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転生無双  作者: 平朝臣
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第百三十七話「そして(主要な敵が)誰もいなくなった」


 あぁ…。こんなことならアキラと口付けしておけばよかったよ…。


 あっ!でも意識がないアキラに私が勝手にするよりアキラの方から甘い言葉を囁きながらして欲しいね。初めての時くらいはせめてそれくらいは………。


 って、おかしいね。これだけ考えてるのにいつまで経ってもオオミヤノメの攻撃が来ないよ。不審に思った私はそろそろと目を開ける。


ウズメ「ミコ…、キツネ…、あんたら…、オオミヤノメの攻撃が効かへんてどういうことなん?」


 ウズメが信じられないものを見たような顔で驚いてる。


ミコ「………どうしてでしょうね?」


 ミコも自分で自分を不思議そうに見てるね。やれやれ…。私まで肝が冷えたよ。


狐神「アキラのくれた装備のお陰だね。」


ミコ「アキラ君の?」


 ミコは自分の装備をしげしげと見てる。


狐神「ああ。アキラの神力を大量に含んでるこの装備が私達を守ってくれてるんだよ。」


ケンテン「さすがはアキラ様ですぜ。」


シンライ「アキラ様のご加護があれば我らに負けはない。」


 まぁ負けはないね…。負けはね………。けど勝ちもないんじゃないかい?いくら敵の攻撃が効かなくてもこっちの攻撃も敵に効かないんだから勝つ方法がないんだよねぇ……。


オオミヤノメ「ちっ!ウズメ!全力でやりますよ!」


ウズメ「えっ?えっと?ああ…、うん?」


 どうやらウズメはオオミヤノメの言葉に乗せられて向こうについたみたいだね。とにかく私らの負けはないんだから何とかここから離れて庵は守らないと………。


ミコ「キツネさん。ウズメは私が相手をします。」


 ミコがはっきりとそう告げる。その目からは手心を加えようだとか甘い考えは読み取れない。さっきの言葉が本気だとすれば友達として決着は自分がつけるってことかね。


狐神「わかったよ。それじゃウズメはミコに任せるからね。」


ミコ「はいっ!…ウズメ!ウズメの相手は私だよ!」


ウズメ「……ミコ。わかった…。うちも腹括るで。」


 一瞬迷った表情を見せたウズメはすぐに覚悟を決めた顔になった。向こうはこれで決まりだね。


オオミヤノメ「それで私の相手は貴女達三人ですか?」


狐神「三人…?あぁ……、違うよ。後ろの二人は見学さ。あんたの相手は私だよ。」


 どうやらオオミヤノメはケンテンとシンライも一緒に戦うと思ったみたいだけどそいつは勘違いさ。二人だってアキラの装備のお陰で死ぬことはないけど私とオオミヤノメの戦いにはついてこれない。


 下手に人を増やすよりも一人で戦ったほうがまだ勝てる可能性があるだろうさ。


オオミヤノメ「ほう…。舐めた態度ですね。貴女如きが一人で私の相手が出来ると思っているんですか?」


 オオミヤノメが怒りも隠さず神力をぶつけてくる。別に舐めてるわけじゃないけどさっき思った通り連携の取れないケンテン達と一緒に戦うより、私一人で戦った方が戦いやすいからってだけなんだけどね。


