第XXX話「ある研究家の記紀考察」
本編とは直接関わらない話です。
この世界には古の伝承を記した小伝記とファルクリア書紀という二冊の書物がある。その内容はあまりに突飛で歴史書としては信用に値しないと私は考えている。
実際に研究者仲間の間でも全てが真実であるとは考えられていない。その中でも記載内容があまりにあり得ない出来事や大袈裟な内容ばかりで、作者が何らかの意図をもって書いた捏造であるとする否定派と、伝承とは伝わる間に大袈裟になるもので、内容が変わったり大袈裟になったり何かを暗喩している歴史的事実を含んだ書物であるとする部分肯定派に分かれている。
私はこれまで実際に書物を読むことすらなく否定してきた。だが部分肯定派の者に『読んでから言え』と言われて二冊の書物を渡された。
最初は随分古ぼけた書物だなと思ったが部分肯定派にこれが原本であると聞かされて驚いた。否定派である私にそのような歴史的書物を渡して、処分されたり改竄されたりしたらとは思わないのだろうかと考えたのだ。
だが彼は『出来るものならやってみればいい』と言って笑っていた。それは私の研究者としての倫理観を信じているからだろうか?
確かにいくら自分の否定するものだとは言っても歴史的に価値のある物であることは承知している。私だって都合が悪いからとこれに何かしようとは思わない。
そしてその二冊を読み解くうちに私の考えは変わっていったのだった………。
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まずは小伝記。こちらは物語仕立てになっている。まるでその場で見てきたかのような書き方だ。そしてその小伝記という名前が後の世で新しくつけられたタイトルであり偽の表紙が貼られていることが近年の研究でわかった。
偽の表紙の下にある本当の表紙はかなり黒ずんでいて判別が難しいが、最近の技術の発達によりその文字がわかるようになった。本の上のタイトルが記されているであろう場所には『巫女の日記 閲覧厳禁!』と大きく書かれている。
しかしその文字は世界のどの文字とも一致せず読めない。古代文字でもこのような文字はなく、著者が勝手に作った文字であるとか、意味のない模様の羅列であるとか、様々な研究者が持論を展開しているが通説のような決まった見解はまだない。
そして本の右下の隅にも同系統と思われる文字が書かれている。位置からして著者の名前ではないかと言われているがこちらも読めない。文字と思われる物の形は『勝手に見たら怒るからね!』と記されている。
しかし表紙がそのような読めない文字のような物で書かれているのに対して、中身はいたって普通の共通文字で書かれてる。書体も綺麗で文もわかりやすく読みやすい。これが本当に何十万年も前に記されたなどとは思えないほど現代の言葉遣いと変わらない。
もちろん古い言い回しや表現、今では使わない言葉を使っていたり、逆に比較的新しく出来た言葉は一切書かれていないなど、偽物の古文書だったとしても精巧に出来ている。
書の内容は創造や起源にまつわるどこにでもよくあるようなありきたりな神話だ。食物の神が切り殺されたことによりその体から穀物が生えてきたというような事物の発生の起源だ。
そしてある神が次第に仲間を集め敵対する神々を時に駆逐し、時に従えていく様が描かれている。それは今のこの世界の支配者達の権威を裏付けるための都合の良い話だ。
自分達の祖先はこの世界を纏め上げた神々だったのだと。だから今自分達がこの世界を支配するのは正当なる権利なのだと。いつの時代も支配者達はそういう手を使う。
昔は誰もがこれを神話を模したよく出来た空想小説だと思っていた。それはあまりに荒唐無稽で、あまりに都合が良すぎることばかりが記されているからだ。
古くて希少で貴重な書物であることは間違いないが、誰もがただの空想小説だと思っていた。そう。もう一冊の古文書が発見されるまでは………。
小伝記が広く知れ渡るようになってからかなりの時間が経った後に、ある一冊の古文書が発見された。それがファルクリア書紀だ。ファルクリア書紀はまったく別の人物が書いた書物で、後世に歴史を伝えるために記すと書かれており一切の主観を交えず客観的視点のみで書かれている。
