第百三十五話「変わらぬ結末(結局圧勝するという意味で)」
アキラさん………。
クシナ「あれ?」
ルリ「………ん。」
コヤネが周囲に撒き散らした白い神力の塊が破裂して私達へと襲い掛かってきました。本来なら圧倒的な力量差があるコヤネの攻撃を受ければ私達など一溜まりもなかったでしょう。
ですが結果はまだ私達は生きています。それも無傷で…。
シュラ「俺達まで生きてるとはな。」
コンヂ「そうっすね…。」
どうやら全員無事だったようです。でも今のは一体………。コヤネの攻撃が私達に当たる寸前に何かの力が発動して私達を守ってくれたようです。
ルリ「………ん。あっくんのお陰。」
クシナ「え?…あっ!そういうことですか………。」
ルリさんの呟きでようやく気付きました。アキラさんがくださった装備のお陰で助かったのです。
クシナ「ルリさんはこれを知ってたんですね。」
戦う前からルリさんが妙に落ち着いていると思っていましたが、この装備の能力を知っていたから簡単に殺されることはないとわかっていたのですね。
ルリ「………知らない。今知った。」
クシナ「……え?それじゃどうしてあれほど落ち着いていたんですか?」
ルリ「………別に落ち着いてない。死ぬ覚悟はしてた。」
どうやらそういうことらしいです。ただ普段通りに見えたから落ち着いているように感じただけだったようです。
コヤネ「…どうやらお前達を見縊っていたようだ。非礼を詫びよう。そしてここからは全力でお前達を倒す!」
あ…。そういえばまだ戦ってる最中でした。一度死んだつもりで生き残っていたからなのか緊張感が抜けてしまいました。
こんな状態ではいくら防御は大丈夫になったと言ってもコヤネにやられてしまうかもしれません。もっと気を引き締めないと…。
それにしてもコヤネもまだ全力ではなかったのですね。さらに神力が増大しています。その力は第三階位というところでしょうか。
私達の力を合わせても第三階位の相手など出来ません。アキラさんの装備がどれくらい私達を守ってくれるかはわかりませんが、倒す方法がなければ勝つことは出来ません。一体どうすれば………。
って、何か私も妙に落ち着いていますね。これほどの敵が目の前にいるというのに一体どうしてしまったのでしょうか?
これまでもあまりに強大な力を持つ者を目にしすぎて、コヤネの力がその者達の中で飛びぬけて高いわけではないので緊張感が持てないのでしょうか?
そんなことではいけません。元々私達よりもずっと格上の相手なのですからそのように油断していてはますます勝ち目がありません。
コンヂ「クシナ様、ルリ様、それ何すか?」
クシナ「それ?」
ルリ「………。」
コンヂさんがどこかを指差して声をかけてきました。まだ戦っている最中でそんな場合ではないはずなのに私もついその指の示す先を追って見てしまいました。ルリさんも私と同じようにコンヂさんの指す先を見ます。
クシナ「………ん?……んん?んんん??!!」
コンヂさんが示す先は私とルリさんのお尻の辺りでした。そこでそれを追って自分のお尻を見てみると…。
ルリ「………あっくんの尻尾。」
そうです。ルリさんが言われたように私とルリさんのお尻の辺りにアキラさんの尻尾とそっくりな尻尾が生えています!
