第百三十四話「止まぬ惨劇(で死ぬのはウケモチとオオゲツ)」
アキラ様っ!!!
ティア「………あれ?」
シルヴェストル「………うむ。」
いつまで経っても切り刻まれた感じがしないのでそっと目を開けます。シルヴェストル様も応えてくれたことから無事なのでしょう。
ダザー「平気…ですね?」
シルヴェストル「そうじゃの…。」
ダザーさんも無事だったようです。お母様と火の精二人も…。あれ?どうして平気なのでしょうか?ウケモチが攻撃をしなかったのでしょうか?
ウケモチ「きひ?なんでじゃぁ?何で切り刻まれておらん?」
どうやらウケモチはわたくし達を切り刻むつもりだったようです。それなのに何故無事なのでしょうか?
ウンディーネ「ティア…。あなた一体………。」
ティア「お母様?お母様は今のを見ておられたのですか?」
お母様がわたくし達を見て驚いた顔をしています。もしかしたらお母様はわたくし達が何故無事に済んだのか見ていたのかもしれません。
ウンディーネ「まるで何かに弾かれるようにウケモチの攻撃が霧散していました。」
シルヴェストル「ふむぅ…。なるほどのぅ。」
シルヴェストル様はウンウンと頷かれています。何かわかったのでしょう。
ティア「シルヴェストル様。一体何がわかったのですか?」
シルヴェストル「うむ。恐らくアキラにもらった装備のお陰なのじゃ。」
ティア「えぇ!そうなのですか!流石はアキラ様です!………あれ?でもそれではどうして精霊神様達は?」
そうです。火の精霊神様と水の精霊神様もアキラ様に装備を貰ったはずです。それなのに何故お二人は切り刻まれてわたくし達は平気だったのでしょうか?
シルヴェストル「エンとスイはアキラに貰った装備を置いてきたのじゃ。よく見てみよ。」
そう言われてお二人の亡骸を見ます。その腕にはアキラ様に頂いたはずのブレスレットがありませんでした。
ティア「どうして……?」
シルヴェストル「片付けをしておる時に外してそのまま忘れてしまったようなのじゃ。今まで装備していなかったものじゃから咄嗟に忘れてることに気付かなかったのじゃろう。」
ティア「なるほどぉ…。わたくしも新しいものはよく忘れてしまいます。それと同じことですね。」
わたくしもいつも身に付けている物は忘れたらすぐに気付くのですが、普段付けない物や新しい物はついうっかり忘れてしまうことが多々あります。
ダザー「あのぅ…。それよりもアキラ様に頂いた装備のお陰というのはどういうことでしょうか?」
ダザーさんがおずおずと聞いてきます。それはわたくしもわかりません。
シルヴェストル「次が来るのじゃ。今度は目を瞑らずによく見ておけばわかることなのじゃ。」
シルヴェストル様がそう言われるのと同時に………。
ウケモチ「むきぃ!何で切り刻めんのじゃあああぁぁぁ!死ね!死ね!死ねぇぇぇぇ!!!」
ウケモチが滅茶苦茶に攻撃してきます。今度は目を逸らさずしっかり見ていたお陰でわかりました。
まずウケモチの攻撃は神力で出来た水を細く物凄い圧力で噴射しているのです。それに当たるとまるで鋭い刃物で切られたように切り裂かれてしまうのです。
そしてわたくし達にはその攻撃が当たりそうになると目の前に何か不思議な力で出来た膜のようなものが現れます。
それが全ての攻撃を弾いてくれるからわたくし達は無事なのです。きっとこれがシルヴェストル様の言われたアキラ様から頂いた装備の能力なのでしょう。
ティア「すごいすごい!すごいです!アキラ様がわたくし達を守ってくださっているのですね!」
わたくしは大興奮してしまいました。だってアキラ様がわたくし達を守ってくださっているのです!こんな素敵なことがあるでしょうか?
