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転生無双  作者: 平朝臣
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第百四十四話「ツクヨミ戦」


 暗黒力を解き放ち両手を広げたツクヨミが玉座からこちらへと飛び込んでくる。何らかの攻撃が来るのだろうがこの程度のこと………。


アキラ「――ッ!全員避けろ!!!」


 ゾワリと全身の毛が総毛立った。何か悪い予感がした俺は咄嗟に全員に叫んで後ろへと飛び退る。嫁や仲間達も俺の言葉に反応して逃げてくれた。


 そう…。逃げてくれた。


ツクヨミ「くくくっ!良い勘をしているじゃないか。お前が自分の方が格上だからと油断している間に初撃を与えることが出来ればと思ったが…。どうして気付いたのか知らないが褒めてやろう。」


 玉座から飛び降りたツクヨミが立ち上がる。その姿を見るだけで俺の背筋がゾワゾワと騒がしい。こいつはヤバイ。俺達の方が神力が強いからと侮ったら今の嫁達ですら一瞬で殺されかねない。


 ツクヨミが降り立った場所の足元が死んでいる。言葉としておかしいと思うだろう。だがそうとしか言えない。


 降り立った場所にあった石畳はツクヨミの能力によって『死んでいる』。無機物ですら殺せる能力。これはヤバイ。もし俺の言葉で皆が逃げなければ力量差も神力量も関係なく触れた者全てが死んでいただろう。


 伊達に自分より格が上のスサノオに偉そうにしていたわけじゃないというわけだ。この能力はヤバイ。触れたモノ全てを殺すことが出来る能力。


 それならば武器や道具を使ったり飛び道具を使えばどうかと思うところだろう。だがそれも無駄だ。俺がツクヨミに放った攻撃がツクヨミに触れればその瞬間攻撃を放った俺に死が訪れる。


 そして恐らくそれではツクヨミを殺せない。何故ならばツクヨミは俺の攻撃を『殺せる』からだ。『俺』と関わる『攻撃』を殺されたら『俺』にまで『死』が伝播してくる。それなのに当のツクヨミは自分に触れた全ての攻撃を『殺す』ことで無傷で済む。


 こんな出鱈目あるか?どんなチート能力だよ………。


 伊達にこの世界の最高峰の一人じゃないってことだ………。俺はいつも言ってたじゃないか。神力量の多寡だけが強さの全てではないと………。


 それなのに俺は楽観していたのだ。今の俺や仲間達はこの世界でも最高の神力量を誇っていると………。俺達に傷一つ付けられる者はいないのだと………。


 非常にまずい。戦う方法がない。今の俺達とツクヨミの身体能力の差ならば俺達が下手に攻撃しようとしなければこちらがやられる心配はないだろう。


 だが逃げ回っているだけでは勝ち目はない。そして一度でもミスすればこちらは即死だ。敵は常に即死攻撃をしてきていてこちらが攻撃すればその即死効果のせいでこっちが死ぬ。


 そんなボス相手にどうすればいいって言うんだ?もしこれがゲームだったらクレームどころの話じゃないだろう。


 しかし残念ながらこの世界もツクヨミもゲームでもアニメでもない。プレイヤーがクリア出来るように弱点が設定されているわけでもないし、敵の能力を封じるような都合の良いアイテムがあるわけでもない。


 ほんの一つのミスで本当に死んでしまう命を賭けた本当の戦い。そんな世界で常時即死発動なんてどれほどチートかわかるだろう。


ツクヨミ「さぁ…、死の舞踏会を始めよう。」


 死ぬまで終わらない舞踏会ってか?何を気取ってやがるんだか。と言いたい所だが結構まずい。打開策がない。戦いようもないのならば一体どうすれば良いというのか。


 一旦逃げるか?さっき言った通りゲームじゃないんだからラスボスからは逃げられないとかいう縛りはない。敵の能力がわかったんだから対策を練るために一度離脱するというのも手だろう。


ツクヨミ「くくくっ!考えていることが手に取るようにわかるぞ。俺の能力を知らずに乗り込んできたから対策がない。能力は見たのだから一度脱出して対策を練ろう。そんなところだろう?」


