくらいならいつものことだ。他の者もここ数年で酒に強くなった者も居るけど今回は飲んだ酒の種類と量に問題があった。
多少酒に強いくらいなら、普通の八塩折酒くらいなら飲めても、スクナヒコナが改良した八塩折酒を飲んだらすぐに潰れてしまう。
これは酒に強い海人種向けに作られているもので他の種族でこれをがぶ飲み出来る者は滅多にいないだろう。玉藻は飲んでるけどね……。玉藻はまた特別だと思うしかない。底なしのうわばみだ。
アキラ「それで…、何が目的だったんだ?」
玉藻「もうすぐわかるさ。」
俺が聞いても玉藻は瓢箪を口につけてまだガブガブと酒を飲んでる。それを見てクシナが『うっ…。』と口元を押さえた。
そこへ遥か上空から一つの気配が降ってきた。その気配はもちろん知っているものだ。
ミカボシ「なんだこりゃぁ?」
空高くから降って来たミカボシは妖狐の里の状態を見て訝しんでいる。そりゃそうだ。自分が来た時には既に全員ひっくり返ってたら何事かと思うだろう。
アキラ「ミカボシ…。玉藻はこいつが来ることを知ってたのか?」
玉藻「知ってたっていうか気配を見つけてね。それでこっちに来るつもりだったようだから邪魔な者達は寝かせておいたのさ。」
なるほど。今の俺はほとんどの力を嫁達に渡してるからあまり気配察知も広範囲に渡って精密にすることは出来ない。
もちろん妖狐の身体能力だけでも遥か先の物音一つですら聞き漏らさないので、そういう普通の手段による気配察知は十分出来る。
ただ遥か遠く、星の裏側だとか宇宙の彼方だとかそんな所まで察知するだけの能力はない。玉藻は俺の力も使ってそれに気付いたのだろう。
だから余計な者達に俺達の戦いを邪魔…、出来る者は最初からいないか。見られることを気にしなくても戦えるように寝かしつけてくれたんだな。
まぁただ玉藻が酒を飲みたかっただけな気がしないでもないけど…。何しろこんな方法を使わなくても里の全員を妖術で寝かせるなどいくらでも方法はあるわけだからな。
改良された八塩折酒は滅多に飲めない。だからこれを理由にして玉藻が飲みたかったから飲んだような気がする。別にいいけど………。
ミカボシ「どうやって前回の攻撃を防いだ?」
ミカボシが俺達に話しかけてきた。どうやら辺り一帯を吹っ飛ばしたつもりで丸々何の損害も与えてないことに驚いているようだ。
アキラ「どうやってって…。普通に結界を張っただけだが?」
ミカボシ「結界?結界だぁ?そんなものであれを防げるわけないだろうが…。いや、仮に自分の周りは防げても何で外まで無事なんだよ?大陸全土を覆うほどの結界でも張ったってのか?」
アキラ「いや?自分達の周囲を囲う結界を張ったんじゃなくて、お前の攻撃の方を囲う結界を張ったんだよ。それで上空方向だけ開けておけば威力は上空に逃げるだろう?」
自分達を結界で囲んでも周囲には被害が出てしまう。だったら攻撃の周囲を囲めば攻撃の威力はその中でしか効果を発揮しない。ついでに上空方向だけ開けておきそっちへ威力を逃がすこともした。ただそれだけだ。
ミカボシ「あぁ?……意味がわからん。まぁもういい。俺の攻撃は防がれてお前達は無事。それだけわかればいい。」
何だそりゃ…。自分で聞いておいてわからんて…。どうやらミカボシはあまり難しく考えないタイプのようだな。
こういう奴は誰かに利用される可能性が高い。もしかしたらミカボシの裏で誰かが入れ知恵している可能性がある。でなければこれほど単純なミカボシがわざわざこんな回りくどいことをしている理由の説明が付かない。
ミカボシが言うように単純に天津神を殺したいのなら何故ゲッカやテンショウに乗り込まない?既に姿を現してる天津神が大勢いるのにそれに気付いていないはずなどないだろう。
もちろん勝算もないのにゲッカやテンショウに乗り込んでも自分達が死ぬだけだから、という可能性はある。でもミカボシの性格とこれまでの行動からしてそんなことを気にするとは思えない。
自分達が死ぬとしてもそれまでに一人でも多く道連れに!とか言うタイプだ。そんな奴が目の前の敵本拠地に乗り込んでいかない理由。
それは誰かがミカボシに策を与えているからだろう。無意味に突撃するなとブレーキをかけてああしろこうしろと指示している者がいるはずだ。
アキラ「お前の裏で策を弄してるのは誰だ?」
ミカボシ「あ?………くくくっ。それが知りたきゃ俺に勝ってみせろ!」