その時ザラマンデルンの城の辺りに巨大な火柱があがったのです。
ティア「あれは………。」
ウンディーネ「ポイニクス殿………。」
シルヴェストル「向こうも無事じゃったか。」
ポイニクス様の神力とエアリエル様の神力を感じます。どうやらお母様に聞いた話で離れてしまったお二人は無事だったようです。
ティア「それにしてもあれは一体………。」
ザラマンデルンの城を突き破って立ち昇った炎の柱が次第に何かの形へと変化していきます。それは…、そう!まるで炎で出来た鳥のような?
ウンディーネ「炎の不死鳥…。流石は婿殿とポイニクス殿ですね…。」
ティア「え?お母様は何か御存知なのですか?」
ウンディーネ「ティア………。精霊族なら知っていて当然の伝承でしょう?………後でお仕置きですね。」
ティア「うぇ!ままま待ってください。もちろん知っていますよ?」
お母様がいつもの怖い顔になっています。この顔をしている時のお母様のお仕置きは本当に大変なお仕置きです。絶対にお断りです。
シルヴェストル「まさかこの目で見られるとは思ってもみなかったのじゃ。」
シルヴェストル様も御存知のようです。どどどどどうしましょう!
シルヴェストル「ふむ………。不死鳥、あるいは火の鳥。それは火の精霊の究極の到達点と言われておるのじゃ。死を超越し自らの灰の中から何度でも蘇る不死の精霊なのじゃ。」
ティア「もももももちろん存じておりましたよ?ええ。それはもう。」
わたくしはとりあえず知っていた風を装います。これでお母様のお仕置きから逃げられるはずです。
シルヴェストル「一つ貸しじゃからの。」
シルヴェストル様が怖い笑顔でぼそっと言われました。わたくしはただ黙って頷くしかありません………。一体どんな要求をされるのでしょうか…。
お母様のお仕置きとシルヴェストル様の貸し…。一体どちらの方がよかったのかはわかりませんが今となってはもう変えることは出来ません………。
ポイニクス「ああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
ウンディーネ「おおっ!」
飛び立った炎で出来た鳥が下から追ってきているらしい者に炎を飛ばします。その熱は城から離れたこの場所に居ても熱いと感じるほどです。
シルヴェストル「ポイニクス。こちらへ合流するのじゃ。」
シルヴェストル様の言葉に気付いたポイニクス様がこちらへと飛んできます。その首の後ろにはエアリエル様もいます。あれだけの炎の傍にいて熱くないのかと思いますが、ポイニクス様の精霊力がエアリエル様を包み守っているので熱が伝わっていないようです。
そしてポイニクス様の後を追って月人種の女がこちらに降り立ちました。その力はウケモチを上回っています。まだこんな強者が居たなんて………。
今のわたくし達には敵の攻撃は通じないようですがこちらから敵を倒す方法もありません。一体どうすれば良いのでしょうか。
???「ウケモチ!何をしているのです!まだこの程度の者達も倒していなかったのですか!?」
ウケモチ「きひひっ!オオゲツか。お前だってまだ敵を殺してないではないか。」
オオゲツ「黙りなさい!このガキはいくら殺しても死なないのよ!」
会話の流れからこの女はオオゲツというようです。殺しても死なないガキというのはポイニクス様のことでしょう。
確かにわたくし達には攻撃は効かず、ポイニクス様も殺しても死なないようです。ですが今のポイニクス様の力を加えてもウケモチとオオゲツを倒すだけの力にはなりません。
ゴンザ「負けなくとも勝ち目はないな………。」
ああ。そういえば親衛隊のお二人もいましたね………。ごめんなさい。忘れてたなんて言えません…。
シルヴェストル「それよりも………。先ほどからわしらとアキラとの魂の繋がりが切れておるのじゃ。」
ティア「え?………あっ!本当です!どうしてでしょう?もしかしてわたくし達はアキラ様に嫌われてしまったのでしょうか?」
わたくしの気持ちは変わらずアキラ様を愛しているのに、魂の繋がりが切れているということは、アキラ様の方の気持ちが変わってしまったということではないでしょうか………。
シルヴェストル「落ち着くのじゃ。確かに魂の繋がりではなくなっておるがアキラの魂は感じるじゃろう?」
ティア「………あ。そうですね。」
確かにその通りです。変わらずアキラ様を感じているからわたくしは魂の繋がりが切れていることにすら気付かなかったのです。これはどういうことでしょうか?