ケンテン「あの~…、何かこんな時に言い難いんですけど何でミコ様に尻尾が生えてるんですかね?」


狐神・ミコ「「え?」」


 ミコと同時に声が出る。二人でミコのお尻を見てみたら………。


ミコ「本当ですね…。アキラ君の尻尾みたいで可愛い。」


狐神「そうだね……。アキラの尻尾だね………。」


 ミコのお尻にはアキラの尻尾とそっくりな短くてフワフワの尻尾が生えているじゃないかい。


シンライ「キツネ様にも尻尾が一本多く生えていますよ。」


狐神・ミコ「「え?」」


 またしてもミコと同時に同じ台詞が出ちまったよ。それでそっと私も自分のお尻を見てみたら………。


ミコ「十本生えてますね。それに一本だけ色も違うし短くてフワフワです。」


狐神「だねぇ…。こりゃあもうどう見たってアキラの尻尾だよね……。」


ミコ「はい………。」


 何でか知らないけど私とミコのお尻からアキラの尻尾が生えてきちまったよ。


狐神「………そういやいつの間にかアキラとの魂の繋がりが切れてるよ。」


ミコ「え?…あっ!本当ですね。気付きませんでした。」


狐神「アキラの魂を感じたままだから魂の繋がりが切れても気づき難かったんだね。そしてここには皆いるよ。」


 アキラとの魂の繋がりは切れているけど今は繋がりじゃなくて魂が一体になってる。魂の繋がりが切れたと思ってた他の嫁達も皆ここにいる。無事だったんだね。


ミコ「皆無事だったんだ…。よかった………。本当によかった…。」


 ミコがまたポロポロと泣き始めた。


狐神「まったく…。ミコは泣き虫だね。」


ミコ「キツネさんだって泣いてるじゃないですか。」


 ミコがプクッと頬を膨らませてそんなことを言ってくる。


狐神「何のことだい?私は泣いてなんていないよ。」


ミコ「キツネさんのそういう所はアキラ君と良く似ていますね……。」


 どういう意味だい?まったく………。


狐神「これで嫁達の魂の繋がりが切れてアキラの尻尾が減ってた理由がよくわかったね。」


ミコ「そうですね。これなら負ける気がしません。」


 実際負けるなんて不可能だからね………。


狐神「それじゃ相手をしてあげるよオオミヤノメ。」


オオミヤノメ「何を偉そうに………。え?」


 私はアキラの尻尾から流れてくる莫大な妖力を開放する。まだ全力じゃないってのに一体どれだけの力があるんだい………。


 アキラってばこんなに力を隠してたんだね…。アキラの底を読んでる気になってたけどまだまだ全然読めてなかったよ。


狐神「さぁ。やろうか?」


オオミヤノメ「………お前が九尾の女神だったのか。」


 オオミヤノメの表情が一変した。私をまるで仇でも見るみたいな目で見てくる。


狐神「あ?違うって言ってるだろ?私は狐神だ。九尾の女神とは会ったことだってないよ。」


オオミヤノメ「確かにお前の名を聞けばお前が狐神だとわかる。だけどこれほどの力を持つ妖狐など九尾の女神以外にはいない!」


 どうやらもう口でいくら言っても信じないみたいだね。もうどっちでもいいか。どうせこいつはここで死ぬんだから。


狐神「はぁ…。もう勝手におしよ。あんたがそう思うんならそうなんだろ。あんたの中ではね。」


オオミヤノメ「ようやく正体を現したな九尾の女神!今度こそ引導を渡してくれる!」


 完全に私を九尾の女神と思ってるオオミヤノメが襲い掛かってくる。九尾の女神との間にどんな因縁があるのかは知らないけどどちらにしろこいつはここで倒す予定だったんだ。私のことをどう思ってようがその結末は変わらない。


狐神「遅すぎだね。全身隙だらけだよ。」


 私に腕を突き出して飛び掛ってきていたオオミヤノメは動きも遅いし、体勢も悪くて隙だらけだ。伸ばしている右腕の下から脇腹に尻尾を伸ばして叩き込む。


オオミヤノメ「ぐぇっ!」


 自分が突進してきていた勢いも相俟って思い切り脇腹を抉られたオオミヤノメが吹き飛ぼうとする。けどそのまま飛ばしてなんてやらない。


狐神「まだだよ。ほれ。」


 別の尻尾で足を捕まえて吹き飛ばないようにする。さらに残った尻尾で体に連打を叩き込んだ。


オオミヤノメ「うえぇぇっ!」


狐神「あ~あ…。折角そこそこ綺麗な顔が台無しだね。」


 腹に連打を食らって吹っ飛んで衝撃を逃がすことも出来ないオオミヤノメは口から内臓が飛び出してきていた。大口を開けて内臓が飛び出して目からは涙を流し鼻からは鼻水が垂れてる。


狐神「もう可哀想だから止めを刺してあげるよ。狐火の術。」


オオミヤノメ「ぎゃああぁぁぁ………。」


 火が着いた最初の頃は叫び声を上げてたオオミヤノメだけどあっという間に炎に包まれて燃え尽きた。それほど苦しむ暇もなかっただろうから私にしては優しい倒し方だったかね。


ケンテン「キツネ様怖すぎでしょ………。」


狐神「あん?私のどこが怖いってんだい?」


ケンテン「ヒェッ!何でもありません!」


 全く失礼な奴だね。それほど甚振りもせずすぐに楽にしてやったんだから慈悲深い方だろう?