著者は共通文字で『シルヴフラン』と書かれている。ただシルヴとフランの間に微妙なスペースがあり議論の的になっている。
これは『シルヴフラン』という一つの名前だと言うものや、『シルヴ=フラン』という姓と名が書かれているのだと言う者、あるいは『シルヴ』と『フラン』の二人の人物の名前だと言う者までいる。
そして現時点ではどれが正解か。あるいは全て間違いで別の正解があるのかつまびらかにはなっていない。
さらには『シルヴ』というのはシルフと読むのだと言う者や、シルフィの略だと言う者、あるいはシルヴィだと言う者など、『シルヴ』という読み方がわからず今では存在しない名前のためにこちらも議論の的になっている。
このファルクリア書紀だが、随所に参考文献や出典の記載がある。今では失われた資料がほとんどで出典元が本当にあったのかすらわからない物も多いが、それらを示すことで公平性や客観性を担保したり、現存する資料もあったりとその信憑性は極めて高いと言わざるを得ない。
また現存する歴史書とも合致する点が多い。このことからファルクリア書紀に記されている内容はただの空想小説だと一笑に付せないだけの根拠と説得力がある。そしてファルクリア書紀の内容は小伝記の内容と一致するのだ。
明らかに別の著者が別の目的のために記した二冊の内容が一致する。これをもって部分肯定派が一気に増えた。ただしそれでもほとんどの者は、歴史的事実が誇張されたり歪曲されているものだと認識している。
そう…。この原本に触れたことがある者以外は……。
私は部分肯定派ですらなく、完全なる否定派だった。その私ですらこの原本を読み解くうちにこれが全て真実であると思うようになったのだ。
何より私は見た。この原本の上に飲み物をこぼしてしまったことがある。だが何かに守られるように原本の上にこぼれそうになった液体は、見えない球状の物の上を滑るかのように流れて避けたのだ。
それを見てから私はこの原本を切り刻もうとナイフを突き立てたり、火にくべたりしてみた。しかし原本には傷一つつけることは出来なかったのだ。
この原本を私に渡した者が出来るものならやってみろと言った意味がようやくわかった。現在でも本などを保護するこれに似たような魔法や道具はある。
しかしこれらの本にかけられている何らかの特殊能力はそのようなチンケなものとは根本的に違う。様々な方法を試してみたがこれは現在の技術でも特殊能力でも再現出来ない遥かに進んだ何かがかけられている。
この記紀が悠久の時を経て未だにここに現存する理由はこの何らかの特殊能力による保護を受けているからだったのだ。
現在ですら持ち得ない圧倒的なまでの超技術と能力があって始めてこのようなことが成せる。つまり…、この記紀を記した当時には現在では考えられないような進んだ技術があったということだ。
それはすなわちこの中に記されている荒唐無稽な話や、あり得ないような絶大な効果を齎すものも、それらがこの当時にはあったのだという傍証足り得るということだ。
それを知ってから私は完全にこの記紀に記された内容が客観的事実であると信じるようになった。そして一つも見落としがないように隅から隅まで全ての内容を何度も精査した。
私だけが知る歴史的事実を解き明かす作業に没頭していったのだった。
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私が記紀の研究にとりつかれてから早数百年……。もう私の寿命は尽きようとしている。こんなことならば否定派などと気取らずにもっと早くに肯定していれば………。
いや…。私が否定派だったからこそ原本に触れる機会に恵まれたのだ。皮肉なことに一番の否定派であったからこそ一番の肯定派になれたのだ。
せめて死ぬ前に私の研究成果を纏める………。
『ファルクリアの女神』…記紀に主に記されているのはこのファルクリアの女神の事績だ。ファルクリアの女神とは、その名の通り最高神と共にファルクリアを創った創造神の一人とされている。一説には最高神とファルクリアの女神は夫婦神とも言われている。
しかし私の研究では記紀に記されたファルクリアの女神が天地創造のためにこの地に降り立つ伝承の前から、最高神の伝承が存在していたことがわかっている。
