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転生無双  作者: 平朝臣
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第百五十二話「悪魔軍団」


 門を開いた瞬間俺達は真っ暗な闇に包まれた。これはデスサイズに案内されてヨモツオオカミに会うために歩いた場所と同じだ。


 やはりあの時歩いたのは根の国だったというわけだな。そしてヨモツオオカミが座っていた場所の目の前にあった門が根の国から黄泉へと繋がる門だったのだろう。


アキラ「魂が一体になっている者は平気だと思うが、皆はぐれないようにな。」


 俺はもうこの空間でも周囲を把握出来るようになっているし、嫁達は俺と一体なのだから俺が把握出来るということは同じ情報を共有して平気だろう。


 五龍神とムルキベルは魂の繋がりがあるとは言え少し不安がある。何より一番危なそうなのはシホミだ。シホミはまだ俺との繋がりもないから見失えばそれまでだ。


 ウズメも繋がりはないはずだが、何かキャラのせいかウズメは結構平気っぽい気がする。シホミは深窓の令嬢だから変な失敗をしたりとかおっちょこちょいとかそんなイメージがある。


 まぁ俺の勝手なイメージであって二人が実際そうだとは限らないけどな。


シホミ「何も見えませんわ……。太陽人種の光を照らしているはずですのに……。」


 どうやらシホミは光を出しているのに明るくならないから困惑しているようだ。そうだな。太陽人種は正に正反対の光の属性だからこんな闇は辛いだろう。俺はシホミとウズメの手を片方ずつ握った。


シホミ「まぁ…、あなた…、このような場所で恥ずかしいですわ。」


 シホミは何を思ったのか俺にぴったりくっついて肩に頭を乗せてきた。言葉といい、もしかして何かやらしい意味にでも考えているんじゃないだろうな?ただ迷子にならないように手を繋いだだけだぞ?


ウズメ「うぇっ!ごごごご主人様?うううううちは平気やで?恥ずかしいわぁ…。」


 ウズメの方が恥ずかしがって縮こまってしまった。まったく…。普段とのギャップが正反対だな。普段明け透けに感じるウズメの方がこういう時に初心になる。


 逆に初心そうなお嬢様のシホミの方がそういうことには平気なようだ。それともあれか?お嬢様で子孫を残す必要があるからそういう教育がされていたとか?


 まぁそれはどうでもいい。俺が考えてもわかるはずもない。魂の繋がり以上の者ははぐれても探せるがシホミとウズメははぐれたら探すのが大変だ。この二人の手を握ったまま進むことにする。


 暫く進んだ先に…、一人の太陽人種のゾンビが現れた。デスサイズの時と同じく周囲が真っ暗闇のはずなのにその者の周りだけ光っているかのように輪郭が浮かび上がっている。


 その者は外の者と同じく顔に生気が感じられず目は虚ろで半開きの口から『あ゛~。う゛~。』と呻いている。


シホミ「ツヒコネ!!!」


 その者を見た瞬間シホミが駆け出そうとした。俺はぐっと手を握って止める。


アキラ「待て。落ち着け。」


シホミ「ですが!ツヒコネが!」


 何だ?あのゾンビと知り合いなのか?


ウズメ「ツヒコネ様はな…、シホミ様の弟様やねん。」


 ウズメがそっと教えてくれた。なるほど…。弟か。それよりも……。


アキラ「アマテラスの子供でさえ犠牲にするのか。ツクヨミ………。自分の甥ですらこんな目に遭わせて何がしたいんだ?」


 もちろんツクヨミの目的はわかっている。この世界の破滅だ。そしてどうせ全てが虚無へと還るのなら兄弟姉妹も従兄弟も甥姪も何もない。利用出来るものは全て利用して目的を達成すればいいと考えているだろう。


 だが俺にはそれが許せない。自分の目的を達したいのであれば自分でやればいい。他人を利用して嵌めるようなツクヨミのやり方は気に食わない。


 俺だって世界を破滅させたいと思うこともある。けどそれをするのは俺の力でだ。自分の力と責任においてするのだ。ツクヨミのように他人を騙し利用し犠牲にするようなやり方を俺は認めない。


