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転生無双  作者: 平朝臣
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第百四十七話「軍神」


 門を潜るとその先には数段高い玉座があり玉座には美しい女が座っていた。その顔はシホミと良く似ている。いや、逆だな。シホミはこの女に良く似ている。


 俺が過去の映像で見たのと何一つ変わらない美しい女…。アマテラスはただ静かな目で俺を見つめていた。


 そしてその隣に大柄な男が控えている。この男は見たことがない。俺の知らない者のようだ。だがその纏う力が只者ではないと知らしめている。


アマテラス「アキラ=クコサト………。生きて……いたのですか?」


 アマテラスは驚いているようだ。俺が死んだと思っていたようだからな。だが目を覚ましてから俺はかなり派手に暴れている。普通ならそれで俺の存在に気付いていそうだが?


 それに俺がアマテラスと会うのは赤ん坊の頃以来だ。それなのに俺の姿を見て何故アキラ=クコサトだとわかったのか?


アキラ「残念ながら生きていた。それよりも何故お前は俺を知っている?そして何故知っているのなら地中都市ゲッカなどで暴れていた俺に気付かなかった?」


アマテラス「それは………。いえ、そのような話はもう必要ないでしょう。スサノオの娘がわらわを殺しにきた。それだけが全てです。」


 アマテラスはどこか寂しそうな、諦めたような顔をして笑っていた。何なんだ?俺の心がざわつく。悪人なら悪人らしく振舞え。でなければ俺の心が鈍る………。


アキラ「俺はお前に話を聞きたい。」


アマテラス「必要ありません。わらわとそなたはどちらかしか存在できない者同士。ならばお互いの存在をかけて戦うのみ。まずはこの者を破ってみせなさい。」


 アマテラスがそう言うと隣に控えていた男が一歩前に出た。その力はヒシヒシと肌に痛い。過去の映像で見た全盛期のスサノオに勝るとも劣らないほどの力を持っている。この男は一体何者だ?


タケミカヅチ「俺の名は軍神タケミカヅチ。お前がスサノオの娘か?ならばその力を示してみせろ!」


 轟っ!とまるで突風が吹いたような風が巻き起こる。それはタケミカヅチと名乗った男が放った神力のせいだ。そしてこの男が放つ神力は………。


アキラ「お前国津神か?何故アマテラスに協力している?」


 そうだ。タケミカヅチが放った神力は空力。つまりこいつは国津神、海人種だということだ。


タケミカヅチ「天津神だ国津神だという区別に何の意味がある?俺はアマテラス様に仕えスサノオの敵。ただそれだけのことだ。」


アキラ「なるほどな。その通りだよ。確かに出自なんて関係ない。自分が何に属し、どう生きたいか。それだけが問題だ。お前が天津神だろうが国津神だろうが関係ない。今俺の敵になるというのなら排除する。それでいいんだな?」


 俺だって何族だの何種だの、地球人だから、ファルクリアの住人だからと区別する気など毛頭ない。何しろ俺の嫁達はバラエティーに富んでいる。このファルクリアにいる主要な族の者が全て揃っているんだからな。


 それに愛妾達もだ。魚の愛妾や豚の愛妾がいるのだから出自だの種族だのは俺にとって一切関係ない。俺にとって重要なことはその者がどういう者でありどうしたいのかということだけだ。


タケミカヅチ「それでいい。それでこそスサノオの娘だ。」


 フッとタケミカヅチが笑った気がした。こいつは………、もしかしてこいつも………。


スクナヒコナ「おっと。そっちが部下を出してくるってんならこっちだってアキラの姐御の一の舎弟である俺が相手をしてやらあ。」


 そこへスクナヒコナが前に出て来た。このお調子者は………。タケミカヅチの強さはお前ら程度の手に負える相手じゃない。


 そもそも下手をすればアマテラスよりも強いのだ。それをスクナヒコナやその舎弟達に相手が務まるわけがない。


 いや、神力量だけで言えばアマテラスやツクヨミを上回っている。ただツクヨミの件でわかる通り第一階位近辺のレベルまで達すると今度は逆に神力量の多寡よりも特殊能力の比重が大きくなってくる。


