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転生無双  作者: 平朝臣
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閑話28「デルリン攻防戦」


パックス「原因がわかったぞフリッツ!」


 俺達が間借りしている小屋にパックスが駆け込んで来た。皇太子邸になど戻れるはずもないし町も大半が機能していないから宿もほとんど開いていない。


 デルリンにも拠点を持っていた商人達は自分達の店や倉庫を利用しているが、今回商機だと思って新たにやってきた者達は、拠点を持っていた商人達の小屋や倉庫を借りている場合がほとんどだ。俺達も今回初めてやってきた商人の振りをしているから他の商人達のように小屋を借りている。


フリード「落ち着けよ。まずはそこに座って茶を飲め。」


 あまりに慌てているパックスを落ち着かせてから報告を聞く。


パックス「ごくっ…ごくっ…、はぁ…。どうやらこの町にいる住人や太陽人種達がおかしくなったのは食い物のせいらしい。」


フリード「食い物?どういうことだ?」


パックス「あぁ…。何度もここに足を運んでいる商人から話を聞いたんだがな………。」


 太陽人種達がここを占領してすぐには何もなかったらしい。ただ穴を掘り始めて暫くしてから黒い光が溢れて町を覆ったのを遠くから目撃した者がいた。


 それでもまだ町は何ともなくて住人達も太陽人種達も黒い光の後でも普通だったようだ。しかし徐々に皆今のように生気を失ったかのようになり始めたらしい。


 外から来ている商人や旅人はそうはなっていないのに住人や太陽人種達だけがそうなっていることから、やはり黒い光の影響かと思ったようだ。


 だが黒い光が収まった後でやってきたはずの者にも同じ症状が出る者が出始めた。それはつまり黒い光を直接浴びたことが原因ではないということだ。


 そしてそうなる者とならない者をよ~く調べてみてようやくわかった。それが食べ物。黒い光が溢れるまでにこの町にあった食べ物を口にした者は皆ああなる。


 行商人達は自分達で持ち込んだ食料を食べていたから発症者が少なかったのだ。それでも中には町の食べ物を食べて発症した者もいる。そしてそのお陰でようやく原因がわかったというわけだ。


 もちろん俺達も行商人の振りをして補給品を持ってきていたからそれを飲食している。俺達がやってきた頃にはもう町の宿も飯屋もほとんど開いてなかったから大丈夫だっただろうが、自分達で食料を持ち込んでいて助かった。


 もし食べていたら俺達も今頃はああなっていたんだからな………。偶然とは言え助かった。


ロベール「なるほどなぁ…。店番がいないからって拾い食いしなくてよかったぜ。」


 そこへ巡回に出ていたロディが帰って来た。ロディも今の話を聞いていたようだ。


フリード「それは拾い食いじゃなくて窃盗だからやめろよ。」


ロベール「わかってるって。冗談だよ冗談。」


 盗んで食いはしないだろうが、金を置いていけばいいだろうと店番がいなくても店の物を食べてくる可能性はあったからな。


フリード「それでああなった者を戻す方法はないのか?」


パックス「ない。人間族の知識どころか太陽人種の知識でも治せないようだ。」


フリード「おいっ!まさか太陽人種達と接触したのか?バレたらどうする気だ?」


 パックスの言葉に驚いた。太陽人種でもどうにも出来ないということを知っていると言うことは会って来たということだろう。


パックス「俺達は商人として補給物資を売りに来たんだろ?だったら話をしないでどうするんだ?」


フリード「それはそうだが…。振りだけでいいだろう?直接交渉するなんて危険じゃないのか?」


 確かに補給物資を売りに来たはずの商人が何も商売をしようとしなければ、それはそれで怪しまれるかもしれない。けど今下手に動いて注目されたらその方が危険じゃないのか?