シルヴェストル「今のわしらはアキラと魂の繋がりではなく魂が一体となっておるのじゃ。」
なるほど…。で、それって何が違うのでしょうか?と聞こうと思ったらダザーさんが先に声を上げました。
ダザー「………シルヴェストル様。ティア様。そのぉ~…、非常に言い難いのですが…、お尻に………。」
ティア「お尻?お尻がどうかしましたか?………って!あああぁぁぁ!何ですかこれは!?」
ダザーさんに言われてお尻を触ったら………。何かあります!何ですかこれは!
シルヴェストル「………尻尾じゃの。」
ウンディーネ「ティア。それは一体どうしたのです?」
何かお母様がちょっと怒ったように問い詰めてきます。ですがそうは言われてもわたくしにもわかりません。
何とかお母様の追及から逃れて落ち着いてお尻を確かめます。そこにあるのは紛れもなく尻尾です。ちょっと短くてふかふかの…。そう。これはアキラ様の尻尾です。
シルヴェストル「アキラの尻尾じゃの。どうしてわしらにアキラの尻尾が生えてきたのじゃ?」
ティア「さぁ?」
シルヴェストル様でもわからないことがわたくしにわかるはずなどありません。
ダザー「可愛い………。触っても良いですか?」
シルヴェストル「………確認する前にすでに触っておるのじゃ。」
ティア「………アキラ様にわたくし達もこのようにしていたのですね。」
わたくし達もアキラ様に確認を取る前からこうしてよく触っていました。今ならばアキラ様のお気持ちがよ~くわかります。
ポイニクス「ママっ!」
ティア「あの…。わたくしはポイニクス様のママではありませんよ?アキラ様でもありません。」
何か巨大な炎の鳥がわたくしとシルヴェストル様をまるで母のように慕ってきます。ですがわたくし達は並の精霊の大きさなのでポイニクス様の巻き起こす風だけで飛ばされてしまいそうです。もちろん本当には飛ばされたりしませんが………。
エアリエル「もう!ポイニクス様!浮気は駄目ですよ!」
ポイニクス様の首に掴まっているエアリエル様が、何やらわたくし達に甘えてくるポイニクス様に怒っています。
ポイニクス「だってママが…。」
エアリエル「だってではありません!火の精霊王様に甘えるのは仕方ないですが他の方とそういうことをなさってはなりませんよ!」
エアリエル様は怒っていますが怖いというか何やら可愛い感じです。これは…、そうですね。拗ねている?そんな感じがします。
シルヴェストル「どうやらポイニクスとエアリエルの間で何かあったようじゃの…。」
ティア「ですねぇ…。」
シルヴェストル様も気づかれたようです。
ウンディーネ「先ほどまではこのようなことはなかったのに…。この短い間に一体何があったのでしょうか…。ですがエアリエルが婿殿を諦めるのならばわらわが婿殿の側室に入れる可能性が少しばかりは増して…。」
ティア「え?お母様?」
今お母様は何と言われましたか?わたくしの聞き間違いでしょうか?
ウンディーネ「はっ!ごほんっ………。何のことですか?」
お母様は明らかに視線を逸らして挙動不審になりながら惚けています。どうやら本当にお母様はアキラ様のハーレム入りを狙っているようです………。
ポイニクス「ママ!僕が皆を守ってるからあいつらをやっつけて!」
ポイニクス様がわたくしとシルヴェストル様にそんな無茶を言ってきます。本当にポイニクス様はどうされてしまったのでしょうか?
シルヴェストル「うむ。そうじゃの。わしらはポイニクスのママではないがあれらを始末するのはわしらにしか出来ぬのじゃ。」
ティア「え?シルヴェストル様?どうされたのですか?わたくし達ではあれほどの敵を相手になど出来ませんよ?」
シルヴェストル様の言葉に耳を疑いました。あれほどの相手とどうやって戦うと…、あれほどの…、あれほど………。あれ?何か思ったより強い相手じゃない気がしてきましたよ?
