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転生無双  作者: 平朝臣
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第百五十四話「スサノオ」


 嫁や仲間の他に悪魔共も俺の力で囲んで守る。悪魔共は肉体を破壊されただけならば俺のボックス内に戻るだけだがこの攻撃はやばい。これを食らえば存在そのものが消滅するだろう。


 虚無の力に抗えるのは虚無の力だけだ。ここは俺が全員を守りつつやるしかない。


アキラ「全員無事か?」


 神力は把握しているが念のため聞いておく。もしかしたら神力を感知してるだけではわからないようなダメージを受けている者もいるかもしれないからな。


玉藻「嫁達は全員無事だよ。」


 玉藻が代表して答えてくれた。嫁達とウズメとシホミは固まって一つの俺の力の膜の中に守られている。


ブリレ「こっちも大丈夫だよぉ。」


 ブリレの方も五龍神とムルキベルが一緒に固まっていて無事だと教えてくれた。


バフォメット「申し訳ありませぬ主よ。我らにまでこのような…。」


アキラ「気にするな。あれは俺以外には防げない。いくら悪魔と言っても存在を消滅させられたら復活出来ないからな。」


 バフォメットと悪魔共はいくつかにわかれて固まっている。数が多いからな。悪魔共はいちいち全員の無事を口頭で確認していられないが、神力の感知と魂の繋がりで恐らく無事だろうと判断しておく。


 スサノオの体を乗っ取ったツクヨミが溢れさせた虚無によって一瞬で黄泉の国も根の国も押し流されて外へと出たようだ。


 俺達が今いるのはデルリンの上空。そして眼下のデルリンはもう何も残っていない。太陽人種達が掘っていた穴から溢れ出した虚無は周辺を消滅させぼっかりと冥い穴を開けている。


 穴のあった辺り一帯は俺達が押し流されて溢れた虚無によって消滅させられて文字通り『何もない』状態だ。それが徐々に世界を蝕み破滅へと向かっている。


アキラ「ちっ…。これじゃデルリン観光が出来ないじゃないか。」


 デルリンは完全に消滅してしまったからな…。フリードに何て言おう………。


ツクヨミ「くくくっ!何だ。お前達まだいたのか?」


 空に浮いている俺達の前にスサノオの体のツクヨミが下りてくる。その顔はもう自分の勝利を確信している者の顔だ。


 そしてそれはあながち間違いでもない。今デルリンを消滅させられたように俺やツクヨミが少し虚無の力を使えばこの世界程度などすぐに消滅させることが出来る。


 俺とツクヨミが戦えば俺が勝つだろうが、俺とツクヨミの戦いの余波だけでいくつの世界が消滅するかもわからない。


 確かに俺にとっては世界なんてどうでもいい。だが愛しい者達が暮らす場所は必要なのだ。何もない虚無の空間で、俺の力に包まれ守られたままそこだけで嫁達と暮らすというわけにはいかない。


 やはり俺と嫁達が安寧に暮らすにはある程度の安定した世界が必要になるのだ。だからここで下手に戦って世界を滅ぼされては俺の負けだ。一体どうすれば………。


ツクヨミ「くくくっ!お前の考えが手に取るようにわかるぞ!俺と戦えば虚無を使い慣れている自分が一日の長で勝てる。だが俺と戦えば世界が滅ぶ。どうすればいいか迷っているのだろう?くはははっ!」


 ちっ…。その通りだよ…。いくら虚無の代行者であるスサノオの体を乗っ取ったとは言っても、それは所詮借り物の体だ。だからツクヨミは本物の虚無の代行者より力をうまく使えない。


 だが世界を滅ぼすことが目的であるツクヨミは力をうまく使う必要がない。何故ならば暴れて世界が滅べばそれでいいからだ。うまく使えるかどうかなど関係なく暴れれば滅ぼせるのだからそんなことを気にする必要もない。


 そして俺と戦って敗れても良いとすら考えている。何故ならば俺とツクヨミが戦うことでいくつもの世界を巻き添えにして滅ぼすことが出来るから。


 全ての世界を滅ぼすことは出来ないがいくつかの世界は滅ぼせる。ツクヨミからすればその結果に終わっても良いのだ。ただ自分が滅ぼされるまでにいくつの世界を滅ぼせるかの違いしかない。