俺に興味を抱いたらしいミカボシが力を解き放つ。その力は世界全土に知れ渡っただろう。何しろ第二階位を超えそうなほどの力だ。この力に対抗出来るのは海人族の主神格の者か一部の鬼神くらいだろう。
俺達を除けばな。
アキラ「俺が相手をしてやろう。玉藻、結界を頼む。」
玉藻「はいよ。任せときな。」
今の玉藻なら中の気配が外に漏れないように結界を張れる。俺が玉藻の結界内で多少力を使っても周囲にバレることはない。
俺が虚無を使えばいくら玉藻でも結界で抑えるなんて出来はしないけどそこまで全力を出す必要もない。スサノオとダキの娘、アキラ=クコサトとしての力だけでも十分お釣りが来る程度の相手だ。
ミカボシ「お前一人で俺の相手をしようってのか?」
ふむ…。どうやらミカボシは俺の力が読めないらしいな。まぁ実際特殊能力を使わないと今の俺はただの人間族とそう違いはない程度でしかないけど………。
アキラ「お前如き俺一人でも過剰戦力すぎるくらいだ。相手の力も理解出来ずに舐めるのはやめておくことだな。特にお前みたいに深く考えず頭じゃなくて体で戦うタイプはな。」
ミカボシ「ははははっ!面白い!だったら見せてみろ!」
アキラ「ふぅ…。じゃあいくぞ……。フツシミタマ。」
体に残ってるほんの少しの力を全て混ぜてフツシミタマで増幅させる。さぁ、久しぶりに少しばかり遊ぼうか。
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アコ「うぅ~ん…。気持ち悪い………。」
胸がムカムカして私は目が覚めた。隣にはアキラ様の奥様の一人で人間族のミコと言う者が私と同じように何かにもたれかかりながら座っていた。
オサキ「目が覚めたかえ?」
アコ「お母様?」
お母様が私を覗き込んできた。私は周囲を確認する。今私がいるのは……、何かの結界の中?周囲にいるのはアキラ様の奥様方と愛妾の方々、それにお母様しかいないみたいね。
私達は何かの結界に包まれてる。そう言えば結界の外の様子はわからない。中と外を遮断してしまう結界みたい。普通ならそんな結界なんてあり得ないって言いたい所だけどアキラ様とその周囲におられる方々ならそれくらいしてしまっても納得してしまう。
どうやら私達を包んでる結界は二重になってるみたい。私達はその内側の小さい結界に守られてる。内側と外側の結界の間には……、えっ!アキラ様?それにこの前里を襲った敵!
アキラ様と敵が外側の結界内で戦っておられる!それなのに奥様方は皆様ただアキラ様の戦いを見ておられるだけ?
アコ「アキラ様があれほど危険な敵と戦っておられるではないですか?!お助けしなくては!」
オサキ「落ち着くえ。アコやオサキが行って何の役に立つのえ?姉上に迷惑をかけるだけえ。」
うっ……。確かに私達では何の役にも立てないどころかアキラ様の負担になってしまいます。でもでもただ見てるだけだなんて!
狐神「そもそもよく見てご覧よ。アキラの方が勝ってるのに何で私らが邪魔しに割って入る必要があるんだい?」
アコ「………え?」
そう言われてよく戦いを見てみると………。何ですかこれ?アキラ様のお力が前までとは比較にならないほど強大になっておられる?
狐神「わかったかい?アキラも久しぶりに遊んでるだけだから私らが邪魔したら無粋ってもんさ。ちなみにこの内側の結界にはアキラの嫁や愛妾や仲間しか入れない。……私の言ってる意味がわかるね?」
狐神様がちょっと意地悪そうな顔でニヤリと笑いました。それを言われただけで私の頬が火照ってくるのがわかります。
つまりアキラ様の奥様方や愛妾の方々に私もアキラ様の愛妾として認めていただけたという意味でしょう。
そう言えば他の妖狐の里の者達は誰一人居ません。この中にいるのは………、お酒に酔っ払ってヘロヘロになっていますが、アキラ様の周囲におられる方々だけです。
オサキ「アコ、姉上の戦いをよく見ておくえ。」
アコ「………はい!」
私はアキラ様の戦いに神経を集中させました。もちろん理解出来ないことや追いつけないような動きも多々ありますが、出来るだけ見落とさないようにアキラ様の戦いを見つめます。
アキラ様は全身から九色の光を放っておられます。キラキラと輝くその光を見ているだけでうっとりしてしまうほど美しいです。
ミカボシ「その程度か?ならば消し飛べ!」
ああっ!敵が里を破壊しようとした時よりもさらに強力な神力の塊を撃ち出しました。これではアキラ様お一人では防げないかもしれません!
