外伝1「妖狐の里4」
もう完全にわかった。そもそも何で妖狐の里を毛嫌いしてた玉藻がこんなにノリノリで妖狐の里にやってきたのかだが…、それは全て玉藻の計画だったからだな。
確かに俺もこの里の変貌ぶりを見て妖狐達への認識を改めた。少なくともそんなに毛嫌いするほどの者達じゃない。
まぁじゃないっていうかそう変わったんだろうけど、それは今はどっちでもいい。少なくとも現時点で妖狐達はそんなに悪い奴じゃなくなった。それが重要だ。
その改革を行ったのがオサキであり、玉藻も今の里の状態を知っていた。だから里に帰ることも嫌じゃなかった…。それどころか今回の計画を練って俺の気持ちを変えようとしたというわけだ。
玉藻の使い魔っていうのがどんな奴でどこにどれくらい居るのかは知らない。その使い魔からの報告で知ったのか、オサキ辺りが何とかして玉藻に連絡を取ったのか、どうやって玉藻が現状を知り連絡を取り合い計画を練ったのかは知らない。
ともかく玉藻とオサキの狙いは俺を妖狐の里に来させることが一つ。俺を見て妖狐達もさらに変わるだろうと期待してのことだろう。
それからアコのように本気で俺にアプローチして来る者と俺を合わせるのが一つ。オサキからすれば娘の幸せを願うのは当然であり、ハーレム推進派の玉藻からすればここで俺が嫁とは言わないまでも愛妾を迎えれば良いと思ったんだろう。
そしてそれは計画通りうまくいった。アコは俺にアプローチし、俺もアコをこのまま無視しようとは思えなくなった。アコ、ナコ、マコの三人を俺の愛妾にってことにはならないけど、少なくともこうして本気で俺に想いを向けてくるのならまずはお互いの気持ちくらいは確かめてみようと思う。
でも思わぬ邪魔も入った。ミカボシがやってきたことは玉藻とオサキにとっても想定外だっただろう。そもそも俺だってあんな奴がいるとは思ってなかった。
じゃあミカボシに引っ掻き回されて玉藻とオサキの計画が狂ったかと言えばノーだ。むしろ二人にとってはミカボシが現れたことでより良い結果になっただろう。
まずアコが事故から始まったとは言えこうして俺におおっぴらに甘えているというのは、俺とアコの関係が進展する上で大きな意味があっただろう。
それにミカボシはどこかに行ってしまった。そう…。つまりこのまま俺達が妖狐の里を立ち去って、ミカボシが消滅させたつもりの妖狐の里が無事だと気付けばまた戻ってきて襲われるかもしれない。
つまり俺達はミカボシの件が片付くまで妖狐の里から離れるわけにはいかなくなった。もう滅ぼす気がない妖狐の里を、俺達が居たせいでミカボシに目を付けられて滅ぼされるなんて俺が許容できないからな。
というわけで暫くは嫁達に尻尾を持たせたままということで話は纏まった。
アキラ「それで玉藻と通じてた妖狐の里の者は誰だ?」
俺はここに集まってる妖狐達を見回しながら問いかける。アコはまだ俺に正面から抱きついたまま胸に顔を埋めたりしている。またたびで酔っ払ってる猫みたいな感じだ。
ナコ「はぁ~い!はいはい!私です!」
そこへナコが元気に手を上げながらピョンピョン跳ねていた。
アキラ「おい…。別に褒めてるわけじゃないぞ…。何でそんなにうれしそうに自白してんだ?」
ナコ「えへへ~。だってぇ~。アキラ様を里にお招きしたのが私だって知れ渡ったら皆から尊敬されますし!」
えぇ…。それで俺に嫌われたら本末転倒じゃないのかね?それとも君は里内での名声さえ手に入れば良いのかね?