つまり本来は最高神による天地創造の伝承の中にファルクリアの女神の伝承が挿入されて新たに作られたのが記紀ではないかと考えられる。と、いうのが一般の通説だ。
しかし私の見解は異なる。私が記紀を読み解いてわかったことは天地創造は二度起こったということだ。かつて一度この世界を創った創造神がいた。それを仮に最高神であるとしておこう。
そしてその世界にファルクリアの女神が降り立つ。この時点では古いファルクリアはすでに存在しており、その世界の創造神はファルクリアの女神ではない。
しかしファルクリアの女神が旅を続けるうちに、記紀に記されているような天変地異や世界の崩壊が起ころうとした。その時ファルクリアの女神が二度目の天地創造を行った。
だからファルクリアの女神が降り立った当時のファルクリアを創ったのは別の神だが、今私達が住んでいるこのファルクリアを創ったのはファルクリアの女神だと思われる。
もちろんそれを示す証拠はない。ただ一つわかることはこの世界には『ファルクリアの女神』という神が確かに存在しているということだけだ。
この世界に住む全ての者にはファルクリアの女神が今もどこかで実在しているということがわかる。しかしその姿を見た者はおろか、その姿がどのようなものであるのかを示す資料や文献は一切存在しない。
それに神格を得て神になった者でもわかっている限りでは十数万年しか生きていない。公式には記録に残っていないだけでそれ以上生きた神もいるのかもしれないが、多少それより長くとも公式記録を何倍も伸ばすほど長生きしたはずはない。
だがこの記紀の記された年代やファルクリアの女神の伝承は、少なくとも今から遥か数十万年以上も昔のことだということはわかっている。
それでもまだファルクリアの女神が生きているというのが記紀があまり信じられていなかった理由でもある。
中にはファルクリアの女神とは引き継がれているもので、今感じることが出来るファルクリアの女神も記紀に記されている者より何代も後のファルクリアの女神だと言う者まで現れる始末だ。しかしそうではないだろう。
現在の技術力をもってすれば神格を得て神になるというのは、種の限界を超えて突然変異的に進化し、その種よりも優れた存在へと変化することだというのはすでに解明されている。だから元々の種よりは寿命も延びるが完全なる不老不死ではないということは証明されている。
だがこの世界には神格を得て神になった者とは違う真なる神が存在する。そして真なる神には寿命も死もない。
今の技術の時代に何を馬鹿げたことをと思うだろう。しかし真なる神はいるのだ。
そして現存する国家群のほとんどはファルクリアの女神、もしくはファルクリアの女神に縁のある神に連なる者だと自称している。
中央大陸を永らく治めているガルハラ帝国。その帝室はファルクリアの女神と今の帝国の礎を築いた皇帝の子孫だと自称している。
本当に女神とガルハラ皇帝の子孫かどうかは今となっては確かめようもないが、このガルハラ皇帝がファルクリアの女神の世界統一に協力したことは記紀にも記されている。
それ以降ガルハラ帝国は強国となり現在の技術文明の礎を築いてきた。ガルハラ帝国が開発した数々の技術が今日のファルクリアの人々の生活を支えている。
北大陸にある大ヴァーラント魔帝国も記紀に記されている国家の一つだ。大ヴァーラント魔帝国もまたファルクリアの女神に調伏された国の一つだ。
そして当時の将軍の一人がファルクリアの女神のお供となり統一に貢献したと記されている。その将軍が後に皇帝となり、以来大ヴァーラント魔帝国は目覚しい発展をしてきたと言われている。
またファルクリアの女神には魔人族が出自の伴侶がいると言われている。それこそが後に皇帝となったお供の将軍であり、今の帝室はファルクリアの女神に連なるのだと主張している。
西大陸には現在精霊の園と言う統一国家が存在している。記紀によると当時は四つの国に分裂しており共同体として精霊の園という組織を形成していたと読むことが出来る。
その精霊の園の代々の王は、四つに分裂していた当時に火の国と呼ばれた国の王であった者が務めている。その理由がなんとファルクリアの女神が火の精霊王であったからということだ。
