第百三十六話「兎人種の里にて(やっぱり瞬殺)」
さようならアキラさん………。
ガウ「………がう。」
キュウ「………。」
おかしいです。いつまで経っても死んだ気がしません。痛みがないのは痛みを感じるよりも早く殺されたから、ということがあり得ると思いますが、一切自分が死んだ感覚すらしないのは何か変な感じがします。
もちろん今まで死んだことは一度もないので実際に死んだ時にどうなるのかは知りませんが………。
ソンプー「あぁ!アキラ様の愛のお陰で助かりました!やはりアキラ様は私を愛してくださっているのです!」
ソンプーさんがクルクルと回り始めました。カンスイさんも太刀の獣神さんも自分の体を確かめています。どうやら皆さん無事だったようです。
サキム「よかった……。あなた達は無事だったのねぇ~。」
キュウ「あっ!そうです。お母さん………、え?」
お母さんの声を聞いて振り返りました。すると………。
キュウ「お母さん!どうして!どうしてお母さんだけ………。」
お母さんは体中に穴が空いていました………。それはもうどうしようもないほどの傷で……。
サキム「どうやら~…、私はここまでのようね~…。キュウ…、私の降魔の眼鏡を…、ツノウちゃんが巫女を引退したら渡してあげて~。」
キュウ「お母さん…、何を言って………。」
駄目です。頭が働きません。お母さんの言葉の意味を理解出来ません。
サキム「ごめんねキュウ~。トカちゃんのことお願いね~…。サキムちゃんは~…、ずぅっと~、皆のことを見守っているからねぇ~…。」
キュウ「え?お母さん?お母さんっ!」
私がいくら揺すってもお母さんはピクリとも動きません。お母さんはもう………。
キュウ「あああぁぁぁ~~~っ!!!」
ガウ「だめなの!キュウ落ち着くの!」
キュウ「邪魔しないで!」
周りの者達が私の邪魔をします。私の邪魔をする者は全て吹き飛ばす!
ガウ「がう!」
ソンプー「おおぅ…。」
カンスイ「っ!」
私の邪魔をしようとしていた者達は私の力に押されて吹き飛んでいきます。これで邪魔者はいなくなった。さぁ!殺してあげます!
キュウ「お前を殺す。」
オシミ「………こい。」
敵が私の言葉を受けて戦闘態勢をとりました。どうやら私と戦う気のようです。
キュウ「月兎重…。―ッ!!!」
一気に敵まで近づき重加しようと思ったところで背後から私に向けて攻撃が飛んできました。辛うじて避けると一旦オシミから離れます。
オシミ「戦いの最中に横槍を入れてくるとはどういうつもりだ?ツクツミ」
ツクツミ「私だってこんなことに関わりたくはないよ。だけど命令なんだから仕方ないだろう。」
女?私を後ろから攻撃してきた女はそのままオシミの隣に立ちました。
オシミ「命令だと?」
ツクツミ「ああ。命令だよ。ツクヨミがあんたの様子を窺って戦いにのめり込みそうになったら止めろって言ったのさ。」
ツクツミと呼ばれている女はやれやれと言うように両手を上げて答えています。
オシミ「ツクヨミ様を呼び捨てにするな。…それは本当にツクヨミ様からのご命令なのか?」
ツクツミ「そうだよ。あんた戦いとなると命令も忘れて没頭しちまうからね。だから私に監視しておけって命令したんだろ。」
何か話しています。ですがそんなことはどうでもいいです。お母さんの仇。この手で殺してあげます。
ガウ「キュウ落ち着くの!それ以上流されたらだめなの!」
どうやってあの敵を倒そうかと考えているとまたしても小さい者が私の周りをウロチョロし始めました。
キュウ「邪魔をするなって言ったでしょう!」
ガウ「がうっ!」
先ほどよりも力を込めて吹き飛ばそうとしたのに今度は耐えました。………面倒ですね。いっそ殺して………。
ガウ「さきむの言葉を思い出すの!さきむはそれに流されろなんて言ってないの!」
キュウ「―――ッ!」
私は一体………。あっ…!
