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転生無双  作者: 平朝臣
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第百四十一話「全員回収」


 東大陸へと転移して俺達が出た先に広がっている光景は………。


太陽人種兵「「「「「はは~~~!」」」」」


 何かドラゴニア王城の前に並んでた太陽人種の兵士達が俺達を見るなり跪いて頭を下げている。一体何だこりゃ?


アキラ「どうなってるんだ?」


 俺は後ろにいる嫁や仲間達に聞いてみる。しかし誰もわからないという顔をしていた。一人を除いて。


ウズメ「これはあれちゃうかなぁ。ご主人様の力にビビってんちゃう?」


アキラ「ふむ………。俺ってそんなに力を出してるか?」


 ウズメの言葉を受けて俺は自分の周囲に放たれている力を確認してみる。だけどそれほど強力な力を放出しているとは思えない。


 嫁達は遠慮なく第一階位の力を放出したままだ。だから嫁達を恐れているというのならわかる。だが俺はここにいる兵士達よりもまだ力を抑えている程度しか放出していない。俺が恐れられる理由はない。


ウズメ「出してる力の量やなくて質とか種類の問題やで。」


アキラ「どういうことだ?」


ウズメ「多分ご主人様の力を見て、ここにおる兵士達はご主人様にスサノオ様を見たんやと思うわ。せやから皆ご主人様を敬ってんねん。」


 そうなのか?だが俺が見た映像ではスサノオは虚無の力は放っていなかった。俺がスサノオが虚無の力を放っているのを見たのは本当に死ぬ前の最後だけだ。


 それも力をまったく制御出来ずに暴走させて垂れ流していただけだった。それなのに今の俺を見てスサノオを思い浮かべるなんてとても信じられない。


 けどまぁそれはどうでもいいか。重要なことはここに居る奴らは俺と俺の嫁や仲間達に手を出す気があるのかないのかということだけだ。


 それでこいつらが俺達に手出しする気がないというのならそれだけでいい。原因も理由も必要ない。


アキラ「まぁいい。それじゃ城に向かうぞ。」


一同「「「「「はぁ~い。」」」」」


 何か気の抜けそうな返事をして皆がぞろぞろとついてくる。太陽人種の兵達がさっと割れて真っ直ぐの道が出来た。何か変な気分だな。



  =======



 太陽人種達の間を通り抜けてドラゴニア王城へと入るとこちらでもドラゴン族が俺に跪いていた。けど気にせずそのまま謁見の間へと向かう。扉を開いて中に入るとルリとクシナが待っていた。


ルリ「………あっくん。心配かけちゃ…、めっ。」


 ルリが『めっ』という言葉に合わせて猫の手のように丸めた拳を振り上げる。その仕草が可愛らしくて俺はたまらずルリを抱き寄せた。


アキラ「ああ。ごめんな。」


ルリ「………ん。」


 ルリはそれ以上何も言わずに目を瞑って唇を突き出す。どうやらキスをせがまれてるらしい。もちろん俺には断る理由はない。そっとルリの唇に自分の唇を重ねる。


アキラ「………ルリの唇甘いぞ?お菓子を食べたな?」


 比喩の甘いキスじゃなくて本当に甘い。何か砂糖のような甘さだ。何かお菓子でも食べたんじゃないだろうか。そしてその言葉を聞いて自分の唇を舐めて拭ってる奴が一人いる。


アキラ「クシナも一緒になって何か食べたようだな?」


クシナ「なななな何のことでしょうか?」


 もう丸バレなのにあくまで白を切ろうとするらしい。別に怒ってるわけじゃないんだがな。俺が眠っている間に嫁達は苦労したはずだ。だから何か食べたくらいで怒ったりしない。


 っていうかそもそも俺は嫁達が何か食べたからって怒ったことはないぞ。クシナが隠そうとしているのも俺に怒られるからではなくて、単につまみ食いを見つかって恥ずかしいと感じるのと同じようなものだろうと思う。


