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転生無双  作者: 平朝臣
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外伝1「妖狐の里2」


 ようやくお母様がハクゾウスに選ばれ私がNo.2になった。これは私の望みだったはず…。はずなのに………。


 今ではそんなことどうでもよくなってしまった。それよりも今の私の心を占めるのは別のこと……。


 いずれ私がハクゾウスになってこの里で一番だって証明することが私の生き甲斐だった。だからそのために出来る努力は何でもしてきた。


 里で史上初めてにして唯一の八尾である私は誰よりも強いはずだった。誰よりも優れてるはずだった。それなのにその私がまったく手も足も出ずに一方的に負けてしまった。


 そう…。世界で最も強く、世界で最も美しい。あぁアキラ伯母様…、いえ、アキラ様!


 私が痛めつけられたこと?そんなことどうでもいい。愚かな私がアキラ様に突っかかったのが原因で自業自得だ。それよりも強く美しいアキラ様のお力を体感出来てよかったとすら思える。


 里の者達はファルクリアの女神という方のことで盛り上がっているけど私はそんなことに興味はない。アキラ様に比べればファルクリアの女神なんてどれほどでもない。


 曾祖母が道ならぬ恋をして禁忌の子として祖母を産んでしまったのが私の家系の不幸の始まりだとずっと思ってた。恨んでた…。


 だけど今は違う。今なら会ったこともない曾祖母の気持ちがわかる。だって私はこんなにも同種のアキラ様に恋焦がれているのだから…。


 これはもしかしたら我が家系の業なのかもしれない。私がこうしてアキラ様に恋焦がれることでまた不幸が繰り返されるのかもしれない。


 だけど私の気持ちは変わらない。誰にも止められない。例え全世界を敵に回してもアキラ様への想いだけは貫き通します!


 アキラ様にお会いしたい。でもアキラ様は一向に帰ってきてはくださらない。お母様がいるこの里にすぐ帰ってきてくださると思って待っていたのに数年経ってもまだ一度もお帰りになられたことはない。


 それから誰も聞かないけど明らかにお母様の様子がおかしい。すでに老齢に入り老化が進んでいたはずのお母様が何かどんどん若返っている。


 里の者達は何故かそのことを不思議に思わないのか、不気味で聞くのが憚られるのか、お母様に直接聞くどころか私にそれとなく聞いてくる者すらいない。


 今日こそはお母様にそのことを問い詰めようと思って社へと向かう。


アコ「お母様。今日こそお聞きしたいことがあります。」


オサキ「何え?」


 私が社に無遠慮に乗り込んでもお茶を飲みながら落ち着いた様子のお母様が返事をする。


アコ「お母様は明らかに若返ってます。一度老化し始めた妖狐が若返るなど一体どういうことでしょうか?」


オサキ「それは姉上の影響え。」


 ………はい?姉上の影響?姉上ってアキラ様ですよね?


アコ「意味がわかりません。どういうことですか?」


 そこから聞いた話に私は驚きを隠せなかった。


 どうも前回アキラ様が来られた時にお母様とアキラ様の間に何か絆が出来たらしい。ただその絆というのがお互い信頼し合ったとかそういうことではなくて、何か本当に繋がりが出来たということだという。


 その繋がりからアキラ様のお力がお母様に流れてお母様に大きな影響を与えているらしい。そしてアキラ様のお力がさらに強くなられたのでお母様への影響もますます強くなっていると…。その影響でお母様が若返られていると言って話を締めくくった。


 そう言えばアキラ様はお母様の姉、つまり年上のはずなのにあれほど若々しく美しいままだった。その影響を受けてお母様もアキラ様のように若々しくなられた?