私には元々竜の尻尾があるので今はアキラさんの尻尾と二本になっています。ルリさんは尻尾は生えていなかったのでアキラさんの尻尾一本だけですね。
ルリさんの服には当然尻尾を通す穴はなく、私も一本通す穴だけしかなかったはずなのに、今では二人とも服から新しい尻尾が出ています。
クシナ「こういうものだとは説明を受けていましたが…。キツネさんの作られた服は出鱈目ですね…。」
ルリ「………ん。キツネと一緒。」
クシナ「まぁ!うふふっ!後でキツネさんに今の言葉をお伝えしなくてはいけませんね。」
ルリさんがあまりに面白いことを言ったので戦いの最中だということも忘れて笑ってしまいました。
ルリ「………駄目。キツネは怒ると怖い。」
クシナ「ふふっ。そうですね。」
ルリさんは一瞬ブルッと身震いして即座に口止めしてきました。ルリさんはコヤネよりもキツネさんが怒ることを恐れているようです。
コヤネ「随分と余裕だな?それならばこれでどうだ!」
あぁ…。そう言えばまだコヤネがいたのでした。危うく忘れかけていましたが向こうから声をかけてくれたので忘れて移動してしまう心配はなくなりました。
コヤネ「センジュゴン!」
どうやらまた同じ技のようです。コヤネの天力で出来た白い塊がフワフワと掌から出てきます。不謹慎ながら落ち着いて見てみるとこの白いフワフワがちょっと………。
ルリ「………綿菓子みたいで美味しそう。」
クシナ「そうですわね…。」
前にアキラさんが一度だけ作ってくださったお菓子に似ています。あれはふわふわしていて甘くてとてもおいしかったです。
コヤネ「フッシ!」
コヤネが気を送ると白い塊が破裂します。それは人間族の目には見えないほど小さな針のようになり私達へと襲い掛かってきます。
ですが当然ながらアキラさんのくださった鎧が、敵の攻撃が私達に触れる前に全て防いでくれます。
と、思ったらルリさんには防御が発動しなかったようです。これはどういうことでしょう………。
あっ!わかりました。今の私とルリさんにはこの程度の攻撃は防御しなくともダメージはありません。ですが私は鎧に防御するように無意識に発動させたのでしょう。ルリさんはそれをしなかったのでその身で攻撃を受けたのです。
そして当然ながらルリさんには傷一つありません。何故ならばアキラさんの尻尾から流れてくる桁違いの神力が私達を満たしているからです。
私はこれまで感じたことがないほどの龍力が体内を駆け巡っているのを感じています。これがアキラさんの力……。これまで私達に見せていた力ですら全力ではなかったのですね………。
ルリ「………効かない。」
ルリさんからは私と同等の霊力を感じます。一つだけ疑問なのですがどうして分けているのに同等なのでしょう。
私の中に流れる龍力がアキラさんの最大の力だとすればルリさんに同等の力が流れているのはおかしいわけで………。え…?それってつまりアキラさんの本当の全力は今の私とルリさんを合わせた力以上ということですか?
仮に均等に分けているとしても私とルリさんの二人に分散されていますよね…。それにもしかするとフランさんやティアさんやシルヴェストルさんにも均等に分かれているかもしれません。
………アキラさん。貴女一体どれほどの力を隠していたのですか?
コヤネ「馬鹿な!俺の全力が通じないだと!?」
クシナ「なるほど…。先に出て行かれた三人がどうして魂の繋がりが切れたのかわかりました。」
ルリ「………ん。ここにいた。」
ルリさんも私と同じものを感じているのでしょう。すぐに頷いてくれました。
コヤネ「おい!無視するなよ!」
今の私もルリさんもアキラさんとの『魂の繋がり』はなくなっています。ですが今の私達はアキラさんの魂と一体になっているのです。そしてそこにはフランさんも、ティアさんも、シルヴェストルさんも、先に行かれた方達の魂が一緒にいます。
クシナ「この尻尾は今私達がアキラさんと魂が一つになっているから生えてきたのですね。」
ルリ「………ん。あっくんが一緒に戦ってくれる。」