ルリ「………ん。あっくんとの思い出の綿菓子食べてた。」


 ん?思い出の綿菓子?あぁ~………。そうか。思い出した。ルリとキスしてる前世の写真。あれは二人で綿菓子を食べていた時の写真だ。


 あの写真の前の日に俺とルリは夜店に出かけた。うちの地域は夏になると特定の日に夜店が出る。その夜店でルリが綿菓子を買ったんだ。


 だけどキャラクターの袋に入ってるから食べるのがもったいないって言って翌日まで置いていた。それがまずかった。


 翌日綿菓子はしなしなのへにょへにょになってしおれていた。それを見たルリが大泣きしてうちにまでルリの泣き声が聞こえていたほどだ。


 そこで俺は母にせがんで近所のデパートに出かけた。そこでは普段から綿菓子が売っていたからだ。そこで綿菓子を買った俺はもちろんルリに届けた。


 そしてルリとその両親に言われるがまま家にお邪魔して機嫌の直ったルリと一緒に綿菓子を食べていた。その時俺の口についてる綿菓子をルリが舐めてとったのだ。それがあの写真だ。


 しかも余計なことまで思い出した。俺の母とルリの母が話していたのを聞いたのだが、どうやらあのキスは綿菓子を食べようとしてしたのではなく、ルリは俺の唇を狙っていてその口実に口に付いた綿菓子を利用したというのだ。


 まだ幼い子供だったというのに女というのはそこまで計算高いものなのかと当時思っていたということまで思い出した。あまり思い出したくなかったことだ……。やっぱり思い出は思い出のまま、詳しく穿り返してはいけないのだと思い知った。


アキラ「………そう言えばこっちに来てからも一度綿菓子を作ったことがあったな。」


 前に言った通りこの世界の食糧事情はあまり良くない。飢えることはあまりないが豊かな食生活でもないのだ。それは嗜好品や甘味ほど顕著だ。


 砂糖など大量生産して精製するだけの人手も技術もない。この世界でのデザートなどは果物か精々がパイのようなものだ。とても地球の甘味とでは勝負にならない。


 そしてミコやルリは地球の甘味に飢えていた。だから作ることにしたのだ。それに他の嫁達も喜びそうだと思って地球の甘味を再現して振舞うことにした。


 そうして色々な甘味を作ってみた。その中で一度だけ綿菓子を作ったことがあるのだ。作り方自体は簡単なので誰でも出来る。綺麗においしく出来るかどうかは別だがな。


 砂糖自体あまり口に出来ないこの世界でまさに砂糖の塊である綿菓子は嫁達のウケがよかった。ただあまり工夫も手間もいらないので俺が作る気がせずに一度試作しただけで終わってしまったのだ。


 どうやらそれをここで作って食べていたらしい。食べたかったのなら食べたいと言えば作ってあげたんだけどな。ただ手の込んだ料理とかをするのが好きで綿菓子は簡単すぎてつまらないから作ってなかっただけで………。


クシナ「べべべ別にコヤネの技が綿菓子みたいだなと思ったとか。だから綿菓子食べたいなと思ったとか。そういうことじゃないんですよ!」


 どうやらそういうことらしい。自己解説乙。


コヤネ「確かに見た目は似ている。しかしこちらはおいしい。俺の技を食らえば穴だらけだ。」


竜王「うまい…。西の竜にも食べさせてやりたかった。」


 さらっとコヤネと竜王まで混ざって綿菓子を食べていたようだ。俺はルリとクシナを通して多少は見ていたから知っているが他の嫁達には意味不明だろう。


クシナ「それよりアキラさん!私にも!…その、………えっと。」


 勢い込んで俺に迫ってきたかと思うと急にしおらしくなってモジモジし始めた。言わなくてもわかってるけどあまりに可愛いのでもう少しだけ引っ張ってからかおう。


アキラ「何だ?用があるならはっきり言えばいい。」


クシナ「うぅ…。………アキラさんのいじわる。」


 うっ!上目遣いにウルウルしながら俺の服をぎゅっと掴んでる。可愛い………。


アキラ「クシナ。俺が我慢出来なくなった。キスするぞ。」


クシナ「あっ……、ん。」


 そっとクシナの唇に触れる。やっぱりルリと一緒でほんのり甘い。甘いクシナの唇がおいしくてそっと舌で唇をなぞる。


クシナ「んんっ!」


 俺の舌が滑るたびにクシナはビクビクと体を震わせる。上唇から下唇へ。そして下から上へと一周回って戻ってくると最後にもう一度唇を重ねる。


ルリ「………クシナの方が念入りだった。ルリももう一回。」


ミコ「駄目だよ!ルリは今したばっかりじゃない。ね!アキラ君、次は私だよね?」


玉藻「ちょっと待ちな。一回目は全員終わったけど一回目の順番がこれからずっと行く順番ってわけじゃないだろう?一回目は色々な都合があってこの順になったんだから、次はきちんと決めようじゃないかい。」


