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転生無双  作者: 平朝臣
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第十五話「早すぎる再会」


 ロベールが同行することが決まったがその日はすでに夕方近く旅立ちの準備もあるためにもう一晩ロベールの家に泊まることになった。


狐神「これも持って行ったらどうだい?」


アキラ「そうですね。それじゃあこれも…。」


ガウ「がうがう。これもなの。」


ロベール「おいぃぃ!お前ら盗賊か?俺の家にある物全部持っていく気かよ!」


アキラ「置いて行ってどうする?それこそ本物の盗賊にでも盗られるか魔獣達に荒らされるか風化してなくなるだけだろう。」


ロベール「っていうかちょっと待て。その袋おかしいだろ!明らかに袋の容量以上に入ってるぞっ!」


アキラ「これは古代の魔道具だ。いくらでも入る。使用者制限がかかっているから俺以外の者がこの袋を使ってもただの旅用袋にしかならないからな。俺専用の空間には俺以外は入れることも出すこともできない。この袋を盗んでも無意味だぞ。」


ロベール「まじでかっ!すげーもん持ってるな…。へぇ…、普通の袋にしか見えんが…。ってか盗まねぇよ。俺はそこまで命知らずじゃねぇ。」


 ロベールは関心頻りに旅用袋を眺めているがもちろんこれは嘘だ。ロベールの見立て通りこれはどこにでも売っている普通の旅用袋だ。袋に出し入れしている振りをして俺のボックスに出し入れしているだけだ。こいつが同行している間中ずっとボックスが使えないのは不便で仕方ない。だから万が一誰かに見られてもいいように以前から考えていた設定を使わせてもらった。もっと疑われるかと思っていたがロベールはあっさり信じたのかこれ以上聞いても無駄だと思ったのか袋については納得したようだった。


ロベール「食料も調理器具も全部入れちまって今晩の飯はどうするんだよ。おかげでこの家はもう何も残ってねぇよ。」


アキラ「今日は俺が料理をご馳走してやる。」


ロベール「あ?お嬢ちゃんが?だが道具も材料もなしにどうやって?」


 ここに泊まっている間はずっとロベールが料理をしていた。獲ってきた獲物を捌くくらいは俺もしたがロベールは料理の腕もそこそこだったので調理自体は全て任せていたのだ。もちろんただ楽をしたかったわけではない。ある程度は手伝いながらファルクリアの料理方法を見て覚えていたのだ。最初は男料理が出てくるかと思っていたがロベールは中々本格的な料理を作っていたので大変参考になった。


 俺は袋から出す振りをしてボックスから料理を取り出しテーブルに並べる。ここ数日はロベールの料理だったので久しぶりに師匠とガウが好きなから揚げを出す。ブレーフェンで覚えたタレをアレンジしたソースを作ったのだがその味がコロッケに合いそうだったのでコロッケも出しておく。シチューとサラダに日本人なら欠かせない白米も並べる。ロベールはどっちが良いかわからないのでロベールの分だけパンも出しておいてやる。


ロベール「どうなってんのこれ…。出来立てみたいに温かいし…。」


アキラ「こういう物だと思っておけ。」


 いちいち説明するのも面倒なのでそのまま押し通す。


狐神「今日はから揚げが食べられるんだね。」


ガウ「がうがうっ!」


 師匠とガウは喜んでいるようだ。


狐神「お酒も出しとくれよ。」


 しばらく禁酒だったので師匠がお酒の催促をしてくる。


ロベール「お?酒があるのか。じゃあ俺にも頼む。」


アキラ「しょうがないな…。」


 こうして食事の準備は整った。


狐神「それじゃ…。」


全員「「「「いただきます(なの)。」」」」


ロベール「うおぉ。うめぇ。これも。こっちも。初めてみた料理ばっかりだがお嬢ちゃんは料理が上手なんだな。」


 酔いも手伝って騒がしい晩餐は過ぎていった。



  =======



 翌朝は軽い朝食を済ませて旅立つ。ロベールの家の裏にある山に向かって進みだす。


ロベール「おいおい。そっちは危険だぜ。東に進めば比較的安全な道で街道に出られる。どこに向かってるかは知らないがこの先に進んでも何もない。街道に出た方がどこに向かうにしてもいいぞ。」