アキラ「………。」


 当たっているから俺は黙り込むしかない。しかしその沈黙が肯定しているも同然だ。


ツクヨミ「くくっ!俺と戦った者は皆そうだ。だからお前達だけがおかしいわけではない。俺にとっては逃げ出す小物など放っておいても問題などない。しかしいつも逃げられるのも面倒だろう?だから当然俺には敵を逃がさないための方法がある。それを見せてやろう!」


 そう言ってツクヨミが両手を上げるとこの部屋を覆うように『死』の膜が広がった。


アキラ「チッ…。」


 これでこの部屋から出るのも難しくなった。周囲の『死』の膜は触れた瞬間に即死するというほどではないが、それでも強行突破するつもりならば相応の代償が必要になる。


 そしてそんなことで苦労して時間をかけて力を消耗すればツクヨミ本人がこちらに迫ってきて攻撃してくるだろう。当然そのツクヨミの攻撃を食らえば終わりだ。


 俺の転移で脱出しようにもリスクが高過ぎる。その理由は連鎖だ。俺の大転門は移動する者や物が触れ合っていなければならない。


 そしてツクヨミのこの攻撃は触れ合っていればそこから触れている者にまで『死』を流し込める。つまり俺達が全員手を繋いだりして繋がっている時に一人でもツクヨミの攻撃を食らえば全員が死んでしまうことになる。


 それではリスクが高過ぎて挑戦するわけにはいかない。今更ながらではあるが俺とツクヨミは相性が悪すぎる。とにかくここは時間を稼いで打開策を練るしかない。


アキラ「もう全員気付いていると思うがツクヨミには触れるな。攻撃するのもされるのも駄目だ。それからツクヨミが周囲に張った結界にも触れるなよ。結界に捕まっている間にツクヨミに殺されることになる。とにかく攻撃を食らわないように避けることに専念するんだ。」


玉藻「仕方がないね。今は何も打つ手が浮かばないよ。」


シルヴェストル「せめてもの救いはツクヨミの身体能力がわしらより低いことかの。」


 玉藻が同意してシルヴェストルが一言言ったことでツクヨミが笑い出した。


ツクヨミ「はははははっ!俺の身体能力がお前達より低い?………これでもか?」


アキラ「―ッ!」


シルヴェストル「うぐっ!」


 一瞬でシルヴェストルの後ろに周りこんでいたツクヨミがその魔手を伸ばす。俺がギリギリシルヴェストルを突き飛ばしたから今回は辛うじてかわすことが出来た。


 シルヴェストルは俺の突きを食らって多少は痛かっただろう。だが命を落とすよりは遥かにマシだ。それより問題はツクヨミの移動が速過ぎて嫁達でもついていけないレベルだったということだ。


シルヴェストル「助かったのじゃアキラ。」


アキラ「………ああ。」


 今の動きは俺がギリギリ反応出来ただけで、他の者は目で見えている程度の者は居ても回避出来る者はいなかった。俺が全員を守りながら一度もツクヨミの攻撃を食らわないなんていうのは不可能だ。


ツクヨミ「くくくっ!何故俺が急に速くなったのかわからないという顔をしているぞ。俺は親切だから教えてやろう。俺が速くなったのではないのだ。お前達が遅くなったのだ。ははははっ!!」


 ちっ。何が親切だ。自分の力の自慢とこちらに絶望を与えるために言っているだけだろう。それよりも今重要なことを言ったぞ。俺達の方が遅くなった?


ツクヨミ「くくくっ!わからないか?自分達をよく観察してみるんだな。」


 ………。これは………。


クシナ「くっ!これはっ!」


 クシナは自分の龍力がひどく弱っていることに気付いて顔を顰めた。


 この部屋には薄く広げた『死』が蔓延していた………。いつの間にかツクヨミが俺達に気付かれないように極小の『死』を少しずつ少しずつこの部屋に満たしていっていたのだろう。


 知らず知らずのうちにそれに蝕まれていた俺達は神力もかなり消耗している。そして身体能力にまで異常をきたしていた。


 つまりツクヨミが言った通りツクヨミが速くなったのではなく、俺達の方が鈍くなったのだ。身体能力だけではなく認識力も動体視力も思考力も、ありとあらゆるステータスが低下している。


