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転生無双  作者: 平朝臣
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第百四十三話「地中都市ゲッカ」


 予想外にブリレが大変なことになってしまったが何とか事態を収拾して作戦指揮所へと戻る。そこには俺達と一緒に地中都市ゲッカに侵入する突入部隊が集まっているようだ。


アキラ「ん?スクナヒコナは行かないのか?」


 スクナヒコナとその舎弟達は突入部隊が準備しているのを離れて眺めているだけだ。とても一緒に行くようには見えない。


スクナヒコナ「ああ。俺は後の組だ。」


アキラ「後の組?」


 どういう意味だ?一発で終わらせる…、というか俺が行けばすぐに片が付くから第二陣や第三陣のようなものは準備していないはずだ。


ヤタガラス「アキラ様はゲッカを落とされたら次はテンショウを落とされるのでしょう?ですから先にテンショウに突入する部隊も選抜してあるのです。」


 なるほど。こいつらにはそこまで説明していなかったが、確かに俺はゲッカを落としたら次はテンショウに攻め込むつもりだった。それを見越して先に準備してあるということか。


 どうやら本当にこいつらは有能らしい。ちょっとだけ、本当にちょっとだけ部下として欲しくなってきた。


アキラ「それなのにヤタガラスはゲッカに乗り込むのか?まさか二連戦でテンショウの突入組にも入るとは言わないよな。」


 スクナヒコナとその舎弟達はテンショウに乗り込む部隊らしいのでまだ出撃準備まではしていない。だがヤタガラスはゲッカへの突入部隊と一緒に出撃準備をしている。


 総指揮官であるヤタガラスがノコノコと前線に出て行くなんて!などと言うつもりはない。何しろ俺は立場上ヤタガラスより上なのだから、もしそんなことを言おうものなら『だったらお前も前線に出るな』と言われるだろう。


 だからヤタガラスが出ることはいい。気になったのはヤタガラスがゲッカに行ってテンショウは諦めた理由がよくわからないのだ。


 一応敵の首領はアマテラスということになっている。その敵のボスであるアマテラスを倒す方に参加したいのではないのか?という疑問が沸いたのだ。


ヤタガラス「テンショウにはスクナヒコナだけではなく三姉妹様も行かれるのです。ですから私は戦力的に考えてゲッカの方にしたのです。」


アキラ「そうか…。お前も思う所があっただろうに冷静に全体を考えているのだな。」


ヤタガラス「………いえ。私はアキラ様にそのように言っていただく資格はありません。私がゲッカを選んだのには他にも理由があります。………私はスサノオ様が身罷られたのはツクヨミのせいだと考えています。ですから私はテンショウよりもゲッカへの突入部隊を選んだのです。」


 ふむ…。それは間違いではない。あの場を見た俺にはわかる。少なくともスサノオが死んだあの場で直接的な原因はツクヨミだ。ツクヨミがあんな暴走を起こさなければスサノオは死ななかったかもしれない。


 問題なのは何故ヤタガラスがそれを知っているのかだ。あの場には当然いなかった。居たのは三貴神と九尾の女神に、途中で赤子の俺を連れたイフリルがやってきただけだ。


 だからもしそれを知っていたというのなら敵の誰かとヤタガラスが通じているということになる。が、恐らくそこまで詳しく知っているわけではないのだろう。


 ツクヨミの性格などからして恐らく引き金を引いたのはツクヨミだろうと当たりをつけているだけだと思う。そしてそれは間違いじゃない。


アキラ「お前の読みは当たってるよ。スサノオ達の直接的な死因に関わっているのはツクヨミだ。だからお前がゲッカの突入部隊を選んだのは正解だ。だが一つだけ言っておくぞ。ツクヨミを見ても勝手な行動を取ったり、ましてや先走って攻撃したりするなよ?それだけは守れよ?」


ヤタガラス「………今俺がお仕えしているのはアキラ様です。確かに前主君の仇だと聞けば動きたくなります。ですが今お仕えしているアキラ様の作戦を台無しにしたり不利益になるようなことは致しません。」


 ヤタガラスは真っ直ぐに俺を見据えてそう言い切った。普通なら仇を見れば動きたくなるだろう。こいつらは武士道に近いような観念を持っている。だから絶対に主君の仇討ちをしたいはずなのだ。