キュウ「私は………。ごめんなさい!大丈夫でしたか?ガウさん、ソンプーさん、カンスイさん。」
私は月のチャクラに呑まれていたようです。いくら正気を失っていたとは言え私は大変なことをしてしまいました。
皆さんをチャクラで吹き飛ばして怪我をさせてしまうなんて…。どう償えば良いのでしょうか。
ガウ「がうがうっ!正気に戻ってよかったの!」
それなのにガウさんは本当にうれしそうに私の周りを駆け回っています。
ツクツミ「隙だらけだね!」
そこへツクツミが攻撃を仕掛けてきます。ですが慌てる必要はありません。オシミやツクツミの攻撃はもう私達には通じないとわかっています。
キュウ「無駄です!」
ツクツミ「―ッ!ちぃ…。どういうことだい。」
ツクツミが攻撃を仕掛けてきたのを体で受け止めて反撃します。ツクツミの攻撃は私に当たってもダメージを与えることはなく、逆に私のチャクラを浴びて少しダメージを受けたツクツミは慌てて飛びのきました。
キュウ「敵にわざわざ種明かししてあげる理由はありません。」
私達に攻撃が通じないのはアキラさんのくれた装備のお陰です。そして私の攻撃が圧倒的に格上のはずのツクツミにダメージを与えられるのは月のチャクラで攻撃しているからです。
月のチャクラはどのような相手でも蝕みます。例え格上であろうとも、浴びせたのが少量であろうとも必ずです。
オシミ「俺の敵だ!邪魔をするな!」
ツクツミ「そういう所があんたがツクヨミに任せてもらえないところじゃないの?」
オシミ「黙れ!」
向こうも何か揉め始めたようです。この隙に………。
ガウ「がう!キュウのお尻に何かあるの!」
キュウ「え?………あぁ。本当ですね。それで…、ガウさんのお尻にもありますよ?」
ガウ「がう?がうがうっ!本当なの!がうにも生えてるの!」
ガウさんに言われてお尻を確かめたら丸い兎人種の尻尾以外にもう一つ尻尾が生えていました。そして普段人型では尻尾がないはずのガウさんのお尻にも尻尾が生えています。
キュウ「これはまるでアキラさんの尻尾のようですね。」
ガウ「がうがう!ご主人の尻尾なの!」
短くてフワフワの…。まるでアキラさんの尻尾のようです。あれ?そう言えばいつの間にかアキラさんとの魂の繋がりが消えています。代わりに………。
ガウ「皆ここにいたの。」
キュウ「ですねぇ~…。」
魂の繋がりが切れたと思っていたアキラさんのお嫁さん達はこちらにいました。今の私達はアキラさんと魂の繋がりではなく一体になっています。
オシミ「それでは二人ずつ相手にしよう。」
ツクツミ「はぁ…。あんたには何を言っても無駄だね。けど一人余るけど?」
オシミ「向こうの獣人は殺せとは言われていない。」
向こうもどうやら話が纏まったようです。向こうの獣人とは太刀の獣神さんのことですね。どうして太刀の獣神さんは敵のターゲットから外されているのでしょうか。
キュウ「それでは一対一で決着をつけましょう。私はオシミと戦います。ガウさんはツクツミをお願い出来ますか?」
ガウ「がうがう!がうはそれでいいの。」
どうやらガウさんはお母さんの仇であるオシミを譲ってくれたようです。お互いターゲットを決めたのでそれぞれの前に立ちます。
オシミ「まさか本当に一対一で戦えるつもりか?」
ツクツミ「私は別に戦いたいわけじゃないんだけどね…。」
………どうやらツクツミは何か事情があるようです。ですがガウさんが相手をすると決まったので私はそちらには一切口出ししません。ガウさんが問答無用でツクツミを殺したとしても何も言うつもりはありませんでした。
キュウ「それでは教えてあげましょう。本当の月兎の力を。蓮華七輪環、月兎開放。」
アキラさんの獣力が尻尾から流れ込んできます。そのお陰で私はわかりました。獣力のことも、蓮華七輪環のことも、月兎のことも。
前にアキラさんが説明してくれたことを私はちゃんと理解出来ていなかったのです。ですが今ではそれがきちんとはっきりわかります。