私とルリさんは力の一端を解き放ちます。何故全力を解き放たないかはおわかりでしょう。そうです。全力を出してはこの大陸を…、いえ、この世界そのものを吹き飛ばしてしまうからです。
アキラさんの苦労が少しだけわかりました。これほど強大な力だと第三階位程度の者など蟻を摘むようにそっと優しく触らないとすぐに握り潰してしまいます。途中からコヤネの力を大したことがないと感じていたのは私達が圧倒的に強くなりすぎたからでしょう。
コヤネ「おいっ!………おい。これではまるでスサノオ様ではないか……。俺の勝てる相手ではない……。」
どうやら私達の力を見てコヤネは自分との力量差を感じ取ったようです。中には力量差に気付かずに無駄な足掻きをし続ける人もいるので、物分りが良いとこちらも楽で助かります。
クシナ「それでは降伏して兵を退いていただけますか?」
勝ち目がないことを悟ってコヤネが退いてくれれば一番良いです。周囲を囲んでいる太陽人種の兵士達も私達の力に恐れをなしているのですからここで終われば余計な被害がなくて済みます。
コヤネ「それは出来ない。例え勝ち目がなかろうとも俺は俺の役目を放棄することは出来ない。」
コヤネが臨戦態勢をとります。どうやら降伏して終わりとはいかないようです。そして私はそれをおかしいとも愚かとも思いません。
王城に残ったドラゴニアの者達も、カムスサを出て故郷へと向かったアキラさんのお嫁さん達も、皆勝ち目がない、行けば死ぬ、ということがわかっていても立ち向かったのです。
コヤネが今それと同じことをしたからと言って私がそれを笑えるはずなどありません。
クシナ「……わかりました。それではお相手いたします。」
コヤネ「一つだけ頼みがある。」
クシナ「頼み?」
一体何でしょうか?コヤネが私達に頼むことなど周囲の兵士達のことくらいでしょうか。
コヤネ「俺が負けた場合ここにいる部隊は降伏する。だから兵士達を無闇に殺すのはやめてもらえないだろうか?」
やはり…。自分は敗軍の将として責任を取るが兵士はなるべく殺さないで欲しい。そういうことですね。
クシナ「………いいでしょう。コシノヤマタノ=ミトヨマヌラ=クシナの名にかけて抵抗しない兵士を殺したりはしません。」
コヤネ「かたじけない。」
コヤネが頭を下げました。私の中である考えが浮かびどんどん膨らんでいます。いえ。これは最早予感と言えるものでしょう。私が考え事に気を取られている間にコヤネが仕掛けてきました。
コヤネ「それではいくぞ!」
クシナ「龍気闘衣。」
久しぶりに龍力を纏います。これほどの龍力で龍気闘衣を纏えば一体どれほどになるのでしょうか。
コヤネ「――ッ!!これは………。」
私に飛びかかろうとしていたコヤネは私の龍気闘衣を見て慌てて立ち止まりました。それはそうでしょう。今の私に飛び掛ればそれだけで死にかねません。それではただの自殺になってしまいます。
クシナ「これがアキラさんの龍気闘衣。………出鱈目ですね。」
全身を覆う龍気は鎧のような物々しい姿にはなりませんでした。ただ私の表面をあるがままに流れています。立ち昇る龍気はまるで九つの頭のようになり、下へと垂れる龍気はまるで九つの尾のようです。
コヤネ「まさか……。お前がスサノオ様に仕えし八岐大蛇だったか………。」
クシナ「え?八岐大蛇?私はそのようなものではありませんが?それにスサノオに仕えるって…。スサノオと会ったこともありません。私が生涯尽くすのは我が夫アキラ=クコサト唯一人です。」
コヤネ「アキラ=クコサト!?まさかスサノオ様の?」
どうやらコヤネはアキラさんの存在を知らなかったようです。
クシナ「スサノオの娘と聞いております。」
コヤネ「それは知っている。だがご息女は太古の大戦の折に亡くなられたと聞いている。本当にそれはご息女なのか?」
クシナ「私もあまり詳しいことはわかりません。ただアキラさんは九尾の妖狐であり九尾の女神と言う方とそっくりだとは聞いています。スサノオとの血縁を証明するようなものは私にはわかりませんが、カムスサに居られた海人種の方々が言うにはアキラさんはスサノオの娘で間違いないとのことです。」