 だから実際に戦った場合にアマテラスとツクヨミとタケミカヅチで誰が一番強いかなど比べることは出来ないだろう。そもそも相性と言うものもある。


 神力量だけで言えばタケミカヅチ、アマテラス、ツクヨミの順になる。そして相性から言えばツクヨミはアマテラスには勝てないだろう。だがツクヨミの能力ならばタケミカヅチには勝てそうだ。


 そしてアマテラスとタケミカヅチの能力や秘めた力がわからないのでこの二人が戦えばどうなるか俺には予想がつかない。


 ただ一つはっきりしていることは、スクナヒコナのレベルでは能力の種類が云々以前にそもそも力量差がありすぎて能力の強さなど関係ないということだ。


 やはり特殊能力で優劣がひっくり返ると言ってもそれは両者がある程度近い力を持っている場合に限る。あまりに力量差があれば能力を使う暇すらないからな。


アキラ「お前らじゃ無理だ。相手の力がわかってないわけじゃないんだろう?」


スクナヒコナ「そりゃわかってますぜ。けどタケミカヅチっていやぁ、伝説の軍神なんすよ。俺はいっぺんそういう相手と戦ってみたかったんです。だからお願いします!俺にやらせてください!」


 スクナヒコナが頭を下げる。どうやら自惚れやら敵の強さを読めていないということではないようだ。タケミカヅチの強さをわかった上でそれでも尚挑みたいということらしい。


アキラ「その心意気は買うがお前じゃあいつの相手は出来ない。みすみす死なせに行かせることは出来ないな。」


スクナヒコナ「あっ、姐御!そこまで俺の心配をしてくれてるんすね!姐御ぉ!!!」


アキラ「ちょっ!ばっ!抱きつくな!あっ!ちょっ!おまっ!どこ揉んで…。ん!」


スクナヒコナが俺に抱き付いてくる。前までなら俺の方がかなり小さかったが、今では少し小さいだけだから抱き締められると色々と触られる位置になっている。


 俺の敏感な場所を無遠慮に撫で回されて俺の口から自分で出したとは思えない艶のある声が漏れる。っていうか体が大きくなってから色々と敏感すぎる。前から結構敏感だったが今はそれ以上だ。あまりそういうところを刺激されると変な気分になってくる。


アキラ「ちょっ…と…、……この、ボケ!死ね!俺が今ここで殺してやる!!!!」


スクナヒコナ「ぐぇっ!」


 何とか片腕を振り解いた俺はスクナヒコナのドタマをぶん殴ってやった。結構加減せず殴ったから本当に死んだかと思ったが気を失っただけで生きているようだ。脳に何らかの障害が出ているかもしれないがそこまでは見ただけではわからない。


ミコ「ねぇ…、アキラ君?もしかして今すごく敏感になっているのかな?」


アキラ「うぇっ!?ななな何のことだ?」


 ミコの鋭いツッコミが入って動揺してしまった。


ミコ「だって…、スクナヒコナさんは抱きつきはしたけれど変な所は触っていなかったのに…。もしかしてだけれど抱き締められた時に二の腕とか背中を触られただけで感じちゃったのかなと思って。」


アキラ「二の腕とか背中だけじゃないぞ!こいつ俺の胸に顔を埋めてたじゃないか!あっ…。」


ミコ「つまり…、二の腕とか背中とか胸に少し触れただけで感じちゃったんだね?」


アキラ「うぅ………。」


 自白したも同然の俺はこれ以上何も言えなくなってしまった。そうだ。スクナヒコナは普通にハグしただけで俺に変なことをしたわけじゃない。


 ハグしたりされたりするくらいこれまでもよくあったことだ。地球の男女でだってハグくらい普通にするだろう。その際に胸が密着したからと言って変な意味にはとらない。


 男としてはうれしく思うこともあるだろうがな。けどそれを表に出してはマナー違反だ。ハグはそういう目的のものではない。


 だけど今の俺は胸への刺激どころかちょっと二の腕とか背中とか脇腹とか、そういうちょっと敏感な箇所を他人に触られただけで感じてしまう。


ミコ「アキラ君可愛い!」


アキラ「ちょ!ミコ…、やっ…、あん。だ…、め……。」


 えっ!これって俺の口から出てる言葉か?ミコに抱き締められてちょっと体を撫でられているだけで体に力が入らなくなりミコにされるがままになっている。


 それに俺の口から出てる言葉は俺が言っているとは思えないようなことばかりだ。


舎弟「あのぉ…、敵の目の前だってこと忘れてやせんかね?」


アキラ「ひゃあ!ななな何のことだ?俺はいたって普通だ!」


玉藻「それだけ動揺してるのに普通なのかい?」


 スクナヒコナの舎弟の言葉に驚いた俺は意味不明なことを口走ってしまった。それを玉藻に冷静にツッコまれる。ツッコミが欲しかった時はあまりツッコミを入れてくれなかったのにいらない時に限ってツッコんでくるな………。