狐神「まぁいいか。それでミコの方はどうなったかね?」


 ケンテンの言うことなんていちいち気にしてられないから無視してミコとウズメの方に目を向けてみる。けどまだ二人は戦ってないみたいだね。


ミコ「それじゃ行くよウズメ。」


ウズメ「こうなったらしゃ~ないな。恨みっこなしやでミコ。」


ミコ「………暗黒力に呑まれないように気をつけないとね。」


 ミコが力を解放する。どうやらアキラの尻尾からミコに流れてるのは暗黒力みたいだね。人間のミコが何で暗黒力を使えるのかは知らないけどウズメとの力の差ははっきりしてるね。


ウズメ「ミコ………。あんたさっきまでただの人間族やったのにそれは一体何なん?こんなん反則やわ………。」


ミコ「ごめんね。でもけじめはつけないといけないから…。いくよ!」


ウズメ「―ッ!」


 ミコは一瞬でウズメの目の前に移動した。…私の目でも見切れなかった。これはただ高速で移動したわけじゃないね。何か種がある。


ミコ「えい。」


ウズメ「うきゃっ!」


 ………。それがけじめかい?


ウズメ「いったぁ~!何なんもう!」


 指を弾いておでこを叩く。あれはアキラが『でこぴん』とか言ってたかね。確かにあれで叩かれたら痛いけど………。


ミコ「私の勝ちだね?」


ウズメ「え?」


ミコ「私の勝ちだね?ね?」


 はぁ…。結局ミコは甘ちゃんのままかい…。でもそういうのも嫌いじゃないよ。


ウズメ「うっ…。せやな…。うちの負けやわ。」


 ミコの勢いに負けたウズメが頷く。あ~ぁ…。これでウズメの運命も決まっちまったねぇ…。


ミコ「じゃあ勝った私の言うこと聞いてね!」


ウズメ「うぇ!言うことって?何なん?うちの体でも要求する気?」


ミコ「うん。体を要求するよ。でも体だけじゃなくて心もね!いいですよねキツネさん?」


 ミコは振り返って私の許可を求めてくる。けどどうせ私が何言ったってミコの中では答えは決まってるんだろう?


狐神「はぁ…。私は知らないよ。ミコがきちんと面倒見るんだよ?」


ミコ「わぁ!ありがとうございますキツネさん!よかったねウズメ!」


ウズメ「え?え?何が?」


 ミコはウズメの両手を取ってクルクル回り始めた。ウズメは何のことだかわからないという顔で困惑してる。


ミコ「これからはウズメも私達の仲間だよ!それからアキラ君とウズメがよかったらウズメもアキラ君のハーレムに入れてもらうからね!」


ウズメ「ちょちょちょっ!アキラ君てアマテラス様の姪の?はーれむって何?」


 混乱してるウズメを他所にミコはクルクル回ったまま色々と説明し始めた。


ウズメ「えぇ!つまりうちはこのままお咎めなしってこと?それにアキラ君て言う人とお見合いしてお互いに気に入ったら愛人の一人になれてこと?」


ミコ「う~ん…。まぁ大体そんな感じかな?ちょっと誤解もあると思うけれどそれでもいいと思うよ。」


ウズメ「んなアホな…。」


 何かウズメは放心してるようだけどミコはもう決まったとばかりに喜んでいるよ。


狐神「とにかくウズメのことはそれでいいからこれからのことを考えようかい。」


ウズメ「うちのことはこれでいいんかい!」


 ウズメが何か言ってるけど無視して話しを進める。


狐神「これからどうする?」


 私としてはもうここでアキラを待っててもいいんだけど、他の者がどう考えてるか一応聞いておいた方がよさそうだからね。


ミコ「………皇太子さんを助けに行きます?」


 ミコも同じことを考えたようだね。私らからすればあいつらのことなんて知ったことじゃないんだけど、今はこっちも余裕が出来たからわざわざ見殺しにしようとまでは思わない。


 向こうもアキラの装備があるからそう簡単に死ぬことはないと思うけど、アキラの尻尾が生えてきて力が増すっていうのはアキラの嫁の九人だけだろうから向こうは敵に勝つ術はないだろう。