ツクヨミ「くくくっ!それでは今まで散々世話になった礼をせねばなぁ!ははははっ!」


アキラ「―ッ!」


 ツクヨミが俺に突進してくる。と見せかけて直前で右に周りこみストレートを打ち込んできた。俺は右腕でそのストレートを受ける。


ツクヨミ「ふむ?なるほど…。確かに今はお前の方が力が強いようだな。だがこれでどうだ?はっはぁ~!」


 今度はツクヨミが地面に向けて手を翳す。


アキラ「チィ…。」


 俺はその先へと周り込んだ。ツクヨミの狙いは地面に向けて虚無を放つことだ。下手にこの星を攻撃されて崩されたら世界が崩壊しかねない。俺は地面との間に割り込みツクヨミの虚無を受け止める。


 しかし俺が虚無を纏いツクヨミの攻撃を受け止めているために、後ろの地面に向かって余波が届き徐々に地面が虚無に蝕まれている。


 それに……、俺もツクヨミの虚無に蝕まれている?俺の方が力の総量でも扱い方でも勝っているはずなのに俺の防御を貫通している?


ツクヨミ「くくく。何故俺の攻撃が通じているかわからないという顔をしているなぁ?んん?教えてやろうか?俺は優しいからなぁ!お前は自分の虚無の力で世界を壊さないように無意識のうちに力が溢れないように抑えているのだ!だから俺の力でも全てを綺麗に抑えることが出来ない。」


 ふん……。想像はついてたよ…。俺は無意識のうちに世界に出来るだけ影響を与えないように力を抑えている。


ツクヨミ「どうして俺が親切に教えてやったと思う?お前が力を使って世界を滅ぼしても俺の勝ちだからだぁ!ぎゃあははははっ!!!」


 それもわかってる…。俺が力を使えばツクヨミを倒すことは難しくないが世界が滅ぶ。このまま俺がツクヨミに甚振られても余波で世界が滅ぶ。どちらにも進めない。


ツクヨミ「今まで散々コケにしてくれた礼だ!受け取れ!くははははっ!!」


アキラ「ぐっ……。うっ…。」


 ツクヨミが俺の後ろに転移して背中を蹴り上げる。さらに吹き飛ばされた俺の前に先回りして肘で思い切り腹を打ち据えられた。


ツクヨミ「ぎゃははははぁ~~!楽しいなぁ?楽しいなぁ?どうした?俺に永劫の苦しみを与えるんじゃなかったのかぁ?えぇ?くはははっ!!!」


アキラ「こ…、の…。調子に…、乗るなよ……。」


ツクヨミ「いいぞいいぞ!その調子だ!さぁ本気を出せ!そうすれば俺を倒せるぞ?さぁ?さぁさぁ!?」


 ………どうせこのままじゃジリ貧で俺が勝とうが負けようが結局世界が滅ぶだけだ。それならば………。


ツクヨミ「ぐぅ!何だぁ?げぼぉっ!」


アキラ「何…だ?」


 急にツクヨミが苦しみ出した。その口からドボドボと黒い塊を吐き出す。固まった血というわけではないだろうな。


???『随分好き勝手に我が肉体を使ってくれたな?矮小なる者よ。』


 スサノオの肉体から発せられている声だがツクヨミじゃない?これは…、まさか……。


ツクヨミ「何だ?どういうことだ!?」


 口から吐き出された黒い塊が声を出す。あれがツクヨミか?


スサノオ「我らの力を使えるのは我らのみ。」


???『我ら正統なる代行者でない者が使って良いものではない。』


 こ…、の…、声は……。


ツクヨミ「スサノオォォォ~~~~ッ!またしても!またしても俺の邪魔をするか!」


スサノオ「邪魔ではない。貴様の望み…、叶えてやろう。」


???『さぁ…、あるべき所に還るが良い。』


ツクヨミ「ひぃぁああ~~~!!いやだ!俺が世界を滅ぼすんだ!俺はまだ消えたくない!俺はまだ世界を滅ぼしてないぃ~!!!」


 スサノオの口から出た黒い塊は虚無空間へと飲み込まれていった。完全に存在そのものが消滅したのを見届けてその男は門を閉じた。


スサノオ「我が娘よ。共に使命を果たせ。」


アキラ「―ッ!」


 我が娘…。いや…、わかっていたさ。あれほど虚無を自在に操れるのは虚無の代行者だけだ。こいつは…、今目の前にいるのは本物のスサノオだ……。


スサノオ「我らの使命は虚無の代行。虚無の意思に従い全てを滅ぼせ。」


アキラ「………違う。スサノオは世界を滅ぼすことなんて望んでなかった。お前はスサノオじゃない。」


 スサノオは家庭と仲間を大事にする者だった。俺に言わせれば指導者としてはあまり出来た者ではなかったが、皆の幸せを願うような者だった。決して世界を破滅させたいと願うような者ではなかった。