アキラ「はぁ…。思ったよりも退屈だな。もう終わらせるか?」
ミカボシ・アコ「「………え?」」
敵と私の声が綺麗に重なりました。だってアキラ様が敵の放った攻撃を片手で受け止めてしまったのですから。受け止められた攻撃は何の反応も示しません。
普通なら相手を貫くとか爆発するとか何か効果があるなずなのです。それなのに何の反応もせずただアキラ様の掌に収まってしまうなどおかしいです。
アキラ「何を驚くことがある?この攻撃は他の力、つまり相手や周囲の物質と触れることでこの球状の力の均衡が破れて爆発する攻撃だ。だったら触れても均衡を崩さなければ爆発はしない。そうだろう?」
………例え敵の技の特性がわかったとしても、それを戦いの中でいきなり抑えるなんて出来るはずもありません。アキラ様はどれだけ常識はずれなのですか?
ミカボシ「意味がわからん!俺にもわかるように言え!それに楽しくなってきたところなのに終わるわけないだろうが!俺はまだ本気じゃないぞ!本気を出したらこの星を破壊してしまうからな!」
アキラ「アホか。玉藻が結界を張ってるから好きなだけ力を出せばいい。お前如きじゃ玉藻の結界は破れん。」
ミカボシ「ほう………。試してやろう!」
あぁ!敵の力がさらに増大しました。私では敵の力を計れません。とにかく桁違いに強い。それだけしか理解出来ないほどの強さです。
アキラ「軽く運動しようか。」
それなのにアキラ様はゴキゴキと関節を鳴らして余裕の表情です。その後は何があったのか私にはわかりませんでした。ただ結界内を凄まじい衝撃が荒れ狂っていたということだけが辛うじてわかったことです。
アキラ様と敵の速度が速すぎて肉体同士で接近戦をしているだろうということはわかっても何をどうしているのか、どちらが優勢なのかまったくわかりませんでした。
ですがそんな見えない攻防も暫く続いた後に唐突に終わりを迎えました。
ミカボシ「ぐあっ!」
こちらの結界内に居ても衝撃が届いたと錯覚しそうなほどに空気を震わせて敵が外側の結界に激突しました。恐らくアキラ様に吹き飛ばされたのだと思います。
アキラ「そろそろ限界か?」
ミカボシ「くくくっ…。まさかアマテラスとツクヨミ以外にもこんな奴がいたとはな。俺を殺せるのはタケミカヅチくらいだと思っていたが……。これが最後だ小娘!」
立ち上がった敵は両手を突き出し力を溜めています。その込められた力を見て私は身震いしました。
アコ「あんなの……、この世界が消えてしまいますよ!」
ミコ「キツネさんの結界があるから平気だよ。それにアキラ君もいるんだから、もし無理そうならアキラ君が何とかするから大丈夫。………だから近くで大声出さないで。頭に響くから………。」
隣で座っていたミコという方は頭を押さえたままぎりぎりと私の肩を掴みます。結構洒落にならない握力です………。それ以上力を込められると骨が折れそうだから許して!