ツヒコネ「う゛~……。あ゛あ゛あ゛~~~!!!」


 俺達に気付いたツヒコネがまさにゾンビ映画さながらにヨタヨタとこちらへ歩いてくる。地球の映画で慣れている俺でもちょっと気味が悪いと思うほどだ。


 他の者はもっと大変だろうと思って振り返って見てみたが案外嫁達は平気そうだった。


玉藻「誰が相手するんだい?」


ガウ「がうはいやなの。」


 この二人が平気なのはいつも通りだからいい。


ミコ「アキラ君の敵は私が殺したいなぁ。」


キュウ「いえ、私ですぅ。」


 うん…。二人はちょっと暗黒面に堕ちるのをやめようか?敵よりむしろこの二人の方が怖い。


ティア「うわぁ…。気持ち悪いです。早くなんとかしてください。」


シルヴェストル「うむ…。正気を失っておるだけならアキラが何とか出来たかもしれんのじゃが…。」


 元素が狂った禁忌の地で同じような状態の精霊を見た時はティアは怖がっていたのに今回はあまり怖がっていない。


 シルヴェストルは精霊達の時のように正気に戻せないか考えているようだがそれは不可能だ。この現象は精霊の時のように原因を取り除けば元に戻るというものではない。


フラン「もう手の打ちようがないのでしたら…、せめて苦しませずに送ってあげましょう。」


クシナ「ですね。誰も相手をしたくないと言われるのでしたら私がお相手いたします。」


ルリ「………ルリはどっちでもいい。」


 ふ~む。クシナも怖がりで、前回ヨモツオオカミと会った時はあんなに怖がっていたのにな。何か皆神経が図太くなったのかな?


 いざとなったら女の方が度胸が据わっていて図太いとは聞くけど、まだ正式な結婚式もする前から母は強しになられてもちょっとどうしていいかわからない。


 俺が求めていた結婚生活っていうのは…、ほら…、女の子らしい奥さんとイチャイチャしながらの生活だ。テレビの前で寝転がりながらせんべいを食べて夫を顎で使うような嫁との生活がしたいわけじゃない。


玉藻「いや~ん。こわ~い。アキラ助けてぇ~。」


ミコ「アキラくぅ~ん。怖いよぉ~。」


キュウ「キュウキュウ!」


 変わり身の早い三人が俺の心を読んで怖がった振りをしながら抱き付いてくる。けどもう手遅れじゃないですかねぇ?


シホミ「わらわが…、せめてわらわが天に還しますわ……。」


 シホミがぎゅっと俺の手を握ってから離そうとするから俺が掴んで止める。


アキラ「俺も行こう。基本的にはシホミに任せる。ウズメは……、ミコに任せるよ。」


 丁度抱き付いてきているミコにウズメの手を握らせる。暗黒面に堕ちてるけど友達を見殺しにするようなことはないからウズメを任せても大丈夫だろう。


シホミ「ですが…。」


 シホミは俺に遠慮しているようだ。あるいは大事な弟をせめて自分の手で葬ってやりたいのかもしれない。


アキラ「シホミに任せて俺はサポートに回るさ。ただ俺にとっても従弟だからな。」


シホミ「アキラ御従姉様!」


 ぎゅっと俺に抱き付いてくる。空いた手でそっと頭を撫でた。


アキラ「それじゃ…、楽にしてあげよう。」


シホミ「………はいっ!」


 顔を上げたシホミにもう迷いはなかった。この暗闇の中で戦うのは難しいだろうと思ってシホミについていくことにしたが、もしかしたらそんな心配はいらなかったかもしれない。


 いつも闇を光で払っていたはずの太陽人種ではこの真っ暗闇では大変だと思っていた。だがそれは杞憂だったようだ。シホミは完全にツヒコネの動きを捉えており苦戦することもなく攻撃している。


 ツヒコネはゾンビのような状態なので動きが鈍いし能力も使ってこない。ただどれほど傷を与えても怯むことなく攻撃してくることが普通の者と違うくらいだ。


アキラ「シホミ。あまり皆と離れるなよ。」


シホミ「はい!………ところでアキラ御従姉様?皆様はどちらなのでしょうか?」


アキラ「あぁ…。こっちだ。」


 どうやらシホミはツヒコネと戦うのは何とかなるようだが、方向感覚はないらしい。だがそれはシホミが方向音痴とかいうことじゃない。この真っ暗闇の中を戦いながら移動していればどっちにどれだけ動いたかわからなくなるのだ。