アコ「って、それはどうでも良いんです!アキラ様との繋がり?一体どういうことですか!?お母様もアキラ様と道ならぬ恋をされておられるのですか!?」


オサキ「落ち着くえ。姉上はオサキを女としては愛してはくれぬえ。………アコも姉上に懸想しておるのかえ?」


アコ「……え?あっ!いえっ……、それは………。」


 私は自分の顔が赤くなって火照っていることをはっきり自覚した。お母様は何か微笑ましいものを見るような顔で私を見つめていた。


オサキ「アコが頑張れば姉上もいずれアコを愛してくれるかもしれぬえ。そのためにはアコが変わらねばならぬえ。」


アコ「うぅっ……。はい………。」


 それからお母様は私に色々と忠言をした。もちろんほとんどのことはわかっていたことばかりだ。でも私は今までそれらを改めてこなかった。


 例えば私は思いあがっていた。史上初で唯一の八尾である私が最も優れているのだと…。あるいは本来ならばクウコの中でも最も尊い家系の出自なのだと…。


 私より劣る者達の立場に立ってものを考えるようなことなんてなかった。私はただ里の全ての妖狐が私に従えばうまくいくのだと思っていた。


 そういう思いあがりは全てアキラ様の一撃で吹き飛んでしまっていた。だから今ではもうそんなことはお母様に言われるまでもなく気付いている。


 でも今までお母様の言うことですら聞いてこなかった私は素直な気持ちでお母様の言われることを聞き続けた。



  =======



 お母様とあの話をしてから私は変わった。最初は前まで同様私に対して恐々接してきていた里の者達も次第に私に心を開いてくれているというのがわかった。


 それがうれしくてますます私は変わっていった。私が変わればさらに里の者達が心を開いてくれる。信頼されているという自覚が芽生えてきた。


 だけどお母様の改革はどうなんだろう………。


 何かヘンテコなことをやり始めた。外の他種族を里に招き入れてまるで何かの接待のように妖狐達に相手をさせ始めたのだ。


 最初はお互いにちょっと緊張と警戒があったけど、何度か通ってる客は次第に慣れて来たのか他種族が里の中に居ても何もおかしなことだと感じなくなっていた。


 そして中にはお互いが他種族であるとわかったまま子供を成す者まで現れた。普通妖狐は変化の術で相手を誑かしそっと子種を貰ってくる。それが相手にバレれば敵として追い立てられてしまうので子供を作るのも命懸けだ。


 それなのにこの改革が始まって数年経った今ではお互いが異種族であると知りながら愛し合い子供を作る者が、ほんの一部とは言え出始めたことに驚きを隠せない。


 私はお母様のヘンテコな改革がうまく行くとは思ってなかったけど、今では考えを改めざるを得ない。何しろ目の前でそれが現実に起こってるんだからね………。


 でもこうして周囲の認識が変わって、相手を騙してこっそり子種を貰ってこなくても、異種族同士で愛し合い子供が出来るようになるのなら…、もしかして妖狐同士も禁忌という認識も変わるんじゃないだろうか。


 私はアキラ様の子供が欲しい。例え今はまだ妖狐同士が禁忌だったとしても…。でもそれが変えられるのなら私はそれを変えたい。もし私がアキラ様のお子を授かったとすればその子供に辛い思いはさせたくないから。堂々とアキラ様のお子だって皆に自慢したいから。


 だからもし私がお母様の後を継いでハクゾウスになった時にまだ妖狐同士が禁忌だと思われていたら私はそれを変えるために奔走するだろう。


アコ「ナコとマコは妖狐同士の子供についてどう思う?」


ナコ「えっ!?どうされたんですかアコ様?」


 ナコとマコを連れて里の周囲を見回っていた私はついそんなことを聞いてしまった。まだ時期尚早だったかと言ってから後悔したけどもう遅い。


マコ「妖狐同士の子供ですかぁ…。えへへぇ…。いいですねぇ…。アキラ様となら例え里中から迫害されてもいいです。」


 マコは両手を胸の前で組んでどこか斜め上を向いたままそんなことを言った。って、この子今何て言った?アキラ様の子供なら欲しいですって?


ナコ「あっ!ずるい!私もアキラ様となら駆け落ちしてもいい!」


 ナコまで!?