 あぁ…。何か懐かしい。皆がワイワイと騒ぎ始めた。もう月人種とか太陽人種とか戦争とかどうでもよくなってくるな。っていうか嫁達はもう終わったも同然という感じだ。何の気負いも心配もしていない。


 まだラスボスと直接会ったこともないってのに………。もう戦争なんて勝ったも同然でしょ?と言わんばかりの嫁達が頼もしくもあり若干不安でもある。俺が心配性なだけか?


クシナ「ほぅ………。」


 クシナはまだどこかへ行ったまま帰ってこない。ほんのり桜色の上気した顔が妙に色っぽい。


オモイカネ「それでこれからどうする?」


 何か今更な所でオモイカネが声をかけてくる。


クシナ「あっ…。お爺様。まだ無事だったのですね。」


オモイカネ「生憎俺はお前のお爺さんじゃない。今は別の存在、ヤゴコロオモイカネになった。」


クシナ「え?どういうことですか?」


 今の説明だけではまったく意味のわからないクシナが俺に説明を求めるという視線を送ってくる。そりゃそうなるよな。俺だって今のオモイカネの言葉だけじゃ意味がわからなくて周囲に説明を求めるだろう。


 そこで俺は最古の竜とオモイカネのいきさつをさっとクシナに説明した。


クシナ「なるほど………。それではオモイカネさんはもとはお爺様の魂から生まれた存在でも今は別の生命であると。」


 クシナは頭が良いしすぐに察してくれるのでこういう時は楽だ。時々拗ねると宥めるのが大変だがな。


アキラ「大筋そんなところだな。」


オモイカネ「別の存在でありながら同じ存在でもある。だからクシナの幼い頃のあんな思い出やこんな思い出も知っているぞ。」


クシナ「ああぁぁ!ちょっとお待ちなさい!余計なことを他の方に言ってはいけませんよ!」


 クシナが慌てて空を飛んでいるオモイカネの玉に掴みかかる。しかしあまり動けないはずのオモイカネはヒラヒラとクシナをかわして逃げている。


アキラ「何か言われたら都合の悪いことでもあるのか?」


オモイカネ「それは色々あるだろう?特に幼児期にはな。」


 ……なるほど。そう言えば俺もサカルムカイツにおむつをかえられたっけな…。あれは人に言われたら恥ずかしい思い出だろう。そして当然クシナにもそれと似たような思い出があると。


クシナ「ちょっと!余計なことは言わないでって言ってるではありませんか!」


 クシナが慌てて結構本気でオモイカネを追っているのに全然掴まらない。ただの玉でしかないオモイカネは空を飛んだりして自力で移動出来るだけで、戦う力もないし機動力もそれほど高いわけじゃないはずだ。それなのに何故あれほどクシナに掴まらないのだろうか。


オモイカネ「恐らくアキラが疑問に思っているであろうことに答えてやろう。俺は今知識の神となったのだ。だからクシナがどう動くのか。どう避ければ良いのかがわかるんだ。」


アキラ「ほう…。………捕まえたが?」


 オモイカネが偉そうに語りだしたから俺も手を出してみた。すると何の抵抗もなくあっさり捕まったのだった。


オモイカネ「そりゃもちろん限度がある。俺だって全知ではない。興奮状態で単調な動きになっていたクシナだから先読み出来ていただけだ。」


アキラ「なるほど。」


 わかったようなわからないような。その程度じゃ結局ただの勘で避けていたのとどれほど違うのかという気がしないでもない。


オモイカネ「それよりこれからどうするんだ?」


アキラ「ふむ………。どうもこうも今まで通りだ。コンヂとシュラは東大陸に残ってドラゴニアと協力しろ。」


コンヂ・シュラ「「はっ!」」


 二人が揃って跪く。東大陸はもう敵の大半が降伏したはずだからそれほど戦力はいらないかもしれないが、念のためというものだ。


コヤネ「俺はどうすればいい?」


 クシナに降伏したコヤネが俺の前に立つ。じろじろ見られてる気がするな。こいつはスサノオにある程度忠誠のようなものを誓っていたような感じなので、スサノオの娘を名乗る俺が本物かどうか確かめているのかもしれない。