 俺の空間把握能力が特別で、さらに皆と魂が一体になっているからわかるのであってシホミに落ち度はない。だからあまり離れすぎないように時々場所を誘導してやるのが俺の役目だ。


シホミ「御機嫌よう…、ツヒコネ。おやすみなさい……。」


 シホミが両手を前に突き出して光を出した…、と思う。神力でそうだとわかるが視覚的にはただの闇しか見えずシホミの攻撃は見えていない。


 この闇は何だ?光を出しても、出ているはずの光は見えない。だが実際にツヒコネを太陽人種の光で攻撃出来ていることから光そのものは出ているとわかる。


 光を見えなくする闇?これは何なんだ?当然虚無とは違う。虚無も確かに光で照らすことは出来ないが、それは虚無の空間では光ですら消滅して虚無へと還るからだ。


 だから今のように『あるけど見えないだけ』という状況にはならない。これはもっと別の何か?


 ………あるいはこれこそが黄泉か?一切の光を遮断する完全なる闇。本来光に負けるはずの闇が黄泉では闇が勝つ?これは……、あまり楽観しない方が良いようだな。こちらは相手の弱点を突けるからなどと侮っていては思わぬ落とし穴に嵌る可能性がある。


ツヒコネ「う゛あ゛あ゛あ゛~~~……。」


 シホミの最大出力の光を受けたツヒコネは体がボロボロと崩れていく。その様はまるで光を浴びた吸血鬼のようだ。ゾンビじゃなかったのか?まぁそれは俺が勝手にそうイメージしただけのことか。


シホミ「さようなら…。」


 シホミの頬に一条の涙が流れる。自らの手で弟に止めを刺したシホミの胸中はいかほどであろうか。それともせめて最後は自分が送ってあげることが出来たと思っているだろうか?


 シホミの気持ちは俺にはわからないがそっと抱き寄せて涙を拭ってあげる。シホミはただ大人しく俺にされるがままになっていた。


シホミ「ツヒコネは…、わらわよりも日の術の扱いに長け…、わらわよりも武術にも優れておりましたわ。本来ならば…、わらわがこのように勝てるような者ではなかったのです。」


 その後暫くシホミはツヒコネについて語り続けた。俺は黙ってそれを聞く。話したこともない従弟。せめてその最後くらいは覚えておこう。



  =======



 シホミが落ち着いてから移動を再開する。かなりの距離を歩いてようやく目的の場所と思われる門に辿り着いた。


 前回デスサイズに案内されて歩いた距離や道筋とは違うことから、前回は正面の入り口ではなく別の勝手口から入ったようなものなのだろうと推測される。


 ヤタガラスの説明では現世と根の国の境に門があり、根の国と常世の境に門があると言っていた。だが恐らくヨモツオオカミが小さな出入り口を作れるのか、元々いくつか別の小さな出入り口があるのか、俺達が潜った大きな門以外にもここに入るルートがあるのだろう。


アキラ「恐らくこの門を潜れば黄泉の国だ。黄泉から生きて帰れるかどうかはわからない。皆覚悟はいいか?」


玉藻「私はアキラと一緒なら地獄だろうがどこだろうがかまわないよ。」


 玉藻……。その笑顔には緊張は見られない。本当にリラックスして本心から言っているのだとわかる。


ガウ「がうはご主人の行くところに行くの。ずっと一緒なの。」


 ガウは難しいことは考えていないのかもしれない。でもどんな危険があってもずっと一緒だという思いは伝わってくる。


ミコ「アキラ君。こんなところまで来てそれはないよ。私は例え異世界でも異次元でもアキラ君がどこに行っても絶対アキラ君に追いつくからね。」


 ミコ…。暗黒力の影響を受けずに語ってくれたその本心がいかに固いかよくわかる。


フラン「黄泉とは…、あの世とはどのような場所でしょうね。わくわくします。アキラさんと一緒だと色んな知識を得ることが出来て楽しいです。」


 フランはにっこりと笑った。でも口ではそう語ったが一体となっている魂からは違う想いが伝わってくる。


フラン『アキラさんにまだ抱かれてもいないのに離れるなんて出来ません。あっ!そうだ!今は私にアキラさんの尻尾があるのですから、これをアキラさんのように自由に伸ばして操れるようになれば私がアキラさんを抱くことも?きゃー!どうしましょう!』


