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転生無双  作者: 平朝臣
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第百五十一話「根の国」


 まったく…。良い所でいつも余計な邪魔が入る……。そもそも根の国が現れたとか言われても意味がわからない。


アキラ「根の国って何だ?」


 一応日本で聞いたことはあるがこちらと同じとは限らない。念のために確認しておく。


ヤタガラス「根の国とは常世とこよ現世うつしよの間にある国です。根の国が常世の蓋の役割となっていて生者と死者が混ざらないように分かれているのです。」


 ふむ…。日本で聞いたのと大差ないな。ただ日本では根の国も黄泉の中にあるとか、黄泉の国が根の国だとか色々と解釈がある。もちろん今ヤタガラスが言ったように黄泉へと通じる手前にある国という解釈もある。


 こちらの世界では現世と常世を分ける境にある場所のようだな。それはつまりヨモツオオカミと出会った辺りと似ているのかもしれない。


 あそこも現世と常世の狭間のような場所だった。あるいはあれが根の国の一部だったのかもしれない。


アキラ「それで……、根の国が現れたってどういうことだ?実在してる国だったんならそりゃあって当たり前じゃないのか?」


ヤタガラス「根の国は通常、普通の者には見えないとされています。根の国に入るには門を通らねばならず、根の国から常世に入るにももう一つの門があると言われています。」


アキラ「つまり本来ならばこの世界から干渉出来ない場所にあるはずの根の国が干渉出来る所に現れたと?」


ヤタガラス「そういうことです。」


 なるほどな。本来その門とやらを通らなければ根の国には行けず、お互い門以外で干渉し合う事が出来ないはずの根の国が、今この世界のどこかに現れたというわけだ。


 ヨモツオオカミと会った場所にも巨大な門があった。つまりあれが根の国に入る門か、もしくは根の国から黄泉の国へと入る門だったのだろう。


アキラ「それはわかったがそれに何の問題がある?」


 例え根の国が地上に出て来たとしても常世の黄泉の国の蓋をきちんとしているのなら何も問題はないように思う。


ヤタガラス「根の国は…、アキラ様のお父上…、スサノオ様が治めるようにとスサノオ様の父、アキラ様の祖父にあたる方がお決めになられたのです。ですので本来スサノオ様の統治領域は根の国となるはずだったのです。」


アキラ「ふむ…。それで?」


 それだけなら問題は何もない。もっとヤタガラスが慌てるだけの何かがあるはずだ。


ヤタガラス「そこでスサノオ様が生者と死者を分かつために門を設置して封印を施しました。ですが今根の国が現れてその門と封印が曖昧になりつつあるのです。」


アキラ「………生者と死者の区別がなくなりつつあると?」


ヤタガラス「はい……。」


 なるほど。それはまずいな。死んでいる者が往来を歩き回り、生きている者が地獄の業火に焼かれる。世界が混乱するどころの騒ぎじゃない。


アキラ「じゃあさっさと止めるしかないな。場所は?」


ヤタガラス「………わかりません。申し訳ありません!」


 ヤタガラスは思い切り頭を下げた。怪異が起こっていることから根の国が現れて封印が弱まっていることはわかるが、その場所がどこかは特定出来ないとのことだ。


 俺の空間把握能力をもってしてもそんな異常は感じられない。その根の国とやらがどこにあるのかわからなければ手の打ちようもない。


フリード「おい………。死者が歩き回るってまさか………。」


アキラ「…そうだな。フリードが見てきたものだ。あれがそうだろう。黄泉の国の食べ物を口にすると黄泉の国の住人になると言う。つまり…、デルリンで掘っていたのは根の国に通じる道。そして道が通じた時に根の国から黄泉も少し溢れたんだろう。その影響で黄泉の食べ物となったものを食べた者は皆黄泉の住人となった。」


フリード「マジかよ…。クソッ!俺の町になんてことしてくれやがったんだ!ツクヨミの野郎!」


 フリードの記憶で見たものと合致する。全ての辻褄が合うだろう。


 太陽人種を犠牲にして穴を掘り、アマテラスに情報が流れないように自分が操作する。リビングデッドのようになったデルリンの住人達や太陽人種達は黄泉の国の食べ物となった物を食べてしまったからああなった。