 それでも今の主君である俺の命令を聞いて動かないという。もしそれを守ったら俺はこいつを部下にしよう。こいつにはそれだけのものがある。


アキラ「………それじゃ突入部隊は集まれ。最後のミーティングだ。」


 俺はヤタガラスには言葉では答えずに視線だけで応える。それがヤタガラスに通じたかどうかはわからない。ただ俺はここで一つの誓いをたてたのだ。それがどうなるかはヤタガラス次第だ。


アキラ「最初に言っておく。敵にどんな事情があろうと手加減するな。味方の安全を最優先に考えろ。ツクツミのように脅されて向こうに味方しているのだとしても知ったことじゃない。俺達は俺達の味方のことを一番優先する。異論のある者はいるか?」


 俺が全員を見回すが誰も声を上げない。一応確認しておいたが、ここにいる者は全てわかっていて異論はないと看做して先に進む。


アキラ「ないな?後で文句を言ったり、ましてやいざ現場に着いてから味方の足を引っ張るような真似はやめろよ。それで部隊分けはヤタガラスに聞いていると思う。そっちは俺は関知していないから各自確認しておけ。」


 軽くお互いに顔を見合わせて自分の部隊やチームメイトを確認したようだ。皆が落ち着いたのを見計らって続ける。


アキラ「俺は場合によってはお前達を見捨てる。ここで敵を片付けなければ何度でもこんな茶番が繰り返されることになる。だからツクヨミを殺せる場面になればお前達を見捨ててもツクヨミを優先する。だから言おう。お前達は俺のために死ね。海人種を救うために犠牲になれ。納得のいかない者は今すぐ部隊から抜けろ。」


 そこまで言って少し間を空ける。しかし誰も動かない。微動だにせずただじっと決意を秘めた目で俺を見つめ返している。


アキラ「………。ここにいる者は例え自分が犠牲になろうとも海人種のために死ねる者だけだな?」


一同「「「「「おう!」」」」」


 俺の問いかけに気合の入った声が返ってくる。これ以上同じ問答を繰り返す必要はないだろう。ここにいる者達は覚悟を持つ者達だ。


ツクツミ「悪いけど私は侵入したら勝手にやらせてもらうよ。」


 そこへツクツミが口を挟んできた。


アキラ「そういう約束だったからな。勝手にすればいい。ただしこちらの作戦を変更してまでお前の手助けもしない。」


 ツクツミがどうやって子供を捜して見つけるつもりか知らないが、俺達は積極的に邪魔はしないが手伝いもしない。それは事前に言っていたことだ。


ツクツミ「上等。」


 ツクツミが納得したのでこれでこの件は終わりだ。俺は再び全員を見渡して続ける。


アキラ「今回でこんなくだらない戦争に終止符を打つ。全員出撃!」


海人種達「「「「「おお~~~っ!!!」」」」」


 全員がお互いに手を取り合う。別にお互い励ましあっているわけではない。俺の大転門で移動するからだ。嫁達も皆俺に掴まる。俺は左右の手を出してヤタガラスともう一人の指揮官らしき者の手を持つ。そこから数珠繋ぎに突入部隊全員が繋がっている。


アキラ「大転門!」


 俺の界渡りで全員が転移する。出た先はもちろん聖教皇国だ。中央広場の目の前に転移してきた。その中央広場があったはずの場所にはぽっかりと地獄の蓋が開いたかのような穴がある。


ヤタガラス「………アキラ様の界渡りは出鱈目ですね。この目で見てもまだ信じ難い。」


アキラ「ふむ?そうか?」


 何かおかしかっただろうか?俺は他の者が使う大転門をほとんど見たことがない。最初に会ったヤタガラスと過去の映像でスサノオが使っているのを見たくらいだ。だからもしおかしかったとしても俺では気付かない。


ヤタガラス「同時移動可能な人数。出現先の座標の正確さ。どちらも出鱈目です。普通の者ならばこれほどの人数を転移させるだけの神力はありません。」


アキラ「なるほど。人数に関してはそうかもしれないな。だが勘違いしてもらっては困るが俺も界渡りの精度は高くない。思わぬ場所に出ることがほとんどだ。」


 実際これまでも微妙に変な場所に出ることばかりだった。今回偶々目的の入り口の目の前に出ただけだ。


ヤタガラス「そうですか?それこそ勘違いではないですか?アキラ様が今まで現れた先は全て無意識のうちに狙っていた場所ではないですか?」


 無意識に狙っていた………。フランと抱き合うほどの目の前に出たのは狙い通りだったのか?イチキシマの膝の上に出たのは狙い通りだったのか?