アキラ「じゃあロベールは街道に向かえ。俺達はこっちへ行く。」


ロベール「何でだよ。」


狐神「説明してやらなきゃわからないよ。」


アキラ「別にロベールに理解してもらう必要はないでしょう。来たくなければ来なければいい。」


ロベール「冷てぇな。せめてどこに向かってるかくらい教えてくれよ。それがわかりゃわざわざこんなとこ行く必要はなくなるだろ。」


アキラ「ふぅ…。目的地はわからない。昔見た景色の通り進んでいる。迂回したりすると景色が思い出せなくなるから同じ道を進むしかない。」


ロベール「なるほどなぁ…。でも待てよ。俺はここに住み始めて5~6年以上は経ってるはずだがお嬢ちゃんが通った記憶なんてないぞ。それより前ってことか?」


アキラ「そうだ。ロベールが住み始めるより前だ。俺の記憶でもこんなとこに家なんてなかった。」


ロベール「それより前ってお嬢ちゃんいくつの時だよ…。そんな頃の記憶が確かなのか?」


アキラ「いくつの頃かはわからないな。だが記憶は確実だ。」


ロベール「まぁいいか。お嬢ちゃんらがどうしても行くって言うなら俺は付いて行くしかねぇよな。」


 こうしてロベールを連れた俺達四人は山へと進んで行った。ロベールが危険だと言った通りこちらは今までより強力な魔獣が生息している。だが俺達にとってはこの程度では何の障害にもならない。だがロベールの足が遅いため進む速度が遅い分、今までより魔獣に襲われる機会が増えている。


ロベール「お嬢ちゃんたちほんと強ぇな。俺が足手まといみたいだ。」


アキラ「実際足手まといだからな。」


 何度となく戦闘になっているが全て俺達が一撃で始末している。ロベールに出る幕はなかった。


狐神「アキラはロベールに厳しいね。」


ロベール「まったくだ。キツネのお姉ちゃんが慰めてくれ。」


狐神「お断りだよ。」


ガウ「いい子いい子なの。」


ロベール「お~。おチビちゃんは慰めてくれるんだね~。でももう飯は盗らないでね。」


 そんなやり取りを何度も繰り返しながら進んでいると山の中腹辺りに峡谷があった。幅は10m程度だろうか。底はかなり深い。


ロベール「こりゃどうするんだ?橋なんてねぇし戻るか?」


アキラ「このまま進む。」


ロベール「どうやって…。」


 ロベールがまだしゃべっているが最後まで聞かずに跳び越える。


ロベール「うおぉ…まじか…。俺は跳べねぇぞ。」


アキラ「誰かに担いでもらえ。」


 俺は大声でそうアドバイスしてやる。俺が先に跳んだのはおっさんを担ぐのが嫌だったからだ。


ロベール「じゃあお姉ちゃん頼むってもう跳んでるし!」


 師匠もささっとこちらへ跳んできてしまっていた。


ガウ「がうが抱っこしてあげるの。」


 抱っこというよりは無造作に両手で抱えられながらガウとロベールが跳んでくる。


ロベール「うおぉぉぉ~~~!」


 笑顔満面の幼女に抱えられたおっさんが恐怖に顔を引き攣らせて絶叫を上げながら跳んでくる。非常にシュールな絵面だ。


 トンッ ゴンッ!


 ガウは華麗に着地したのだが抱き合う向きで足をガウに抱えられたロベールは勢い余って後頭部からひっくり返る。


ロベール「いてぇぇぇ!やるなら最後まで面倒みてくれ。」


ガウ「がうのせいじゃないの。」


 誰からも雑に扱われる哀れなロベール。だが俺も別に同情はしていない。こいつはこういうキャラだ。嫌なら付いてこなければいい。


アキラ「さぁ行こう。」


 ロベールは無視してまた進みだす。


ロベール「やれやれ…。俺って一応剣聖なんだがなぁ…。」


 剣聖様はこの扱いにご不満のようだった。



  =======



 その後も順調に進んでいく。時々ロベールにも戦わせてみるが確かに人間族としては破格の強さだ。


狐神「右から三匹。ロベールに任せるよ。」


ロベール「よし。任せとけ。」


 人間を丸呑みできそうなくらい大型の蛇の魔獣が三匹同時に飛び掛ってくる。こいつらは集団で狩りをするそうで単体でも人間には危険な魔獣がさらに危険になっている。だがロベールは慌てることなく一匹に真空の刃を飛ばし空中で迎撃する。残った二匹は攻撃をかわしながらすれ違い様に一薙ぎで二匹とも両断した。