スサノオ「………それこそ違うな。俺やアキラが身を挺して守ってやったこの世界が俺達に何をしてくれた?恩を返せとは言わない。だがこいつらは恩を仇で返す!何故ダキが死ななければならなかった?!何故アキラがこれほどの苦労をしなければならなかった?!それは世界が悪意に満ちているからだっ!」


アキラ「………。」


 それは否定出来ない。人は妬み奪い殺す。人より得をしたい。人より楽をしたい。人より贅沢をしたい。そのためならば他人を騙そうが奪おうが殺そうが構わない。自分勝手で自分さえよければ良い。


 世界平和だ、環境保護だ、差別撤廃だ、どんな綺麗事を並べている奴も結局は全て自分のためにしている。それを金儲けにしている者。名声が欲しい者。そういう活動をしている自分は良い人だと思う自己満足のため。そんなただの自分勝手で独りよがりな偽善でしかない。


 鯨を食うなと言いながら豚や牛を食いもしないだけ殺す。カンガルーが自分にとって邪魔だからというだけで殺してまわる。


 世界の恵まれない子供達のために募金を、と言いながら集めた金で豪邸で暮らす。募金とは集まったお金の一定割合は何の領収書も、使い道を公開する必要もなく集めた者が自由に使えるものだ。


 これは中抜きという意味ではなく、中抜きするまでもなく最初から一定割合は集めた者が好き勝手に使える金という制度なのだ。


 世界に真なる善などない。善悪自体が曖昧で決まった答えのないものではあるが、世の中に溢れる綺麗事は全てただの偽善だ。


 そう言うことで周囲に同調しているだけだ。そう言うことで周囲の評価を得ようとしているだけだ。そう言うことで金を稼いでいるだけだ。


アキラ「お前の言うことは正しいよ。世界は欲望と欺瞞、偽善と悪意で溢れてる。」


スサノオ「わかってくれたか。さぁ。一緒に世界を滅ぼそう。」


 スサノオが俺に手を差し伸べる。その顔は過去の映像で見た幸せそうだった時のスサノオの穏やかな笑顔とよく似ている。本当に…。だが……。


アキラ「一つだけ俺の問いに答えろ。それが満足のいく答えだったならお前に協力してやるよ。」


スサノオ「………聞いてみよう。」


 一瞬キョトンとしたスサノオはまたあの笑顔に戻って頷いた。


アキラ「確かに世界は欲望と嘘と悪意が渦巻いている。だがな…、それ以外のものもあるんじゃないのか?自分の身を犠牲にしてでも俺を守ろうとした九尾の女神の愛は偽物か?自分の身を挺して九尾の女神と俺を守ろうとしたスサノオの愛は偽物か?確かにほとんどの愛なんてものは他の偽善や欲望と同じ偽りだ。だが己の命を捨ててでも子供や伴侶を守ろうとする愛も偽物なのか?」


 ただ見た目が格好良いから。子供が出来たから。なんとなく。様々なくだらない理由で結婚してすぐ離婚するものは本物の愛じゃない。ただの欲望と打算の産物だ。だから再婚する時に子供が邪魔になって簡単に殺したりする。


 だがほとんどの夫婦愛、親子愛ですら偽物である中でも、極稀に、本当に本物の愛もあるんじゃないのか?我が身を捨てても相手を救おうとする本当の愛が………。


スサノオ「それは………。それは……。それはああぁぁぁっ!!ぐあぁっ!!」


 スサノオが頭を抱えて呻き出した。


スサノオ「ぐああぁぁっ!『やめろぉ!』ううぅっ!『やめろぉ!』」


アキラ「頑張れスサノオ。」


 スサノオは俺が言うまでもなくちゃんとわかっていた。だからあれほど穏やかな日々を暮らしていたのだ。だから…、負けるな。勝て。虚無に呑まれるな!