 あぁ…。何ていうか…。これは知らない方がよかったんじゃないだろうか………。っていうか俺の純潔を俺の尻尾で散らす気か?勘弁してくれ………。


ティア「アキラ様がおられるのですからどこであろうとも、どのような敵でも何の問題もありません!」


 うん…。ティアはもう俺を信じてるっていうより思考停止だな。無条件に俺がいれば大丈夫だと思い込んでいる。


シルヴェストル「死んで生まれ変わればわしも性別が出来るじゃろうか?何故エンは性別が出来たのじゃ?わしはどうすれば出来ると思う?」


 えぇ?今それを考える時か?それとも気分を解そうとしてくれているのかな?まさか黄泉に入って出てきたら『はい!生まれ変わりました!性別が出来ました!』ってなると思っているなんてことはないよな……。


ルリ「………ルリはずっとあっくんと一緒。」


 うんうん。ルリが一番裏表がない。ガウも同じポジションだと思ってたけど、最近は時々妙に鋭くて色々わかっていながらはぐらかしているような気がするからな。


キュウ「きゅぅ…。ここがあの世なのでしたらお母さんとも会えるでしょうかぁ?」


 そうだったな…。今回の戦争のせいでキュウだけじゃなくて多くの血縁者や仲間を失った者がいる。恐らく黄泉に入ったからと言って会えないだろうが、そういう期待をしてしまうものなのかもしれない。


クシナ「本当に今更です。もう私は貴女に身も心も捧げたのですよ?そのような言葉、次はもう許しませんよ。」


 そうだな。もう皆の心はわかっているのにな。


シホミ「………わらわはこのような方々が居られる中に入っていけるでしょうか。」


 どうやらシホミは俺と嫁達の絆に自分も加われるのか心配になったようだ。


ウズメ「せやねぇ…。うちはシホミ様と違ってただの愛人やからそんなに気張る必要もないんやけど…。それでもご主人様と奥様方の間にはよう入れる気せぇへんわ。」


 うん?それは違うぞ?確かに嫁と愛妾に立場の差はあるようだが、俺にとってはどちらも大事な愛しい者達だ。立場に違いはあっても俺の愛に違いはない。ただの体目当ての愛人みたいに思われているとしたら心外だ。


ブリレ「大丈夫だよぉ。主様はボク達愛妾にだってちゃぁ~んと愛情を注いでくれてるよ。」


ハゼリ「ブリレの言う通りです。主様はハゼリのことも奥方様達と同じように愛してくださっています。」


 うんうん。ここにはいないけどオルカもな。愛妾達だって俺の愛する者達だ。


アキラ「それじゃ……、行くぞ!」


 俺は黄泉へと続くであろう門を開いたのだった。



  =======



 門を開いた先に広がる光景。………これが黄泉なのか?


アキラ「何ていうか…。思ったのと違う。」


一同「「「「「うんうん………。」」」」」


 俺の言葉に全員が頷いてくれる。それはそうだろう。目の前に広がる光景はとてもこれが黄泉とは思えない。


 派手に輝くネオンのようなものがありまるで歓楽街のようだ。これならまだ根の国の方があの世だと言われた方がしっくりくる。


 ただし派手なのは建物や電飾のようなものだけであり、人の気配はまったくない。無人の荒野にポツンと人っ子一人いない歓楽街の建物だけがある。


 それはそれで不気味ではあるが、この派手でけばけばしい景色が黄泉だと言われても納得がいかない。


ツクヨミ「くくくっ。よく来たな。」


 その派手な歓楽街の中から一人の人物が歩いてきた。気配はまったく感じないが……。その男のことはよく知っている。ツクヨミだ。やはり死んではいなかったようだな。


 それにしても…。今目の前を歩いてきているのにまったく気配を感じない。もしかしてだが…。この歓楽街のような場所にまだ他に誰かいるんじゃないのか?ただ俺達が気配を感じることが出来ないだけで……。