パックス「大丈夫だ。抜かりはない。すでに太陽人種と取引している商人に仲介してもらって顔合わせと世間話をしてきただけだ。」


 何というかまぁ…。こいつは俺には危険なことはやめろって言うくせに自分はかなり危険なことをしてるじゃないか………。そこが頼もしい所でもあるんだが…。


ロベール「過ぎたことを言っても仕方ねぇだろ?話の続きを聞こうぜ?」


 それはそうなんだがそういうことじゃないだろう?けど確かにここで蒸し返していても意味はない。パックスに先を促す。


パックス「どうやらまともに残っている太陽人種の部隊はガルハラ帝国軍の追撃に出ていた部隊だけのようでな。その部隊が戻ってきた時にはもう町はこうなっていたらしい。」


フリード「おい!それってやっぱりガルハラ帝国軍は撤退戦をしてどこかへ逃げたってことか?」


 今まで俺達は脱出したはずの者達の情報を一切掴んでいなかった。だからもしかしたら脱出した者はほとんどいなくて、デルリンに駐留していた部隊も脱出したからいないのではなく全滅でもしたんじゃないかという考えまで浮かんでいた。


 それにしては死体の数と残っている者の数が合わないことになるが、あれだけ大きな穴を掘っているのだからもうどこかに埋めてしまったという可能性もあったからだ。


 しかしここで脱出した者と追撃に出た部隊の話が出たということは脱出しようとしたということは裏が取れた。ただまだその安否はわからないがな……。


パックス「ああ。最初に使者がここに勧告に来てから、時間を空けて攻め込んでみたらもうガルハラ帝国の者はほとんどいなくなっていたそうだ。残っていたのはこの町から離れたくない者だけ。他は皆脱出していたらしい。」


フリード「なるほどな…。道理で…。」


 町の住人が少ないのはほとんどの住人も帝国軍と一緒に脱出したからだろうと思っていた。そして残っている者は年寄りや長旅に耐えられそうにないような者が多いのだ。


 つまり帝国軍について行っても足手まといになると思って残った者や、この町から離れるのが嫌でこの町を枕に死ぬ覚悟だった者しか残らなかったのだろう。


パックス「それで一応追撃部隊を出したようだが、ガルハラ帝国軍のことなど大して気にも留めていなかったようだ。帝国軍を見つけられなくてもいいから一定期間過ぎれば戻って来いと命令を受けていたといっていた。」


フリード「ふむ…。人間族なんぞどれほど群れようが敵じゃないってか?」


 確かに実際そうなんだが、そこまで舐められるとちょっと腹が立つ。


パックス「それもあるがそれよりもこの町の穴を掘る方が重要だったみたいだな。敵なんて放っておいていいから穴を掘れってことだったようだ。」


 それはそれでおかしいというか何というか…。穴を掘ってる間に敵に襲われたらどうするんだ?だから襲われても大したことない人間族だからってことだろうけど、何も直接戦うだけじゃなく穴を崩して埋めるなり人間族にもやれることはあるはずだ。


 そういうことを放置して目を瞑ってでも急ぐ何かがあの穴の底にはあるっていうのか?あれは一体何なんだ?


パックス「それで追撃に出ていた部隊が戻ってきてみたら町も仲間の太陽人種もすでにこの有様だったらしい。追撃部隊の者も多くが同じようになり今では一部しかまともなまま残っていない。治そうにも太陽人種達にもわからないと言っていた。」


フリード「本国には連絡しないのか?残った者は馬鹿ばっかりか?」


 普通なら自分達の手に負えない事態になれば本国に連絡するはずだ。そんなことも出来ないような者達だったとしたら、俺の部下ならばその首を刎ねているところだな。


パックス「それなんだが………、どうやらここの責任者というか担当と言うかは月人種のツクヨミらしいんだ。そしてツクヨミに連絡しても『問題ない。そのまま進めろ。』としか返信がなかったんだと…。当然追撃部隊は不審に思っているがツクヨミが直接そう言うのなら逆らえないだろう?だからこうしてこの町に留まり命令を遂行しているそうだ。」


フリード「………なるほどな。太陽人種達の部隊が来ているのにここの責任者はツクヨミでそのまま続けろと…。そりゃ現場指揮官程度ならツクヨミにそう言われたら逆らえねぇよな。それで町の中の食料は危険だから外から補給物資を買っているのか?」


パックス「ああ。そういうことだ。」


 なるほど。かなり謎が解けてきたな。つまり恐らくではあるがツクヨミはこうなることをわかっていた。だから自分の子飼いの月人種ではなく太陽人種に向かわせた…。そして自分が担当になることでアマテラスに情報がいかないようにしている?