ロベール「どんなもんだ。」


アキラ「時間がかかりすぎだな。さっさと行こう。」


ロベール「ほんとお嬢ちゃんは俺に冷てぇな。俺何か嫌われるようなことしたか?」


アキラ「色々したと思うが?」


ロベール「まじで嫌われてんの!」


 確かに色々とセクハラ紛いのことはされたが、だからと言って嫌っているかと言うとそうでもない。下ネタ好きのセクハラおやじみたいなもので男の俺からすれば呆れはしても嫌いというほどのことでもない。だが実際俺は少々イライラしてるかもしれない。原因がどれかはわからない。候補はいくつか思い当たる。ロベールが入ってから旅の進行が遅い。俺達だけならもうすでに遥か先まで進んでいるだろう。力も三人だけの時より抑えてばれないように気を使っている。思い切り暴れられないし修行も出来ないのはストレスかもしれない。あるいは…俺達の輪の中にズカズカと踏み入ってきたからだろうか…。


ロベール「まっ、俺は人に嫌われやすいようでな。昔からそうだからあまり気にしちゃいないがな。」


 そこからロベールの昔話が始まった。このおっさんはおしゃべり好きだ。今までもほとんどこのおっさんがしゃべっていた。


 ロベールは孤児だった。自分の年齢を『38くらい』と言ったのもカレンダーもないこんな辺鄙な所で住んでいて年月がわからなくなっただけではない。孤児として拾われてからそれだけは経ったということであり正確な生年月日がわからない以上はそれより上としか言えないからだ。


 ロベールを拾ったのはある剣術家だった。それほど高名な剣術家でもなく剣の腕も平凡だったそうだが彼は自分の剣術を残したかった。だが彼はすでに高齢で子供もいなかった。ある街を通りかかった時に偶然捨てられていたロベールを見つけて連れて帰った。


 ロベールは幼い頃からその剣術家に剣を教えられた。剣術家は平凡でありロベールは天才だった。ここで一つ目の悲劇が起こる。自分の教えを守らず勝手に違うことをする上にどんどん自分より上達していくロベールに彼は嫉妬し怒った。真剣で彼と打ち合うように言われロベールが勝った。勝ってしまった。肉体的に大怪我は負わせていなかったが彼のプライドは破壊してしまった。翌日剣術家は自害していた。


 保護者のいなくなった幼いロベールはどうしていいかわからず他の剣術道場を訪ねた。だがいきなり訪ねてきた幼い子供の面倒をみながら剣を教えてくれるような道場が簡単に見つかるはずもない。ほとんどは門前払いで追い返されるがある道場で『それならば剣の腕を見せてみろ』と言われ立ち合うことになった。そして道場主に勝った。勝ってしまった。こんな子供に道場主が負けたと知れては門派の恥だと他の門下生も混じって大乱闘になった。だがそれも全てロベールは叩き伏せてしまった。




アキラ「おい。話を誇張してないか?」


ロベール「してないしてない。いいから聞けって。」




 ロベールは道場破りの子供剣士として有名になりつつあった。あちこち訪ねては同じようなことになり勝った道場で食料や金銭をもらって生活するようになっていたのだ。その話が地方官吏の耳に入りそれほど才のある子供ならぜひ兵に欲しいと言われて官吏の前で試合をすることになった。相手は官吏のお抱え筆頭騎士だった。ここでもロベールは勝った。ロベールは地方官吏に雇われることになり職を得た。そして官吏の命令で魔獣を狩って狩って狩りまくった。


 青年へと成長した頃にはロベールの名声は国中に轟いていた。だがまたもやロベールに不幸が襲う。雇っていた地方官吏が汚職の罪で捕まりロベールも腹心として連座させられることになった。ロベールは官吏の汚職など知らなかったが問答無用で職を失い全ての財産を没収され強制労働させられることになる。ロベールの剣の腕はすでに国中に知れ渡っていたので罪人のみを集めて構成された魔獣討伐部隊に入れられただ働きさせられることになった。


 ほとんどの罪人は刑期中に魔獣に殺されることになるがロベールは生き残った。刑期を満了し自由の身となったロベールはすでに25歳になっていた。その後いくつかの傭兵団を渡り歩いていたが国王に呼び出される。剣の腕を買ってレッサーアースドラゴンの討伐を依頼されたのだ。以後レッサーワイバーン八体、レッサーアースドラゴン六体を討伐した。いつしか彼は王国お抱えの剣聖ドラゴンスレイヤーとしてその名が知れ渡っていた。