 そしてゲッカで見た何かの儀式の痕跡。あれは黄泉へと自らの魂を送る術だった。ツクヨミは自らの魂の大半を黄泉に送って黄泉の蓋を開いた?何のために?それだけがわからない。


ヤタガラス「アキラ様。よく黄泉の国の食べ物を食してはならないと御存知でしたね?」


アキラ「あ?ああ…。まぁ…、な。ヨモツオオカミはそれで困ったからな。」


 日本の知識だけどな。ヨモツオオカミは黄泉の国の食べ物を食べて黄泉の住人になってしまった。だから夫が探しに来た時に一緒に帰ることは出来なくなっていた。


 ヨモツオオカミの話はともかく食べてはいけないのが合ってるかどうか確認もせずに合っている前提で考えてしまっていた。もしヤタガラスが違うと言っていたら全て辻褄が合わなくなるからな。


ヤタガラス「―ッ!アキラ様!何故その名前を知っておられるのですか?」


 ヤタガラスが厳しい表情で俺を見つめる。


アキラ「何か問題があるか?北大陸のパンデモニウムに居た時に会ったことがある。」


ヤタガラス「………そうですか。それで何もされなかったのですか?」


アキラ「祖母が孫に何かするのか?ヨモツオオカミは良い祖母だったぞ。」


 何かヤタガラスの中ではヨモツオオカミは悪者扱いみたいだな。


ヤタガラス「イザナギ様は…、あっ、アキラ様のご祖父ですが…、イザナギ様は黄泉にてヨモツオオカミにひどい目に遭わされほうほうの体で逃げ帰ったと言っておられましたので……。」


アキラ「あぁ…。それはイザナギが悪い。自分から嫁を探しに行ったくせに腐り爛れたヨモツオオカミを見て逃げ出したのだ。だから怒ったヨモツオオカミがイザナギを追いかけた。」


 多分な?日本の神話じゃそうだからそういうことにしておく。こっちの世界では違うかもしれないが…。違ってもいいだろう。


ヤタガラス「なるほど……。そういうことでしたか。」


 どうやらヤタガラスもイザナギの方が悪いと判断したようだ。少なくとも俺と会ったヨモツオオカミは悪い者ではなかった。謂れのない悪評は聞かされる俺も気分が悪い。訂正されたのならよかったと思っておこう。


フリード「そんなことより早く親父達に知らせないと!」


アキラ「ふむ…。まぁ心配いらないだろ。ガルハラ帝国軍はデルリンに入るどころか現在押されつつある。デルリンの食べ物を食うどころか近づけもしない状態だ。」


 ガルハラ帝国軍はデルリン郊外で地上用の魔砲で応戦しているようだが、太陽人種にはまるで通用していない。徐々に押されて後退させられている。


フリード「そうか…。けど知らせておいた方が良いのは変わらないだろ?」


アキラ「そうだな。それに俺は根の国に行く必要がある。外にいる太陽人種のゾンビ共はヤタガラスとフリードに任せるか。」


 偶然か狙っているのか。恐らく海上の艦隊に少しでも近づけるために狙っているのだろうが、ガルハラ帝国軍が後退することで敵を引き付けている。


 これを利用してヤタガラス達海人種と、海上のカムスサ・ガレオン艦隊、それから地上のガルハラ帝国軍で連携して敵を殲滅する。


 俺達はその隙にデルリンへと侵入して根の国へと向かう。この作戦がベストだと思う。


フリード「なるほどな。親父が引き付けていたのはガレオン艦隊の砲撃の効果を上げるためだったが思わぬ効果もあったようだな。」


ヤタガラス「それよりもアキラ様が根の国に乗り込まれるというのは賛成しかねます。」


 ヤタガラスは俺が危険になるのを認めないようだ。面倒だな。


アキラ「だったらより良い案があるのか?大人数で乗り込むとかは却下だぞ。根の国は危険だ。下手に大人数で行っても戦力にならないどころか敵になりかねない。」


 黄泉はツクヨミの領域だ。そしてその黄泉へと繋がる根の国も恐らくツクヨミに占領されているのだろう。それがヨモツオオカミの言っていた愚息が侵略してきているといっていた話だ。