 デバフがこれだけ面倒な能力とは思わなかった。そもそもこれほどかけられるまで俺達の誰一人気付かないなど信じられない。これはもう敵の手腕を褒めるしかない。何万年か知らないがこの世界の頂点の一人であり続けた者の力と技術の結晶だ。


 そして非常にピンチだ。マジでヤバイ。ほんの僅かにでも触れたら即死なのに身体能力的にも俺達の方が劣ってしまってはどうしようもない。その上時間が経てば経つほどどんどんこちらは弱るのだ。もう今すぐケリを着けるしかない。


闇の精霊「俺が相手だ。」


光の精霊「私が相手です。」


 その時俺達とツクヨミの間に懐かしい奴らが出て来た。それは西大陸の中央にある、神山に似ている山の麓にいた光の精霊と闇の精霊だ。


 こいつらはあの後消えてから一切接触がなかった。それなのに何故か今突然目の前に現れたのだ。


 そもそもどうやって現れた?当然ながらここは精霊族の空間移動は封じられている。恐らくは普通の海人種の転移でもここまでは入ってこれないだろう。転移出来るとしたら恐らく俺くらいだ。


 それなのに今目の前に現れたこいつらはどうやってここに現れた?それにまるで気配を感じない。幽霊でも見ているような妙な気分だ。


ツクヨミ「ふんっ。出来損ない共か。消えろ!」


 出来損ない?どういう意味だ?…そしてそんなことを考える暇もなくツクヨミが翳した掌から出て来た黒い靄に二人が包まれたかと思うと蒸発するように霧散した。


 いくら精霊族にしては強いとは言っても所詮は精霊族に毛が生えた程度の強さだったのだ。ツクヨミが先ほどまで使っていた『死』を使うまでもなく通常攻撃だけで蒸気のようになって消えてしまった。


闇の精霊「俺が相手だ。」


光の精霊「私が相手です。」


アキラ「………。」


ツクヨミ「………。」


 今目の前で蒸発させられた光の精霊と闇の精霊がまた俺の目の前にいる。ツクヨミは狐にでも化かされたような顔をしている。もしかしたら他人から見たら俺もそんな顔をしているかもしれない。


ツクヨミ「どういうことだ?確かに今消したはずだ。いくらお前達がまた生まれてこれるとしても消してすぐにまた同じ場所に生まれてくるなど普通はあり得ないはずだ。」


 そうだな………。そうかな?…いや。どうだろうな?エンとスイの件があるから何とも言えなくなってしまった。ただ一つ言っておくとこいつらは死んで今目の前に生まれてきたわけじゃない。


 エンとスイを見てわかる通り、いくら精霊族が同じ存在として生まれ変われると言っても赤ん坊として生まれて老人になって死ぬということは他の種族と変わらない。


 それが光の精霊と闇の精霊は先ほどと同じ大きさに成長しているのだ。今生まれてきたのではないのは明白だろう。


ツクヨミ「ふんっ…。今度こそ消えろ!」


 またしてもツクヨミの黒い靄に捕まって蒸発させられる。しかしまたすぐ俺の目の前に出てくる。まるで何かのトリックのような気がするがようやく俺にはわかった。


 こいつらはあの山で出会った後消えてどこにいったのか。何のことはない。こいつらはずっと俺の中に居たのだ。だからいつでも俺の前に出てくることが出来た。


 そしてあの時も言っていたように全ての光は光の精霊であり、全ての闇は闇の精霊なのだ。こいつらには一つの命という概念がない。例えツクヨミの能力でこいつらに『死』を与えてもそれは光の一部、あるいは闇の一部が消えたということに過ぎない。


 しかし光も闇もまた発生するのだ。影に光を当てて一時的に影を消したとしても光を当てるのをやめればまたすぐに影は出る。完全に消し去るには世界全ての光を消し全てを闇に閉ざすくらいしか方法はない。


 そして全てが闇に閉ざされたとしても光は消えても闇が消えたとは言えない。何故ならば当然ながら周囲全てが闇だからだ。


 光が照らすからこそ闇が出来、闇があるからこそ光が輝く。この世界がある限り光と闇を消し去ることは出来ない。だからいくらツクヨミが『死』を与えようとも意味はない。


 が、この二人が死ぬことはなくとも勝つこともまた不可能だ。何しろ先ほど言った通りいくら精霊族の中では強い方だと言ってもツクヨミにはまったくダメージを与えられない程度でしかないのだ。