 剣聖であり龍を狩る者である彼は人気の絶頂だった。女にモテまくった。そしてさらなる悲劇が起こる。まだ少年と言うほどだった王子は王と同じく幼い頃から女好きだった。その王子が目をつけていた女はロベールのことが好きだった。それを逆恨みした王子は王に何か言ったのか徐々に王も王子と共にロベールを目の敵にするようになった。もはやこれ以上この国に居ては危険だと考えたロベールが脱出しようとしたまさにその時近衛兵達が駆け込んできた。その場を突破し追っ手を振り切りあちこちを転々としていたロベールはついに終焉の地に辿り着いた。


 そこは人の踏み入らない山の奥深くで追っ手の心配はない。だがそこではただ生きているだけで死んでいるも同然の生活だった。そんな生活を何年も続けていたがある日全てがひっくり返ることになった。


 三人の旅人が現れたのだ。追っ手には見えない。ならば剣聖としての腕を買って誰かが俺を探しに来たに違いない。そう思って声を掛けたらあっさり違うと言われる。そのまま行こうとするので気になって止めたらかわいい女の子三人組だ。比較的安全なルートがあるとはいえこんなところまで来れるとは思えない。だが三人は剣聖よりも遥かに強かった。俺はこれだと思った。こんなところで燻りながら一生を終えると思っていたがこの機会を逃したら本当にそうなる。だから俺は例え死んでもこの三人に付いて行くと決めた。




ロベール「どうだ。悲しい話だろう?」


アキラ「ああ、喜劇だな。」


ロベール「ほんとお嬢ちゃんは俺に冷てぇな。」


アキラ「一つだけ言っておいてやろう。」


ロベール「ん?」


アキラ「俺は別にお前のこと嫌いじゃないぞ。」


ロベール「え?まじか?お嬢ちゃんがデレた!」


アキラ「デレてない。何でそんな言葉を知っている。ともかく別に好きでも嫌いでもない。ただ面倒臭いだけだ。」


ガウ「お腹がすいたの。」


 前はこういうことを言うと我侭だと思っていたのかあまり自己主張しなかったガウだったが最近は素直に言うようになってきた。


狐神「そろそろお昼にしようかね。…アキラ、私らにはいくらでも時間がある。焦ることはないんだよ。」


アキラ「…はい。」


 やはり俺は焦っていたのだろうか。人間であった頃なら広大な世界を旅するのにゆっくり歩いていては途中で寿命が尽きて死んでしまうだろう。だが今の俺には無限とも言えるほどの時間がある。早く記憶を取り戻すに越したことはないがたまには寄り道したりゆっくり歩いていくのもいいのかもしれない………。



  =======



 移動速度を気にしなくなってから俺のストレスはかなり軽減されたようだ。十日も経っているのにあまり進んでいないがイライラすることはなくなった。


 ロベールも移動では相変わらず足手まといだが戦闘ではうまく連携できるようになってきた。連携とは言っても俺達三人だけだった時は阿吽の呼吸で近くの者が一撃で敵を始末していただけだが、最近ではあえてロベールに敵が回るようにしている。ロベールの方も心得たもので自分に回ってきた敵はきっちり始末している。戦闘で遅れを取るようなことはない。


狐神「さっきの敵はもっと接近される前に…。」


ロベール「そうすると右の奴が…。」


 師匠にアドバイスを貰ったり意見を交わしたりしているようだ。長年の隠遁生活で鈍っていたのもあるだろうが出会ってからのロベールの成長はすさまじい。


アキラ「随分強くなったな。今ならガウの攻撃を避けられるんじゃないか?」


 俺が何気なく言った一言で大事になった。


ロベール「おお。今ならやれそうな気がするぜ。」


ガウ「おじさんがガウに敵うはずないの。」


 二人の闘志に火を付けてしまったらしい。リターンマッチをすることになった。だが戦闘は割愛させてもらう。ガウの能力制限は前と変わらない。ロベールは前より強くなった。しかし結果は前よりひどいことになったからだ。相手が避けてくることを学んだガウの攻撃は前よりも正確に打ち込まれた。当然前よりもさらに大きなダメージを受けたロベールは瀕死の重傷を負い俺に治療されたのだった。