アキラ「お前それで俺に恨みを買うとか考えないわけ?」
ナコ「えぇっ!どうしてですか!?こぉ~んなに可愛い妖狐達に接待されて嫌な気になりましたか?アコ様とそうしてイチャイチャして嫌な気になりましたか?むしろこうしてサプライズでアキラ様をお招きして接待した私は褒められるんじゃないでしょうか?!」
あぁ……。そうね…。結果的にはね?確かに可愛い妖狐達にチヤホヤされて良い気分だったよ?アコも俺に甘えてるけど俺にだってアコの柔らかい胸が押し付けられて気持ち良いし何か良い匂いがするしでこれも良い思いをしてるよ?
でもここに来るまでの俺は本気で憂鬱だったよ?その気持ちの方が大きかったり、未だに引き摺ってたらむしろマイナスだったってわかってる?
もういいか…。結果が全てだな。俺は妖狐達を好きになったし、アコ達とも向き合おうと思った。その切っ掛けを作ったのは恐らく玉藻とオサキとナコなんだ。ならここは素直に結果を受け入れよう。
俺がちょいちょいと手招きするとパッと笑顔の花が咲いたナコが犬のように駆け寄ってきた。俺はその頭に軽くチョップを落とす。
ナコ「いたぁ~い!どうして叩くんですかぁ~!」
アキラ「それは俺を騙すような真似をした罰だ。そしてこれは今回の結果への褒美だ。」
そう言って今度はナコの頭を撫でる。
ナコ「はぁっ…。アキラ様に撫でられるだけで子供が出来そうです…。」
いや、出来ないよ?何で頭撫でただけで子供が出来るんだよ。どういう意味で言ってんの?
ナコはうっとりした顔のまま俺にスリスリしだした。って、おい!撫でていた右腕を伝って俺の右脇辺りにくっついてくる。正面はアコがいるから横に回ったらしい。
マコ「あぁっ!二人だけずるいです!私も私も!」
マコは左脇だ。くすぐったいからやめろ!前と左右からくっつかれて抱き締められて揉みくちゃだ。
ナコ「マコは何もしてないじゃない。私のは手柄を褒めてもらったんだから何もしてないマコが混ざる方こそずるいよ!」
マコ「ナコがそうだったとしてもそれじゃアコ様は?アコ様は何もしてないのにアキラ様に甘えてるよ?」
ナコ「………もういいや。皆でアキラ様にスリスリしちゃえ!」
マコ「そうだね!」
ますます二人に力が入ってもうてんやわんやだ。いや…、そりゃ悪くはないですよ?綺麗で可愛い年頃の女の子達と抱き合って嫌な気がする人の方が特殊性癖でしょ?俺は普通だからね?そりゃ良い思いしてると思いますよ?
でも何でいきなりこんなことになってるのか意味不明すぎる。そもそもまだミカボシの件も片付いてない。こんなことしてる場合じゃないだろう。
アキラ「ええいっ!とにかく一回離れい!これじゃ話が進まん!」
アコ、ナコ、マコを引き剥がしてようやく自由になれた。アコはもうふにゃふにゃのへろへろでまともに一人で立てないようだ。そっと座らせるとナコとマコが支えていた。
そして周囲を見渡すと三人が離れたから次は自分達かと思って期待の眼差しで見てる妖狐達。いや、しないよ?お前達全員とハグすると思うなよ?