 そして死んだ者は黄泉の国の住人となる。黄泉の支配者になっているツクヨミは恐らく黄泉の住人達を操れるのだろう。だからヨモツオオカミはあっさり敗れその地位を追われたのだ。でなければもっとヨモツオオカミの側につく者もいたはずだからな。


 つまり下手に大勢連れて行ってその者達が死ねば敵になるのだ。だから連れて行く者は厳選しなければならない。あっさり殺されて敵になるような足手まといを連れて行けば余計に状況が悪くなる。


ヤタガラス「それは……、そうなのですが……。」


 どうやらヤタガラスには対案はないようだ。


アキラ「対案がないのなら俺の案で決まりだ。文句があるならより良い案を出してみせろ。」


 これで反対する者は誰もいなくなった。俺達が乗り込むということが決まって人員を選ぶ。とは言えどうせいつものメンバー全員だ。親衛隊は世界各地に散っているからもういいだろう。迎えに行ってまで連れて行く理由はない。


フリード「俺もアキラと一緒に行く!」


アキラ「アホか。お前がいなくなったらこの艦隊はどうする?地上のガルハラ帝国軍を見殺しにするつもりか?」


 地上の帝国軍が引き付けて艦隊で撃滅する作戦だったのだ。フリードが艦隊を指揮しなければ地上の帝国軍はまともな援護を受けられずに壊滅することになるだろう。


フリード「それは…、そうだが…。けど!そうだ!海人種達が太陽人種達を抑えてくれるんだろう?なら俺が艦隊指揮から離れても大丈夫なはずだ。」


ヤタガラス「我らはアキラ様のためだけに存在する。わざわざアキラ様の仲間や知人を殺そうとは思わないが我らの身の危険を冒してまでは助けない。助かりたければ自力で何とかするがいい。」


 ヤタガラスがあっさりとフリードの言葉を斬り捨てる。そう言われてはフリードは引き下がるしかなかった。


フリード「ちくしょぉ…。あいつらだけは許せねぇのに…。俺の手でデルリンの仇も討てないのかよ…。」


 ふむ……。フリードが男泣きしている。いつものようにただ俺に付いていきたいとかそんな理由じゃないんだな。


 フリードの悔しさもわかる。俺だって仇を討たせてやりたいという思いもある。だが実際にフリードでは俺達にはついてこれないし、ここの指揮を離れるべきではないのも本当だ。何も意地悪や面倒だから言ってるわけじゃない。


アキラ「帰ったら………。」


フリード「…ん?」


アキラ「………戦いが終わって帰ってきたら、前に言っていたデルリンの案内に連れていってもらおうか。」


フリード「………。」


 いつかフリードが俺をデルリン観光に連れて行くと言っていた。結局色々あって今まで観光に行くことは出来ていない。そしてもうフリードが俺に見せたかった町は二度と見せられないだろう。


 それでも…、新しい町を…、一緒に見に行こう。俺にはフリードを慰める術はないけど……。他に何も浮かばないけどせめてこれくらいは……。


フリード「アキラぁ~~!!!それってつまり俺と結婚するってことだよな!なっ!なぁ!!!」


アキラ「この馬鹿!抱きつくな!離れろ!何で一緒に観光に行くのがお前と結婚することになるんだ!結婚するのはシホミとだ。お前とじゃない!」


 いきなりフリードが抱き付いてきた。俺が結構本気で押し退けようとしているのにビクともしない。どうなってるんだ?


フリード「すーはー!すーはー!良い匂いがする!柔らかい!前より大きい!」


アキラ「この馬鹿!何匂い嗅いでるんだ!やめろ!ちょっ!マジでやめて!」


 こいつ何気に胸に顔を埋めて匂いを嗅いでやがる…。それにあちこち揉んだりさすったり…。


フリード「アキラぁ~!」


アキラ「こっのっ……。いい加減にしろ!」


 ………

 ……

 …


 この後フリードは全身がぐちゃぐちゃになった。もうちょっとで全身を人体創生の術で作らなければならないことになるところだった。


 けどこいつが悪いんだから知ったことじゃない。あんなに俺の胸を揉みやがって………。


ロベール「フリッツ…。お前もうちょっと学べよ…。そういうことするからお嬢ちゃんと進展しないんだぞ?」


フリード「何だと?!それはどういうことだ!?」


ロベール「折角お嬢ちゃんが優しい気持ちで接してくれてる時に、それにつけこんでスケベなことするからお嬢ちゃんの我慢の限界を超えていつも殴られるんだよ。そこでスケベに流されないでもっとお嬢ちゃんの心を大事にしてたら、お前今頃お嬢ちゃんと結ばれてたかもしれないぞ?」