だが精霊でもないファルクリアの女神が精霊王であるなど矛盾しており、女神の統一事業の正当性を主張するために火の国を取り込みその出自を同じとすることで納得させたのだろうと解釈されている。
確かに征服側が被征服側を従わせるために同祖だと言ったりすることがある。この辺りはまだ解明されていないので今後の研究が待たれる。
そして精霊の園にはファルクリアの女神が遺したと言われる『森の賢人』と呼ばれるゴーレムが壊れているが一体だけ現存している。
記紀に記されている女神が従えるゴーレムは乙女とあるが、私が見た現存するゴーレムは乙女には見えなかった。また造りも粗悪で現在造れるゴーレムに比べてひどく劣る構造だということが研究でわかっている。
ただ年代測定法から本当に数十万年前の物であることは証明されており、貴重な遺産として厳重に保存されている。
記紀にかけられている能力からして特殊能力のようなものは昔の方が優れていたようだがゴーレムに関しては現在の方が進んでいるようだ。現在ではゴーレムは口頭で命令すれば自動で認識して動けるまでになっている。あと数千年もあればもしかしたらゴーレムも自我のようなものを持つ時代が来るかもしれない。
それでその火の精霊王だが、どうやら精霊の園を作り上げた初代精霊王がファルクリアの女神の息子だということになっている。
それをもって精霊の園はファルクリアの女神に連なる者だと自称しているがそれはおかしいだろう。精霊族ではないファルクリアの女神が何故精霊族の息子を産むというのか。
そこで私なりの考察を述べてみる。まずファルクリアの女神には精霊の伴侶がいるとされている。そして初代精霊王も、それまでは誰もしなかった異種の精霊を史上初めて娶ったとされている。
そこから導き出されるのはファルクリアの女神の伴侶が男であり、初代精霊王は女だったのではないだろうか?ということだ。
つまりファルクリアの女神の夫である精霊が女性である初代精霊王とも結婚した。ファルクリアの女神から見れば自分の夫の新しい妻ということになる。
そこで妻同士の地位をはっきりさせるために初代精霊王をファルクリアの女神の子供という位置づけにしたのではないか?というのが私の考察だ。これはかなり説得力があり私の自慢の持論でもある。
次に南大陸だが、今ある獣人族国家の三つ前にあった国家がファルクリアの女神との接点を主張していた。その前、つまり今から数えれば四つ前に『大樹の民』という獣人族国家があったことがわかっている。
その次の獣人族国家は『ラヴガウラヴ』と言う。名前の由来や言葉の意味はわからない。現在では失われてしまった古代語の一種かもしれない。そのラヴガウラヴを建国したのが大樹の民の生き残り達だ。
大樹の民はファルクリアの女神に逆らい滅ぼされたと伝わっている。そしてその中で一部の許された者達が国家を再建したのがラヴガウラヴということになっている。
そして他種族に比べて短命国家ばかりの獣人族国家にありながら異例の長命国家となった。残念ながら少し前に滅びてしまったが、獣人族国家どころか他種族の国家と比べてもトップクラスの長命国家である。
そのラヴガウラヴだが、ファルクリアの女神に従う神々のうちの一人に捧げられた国家だという。そのためファルクリアの女神の庇護を受けていると主張していた。
残念ながら国家存亡の危機に瀕してもファルクリアの女神は助けてはくれなかったようだが……。
最後に東大陸には現在でもファルクリアの女神を祀っている国家がある。過去にはドラゴニアという一国が東大陸を支配していたようだが、現在では三つに分裂してしまいお互いに争うこともしばしばだ。
東大陸のうちの北側を東西で半分に分けるように存在するのがドラグとドラゴという国だ。その二国はどちらもファルクリアの女神を祀っている。対して南側を一国で支配しているドラガという国はファルクリアの女神を祀っていない。
このことから私はある仮説を立てて東大陸を調査した。その結果わかったことが昔から北側はファルクリアの女神に属しており、南側はファルクリアの女神に対して服従していなかったのではないかということだ。