 ツクヨミがこの二人の相手をやめてこちらに向かってくれば一巻の終わりだ。事態は一切好転していない。


ツクヨミ「チッ。もういい。お前らは後回しだ。………さぁ。まずはお前達から始末してやろう。」


 そしてとうとうツクヨミが光と闇の精霊を無視して俺達に迫る。


ツクヨミ「誰が最初に消える?それともメインディッシュのお前が消えるか?」


 ツクヨミは余裕の笑みを浮かべて俺にそう問いかけてくる。


アキラ「ふんっ。俺は殺せないだろう?お前の目的は俺に絶望を与えて俺の中にいる『あれ』を暴走させることだ。俺が暴走して宇宙が破滅することを望んでいるのだから俺は殺せない。」


ツクヨミ「くくくっ!確かにその通りだ。だが殺されないからといって死ぬより良いとは限らないぞ?今お前が言った通り絶望させて暴走させるために死ぬより辛い目に遭うことになる。どうする?素直に従うのならばそのような目に遭わなくて済むぞ?」


アキラ「だがお前に従ってもこの宇宙を滅ぼすんだろう?だったらどちらでも一緒じゃないか。」


ツクヨミ「そうか?俺は全然違うと思うがな。ただ俺に協力して楽に死ねるのと、俺に逆らって散々辛い思いをしてから結局死ぬのと、どちらの方がまだマシかわかると思うが?」


 ツクヨミは余裕の笑みを消すことなく俺の目の前まで近寄ってくる。もう手を伸ばせばお互いに触れられる距離だ。


アキラ「ところであの二人が出来損ないっていうのはどういう意味だ?」


 これは現時点の俺ではまったくわからない。そもそも光と闇の精霊とツクヨミに何か関係があるのか?


ツクヨミ「ふんっ。そんなことどうでも良いだろう?だが…、まぁどうせ最後だ。教えてやろう。光の精霊と闇の精霊は本来二つで一つ。光と闇の精霊という存在になるはずだった。そして光と闇を兼ね備える精霊は混沌と繋がり世界を滅ぼすことも作り出すことも出来る………、はずだった。しかし見ての通り混沌と繋がる者を生み出すことは失敗しこいつらはただの出来損ないとなった。」


 なるほどな。つまり擬似的に虚無の代行者のような者を作り出そうとしたわけだ。虚無は全てのもとであり始まりだ。だから虚無から全てを生み出すことも、虚無へと全てを還すことも出来る。


 ただ虚無の代行者は虚無が選びその中に入り込むことで生まれる。それを最高神達が作り出したり干渉したりすることは出来ない。


 そして虚無の力は虚無以外には扱いきれない。だから最高神達のような宇宙の管理者たる本物の神達はその手前の者を作り出そうとしたのだろう。


 それが混沌だ。虚無から混沌を作り出し混沌を分離して宇宙が生まれた。そして虚無をコントロールすることが出来ないのならば混沌をコントロール出来る者は生み出せないか?その実験の結果生まれたのが光の精霊と闇の精霊というわけだ。


 最高神が言っていた通り、宇宙の管理者達はいずれ全ての宇宙が死に消滅するまでに新しい宇宙を作り出す可能性を模索していた。


 その一環として混沌に繋がる者を作り出し、そこから呼び出した混沌で新しい宇宙が造れないかと思ったのだろう。


 しかし光と闇の精霊は混沌と繋がることなく実験は失敗。最高神は基本的に世界に干渉しないために光と闇の精霊はそのままこの世界で生きることとなった。そんなところか。


アキラ「なるほどな…。なんだかんだ言いながら最高神だって結構やりたい放題やってるじゃないか。」


???『僕は生み出した生命をこの手で殺したりはしてないよ。………ほとんど。』


 頭の中に声が響いた気がした。もちろんあいつだろうな。覗き見してるだけじゃなく人の頭の中に勝手に語りかけてくるなんて碌でもない神様だな。


 それにほとんどってたまには殺してるってことじゃねぇか。だったら殺してないって言うなよ。


ツクヨミ「………随分余裕だな?これからお前は死ぬより辛い拷問を受けながら目の前で仲間達を殺されていくんだぞ?」


 俺の態度を不審に思ったのか、今まで浮かべていた余裕の笑みを消し一歩後退った。こういう所が侮れない所であり、だからこそ数万年もの間頂点の一角として存在し続けることが出来たのだろう。