私の中を満たしている獣力が体内を循環し体外を循環し力を運んできます。そしてその循環する先は月です。月にある死を含んだチャクラを持ってくるのです。
玉兎の巫女はこの月のチャクラを受け入れて扱うことが出来るのです。その力は死と闇を操ること。体が重くなったり軽くなったりするのも闇の力です。
ここまで完璧に理解するだけでも普通の玉兎の巫女よりも数段高みへと到っているわけですが、私はそこからさらに理解しています。
それは月のチャクラ。死と闇について。この力は月人種の使う暗黒力と同質のものです。チャクラは周囲の他の力と混ざるのです。
精霊力が周りにあれば精霊力と、魔力が周りにあれば魔力と。この世界にはあらゆる力が存在し、あらゆる力とチャクラは混ざり合います。
ですからこちらで取り込むチャクラには一定の決まった性質はありません。それは様々な力と混ざり合っているから。
ですが月のチャクラは違います。月には月人種と暗黒力しかありません。つまり月のチャクラが混ざるのは暗黒力しかないのです。
月のチャクラとは暗黒力とだけ混ざり合ったチャクラのことなのです。そして暗黒力に適性のある者が三玉家なのです。
それは恐らく私達三玉家の故郷は月だから………。だから私達は暗黒力への適性があるのでしょう。
この純粋なチャクラと暗黒力が混ざり合ったものはこちらの世界で取り込めるチャクラと比べて同量でも効果が圧倒的に違うのです。
恐らく混ざっている力の純度が高いほど、そしてそれを扱う者の混ざった力への適性が高いほど、より強い力を発揮するのでしょう。
これを理解し、暗黒力への意識を高めるだけでもかなりの効果は期待出来ます。ですが今の私はそんなものではありません。
今私に流れてきているアキラさんの力は『暗黒力を知っている』のです。すでに完璧に暗黒力を扱うことが出来るほどに慣れている力が私の力になっているのですから、私が暗黒力を自在に扱えるも同然なのです。
キュウ「さぁ。それでは始めましょうか?」
オシミ「………お前月人種か?」
オシミが私の力を見て顔を歪めながらも問いかけてきます。私との比較にならないほどの圧倒的な力の差に気付いていながらも腰を抜かさないだけ大したものです。
キュウ「違いますよ。私は月の兎です。」
オシミ「月の…、兎?………月兎!?」
キュウ「あなたはお母さんを殺した仇です。許すことは出来ません。さようなら。」
オシミは私達のことを何か知っていたようですがそんなことは関係ありません。仮に三玉家の出自に関する話だったとしてもそれが何だと言うのでしょう。
私はさっとオシミに向けて掌を翳します。そこから放たれるのは直接的な攻撃ではありません。ただのチャクラを放っているだけです。
ただしアキラさんの第一階位を超えるほどの獣力でチャクラを循環させて力を吸い取ればどうなるかは考えるまでもありません。
オシミ「ぐっ…。これで…、やっと終われる。こんな殺し合いだけの宿命から…、解き放たれる。」
私のチャクラに全てを吸い尽くされたオシミはカラカラに干からびながら死んでいきました。ですがその顔は少し安らかに見えます。それが私の感情をかきむしりました。
お母さんをあんな殺し方で殺しておいて自分は安らかに死んでいるなど…。ザワザワと感情が揺さぶられます。………いけませんね。暗黒力に少し呑まれかけているようです。
オシミの暗黒力も全て吸い取ったので今私の中に溜められているチャクラの量と濃度はかなりのものです。普段以上に暗黒力が多いのでそちらに意識が引っ張られそうになっています。
このまま暗黒力に呑み込まれてはまた先ほどのように暴走してしまうかもしれません。私は気を逸らすためにガウさんの戦いへと目を向けてみました。
って!えええぇぇぇ?!これは一体どういうことでしょうか………。