アキラ「これ以上敵対して攻撃してこないのなら好きにすればいい。」


コヤネ「………そんな甘いことでいいのか?」


 一瞬驚いた顔をしたコヤネは今度は厳しい顔つきになって問い返してきた。


アキラ「甘い?何がだ?降伏したのが嘘でお前らが全員で何かしたところで俺の敵じゃない。やりたければやればいい。ただお前らが全員死体になるだけだ。」


コヤネ「………なるほど。スサノオ様の娘だな。」


 コヤネはふっと笑った。試されていたのか?


コヤネ「スサノオ様も大胆不敵な方だった。」


 おいおい…。甘ちゃんのスサノオと一緒にするなよ。スサノオはただの楽観で敵に甘く優柔不断なだけだ。俺は敵には容赦しない。


 例えスサノオは虚無を暴走させないために心穏やかに過ごす必要があったのだとしても甘すぎた。俺ならば本当に愛しい者達のためならば鬼でも破壊神でも何にでもなってやる。


 それはいいか。とにかくウズメやコヤネのように立場上仕方なく敵になる者もいる。だから一度目は降伏を認めてやるだけだ。だが二度目はない。大樹の民も後で相応の報いを受けてもらう。


 俺がコヤネに好きにすればいいと言ったのは、言葉通りこいつらが何か企んでいても俺に何の危害も加えることが出来ないからだ。だからやりたければやればいい。ただしそうなればその後で相応の報いを受けさせる。


コヤネ「俺達は降伏した。だから大人しくしていよう。だがドラゴニアの手伝いもしない。」


アキラ「それはそうだな。捕虜だからって捕虜にした国の兵士として働いたりはしないよな。」


 将棋じゃあるまいし相手の駒を取ったからと言ってその駒を自由に使えるわけじゃない。ただこいつらは使えずとも東大陸への敵の侵攻部隊の主力と思われるコヤネ達が無力化されただけでも東大陸の安全性はぐっと高まっただろう。


 油断するのは良くないが表向きの敵の主力は無力化したと考えて良いだろう。後は気になる奴らの動きに注意しておけば良い。そしてそれはコンヂとシュラにだけこっそり言って任せておけば良い。


アキラ「………折角東大陸まで来たんだから最古の竜に会っていくか。」


クシナ「え?良いのですか?」


 クシナが驚いた顔で俺を覗き込んでくる。そんなに驚くほどのことか?


アキラ「最古の竜はもう長くない。せめて最後に直接会ってやった方が良いだろう?」


クシナ「えぇ…、まぁ…。」


 何かクシナの歯切れが悪いな。


アキラ「何か不都合でもあったか?」


クシナ「いえ。これが最後かもしれませんからお爺様とお会い出来るのは大変うれしいのですが…。アキラさんがそのような無駄なことをされるとは思いもしませんでしたので………。」