北側にはファルクリアの女神を祀る施設がたくさんあったり、住人達もいつもお参りしたりと熱心に祀っている。南側にはそうした施設はほとんどなく住人達もそのような儀式をする習慣はなかった。
つまりファルクリアの女神の影響力は東大陸全土には及ばず、南部には独立した別の勢力がいたのではないかというのが私の考察だ。
とは言え現在にまで続くほどの国家群の多くがこの当時から存在し、現在も強い影響力を保持している。そして伝承ではファルクリアの女神は全世界を統一し統治していたとなる。
しかし奇妙なことに記紀ではファルクリアの女神が統治したということはどこにも書かれていない。本来ならば起源や権威を主張するためにそのような記述があるはずだ。それなのに記紀にはファルクリアの女神がたてた国すら書かれていない。
そして私はこの記紀の方こそが正しいだろうと考えている。他の国家群は『だから自分達が支配しているのは正当な権利なのだ』と主張するためにファルクリアの女神の伝承を利用している。
対して記紀はほぼ正確に事績を記しているために統一国家など建てていないから書いていないということだと思っている。
この後、記紀に記されている内容はファルクリアの女神の事績から離れ、子孫とされるニニギに統治が移りそこからは現在でも判明しているような歴史的事実と近い内容ばかりが書かれている。
部分肯定派の中にはこれより先のことは歴史書として信用に値するが、これより前の神話は信用に値しないという者もいる。
しかし私は生涯をかけた研究と考察によりこれらは全て歴史的事実のみが書かれた正史であると断言する。
最後に記紀によく登場するファルクリアの女神との関係が深い神々のことを記して終わりとすることにする。
補足として以下に記す神々もファルクリアの住人全てに認識されており、現在でも実在する神々であることに疑いの余地はない。
『狐神』…ファルクリアの女神より前の世代の神であり別天津神と呼ばれている。どのような神であるのかの詳細はわかっていない。ただ気性が荒く怒らせると恐ろしい祟りがあると言われることから武神か荒霊と考えられている。
ファルクリアの女神に従い統一事業を手伝った。その深い見識によりファルクリアの女神が助けられる場面もあり、その二面性がこの神の謎をますます深めている。
ファルクリアの女神が物語りから引き下がると同時に狐神の記述もなくなっている。
『大神』…ファルクリアの女神の最初の子ともされる荒霊。その気性は純真無垢であり、だからこそ敵には容赦しないという恐ろしい面もある。
こちらもファルクリアの女神の統一事業の序盤から登場し重要な役割を担っている。
大神はファルクリアの女神の記述が終わった後も度々現世に関わる話が残されている。しかしその姿を記す物は残っていない。
『慈愛の神』…この神は序盤の活躍に乏しい。ファルクリアの女神に助けられる場面が数多く記されていることから、否定派や懐疑派はファルクリアの女神の活躍を描くために作り上げられた神だとしている。
しかしそれにしては慈愛の神は感情豊かであり非常に人間臭いと言わざるを得ない。架空の登場人物を作り上げたにしては記紀全体の出来の良さに比べてあまりにお粗末な出来と言える。
また上記で補足したように現在でも慈愛の神はファルクリアの住人全てに認識されており実在することに疑いの余地はない。
また後半になると非常に冷徹な一面を覗かせて、ファルクリアの女神の敵には一切容赦しないなど慈愛の神という名に相応しくない行動も多々見受けられる。
このことから慈愛の神はまだ年若かったのではないかと思われる。それゆえに考えや行動が甘く危機に陥ったり、ファルクリアの女神の足を引っ張ったり、後半では感情に流されて残虐な行為を行ったりしているのだと考えれば納得がいく。
こちらはファルクリアの女神の記述が終わった後でも記紀に多数登場箇所があり、現在の孤児院や学校制度を整えたということになっている。
『魔導神』…この神が上記のファルクリアの女神の魔人族の伴侶と言われている神だ。その名の通り魔法に優れ現在まで伝わっているほとんどの魔法を開発し教えたのがこの魔導神と言われている。
記紀に記されている魔導神は非常に冷静でいつも物事を一歩引いて考えファルクリアの女神を何度も助けている。