アキラ「とにかく一旦どこか建物に入ろう………。」
こうして一度皆を連れて落ち着ける場所に移動したのだった。
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社以外に入るとまた接待と称して妖狐達が俺に群がってくるのでオサキを連れて社に入った。アコはまだふにゃふにゃのままだから今回はいない。
オサキ「姉上。許しておくれ。」
皆が座るとまだ何も言う前からオサキが俺の前にやってきて謝った。けどこれは謝ってるんだろうか?何か座ってる俺の足に頭を乗せて……。あれだな。膝枕みたいにして俺の足に縋り付いて甘えてるだけにしか見えない。
アキラ「それは俺に内緒で色々画策してたことについてか?」
オサキ「アコは頑張って変わったえ。だから姉上にもちゃんと今のアコを見てもらいたかったのえ。」
アキラ「ふむ……。」
確かに前回と同一人物とは思えないほどに変わっていることは認める。それに前までの何か力ずくで周囲を従えているという雰囲気から変わって、今では皆に慕われているということもわかった。
あれほどプライドの高かったアコがここまで変わるには相当の努力や我慢が必要だったのかもしれない。
アコだけじゃなく妖狐の里自体を変えたオサキが、それを俺に見せたいと思う気持ちもわかる。何よりオサキはここが俺の故郷だと言った。俺がここを嫌っていたことを気にしていたのだろう。
だから里を変えて俺に見せて、俺の心も変えたかったのかもしれない。そう思うと玉藻とオサキに嵌められたことも怒る気はしなくなる。
アキラ「怒ってはいないさ。ただ驚かされただけだ。」
オサキ「姉上ぇ…。」
俺が膝の上のオサキの頭を撫でると甘えた声を出してくる。いかんな…。さすが妖狐だ。誑かすことにかけては天下一品と言わざるを得ない。何しろ俺が妖狐の里の者達のほとんどに誑かされてるからな。
何ていうか…、こいつら可愛すぎ。でも俺はこれが本来の妖狐なのだろうと思う。他種族の子種を貰わなければ繁殖出来ない妖狐達は本来他種族を騙して子種を貰ってくるのではなく、こうして相手と打ち解けて愛されて子種を貰ってきていたのだろう。だから妖狐達は相手に気に入られたり愛されたりする能力に優れている。
ただ長い時を経て強い力を持った妖狐、あるいは妖怪族はその本来の種の特性から変わっていってしまったのだろう。もちろんそれを種の進化と考えることも出来る。
でも今この妖狐の里で起こっていることは本来の妖狐達の姿に戻ることだ。原点回帰とも言える。強い力と能力によって他種族を誑かし子種を貰ってくるのではなく、本当にお互いに打ち解けて愛し合って子供を成す。妖狐達本来のその能力が目覚めつつあるのだろう。
だから俺が妖狐達に誑かされてるのは俺のせいじゃない…。って言ったら誤魔化せるかな…。無理?駄目?
玉藻「だから別に誤魔化す必要ないだろう?何なら妖狐の里全部アキラの愛妾にしちまいなよ。」
アキラ「いくら何でもそれはないだろう………。」
確かに皆可愛いと思うよ?でも例えば町中で見かけたちょっと可愛いと思った娘を皆彼女にしたりなんてしないじゃん?そりゃ可愛いよ?でもそれはそれだろ。
ミコ「じゃあアコさんはどうなのかな?」
アキラ「アコか…。」
どうなんだろう。アコは可愛い。何か今こうして俺の膝の上で甘えてるオサキを連想してしまう。でもそれじゃ駄目だ。もしアコを迎え入れるのならオサキの代わりとしてじゃなくてアコ自身を愛したらだ。
シホミ「旦那様。わらわは新しい愛妾を迎えられることは悪いとは言いませんが、今はミカボシのことについて話し合う時ではないですか?」
そうだったな。ミカボシの対応を考えるために来たのに愛妾のことばかり考えてる。何かもうアコは俺の愛妾になってハーレムに入ると思ってるだろう?でもそれはどうかな?