アキラ「おい…。俺はどれだけ冷血だと思われてるんだ?たった一人の肉親の最後の別れくらいさせるだろう…。それを無駄だとは思わないぞ。」


 何かクシナの中の俺がどういう奴なのかちょっとわかってしまった。俺ってそこまで冷血だと思われてたのか。ちょっと悲しい。


クシナ「あっ、いえ…、その…。ごめんなさい。そういうつもりではなかったのですが………。」


 じゃあ他にどういうつもりがあるんですかねぇ?どう考えてもクシナは俺のこと血も涙もない奴と思ってたってことですよねぇ。


 まぁいいけどね。実際結構ひどいこともしてるし、クシナは散々な目に遭わせたこともある。もうちょっとで殴り殺すところだったしな。


アキラ「まぁいい。移動しよう。」


 俺の自業自得の部分もある。じゃないな。俺の自業自得でしかないのでクシナを責めても意味はない。とにかく最古の竜が死ぬ前に行こうと思って移動する者を集める。


アキラ「いくぞ。大転門。」


 全員が集まっていることを確認して転移したのだった。



  =======



 転移してきたのは最古の竜の目の前だ。まさに…、目の前だ。巨大な最古の竜の頭の目の前に出て来たためにふーふーと鼻息がかかる。


 最古の竜はもう頭も上げていられないのか床に頭を置いている。気配や神力はもちろん、今目の前の頭から鼻息を吹きかけられているのだから生きていることはわかっている。


 しかしその目は閉じられたまま俺達がやってきても何の反応もない。前回会った時より遥かに弱っておりもう誰の目にも長くないのだとわかるほどだった。


クシナ「お爺様っ!」


最古の竜「ん~?おぉ…。クシナか。どうしたのだ?」


 クシナの呼びかけで目を覚ました最古の竜はフンフンと匂いを嗅いでようやく俺達が誰かわかったようだ。


クシナ「お爺様………。このようなお姿になるまで放っておいて申し訳ありません。」


最古の竜「なぁに。気にすることはない。こうするように言ったのはわしだ。クシナが気に病むことはない。」


 ここ最近のような朦朧としたり意識が混濁しているのとは違う。今の最古の竜ははきはきとしている。だがそれは持ち直したからではない。最後の前になるとろうそくが燃え尽きる直前に最後の輝きが増すのと同じように命もまた最後の輝きを放つのだ。


 それはつまりこれが最古の竜との最後の別れであることを示している。


クシナ「今まで育ててくださりありがとうございました。これから私は次代の子を産み育て我が家の誇りとお爺様の知識を受け継がせます。ですからどうか安心してお休みください。」


