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転生無双  作者: 平朝臣
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閑話26「戦争の推移2」


 ガウ様ぁ~…。あんなに口付けをするなんて…。あぁ~!俺はどうしたら良いのだ!


親衛隊「隊長…、じゃなくて獣王様。気持ちはわかりますけど相手が悪いっすよ。俺らはガウ様を眺めて崇めるだけで満足しておきましょうや。」


ティーゲ「ううむ……。って違う!俺はガウ様にそのような気持ちは持っていない!」


親衛隊一同「「「「「………。」」」」」


 何なのだこの空気は?俺が悪いと言うのか?


ソンプー「アキラ様の奥方様であり愛娘であるガウ様に手を出したら我々アキラ親衛隊も黙っていませんよ。」


 むぅ…。いつもはチャラチャラしてる猫人種…、じゃなくワーキャットと言っていたか。が威圧を込めて俺に警告してくる。


 何を偉そうにと言ってやりたい所だが、俺より強いどころかこいつ一人で獣人族が滅ぼされかねないほどの相手だから下手なことは出来ない。


 って、だから違う。俺はガウ様に変な感情なんて持ってない。



親衛隊「隊長…、じゃなくて獣王様…。ってもう隊長でいいや。隊長、ガウ様に想いを寄せてることはもう認めましょうや。あのバルンバルンのおっぱい見たでしょ?あれでも何も感じなかったって言えるんすか?」


ティーゲ「そりゃお前…。そりゃぁ……、なぁ?あのバインバインでバルンバルンで、動くたびに飛んで跳ねて暴れまわる爆乳を見て何とも思わない奴は男じゃないだろ?」


 そもそもガウ様は下着をつけていなかった。だから余計にあの爆乳が暴れて動いただけですごかった。そりゃもうすごかった。


ソンプー「確かにあのガウ様のおっぱいは素晴らしかった。ですがただ大きければ良いというものではありません。あの成長されたアキラ様の巨乳こそが至高。ガウ様やキツネ様が素晴らしいとは言ってもアキラ様には及びません。」


 むぅ…。確かにその通りだ。アキラ殿のおっぱいも素晴らしかった。俺はソンプーのように自分の好きな相手だからとえこひいきしたりはしない。どちらも負けず劣らずの素晴らしいおっぱいだった。


カンスイ「まったく…。なんて話題で盛り上がっているんですか貴方達は…。」


ティーゲ「『なんて話題』とはどういう意味だ!これは神聖にして重要な話だ!」


ソンプー「カンスイ!貴方はどうしていつも良い所だけ持って行くのですか!」


 むっ!ソンプーと目が合う。こいつのことはあまり気に入らないがカンスイの方がもっと気に入らない。ここは共闘しようじゃないか。目でそう合図を送るとソンプーも頷いた。どうやら通じたようだ。


黒の魔神「どうでもいいからさっさと行こうぜ。」


一同「「「「「んん???」」」」」


 ここに居るはずのない人物の声が聞こえた。気のせいかと思いながらも後ろを振り返ると……。


ソンプー「黒の魔神様ではないですか。一体何故このような場所に?」


 うむ…。どう見ても黒の魔神だ。本当に何故こんな所にいる?


黒の魔神「おう。俺は北大陸の担当だったんだが北大陸で因縁のあった敵を他の奴に譲ってな。もう北には大した敵はいねぇからリカに任せてきた。俺はこっちで因縁のある大獣神とケリをつける。」


ソンプー「おお~ぅ。なるほどなるほどぉ。取り巻き達に自分の身を守らせて神界に隠れているしか能がない大獣神如きでは黒の魔神様の敵ではないでしょうが、そういうことならば我らは周囲の者が邪魔しないようにお手伝いいたしましょう。」


ティーゲ「おい!大獣神様に向かって何て言い草だ!」


 こいつ…。ちょっと良い装備をアキラ殿に貰ったからといって図に乗りおって!いくら何でも大獣神様をそこまでコケにされたら黙っておれん。


ソンプー「手下に周囲を固めさせて、争いが禁止されている神界に引き篭もって隠れ、裏からコソコソと悪事を画策し、強い者に媚ることばかりし、世界の混乱に乗じて世界を自分の意のままにしようなどと企む。まさに小物の悪党に相応しい。何か反論がおありですか?」


ティーゲ「あるに決まってるだろう!確かに大獣神様は思っていた方とは少し違った。今まで我ら大樹の民のために何もされてこなかったのにいきなりやってきて俺から実権を奪って偉そうに踏ん反り返っているだけだった。だが伝説では素晴らしいお方のはずなのだ!」


一同「「「「「………。」」」」」


 何か全員の冷たい視線が突き刺さる。何かおかしかったか?