ロベール「死ぬかと思ったぜ。」


アキラ「あまりグロい物を見せるなよ。」


ロベール「いやぁ、自分で自分の内臓を見る機会が訪れるとは思ってなかったぜ。」


狐神「調子に乗るからだよ。アキラも無責任なことを言って煽るんじゃないよ。」


 俺まで怒られてしまった。師匠は何かとロベールに手を貸している。俺に一撃入れるための策も師匠の入れ知恵だろう。


アキラ「師匠は随分ロベールに肩入れしますね。気があるんですか?」


ロベール「え?まじで?俺もお姉ちゃんのこと気に入ってるぜ。」


狐神「はぁ?そんなわけないだろう?もしかしてアキラ、ヤキモチ焼いてるのかい?」


ロベール「そんなにはっきり否定しなくてもいいんじゃ…。」


アキラ「焼いてますよ。」


 俺はきっぱりと言い放つ。


狐神「え?ヤキモチを焼くってことはつまり…。え?そういうことなのかい?あれ?…ほんとに?」


 師匠はあたふたしている。


狐神「っ!」


 俺と目が合うと真っ赤になって顔を逸らした。耳が外に伏せられている。かわいい。


ガウ「人がいっぱいいるの。」


 いくつも山を越え森を越え俺達はまた人間の街へと近づいていた。


ロベール「あれは北回廊に接する街バンブルクだな。バンブルクに向かうなら最初から街道に出てりゃ近かったのに。」


アキラ「楽で近い道を通っていれば今のロベールはなかった。違うか?」


ロベール「はっ!確かにその通りだな。」


 俺達はバンブルクの街へと向かって行った。



  =======



 バンブルクの街は三つの国の国境が接していると言える。まずは北回廊。どこまでが魔人族の国の領土でどこからが人間族の国の領土かはともかく北大陸との唯一の接点である北回廊は国境と言えるだろう。そしてその北回廊の丁度半分の位置で人間族国家同士の国境線が引かれている。西がガルハラ帝国、東がバルチア王国である。バンブルクは国境を跨いで両国に広がっている特殊な都市だ。


 そもそもなぜ北回廊の中心から東西に分かれるように国境線が引かれているのか。建前上は人類が他種族に対して結束して戦う象徴とされているが本音は負担の押し付け合いである。もしどちらか一国がバンブルクを支配していればもう一国は『そちらの領土内の問題なのでそちらで対処してください』と言って魔人族への対応に全面協力しない言い訳ができる。ガルハラ帝国もバルチア王国も兵の損失や軍事費を少しでも減らしたいのである。


 ブレーフェンもバンブルクも立派な城壁に囲まれた城塞都市というわけではない。俺はまだ大都市はこの二つしか見ていないがどちらも城壁には囲まれていない。出入りも自由だ。しかし北回廊だけは巨大な門が設置され一般人は出入りできないようになっている。


 バンブルクの街は西側のガルハラ帝国は乱雑ではあるが活気に満ちている。あちこちに露店が並び人通りも多い。東側のバルチア王国は整然と区画整理されてはいるがほとんど人通りもなく殺伐としている。西側も最初は区画整理されていたと思われるが度重なる増改築や人口増加による周辺への拡大によって乱雑になったようだ。


 これは両国の政策の違いがはっきりと結果に表れている。ガルハラ帝国は国に申告して税を納めれば誰でも商売が出来る。結果経済は発達し価格競争が起こり様々な工夫や新商品が出回る。バルチア王国は商会組合に加入しなければ国への申請はできない。商会組合に加入するためには多額の上納金が必要であり組合のルールに従わなければならない義務も負う。どの商会がどの商圏で店を出せるのか。販売する商品の値段はいくらにするのか。全て組合で決まってしまう。利権は全て組合が管理しており消費者に不利なルールが出来上がる。経済は発達せず新しい商品も技術も生まれない。私腹を肥やすことしか考えないブタ共の集まりだ。


狐神「それでやっぱり行き先は北大陸かい?」


アキラ「はい。そのようです。」


狐神「どうやって北回廊に入るかだねぇ。」


アキラ「押し通ればいいんじゃないですか?」


ロベール「おいおいおい。北大陸に行く気か?死ぬだけだぞ。」


アキラ「ロベールは死ぬだろうな。」


???「アキラッ!」


 突然後ろから抱きしめられる。


???「まさかこんなに早く再会できるとはな。やっぱり俺達は運命で結ばぐふぅ…。」


アキラ「こっのっ変質者がっ!」


 俺は後ろから抱きついてきたバカの脇腹に肘鉄を食らわせる。


アキラ「人違いだったらどうする気だこのセクハラ皇太子がっ!」


 後ろへと向き直りながら蹲っているフリードなんとかを睨みつける。


フリード「俺がアキラを間違えるはずないだろう?」


 四人で山中を歩いていた時はフードを取っていたが街に近づいてからはフードを被っている。外套にフードの格好は旅人なら標準的装備であり石を投げたらこの格好の奴に当たるくらいうじゃうじゃいる。