玉藻「ミコもあまりアキラをいじめちゃだめだよ。まだ敵が残ってるんだからね。そういうのは終わってから感動の締めの時にするもんだよ。」


 んん?そうなのか?何か玉藻の言ってることもおかしい気がするぞ?感動のフィナーレでキャッキャウフフする映画とかあるか?


 まぁ男女のキスシーンで締めたり、二人が結ばれて終わる場合もあるか?けどそれは映画の話だ。俺達は映画の撮影をしてるわけじゃない。


ミコ「えへへ。ごめんなさ~い。アキラ君があんまりにも可愛いから…。ねぇアキラ君。後でもっともぉ~っと気持ちい~ことしようね?」


アキラ「うっ…、うん………。」


 駄目だ…。さっきまでの昂ぶった気持ちと悪堕ちしてるミコの妖艶さと色々なものが混ざり合って頭が回らない。何か言っちゃいけない返事をした気がするけどわからない。


ミコ「あはっ!真っ赤になって俯いてモジモジしちゃって可愛い!やっぱり我慢出来ないから今食べちゃおうかなぁ?ふふっ。」


 ミコがそっと手を伸ばして迫ってくる。


アキラ「あっ…。やだぁ…。駄目ぇ……。」


ミコ「ん?抵抗しないの?いつもはキリッとしてるアキラ君だけれどえっちぃことには弱いよね?もしかしてアキラ君ってとっても初心?」


 駄目だ。体が言う事を聞かない。このまま俺はミコに食べられてしまうのか!?乞うご期待!


 って違うだろ…。何か中身はやけに冷静だな。時々思っていたがもしかして俺の中には別のもう一人の俺がいるんじゃないのか?俺がちょっと体を弄繰り回されたくらいでどうにかなるとは思えない。


 今もそうだ。とても俺とは思えないだろう?そもそも男の俺が『やだぁ』とか『駄目ぇ』とか言ってたら気持ち悪い。いくら体が女になっていると言っても性格までこうはならないだろう?


虚無『それはこの世界のアキラ=クコサトの影響だろうな。』


 虚無が急に話しかけてきた。もう毎回驚いたとか言わない。これはこういうものだと思って受け入れる。


アキラ(この世界のアキラ=クコサト?)


虚無『そうだ。お前は特殊な状況で異世界転生したために前世の人格を持ったまま生まれてきた。だが本来この世界で前世の記憶に関係なく生まれてくるはずだったお前もいたはずなのだ。そちらの影響を受けているのだろう。』


アキラ(ふむ…。お前何気にもう異世界転生とかいう言葉使うようになってるのな?)


虚無『………お前の記憶の中でわかりやすい概念の言葉があったから使っただけだ。』


 何かお堅い感じだったはずの虚無も随分話しやすくなっている。どうやら俺の記憶を勝手に見てそこから俺にわかりやすい親しみやすい言葉を覚えてきているらしい。


アキラ(特殊な状況ってつまり九狐里晶の中にお前を抱えたままってことか?)


虚無『そういうことだな。だから我もお前もこの世界では重複した存在だ。』


 ふむ?本当ならばこの世界の虚無とアキラ=クコサトがいたはずなのに、地球にいた九狐里晶が地球があった宇宙を滅ぼすためにいた虚無を抱えたまま異世界転生したために、本来一人になるはずであったこの世界の俺が地球の俺と僅かにズレた別々の存在として二人とも残ってしまったということか?