カンスイ「それはつまり捏造の伝説で大樹の民の住民達を幼い頃から洗脳して、自分に逆らわないように何代も何代も支配しているのではないか?」


 ………ん?それってつまりどういうことだってばよ?


黒の魔神「わかってねぇって顔に書いてるぞ。つまり伝説の方が嘘で都合の良い嘘でお前達を騙してたんじゃねぇのってことだ。」


 ふむふむ………。つまり伝説の方が偽物で俺の会った方こそが本物だと……?っていうことは俺達は美化されてよく出来てる嘘の伝説を教えられてたのか?


ティーゲ「………何だとぉ!そんなことが………。」


ソンプー「実際に会ってみて伝説のイメージと違うと思ったのでしょう?それが答えでしょう!」


 くっ!ソンプーにビシッと指を差されてそう言われると腹が立つが俺が思ったことその通りなので反論のしようがない。


黒の魔神「そんなことどうでもいいからさっさと行こうぜ。こんな男ばっかのむさ苦しい所さっさと終わらせてアキラのおっぱいに甘えたいんだ。ここならアスモデウスのおっぱいの方がよかったぜ。」


ソンプー「おおう!聞き捨てなりませんね!アキラ様のおっぱいに甘える?この私ですらまだそのようなことをしたことがないと言うのに!そんなこと認められませんとも!」


黒の魔神「お前が認めるか認めないかは関係ない。俺はもうこれまでに何度もアキラのおっぱいに甘えてる!それが現実だ!」


 何か黒の魔神とソンプーが言い争っているがそんな場合じゃない。


ティーゲ「ちょっと待て。そんなことどうでもいいって聞き捨てならんぞ。」


 大獣神様のことをどうでもいいとはどういうことだ。


黒の魔神「うるせぇ!どうでもいいっつったらどうでもいいんだよ!さっさと行くぞ!」


ソンプー「まだ話は終わっておりませんよ!」


ティーゲ「こっちもだ。いくら黒の魔神でも許せんこともあるぞ!」


 俺とソンプーが追求しているのに無視したまま黒の魔神はさっさと移動していったのだった。



  =======



 そんなこんなであっという間に大樹の前まで辿り着いた。


ティーゲ「それでこれからどうする?」


黒の魔神「正面から乗り込むに決まってるだろ?」


ソンプー「そうですね。アキラ様は住民もいずれ罰を与えるから巻き添えで殺しても良いと言われましたし、大樹の民の被害を心配する必要はありません。それならば正面から乗り込み敵を全て切り裂けば良いでしょう。」


 ………ん?何て?


ティーゲ「待て待て待て。アキラ殿もそこまでは言ってないだろう?」


 だよな?俺の意見を聞いてくれたはずじゃなかったか?


ソンプー「アキラ様は後で処分するから今すぐ無理に相手をする必要はないと言われたのです。あえて狙う必要はないと言ったのであって被害を出さないように守れとは言われてません。いえ、巻き添えで殺しても良いと言っていたではないですか。」


 ふむぅ…。そう言われればそう言っていた気が?


ティーゲ「いやいや!待て待て!それでは大勢の犠牲が出てしまうではないか!」


ソンプー「それに何の不都合が?大樹の民は前回アキラ様の恩情に救っていただきながら、それを踏み躙り裏切り敵になったのです。本来ならば大樹の民そのものを破壊し尽くし皆殺しにしても当然なのですよ?」


ティーゲ「むぅ…。」


 それを言われると弱い。確かに前回あれほどのことを起こしておきながらほとんどお咎めなしで許していただいたのだ。


 それなのにまたしても大樹の民はアキラ殿の敵になる道を選んだのだ。これが逆の立場であったならば大樹の民は敵を皆殺しにする選択をするだろう。


ティーゲ「それはそうかもしれないがどうか頼む!住民達の大半はそんな難しいことは考えておらんのだ。ただ大獣神様がアマテラスにつくと言われたからその通りにしているにすぎぬのだ。」