私はなるべく私情を挟まず答えました。根拠もないのに感情的にアキラさんがスサノオの娘に違いない!などとは言えません。
コヤネ「そうか…。海人種がそう言うのならそうだろう…。そうか………。」
コヤネは少しだけ頬を綻ばせながら頷いています。それを見て私の考えも纏まりました。やはり最初に考えていた通りにすることにします。
海人族の中でも海人種だ太陽人種だと分かれています。それは国津神と天津神と呼ぶようですが、国津神だから全ての者がスサノオやアキラさんに従うわけでもなければ、逆に天津神だからと言って全てが敵というわけでもないのです。
ですからコヤネは………。
コヤネ「これで思い残すことはなくなった。それでは参る!」
今度こそコヤネが仕掛けてきました。素手かと思いましたがいつの間にかその手には光る棒状のものが握られています。
………いえ、違いますね。これは天力を棒のように伸ばして維持しているものです。発現させているコヤネの意思で出したり消したり出来るので普通の剣でこれを受けようとしたらすり抜けて斬られてしまうでしょう。
コヤネは自分自身の能力なのですからそういう剣の打ち合いに慣れているでしょう。相手は普通の剣のつもりでこれを受けたら、剣が触れ合う瞬間に光を消されて鍔迫り合いを外されたところでもう一度光を出して斬られてしまいます。
コヤネ「何?馬鹿な!何故普通の剣でこれを受け止められる?」
私はそれをわかっていながらあえて剣で受け止めました。もちろんコヤネの光の剣が消えてすり抜けてくるなどということもありません。きちんと私の剣と鍔迫り合いになっています。
クシナ「これはあなたの言われる『普通の剣』ではありません。アキラさんがヒヒイロカネという金属に莫大な神力を流し込み鍛え上げた剣です。」
コヤネ「ヒヒイロカネ!?それをスサノオ様のご息女が神力を流して鍛えただと!それでは神器ではないか!」
自分がそれと戦わなくてはならないはずのコヤネは何故かうれしそうにこの剣を解説しています。
クシナ「そしてこちらは同じヒヒイロカネで造られた槍です!」
私は背負っている槍を左手で引き抜きコヤネに当てます。もちろん刃の部分を当てて致命傷を負わせたりはしません。槍に殴られて離れたコヤネに剣と槍を突きつけます。
クシナ「もう勝負はつきました。降伏しなさい。あなたにはこれから先も役目があるでしょう?こんなところで死ぬのがあなたの役目ではないはずです。」
そうです。ここでコヤネを殺してしまっては後々に天津神達を抑える者がいなくなってしまうでしょう。きちんと理性を持って部隊を指揮出来る者を全て殺してしまっては統制が取れなくなって双方ともに余計な被害が出てしまいます。
コヤネ「しかし………。」
私の言葉を受けてもコヤネは迷っているようです。視線を逸らして俯いてしまいました。
クシナ「しかしもだってもありません!あなたは私に敗れたのですから勝者である私の言うことを聞きなさい!」
コヤネ「はいっ!」
私が命令口調でそう言うとコヤネはピンと立ち上がって敬礼しながら承諾しました。
ルリ「………やっぱりクシナも怖い。」
えっ!?それってどういう意味でしょう。ルリさんの言葉が一番効きました………。
クシナ「それではこれでこの戦闘は終わりということで………。―ッ!何ですか?」
コヤネとの勝敗が決してこの戦いは終わりだと思ったのにどうやらそうはいかないようです。ドラゴニア王城で戦っている気配を感じます。
クシナ「どういうことですか?私達がここで戦えば王城には攻撃しないのではなかったのですか?」
私は少しきつい視線でコヤネを追求します。
コヤネ「すまん…。どうやらフトダマが勝手に先走ったようだ。」
クシナ「フトダマ?とにかく止めにいかなくては…。」
そこでどうすれば最善か考えます。………うん。考えは纏まりました。