 ………何かそう言われたらちょっと期待してた気もする。けどドラゴニアの外に出たのはどう説明する?


虚無『外に敵が大勢いるから確認しようと思ったのではないのか?』


アキラ(びっくりした…。いきなり話しかけるなよ。)


虚無『ならばどうする?これから我が話しかけるぞと声をかけるのか?結局それで驚くことになるのではないのか?』


アキラ(まぁそうだけどな………。)


 時々こいつの存在を忘れているから急に頭の中に話しかけてこられたらびっくりする。


 それはもういいか。それよりも外の敵の気配を察知していたからそっちを確認するために外に出たのか?一応筋は通っているな。


 けどそれならもっとこう…。無意識というより自分で意識的に考えてるんじゃないのか?


 それに抱きつくような場所に出たのは二人だけだ。それだと俺はあの二人に抱きつきたかったということになる。でもそんなことはないだろう?


 確かにあの二人にも抱きつきたかったとしよう。でもそれなら他の嫁達にも抱きつきたいはずだ。それなのにあの二人の時だけというのは説明にならない。


虚無『お前の気配察知が飛躍的に上昇しているのに感覚が追いついていないからだ。だから無意識に転移先の状況を把握してそれに合わせた位置に出るようにしていたのだろう。』


 ふむふむ…。フラン達は移動もせず出入り口の前で落ち着いていた。だから抱きついた?玉藻とミコやキュウとガウなどは移動していた。だから少し先に出た。


 ティアとシルヴェストルは混乱状態だった。だから少し離れた場所に出た。クシナとルリの件は先ほどの通りだ。そしてイチキシマは座ってじっとしていたからその上に出た。


 なるほど。出た先の状況に合わせていたと言えばそう言えなくもない。


アキラ(って虚無よ。俺の考えてることを読むなよ。同格以上になったから読めなくなったんじゃなかったのか?)


虚無『気を張らずに表層意識で考えていることくらいならば今でも読める。』


 なるほど。俺が読ませないようにブロックしてなければ表面的なものくらいは読まれるらしい。


ヤタガラス「アキラ様?」


 おっと危ない。一人で考え事に耽っていた。本当は一人じゃなくて虚無と話していたわけだが他の者から見れば俺が一人でブツブツ言ってる状態に見えるだろう。ヤタガラスと話していた途中なのに急に黙り込んだら変な人だと思われたかもしれない。


アキラ「何でもない。それより作戦を開始しよう。準備はいいか?」


指揮官「ほわぁ…。アキラ様の可愛いお手手…。小っちゃくて柔らかくて温かくて…。触れているだけで天にも昇る気持ちです。もう一生手を洗いません。」


 いや洗えよ…。これから一生手を洗わない奴なんて今後二度と触らないぞ………。


 ヤタガラスと逆の方の手で握っていた指揮官が呆けた顔で何かアホなことを言っている。


 こんな奴が指揮官で大丈夫か?こいつはここで新たな敵が入り口から入ってこないように出入り口を守る部隊の指揮官だ。こんな奴が指揮官だったら俺なら嫌だな。


 おっと。あまりの出来事に目的を忘れるところだった。本題に戻ろう。


アキラ「おい。全員気を引き締めろよ。それじゃ作戦を開始するぞ。」


 俺の言葉を受けてゾロゾロと出入り口の防衛部隊が周囲へ移動を開始する。準備も不十分なのにいきなり入り口に飛び込むほど馬鹿じゃない。こうして事前の準備というものがある。


 周囲に散った者のうちの一部は出入り口の穴の縁に並び神力を放つ。円周上に立っている隣同士の神力が結び付き円になる。これは結界だ。こいつらが結界を張っている以上は今この結界の内側にいる者しか出入り口に入ることは出来ない。