 となるとツクヨミはアマテラスにも隠している何かがある?太陽人種を犠牲にしてでもここでしなければならない何かが?


 それが何かを確かめるにはあの穴に近づくしかない。けど歩く死体みたいになってる太陽人種達の成れの果てでもあそこに近づこうとするとこちらを威嚇してくる。


 町で会ってもこちらに何の興味も示さないのにあの穴に近づこうとすると…、だ。つまり操られるようにあそこを守っている。そして穴を掘り進めているということになる。


 それはツクヨミが仕組んだことか?最初からここの穴を掘って守るように暗示のようなものをかけていた?


 その辺りはわからないがこれがツクヨミの狙い通り進んでいるのだろうということは想像がつく。このまま放っておくのは危険かもしれない。


 しかし俺達だけじゃ打つ手がない。俺が左腕の力を全開にすればある程度の太陽人種達は相手に出来るだろうがそれにも限界がある。


 あまりに強い相手には通じない上に敵の数も多すぎる。俺一人で相手に出来る戦力じゃない。どうすれば……。


パックス「それで最後になったが朗報だ。どうやら脱出した部隊は追撃部隊に出会うことなく逃げ切ったらしい。どこへ逃げたのか行方まではわからないが追撃部隊が発見出来なかったことは確実だ。」


フリード「………そうか。皆無事か。」


 これだけの戦力差ならば追いつかれていればほとんど全滅していただろう。恐らく即座に脱出に移ったために敵に見つかる前に離れることが出来たと思われる。へっ…、やるじゃねぇか親父。


パックス「どうする?もう俺達に出来ることはないと思うぞ?脱出した部隊の無事もわかったしいくらか情報も集めた。もう潮時じゃないか?」


フリード「う~ん………。」


 確かにパックスの言っていることもわかる。俺達がこれ以上ここで粘ってもどうにもならないだろう。ここにいる太陽人種達ですらこれ以上情報がないのだから、俺達が探っても何もわかることはない。


 それならもうここから脱出して情報を持ち帰ることの方が重要か?それに町の住人達に遠慮する必要はないと反撃部隊にも伝えなければならない。


 町の住人を守りながら戦う作戦と、住人を気にせず戦える作戦では反撃部隊の被害が大きく違ってくるだろう。


 こう言っては悪いが残った者達はもう助からないものと思って諦めるしかない。この者達を助けるために味方に被害が出ては本末転倒だ。


 ここに残った者達は死ぬ覚悟があって残ったはずだし、すでに死んでいるようなものだ。生ける屍のようになって彷徨い歩いている今の状態よりも、きちんと人間族としての死を迎えられる方が幸せだろう。


フリード「そうだな……。よしっ!俺達は脱出し………。」


 ドオォォーーーン!と大きな音が鳴り響き地面が揺れる。


ロベール「何だぁ?!」


パックス「これは…、まさか?」


フリード「いや…、違うぞ。これは艦隊の大魔砲じゃない。」


 パックスはこれがブレーフェンから呼び寄せているはずのガレオン艦隊の大魔砲だと思ったようだが違う。大魔砲の音や威力とは違うということを何度も試射で見てきた俺にはわかる。


 それが何度もあちこちで鳴り響く。このままここに居たらやばいぞ。ガレオン艦隊なら俺達が侵入しているのを伝令で知っているのに砲撃してくるはずはない。


 つまり俺達が侵入していると知らない別のガルハラ帝国部隊が反撃にやってきたということだろう。そして俺の艦隊以外にこんな魔砲を持っている部隊などいないはずだ………。


 いや…、考えるのは後だ。このままここに居たら瓦礫の下敷きにされてしまう。聖教皇国があっという間に瓦礫の山になったのだからデルリンだって同じだろう。


フリード「とにかくここに居たらヤバイ。俺達は脱出するぞ。」


ロベール「おう。」


パックス「他の者達はどうする?」


フリード「他の者ってのは商人達のことか?商売のためなら利敵行為までするような奴らだ。死んだとしても自己責任だろ。」


 ここにいる者達のほとんどは商売のために敵に物資を売っているような者達だ。それで罪に問うことは出来ないから積極的に罰を与えようとは思わない。だが俺達が危険を冒してまで助けてやる謂れもない。