クシナ「私とルリさんがドラゴニア王城へと向かって襲い掛かっているフトダマとか言う者を止めてきます。シュラさんとコンヂさんはコヤネと協力してここにいる太陽人種の兵達を止めてください。」
シュラ「了解。」
コンヂ「うぇっ!俺っち達だけでこっちを何とかするんすか?そりゃ無茶ってもんっすよ。」
コンヂさんは早速泣き言のようです。まったく………。
シュラ「心配はいらねぇさ。敵の隊長が俺達に従うんだ。自分の部隊の管理だって任せればいい。俺達の役目はあくまでそれを見届けることだ。」
どうやらシュラさんはよくわかっているようですね。それはそうです。ここにいる敵兵士を全てお二人で止めろなどとは言いません。
指揮官であるコヤネが私達に降ったのでここにいる兵士達も抑えてくれるだろうと思ってこのように分けたのです。
コヤネ「………すでに王城を襲わないという約束を破っているのだ。信用してくれとは言えない。だが俺の誇りにかけてここにいる者達には手出しはさせない。」
コヤネの言葉を受けて私達は顔を見合わせて頷きます。ここはコヤネを信じるしかありません。それで仮に裏切られたとしてもシュラさんとコンヂさんはアキラさんの鎧を着ているので殺されることはないでしょう。
クシナ「それではルリさん、向かいましょう。」
ルリ「………ん。」
私とルリさんは急いでドラゴニア王城へと向かったのでした。
=======
私達が竜王と会った部屋へと駆け込んだ時にはすでに手遅れだったようです。
竜王「西の竜!」
西の竜「ごふっ………。」
私達が扉を開けた瞬間目に飛び込んできた光景はすでに西の竜が貫かれていた場面でした。小さな老人のような者が己の倍ほどの大きさがありそうな西の竜に向かって飛び上がりその腕が西の竜の体を貫いています。
その立ち位置からしてどうやら西の竜は竜王を庇おうと老人の前に立ち塞がり身を挺して竜王を守ったのでしょう。
後ろに庇われるようにベッドに寝ていた竜王が西の竜に向かって手を伸ばします。そして周囲にいた他の将軍達は、自分達も竜王を庇おうとその周囲へと集まろうとしています。
ですが一撃で西の竜がやられた通り他の将軍達が割って入ったところで何も変わりません。全員が死ぬだけです。
クシナ「そこまでです。」
ルリ「………ん。」
このまま黙ってみていては竜王も将軍達も死んでしまうので、私は西の竜と竜王の間に割り込みました。ルリさんは西の竜の前に出て敵と対峙しています。
???「何故邪魔をする?お前は関係なかろう?」
西の竜から腕を引き抜き一旦距離を取った老人がルリさんを見て訝しんでいます。
ルリ「………外の者達は降伏した。あなたも降伏して大人しくするべき。」
ルリさんは相変わらず少し虚ろな視線で、敵を見ているのか見ていないのかわからないまま忠告しました。
フトダマ「ふんっ!外の腰抜け共がどうしようがわしには関係ない。このフトダマがアマテラス様のご命令を遂行する。」
どうやらコヤネが言っていた通りこの者がフトダマというようですね。従わないというのならばここで倒してしまうしかありません。
ルリ「………クシナはさっき戦った。今度はルリがやる。」
すっと手を出してルリさんが私を止めます。なるほど…。確かに私ばかり活躍しては申し訳ないですね。
クシナ「それではその敵はルリさんにお願いします。」
ルリ「………ん。任された。」
そう言って振り返ったルリさんがほんの僅かだけ微笑んでいた気がしました。………どうしましょう。ちょっとルリさんにキュンとしてしまいました………。
あっ!決して浮気じゃないですよアキラさん!だたちょっとルリさん可愛いなって………。
竜王「ふざけている場合か!この敵には敵わぬ。全員逃げねば!」
はぁ…。竜王は相変わらずですね。忠臣であった西の竜がやられてもまだこのようなことを言っているとは………。
ルリ「………逃げたければ逃げればいい。フトダマ。ルリが相手になる。」
ルリさんは一瞬だけ竜王に冷めた視線を送ってからフトダマと向かい合いました。
フトダマ「よかろう。きえええぇぇぇぇ!!!」