 クシナの手がフルフルと震えている。本当は泣いて抱きつきたいのをぐっと我慢しているのだろう。こういう時までクシナはクシナらしい。


最古の竜「うむ…。しかしわしの知識を受け継ぐ者はもういる。クシナはそのようなことを気にせず自分の幸せのために生きなさい。」


オモイカネ「おう。任せておけ。」


 オモイカネが最古の竜に応える。その言葉を聞いて最古の竜は満足そうに目を細めた。


クシナ「うっ…。お爺様………。」


 とうとう耐え切れなくなったクシナは涙を流しながらそっと最古の竜の頭に抱きつく。最古の竜も静かにクシナに応える。


最古の竜「さぁ、お別れの時だ。アキラよ。孫娘を頼んだぞ。」


アキラ「ああ。任せろ。クシナは俺が幸せにする。」


最古の竜「うむ。それではさらばだ。」


 その言葉を最後に最古の竜はピクリとも動かなくなった。


クシナ「お爺様……?お爺様っ!うぅっ…。」


 最古の竜に縋りついたまま泣き続けるクシナをそっと抱き締める。クシナが落ち着くまで暫くそうしていたのだった。



  =======



 クシナが落ち着いてから皆で最後の別れをしてから最古の竜を埋葬した。ドラゴン族の様式はよく知らないがクシナの言う通りにしたのでそれでいいだろう。


クシナ「お爺様。どうか安らかにお休みください。」


 最後にクシナが別れの言葉を告げる。クシナと最古の竜はまだ幸せだった方だろう。多少縮んだとは言え天寿を全うして家族と最後に話せて穏やかに逝くことが出来たのだから。


 この戦争のせいでまだ死ぬはずではなかった者も大勢死んだ。最後の別れもゆっくり言えずに死んだ者もいる。そんな者達に比べればずっと良い別れだっただろう。


クシナ「さぁ!それでは次に参りましょう。」


 クシナが無理に声を張っている。だが痛々しい空元気ではない。クシナと最古の竜は幸せな別れが出来たお陰で前向きに悲しみを乗り越えようという想いが透けて見える。


アキラ「そうだな。それじゃ行こうか。次はまた中央大陸だ。」


 皆が固まっているのを確認して空間転移する。さぁ、最後の決戦の地へと向かおうか。




  ~~~~~フリード~~~~~




 うまくデルリンに入り込むことが出来たがデルリン内の様子がおかしい。


 そもそも俺達が商人の振りをして補給物資を持ってデルリンへと近寄ってみたのだが、太陽人種達は俺達を調べたりすることもなかった。


 素通りで城門を潜りデルリン内へと侵入しても誰も気にも留めない。これは異常としか言いようがない。戦争の真っ最中に占領した敵地で人の動きにまったく制限もかけず自由に出入り出来るなどあり得ないだろう。


 例え太陽人種が圧倒的な能力を持ち、人間族が何か企んだ所で全て跳ね返せるだけの自信があったとしても、事前に抑えておけるのなら抑えるはずだ。好きにやらせる理由はない。


 それなのに出入りする人間の制限も身体検査も持ち物検査もしないなんて異常としか言いようがない。


 さらに異常と言えばこの町中全てだ。死体の数や残っている住人の数からして大部分は脱出したのだろうと言うことは想像に難くない。それはいい。問題なのは残っている者達だ。


 現在デルリンにいる者は太陽人種達も元々のデルリンの住人達も皆様子がおかしいんだ。生気がなくフラフラと歩いている。その姿はまるでアキラに聞いた生ける屍のようだ。


 デルリンに住んでいた人間族だけ、あるいは太陽人種だけというのならまだ何らかの理由があるのだろうと思える。


 例えば人間族だけそのようになっているのなら、人間族を支配しやすいように太陽人種が何かしたと考えることが出来るだろう。


 あるいは太陽人種だけがそうなっているのなら、ここへ来たせいで太陽人種だけがかかる何らかの疫病などが流行ってこうなってしまったという可能性もあるかもしれない。


 他にも太陽人種のもっと上の者が、兵士達に不平不満を言わせず自由にこき使うために何かの方法で最初からこのようにしていたという可能性もあったかもしれない。


 だが人間族も太陽人種もデルリンにいる者全てがそうなっているというのはおかしい。これは普通の事態じゃない。


 そして一番おかしいのは商人達等のようにこの町から出入りしている者達は普通なのだ。この中に長期間いるとああなるのか?それとも前に何かあってその時に居た者だけああなったのか?


 色々考えることは出来るが太陽人種も人間族もああなっているということは、太陽人種達にとっても予想外の出来事だったのではないかと思う。


 さらに詳しく調べるために太陽人種達がデルリンで何をしているのかそこらにいる兵士達を追跡して調べてみた。


 すると太陽人種達は特定の時間になるとデルリン王城の南東へと向かい集まっていた。そこには巨大な穴が掘ってあり交代しながらも常に止まることなく穴を掘り続けているのだ。


 朝に掘るものは毎日朝に穴を掘り時間が終わると休む。昼が当番の者は昼に穴に向かって掘る作業を行い終わると休む。夜の者も同じだ。


 このように誰がいつ頃からいつ頃まで掘ると完全に決まっている。ここまで規則正しく行動していれば誰かに操られているのかと思う所だが少なくとも俺にはそれはわからなかった。


 アキラの腕から様々な力が流れてくる今の俺はそういうことを感知するのも鋭くなっている。その俺が何も感じないということは本当に操られていないのか、今の俺ですら見破れないほどの者なのか。


 それにこの穴は何だ?上から見ただけでも相当な深さだとわかる。底が見えないほどだ。この穴の下には一体何があるというのだろうか。


パックス「フリッツ。あまり深入りするなよ。俺達が見つかって捕まったら元も子もないぞ。」


フリード「ああ。わかってる。けどアキラが来る前にここの秘密くらい掴んでおきたいだろう?」


ロベール「俺はパックスの意見に賛成だな。これ以上深入りはしないほうがいいぜ。」


 いつもは大体俺の意見に賛同してくれるロディまで今回は反対のようだ。だけど気持ちはわかる。俺もこの穴の近くに来るだけで寒気を覚える。ここは何かやばい。


 とにかくいくら太陽人種達が俺達の動きをまったく気にすることもなく自由に行動出来るとは言っても、あまり派手なことをするわけにはいかない。


 それに俺達まで町の住人や太陽人種達みたいに生ける屍のようになってしまっては意味がない。何とか安全に調べられる方法を考えながらも今の俺達は遠巻きに見ていることしか出来ないのだった。



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