 被占領の戦地で敵と商売しているということはそれだけ危険があると承知でやっているはずだ。いくら国が国民を保護する義務があると言っても自分から危険に飛び込んだ者の責任までは負えない。


 危険だから注意しろ、あるいは行くな、と言っている場所に勝手に行った者が殺されたからと言って、政府の対応が悪いなどと言うのはお門違いだ。


 人の忠告を聞かずに勝手なことをしておいて、その結果に責任を取れと言われても知ったことじゃない。


フリード「わざわざ殺しはしないが助けもしない。俺達だけ脱出するぞ。あとギリギリまであまり能力は使うなよ。ただの商人が俺達ほど強ければおかしいからな。」


 俺達はすでに人外の強さだからな。ただの商人がこんなに強ければ敵に捕まって尋問でもされるだろう。出来るだけ目立たず人間の能力だけで脱出したいところだ。


ロベール「わかってるって。」


パックス「それじゃ早く行こう。」


 二人がすぐに頷き脱出を開始する。運び込んでいた補給物資などは全て諦める。結構な量でかなりのお値段がするがそんなものを気にしていて自分が死んだら意味がない。


 そう思うのに町のいたる所で商品を運び出そうとしている商人達が大勢いた。こいつらは金を諦め切れないらしい。


 そんなことをしている間に崩れた瓦礫の下敷きになって死んでいる者が大勢いるのにそれでもまだ逃げない。商人としては見上げたものだが人間としてはクズだな。そんな者達を尻目に俺達は走り抜ける。


ロベール「ひぇ~。こんな状況でもまだ金や商品を持って逃げようとするかね?それで自分が死んだら意味ねぇよな。」


パックス「そうだな。だが商人とはそういう者だ。」


 ロディは山奥で隠棲していたそうだから金など興味ないのだろう。パックスも商人との付き合いは金の付き合いと割り切っていたようだ。


 恐らく情報を集めるために接触していた商人達もいるだろうに特に気にしているような様子はない。死んだら死んだで自業自得と思っているのだろう。


フリード「見てみろ。太陽人種の兵士達が駆けて行くぞ。」


 砲弾は北西方面から撃ち込まれている。デルリンにもっとも近い海の方角だ。だから艦隊が砲撃してくるとしてもその方角になるだろう。


 ただ大魔砲の射程圏内ではあるが現時点では視界が確保出来ない。海岸からデルリンまではメインマスト上から見ても地平線の彼方であり狙いがつけられないのだ。


 理屈の上で射程が届くからと言って実際に撃てるというものではない。何らかの方法で目標を確認して射撃を調整する方法が必要になる。だからこれはブレーフェンの艦隊ではない三つ目の理由となる。


 そして俺達は北西から逃れるために南東の門へと向かっている。しかし太陽人種の兵士達は北西へ向かっているのだ。


 これだけ魔砲が降り注ぐ中で砲弾が飛んでくる所へと行って一体何が出来るのかと思っていたが、太陽人種達の能力を見て俺はビビった。


ロベール「マジかよ……。こんな敵相手にどうすりゃいいんだ?」


 ロディも俺と同じことを思ったようだな。生気を失った生ける屍のような太陽人種の兵士達は、飛んでくる砲弾を飛び上がって肉体で受け止めたり、手から出る光で撃ち落したりし始めた。


 あれほどの速度と威力で降ってくる砲弾をあんな方法で止めることが出来るなんて滅茶苦茶だ。人間族ならば聖教皇国では神ですら挽肉になっていた。それをただの一兵士達があっさり防ぐんだ。まるで悪夢を見ているような絶望感が沸いてくる。


 だがこの砲撃は大魔砲よりも砲弾が小さく威力が低い。その代わり物凄く大量に降り注いでくる。威力からするとガレオン船を使わなくても持ち運べる大きさの砲で、弾込めや連射速度が速いタイプの新型魔砲なのだろう。