シルヴェストル「落ち着いてよく敵を見て自分の力を感じてみるのじゃ。わしの言わんとしておることがわかるの?」
ティア「………。………ええええぇぇぇぇぇ!何ですかこれは!!!」
シルヴェストル様に言われて敵をよぉ~~~く観察してから、自分自身の力を感じてみます。これは………。
シルヴェストル「アキラの尻尾から途轍もない力が流れてくるのじゃ。これならばあの程度の敵など軽く屠れるのじゃ。」
ティア「そうですね……。これが普段のアキラ様の感覚なのでしょうか………。」
シルヴェストル「うむ……。」
どうやらシルヴェストル様も同じことを感じたようです。シルヴェストル様に言われてわたくしの中を流れる力を感じてみれば………。第一階位を超えそうなほどの精霊力がわたくしの中を駆け巡っているのです。
これがセフィロトと一体になるということなのでしょうか。いえ、わたくし自身がセフィロトになったということなのでしょう。
先ほどまでとはこの世界全てが違って見え、感じます。これが普段アキラ様が感じておられる世界なのですね。
シルヴェストル「ティアは精霊力じゃの。わしは空力なのじゃ。」
ティア「何故シルヴェストル様が空力を扱えるのでしょうね?」
シルヴェストル様が言われた通り、わたくしの中にアキラ様の精霊力が流れているのと同じように、シルヴェストル様の中にはアキラ様の空力が流れています。
精霊族であるはずのシルヴェストル様がどうして空力をこのように自在に扱うことが出来るのでしょうか?
シルヴェストル「わしは長い時を禁忌の地で過ごし普通の精霊族から変質しておったのじゃ。じゃからそれが影響しておるのかもしれぬ。」
ティア「それは………。」
何と言葉をかけたら良いのかわたくしにはわかりません。もしそれが原因だったのならばシルヴェストル様には辛い記憶のはずです。そんな辛い思いの結果なのだとすれば果たしてシルヴェストル様がどのように感じておられるのかわかりません。そこに変な言葉をかけることはためらわれてしまいます。
シルヴェストル「気遣いは無用なのじゃ。禁忌の地に入ったお陰でアキラと出会い、アキラとの思い出が出来たのじゃ。じゃからわしにとっては悪い記憶ではないのじゃ。それよりもあやつらを倒すのじゃ。ティアはどちらが良い?」
シルヴェストル様は可愛い笑顔でそう言われました。強がりではなく本当に心からアキラ様との思い出をうれしく思っているのでしょう。
ティア「そうですねぇ…。それではわたくしはウケモチの相手を致します。どうやらお母様がお世話になったようですので、そのお礼が必要でしょう?」
シルヴェストル「なるほどの。それならばわしはオオゲツの相手をするのじゃ。」
こうしてわたくしがウケモチの正面に立ち皆さんから少し離れます。シルヴェストル様はオオゲツと対峙しながらわたくしとは逆の方へと離れていきました。
ウケモチ「きひひっ!今度はお前が切り刻まれる番かぁ?小さすぎて切り刻み甲斐がなさそうだがバラバラになれぇ!」
ウケモチが先ほどと同じ水を超高圧で飛ばしてくる技を放ってきました。先ほどはアキラ様から頂いた鎧が守ってくれましたが、今は鎧に頼る必要はありません。全てわたくしの右手で受け止めます。
ウケモチ「なぁ!?馬鹿な!何故じゃぁ?何故刻めん!?」
ティア「お返ししますね。はい。」
わたくしは受け止めた水を水の精霊魔法で操りウケモチへと返します。
ウケモチ「かっ…。」
ウケモチは自分が何をされたのかも理解することなくバラバラになって息絶えました。わたくしはウケモチよりもさらに高圧にした水の刃でウケモチを切り刻んだのです。
ティア「あなたは切り刻むのがお好きなのでしょう?最後に自分も切り刻まれて本望でしょう。」
バラバラになり息絶えているウケモチにそれだけ言うとわたくしはもうウケモチへの興味を失いました。シルヴェストル様がどうなったのかそちらに興味が移って観戦します。
シルヴェストル「降伏するのなら命までは取らぬのじゃ。どうする?」
オオゲツ「黙りなさい!たかが精霊族風情が天津神たるこの私に偉そうに言うのではない!」
シルヴェストル「そうか。それでは殺してしまおう。」
そう言うとシルヴェストル様の姿が消えてしまいました。再び現れたことで移動したのだとわかりましたが、わたくしがこれほどの力を得てもまだ空間移動出来ないのにどうしてシルヴェストル様は移動出来たのでしょうか?