 だが今回は相手が悪かったな。これからのファルクリアにお前のような奴は存在すら許されはしない。


アキラ「今回ここに乗り込んできたのにはいくつか目的があってな。」


ツクヨミ「………。」


 語り出した俺をツクヨミは注視していた。俺が何かするつもりかと思って警戒しているのだろう。


アキラ「一番大きい目的はもちろん海人種達に月人種達との戦争をさせて勝たせることだ。けどそれ以外にもいくつか目的があってな。その目的の一つが情報を得ること。俺の知らなかった重要な情報を敵…、つまりお前から引き出すことだ。それからもう一つ他にも目的があってそれはお前を俺の手で直接殺すこと。」


ツクヨミ「まさか…。今までのは演技だったというのか!」


アキラ「一応お前はラスボスのうちの一人なのにあっさり終わったらつまらないだろう?多少の演出は必要だろ?けどお前が弱すぎてこれ以上引っ張るのは無理だわ。」


 そうだ。本当はツクヨミを殺すことはわけない。だって何度も言ってるが虚無は全てのもとなんだ。当然ツクヨミが使ってる力だって『死』だって全て扱える。


 だから俺がツクヨミを無力化するなんて朝飯前のことであり、勝つだけなら一瞬もかからず出来る。でもそれじゃ面白くない。


 それにこいつから情報を引き出したかったのは事実だ。だからわざと劣勢な振りをしてツクヨミがベラベラとしゃべりやすい環境を作った。


 多少は情報を取れたしこれ以上粘るのは無理だろう。そう判断して俺はもう茶番を終わらせようと思ったのだ。


ツクヨミ「何をふざけたことを!どうやって俺に勝つと言うのだ!」


 ツクヨミが俺に腕を伸ばす。とうとうその腕に掴まれるが何の変化も起きない。


 しかし表面的には何も起きていないように見えるが本当は俺とツクヨミで鍔迫り合いが起こっている。


 ツクヨミの『死』に勝つには『生』を与えれば良い。そう。つまり天力だ。そして『生』は『破壊』に負ける。『破壊』とは空力だ。


 死は生に負ける。何故ならばいくら殺しても何度でも再生されれば殺せないから。


 生は破壊に負ける。何故ならば再生しようと思っても破壊されていては再生出来ないから。


 破壊は死に負ける。何故ならば相手を破壊しようとしても自分が死ぬから。


 海人種、月人種、太陽人種は三竦みなのだ。


 海人種は太陽人種に勝ち月人種に負ける。


 月人種は海人種に勝ち太陽人種に負ける。


 太陽人種は月人種に勝ち海人種に負ける。


 本来属性的にはこうだった。ただ海人種があまりに強化されすぎて月人種と太陽人種が手を合わせなければ抑え込めないほどにまで成長していた。


 それに危機感を覚えたアマテラスとアマテラスを煽ったツクヨミが一万年前に太古の大戦を画策しスサノオを亡き者とした。


 結果的にはそうなった。だが果たして本当にそうなのか?どうも俺にはアマテラスがそう考えていたとは思えない。


 その辺りのことも聞けたらと思ったがツクヨミにそんなことを話している可能性は低いし、仮に話していてもこのままでツクヨミから聞き出すことは難しいだろう。


 アマテラスが何を考え何をしたかったのか。それはアマテラス本人に聞くしかない。ツクヨミから聞きたいことはいくらか聞けたと思う。


 光と闇の精霊のことは想定外だったが、面白い話が聞けてよかった。そろそろ茶番も終わらせよう。


アキラ「お前に勝つ方法なんていくらでもある。まずお前と同種の力を持つミコとキュウにはお前の力は通じない。」


 同種の暗黒力を持つ二人に効果を及ぼそうと思えばどちらがより大きな力で効果的に相手にダメージを与えられるかということになる。だから神力が圧倒的に上のあの二人に同種の力でツクヨミが勝つ方法はない。