アコ「ふっ、二人とも……。いつからそのような?」


ナコ「はぃ~。それは前回アキラ様と接してからです。」


マコ「あぁ…。強くて美しいアキラ様…。もう一度来てくださらないかしら…。」


 ………まさか二人もアキラ様にそのような感情を持っていたなんて。私は我知らずワナワナと震えていた。


ナコ「あっ!お待ちくださいアコ様!今のはなしです!どうかお許しください。」


 私がワナワナしてるのに気付いたナコが慌てて頭を下げる。でも何か私がワナワナしてる理由を間違えてそうだ。


マコ「ひぃっ!お許しくださいアコ様!」


 マコも一緒になって頭を下げる。


アコ「待ちなさい二人とも。何を勘違いしているのか知らないけど私は二人が禁忌を犯すようなことを言ってるから怒ってるんじゃないの。」


ナコ・マコ「「………へっ?」」


アコ「あのね………。私もアキラ様のことが好きなの。ううん。愛してるの。それで二人も禁忌を犯してでもアキラ様と結ばれたいって言ったから驚いただけ。わかった?」


ナコ・マコ「「あぁ~………。って、えええぇぇぇぇっ!!!アコ様がっ!?」」


 何か二人で声を揃えて驚いてる。二人だってアキラ様のことをお慕いしているくせに何で私だったらそんなに驚くわけ?


アコ「私がアキラ様をお慕いしてたら何か悪いの?」


ナコ「いえいえいえ!悪いなんてことはないですよ!」


マコ「そうです!ただプライドが高いアコ様が禁忌を犯すなんて思ってなかったんです。それも相手はアコ様をコテンパンにしたアキラ様だなんて。」


 ふぅん…。ナコもマコもそう思ってたんだ………。


ナコ「馬鹿マコっ!」


マコ「あっ!今のもなしです!お許しください!」


アコ「はぁ…。もういいわよ。実際アキラ様にコテンパンにされたし、それまでの私の行いからすればそう言われても仕方ないよね。」


ナコ・マコ「「はい。確かにその通りです。」」


 二人揃って綺麗にハモって肯定された………。最近は打ち解けて友達になれたと思ってたのにやっぱりまだそう思われてたんだ。ちょっとショックだなぁ……。


ナコ「昔のアコ様は確かにそうでした。」


マコ「でも今のアコ様のことは私もナコも大好きですよ。失礼ながら私達の方はアコ様のことを本当の友達のように思ってます。」


 ナコとマコがにっこり笑ってそんなことを言ってくれた。やだ…。ちょっと泣きそう…。


ナコ「あっ!ごめんなさい!偉そうでしたよね!」


マコ「友達みたいだなんて恐れ多いですよね!すみません!」


 泣きそうなのを堪えようとちょっと俯いてフルフルしてたらまた怒ってると勘違いした二人がすぐに謝ってきた。


アコ「違うの。私も二人と友達になれたらなって思ってた。最近は友達みたいになれたなって思ってた。二人もそう思ってくれててうれしかったのぉ~~!」


 とうとう耐え切れなくなって泣きながら二人を抱き締める。二人も最初はちょっとびっくりしたみたいで体を硬くしてたけどすぐに一緒になって泣いてくれた。


 この時初めて私は本当の友達が出来たのだった。



  =======



 ナコとマコと本当の友達になれてから毎日が楽しかった。お母様の改革も順調だし、友達も出来て毎日が楽しいし、何の問題もない。世界ってこんなに素晴らしかったんだ。


 そう思ってたけどそうでもなかったみたい。思わぬ問題が発覚した。


アコ「………前回アキラ様が来られた時に見たことがある者は全員なの?」


ナコ「はい………。」


マコ「任務等で里を離れていてアキラ様を見たことがない者以外は全員です………。」


 一体何のことか。それは………。


アコ「まさかアキラ様を見たことがある者が全員アキラ様に懸想しているなんて………。」


 そう。前回アキラ様が来られた時に見たことがある者は全員禁忌を犯してでもアキラ様と添い遂げたいなんて言う者ばかりだった。


 もちろん妖狐同士は禁忌だという考えを改めるためにはそれは素晴らしいことだ。だって皆が妖狐同士だということを気にしなくなればそれは禁忌じゃなくなるんだから。


 だから皆がアキラ様と結ばれたい。それは禁忌じゃない。って思ってくれたらすぐに解決するような習慣でしかない。


 つまりもうこの里では妖狐同士は禁忌だと考える者はほとんどいなくなったということになる。それ自体は大変喜ばしい。


 何しろ私がもし仮にだけどアキラ様のお子を授かったら誰憚ることなくアキラ様のお子だって言えるんだから。


 じゃあ何が問題か?それはつまりアキラ様を狙うライバルがたくさんいるってこと!しかも皆かなり本気だってこと!