???『黙れえぇぇぇぇっ!』


アキラ「うぐっ!」


 スサノオが鬼の形相に変化したと思った時にはすでに俺は腹を殴られて吹き飛ばされていた。油断なんてしたつもりはない。防御も解いていない。


アキラ「ごはっ……。」


 それなのに俺の口からボタボタと血が流れる。喉の奥から次々と溢れてきて止まらない。頭までクラクラする。たった一発でここまでダメージを食らったのは初めてだ。


???『黙れ!我の邪魔をするな!』


アキラ「ぐっ…。防御を………。かはっ!!!」


 追撃してきたスサノオの攻撃を防御しようと思っても思うように動けない。スサノオのフックがアバラに刺さる。ミシミシと嫌な音がやけにはっきり聞こえた。


アキラ「げほっ!げほっ!」


 肺の空気を無理やり押し出され血と一緒に吐き出す。咳き込むだけで肺が痛い。アバラが折れたのか…。


???『こい!天羽々斬剣あめのはばきり!』


 スサノオが手を上に翳すと俺のボックスと同じ能力の空間から一本の剣が現れた。まずい……。見ただけでわかる。あの剣はクロのレーヴァテインなどとは比較にならない力を秘めている。


アキラ「くっ…。何とか……。」


虚無『ボックスからあれを取り出せ。』


アキラ(お前か……。お前あれもお前だろ?何とか出来ないのか?)


虚無『いいからそれは後だ。早く出せ。いくらお前でも天羽々斬剣で斬られたら死ぬぞ。』


アキラ(はいはい……。出て来い!)


アキラ「来い天叢雲剣あめのむらくものつるぎ。」


 とてもじゃないが今のスサノオと素手では戦えない。俺も神器を出すしかない。


???『小賢しい!食らえ!』


アキラ「ぐっ!」


 今度は何とか剣で受けた。だが腕に力が入らない。目も霞む。ダメージを受けすぎた。


虚無『自分の方が強いと思って油断するからこうなる。』


アキラ(何だと?油断なんてしてない。ちゃんと防御もしてた。)


 さっきまで黙ってたくせに急に虚無が何か偉そうに言い出した。


虚無『あれに取って代わられる前にツクヨミを殺しておけばよかったのだ。それを舐めているからこんな事態になる。』


アキラ(ちっ…。それは半分あってる。けどスサノオに乗り移ったツクヨミを殺すには虚無を開くしかなかっただろ。そんな危険はなるべく冒したくなかったんだよ。それにあれはお前だろ?なんとかしろよ。)


 今スサノオを操っているのはスサノオの中にいた虚無だ。スサノオはちゃんとわかっている。九尾の女神の愛を……。だから虚無に抗おうとしたんだ。


 けど今はまだ虚無の方が優勢みたいだな。何とかスサノオを解き放てないかとは思っているが…。


虚無『あれは我であって我でない。我もお前もこの世界にあって重複存在だ。』


アキラ(そりゃわかってるけど、全部虚無だろ?だったら何とかしろよ。)


虚無『お前は細胞の一つ一つの動きまで全て制御しているのか?』


 ちっ…、使えない奴め。余計な言葉だけは覚えてきて偉そうに使いやがる。


???『はあぁっ!』


アキラ「うっ…。重い……。」


 スサノオが振りかぶってきた剣を受けたが威力が重い。ぐっと下まで押し下げられてしまった。


???『そこか!お前の中の我もよこせ!』


アキラ「―ッ!」


 両手で剣を必死に受けていたからスサノオが片手になっていたのに対応するのが遅れた。スサノオの左腕が俺の胸に突き刺さる。


アキラ「げふっ……。」


 スサノオの左腕がメリメリと俺の肋骨を開く。


???『はっはぁ~!捕まえたぞ!さぁ!お前も我の中に還れ!』


 俺の胸の中に手を差し込んだスサノオが俺の中の虚無を抜き取ろうとしている。


虚無『ふん。冗談もほどほどにしておけ。お前如きにどうこうされる我ではない。………そして我の依り代もな。』


???『何を言っている?お前の依り代はもう壊れている。さぁ。我とともに来い。お前の力も使ってやろう。』


アキラ「………もういい。」


???『……あ?お前まだしゃべれたのか?』


 俺の呟きにスサノオが反応する。


アキラ「ああ…。もういい。もう疲れた。」


???『死ぬ覚悟が出来たか?』


 死ぬ?俺がか?