虚無『おおよそその通りの解釈で良いだろう。』


アキラ(おい…。お前に話しかけてない部分まで勝手に読むなよ。)


虚無『隠せるのに隠さない奴が悪い。大声で独り言を言っておきながらそれが聞こえた相手に盗み聞きするなと言っているようなものだ。それよりも少し違う点を指摘しておこう。別々の存在になったというほどではない。九狐里晶とアキラ=クコサトは確かに同じ存在としてここにいる。』


 ふむぅ…。俺が九狐里晶であると同時にアキラ=クコサトでもあるが、本来アキラ=クコサトになるはずであった者の影響を受けている?


虚無『そういうことだな。』


アキラ(だから話しかけてない部分まで読むなって。)


虚無『………。』


 何度も繰り返しになると思ったのか虚無は黙った。完全には理解していないと思うが何となくわかった気がする。


 わかりやすく言えばやっぱり、この世界で女の子のアキラ=クコサトとして生まれ育つはずだった存在があり、その者の影響が出ている時は男の俺とは思えないような言葉を使ったり態度をとったりするということだろう。


クシナ「ミコ!今はまだ敵が目の前にいるのですよ!アキラさんとそういうことをするのは後にしなさい!………それに唇はミコが一番に奪ったのですから他の一番は私だって貰いますからね。」


 おっと。そういえば物思いに耽ってる場合じゃなかった。現実に意識を戻すとクシナが俺を後ろから抱きかかえてミコから引っぺがしていた。


 言ってることの前半はまもとな正論っぽいけど本音は後半部分じゃなかろうか。他の初めてって何だ?純潔とかDTとかか?俺は両方あるからな………。


タケミカヅチ「………もういいか?」


 律儀に待っていたタケミカヅチは確認をとってくる。あまり待たせたら可哀想だな。


アキラ「ああ。俺が相手をしてやるよ。」


シルヴェストル「散々あれほどの痴態を晒しておいて、今更繕っても手遅れなのじゃ。」


 うっ…。シルヴェストルの鋭いツッコミが入る。だから何で触れて欲しくない時に限って皆ツッコミを入れてくるんだ?


タケミカヅチ「いくぞ!」


 皆から少し離れた俺に向かってタケミカヅチが一足飛びに飛び掛ってきた。速い。その身体能力は俺が見てきた誰よりも上だ。そう。スサノオですら超えている。


 ただし俺はスサノオの本当の全力というものは見ていない。あくまで俺が見た範囲でのスサノオの動きを超えているだけで本気を出したスサノオとどちらが上かはわからない。


 これほどの動きをしたら周囲への影響があるのではないかと少し心配になったが、どうやらこの周りには結界が張ってあるようだ。


 この部屋の中央、俺とタケミカヅチが向かい合っていたちょうど真ん中辺りに何かの文様が刻んである。あれが結界になっているのだろう。


 ガウの集落で見た認識阻害の結界やロベールの小屋の周囲に張ってあった遮断の結界などと同種のものだろう。海人族達はこういう結界の技術をかなり発達させているのだとわかる。


 本来ならば俺とタケミカヅチほどの者が戦う余波を防ぐ結界を張ろうと思えばそれこそ最高神くらいしか出来ないことになってしまう。


 だがこの結界は見事に俺達の戦いの余波を防いでいる。それは蓄えてある神力を使うことで個人が放出出来る神力以上の結界を張ることが出来るからだ。


 それ以外にも結界に近づくほど徐々に戦いの余波の威力を弱めていく仕掛けが施されていたり、何重にも結界が張られていて一番内側が破壊されてもすぐにまた外に張りなおされる仕掛けなど、様々な工夫が凝らされている。


 これほど凝っていて複雑な結界など海人族以外には作れないだろう。海人族がこの世界で最強の力を持ち全世界を支配出来ていた理由はこういう所にもあると思う。


タケミカヅチ「俺と戦っている最中に考え事か?随分余裕だな!」


アキラ「あぁ…。うん…。まぁそうだな。」


 実際タケミカヅチの攻撃は俺に当たることはない。この程度ならば虚無の力を使うまでもなく元々の俺でも能力制限を全て解除していれば余裕で相手に出来た程度でしかない。


 だが舐めてかかれる相手でもない。スサノオだって神力量だけで言えば俺に劣っていたが、戦闘技術や身につけた技や術によって俺の方が負ける可能性もある相手だったからだ。


 タケミカヅチだって当然ただこうして肉体のみで戦うしか能がないということはないだろう。何かしらの能力を持っているはずだし、まだ使っていない技もあるはずだ。


タケミカヅチ「ふんっ…。その舐めきった態度を後悔させてやろう………。ぬぅんっ!」


アキラ「お?」


 俺にパンチやキックを繰り出していたタケミカヅチは一度距離を取って神力を練り始めた。練り上げられている神力量はかなり洒落にならない。


 ここの結界がなければこの一撃でファルクリアが消滅する威力だ。………あれ?それなら世界を滅ぼすのに虚無とかいらなくね?