 ロベールにしては言っていることは正しい。ただし俺とフリードが結ばれるということ以外はな。普通の女性の扱いならまったくもってロベールの言う通りだろう。


 ちょっと親しくなったからと思ってすぐに手を出そうとしていたら、普通の女が相手でもビンタの一発や二発食らうことになるだろう。


フリード「そうか?そんなことないだろ?俺が今まで付き合ってきた女達は俺が強引に押し倒したら喜んでたぞ?」


 あぁ…。こいつはそれを基準に考えてたのか…。馬鹿だ馬鹿だとは思ってたがこいつも本物の馬鹿だったらしい。


ロベール「フリッツに好意があったり玉の輿を狙ってる女なら、フリッツに抱かれたがってるんだから押し倒されて喜ぶのは当たり前だろ?お嬢ちゃんはそういうことを望んでないんだよ。それをフリッツに気持ちを向けさせることからしなきゃならねぇんだ。それをすっ飛ばして押し倒そうとするからいつもぶん殴られるんだよ。」


フリード「そうか…。そうだったのか……。これでようやく長年の疑問が解けた…。助かったぜロディ!これでアキラは俺の女になったも同然だな!はっはっはっ!」


 こいつは……。俺が目の前にいるのによくもまぁそんなことが言えるもんだ。この図太さはある意味羨ましい。


アキラ「もういいか……。疲れた。それじゃさっさと根の国に乗り込もう。シホミはどうする?」


 シホミはまだ俺の嫁じゃないし海人種と月人種の戦争に参加する理由もない。だから俺は決めない。シホミの気持ちを優先する。


シホミ「もちろんわらわも同行いたしますわ。妻たる者、夫に付いて行くのは当然のことですわ。」


 ふむ…。まだ夫婦じゃないわけだが……。まぁいいか。本人が行きたいのなら連れて行けばいい。


アキラ「それじゃ行こうか。大転門。」


 俺はいつもの嫁と仲間にシホミを加えたメンバーで最後の地へと向かったのだった。



  =======



 まず出たのはデルリンの市街付近だ。いきなり掘っている穴の近くや中に出るほど大胆ではない。それに俺の空間把握能力をもってしてもその穴とやらの中は感知出来ない。


 別空間のようになっているからか?そう言えば全世界を把握出来ると言っても精霊の園などのような異界は感知出来ていない。


 つまり俺は俺がいる世界しか感知出来ないのだろう。少なくとも現時点での空間把握能力の限界はそこなのだ。………本当はもっと知れるけどな。それをすると俺の精神の方が参るだろう。何しろ無限にあるとすら思えるほどの全ての空間を認識して把握することになるんだからな。


 負担が大きいし知りたくないことまで知ってしまう。だから普段は無意識のうちに全ての空間を把握しないように能力を制限しているのだろう。


アキラ「ここからは歩いて穴に近づこう。」


 俺の言葉で皆が動き出す。そっと穴があるという場所に近づいてみるとまだ結構な数の太陽人種のゾンビ達が歩き回っていた。


 俺達の気配はまだ察知していないようだが明らかに穴を守るように動いている。こいつらは警備係りのようなものなのだろう。


アキラ「どうする?正面から乗り込んで敵に見つかったら恐らく仲間が集まってくるぞ。」


 こいつらはあくまで歩哨だろう。だからこいつらが敵に気付けば仲間を呼ぶはずだ。それがどこまで届くのかは知らないが、折角ガルハラ帝国軍が敵を引き付けてくれているのに俺達が見つかって敵が戻ってきたら折角の苦労も無駄になってしまう。