アキラ「ともかくミカボシがどこへ行ったのかわからなければ何も手の打ちようがないな。ただこの里が無事だと知ればまた襲ってくる可能性は高い。俺達が他の場所に行けば、そこでもまた『天津神に味方したから滅ぼす!』とか言って暴れかねない。これ以上他の場所に被害を出さないためにも暫く留まって様子を窺うしかないな。」
フラン「アキラさんがミカボシを捜されればすぐに解決するのでは?」
うん。そうだね。俺がその気になれば無限に広がる全ての時間と空間を把握出来る。既に気配を知ってるミカボシがどこにいるかなんてすぐにわかる。
でも現時点で俺かその周囲が直接襲われてるわけでもないのに、あまり俺の力を使いすぎるのはよくない。あくまでスサノオとダキの娘、アキラ=クコサトとしての力だけでしか現世に関わるべきじゃない。
虚無と一体となった第四世代の創造神、アキラ=クコサト・タケハヤスサノヒメミコとして世界に干渉したら色々と弊害も大きいからな。
フラン「なるほど…。」
アキラ「なぁ…。今まで黙ってたけど皆俺の心と会話しすぎじゃね?」
口で言ってないのに勝手に考えてることに返事をされたら何か俺の方がドキッとするわ。
玉藻「だから言ってるじゃないかい。アキラが心を垂れ流しにしてるからだろう?何も無理に全部開けておく必要はないんだよ?別にアキラが普段考えてることを隠したからって私らへの愛が揺らいだとか隠し事があるなんて思わないんだからね?」
アキラ「うん…。それはわかってるけど…。」
別に嫁達に隠し事があるわけでもないし、心を全て知られるのは気にならない。ただ何ていうか…、心で考えたことに口で話し返されるとちょっとドキッとするだけだ。もうこうなってから何年も経ってるのに未だに慣れないっていうか…。
アキラ「まぁいいか。それじゃミカボシの件が片付くまで暫くこの里に留まろう。ヤタガラスに連絡しないとな。」
こうして基本的に俺と嫁達がミカボシに警戒しつつ妖狐の里に留まることになった。最初の予定じゃここにはそう長く居るつもりはなかったけど…。ってそれは俺の予定だけか。もしかしたら玉藻とオサキは俺をもっと長い間ここに留めるつもりだったのかもしれない。
とにかく妖狐の里で揉みくちゃにされる俺の生活が幕を開けたのだった。
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疲れる。いきなりだが疲れる。何が?妖狐の里での生活だ。もう一週間もここに留まってるけどあれ以来ミカボシが現れるような兆候もない。
そして俺が里を歩いてると妖狐達がワラワラと集まってきては色々とスキンシップをとってくる。軽くお触りされたり、中には俺の手を取って自分を触らせる者もいる。
まぁ嫌いじゃないよ?そりゃ俺だって思春期の男の子の精神だからね?むしろウハウハだよ?でも毎日毎日こうして誘惑されたら俺もたまったもんじゃない。そのうち絶対誰か押し倒す。
でも愛もないただの性欲の捌け口にするつもりなんてない。だから困ってるんだ。このムラムラはどうしたらいい?愛し合ってるわけでもない妖狐達に吐き出すなんてもってのほかだ。
じゃあ嫁達とイチャイチャするか?でもそれも出来ない。何故かここに来てから嫁達は俺の相手をあまりしてくれない。夜に添い寝をしてくれる者もいない。
俺が妖狐達に現を抜かしてるから怒ってるから?いえいえ、違いますよ。一体となってる魂からは変わらず俺を愛し慈しむ嫁達の心が感じられる。それどころか嫁達の方も俺と触れ合えずに寂しがってる心が伝わってくるくらいだ。
じゃあ何故誰も俺と添い寝もしてくれないのか。それは玉藻とオサキの計画だろう。俺の我慢の限界を超えて妖狐達に手を出すように仕向けているんだと思う。
だからここは我慢比べだ。俺がミカボシを倒すまで我慢し切るか、嫁達が我慢出来ずに俺に甘えてくるか、それとも俺が我慢出来ずに妖狐の誰かを押し倒すか。多分俺が押し倒すのが一番早そうだけど……。
それで今日はマコと一緒に里の周辺をパトロールだ。どうやら里でもアコ、ナコ、マコだけ俺に特別こうして付けるらしい。