 そう考えれば人っ子一人いない所にポツンと歓楽街があるのではなく、この中には普通に誰かいるが俺達が感知出来ないだけという方が説得力がある。


 そもそもそれは何もおかしくはない。ここにいる者達は、俺達の世界でわかりやすい言葉で言えば死者とか幽霊とかそういうものに近い。当然普通の人間には死者や幽霊は見えない。むしろそんなものが見えていたら大パニックになる。


 だから俺達も幽霊の気配を感じることが出来ないだけだと考えればある程度納得がいく。だとすればかなり厄介だな。敵がどこかに潜んでいても感知することが出来ない。


 俺達は今まで不意打ちを食らうことなどほとんどなかった。マンモンのように消える能力であったり、タケミカヅチのように姿をくらます術を使われることはあったが、全ての敵を感知することが出来ずこれからどれだけ不意打ちを受けるかわからない状況というのは初めての経験だ。


 そういう状況に慣れていない俺達は不利かもしれない。気を引き締めておかないと何が起こるかわからないだろう。


アキラ「お前もしつこい奴だな。」


 まずは何か情報が聞けないかと思ってツクヨミと話してみることにする。


ツクヨミ「それは違うな。ここまで全て俺の予定通りだ。」


アキラ「なるほどね。それでこれからどうするんだ?」


 これであっさり答えてくれたら余計な気を使わなくて済むんだが……。


ツクヨミ「なぁに。難しいことは何もない。戦ってもらうだけだ……。お前達が死ぬまでなぁ!!!」


アキラ「―ッ!」


玉藻「ちっ!」


ガウ「がうっ…。」


 ツクヨミの言葉が合図だったのか見えない何かに攻撃を受けた。後ろから聞こえる声からすると皆も見えない何かに攻撃を受けているのだろう。


シホミ「きゃぁ!」


ウズメ「いたぁ~!」


 ちっ…。まずいな。敵の姿がまったく見えない。それに俺の装備を貫通して攻撃してくる。………いや、これは…、ただの攻撃じゃない。


 この攻撃を受けるたびに生命力そのものが削り取られている?防御無視で生命力そのものを削ってくる攻撃なんて反則だろ。面倒臭い敵だ。


 だがそのお陰で対処法がわかった。恐らくではあるがこれで何とかなるだろう。


アキラ「出て来いバフォーメ!」


バフォーメ「メエエェェェ!!!」


 俺のチョーカーが外れてそこそこのサイズの羊が出てくる。髑髏部分だけ分離している時とは違う。今は手加減してる場合じゃないからな。


アキラ「いくぞ…。召喚門!」


 俺はボックスとの空間を繋げて開く。ただしこれはただボックスとの出入りを繋げているいつもの門とは違う。悪魔召喚魔法陣を組み合わせたもので、これを潜って出て来た悪魔達は俺との繋がりが出来、外で死んでもボックス内に戻る仕掛けになっている。


 そうだ。俺が今呼び出したのは魔の山で拾ってバフォーメの配下にした悪魔達だ。ずっとボックス内に住ませたままだったが今こそ役に立ってもらおう。


アキラ「出て来い悪魔共!」


悪魔共「「「「「うおおおぉぉぉ!!」」」」」


 バフォーメを先頭に門からワラワラと悪魔共が出てくる。バフォーメは存在そのものを分けているからどちらが本体、どちらが分身ということはない。どちらもバフォーメの本体そのものだ。


バフォーメ「メ゛エ゛エ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛~~~ッ!!!」


 二体のバフォーメが合体して本来のバフォーメへと戻る。その力は………。うん…。知らない。俺は何も見てない。関わってない。俺がこんな怪物を作り出したわけじゃない。


 それにこの悪魔達……。受肉させた時点で俺の神力の塊だったわけだから常識外れだったのは最初からだが…。俺のボックス内で暮らしボックス内の物を食して生きてきたのだから…、そりゃあもう…、大変なことになってる。