狐神「こっちは余裕があるけど…。どうする?」


ミコ「もしこのまま何もせず向こうに何かあったら見殺しにしたみたいであまり良い気はしませんよね…。」


ケンテン「かと言ってここを放棄して良いんですか?」


 そこが問題なんだよねぇ…。アキラの記憶に繋がりそうなこの場所を守りに来たのにフリードやジェイドを守りに行って、その間にここが破壊されたなんてことになったら本末転倒も良いところさ。


ウズメ「ここに何かあるん?うち以外はここに行けって命令されたもんはおらんで?」


狐神「そう言いながらオオミヤノメも命令されてたのにウズメは知らなかったじゃないかい。あんたの言葉はあまり説得力がないんだけど?」


 今さっきオオミヤノメも命令されてたことを知らなかったってのが暴露されたばかりだからね。


ウズメ「それを言われたら弱いんやけど、アマテラス様がここに興味ないんは間違いないで?」


 どうしたもんかね…。ウズメの言葉を信じて全員で移動するか、ここを守る者を置いて分かれてフリードやジェイドの方へ行くか。


ミコ「全員で行きましょう!」


 ミコが急に立ち上がってそう言い切った。


狐神「どうしてだい?」


ミコ「ウズメの言葉だけじゃなくてここは何となく大丈夫な気がします。それよりもここでバラバラになるより一緒に居た方が良いと思うんです。」


 ふむ………。根拠はないけどそう思う、ってやつかい。本来ならそんな根拠もない勘みたいなものをあてにするのは良くないと思うんだけど、状況によっては馬鹿に出来ないってことはよくわかってる。