オオゲツ「え?」
空間移動してオオゲツの後ろに現れたシルヴェストル様にようやく気付いたようです。ですがもうすでに勝敗は決しています。今更気付いても結果は変わりません。
シルヴェストル「動かぬ方が良いのじゃ。動かなければ死なぬかもしれぬぞ?」
オオゲツ「何をふざけたことをっ…!………あれぇ?」
シルヴェストル様の忠告に従わずに動いたオオゲツはバラバラになって息絶えました。シルヴェストル様は後ろに現れた瞬間に風でオオゲツをバラバラに切り刻んでいたのです。
あまりに瞬間的に、鋭利に切り刻んだためにオオゲツの体はくっついたままだったのです。ですが動いて衝撃を与えたことで切断面が離れてバラバラになってしまったのです。
シルヴェストル「第一階位とはこれほどとはのぅ…。恐ろしい力なのじゃ。」
ティア「そうですね…。アキラ様はいつもこのような世界で生きておられたのですね……。」
わたくしとシルヴェストル様はアキラ様のお力を使ったことでその世界を垣間見ました。それは本来この世界に生きる者が踏み込んではいけない領域。正気ではいられない世界です…。
ウンディーネ「あれほどの敵をこうもあっさり倒してしまうとは…。ティア。立派になりましたね。これでわらわも安心して逝けます…。」
ティア「え?お母様?お母様!」
お母様の体がグラリと倒れます。そうでした…。お母様の左脇腹はウケモチによって切り取られなくなっているのです。
あまりにお元気だったために大丈夫なのだと勝手に思っていました。ですがそんなわけないのです。お母様は最後の時までわたくしに心配をかけないようにあのように振舞っておられたのです…。
ウンディーネ「そのような顔をしてはいけません。わらわはただあるべき所へと還るだけなのです。これが永遠の別れではありません。次も母娘とは限りませんが、いつかまた、どこかで会えます。それが精霊族なのですから。ね?」
ティア「うぅ…。お母様…。ですが!」
ウンディーネ「ほら…。ウンディーネと呼びなさいといつも言っているでしょう?くすっ。」
お母様は最後まで笑って逝こうとしておられるのです。それなのにわたくしが泣いていてはお母様が安心して逝けません。
ティア「はい。申し訳ありませんウンディーネ様。」
ウンディーネ「よろしい。それでは参りましょう。水の精霊神様…、火の精霊神様…、お二方もご一緒で心強いで………。」
ティア「お母様っ!!!」
お母様と水の精霊神様と火の精霊神様が光の球となって浮かび上がります。それは天へと昇って…、はいきませんでした。
ティア「え?」
その光の球はわたくしの中へと吸い込まれたのです。いえ、わたくしにではありません。わたくしの中に流れるアキラ様の精霊力へと。そう。セフィロトへと還ったのです。
お母様が言われた通りこれは最後の別れではありません。わたくしはまたお母様が生まれて来るまでお待ちしております………。
ゴンザ「綺麗に締めようとしているところ申し訳ありませんが、敵を倒したのは良いですが我らはこれからどうすれば良いのでしょうか?」
ティア「あ…。」
そうでした。まだ終わりではありません。悲しんでいる場合ではないのです。
シルヴェストル「そうじゃの…。カムスサにも戻れぬし敵を全て倒すには多すぎて手間がかかるのじゃ。何か考えなくてはの…。」
………シルヴェストル様達ですらどうすれば良いかわからないのにわたくしに妙案など浮かぶはずありません。
ザラマンデルンの手前の荒野でわたくし達はどうすれば良いか途方に暮れたのでした。
~~~~~エアリエル~~~~~
ウンディーネ「全員逃げなさい!早く!」
エアリエル「―ッ!」
ポイニクス「うぅ…。うわぁ~!!!」
水の精霊王様の言葉で我に返りました。ですが体が硬直して動けません。あぁ…。私も土の精霊王様のように………。
エアリエル「………え?」
ポイニクス「―ッ!」
ポイニクス様が私の手を掴んで引っ張ります。これって…。これってもしかして愛の逃避行でしょうか?