玉藻「別にいいんじゃないかい?強行突破で十分だろう?」


 玉藻は身も蓋もないな。確かにここの全太陽人種が集まってきても大した敵じゃないがそれじゃ折角の作戦も台無しだ。


シルヴェストル「余計な戦闘はする必要ないのじゃ。やつらはわしらを見つけられんのじゃからこのままこっそり侵入するのが良いのじゃ。」


 うんうん。シルヴェストルは冷静だな。今は撫で撫で出来ないけど良い子だからにっこり微笑みかけてあげよう。


シルヴェストル「はうっ!アキラの笑顔が眩しいのじゃ!アキラぁ~!」


 あぁ…。結局俺の胸に飛び込んできてしまった。まぁいいか。可愛いし。撫で撫で。


シルヴェストル「ふにゃぁ…。」


 まさに骨抜きって言葉がぴったりなくらいふにゃふにゃになってるな。可愛くてちょっと面白い。


ミコ「うふふっ。皆殺しでいいんじゃないかな?かな?」


キュウ「ですねぇ。アキラさんの敵は全て滅殺あるのみです!」


 いやいや…。この二人本当に変わりすぎだろ…。殺意の波動にでも目覚めたんですか?ちょっと怖いんですけど………。


ルリ「………どうでもいい。さっさと行こう?」


ティア「見つからないのならこのまま行きましょう。」


ガウ「がうがう。」


 うん…。皆いつも通りだな。黄泉の国へ行けば生きて帰れないかもしれないとは伝えてあるはずだが……。


クシナ「なるべく見つからないように行って見つかったら戦う。それで良いではありませんか。」


フラン「そうですね。それしかないかと。」


 うんうん。俺達の良識はクシナとフランだな。別に偽善も言わないし冷静に一番良い案を考えてくれる。


アキラ「それじゃ出来るだけこっそり行って見つかったらその時考えよう。」


シホミ「わらわが説得いたしましょうか?」


 そこへシホミがおずおずと声をかけてきた。


アキラ「多分それは無理だな。あいつらはもうただの太陽人種じゃないんだ。生ける屍。恐らく黄泉の主であるツクヨミに操られているから説得は無理だ。」


シホミ「そう…ですか…。」


 何か悲しそうに顔を伏せる。そういう表情をされるとちょっと俺の胸がチクチクしちゃうだろ…。


アキラ「誰か知り合いでもいるのか?」


シホミ「いえ…。ええ…。何と申しましょうか…。顔見知りという意味で言えば全ての太陽人種は顔見知りですわ。ですが親しい方と言えばここにはおりません。ただ…、余計な犠牲は出したくないので……。」


アキラ「なるほどな。シホミは優しいんだな。だがな…。こいつらはもう死んでると思っておけ。確かに生命としてはまだ生きていると言えるがこいつらはもう死人も同然であり救う方法もない。それならばせめて誇り有る死を与えてやるのが最後の慈悲だ。そこを履き違えては駄目だぞ。」


 少し厳しい言い方になってしまったがシホミが太陽人種達への憐みで思わぬことをしないように釘を刺しておく。


シホミ「はい……。わかっておりますわ。」


 ふむ…。その表情は憐みを含んでいるが覚悟のある顔をしている。いざとなれば同種達とは言え遠慮も手加減もしないという覚悟が見える。これなら大丈夫か。


アキラ「それじゃこっそり侵入するぞ。」


 俺の言葉で全員が気配を消してそっと動く。太陽人種達は物陰に隠れて気配を殺している俺達に気付くことなく歩哨を続けている。


 しかしずっと物陰があるわけでもなく、ある程度近づいたら一気に駆け抜けなければならないような場所もある。


 そしてようやく穴の一番近くまで近寄った。とは言ってもまだ数百メートルはある。だがここから穴までは何も障害物がない。ここを通り抜けるのは一気に駆け抜けるしかないのだ。


 そしてうまく気付かれずに穴に飛び込んだとしても穴の先がどうなっているのかはわからない。空間把握出来ていないので穴の中にも誰かいるとしても入ってみなければどこにいるかもわからないし、構造がどうなっているかもわからない。