他の妖狐達も確かに俺を誘惑してくるけど、本気で俺と結ばれたいというよりは、憧れの人と触れ合いたいとかそういうレベルのような気がする。
もちろんそれでも俺の子種が貰えるなら貰いたいって言う娘は多いし、実際そういう誘惑をしてくる者も多い。
『一夜限りのお情けを!』とか言って迫ってこられたらそりゃうっかり押し倒しそうにもなる。だって嫁達にも怒られないし、相手も一夜限りの関係のつもりで後腐れなしだ。それを我慢して耐えてる俺って結構頑張ってる方だと思うんだ。
でもアコ、ナコ、マコは違う。この三人だけは里公認で俺に付き一緒に行動している。そしてこの三人を見ていれば俺が恋愛レベル0のおこちゃまでも本気で俺にアプローチしてるとわかる。
マコ「アキラ様!あの藪なんて怪しいと思いませんか?!あそこの下は隙間があいてるんです!人目を避けて隠れるにはもってこいなんですよ!」
アキラ「馬鹿か…。お前は何でそう物陰とかに俺を引き摺りこもうとするんだ?俺が気付いてないとでも思ってるのか?」
マコとパトロールすると大体このパターンだ。こいつは俺を人気のない、人目につかない場所に押し込もうとする。それってまるっきり俺の方が襲われる側じゃね?こいつ俺に抱かれたいんじゃなくて俺を抱く気なんじゃね?そんな気がしてしまう。
マコ「わかりました!それじゃ押し倒しますね!」
マコが『むふーっ!』と目を輝かせながら俺に飛び掛ってくる。何が『わかりました』で『それじゃ』なのか意味がわからない。
アキラ「させるか。」
俺は飛びかかってきたマコの前に結界を張る。
マコ「ぶっ!………ひどいです!」
マコは結界に阻まれてビタッと張り付く。何がひどいのか。力ずくで俺を襲おうとした奴の自業自得だろうが。
マコ「アキラ様~!結界解いてくださいよ~!」
マコは暫く結界をバシバシ叩きながら歩いていく俺に付いてきていたのだった。
でももちろん途中で解いてあげたよ?何だかんだ言ってもマコも可愛いからな……。その後は俺の腕に抱き付いて機嫌良さそうに二人でデートした。じゃねぇ…。パトロールだパトロール。
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今日はアコの日だ。あれ以来アコは俺を見ると真っ赤になって縮こまってしまうようになった。自分の醜態に後で気付いて恥ずかしくなったのだろう。
アキラ「ほら。行くぞ。」
いつまで経ってもパトロールが進まないから俺はアコの手を握って引っ張ろうとする。
アコ「ひぁっ!ああああにょ…、そにょ…。まだ日も高く人目があるところではさすがに心の準備というものが…。」
アキラ「何を言ってるんだお前は…。今から子作りでもすると思ってるのか?」
アコ「ここここ子作り!やっぱりアキラ様は私にそういうことをされるおつもりなのですね!」
アキラ「ちげぇよ…。聞けよ……。いつか俺とお前が愛し合えばそういう可能性もないとは言わないけど、今は里のパトロールだろうが……。」
アコと一緒にいると大体こんな感じだ。アコの方がテンパりすぎててずっとこんな調子で話しが進まない。
アコ「あああ愛し合うだなんて…。きゃー!!!」
アキラ「痛い………。」
アコが無遠慮に俺の腕をバシバシ叩く。各属性の力の源である尻尾は嫁達が持ったままだ。そして普段から垂れ流しにしておくには虚無の力は強力すぎる。だから今の俺はほとんど何の力もない状態と変わらない。
例えば骨折したり腕を引きちぎられても虚無が自動的に俺の体を再構成して瞬時に治る。だから人間並の肉体の今、アコにぶっ叩かれて一撃で腕が折れていても瞬時に治ってる。そして次の一撃でまた折られる。それを繰り返されたら痛いに決まってる。
アコ「あっ!ももも申し訳ありません!今のアキラ様はお力を抑えておられるのでしたよね!あぁ!こんなに愛する方を傷つけてしまうなんて!」
俺の腕を何度もバキバキにへし折っていたことに気付いたアコが今度はアワアワし出した。それはそれで見ていて面白いんだが、またトンチンカンなことをし始めて俺が被害を受ける可能性は高いから大人しくさせよう。