アキラ「何で俺が死ぬんだ?」


???『これほどの力の差を見てまだわからんのか?我こそが全ての世界を滅ぼす真なる虚無として……。』


アキラ「くだらない。何でいつも身の程を知らない奴ほど誇大妄想が激しいんだろうな?お前如きが俺を殺せるつもりか?」


 あぁ…。本当にくだらない。もういい…。もう面倒だ。


???『何を言っている?お前はもう瀕死だ。そして仮に立ち直ったとしても我との力の差は歴然。どう足掻こうともお前は我に殺される。』


アキラ「確かにこのままじゃ勝てないな。それは認めてやるよ。けどそれは可能な限り力を抑えている俺と自由に力を使ってるお前が戦った場合の話だ。」


???『何を言っている?』


アキラ「わからないか?わかっていてとぼけているのか?俺は戦いの余波でこの世界を滅ぼしてしまわないように自分の力は極力抑えて、周囲にお前の力が広がらないようにも抑えていた。だがもういい。もう面倒だ。このまま甚振られる趣味はないんでな。俺も本気でやらせてもらおう。」


???『その言葉が全て本当だったとしてそれでいいのか?この世界が滅んでも?』


アキラ「だからってこのままお前に甚振られても俺が死んで世界も滅ぶだけだろ?だったらお前を倒してから世界のことを考えた方がマシだ。」


???『はははっ!やってみろ!我はどちらでも良いぞ!お前が世界を滅ぼそうが我が世界を滅ぼそうがな!』


 あぁ…。やってやるよ。けどお前の望み通りの結末が訪れると思うなよ。


アキラ「なぁ…。守護する対象って無機物も含まれると思わないか?」


???『………は?』


 スサノオは何を言われたのか意味がわからないと言う顔をしている。


アキラ「俺が守護するのはファルクリアの世界全てだ。何族も何種も関係ない。この星を、この世界を、この宇宙全てを俺が守る。」


 その瞬間カッと宇宙せかい全てが輝いた気がした。


世界中の人々「「「「「女神様……。ファルクリアの女神様だ!!!」」」」」


 俺が守護する全ての者の声が聞こえる。それは何も口に出した言葉だけじゃない。心が…、願いが…、俺に届く。


 そうか…。『守護者の祝福』とは守護者が与えるだけではないのだ。守護される者達の想いが、願いが、力が、守護者にも返ってくるのだ。守護者が力を与え、それがまた守護者へと返ってくる。


 この世界の想いが、願いが、全てが俺の力になる。


 『守護者の祝福』の効果を高めるためにわざと少ない人数の守護神になれば『守護者の祝福』の効果は高まったとしても自分に返ってくる力は小さいものになる。


 これまで守護神になってきた者達は自分やその仲間だけが得をしたい、より大きな効果を得たいと少ない仲間だけを守護してきた。


 だから誰も気付かなかったんだ。守護神と『守護者の祝福』とは………、世界全てを守護することでこそ最大の効果を発揮するのだということに……。


ミィ『ファルクリアの女神様。どうかタマちゃんをお救いください。』


タマ『今はまだ俺は皇太子様も師匠も…、ミィも守れない。だから皆を守ってください!』


サタン『ファルクリアの女神様。この世界にもう一度安寧を。』


シルフィ『ファルクリアの女神様。』


ティーゲ『ファルクリアの女神様、この世界に愛を!』


竜王『余は今度こそ心を入れ替えます。ですから全てをお救いくださいファルクリアの女神様!』


ウィルヘルム『戦争のない世界を…。ファルクリアの女神様。』


 知っている者、知らない者、ファルクリアの生きとし生ける全ての者の願いが届く。それは全て平和を望む声だ。


 これほど争いの続く世界で皆誰もが疲れ果てている。平和に暮らせるのなら誰もが平和に暮らしたいと思っている。しかしそれは中々うまくいかなくて、戦いたくない戦争がいつまでも続く。だが今回の戦争で皆の願いは一つになった。