 これも知らない。俺のせいじゃない。俺は何も見てない。


 何故今悪魔共を呼び出したのか。それはもちろんこの見えない敵の相手をさせるためだ。俺達は幽霊のような敵を感知出来ない。


 だが姿が見えず物理防御を無視して生命力だけを削りに来るというのは何かを思い浮かべるだろう。そうだ。悪魔達がそれに近かった。ただし違うのは悪魔達は生命力ではなく神力を削ってくるということだ。


 だがどちらも結局は同じこと。こいつらは謂わば精神生命体だ。だからいくら受肉させてあるとは言っても同じ精神生命体である悪魔共ならば相手に出来るだろうと思って呼び出したのだ。


ツクヨミ「ふん…。悪魔を呼び出したということは我ら真なる月人種の秘密に気付いたようだな。だがたかが悪魔共如きに何が出来るというのだ?くくくっ!やれっ!」


アキラ「………なるほどな。こちらがお前達を感知出来ないように、今お前達は俺達のことを感知出来ていないようだな。」


 もしこちらの力を感知出来ているのならこんなに平然としていられるはずはないからな………。


アキラ「まぁいいか…。やれバフォーメ。敵を殲滅しろ。」


バフォーメ「メ゛エ゛エ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛~~~ッ!!!」


 ほんとに化け物だな…。そりゃもちろん俺や嫁よりは弱いけどそれ以外の者から見たらもうこのバフォーメは本物の化け物だ。普段の小っちゃい姿が可愛いから俺ですら騙されてた。全然可愛くないどころか洒落にならない化け物になってしまった………。


 俺の命令でバフォーメと悪魔達が一斉にツクヨミの周りに襲い掛かる。何もない空間で一人で暴れているだけのように見えるが、俺達は感知出来ないだけで敵と戦っているのだろう。


 そして見えなくとも悪魔共が圧倒的に押していることはすぐにわかる。倒れた悪魔は一体もおらずどんどんとツクヨミの方へと迫っている。これは考えるまでもなく圧倒している証拠だろう。


ツクヨミ「馬鹿なっ!馬鹿な馬鹿なっ!こんなことがあるはずはない!」


バフォーメ「メ゛エ゛ェ゛ッ!」


 そしてとうとうバフォーメがツクヨミの前に立つ。だがいくらなんでもそれはやりすぎだろう。バフォーメが滅茶苦茶強くなったとは言ってもまだツクヨミに勝てるほどではない。


 その上今のツクヨミはゲッカで会ったツクヨミよりも強いだろう。このままではバフォーメが殺されてしまう!


 ……なんてな。実は慌てるほどのことじゃない。さっき言った通り俺の門を潜って出て来た者達は例え外界で肉体を破壊されても俺のボックスへと自動的に戻る。だから肉体を破壊されても滅されることはない。


 そしてもう一つ……。多分バフォーメでも勝てる方法がある。それは真の力を解き放つこと……。試したことがないからどうなるかは未知数だ。けど多分真の力を解き放てばバフォーメが勝つだろう。


 だが……、真の力と解き放つというのは俺が握っているバフォーメの力を返すということ。それは即ち俺がバフォーメを服従させている根拠を失うということでもある。


 もし力を返したバフォーメが俺に逆らってももう強制的に止めたり従わせたりする方法がない。もちろん力ずくで押さえつけることは出来るだろう。


 だがそれは今の絶対的な服従とは違う。いくらでも逆らえるバフォーメの気持ち次第の服従だ。今のように根本的に俺に逆らえないものとは違う。


 ツクヨミを倒すだけならバフォーメを解き放つ必要はない。何なら俺がツクヨミを殺せばそれで終わりだ。だがバフォーメは今ここでツクヨミと戦いたいらしい。


 どうする?バフォーメを解き放つか?このまま戦わせて負けてボックスに戻ったって何の問題もない。だが解き放って俺に従わなくなれば大惨事になるだろう。ここは黄泉の国だから暴れて壊されても困らないがそういう問題じゃない。


ツクヨミ「ふざけるなよ!たかが悪魔如きが!」


バフォーメ「メ゛ェ゛ェ゛ッ!」


 今は善戦している。しかし確実に負けるだろう……。はぁ…。仕方ないな。


アキラ「真の名を返すぞ。その力を解き放て『バフォメット』!」


 俺はバフォーメを、いや、バフォメットを解き放ったのだった。



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