 それならミコの勘に賭けてみるのも悪くないかもしれないね。


狐神「はぁ…。それじゃミコの勘を信じて全員でガルハラ帝国に向かってみるかい?」


ミコ「はいっ!」


ケンテン・シンライ「「はっ!」」


ウズメ「うちもなん?」


狐神「当然だろ?ウズメは今は無理に拘束したりはしないけど一応捕虜みたいなもんだからね。」


 私はそういう解釈のつもりだったけどミコは違ったみたいだね。余計なことを言っちまったらミコが絡んできた。


ミコ「違います!ウズメはもう仲間です!捕虜じゃありません。」


狐神「わかったわかった。それじゃ仲間でいいから。皆一緒に行くよ。」


 その後も絡んでくるミコを何とか宥めながら全員でガルハラ帝国へと向かうことにした。それじゃアキラ。ちょっくらあんたの男を助けてくるよ。




  ~~~~~フリード~~~~~




 デルリンを迂回して撤退戦をしているであろうはずの部隊の情報を集めているが何の情報も入ってこない。本当に撤退戦をしている部隊はいるのか?


ジェイド「焦るなよフリード。まだ始めたばかりだ。」


フリード「わかってるよ…。それに近くの町に駐留していた部隊とは連携出来たからな。」


 デルリンを迂回して隣の町へ行った時に、そこに駐留している部隊を訪ねたら無傷のままそこに残っていた。どうやらデルリンからの召集命令は来なかったらしい。


 そこで俺はその部隊の指揮権を掌握して各地へと伝令を走らせた。残っていた部隊のほとんどを伝令に回したからもう部隊には戦う兵力はない。


 だがどうせ人間族の兵では多少いたところで太陽人種の相手にはならない。それならば今後を考えて伝令に使った方がよほど意味があるだろう。


パックス「普通の将ならば一人でも多くの兵を身の回りに置いておきたいと考えるところだろうが…。ようやく手に入れた部隊のほとんどを伝令に使ってしまうとはな。」


フリード「どうせあの程度の兵力じゃ置いてたところで意味ないだろ?」


パックス「それはわかってる。が、わかっててもそれを実行出来るのは並の将じゃないだろうな。」


 何かパックスがこそばゆいことを言い出した。


フリード「何だ?褒め殺しか?褒めても何も出ないぞ?」


パックス「そんなつもりはないさ。……本心だよ。フリッツの傍にいるといつも思う…。お前はすごい奴だよ。」


 ………。パックスはまた変なことを考えてるようだな。


フリード「おい。お前また自分は役に立たないとか考えてるんじゃないだろうな?」


パックス「………。」


 パックスは目を逸らして俯いた。どうやら当たりだったようだな。


フリード「前にも言ったよな?お前は俺の片腕だって。お前のお陰で俺はこうしてやってこれたんだ。お前がロディほど剣の腕がない?だから何だ?お前が俺が考えるような奇抜な作戦を思いつかない?だから何だ?俺がお前に求めてるのはそんな能力じゃない。人と同じ才能があったって何の意味がある?お前にはお前にしかない才能と能力がある。俺はそれをお前に望んでる。わかったか?」


 前にも同じようなことを言ったのにパックスはまた落ち込んでる。昔はもっとそんなこと気にせずガンガン行く奴だったのに最近はすっかり丸くなってこの調子だ。


パックス「………ああ。わかってるよ。」


 ちっ…。全然わかってないじゃないか……。無理した笑顔しやがって。けどこれはこれ以上俺がパックスに何か言っても意味はない。自分で気付かなきゃ何の意味もないんだ。


ロベール「で?これからどうするんだ?」


 ロディが場の空気を変えようと明るい声で話題を変える。こういう時ロディの陽気な性格は助かる。


ジェイド「俺がひとっ走りして脱出した者達を探してこようか?」


 ジェイドが手を上げる。それも一度は考えたが危険が大きい。いくらジェイドが俺達の中で強い方だと言っても敵から見れば赤子以下だろう。


フリード「危険が大きすぎる。その危険を冒してまで得られる成果はないだろう。」


ジェイド「そうか…。だがそれなら本当にどうする?」


 それは俺も考えてる。けど良い案はない。


 そこで一つ考えなければならないことがある。敵はデルリンを占領して以来動いていない。すぐ近くにある隣町の部隊もそのまま放置してあるくらいだ。俺達が周辺をうろついていても敵に出会ったこともない。


 何故敵はデルリンから動かないのか?それとも動けないのか?消耗などのために動けないということはないだろう。


 まだ開戦直後であり兵糧などが足りないということは考えられない。デルリンにいた部隊との戦闘で消耗したとか、デルリンの占領に手間取っているということもない。親父達がデルリンに釘付けにする罠を仕掛けていったとも思えない。


 となれば何故デルリンを占領した太陽人種達がデルリンに留まったまま動かないのか。それは奴らの目的が最初からデルリンであってそれ以外の攻撃など二の次だからではないのか?


 太陽人種達からすれば俺達人間族など取るに足りない存在だ。奴らにとっては俺達など脅威ではない。周辺に残っている部隊を放置してようが、逃げ出した敵が戦力を集めて戻ってこようが何の問題にもならない。


 それよりも優先するべきものがデルリンにある。だからデルリンを占領した部隊は動かない。


 ここまで一応の辻褄は合う。ではそのデルリンにある目的とは何なのか。それがわからなければただの妄想と変わらない。


フリード「と思うんだがどうだ?」


 俺は今考えていたことを皆に聞いてみる。誰か何か俺が気付かなかったことに気付くかもしれないと思ってのことだ。


ジェイド「………だったら一つだけ思い当たることがあるぞ。」


 ジェイドの言葉に全員の視線が集まる。