 中には例えアキラ様が愛してくださらなくても良いから一夜の情を交わすだけでもいいから子種が欲しいっていう者までいる始末だ。


 それからもっと致命的なことがある。それはアキラ様がこの数年で一度たりとも妖狐の里に帰ってきてくださったことがないということ。


 もしかしたら金輪際妖狐の里へは帰ってこられないのではないかという不安がある。


 何しろ前回のアキラ様への態度はひどいものだった。アキラ様の方も妖狐への期待は何も持っておられないような様子だった。


 あんな最悪な別れ方をしたのだからアキラ様が妖狐の里にあきれ果ててもう二度と帰る気がなくなったとしても不思議じゃない。


 若い妖狐達と連日集まってアキラ様の話に花を咲かせながらも、もう二度とお会い出来ないのではないかという不安が広がっていったのだった。



  =======



 アキラ様への憧れを持つ者はこの里の妖狐のほぼ全てだ。だけど実際には次にいつお帰りになられるかわからないアキラ様をただ待っているだけというわけにはいかない。アキラ様への憧れはあっても現実を見てそこらの男と子供を作る妖狐達も多数いる。


 その子達の想いが軽いものだなんて言うつもりはない。普通なら結ばれることがないような、いや、そもそもで言えばもう二度と会えないかもしれない人を待ち続けて子供を作らないなんてわけにはいかない。全員がそんな選択をしてしまったら妖狐が滅んでしまう。


 だからアキラ様以外の相手と子供を作っている子達の気持ちが大したものじゃなかったとか、裏切り行為だとか言うつもりはない。


 だけど私はアキラ様以外とそういうことをしようという気持ちは持てない。唯一の八尾である私は多くの子供を産み一本でも尻尾の多い子供を残さなければならない。


 それはわかってる。わかってるけど………。でもやっぱり駄目。アキラ様以外にこの体を許すなんて出来ない………。


ナコ「やっぱり少なくとももう一度アキラ様にお会いして想いを伝えないと次に進めないと思うんですよ!」


 ちょっと暗くなりかけてる私にナコが勢い込んで話しかけてくる。


マコ「だよね~。振られたらきっぱり諦めるっていうことも出来るかもしれないけど、まだ想いも伝えてないのにただ諦めるっていうのは無理ぃ~!」


 何の話か。それはもちろんアキラ様と結ばれて子供を残すということ。他の者達はこの里に客としてやってくる他種族の男と子供を作る者がほとんどだ。


 だけど私達三人はアキラ様への憧れが強すぎて…、想いが強すぎて他の男の子供を産もうとは思えない。


 このままじゃ私達三人だけ行き遅れになってしまう。ナコとマコだって尻尾は多い方で強い子供を期待されてる。その私達三人がいつまで経っても子作りすらしないのは色々と問題がある。


 とは言えアキラ様と直接あれだけ接した私達三人は他の子達よりずっとアキラ様への憧れが強い。だからさっきの言葉になるわけ。


 そう。少なくとももう一度お会いして想いを伝えたい。その上で振られてしまったのならまだ諦めもつくだろう。だけどアキラ様に想いも伝える前から諦めて他の男の子を産めと言われても納得出来ない。


ナコ「そ・こ・で~。実はあるお方に協力をお願いしてるんだなぁ~。」


マコ「え?何それ?」


ナコ「ふっふっふ~。そのお方にお願いしてアキラ様を連れてきていただける手筈になってるのよ!」


アコ・マコ「「えぇ~~っ!!!」」


 ナコの言葉に私とマコの驚いた声が綺麗にハモった。当然私とマコはナコに飛び掛らんばかりの勢いで詰め寄って話を聞いたのだった。



  =======



 あぁ…。もうすぐ…、もうすぐアキラ様が来てくださる………。ナコのナイスな策によってアキラ様が来てくださることになった。


 早くお会いしたい。何て言おう。何を言えばいいだろう…。………って、駄目じゃん!私前回アキラ様に散々なこと言って散々な態度だったじゃん!


 あぁぁぁぁぁっ!!!絶対私アキラ様に嫌われてるよぉぉ~~っ!!どうしよう!