私がカクカクと首を縦に振るとミコは手を離してくれました。ちょっと怖かったです………。私はこんな方々がおられる中に入っていけるでしょうか………。
ミカボシ「消し飛べ!カガセオ!!!」
敵の手から光の帯が一直線にアキラ様に向かって伸びます。
アキラ「ほう……。恒星の力か。世界を滅ぼすには十分過ぎる力だな。」
それなのにアキラ様はいとも容易くそれを受け止めてしまいました。
アキラ「ほれ、返すぞ。」
ミカボシ「なっ!」
アキラ様が撃ち返した光が敵に当たった瞬間世界は真っ白になりました。きっと大きな音が聞こえているはずなのですが、あまりの音に耳がおかしくなってまともに聞こえません。
光が収まった後にあった光景は………。
ミカボシ「ぐふっ……。何で俺の力が俺の防御を貫く?」
血塗れになったまま辛うじて立っている敵とその前に不敵に降り立ったアキラ様の姿でした。
アキラ「ただそのまま撃ち返しただけだと思ったか?俺の力を上乗せしてるに決まってるだろう?」
ミカボシ「くっ…、くくくっ!面白い!これから俺の獲物はお前だ!」
そう言うとミカボシは飛び上がりました。逃げる気のようです。ですが狐神様の結界にぶつかって落ちてきました。
アキラ「逃がしてやるのはかまわんよ。けど一つだけ俺の言うことを聞け。この妖狐の里は別にお前が言うように天津神に与したわけじゃない。だから関係ないこいつらを狙うのはやめろ。いや、こいつらだけじゃなくて世界中の無関係な者は狙うな。俺に用があるなら俺だけを狙え。それを守るんだったら見逃してやる。」
なんということでしょう…。今ここで止めを刺しておけば後顧の憂いはなくなるというのに…。アキラ様はそれでも敵を許してあげようというのですね……。
ミカボシ「ああ。だったらお前はどこにいるんだ?」
アキラ「俺は大体ほとんどの時間をカムスサで過ごしてる。今回のようにたまにはいないだろうがカムスサの者、ヤタガラスか宗像三女神にでも言伝を頼めばすぐに俺に届く。それでいいだろう?」
ミカボシ「ちょっと待て…。カムスサって…、スサノオ様がお造りになられたという?それにヤタガラスや宗像三女神?………お前国津神か?」
何の話をしているのでしょうか?私にはよくわかりません。
アキラ「まぁ国津神と言えば国津神だな。ついでに海人族の族長扱いだから天津神に手を出すとしても俺の敵ということになる。」
ミカボシ「………国津神で海人族の族長?………スサノオ様?」
敵は何か呆然としたまま動かなくなってしまいました。一体どうしたというのでしょうか?
ミカボシ「お前との約束は守ろう。狙うのならまずはお前の首を狙う。用が出来た。この場は去らせてもらおう。」
そう言うと再び敵は飛び上がりました。狐神様がすでに結界を解いておられるので今度こそミカボシは落ちてくることなく飛び去ったのでした。
そして私は気付いたのでした。アキラ様がこれほどのお力をお持ちだということは………。どこからともなく突然現れた世界を救ったファルクリアの女神なる神が一体どこから現れたのか。誰なのか。
そしてそれはお母様もお気づきだったはずです。ですがアキラ様がどうもそのことを隠したいのだと気付いたのでしょう。だからお母様はアキラ様にそのことを聞かれないのです。
ですから私も聞かないでおきます。そっと私はそのことを胸に秘めたのでした。
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さて…、これでミカボシは無差別攻撃はしてこないだろう。玉藻が結界を解く前に力を抑えた俺は皆の方へ歩いていく。けど思わぬ者が紛れ込んでるぞ?
アコ「アキラ様っ!」
結界を解いた途端にアコが俺に走り寄って来て抱き付いてきた。何か知らんけどちょっとウルウルと瞳に涙を湛えている。
嫁や愛妾や仲間くらいしか結界に入れたがらない玉藻がオサキとアコを結界内に招いているということがもうどういうことかをよく表している。
この後は後始末が大変だった。戦いでは周囲に被害は出てない。けどアコはこのあとずっと俺に抱きついたまま離れなくなるし、オサキもそっと俺の袖を掴んで付いてくるのが可愛いしで俺が大変だったのが一つ。
それ以外にもミコが二日酔いでダウンしただとか。さらに言えば嫁と愛妾のほとんどが程度の差こそあれ二日酔いで世話が大変だったとか。さらにさらに言えば妖狐の里中が二日酔いでゲロゲロだったとか。
二日酔いから立ち直ってもアコ、ナコ、マコが俺にべったりくっついてきてもう俺の我慢が限界を超えそうだとか。とにかく色々と大変だった。
ミカボシのことはあれでいいだろう。これで暫くは大人しいだろうし、ちょっとは誰が敵なのか考えてくれればこっちも助かる。それでも尚俺に向かってくるんだったら相手をしてやるだけだ。
そうこうして後始末をつけると俺達は妖狐の里から帰路に着いたのだった。俺の予定じゃ精々数日もいるかどうかの予定だったのに一ヶ月以上も滞在することになってしまった。
でもそのお陰で俺は色々と考えを改めた。それは俺が考えを変えたからだけではなく妖狐達が努力して変わったからこそだ。