ソンプー「馬鹿な為政者に言われたからと言って自分で考えることもせずただ黙って悪政に従う。そういう愚民はアキラ様の嫌悪される対象でしょう。その上アキラ様に歯向かうとあっては当然皆殺しの対象ですとも。」


 うぅ…。まずい。このままではまずいぞ。反論しようにも反論出来る余地がない。全てその通りだ。だがだからと言ってこのまま我が民が殺されるのを指を咥えて見ているわけにもいかん。一体どうすれば…。


黒の魔神「なぁ。もういいだろ?かかってくる奴は殺す。逃げずに巻き込まれた奴も知ったこっちゃない。逃げた奴を追うのはまた今度。これでいいじゃねぇか。まだ何か文句あるのか?」


 これが妥協してもらえる限界か…。後は住民達が愚かな選択をせずに逃げ出してくれることを願うしかない。


ティーゲ「わかった。それで手を打とう。」


黒の魔神「あ~…。どうやら手遅れだったようだな。そんな約束意味なかったわ。」


ティーゲ「は?それはどういう……?」


 俺の疑問は黒の魔神が指差した先を見て解けた。そこには大獣神を先頭に大樹の民の者達がぞろぞろとこちらに向かって歩いてきているのが見えた。


 なんっと愚かなのだ大獣神よ。それほど民を地獄の底へと叩き落としたいのか?


 それから大獣神と他の獣神達の後ろからついてくる大樹の民達よ…。その顔は自分達の勝利を疑わずニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて、いかにしてこちらを嬲り殺そうかと相談している。


 大獣神という強い者の影に隠れて下卑た視線をこちらに向けている者達に、同族でありついさっきまで守ろうと考えていた俺ですら嫌悪感を抱く。


 俺は今更ながらに気付いた。そうだったのだ……。大樹の民とは遥か昔から…、いや、もしかしたら出来た当初から腐っていたのだ。


 そしてそこで生まれ育ちそれが当たり前だと思っている住民達もほとんどが腐っているのだ。アキラ殿の言われていることがようやくわかった。


 この者達に更生や考えや態度を改めるなどという概念はない。何故ならばこの者達にとっては生まれてから死ぬまでこれが当たり前のことであり、当然の権利とすら思っているのだから。


 だからここでこの者達を生かして考えを改めさせようと思っても無駄なのだ。この者達がこの大戦の戦後に生き残っても周囲に迷惑しかかけぬ。存在してはならぬ者達なのだ。


 この者達に余計な情けをかけて生き長らえさせれば、戦後にまたこの者達は自分達が今まで好き勝手してきた通りに出来ないのは権利を侵害されていると言って反乱を起こす。


 その結果より多くの真っ当な者達が被害を受けることになる。そのような事態は許容出来ない。この愚かなる者達はここで排除しなければならない。


 ………ようやく俺も腹が決まった。ここで自分勝手で自業自得の愚か者共に情けをかけて大多数の他の善良なる者達に迷惑をかけるくらいなら、今ここで俺が大樹の民の歴史に幕を下ろしてやる。


ティーゲ「………大樹の民を滅ぼそう。」


ソンプー「ようやく理解出来ましたか?」


ティーゲ「くっ!いちいち腹が立つ奴だな!…だがその通りだ。愚鈍な俺はようやく理解出来た。」


 これ以上くだらない見栄を張っても意味はない。俺も大樹の民も愚か者の集まりだったのだ。これ以上他の者に迷惑をかける前に全てを終わらせる。


大獣神「ウェーハッハッハ!弱虫の黒の魔神と裏切り者の獣王がお手手を取り合ってここまでやってきたのであるか?我輩に何か用であるか?」


黒の魔神「おう。いくら雑魚だっつってもいい加減お前がチョロチョロするのが目障りだから俺様が直々に消しに来てやったぞ。」


大獣神「はぁ?我輩の聞き間違いであるか?誰が誰を消すと?この戦力差が見えないのであるか?ウェーハッハッハ!」


 大獣神の笑いに合わせて周囲からドッと笑いが起こる。しかし滑稽なのはそちらの方だ。黒の魔神はおろかソンプーやカンスイ一人ですら大樹の民など赤子の手を捻るより容易く滅ぼすだろう。