ガウ「がうも変身するの!がううぅぅ!」
ガウさんがそう言って力を込めると、いつもガウさんが首から下げているネックレスと、アキラさんがガウさんに贈った鉤爪が光り始めました。
そしてガウさんの姿がみるみる変化して………。大人の女性へと変化したのでした。
ガウ「がうがう!うまくいったの!え~っと…、う~んと…、………変身なの!」
あっ、何か名前をつけようと思ったけど結局思い浮かばなかったようです。見た目はお母さんと同じくらいの、アキラさん曰く『爆乳』ですが頭の中までは変化しなかったようです。
それにしてもガウさん綺麗ですねぇ…。もしかしてガウさんが大人になったらこういう風に育つのでしょうか。
顔は元の顔を少し大人っぽくしただけで基本的には変わりませんが、背はかなり高くなっています。アキラさんのお嫁さんの中でも一番大きいと思います。そして体の線は細いのにおっぱいとお尻は丸く大きいです。
きっと世の中の男性が今のガウさんを見たらほとんどの人が興奮するでしょう。こんなに美人で体型も良い人を嫌いな人はそうそういないと思います。
ツクツミ「………なんだいこりゃ。私に勝ち目なんてないじゃない。降伏、降伏、こうふ~く!」
ツクツミは変身したガウさんを見ると途端にそんなことを言い出しました。そんなことで許されると思っているのかという思いが沸いてきます。まだ暗黒力に影響を受けているようですね。
ツクツミ「私は元々国津神で、ツクヨミに脅されて協力させられてるだけなんだ。だからって私のしてきた罪がなくなるとは思ってないけど、ここで命を賭けてまでツクヨミのために戦う義理なんてないんだよ。だから降伏させとくれ。」
ガウ「がうぅ…。わかんないの…。」
ガウさんが私の方を見ています。言葉通りガウさんにはどう判断すれば良いのかわからないので私に答えを求めているのでしょう。
私の個人的感情ではお母さんをあんな風に殺したツクヨミの手先など全員殺してしまいたいと思っています。ですがここで何の考えもなしに私の感情のままに行動してはいけません。
キュウ「わかりました。先ずはお話を聞いてみましょう。」
ツクツミ「助かるよ。」
こうしてツクツミに話を聞くことになりました。話していることが本当かどうかは私にはわかりませんが、確かに話を聞いた限りではツクツミも大変な目に遭っていたようです。
まずツクツミは子供を人質に取られているようです。そのためにツクツミはツクヨミの命令に逆らえないのだと。
しかし命令とは言ってもこれまでは大した命令などなかったようです。ただ海人種達の情報を流したりという程度で、その情報も一万年も戦争が中断されていたためにほとんど意味のない情報ばかりだったそうです。
ですがついこの前海人族が表舞台に復帰してからは話が別です。カムスサの様子を探ってきて情報を流せだとか、誰を殺してこいだとか、今回のようにオシミと協力して任務を果たしてこいだとか、大変な命令が立て続けにくるようになったそうです。
そしてこの任務が無事に終わったら子供を返してもらえるという約束をしていましたが、オシミが死んでしまったことでもう今回の任務は失敗のようです。
その上ここでガウさんと戦って自分も死ぬよりは子供達を救える可能性に賭けて私達に降伏したのだと。それでツクツミの話は終わりでした。
キュウ「それで…、貴女のことを見逃して欲しいと?」
ツクツミ「そこまで都合の良いことは言わないよ。私は殺されたっていい。だけど私の子供はツクヨミから救って欲しい。私の子供には罪はないし子供は国津神だよ。だから海人種達にもまったく何の縁もないわけじゃないだろう?」
キュウ「それこそ都合が良い話です。貴女の子供は貴女が救ってください。」
ツクツミ「……え?それって……。」
ツクツミは私の言った意味を一瞬理解出来ず疑っているようです。