 隠れるところもないような構造だったならば中にいる太陽人種達にすぐに見つかってしまうだろう。だがここで考えていても状況が良くなるわけじゃない。一か八かで一気に駆け抜けて穴に飛び込むことで全員が納得した。


アキラ「それじゃ行くぞ…。三…、二…、一…、今だ!」


 俺の合図で全員が駆け抜ける。全員光を超える速さだから見つかる心配はない……、と思ったがシホミだけ遅い。


アキラ「…悪いが抱かせてもらうぞ。」


 シホミが遅いことに気付いた俺は有無を言わせず抱き上げて走り抜けた。ほんの僅かなロスはあったが一旦シホミを抱き上げに戻った俺が一番最初に穴に飛び込んだんだから時間的には問題なかっただろう。


シホミ「………え?あれ?」


 どうやらようやくシホミの思考が追いついたらしい。今自分が俺に抱き上げられていることにようやく気付いたようだ。だがもう後戻り出来ないほど敵地のど真ん中なのでシホミのことは気にせず進めることにする。


 飛び込んだ穴は何もなく完全にただの穴になっているようだ。直径5kmほどか?かなり大きな穴だな。側面には何もなくただ落とし穴のように真っ直ぐ掘ってある。


 入ってわかったがこの穴はかなり深い。そして下にはまだ太陽人種達がいるようだ。仲間を呼ばれたら面倒だから降りたら即座に黙らせる必要がある。


 例え声や何らかの合図をしなくとも敵が何らかの方法で情報を共有していて、戦闘になった時点で敵にバレるのかもしれないが、それを言ってたらキリがない。


 もう敵が下に居て接触することは避けられないのだから、現時点で考え得る最大限の努力をするしかないだろう。


アキラ「下についたら敵を黙らせるぞ。」


玉藻「はいよ。」


 嫁達が頼もしく頷いてくれる。その顔は結構好戦的だ。あるぇ?俺の嫁達ってこんな肉食獣みたいな感じだったっけ?もっと可憐な嫁だった気がするが?


ティア「アキラ様の尻尾のせいです。アキラ様の尻尾からこういう気持ちが流れてくるのです!」


 あぁ…、そう?そうなのか?そうなのかもな?………。確かに俺は好戦的だから否定は出来ない。それに影響されていると言われれば納得するしかないだろう。


ミコ「もう着くよ。ふふっ…。うふふっ!こっちは私に任せて!」


キュウ「それでは私はこちらを…。」


 おい…。ミコとキュウが自分の担当と言った範囲で全ての敵が含まれている。つまり二人で半々、俺達にはなしってことになる。


 まぁいいか…。二人がやりたいならやらせよう。失敗することはないだろう。


ミコ「はい、おしまい。」


キュウ「つまらないですぅ。」


 降りた瞬間二人は瞬く間に下にいた太陽人種達を皆殺しにした。甚振るとかいうことはなかったけど、完全に殺すための攻撃を躊躇なく使う二人は、やっぱりいつもの二人とは思えないほど変わっている。


ミコ「アキラ君はこんな私は嫌い?」


キュウ「アキラさぁん…。」


 二人が俺の左右に抱き付いてくる。


アキラ「俺の心がわかってるんだろう?嫌いなわけないだろ?どんなことがあったって俺はミコも、キュウも、ずっと愛してるよ。」


クシナ「イチャイチャするのは後です。幸い敵に気付かれなかったようですし早く先へ進みましょう。」


 クシナの冷静な言葉で現実に引き戻される。けどクシナもこっそり俺の後ろから腰に手を回してきているぞ…。しかもそれって普通男が女にするんじゃないのか?クシナの方がでかいから仕方ない部分もあるかもしれないけど、何か俺の方が女役みたいじゃないか。


アキラ「これか…。」


 穴の底には巨大な門があった。見た目の雰囲気はヨモツオオカミと会った場所にあった門と似ているが別のものだと俺にはわかった。


アキラ「それじゃ…、これが最後の戦いになることを願って。いくぞ!」


一同「「「「「はぁ~い。」」」」」


 ………何か気が抜ける返事だな。皆本当に気合が入っているのだろうか?軽く考えてそうな気がするぞ。


 まぁいいか。とにかく俺は根の国への門を開いたのだった。



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