黒の魔神「おい。お前が言ってる戦力ってのはそこに隠れてるつもりで丸見えの月人種のことか?」


 黒の魔神の指摘に一瞬驚いた顔をした大獣神だったが、その顔はすぐにいやらしい笑みに変わった。


大獣神「雑魚は雑魚なりに今まで生きてきて危険察知能力だけは磨いてきたのであるか?気付いたことは褒めてつかわす。が!知ったせいでさらなる絶望を味わうことになったのである!」


 そう言って大獣神が手を上げると周囲から月人種達がぞろぞろと出て来た。常に三獣神に自分の身を守らせているだけでなく、他人の兵まであてにしてそれを使っているだけなのにあたかも自分が強く偉いかのように勘違いしている。


大獣神「どうであるか?素晴らしい戦力であろう?ホルホル!」


 これが大獣神か。俺はこんなクズを崇めていたのだな。…いや。ガウ様に出会っていなければ俺も未だにこのクズを崇めていただろうな………。


黒の魔神「で?それだけか?他にもやっておきたいことがあったらやっておけよ。これが最後だから思い残すことがないようにな。」


大獣神「はぁ?あまりの恐怖で頭がおかしくなったのであるか?ウェーハッハッハ!」


黒の魔神「聞くだけ無駄だと思うが、お前が正々堂々一人で俺に向かってくるなら第五階位の神として相応に相手してやろう。だがお前が他人の力をあてにして影に隠れてコソコソするだけならばその程度の者としてそれなりに扱う。お前はどっちだ?」


 黒の魔神…。この者はこんなクズでも最後の機会を与えてやろうとしてくれているというのに…。大獣神のクズは本当にとことんクズだ。もうどうしようもない。


大獣神「我輩一人が相手ならば勝てるとでも思っているのであるか?だが高貴なる我輩が貴様の如き下賤の相手をしてやる謂れはないのである!殺せ!」


 大獣神が合図を送った瞬間に勝敗は決した。俺の目では見えていなかったが恐らくソンプーとカンスイが周囲に居る、大獣神の合図で動こうとした月人種達を殺してまわったのだろうと思う。


 その中を黒の魔神がゆっくりと歩く。そうだ。ゆっくりだ。本来俺達の目では追えないほどの速さであるはずなのに妙にゆっくりに見えた。


 そしてその黒の魔神は一歩歩く毎に大きく大人へと変化していた。とうとう大獣神の目の前まで迫る。しかしまだ手は出さない。完全に大人の姿になった黒の魔神が大獣神の目の前で立ち止まった。


黒の魔神「で?次はどうするんだ?」


大獣神「う…、あ…?なん?どういう?え?」


 大獣神はうろたえて頭が回っていないようだ。ただ目の前に立つ大人の姿になった黒の魔神に慄いている。


黒の魔神「どうした?好きなように足掻いてみせろよ。」


大獣神「おい!誰か…、そうである。三獣神よ!こいつを殺すのである!」


風の獣神「はぁっ!」


 一番最初に反応したのは素早さを売りにしている風の獣神だった。一瞬で黒の魔神の後ろに周り込み拳を突き出す。


黒の魔神「お前ら如きにはアキラがくれた装備は使わないから安心しろよ。」


 黒の魔神がそう言って後ろに裏拳を放つと風の獣神の拳は霧散して消え失せていたのだった。


技の獣神「きええぇぇぇ~!」


 次に技の獣神が小手先のつまらない技を放つ。袖に仕込んでいた砂をかけて目潰ししながら足に仕込んだ暗器で急所を狙う。これが技の獣神などと呼ばれる者のすることか?


 実につまらない大道芸だ。そして当然ながらその程度のものが黒の魔神に通じるはずもない。


黒の魔神「ほらよ。」


技の獣神「ぎゃぁ!」


 黒の魔神が手で払うと技の獣神が撒いた砂が跳ね返され逆に技の獣神に襲い掛かった。それをモロに浴びた技の獣神は目に砂が入って蹲った。情けなすぎる。


力の獣神「ぐおおぉぉ!」


 そしてようやく鈍重な力の獣神が追いついてくる。思い切り振り上げたハンマーのような鈍器を振り下ろすが黒の魔神にそんな遅い攻撃が当たるはずもない。と、思ったのに黒の魔神は動かない。