好奇心旺盛で研究も熱心に行っており、現在にも伝わる様々な技術も開発したとされている。
ファルクリアの女神の記述が終わると同時に魔導神の記述もなくなるため以降の活躍についてはわからない。
『愛の女神』…記紀での登場時はまるでトリックスターのような振る舞いが目立つ。しかしファルクリアの女神に同行している間に次第に成長し愛の神になることになる。
ただこの神は登場シーンによっては大きさが違ったりと妙な矛盾の記述が多い。記紀の著者、編者ならばこのようなおかしな矛盾など気付かないはずはない。
それはつまりこれはおかしなことではなく事実のみを記していると思われる。即ちこの神は自身の大きさをどの程度かはわからないが変化させることが出来ると考えられる。
私が調査した限りでもそのような存在は確認出来ず、この神がどこから来た者なのかまったくわからなかった。
ファルクリアの女神の記述が終わった後も度々登場し争いを仲裁するなど重要な役割を演じている。
『空神』…前述の精霊とされている神。もし私の考察が正しければこの神が男神でファルクリアの女神も初代精霊王も娶ったのではないかと思われる。
様々な苦難を乗り越える記述が多いことから重要な神だと考えられている。ナニが小さいと気にしているような記述がある所が妙に人間臭さを感じさせる。
この神も研究熱心で薬を開発して普及させたと記されていることから医療、医術の神とも見られている。
薬関係の記述がファルクリアの女神退場後も複数見られる。
『霊神』…この神についてもよくわからない。記述の端々からはまるで別の世界から降り立ったかのような世間知らずな印象を受ける。
ファルクリアの女神もまたどこから現れたかよくわからないことから、ファルクリアの女神と同じ地から現れた神と言われることもある。
また記紀の内容でも非常に淡白でほとんど他人に興味を示さない。何故このような神が神話において重要なポジションに置かれているかについて様々な議論が行われてきた。
何かを暗示しているだとか様々な意見があるが私の意見はシンプルだ。それはつまり実際にこういう者であったから。ただそれだけのこと。嘘や誇張を書かずにありのままに本当のことを書いているからこのようなこともそのまま書かれる。そう考えれば一番納得がいく。それでは研究者として失格だと言われるだろうが………。
そのような性格の存在のためファルクリアの女神退場以降は登場しない。
『月神』…その名の通り月の神。記紀において敵に月の神が現れることからその神からその地位を奪ったものと思われる。
この神は最初は穏やかな神であったものが、後半に月の神となってからは存在が一変する。研究者の中にはそれは月の危うさを現していると見る者もいる。
ただこの神はファルクリアの女神退場以降も度々現れ獣人族に何かしらの影響を与えている。
『龍神』…名前は龍神だが本当にドラゴン族や龍に関わる神かどうかはわからない。それはこの神が現れる前から現在に至るまでドラゴン族には神が生まれないという決まりがあるからだ。
現在ですらドラゴン族に神を生まれさせる方法がないのに、この神がどうやってドラゴン族から神になったのかの記述が一切ない。
それ故に各種族から神を出すために架空の神をでっち上げたとか、名前がそういう名前なだけでありドラゴン族とは関係のない神だと言う者もいる。
実際のところはわからないが東大陸に非常に大きな影響を与えた神であることは間違いない。
『マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミ』…この神は他の者に比べて色々と特殊な神だ。名前も他の神と命名規則が違う。
記述ではファルクリアの女神の血縁であり、統一事業を完了させたファルクリアの女神の後を継いで統治を行う神の親ということになっている。
この神は登場も遅くほとんど何も記されていないためにほとんどわからない。
それ以外に外せないのが三女神だろう。三女神はファルクリアの女神の妹として重要な役割を果たす。他にも舞神や食神、五龍神、悪魔神、機巧神など重要な神々は枚挙に暇がない。
しかしもうそれらを語る時間はないようだ…。残る考察は後世の史家に任せようと思う………。