妖狐の里を出た後の俺達は最初の予定通り北大陸と中央大陸を新婚旅行で回ってからカムスサへと帰って行ったのだった。
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カムスサに帰ってから早くも一ヶ月が経っている。可愛い義妹と義理の姪に会いたくなってる頃だと思うだろう?でも心配は無用だ。
アコ「アキラ様!はい、あ~ん。」
アキラ「いや…。自分で食うから……。」
アコ「今日は私の日なのでしょう?でしたら私ともこういうことをしてください!」
アキラ「嫁とだってそんなにしょっちゅうそういうことしてないぞ………。」
アコは今俺の昼飯をあーんしようとしてる。何でここにアコがいるのか?別に連れ帰ったわけじゃないぞ。ミカボシはもう襲ってこないとは思うけど妖狐の里が敵の眼についたのは間違いない。
だから俺は転移の魔法陣を用意した。魔法陣に設定されている者だけが使える転移の陣で、オサキ、アコ、ナコ、マコを登録してある。この四人は妖狐の里にある魔法陣を使っていつでもカムスサに転移してこれるようになった。
行き来が自由になったからこうしてアコ、ナコ、マコがやってきて俺のメイド見習いのような真似をするようになった。
最初は俺の愛妾にって話になったけどそこは俺が『他の嫁や愛妾達だって結ばれるのに一~二年はかかってるのにほんの数日で俺と結ばれると思うな!』って言ったからだ。
それならば俺と接して親しくなれるようにと三人が交代で俺の付き人のようになってやってくることになった。もちろん元々の愛妾兼メイド達もいるし嫁達とのスキンシップだって取ってるからこの三人だけが毎日交代で俺とこうしてるわけじゃない。
これからどうなるかはわからないけど………。優柔不断で女に甘いし惚れっぽい俺のことだから、そのうちこの三人のうちの誰か、あるいは全員を愛妾に加える日が来るのかもしれないな………。
アキラ「ところで…、今更だけど最初あんなにボコボコにしただけなのに何でアコは俺に惚れてるわけ?」
アコ「えっ!?妖狐は強い者と可愛い者と綺麗な者が大好きなんですよ?強くて綺麗なのに可愛いアキラ様を好きにならない妖狐はいませんよ?」
えぇ…。そんな理由なわけ?
とは言えそれは自然の摂理なのかもしれないな。妖狐は他種族から子種を貰ってくる。だから相手を選ぶ際に次の世代に引き継がせたい能力を持つ者を選ぶ習性があるのだろう。
当然一番に引き継がせたいのは強い子を産むために強い力を持つ者だ。それは他の動物や昆虫でも同じだな。強い者が繁殖する機会を持つ。弱い者は子孫を残すことすら出来ない。
そして妖狐達は相手に気に入られるためにより良い容姿を求める傾向にあるということだろう。だから綺麗、可愛い、それにまぁ格好良い、こういう相手に惹かれてしまうんだろう。
アコ「なんて…、半分本当ですけどそれだけじゃないんです。」
アコが顔を真っ赤にして俺の袖を掴みながら上目遣いで見上げてくる。うぅ…、何か可愛いな…。
アコ「私はヤコに落とされたとは言えハクゾウスを産む名門の家の生まれで、史上初めて生まれた八尾で…、だから私がしっかりと妖狐の里を守って全てをしなければならないと思っていました。」
ふむ……。前までの行動は全て責任感からの行動だったのか。思い上がりもあったけどそれは直ったってオサキも言ってるしな。
アコ「ですから私が最も賢く、最も強くなければならなかった。ずっとそう思って育ってきました。お母様はそんなこと私に教育してなどいなかったのに…です。私だけが勝手にそう思い込んでました。」
アキラ「ふむ……。」
アコ「そこへアキラ様が現れて私の全てを粉々に砕いていったんです。八尾の誇りも里一番という誇りも。私は里の者達の前で無様にノビて晒し者になりました。ですがそれで全ての地位や名声を失ったと思った私は何かすっきりしたんです。そう…、これからは本当の私でいていいんだって。だから私を解き放ってくださったアキラ様に感謝してるんです。」
アキラ「それは大袈裟だが…。俺はそんなこと狙ってたわけじゃないし……。」
アコ「そうかもしれませんね。でも結果的に私は…、私の心は救われました。それからは伸び伸びと里ですごせるようになったんです。そしたら本当のお友達も出来ました。それらは全部アキラ様のお陰で…。そう思ってずっとアキラ様のことを考えているといつの間にか好きになっちゃってました。」
うっ…。アコがにっこり微笑んで俺を見つめる。くそぅ…。かわいいのぅ…。
アキラ「まだ我慢…。まだ我慢だ…。アコに手を出すとしても最低一年は待て……。」
アコ「え?何かおっしゃいましたか?」
アキラ「………何でもない。」
そんなやりとりをしながら今日もカムスサで火の国とドラゴニアと海人族の書類仕事に追われていたのだった。
外伝1はここまでとなります。が、まだ続きが出るので完結済みとはせずこのまま連載中としておきます。
次はもっと早くお届けできるようにするつもりですので、よければまた読んでやってください。