 そして結界を張る者を守るように周囲に海人種の兵達が立ち警戒する。これを破るには相当の時間がかかるだろう。これで突入の準備は完了だ。


 まぁ…、俺がいれば転移でも何でも使って入れるがな…。ただし普通の者の転移は結界に弾かれるので俺以外では出入り出来る者はいない。


 そもそもで言えば俺一人いればこんな準備も必要なく、いきなりツクヨミとアマテラスの目の前に転移して殺してくれば終わりだ。


 だからこれらはただの茶番にすぎない。だが海人種達も戦い勝利を掴んだのだという働きと実感が必要だろう。


 俺がポッと移動してサクッと敵を殺して勝利しました。と言われても実感も納得も出来ないだろう。この戦争の主体はあくまで海人種でなければならない。


 俺はその神輿だ。そして最後にツクヨミとアマテラスを倒すのが俺の役目になる。


アキラ「それじゃ…。突入っ!」


玉藻「ほいよ。」


ミコ「頑張ろうね。」


ガウ「がうがう!」


フラン「行きます。」


ティア「と~!」


シルヴェストル「ティア。はしゃぎすぎてはいかんのじゃ。」


ルリ「………ん。」


キュウ「じゃ~んぷ。」


クシナ「先に行きますよ。」


 嫁達が次々に穴に飛び込んでいく。おい…。俺を置いて行く奴があるか。


アキラ「よし。行くぞ。」


タイラ「御意。」


ハゼリ「戻ったらまた主様と…。」


タイラ「主様の思し召しのままに。」


ブリレ「ハゼリ!抜け駆け禁止だからね!」


サバロ「………。」


ムルキベル「勝利をアキラ様に!」


 俺が嫁達に続いて穴に飛び込むと五龍神とムルキベルが続いてきた。ムルキベルは久しぶりに男型になっている。男型は少しお堅い性格だが戦いでは頼りになるだろう。


 そして俺達に続いてヤタガラスを先頭に海人種達が飛び込んでくる。そうか…。嫁達が先でよかった。中にはスカートを穿いている嫁もいるからな。下着が丸見えになったら俺が嫉妬で爆発しそうだ。


 ………かなり長い間落下しているがまだ底に着かない。一体どれほどの深さなんだ?ちょっと座標の確認を………。おいおい…。マジかよ。すでに神山より『深い』。


 信じられない。そんなに深く掘れば水が出たりマグマが出たりするんじゃないのか?実際にマグマが生成されるのは数十km~数百kmの深さだと言われている。


 だが発生したマグマは岩石等よりも比重が軽いために浮き上がってくる。比重のバランスが取れる位置が大体5km~10kmと言われる。その深さにマグマが溜まるのだ。それがマグマ溜まりと呼ばれるもので溜まったマグマが様々な要因で噴出すのが噴火だ。


 偶々この辺りが安定している地殻だったとしてもこれほどの深さに達していれば地表付近とは違った様々な問題が出てくるだろう。


 この問題を説明するには最早『異世界の不思議に地球の理屈は通用しない』と説明するしかないな…。


シルヴェストル「底が見えたのじゃ!」


 シルヴェストルの声で我に返った俺は下を見てみる。確かに底が見えた。先に降り立った嫁達はすぐさま上の者が降下してくるのにぶつからないように端へと移動する。


 俺も着地と同時に横へと跳ねて降下地点を空ける。こうして次々に海人種達が降り立ったのだった。


アキラ「ふむ…。何もないな。」


 降り立った先には何もなかった。ただの縦穴の底というだけだ。横へ向かう道もない。まさかこれほど大掛かりな穴を用意しておきながら『ただの落とし穴でした~!』とか言うオチはないと思うが………。


ヤタガラス「何か仕掛けがあるはずです。」


 仕掛けか…。やれやれ。面倒なことをしてくれるものだ。こっちはさっさと進んでツクヨミをぶっ殺したいだけだというのに…。


ミコ「アキラ君楽しそうだね?」


アキラ「あ?楽しいわけないだろう?こっちはさっさとツクヨミをぶっ殺せたらそれでいいんだよ。まったく…。手の込んだことしやがって。」


ミコ「ふぅん?でも顔がニヤついてるよ?」


 何を馬鹿な…。こんなの楽しいわけ……。と思っていたらミコがさっと俺の前に手鏡を出す。そこに映っている俺の顔はどっからどう見てもニヤニヤしていた………。


アキラ「すんませんっした!ちょっと冒険みたいってワクワクしてました!」


 言い訳しようがない証拠を突きつけられた俺はすぐに掌を返して謝った。


ミコ「別に謝る必要はないのだけれど…。クスッ。アキラ君にもそういう子供っぽい所があったんだね。」


 うぐっ。ミコに笑われてしまった。でも男なら誰でも冒険とか大好きだろう?どこぞの考古学者みたいに遺跡の発掘に行って大冒険してみたいだろう?現実にはそんな遺跡はないがな………。


アキラ「とにかく入り口を探そう。」


 これほどの人数で隅々まで探してみたのに何も見つからない。くそっ…。本当に手の込んだことをしやがって!