フトダマが両手を蛇のように動かしながらルリさんに迫ります………。ですが遅すぎて欠伸が出てしまいそうです。
竜王「速すぎる!余が目で追えぬとは!」
………。何でしょう。竜王がそう言うと何だか滑稽な気がします。私達とフトダマと竜王の力量差からすればそれは当然だとわかってはいるのですが…。もう竜王を軽蔑している私が今そのようなことを聞くとますます嫌悪感が増幅されるのです。
ルリ「………ん。お終い。」
フトダマ「………は?」
久しぶりにルリさんが神力を刃のようにして飛ばしているのを見ました。フトダマは何が起こったのかわからないという声を上げたままバラバラになり飛び散りました。
高速で移動している間にバラバラに刻まれたので勢いそのままに飛び散り後ろの壁やガラスにべちゃべちゃと肉片が当たります。
南の竜「あの敵をこんなにあっさり?」
東の竜「強すぎる………。」
残りの将軍達はルリさんを恐れに染まった目で見ています。気持ちはわかりますが何とも情けない将軍達ですね。本当にドラゴニアはこのままで良いのでしょうか。
竜王「はっ!そうであった。西の竜!西の竜!!!」
竜王が倒れている西の竜に駆け寄ります。って、竜王…。あなた臥せっていたくせに元気ではないですか。それほど動けるのならベッドに臥せる必要はなかったでしょう。ますます軽蔑してしまいます。
西の竜「ヒューヒュー……。竜王陛下……。最後の頼みを聞いていただけますか?」
西の竜は貫かれた場所からヒューヒューと空気が漏れて音がなっています。神力もどんどん失われており、もう長くないのだと誰の目にも明らかでした。
竜王「うむ!言うてみよ!」
西の竜「ヒュー…、ヒュー…。竜王陛下はドラゴン族の中ではまだお若い。迷うこともございましょう。間違えることもございましょう。…ヒュー。ですが…、どんなことがあっても…、ドラゴン族の誇りだけは忘れないでいただきたい。ヒュー…、ヒュー…。さすれば陛下は…、きっと歴代でも最高の…王に………。」
そこで西の竜は永遠の眠りにつきました。
竜王「西の竜!西の竜~~~!!!」
永遠の眠りについた西の竜を抱き締めたまま竜王はいつまでも泣き叫び続けていました。
=======
西の竜とフトダマが死に王城での戦いは終わりました。外の様子も落ち着いてきたと思った頃にシュラさんとコンヂさんがコヤネを連れて王城へとやってきました。
シュラ「外の方はこれで暫く大人しくしてると思いますぜ。」
シュラさんに言われて少しだけ窓から外の様子を窺います。王城を包囲していた太陽人種達は気が抜けたようにすっかり大人しくなっていました。
コンヂ「それでこれからどうするっすか?」
クシナ「………そうですね。」
私達にはカムスサへと戻る方法はありません。王城周辺の戦いは一応の決着をみたと言えますがまだ戦争が終わったわけではないのです。
ルリ「………あっくんが来るまで出来ることをしていればいい。」
ルリさんはまた虚ろな視線でどこを見ているのかわからないままはっきりそう告げました。
クシナ「そうですね…。そうですね!そうしましょう。私達にはまだ出来ることがあります。戦争も終わってはいません。アキラさんが来られるまでに余計なことは全て終わらせておきましょう。」
シュラ「そうですな。」
コンヂ「はいっす!」
皆さん力強く頷いてくれました。
竜王「ドラゴニアも協力する。ドラゴニアはこれより遠呂知様と六カ国同盟に全面的に協力する。誰か余の決断に異論のある者はいるか?」
竜王が高らかに宣言しました。それは今までと違って王たる風格がありました。
将軍達「「「我ら竜王様に従います。」」」
この場にいた将軍達も大臣達も兵士達も全ての者が竜王に跪きます。西の竜の最後の言葉のお陰で、ほんの少しだけ竜王も変われたようです。
ですが本当の名君になるか、愚王になるかはこれからです。もしかしたらドラゴン族の未来も捨てたものではないのかもしれない。この光景を見てそんなことを思ったのでした。