虚無『当然だ。我が手を下さずともそこに住む者達の手によって滅んだ宇宙もいくつもある。何も我は自分で直接手を下そうとしているわけではない。ただほんの少し手を貸すだけで宇宙など簡単に滅ぶものなのだ。』


 ふぅん。なるほどね。地球でも一国がミサイルのボタンを押せば全人類が何度も死滅するほどの核が降り注ぐことになっていたかもしれないからな。


 案外世界なんてパラレルワールドのほんの少しの選択ミスであっさり滅ぶようなものなのかもしれない。現在存続しているのは偶々運がよかっただけなのだろう。


 そしてそれが次の瞬間にも続くとは限らない。ほんの僅か先に何があるかわからないのだ。次の瞬間には全人類が死滅するほどの出来事が起こるかもしれない。


 だから後悔せず生きていかなければな…。自分勝手に生きろということではない。死ぬ時に俺は精一杯やったのだと笑って逝けるように生きろという意味だ。


タケミカヅチ「はああぁぁぁっ!大雷おおいかづち!」


アキラ「――ッ!」


 俺は思わず仰け反った。タケミカヅチが天に手を翳すと雷が落ちてきたのだ。建物の中だというのにどこから雷が落ちてきたのかよくわからないが、光の速さで飛来する雷を避けるのにちょっと焦った。


 俺は光速以上で動けるから余裕で避けられるはずではあるが、今までのタケミカヅチとのやりとりよりも何倍も急に速くなったからついていくのに驚いたというだけのことだ。


タケミカヅチ「土雷つちいかづち!」


アキラ「何!?」


 避けたと思った雷が地面から飛び出してくる。それはそうか。自然の雷とは違うのだ。落ちて終わりではない。タケミカヅチがいくらでも操作出来るのだろう。ちょっと気を抜きすぎたな。


タケミカヅチ「チィ…。ちょこまかと!これでどうだ!黒雷くろいかづち!」


アキラ「ん?何だこれは?」


 周囲が暗くなりはじめた。目の前に翳した自分の手ですら見えないほどだ。目くらましか?


タケミカヅチ「伏雷ふしいかづち………。」


アキラ「お?」


 タケミカヅチの気配が完全に消えた。俺でも何もしなければ身体能力だけではタケミカヅチの居所が掴めない。マンモンの時と同じで俺も何か能力を使えば見つけるのは簡単だろうが、それはすなわち何も能力を使わなければ見つけられないほど完璧に隠れているということだ。


 ガウは能力を使わなくともマンモンを見つけて正確に攻撃していたが、今のタケミカヅチは見つけられないだろう。マンモンと比べては失礼なほど技の完成度も技量も違う。


タケミカヅチ「鳴雷なるいかづち!」


アキラ「ぐっ!うるせぇ……。」


 頭が痛くなるほどの騒音が鳴り響いている。雷の音だがあまりにうるさすぎて耳が痛い。


タケミカヅチ「終わりだ!柝雷さくいかづち!」


 目も耳も封じられた俺に向かって恐らく何かの攻撃が迫ってきているはずだ。だがそれすら感知することが出来ない俺には避ける術はない。


アキラ「おお?」


 何か体を引き裂かれるような感覚がする。もちろん実際には俺の体は引き裂かれていない。ただ引き裂こうとするかのような力を感じるというだけのことだ。


タケミカヅチ「若雷わきいかづち!」


アキラ「ふむ………。」


 タケミカヅチが新たに何かを使うとさらに俺にかかっている圧力が増した。力を倍増させるような効果か。


タケミカヅチ「火雷ほのいかづち!完成だ。………八雷神之術やくさいかづちのかみ!!!」


 そして火まで起こる。確かに雷で火災も起こるからな。


アキラ「それで終わりか?」


 八種の雷を全てまともに食らったがどうということはない。大雷は避けてしまったが、その大雷を消さずに動かしていたのが後の技なので、他の技を食らったということは大雷を食らったのと同じことだ。