玉藻「アキラ本当に楽しそうだね。」


 そんなことないですよ?本当に困ってますよ?


 冗談はさておき、本当にどうする?どこに入り口があるかわからない。ふぅ~む…。


 …待てよ?俺なら敵が入ってこれないようにしたい時にどうする?味方はフリーパスなのに敵だけは通れない。そんな判別方法だ。


 地球でならそれは難しいだろう。ICチップ等を仕込んだカードを持たせるくらいしか方法がない。だがそれなら偽造カードを使われたり味方が奪われて使われる可能性がある。


 しかしこの世界ではそんなことをしなくとも、少なくとも同種の者だと確認する方法がある。そうだ。それは神力だ。各族が持つ神力は誤魔化すことも、ましてや変えることなど出来はしない。


 つまり神力で確認すれば少なくとも同族だと判別出来る。俺以外ならな。だが当然ながら全神力を扱える俺にはそんなものは意味がない。確証はないが試してみる価値はあるだろう。


アキラ「ミコ。ちょっと暗黒力を出してみてくれないか?」


ミコ「え?うん?」


 何故俺がそんなことを頼んだのか意味がわからず疑問に思っているようだが、それでも素直に暗黒力を放ってくれる。


 ミコの暗黒力が周囲に満たされるとそれに反応して縦穴の一部が音もなく開いた。どうやらあそこが入り口みたいだな。


ヤタガラス「さすがはアキラ様です。」


 ヤタガラスの言葉に海人種達がウンウンと賛同の声を上げる。けどあまり持ち上げられても気持ち悪いだけだからそういうのはいらない。


アキラ「先に進むぞ。」


 新たに開いた横穴へと入っていったのだった。



  =======



 横穴に入ってから大変なことになった。月人種達が前後左右からワラワラと出てきて戦闘続きなのだ。戦闘は全てヤタガラスが指揮する海人種に任せているが、敵が多すぎて中々進めない。


ヤタガラス「くっ!アキラ様!ここは我らにお任せください!アキラ様は先に進んでください!」


 ヤタガラスが敵を食い止めながら大声を張り上げる。


アキラ「………任せる。」


ヤタガラス「はっ!必ずやツクヨミを討ち取ってください!」


 俺達はヤタガラス達海人種部隊を置いて先へと駆け抜けていったのだった。


 ………

 ……

 …


玉藻「あんな茶番必要だったのかい?」


 かなり先まで駆け抜けてから玉藻が話しかけてきた。


アキラ「ああ。俺達が戦えばすぐに終わる戦争だけど、あくまで海人種達が主役で終わらせなければな。だからああいう所も必要なんだよ。」


玉藻「そうかい。アキラがそう言うんならいいんだけどね。」


 そうは言いながらも玉藻は無駄なことをするものだと思っているのだろう。確かに俺達が介入すればすぐに解決するがそれでは意味がない。


アキラ「それはいいじゃないですか。それよりもうツクヨミの前に着いたみたいですよ。」


 俺の言葉で全員がすぐ先にある大きな扉に目を向ける。とても地下にあるとは思えないほど広大な空間に巨大な門が聳え立っていた。


 その中から一人の神力を感じる。俺はその神力を過去の映像で見て知っている。そう。ツクヨミの気配だ。ツクヨミはこの中で一人椅子に座って待っている。


 こちらも気配を隠すことなく堂々と歩いてきているのだから、俺達がツクヨミの気配を感じているのと同様に向こうもこちらの気配を感じているだろう。


 だがツクヨミは慌てることなくただじっと椅子に座って俺達がやってくるのを待っている。ゲームのボスとかが現実に居れば今のツクヨミと同じ気持ちがしているのかもしれないな。


アキラ「それじゃ行くぞ。」


 最後に全員を振り返って確認する。全員が俺を真っ直ぐ見て頷いた。返事を確認した俺は巨大な扉を開いたのだった。



  =======



 扉を開いた先には高い柱が両脇に並ぶ通路のようになっている道があった。その先に数段高い玉座が置いてある。そしてその玉座に座る主はもちろんツクヨミだ。


 当たり前ではあるが過去の映像の姿と何一つ変わっていない。不遜な態度でふんぞり返っている。


ツクヨミ「お前が海神の娘か。………ふんっ。そこそこ整った顔をしてるじゃないか。お前が俺に従うと言うのならば命だけは助けてやっても良いぞ?ただし体は好きにさせてもらうがな!あはははっ!」