アキラ「もういいから。俺には大したことじゃないから。早く行こう。」
アコ「あぅ…。アキラ様の温かい手が私を…。はぁ…。」
手をぎゅっと握って引っ張る。今度こそアコの手を引いてパトロールに出かけたのだった。
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今日はナコの日だ。ナコは一見真面目のように見えて一番いたずらっ娘だったりする。まぁ玉藻と連絡をとって今回の件を画策したりするくらいだからな。
マコの方がそういうタイプに見えるけど実はマコはただの天然だ。だから頭を使って自発的にいたずらをしたり悪巧みをしたりするタイプじゃない。天然ゆえにわざとじゃないけど結果的にそうなることはあるけどな。
さらにナコの場合はそれで俺のためになってると思ってる節があるから余計に厄介だ。多少俺の意に逆らうことになったとしてもそれは俺のためだと思ってやってる。だから頭ごなしに怒ることも出来ずに一番厄介な相手と言えるだろう。
俺の方としてもただ俺の言ったことだけを守る意思を持たない人形のような者が欲しいわけじゃない。そんなものが欲しければゴーレムでも造って言うことを聞かせればいい。
何故か俺がゴーレムを造ると皆自我を持ってしまって、ただ黙って命令を聞くだけのロボットみたいなのを造ろうと思っても出来ないんだけどな……。
話が逸れたから戻る。とにかくそういうことで俺としてはナコを怒るに怒れない場合が多い。各自の意思を尊重すると言ってるし、わざと俺に害を成そうとしてるんじゃなくて、それが良いと思ってやってることだからな。
それに実際に俺が何か直接的な被害を受けるということもない。ただ妖狐達に囲まれたり、皆にチヤホヤされたり、確かに悪くはないけど俺がその時にそれを望んでるわけでもないことをされるだけだ。
アキラ「ナコ。あまり悪戯するなよ。俺が望んでない時に望んでないことをしても俺からの印象が悪くなるだけだぞ?」
ナコ「え?!狐神様はアキラ様は奥手だからどんどん誘惑するようにとおっしゃってましたよ?!」
あぁ…。これも玉藻の計画だったのか…。行動力があっていたずらっ娘のナコに妖狐達を指揮させて俺を誘惑しようと…。なるほど。確かに効果てきめんだよ。めちゃくちゃ効いてるよ。
アキラ「俺は愛し合う者とだけ静かに愛を確かめ合いたい。ああやって囲まれてチヤホヤされるもの悪い気はしないけど望んでない。」
ナコ「………わかりました。ん~!」
わかったと言ったはずのナコは目を閉じてひょっとこになった。
アキラ「………何してんだ?」
ナコ「んもう!愛し合う二人で静かに愛を確かめたいのでしょう?ですから…、ん~!」
どうやら俺がナコと二人っきりで愛を確かめ合いたいと言ったと受け取ったらしい。馬鹿か…。
アキラ「俺とナコはまだ愛し合ってないだろうが……。それに口を突き出しすぎだ。折角の可愛い顔が台無しになってるぞ。」
ナコ「ちぇ~…。………あれ?『まだ』?それじゃ?」
アキラ「これから先のことはわからないだろう?」
ナコ「ひゃっほ~!私がアキラ様を落としましたよ!」
いや落ちてないから…。ただ未来のことはまだわからないって言っただけでナコと愛し合うとは言ってないから。
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さて、今日も里の一日が終わりオサキの家へと帰ってくる。ハクゾウスになってるオサキは大きな家に住んでいるから嫁と愛妾を大勢引き連れてる俺が泊まるにはここしかない。
リビングには夜警に出てる嫁以外はいるんだけど誰も俺に膝枕もしてくれない。でも俺の頭は今柔らかい太腿の上の乗ってる。相手は………。
オサキ「姉上ぇ…。」
オサキだ。オサキが俺の頭を膝枕して髪を梳いている。外に出るとアコ、ナコ、マコに誘惑されて、家に帰ってもオサキにこうして甘やかされる。何だここは。地上の楽園か?