フリード「ほう。一体何だ?」


ジェイド「アキラも言っていたが月人種達の根城は聖教皇国から出て来たって話だ。そして太陽人種の根城はバルチア王国王都パル。かつて海人族が世界を支配していた時、世界の中心は中央大陸だったと聞いている。つまり海人種の根城も本来は中央大陸にあったんじゃないのか?」


フリード「なるほど………。」


 海底都市カムスサはあくまで後で避難する場所として造られたと海人種達に聞いた。つまり本来は地上のどこかに別の本拠地があったはずだ。それがデルリンのあった場所にかつてあったのだとすれば太陽人種達の目的はデルリンではなくて、過去にあった海人種達の本拠地の方か?


ロベール「それであいつらが海人種達の過去の本拠地に何の用があるってんだ?」


 それまで興味なさそうに話を聞いてるんだか聞いていないんだかわからなかったロディが核心に迫ることを言った。


ジェイド「さぁな。そこまではわからない。」


フリード「そうだな。それがわかればかなり重要な情報だと思うが…。それを知るのは難しいだろうな。」


 いくら敵が人間など気にも留めないとは言え迂闊にデルリンに近づけば良くて逮捕されるか、場合によっては問答無用で殺されかねない。


 直接デルリンに乗り込むかデルリンにいる太陽人種の兵に話を聞くかしなければ敵の目的は知りようもない。だがデルリンに近寄る術はなく太陽人種の兵に話しかけてもまともに答えが返ってくるはずもない。


 結局の所ここで想像する以外には出来ることはない。アキラが目覚めるまでに俺達に出来ることはないのか?


ジェイド「俺が乗り込むか?」


フリード「無茶言うなよ。俺達じゃ近寄ることすら出来ないぞ。」


 ジェイドがあまりに無茶なことを言うからドッと笑いが起こった。


ロベール「無茶じゃないかもしれないぜ?今でもデルリンに物資を運び込んで取引してる人間族もいるんじゃないのか?」


フリード「………なるほど。」


 確かに商人や一部の者は太陽人種の占領下にあるデルリンに出入りしている者もいる。太陽人種とて何らかの利用価値があれば人間族でも利用するということだろう。


 とくに補給物資は太陽人種の本拠地から持ってくるよりも現地調達出来た方が奴らには都合が良い。だからそういう補給に関わる者ほどデルリンに入りやすい。


フリード「商人に化けて補給物資を持ってデルリンに乗り込むか?」


パックス「皇太子が直接敵地に乗り込むなんて駄目だぞ!」


 そこで大人しくなっていたパックスが復活して割り込んできた。


フリード「奴らにはガルハラ皇帝も皇太子も関係ないだろう。敵はそんなこと気にも留めてない。俺や親父を探してもいないし見つけてもただの人間族の一人としか見ていない。」


パックス「そういうことじゃない!敵が探してるかどうか、重視してるかどうかじゃなくて、皇太子が死んだら誰が皇帝を継ぐんだって言ってるんだ!」


フリード「わかってるよ…。けど俺が死んだって兄貴かその子供が継ぐんじゃないか?帝位なんて継承されるからこそだ。」


 まだ俺には二番目の兄貴がいる。俺には子供はいないから俺が死ねば俺の直系は途絶えるが兄貴は嫁も子供もいる。他にも従兄だっているし俺が死んだからってうちの家系が絶えるわけじゃない。


パックス「だからって皇太子が危険なところに飛び込んで良い理由にはならないだろ!」


フリード「それはそうだがだったらどうするんだ?誰かが解決してくれるまでここでじっとしてるのか?」


 俺達は危険を覚悟でここに来たはずだ。戦場に立つ以上は危険はつきものだろう。


フリード「どうせこのまま国が無くなれば皇太子もクソもないんだ。それなら出来ることをした方が良いと思わないか?」


パックス「それはそうかもしれないが……。」


 よし。もう一息だな。別にパックスを説得しなくても強硬手段はいくらでもあるが説得出来るに越したことはない。


フリード「デルリンに入り込めたら得られるものは大きい。それだけ危険も大きいがこのままここで指を咥えて見てるくらいならやる価値はあると思わないか?」


パックス「……もちろん今回は俺も連れて行ってもらえるんだろうな?」


 どうやらパックスは今まで何度も自分だけ置いてけぼりだったことを怒っているようだ。それなら説得は簡単だな。


フリード「当たり前だろ?今回はジェイドは連れて行けない。流石に魔人族がデルリンに入ろうとすれば太陽人種に止められるだろうからな。」


 そこで今回はジェイドに集まった兵の指揮を任せる。ブレーフェンから艦隊がやってくれば俺達にも一発逆転の可能性があるからな。


 それまでに俺達はデルリンに侵入して敵の目的を調べる。出来るだけ詳しく調べたい所だが今回は無茶はしない。そういう諸々の打ち合わせを綿密に行った。


フリード「それじゃ行こうか。」


ロベール・パックス「「おう。」」


ジェイド「肝心なところで同行出来なくてすまない。」


 ジェイドが謝ってくる。けどそれは間違いだ。誰かにはこれから集まってくる部隊の指揮官として残ってもらう必要があった。


 それに今回ついて来れないのはジェイドのせいじゃない。いくら戦争は終わったと言っても今のデルリンに魔人族が入ろうとすれば流石に敵も気に留めるだろう。今回はあまり目立つわけにはいかない。


フリード「理由はもう何度も話しただろ?そっちを任せられるのはジェイドだけだ。それじゃ頼んだぞ。」


ジェイド「ああ。こっちは任せておけ。」


 こうして俺達はデルリンに商人として入り込むために行動を開始したのだった。



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