キュウ「貴女の身柄は拘束しませんが勝手な行動も許しませんよ?私達と一緒に行動してもらいます。その上で子供を救えるチャンスが来たならば貴女が自力で助け出してください。」
ツクツミ「―っ!そんな甘いことでいいのかい?私が嘘をついてるかもしれないよ?」
ツクツミはまだ疑っているようです。ツクヨミに利用されているのですからそう簡単に人を信じられなくなっているのはわかりますが、あまり疑われても時間の無駄です。
キュウ「貴女が嘘をついていて後で裏切ろうとすればその時は容赦しません。貴女が裏切った所で私達には何の影響もないから許可しているんです。」
ツクツミ「………なるほどね。確かにその通りさ。それじゃあんた達の言う通りにするよ。だけどあの子を救える機会が来たら勝手にやらせてもらうからね。」
これでようやく話は纏まったようです。実際ツクツミが何か企んでいた所で今の私達には何の影響もありません。何しろ今の私達は第一階位を超えそうなほどなのです。私達に何か出来る者などアキラさんくらいしかいないでしょう。
キュウ「それにしてもガウさん綺麗になりましたねぇ~。」
ガウ「がうがう!おっぱいが重いの!」
ガウさんは自分のおっぱいを持ち上げながら眉間に皺を寄せています。そうです。大きくても良いことはあまりありませんが、大きくて大変なことはたくさんあります。
ツクツミ「あんた太陽人種なのかい?」
ガウ「がう?違うの。がうはがうなの。」
キュウ「ガウさんは妖怪族です。」
ガウさんの言い方ではツクツミには伝わらないだろうと思って補足しておきます。
ツクツミ「何で妖怪族が天力を纏ってるの?」
キュウ「それはわかりません。」
何故かガウさんは天力を扱えるようです。アキラさんの尻尾からガウさんへ天力が流れています。
ソンプー「ガウ様お美しくなられましたね!ガウ様の下僕達が近寄ってきているようですよ!」
ソンプーさんが言葉通り躍り出てクルクルと回っています。下僕とは今近づいてきているティーゲ達のことでしょう。先ほどからティーゲ達がこちらへ近づいてきているのを感じていました。
ガウ「がうがう!ばか弟子なの!」
暫く待っているとティーゲ達がやってきました。
ティーゲ「え?ガウ様?」
獣人達「「「「「ええ?これが?」」」」」
ティーゲ「しかし確かにガウ様のお力を感じる………。」
やって来たティーゲと獣人達はガウさんを見て驚いているようです。それはそうですね。あまりのことにリアクション出来ませんでしたが間近で見ていた私でも未だに驚いています。
ガウ「がうなの。ティーゲお仕置きなの!」
ティーゲ「やっぱりガウ様!ガウ様~~!!」
獣人達「「「「「ガウ様~~!!」」」」」
全員でガウさんの足元に縋りつきます。ですがただの感動の再会というだけではないとわかります。男達の鼻の下が完全に伸びています。ガウさんの美貌にあてられて下心丸出しになっているのでしょう。
ガウ「がう!気持ち悪いの!」
ティーゲ「ぎゃ~~~!!!」
獣人達「「「「「うわ~~~!!!」」」」」
あ~あ…。ガウさんの足に縋り付こうとした所でガウさんに吹き飛ばされてしまいました。もちろんガウさんは命に関わらない程度に手加減していましたが、アキラさんのお嫁さんであるガウさんに手を出そうなどと見過ごせることではありません。
キュウ「ティーゲ。後でアキラさんに今のことを事細かに全てお話しますね。」
ティーゲ「げぇっ!ちょちょちょちょっとお待ちください。俺は別に何も…。」
ティーゲが飛び起きて慌てて言い訳を始めます。
キュウ「そんな言い訳が通じるとお思いですか?アキラさんのお嫁さんに手を出そうとしたんですから相応の覚悟はおありだったんですよね?」
ティーゲ「おおおお許しを………。」
ティーゲはガタガタと震えながらDOGEZAをしています。ちょっと戒めるために脅しただけなのですがここまで恐れているとは…。アキラさんってそれほど怖いでしょうか?