あぁ、どうしましょう!私は火の精霊王様とあれほど熱~いキッスを交わしたというのに…。そのご子息であられるポイニクス様とこのような駆け落ちのような真似をしてしまうなんて…。
私は一体どうすれば良いのでしょうか!?私を巡って火の精霊王様とポイニクス様が争うだなんて…。なんと罪作りな私なのでしょう。
???「おっと。逃がしませんよ。」
扉を出ても安全ではありませんでした。ウケモチと同種の力を感じる女性が立ち塞がっています。
ポイニクス「エアリエルは僕の後ろに!………僕が相手だ!」
あぁ…。ポイニクス様…。何と逞しいのでしょうか。いけませんわ。私としたことがポイニクス様に心を奪われてしまいそうです。
もちろん火の精霊王様への愛も変わっておりません。ですがたくさんの奥様がおられる火の精霊王様の家庭を乱すよりもまだ独り身のポイニクス様と結ばれた方が全て丸く収まるのではないでしょうか?そんなことを考えてしまう私は罪深いでしょうか?
オオゲツ「私の名前はオオゲツ。せめて自分を殺す者の名前くらい聞いてから死になさい。」
ポイニクス「―ッ!」
エアリエル「あぁ!ポイニクス様!」
どうしましょう!ポイニクス様が切られてしまいました。
ポイニクス「ううぅぅぅ…。あああぁぁぁぁ!!!!」
オオゲツ「何?」
ですが切られてしまったはずのポイニクス様が炎を纏って、いえ、違いますね。炎となって燃え盛ります。炎をいくら切ろうとも意味はありません。今のポイニクス様にはそのような攻撃は通じないのでしょう。
ポイニクス「エアリエル!こっち!」
エアリエル「あっ!」
またしても手を握られてしまいました。ポイニクス様…。なんて積極的なのでしょう。愛されるというのはこれほど満たされるものなのですね!
ポイニクス様は燃え盛っているはずなのにその熱さをまったく感じません。これが愛の力の為せる技なのでしょう!
オオゲツ「待ちなさい!」
オオゲツが追ってきます。
ポイニクス「うっ!」
またしてもポイニクス様が殺されてしまいました。ですが完全に殺されたと思ってもすぐにポイニクス様は復活なさいます。
とは言え力も速さもオオゲツの方が私達を圧倒的に上回っています。このままでは逃げることもままなりません。
ポイニクス「ああああぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
エアリエル「ポイニクス様!」
ポイニクス様が巨大な炎の柱になってしまいました。そしてそこから生まれるのは伝説の不死鳥。そうだったのですね…。
流石は火の精霊王様とポイニクス様です。まさか伝説の不死鳥をこの目で見られる日が来るとは思ってもみませんでした。
ポイニクス「あそこにママがいる!ママの所へ行こう!」
エアリエル「え?ええ…。火の精霊王様が?」
私が困惑している間にもポイニクス様は私を背中に乗せて突き破った城の天井から空へと舞い上がりました。
あぁ…。ポイニクス様。素敵です。私の心は奪われてしまいました。ごめんなさい火の精霊王様。ですが火の精霊王様への愛が変わったわけではないのですよ?
どうか私とポイニクス様の結婚をお許しください。