 いくらこの敵でもガレオン艦隊に搭載している大魔砲には耐えられないと思いたい……。でなければ人間族には対抗する術がないということになる………。


パックス「ともかくチャンスだ。今のうちにデルリンから脱出しよう。」


 ロディと二人でパックスの言葉に頷く。太陽人種達が砲弾をある程度防いでくれているお陰でぐっと安全が増した。今のうちにデルリンを脱出しよう。


フリード「それじゃ一気に駆け抜けるぞ。」


ロベール・パックス「「おう。」」


 その後俺達は無事にデルリンを脱出したのだった。



  =======



 南東の門から外に脱出した俺達は砲撃してきている北西の部隊を目指した。町中では俺達の身体能力を発揮すれば目立つので抑えていたが、町を出てからは遠慮する必要がなくなったのですぐに合流することが出来たのだった。


フリード「俺はフリードリヒ=ヴィクトル=フォン=ガルハラだ。ここの指揮官に会いたい。誰が指揮官だ?」


 砲撃している部隊の側面を回って後方の部隊に辿り着いた俺は衛兵に話しかける。最初は接近してくる俺達に警戒していたが、俺のことを知っている者が大勢いたようですぐに本陣へと通されたのだった。


ウィルヘルム「フリッツ。無事だったか。」


フリード「親父?!親父こそ無事だったのかよ。それにこの新型魔砲は?」


 本陣で俺を待っていたのは親父だった。デルリンを脱出した部隊がもう戻ってきたのか?一緒に連れて脱出したデルリンの住人達はどこかに残してきたようだが、連れている部隊の数は恐らくデルリンに居た部隊からほとんど増えていない。


 援軍を集めたわけでもないのに何故戻ってきたのか。勝ち目のない戦をしないために脱出したんじゃなかったのか?


 俺はその辺りの疑問を片っ端から聞いていった。


ウィルヘルム「当然勝算があるから戻ってきたのだ。あの敵を相手にするには人間族の数など意味はない。大勢集めれば大勢を一撃で屠れる魔法を撃ち込まれて全員死ぬだけだ。だから数を集めるよりも戦闘方法こそが重要になる。」


 まぁ言ってることはわかる。太陽人種が使ってくるのは魔法ではないがそれ以外は正しい。人間同士の戦争であっても、相手が大規模殲滅魔法を使ってくれば大部隊など意味はない。死傷者の数が増えるだけでデメリットしかないとすら言える。


ウィルヘルム「だから無闇に数を集めることはせず奴らと戦える方法を考えてきたのだ。」


 一応後方に部隊を集結させつつあるようだが、それが使われることはほぼないだろう。何故ならば今言った通り兵の数に意味はない。そして後方部隊が戦闘になるということはここが破られるということ。すなわち俺達は死に帝国が滅亡するということを意味している。


フリード「それがこの魔砲か?」


ウィルヘルム「そういうことだ。どうだ?驚いたか?何も新技術を持つのはお前だけではないのだ。がははっ!」


フリード「笑ってる場合か!この新型でもデルリンにいる太陽人種達には通用していないぞ!このままじゃ勝ち目がない。」


 そうだ。確かにこの新型の連射速度はすごい。威力ではガレオン艦隊の大魔砲に劣るが、舷側に装備している通常の魔砲よりは威力も高い。その上連射が出来るのだ。舷側の通常魔砲よりも圧倒的に優れている。


 だがそんな新型でも太陽人種の一兵士にすら通用しない。俺達はそれを間近で見てきた。だからこそはっきりとわかる。


 ここから戦果を眺めているだけの者にはわからない。あの敵にはこの程度では通用しないのだ。


ウィルヘルム「確かに今は砲弾を防がれておるようだな。だが敵は生身だ。永遠に受け止め続けられるのか?こちらは道具だ。どちらが先に消耗するかで言えば我らの方が有利ではないか?」


フリード「ばっ、ばっか!この馬鹿親父!敵はそんなヤワじゃねぇんだよ!あいつらの神力はそんな程度じゃ尽きない。それどころかこっちの砲弾が尽きるか砲身が焼けて壊れるのが先だ。もし手がそれしか考えてないんだったら今すぐ撤退の方法を考えるべきだぞ。」


 どれほどの物資を持ってきたのか知らないが、こんな新型は俺の知らない物だ。つまり俺が知らないほど新しいか大々的に調達していなかった物だとわかる。


 そんな程度の量であの敵が力尽きるまで砲撃し続けるなど不可能だ。こちらの方が先に砲弾が尽きることになる。


シロー「そんなことはわかっている。だがお前だって何もしてないほど無能じゃないんだろう?」


フリード「シロー?何でお前がここに?」


 帝国技術班班長のシロー=ムサシが親父の本陣内にいる。こいつは先の反乱の罪で北大陸の過酷な牢獄に収監されているはずだが?