タケミカヅチ「………全て耐え切ったというのか?スサノオですら傷を受けたこの技を?」


アキラ「ほう…。スサノオにな…。『あれ』の力を放っていないスサノオにならダメージを与えられたかもしれないな。」


 虚無を暴走させていた時のスサノオには通じないだろうが、通常状態のスサノオにならばその纏う神力を貫通してダメージを通すことが出来るだろう。


タケミカヅチ「………そのことも知っているのか。」


アキラ「当然だな。何しろ今は俺の中だからな。」


タケミカヅチ「―――ッ!」


 タケミカヅチが目を見開いている。そんなに驚くことか?そもそも知らなかったのか?だがこいつが知っていようが知らなかろうが俺には関係ない。


アキラ「面白いものを見せてもらった礼をしよう。。」


 俺は前回暴走させて制御し切れなかった術を使う。黒よりもなお冥い虚無の炎がタケミカヅチの闇を食らい尽くす。タケミカヅチがつかった黒雷など所詮は紛い物の闇にすぎない。俺が放つ真なる闇である虚無と比べれば一目瞭然だ。


タケミカヅチ「ぐおおおぉぉぉっ!!!」


 タケミカヅチが放った八雷神之術を食らい尽くしタケミカヅチ本人も食い尽そうと襲い掛かる寸前で火之迦具土神を止める。今回は完全にコントロール出来ている。


 完全にコントロール出来てるとか言いながら周囲の結界や床に彫ってあった文様まで食らい尽くしかけているけど、それは見なかったことにする。


 うん。制御出来てるよ。前は無意識に使っていたとは言っても全世界を食らい尽くす寸前だったからな。今回はほぼ狙った範囲しか効果を及ぼしていない。


 タケミカヅチの表面がちょっと焼けてることとか、結界まで食い尽くしたこととか、その結界を張るための文様や結界の動力になる神力まで食い尽くしたのも概ね予定通りということにしておこう。


アキラ「もうお前の神力もほとんど食い尽くされて動けないだろうがどうする?まだ続けるか?」


 傷が大したことがなくともタケミカヅチはその身に纏っていた神力をほぼ全て火之迦具土神に食い尽くされている。これ以上戦おうと思っても何も出来ないだろう。


 だがそれでもまだ俺と戦うことを選ぶのなら俺も肉体のみをもって相手をしてやろう。もちろんその場合刹那もかからずにその命を刈り取るがな。


タケミカヅチ「………俺の負けだ。」


アキラ「ふむ。それじゃ俺の勝ちだな。」


 力なく項垂れ座り込んでいるタケミカヅチの前に移動する。


アキラ「治癒の術。」


タケミカヅチ「…何をしている?」


アキラ「何って治療だが?見てわからないか?」


 自分の顔や頭は見えないだろうが、焦げ付いてる手足も治っているのだから俺が治療していることは一目瞭然だろう。


タケミカヅチ「そういうことを聞いているわけじゃない。何故俺を治療しているのかと聞いている。」


アキラ「お前にもまだ聞きたいことがあるからな。それまでに死なないように治療してるだけだ。」


 火之迦具土神で軽く表面を焼かれただけとは言えこれは虚無の炎だ。少し蝕まれただけでも放っておけばそう遠くないうちに命を落とすことになるだろう。


 だから残っている虚無の残滓を全て回収してついでに火傷も治しておいたのだ。これならば火之迦具土神が原因で死ぬことはないだろう。


タケミカヅチ「なるほどな…。俺は敗れたのだからお前の話を聞こう。」


アキラ「ああ。それはあの頑固な伯母をなんとかした後でな。」


 俺はタケミカヅチが敗れても顔色一つ変えずにこちらを見ているアマテラスを見据えながらそう言った。


アキラ「前座は終わったぞ。次はどうするんだ?」


アマテラス「良いでしょう……。わらわが直々に生意気な姪を躾けてあげるとしましょうか。」


 アマテラスが玉座から立ち上がった。いよいよラスボスその2との戦いが幕を開ける。



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