 何でこう悪人っていうのは言うことがワンパターンなんだろうな?別に俺の美貌をひけらかす気はないが、何故かいつも敵は俺を侍らせようとする。


 何度も言ってるが俺は男だぞ?男を侍らせたいか?いくら今の見た目が九尾の女神譲りの美しさだとは言っても俺の中身は前世の九狐里晶のままだ。


アキラ「一応言っておくが俺は男だぞ?男である俺を侍らせたいのか?」


ツクヨミ「………?」


一同「「「「「………。」」」」」


 ツクヨミは頭に疑問符を浮かべて、嫁や仲間達は呆れた顔で俺を見つめている。何だ?俺が悪いのか?


ツクヨミ「お前はスサノオの娘のアキラ=クコサトではないのか?」


アキラ「そうだ。俺がスサノオの娘のアキラ=クコサトだ。」


ツクヨミ「………???」


 ツクヨミは意味がわからないという顔をしている。ちょっと面白い。


ミコ「アキラ君……。それはもう説明しなくちゃ通じないんじゃないのかな?」


 そうだろうな。いきなり女に『俺は男だ!』とか言われても単に男になりたがっている女か、性同一性障害かとでも思うだけだろう。


 前世の記憶を持っていて前世が男だったから心は男ですなんて説明されなければわかるはずはない。だが俺はツクヨミにいちいちそんな説明をしてやる気はない。


アキラ「それはいいだろう。どうせ俺が従うなんて思ってないんだろう?」


 説明する気がない俺はそこはさらっと流して本題に入る。


ツクヨミ「くくくっ!なに、可愛い姪のことだからな。念のために確認してやったまでだ。」


アキラ「ん?お前はスサノオのことを随分毛嫌いしていたのに俺が姪だということは認めるのか?」


ツクヨミ「………お前が、…どこでその情報に触れたのかは知らないが少し違う。俺は別にスサノオが嫌いだったわけでも認めなかったわけでもない。ただ海人族の長子たる姉上や、長男である俺を差し置いてスサノオが族長となり海人族となったことが気に入らないというだけのことだ!」


 ふむ……。そう言えば確かにスサノオ自身を否定はしていなかった。兄弟と呼ぶなとは言っていたが、それは血縁を認めていなかったのではなく、兄としてではなく立場の上の者として敬えという意味だったと考えればツクヨミの言ってることも筋が通っている。


 なるほどな。つまりツクヨミは自分が上に立ちたかった。族長として一番上に立ったスサノオが気に入らなかった。だから兄として敬うのではなく自分に族長を譲り族長として敬えという思いがあったと…。


 だがそれでは一つだけおかしいことがある。スサノオが暴走しかけた時のツクヨミの言葉はそれとは矛盾している。


アキラ「お前は世界の破滅を願っているんじゃないのか?言っていることと違うぞ?」


ツクヨミ「………お前は、何故それほど妙な情報を持っている?どこでそんな間違った知識を得たのか知らないが俺は世界のことを考えているさ。」


アキラ「ほう。どこで、と言ったか?俺がお前の本性を知ったのはスサノオが死んだ時。あそこに俺も居たのを忘れたのか?」


 本当はその時の記憶があるわけではなく後で虚無に見せられたから知っているのだがそれはどちらでもいいだろう。肝心なのは俺がそれを直接見てきたということだ。


ツクヨミ「………くくくっ。はははっ。あ~っはっはっはっ!!面白い!さすが海神の娘だな!それならばもう取り繕う必要もなかろう。」


 狂気を宿らせたツクヨミが立ち上がり神力を解き放つ。過去の映像よりも力を増している。これは第一階位に達しているだろう。


ツクヨミ「俺は死と破滅の神!だから世界の破滅を望むのは当然だろう!こんな世界など滅びてしまえばいい!さぁ!お前の中にも宿っているのだろう?この宇宙せかいを破滅に導く狂気が!解き放て!この宇宙を消し去れ!!!」


 自分自身が狂気に取り憑かれたツクヨミが迫ってくる。ラスボスその一との戦いが始まろうとしていた。



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