ウィルヘルム「余の権限において超法規的措置で釈放した。代わりにこの戦争で全面的に協力することになっている。」


シロー「まっ。このまま人間が滅ぼされたら釈放されたって意味ないからな。ちょっと手助けしてやるよ。」


フリード「なるほどな…。この新型魔砲はお前が北大陸で研究開発していたものってわけか。」


シロー「そうだ。あの女に感謝しておくんだな。あの女が俺の開発時間を増やしてくれたお陰で今回間に合ったんだ。これがなければ時間稼ぎすることも出来なかっただろうからな。」


 あの女…。アキラのことだろうな。アキラが何故かシローの収監されてる牢獄に行ってから、シローの研究開発時間を増やしてやれと要請してきたことがあった。


 アキラの頼みだから聞いておいたが、まさかこの局面まで見通してシローに何か開発させていた……?アキラ…。お前一体どこまで見通しているんだ?


 俺は我知らず身震いしていた。いくら常識はずれとは言ってもアキラは普通の一人の女だと思っていた。でもこれほど先まで見通していたとなればそれはもう普通じゃない。創造神に匹敵し得るような特別な存在だ……。


フリード「………ん?時間稼ぎ?」


シロー「ああ。これだけで勝てるような楽な相手ならよかったがな。この新型はあくまで北大陸の強力な魔獣に対抗出来る程度のものだ。その代わり連射が可能になっている。これで敵を抑えている間に援軍の到着を待つ。……呼び寄せているんだろう?艦隊を。」


フリード「確かにガレオン艦隊は呼んでいる。だが艦隊の大魔砲があったとしてもあの敵には通じないかもしれないぞ?」


 俺だって大魔砲で片付くのならそうしたい。だが目の前で見たあの敵には大魔砲ですら通用しない気がしている。認めたくはないが認めざるを得ない…。


シロー「だろうな。あの敵一人一人全てが底が読めないほどの怪物ばかりだ。俺ですらそうなのだから普通の兵士などいくらいても意味はない。今装備している大魔砲でも確かに厳しいだろう。今のままならな。」


フリード「…何か案があるのか?」


シロー「案というほどのものじゃないさ。ちょっとした改良だ。今艦隊に搭載している大魔砲を改良する。改良型大魔砲ならば恐らくあの敵にも通じるだろう。そして仮に通じなくとも時間が稼げれば良い。俺達が時間を稼いでおけばあとはあの女が何とかするだろ。」


 最後は人任せかよ…。アキラなら何とかするだろうがそれをあてにするのはどうかと思うぞ。俺達で何とか出来るのならそれに越したことはない。


ロベール「おー。何とかなりそうだなぁ。見通しが明るくなってきたか?最初は絶望しかなかったからなぁ。はははっ!」


 ロディが陽気に笑う。この男は…、とことん陽気で前向きだな。こんな状況だってのに…、まだ何も好転してないってのに…、それでもこうして笑うロディに何度も救われて励まされた。


フリード「―――ッ!ロディ!後ろ!」


ロベール「―ッ!」


 いつの間に?!本当に気付かないうちに本陣の中に一人の太陽人種が……。その目は虚ろで生気がない。生ける屍となっていた太陽人種の一人だ。


 だからか?そのせいで気配に気付かなかった?いや、そんなことはどうでもいい!


 天幕の出入り口に一番近い位置に立っていたロディに向けて太陽人種の腕が振り下ろされる。俺の目には見えないほどの速さのはずなのにやけにはっきりゆっくりと見える。


 ロディが身を捩って避けようとしている。しかしその程度の動きでこの敵の攻撃をかわすことなど出来ない。ゆっくり…、ゆっくりとロディの右腕に太陽人種の腕がめり込む。


ロベール「ぐぁっ…!」


フリード「ロディ!!」


 必死に動こうとしているのにゆっくりしか動けない。その遅さにもどかしさを感じている間にもどんどんめり込んで行く攻撃。そしてロディの腕が宙を舞った。



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