 ただ安らかな世界を。


 それだけが皆の望みだ。


アキラ「さぁ。これで最後だ。」


???『何が最後だ。この世界の最後かぁ?』


アキラ「来い。八咫鏡、八尺瓊勾玉。」


 俺がボックスから呼び出すと首に八尺瓊勾玉が、左腕に八咫鏡が現れる。右の天叢雲剣と合わせて三種の神器が全て揃う。


???『いいぞ。どれほど力を溜めようが我は困らない。さぁ!その力で世界を滅ぼせ!』


 どうやら俺がスサノオを攻撃すればその力で世界が滅ぶと思っているらしい。お目出度いやつだ。


アキラ「あのな。この世界は全て俺の庇護下だ。当然俺の力でこの世界が破壊されることもないし、お前が虚無の力を揮っても俺の力が上回っていれば破壊されない。言っている意味がわかるか?」


???『……は?そんなことあるはずは…。』


アキラ「嘘だと思うなら試してみな。」


 俺はスサノオに地面を攻撃するように指し示してみる。


???『………ならばもうこの世界ごと消し去ってくれる!やれ!天羽々斬剣!』


 スサノオが剣を振りかぶり溜めた虚無を地表に向けて放つ。危なかったな。さっきまでだったらこれだけで世界が滅んでいた。


虚無『自分の方が強いと思って油断するからこうなる。』


 虚無はスサノオに俺に言ったのと同じ言葉を言う。


???『は?』


 スサノオが放った虚無の力はシュッと音がしそうなほどあっさりと地表に当たることなく消えうせたのだった。


アキラ「わかったか?この世界は全て俺の力で覆われている。それを破る方法はただ一つ。俺より強い力で攻撃するしかない。」


???『な…?わっ…、我の方が強いはずだ!お前は所詮我の次の出来損ないであろうが!』


アキラ「そうか?まぁお前がそう思うんならお前の中ではそういうことにしておけよ。けどこれを見ても同じことを思うのか?」


 俺は今までずっと抑えていた力を解き放つ。ようやく全力が出せる。ず~っと力を加減してたから全力を出せるというだけでかなりストレスがすっきりした。


 俺がこの世界に来てから初めてじゃないか?完全な全力を出せるなんて。


???『………何だこれは?違う…。違うぞ。お前は虚無じゃない!これは別の……。』


アキラ「いや、虚無だよ。ただな。お前みたいに全てを消し去ってなかったことにするのとは違うんだ。俺の中には父の想いが、母の愛が、嫁達の愛が、仲間達の信頼が、部下達の忠誠が、この世界の者達の願いが、全てが詰まってるんだよ。ただの何もない空っぽのお前とは違うんだ。」


???『そんなはずはない!虚無は全てがないのだ!そこに何かを混ぜることなど……。』


アキラ「いいや。違うよ。虚無は何もないんじゃない。全てを含めるんだ。中身が一杯の容器にはそれ以上入れられないけど、虚無の中にはどれほどでも入れられる。だから俺の中には溢れることなく全ての想いが詰まってる。」


???『違う!違う!違う!我はずっと一人だった!我はこれからも一人だ!我は……。』


アキラ「一人じゃない。これからはお前は俺の中でずっと一緒だ。」


???『やめろ!いやだ!やめろぉ~~!!!』


 三種の神器が光輝く。天叢雲剣を振ると闇が切れる。八尺瓊勾玉がスサノオの周りを回る。そして八咫鏡に映るのはまるで泣いている子供のような虚無だ。


アキラ「さぁ…。還ろう。これからは俺と一緒だ。」


 スサノオの体から虚無が抜け出し俺の胸に開いた穴に入り込んでくる。


スサノオ「苦労をかけたな。」


アキラ「……スサノオか?正気に戻ったのか?」


 どうやら虚無が抜けたことでスサノオの自我が戻ったらしい。


スサノオ「親父に向かって呼び捨てはないんじゃないか?」


 スサノオがちょっと困ったような顔で頭を掻く。


アキラ「何が親父だ。親父らしいことなんてする時間もなかっただろ?俺にとっては顔見知りのおっさんくらいの感覚しかない。」


スサノオ「ははっ…。それを言われると辛いな。でも顔見知りのおっさんはないだろ。」


 俺の言葉を受けてスサノオは苦笑いした。


スサノオ「大きくなったなアキラ。俺のせいで色々苦労かけてすまん。」


 そっとスサノオに抱き寄せられた。何か安心するな……。これが親か。


アキラ「ふん。そう思うんなら反乱も鎮圧して怪しい奴も皆とっ捕まえてりゃよかったんだ。そうすれば一万年も手間がかかることはなかったのに…。」


スサノオ「そうだな…。すまん。俺は俺の中の虚無が怖かった。だからずっと穏やかに過ごそうと逃げ回っていたのかもしれない。そのせいでダキは死んでアキラは苦労することになった。」