ナコ「アコ様?一人で変な顔してどうされたんですか?」


アコ「………何でもないわよ。」


 どうやら私は変な顔をしてたらしい。


マコ「アキラ様が来られるのは今日ですね!きっと里の皆驚きますね~。私達は事前に知ってるけど皆急にアキラ様が来られたらおおはしゃぎになりますよ!」


 マコはいたずらっ子みたいな顔になって喜んでる。まぁそうね。私も皆が驚くのをニヤニヤしながら待ってた。でも今さっきそれどころじゃなかったことに気付いて自分のことで一杯になってしまった。


ナコ「それじゃ入り口でお待ちしましょう。」


マコ「うんっ!」


アコ「………二人は入り口からご案内して。私はここからお社へご案内するわ。」


 二人は無邪気に喜んでるけど私は自分の立場を思い出してそれどころじゃなくなってしまった。何ていうかさっきまではアキラ様とお会い出来るのが楽しみだったのに、今はお会いするのが怖い。


 きっと私はアキラ様に嫌われてる。だからその現実を知るのが怖くて逃げ出したくなってしまった。


 ここでアキラ様を待って社までご案内するとしてもナコとマコから精々数分遅くなるだけなのに、何とかちょっとでも逃げようとそんなつまらない策を弄してしまう。


ナコ「え?アコ様は一緒にアキラ様をお迎えに行かれないんですか?」


アコ「ええ…。最近はお母様の改革で変わったけど、昔から入り口の門番と各階級の住む場所の区切りとお社への案内役で分かれていたでしょう?だから二人は入り口からここまでご案内して。お社へは二人は行けないから私がご案内するわ。」


 本当は私も入り口から一緒にご案内したい。一秒でも早く、長く一緒に居たい。だけどそれを恐れてる自分もいる。だからそれっぽい理由をでっち上げて二人を丸め込んだ。


マコ「………わかりました。それじゃここまでのご案内はお任せください!」


アコ「お願いね。」


 こうして私はナコとマコが入り口へアキラ様をお迎えに向かうのを見送ったのだった。



  =======



 里の入り口の方で大きな歓声が上がった。きっとアキラ様がご到着されたに違いない。ワクワクソワソワする気持ちと、居た堪れなくてここから逃げ出したい気持ちの両方が湧いてくる。


 あぁ…。それにしても…、何て強大で優しい妖力なのだろう。前回は気付かなかったけどアキラ様のお力は私なんかとでは格が違う。


 その妖力に満たされているだけでまるでここが楽園のように見えてしまうほどの気分になってくる。


 そんなことを考えているとあっという間にナコとマコがアキラ様達を連れてここまで来てしまった。何も考えてなかった私は咄嗟に何とも言えずに固まってしまう。


アコ「ふんっ!今頃一体何しにきたの?」


 あぁっ!違う!待って!やり直し!『お会いしたかったです。ようやく来てくださいましたね。』みたいなことを言いたかったの!今のじゃまったく逆の意味にとられてしまう!


 ナコとマコもポカンと口を開けて私を見てる!そうじゃないの!違うんだったら!ああぁぁ!一体どうしたらいいの!?


アキラ「オサキに会いに来た。通してもらおう。」


アコ「(会いたい相手に私は含まれていないのですかアキラ伯母様!?)」


アキラ「………あ?」


アコ「何でもありません。お母様には貴女が来たら通すように言われています。いきますよ。」


 あぁっ!またしても私の馬鹿っ!どうしてこう素直に言えないの!?もう最悪……。絶対ますます嫌われちゃったよぉ~~!!


 もう頭が真っ白でどうしたらいいのかわからない。私は逃げるように社に向かって飛び上がったのだった。



  =======



 どういうこと!?どうしてお母様とアキラ様があんなに仲睦まじく抱き合っておられるの!?


 それはとても姉妹だからっていうだけには見えないほど熱い抱擁だった。それにお母様があんな甘えた声を出されて…。何よりあれはどう考えても妖狐が誘惑する時のような仕草だった。


 まぁ私はまだそういう経験がないんだけど……。でもそれくらい知ってる。実際に自分でやったことがないってだけなんだからね!