キュウ「これからの態度次第では考えないでもないですが?」
ティーゲ「おおっ!どうかお願いいたします!」
これでティーゲ達は逆らわなくなったでしょう。
キュウ「それで貴方達はどうしてここへ来たのですか?」
獣王であるティーゲがたったこれだけの兵しか連れずにこんな時にこんな場所までやってくるなんておかしいです。
ティーゲ「実は……、大樹の民には大獣神様達が来られて直接指示されるようになられたのだ。そして大樹の民はアマテラス側につくことになった。俺ではそれを止めることは出来ず、ガウ様と敵対することなど出来ない俺と親衛隊の者達は大樹の民を脱出してきたのだ。」
キュウ「なるほどぉ。使えない人達ですね~。何のために貴方を生かして大樹の民を任せたと思っているのでしょうか?」
ティーゲ「………あんた。その姿になってると性格きついな…。まったくもってその通りで反論の余地はないんだが、そこまで言わなくてもいいんじゃないか?俺達だってよくわかってるよ………。」
キュウ「その姿?」
月兎開放したからと言って別にガウさんのように姿が変わるようなことはないはずですが?
ティーゲ「何か妖しい魅力っていうか。危ない女みたいな気配が出てるだろ。」
キュウ「そうなのですか?」
自分ではまったく自覚がありません。ただ少し話し方が変わって気分がハイになるくらいです。
ティーゲ「まぁそれはいいじゃねぇか。とにかく俺達じゃ大樹の民は動かせなかった。大樹の民にとっては大獣神様が一番なんだ。だから最近獣王になった程度の俺じゃ誰も俺の言うことなんて聞かない。」
キュウ「それが言い訳ですか。まぁいいです。とにかくこれからのことを考えましょう。」
ティーゲ達が来たからといってそれほど頼りになるわけではありませんが、何もないよりは良いでしょう。ティーゲを従えておけばもう一度大樹の民を降した後に再び獣王にする手もあります。
カンスイ「大樹の民に攻め込みますか?」
キュウ「それも手ですねぇ…。どちらにしろ大樹の民は再びアキラさんの敵になったのです。相応の報いは受けていただかなくてはいませんね。」
一度目は寛大な心で許してくださるアキラさんも二度目はそうはいきません。最初はよくわからずに敵対してしまった相手でも二度目はアキラさんのことをわかっているはずです。
それでも尚敵対することを選んだ相手にはアキラさんは一切容赦しません。ですから大樹の民にも相応の報いを受けさせなければ………。
キュウ「それでは私達は大樹の民征伐に向かいましょう。」
ティーゲ「あまり俺の立場では偉そうに言えないんだが…。大樹の民は大獣神様に逆らえないのだ。だから大獣神様がアマテラスにつくと言われたらそれに従うしかない。どうかただ指示に従っているだけの者には寛大な処置をお願いしたい。」
………。こういう時アキラさんならどうするでしょうか。事情があって無理やり従わさせられている人には寛大でしょうか?それとも問答無用に皆殺しでしょうか?
キュウ「それはまだ判断出来ません。実際に見てみなければ無理やり従わさせられているのか、自分達も望んでやっているのかもわかりません。」
ティーゲ「………そうだな。」
とにかく実際に見てから出ないと判断のしようもありません。まずは大樹の民へと乗り込んでみましょう。
最後に私は一度だけ振り返ります。そこには今出来たばかりのお墓があります…。そう。お母さんのお墓が………。
キュウ「今までありがとうお母さん。これからはそっちでゆっくり私達を見ていてください。この眼鏡はきっとツノウちゃんに届けます。それではいってきます。」
ガウ「がう…。さきむ守れなくてごめんなさいなの………。行ってきますなの。」
ガウさんもお母さんのお墓に手を合わせてくれました。お母さん、いってきます。