アキラ「他にもあるぞ。天力を持つガウにはお前は勝てない。さらに同じ光の属性を持つタイラにも勝てない。」


 これはさっき言った三竦みだ。ツクヨミの暗黒力がチョキだとすれば天力はグーだ。どう頑張ってもチョキに勝ち目はない。ミコやキュウの暗黒力とではチョキ同士であいこなのでどちらがより強力かという勝負になる。


 空力を持つシルヴェストルなどはツクヨミと戦うには不利だ。パーでチョキと戦うわけだからな。シルヴェストルならば精霊力を併用するなど勝つ方法もなくはないだろうが、俺の仲間の中ではツクヨミに苦戦する方なのは間違いない。


アキラ「同種の力か、相性の良い力を持つ者が戦えばお前なんて大した敵じゃない。」


 なにしろ地力が圧倒的に違うからな。ツクヨミが俺達と戦えるのは相性や能力で何とかなっているのであって神力量では俺達とは勝負にならない。


ツクヨミ「ならばお前はどうだ!?スサノオの娘であるお前は空力だろう!お前は俺には勝てない!従わないのなら死ぬがいい!」


 どうやら自分がやばいと思い始めたらしいツクヨミが俺に遠慮なく攻撃してきた。


アキラ「なぁ…。さっきお前が俺に触れたのに俺はまだ生きているぞ?それがどういうことかわからないほど愚かじゃないだろう?」


ツクヨミ「黙れっ!」


 冷静さを失って…、ではないか。もう勝ち目はないと悟っているようだ。それでも最後まで月人種の種長としての誇りを持ったまま死のうということか。


 何かとウザイ奴ではあったし汚い手もいっぱい使っていた奴だ。だがそれは確実な勝利のために出来ることは全てしていたとも言える。


 褒められたものではないが勝つためにはプライドも何もかも全てを捨てることが出来る。それはそれで大したものだ。だから最後くらい苦しめずに逝かせてやるよ。


アキラ「色々と長い因縁だったがこれでお終いだ。界渡り、終の秘技、虚無之門。」


ツクヨミ「はっ?」


 俺に突撃してきていたツクヨミの前に黒よりもなお冥い門が開く。その中へとあっさり吸い込まれたツクヨミは存在そのものが消滅した。


 虚無之門はその名の通り虚無へと繋がる門だ。何もない虚無空間では全てがない。存在そのものすら…。だから虚無空間に飲み込まれて存在し続けられるモノはない。俺以外はな。


 だからツクヨミは死んだというよりは存在そのものがなくなったのだ。もう生まれ変わることも、新たな存在になることもない。何しろ全ての宇宙を含めたありとあらゆる空間において、どこにも存在しなくなったのだから。


 あれほどあれこれ面倒事を起こしてくれた奴をこんなにあっさり殺してやったのは伯父への恩情もあったかもしれないな。


アキラ「さぁ。片付いたな。一度カムスサへ帰ろうか。」


ミコ「アキラ君があっさり片付けちゃったから私達出番がなかったよ。」


アキラ「皆はもうこの前までで見せ場があっただろう?ちょっとくらい俺にも敵を残しておいてくれよ。」


 ミコがあんまりなことを言うからつい本音が漏れてしまった。本音で言えば俺だってちょっとくらいは強敵と戦ってみたい。負けるかもしれない戦いもしてみたい。ただ嫁や仲間達のために負けるわけにはいかないから確実な勝利を手にしているだけだ。


玉藻「アキラが戦ったらすぐに終わっちゃうからね………。話が盛り上がらないんだよ…。」


アキラ「うぐっ!………すみませんね。」


玉藻「私に謝っても仕方ないだろう?」


 そりゃわかってるよ…。もうこれ以上この話をしても俺が追い詰められるだけだから切り上げよう。


アキラ「それじゃ一度戻ろうか。」


 まだ戦っている海人種達を回収して一度カムスサへと戻ることにしたのだった。



 一週間で終わるかもと言ったな?あれは嘘だ。もうちっとだけ続くんじゃ。


 引き延ばしてるわけじゃないけど(むしろきついから早く終わらせたいんですけど!)色々と広げたフラグ回収してると終わりそうで終わらない…。


 早く終わらせて休憩したいけど駆け足で荒く終わると最後でがっかりになっちゃうんで…。もうちょっとだけ頑張りますので最後までお付き合いお願い致します。

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