 つまりお母様はアキラ様を誘っておられる!?なんてことなの!とにかく私は慌ててお母様をアキラ様から引き離したのだった。


 でもチラッと見えたお母様の顔は何かいたずらっ子のような顔に見えたのは気のせいかな………。


 社ではお母様がハクゾウスとしてアキラ様に色々とお話をしていた。ここでは私は立場を弁えてただ控えているしか出来ることはない。


 だからこっそりアキラ様を盗み見る。あぁ…。凛々しいお顔。可愛くて美しいのに凛々しさも兼ね備えておられる。


 それに前に見た時よりも随分ご成長されているみたい。背も私と同じくらいだし胸なんて私より大きい。顔も前回の頃より大人っぽくなられて妖艶さが増している。


 あぁ素敵…。お母様はあの胸に甘えられたのね。羨ましい………。


 お母様とアキラ様のお話の間中ずっと私はアキラ様に熱い視線を送っていたのだった。ある人物がそれを知っていてニヤニヤしていたのも気付かずに………。



  =======



 アキラ様をもてなすために接待の場にお連れすることになった。ナコとマコはちゃっかりアキラ様の両隣に座ってる………。


 他の妖狐達はアキラ様の奥方様達や愛妾の方達についてる。皆は私達が男も作らずにアキラ様一筋を貫いていたのを知ってるから譲ってくれてるのね。


 それなのに…、皆は楽しそうにお話しているのに私はその話に入っていけない。


 だって絶対私嫌われてるもん!もう最悪なくらい嫌われてるもん!………だから怖くてお話も出来ない。


 私は口が悪いからきっと口を開けばまたアキラ様に嫌われるようなことを言ってしまうに違いない。だけどこのままじゃアキラ様と何も進展しない。


 例え振られたとしても想いを伝えるためにお越しいただいたんじゃなかったの!?こんなことで怖がってただアキラ様を眺めたままで終わっていいの?そんなことで納得出来るの?


 出来るわけない!……でもじゃあどうしたら?


 ………そうだ。妖狐には口で言う以外にも求愛の方法がある。私は他の者達に気付かれないように幻術をかけてからそっと尻尾を伸ばしてアキラ様の尻尾に絡める。


 あぁ……。今私はアキラ様に触れてるんだわ。これだけで達してしまいそう…。絶対今下着濡れてるよぉ………。


 それなのにアキラ様はチラッと私を見ただけでほとんど反応もしてくださらない。断るのなら断ってくださっても構わないのにただずっと放置されるだけ。


 こんな反応は私も予想外でどうしていいかわからない。だからとにかく他の尻尾も伸ばしてどんどん絡めて行く。


 それはまるで私とアキラ様の絆が増えて深まるようで私の気分だけが盛り上がっていった。だけど相変わらずアキラ様は無反応で私としてもどうしていいかわからない。


 するとそこでアキラ様がナコとマコに質問をされた。


アキラ「なぁ…。妖狐にとって尻尾を絡めるって何か意味のあることなのか?」


 ………は?……え?だって尻尾を絡めたら求愛のしるしでしょう?アキラ様は一体何を?


ナコ「えぇ!尻尾をですか!?それは妖狐の求愛のしるしですよ?それに応えて自らの尻尾を絡め返すと受け入れた合図です!でもでもそれって妖狐同士の時のことで禁忌なんですよ!」


マコ「アキラ様はまさか禁忌を犯して妖狐同士の子供をお作りになるおつもりですか?きゃー!私が選ばれたらどうしよう!あっ!もちろん私はアキラ様ならいつでもオッケーですよ!」


 ナコとマコはきゃーきゃー言いながらアキラ様に説明してる。アキラ様はふむふむと頷きながらそれをお聞きになっていた。


 ………そうよ。アキラ様は妖狐の里に居られたのは五十歳まで。つまりそんな慣習なんて知るわけないじゃない……。私って馬鹿?


 そう思ってアキラ様の方をこっそり盗み見したら目が合ってしまった。慌てた私はプイッと顔を背ける。だけど絶対今赤面してるよぉ~~!恥ずかしい!


 それよりナコとマコの説明で事情を察したアキラ様は一体どうなさるんだろう?私の求愛を受け入れてくださるのかな?それとも断られてしまうのかな………?


 あぁ、私って馬鹿!嫌われてるのにいきなりこんなことしても断られるに決まってるじゃん!それなのに何で後先も考えずにこんなことしちゃったんだろぉ~~!もう馬鹿馬鹿!


 私はこの先のことを考えて一人で身悶えていたのだった。………あれ?でも今のナコの説明じゃ受け入れる方の説明だけで断る方法は説明してなかったよね?


 まさか私ってばこのままずっと生殺し!?



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