アキラ「その自信は一体どこから来るんだ。周りを見ろ。同じ格好の奴だらけだろうが。」


フリード「どこに同じ奴がいる?アキラは光り輝いているぞ?」


 馬車ですれ違い様にフードで顔を隠した俺に目を付けるくらいだ。こいつには何か妙な能力が備わっているのかもしれない。


???「フリッツ大丈夫か?貴様ら何者だっ!」


 ガラの悪い傭兵のような男が剣の柄に手をかけながら走り寄って来る。


フリード「パックス。こいつは俺の妻になる女だ。問題ない。」


アキラ「誰がお前の妻だ。」


 フリードなんとかは立ち上がりながらパックスと呼ばれた傭兵のような男を手で制する。


パックス「お前正気か?自分の立場がわかっているのか?どこの馬の骨とも知れん相手が妻だと?」


フリード「パックスこそ大丈夫か?ここがどこだかわかっているか?ここは実力主義のガルハラ帝国だ。生まれも種族も関係ない。」


パックス「地位に関してはそうだがフリッツの妻に関してはそうはいかん。」


 向こうは向こうでよろしくやっているようだ。こちらはこちらで話を進めよう。師匠達へと向き直る。


アキラ「それで門ですが門の向こうには兵士はいません。門を飛び越えて走り抜ければ問題ないでしょう。」


パックス「っ!貴様ら北回廊へ侵入する気か!」


 今度こそ剣を抜こうとするパックス。


ロベール「やめときな。抜いたら洒落じゃすまんぞ。」


 ロベールがパックスの剣の柄尻を押さえて抜かせないようにしている。何だか映画のワンシーンのようで格好良い。ロベールの癖に生意気だ。


パックス「くっ!」


 剣を抜こうともがくパックスだがロベールが抜かせない。前に抜けないのなら後ろへ下がりながら抜けばいいと思えるがそれすらさせないのが達人技だ。さすがに普通の人間相手ではロベールは桁違いの強さだ。


フリード「…おい。貴様。」


ロベール「…。」


 ロベールとフリードが睨み合う。


フリード「貴様アキラの何だ?アキラは俺の妻だからな!」


 そこかよ…。部下のパックスに代わって真打登場の場面じゃないのか。


アキラ「だから誰がお前の妻だよ…。」


ロベール「ふっ。お嬢ちゃんとは何度も熱い抱擁を交わした仲だ。」


フリード「なんだと~~!」


 確かに治癒の術をかけた時に抱きかかえたが決して熱い抱擁ではない。


アキラ「おいロベール。そうやって誤解の生まれるような言い方をするから王子に逆恨みされて追っ手をかけられたんじゃないのか?ちょっとは懲りたらどうだ?」


ロベール「なん…だと…。そういうことだったのか…。」


フリード「王子に逆恨み?」


アキラ「バルチア王国の王子が目を付けた女に手を出したと逆恨みされて国を追われたバカなんだ。」


フリード「フィリップか?さもありなんだな。」


狐神「アキラ…。やっぱり随分仲が良さそうだね…。(私を選んでくれたんじゃなかったのかい…。)」


 聞こえてますよ師匠…。


アキラ「やっぱりって…ブレーフェンで見てたんですか?」


 あの時も逢引がどうこうと言っていたし…。


狐神「ふんっだ。」


 師匠は拗ねた顔をしてツーンと横を向く。


アキラ「………師匠。」


 俺はしおらしい顔をしながら師匠の外套をギュッと掴む。フードで隠しているとはいえ俺の目に師匠の顔が見えるのと同様に師匠の目には見えているはずだ。


狐神「ア…アキラ…。ごめんよ。」


 そう言いながら師匠が俺をギュッと抱きしめる。最近師匠はちょろインっぽくなりつつある。


ロベール「おーい。盛り上がってる所悪いが俺達はどうすればいいんだ?」


 次第に収拾がつかなくなってきたので俺が双方をまとめるしかない。


アキラ「ロベール。自己紹介しろ。」


ロベール「あ?ああ。俺はロベール=ファルシオン=ドラゴンスレイヤーだ。」


アキラ「フリード。自己紹介しろ。」


フリード「俺はガルハラ帝国皇太子フリードリヒ=ヴィクトル=フォン=ガルハラ第三皇子だ。」


アキラ「よし。これにて一件落着。」


 何が一件落着なのかわからないがそういうことだ。



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