アキラ「オサキ。ますます若くなってないか?」
オサキ「姉上の影響え。」
うん…。なんとなくそんな気はしてた。他の者達ほどはっきりしたものじゃないけどオサキとも少しだけ魂が繋がってる。いつ…、とは言うまい。最初に出会った後でのことだろう。
もうすでにオサキは二十代で通用するほどに若々しい。アコと姉妹だと言った方がしっくりくるだろう。
尤も地球人である俺の感覚からすればであって、実際には妖狐は若い姿を長期間に渡って維持するためにほとんど外見の年齢に差がない親子など当たり前だ。
フランとヘラも姉妹で通用しそうなほどだしな。ウィッチ種はほとんどロリっ娘だから余計にだけど…。
いや…、待てよ。サキムも若々しかった。んん?もしかしてこの世界じゃ母娘でもほとんど姉妹に見えるとか?
キュウ「そんなことはありませんよ?」
暗黒力の影響でしゃべり方が変身後になってるキュウが俺の心に答える。うん…。もうこれは慣れるしかない。それか心を流さないようにするかのどちらかだ。
アキラ「でもサキムは随分若々しかっただろう?獣人は人間族と同じくらいの寿命で老化するんだろう?」
もともとロリ魔女っ娘のウィッチ種や、種の特性上死ぬ前にならないと年老いない妖狐と違って獣人族は普通に年を取るはずだ。
キュウ「はい。ですから母だけが特別だと思います。」
アキラ「ふぅ~ん…。」
キュウの叔母でツノウの母親の方とは会ったこともない。俺が三玉家で会ったことがある年配の者はサキムしかいない。兎人種の里に住んでいた普通の住人達は皆普通に年を取ってるような感じだった。
アキラ「………って、あっ!俺の影響でオサキが若返るって…。もしかして…。」
俺が自然の摂理を曲げて延命させてしまったんじゃないのか?
玉藻「もう今更だろう?それにアキラと繋がった者達は皆神になって寿命を超越してるよ。それまでアキラのせいだからって言ってたら誰とも繋がれなくなっちまうよ。」
まぁそうか。俺と魂が繋がればもうそれは誰でも神格以上になってしまうことが約束されている。それで寿命を超越したからと言って俺が世界の摂理を曲げたのだとは言えない。
何しろ玉藻のように自力で神になって寿命を超越する者もいるんだ。その手助けをしたとしてもそれは少なくともこの世界の自然の摂理だろう。何しろ俺が来る前から神格を得れば寿命を超越するというシステムがあったんだからな。
俺がそれを後押ししたとしてもそれはこの世界の真っ当なシステムを利用したに過ぎない。
じゃあドロテーや最古の竜もそうしてやればよかったじゃないかって?あの二人は本人がそれを望まなかったし、ドラゴン族であった最古の竜は制約で神格は得られないはずだったから、それを曲げれば俺が世界の摂理に干渉したことになるだろう。
となるとオサキはどうなんだろうか。オサキが望んでいたのならばともかく俺が勝手にそうしてしまったのだとすれば悪いことをした。
アキラ「オサキはそれを望んでいたのか?俺のせいで勝手にそうなったのか?」
オサキ「オサキはもっと姉上と一緒にいたいえ。オサキがそう望んだからこうなったえ。」
にっこり微笑みながら俺を見下ろしてくる。サラサラと髪を梳く手が少しヒンヤリしていて気持ち良い。
アキラ「オサキ可愛すぎ!」
オサキ「姉上ぇ…。」
あやうく俺はオサキを押し倒すところだった。