黒の魔神「で?これで目一杯か?」


力の獣神「馬鹿なっ!」


 黒の魔神は指一本で力の獣神のハンマーを受け止めていた。


黒の魔神「ほらよ。」


力の獣神「ぐわっ!」


 黒の魔神が指を押し返すと力の獣神は吹き飛ばされて後ろにあった岩にめり込んだのだった。


黒の魔神「なぁ?事ここに到ってもまだ自分は手を下さず見てるだけか?お前とことんクズだな。」


大獣神「うぇ…?ひぁ!ひやああぁぁぁ!おたすけぇぇぇぇ!」


黒の魔神「………え?」


 三獣神を吹き飛ばした黒の魔神が大獣神に話しかけると、ようやく事態を悟った大獣神が泣きながら逃げ出した。まさかそんな行動を取るとは思っていなかった黒の魔神は呆然とそれを見ている。


黒の魔神「おいおい。待てよ。戦いもせずにそれか?」


 しかし我に返った黒の魔神が追いかけると当然ながらすぐに追いつく。大獣神の前に周り込んだ黒の魔神に腰を抜かした大獣神は頭を地面に叩き付け擦り付けひたすら許しを請うた。


大獣神「お許しくださいなのである!我輩は月人種に脅されて仕方なく協力してたのである!そうである!悪いのは全て月人種なのである!我輩達は被害者なのである!だから魔人族に我輩達を助けさせてやろう。どうだ?名誉であろうが?ぎゃぁぁぁ!!!」


 あまりに聞くに堪えないことを言い出した大獣神の手を思い切り踏みつける。踏まれた手の指は完全にあらぬ方向に曲がっている。手の骨はバキバキに折れているだろう。


 本来ならば大樹の民側であるはずの俺ですら黒の魔神が大獣神の手を踏みつけたのを見た瞬間スカッとしてしまった。大獣神はあまりにクズすぎる。


大獣神「待つのである!貴様らはこれから月人種達と戦うのであろう?我輩達も協力してやろう!なっ?その方が貴様らにとっても得であろう?なっ?我輩達に協力してもらえるなど名誉であろう?ぐわぁぁ!!!」


 今度は逆の手を踏み抜いた。両手の指が全てぐちゃぐちゃになっている大獣神はそれでも地面に額を擦り付けたまま黒の魔神を説得しようとしている…、つもりらしい。


 だがあれではかえって怒りを買うだけだろう。本当に本心であんなことを言っているのだろうか?言っているのだろうな。奴らはとことん馬鹿でとことん愚かなのだ。本気で言っているのだから最早救いようがない。俺でもあれは悪手だとわかるというのに………。


黒の魔神「俺はこんな奴に散々苦労させられてたんだな。何か自分まで情けなくなってきたぞ。」


ソンプー「確かにこの程度のクズに踊らされていたなど情けないですねぇ。私なら自殺ものの黒歴史です。あはは~。」


黒の魔神「………。ソンプー。後でシメる。」


 ソンプーの言うこともわかるがそれを口に出すのは愚かだろう………。俺も同じようなことは思ったがどれほど口が滑ってもそれを言う気にはなれなかった。


 それをあっさり言ったソンプーは勇者ではなく愚か者だと思うぞ……。せめて死なないように頑張れよ。


大獣神「我輩は何も悪くないのにどうしてこのような目に遭わなければならないのであるか!人神のせいである……。そうだ!人神のせいである!我輩は何も悪くない!人神が全て悪いのである!謝罪と賠償を要求するのである!」


黒の魔神「………それでこいつどうする?何かもう小物すぎてどうでもよくなってきたんだが?」


 ………確かに。これが大獣神と呼ばれる者か?黒の魔神と双璧を成す第五階位の偉大なる神ではなかったのか?


ソンプー「黒の魔神様がいらないのでしたら私がアキラ様にかわって相応の償いをさせてやりましょう!」


 ソンプーがそう言って大獣神に近寄ろうとした瞬間………。


太刀の獣神「かああぁぁぁぁっ!!!」


 太刀の獣神が物陰から黒の魔神に向かって斬りかかった。その手に持つのはいつも背中に背負っている大剣ではない。今まで太刀の獣神が持っているのを一度も見たことがない武器だった。


 その剣は細身でありながら反り返っており片刃で長い。アキラ殿達が使っている武器で似たようなものを見たことがある。確か刀と言っていたか?