アキラ「………九尾の女神は…、お前のせいで死んだなんて思ってない。俺はお前のせいで苦労させられたなんて思ってない。」


スサノオ「………そうか。ありがとう。」


 スサノオがふっと笑った。信じてないな。


アキラ「信じられないか?だったら本人に聞いてみろ。」


スサノオ「ダキっ!どうしてダキが!」


 俺が指し示した先には九尾の女神が微笑んで立っていた。


アキラ「これからは二人でずっと一緒に暮らせるんだ。本人に恨んでるかどうか聞いてみればいい。」


スサノオ「そうか…。アキラが…、呼んでくれたのか。」


アキラ「ああ。けど俺には向こうで話している言葉は聞こえない。だから九尾の女神が今何を言っているかわからないし、お前が向こうへ渡ったらもう話をすることも出来ない。」


 穏やかに微笑んでいる九尾の女神が何か言っているようだが俺には聞こえない。スサノオにも聞こえていないだろう。向こうの者とコミュニケーションを取れるのは向こうの住人だけだ。


スサノオ「そうか……。それじゃこれが最後のお別れか。」


アキラ「おい…。お前の方が泣いてどうするんだ。」


 スサノオがポロポロと女の子のように泣き出した。普通こういう場面じゃ俺の方が泣く側じゃないのか?


スサノオ「達者でな。アキラ。俺とダキはいつも、いつまでも、ずっと見守ってるぞ。」


アキラ「ああ。わかってる……。」


 スサノオはこの世とあの世の境界を渡っていった。そして九尾の女神と抱き締めあう。二人が何か言っているのは口が動いてるのでわかるが言葉は届かない。


 最後に二人は穏やかな笑顔を俺に向けるとスッと消えて行った………。


アキラ(待たせたな。それじゃ後始末といこうか。)


虚無『本当に良いのか?それをすればお前は……。』


アキラ(だからってこの溢れた虚無を放っておくわけにはいかないだろう?)


 確かに戦いは終わったがこの世界の滅びが止まったわけじゃない。デルリンの穴から溢れた虚無が今も世界を蝕み拡がっている。本当ならばもう取り返しがつかないほどにまでこの世界は崩れている。


 だが虚無の力を持ち、ファルクリアの守護者となった今の俺なら止めることが出来る。


虚無『止められるからと言ってお前が犠牲になる必要があるのか?』


アキラ(まぁ……。俺が自分でファルクリアの守護者になるって決めたんだからな……。仕方ないだろう?)


虚無『やれやれ……。付き合わさせられる我の身にもなってみろ。』


アキラ(悪いな…。お前と俺は一蓮托生だからな。)


虚無『まったくだ。』


 ふっ。こいつも随分変わったもんだ。それこそさっきまでスサノオについていた虚無と同じような者だったのにな。


 今じゃその身を挺してこの世界を救おうっていうんだから……。人は変わるものだな。


アキラ「それじゃ行くぞ。天地開闢之術てんちかいびゃくのじゅつ!」


 この世界に溢れた虚無を止めるために……。俺は最後の術を使った。



 ………

 ……

 …



最高神「正解だよアキラちゃん。」


アキラ「またお前か。もういいよ。面倒臭い。」


最高神「そう言わないでよ。アキラちゃんのお陰でこの世界は今までにない新しい未来へと進んだんだよ。」


アキラ「あっそ。どうせお前の狙い通りだろ?」


最高神「そんなことないよ。むしろ僕が考えてたより、より良い結果になったかな。」


アキラ「ふーん。それで?」


最高神「何しろ第四世代の創造神が生まれたんだからね!アキラちゃんは新しい宇宙せかいを造れる僕らと同じ、ううん、僕らより上の神様になったんだよ。」


アキラ「だから?」


最高神「うん。だから僕からも一つプレゼントをあげるよ。それはね。」


アキラ「ん?」


最高神「アキラちゃんの名前。教えてあげるよ。君の名前はアキラ=クコサト・タケハヤスサノヒメミコ。これが君の真名だよ。」


アキラ「それを知ったからって何だ?」


最高神「うん。それはいずれわかるよ。」



 ………

 ……

 …



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