黒の魔神「おい。どういうつもりだ?」


 不意打ちで斬りかかったがやはり黒の魔神には通じない。刀を右手の二本の指で挟んで止めた黒の魔神が太刀の獣神に問いかける。


太刀の獣神「………死ね。」


黒の魔神「ほう…。これがお前の能力か。」


 黒の魔神に受け止められた刀から手を離したかと思うと体のあちこちから同じ刀が次々と出てきては黒の魔神へと襲い掛かった。


黒の魔神「………なるほど。この無数に出てくるように見せかけている太刀の原料はいつも背負っていた大剣か。」


 んん?どういう意味だ?俺にはわからん。


カンスイ「わからんって顔していますね。解説してあげましょう。つまりいつも背負っていた大剣の形を自由に変えることが出来るということです。それで大剣の形を変えていくつもあの太刀を出しているんです。」


ティーゲ「それでは話が合わんぞ。背負っていた大剣が素材なのだとすれば限りがあるだろう?何故あれほど無制限に出てくる?」


 そこが辻褄が合わない。


カンスイ「よく見てください。黒の魔神様が防いだ太刀がバラバラになりながら少しずつこっそり太刀の獣神のもとへと戻っているのがわかりますか?一見無制限に出ているように見せかけて出したものをまた回収して再度出しているんです。」


 ふむふむ?………ああ!そういうことか。ようやくわかったぞ。


ティーゲ「なるほどな。……ところで何故太刀の獣神様は黒の魔神に斬りかかっているんだ?仲間ではなかったのか?」


カンスイ「それは私が聞きたいくらいですね………。」


 どうやらカンスイにはわからないようなので二人で戦いに視線を戻す。


黒の魔神「おい。答える気はないのか?だったらもう始末するぞ?」


太刀の獣神「………獣神が魔神に負けるようなことなどあってはならない!獣神こそが最高の神なのだ!」


黒の魔神「あぁ?………はぁ。そんなくだらねぇ理由かよ。アホらし。処分はアキラに任せるか。ちょっとの間そうしてろ。」


太刀の獣神「―ッ!!」


 む?黒の魔神が何か薄い膜のようなものを広げるとその中にすっぽりと太刀の獣神が包まれてしまった。太刀の獣神は膜を破って出ようとしているが破ることが出来ない。黒の魔神………。やはり他の者より飛びぬけている…。


黒の魔神「太刀の獣神は一応生かしておいてやるがお前らは助かると思うなよ。」


獣神達「「「「ひぃぃっ!」」」」


 黒い笑みを浮かべた黒の魔神が獣神達に迫る。ここで見ているだけの俺ですらゾクゾクと背筋が凍る。恐ろしい。黒の魔神を敵に回してはならん………。


 その後獣神達は死んだ方がマシだというほどの報いを受けることになった。


 まず大樹の広場に連れて行かれて大樹の民が見ている前で拷問されて自分達の悪事を全て話させられた。その際に他人のせいにして言い逃れしようとしたり、額を地面に擦り付けて泣いて許しを請うたり、あまりの情けなさに大樹の民は皆この獣神達がどのような者であるのか知ることになった。


 それから獣神達の悪事の中には大樹の民に対してひどい結果を齎すものも数多くあった。そのため獣神達は大樹の民からも石を投げつけられることになったのだった。


 ちなみにこの獣神達の中に太刀の獣神は含まれていない。太刀の獣神は黒の魔神にてるてる坊主のようにされてそこらに転がされていた。


 獣神達は全て破れ、しかもその獣神達は自分達ですら踏み台として踏み躙っていたと知って大樹の民はようやく事態の重大さに気付いた。


 しかし時既に遅く、都合良く今更降伏など出来るはずもなくソンプーとカンスイがかなりの数の住民を粛清したのだった。


 どういう基準で殺すか殺さないか判別したのか聞いてみたところ、粛清の対象になった者は大獣神達と一緒に調子に乗って打って出てきた者達らしい。


 聞けばなるほどと思う。強い者が味方についていて自分達が絶対勝てると思っている時だけああやって調子に乗って出てくるような奴らは死んだ方が今後のためだ。


 仮に今大人しくなった振りをしていてもそのような者はまた自分達が優勢だと思った時には同じことを繰り返す。こういう奴らは死ぬまで、いや、死んでも直らないのだということを俺は散々思い知った。


 ともかくこうして大樹の民は滅んだのだった。もちろん生き残りはいる。だが最早誰も大樹の民として纏まることはない。ここに一万年に及ぶ大樹の民の歴史に幕が下ろされたのだった。



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