第百三十三話「最初の犠牲者(はタヂカラオ)」
アキラさんっ!!!
フラン「………。」
………。
フラン「………。」
………あれ?いつまで経ってもタヂカラオという人の攻撃が来ません………。不審に思った私はソロソロと目を開けます。すると………。
タヂカラオ「馬鹿なっ!!!ありえねぇ!こんなことありえねぇ!!!」
タヂカラオが頭を抱えていました。ソロソロと視線を動かすと私の周りには何か神力で出来た岩を砕いたようなものが転がっています。
タヂカラオ「ありえねぇ!テンガンド!テンガンド!テンガンド~~~!!!」
タヂカラオが両手を交互に突き出しながら何かを撃ち出してきます。少し落ち着いた私は今度は目を開けてはっきりと見ました。
タヂカラオの技は神力を岩のように固めて掌から撃ち出す技のようです。それが私に当たりそうになると何かに弾かれるように割れて飛び散るのです。球の面を滑るように砕けるので私の後ろにいる人達にも砕けた破片は当たりません。
後ろに居た六将軍達もリカさんも黒の魔神さんも呆然としています。私だってきっと皆さんと同じような顔をしているでしょう。
一体何が起こっているのかさっぱり………、あっ!もしかして?
タヂカラオ「どうなってんだよ!ありえねぇだろ!こんな雑魚ども相手に俺様のテンガンドが何故効かねぇんだ!?」
タヂカラオは混乱の極みにいるようです。私もそうなりそうでしたが、タヂカラオが慌てているのを見て逆に落ち着いてきました。先に誰かがパニックになると逆に落ち着くと言っていたアキラさんの言葉通りです。
フラン「無駄ですよ。あなたの攻撃は効きません。」
タヂカラオ「あ゛?何調子に乗ってんだよ!テンガンド!!!」
私が話しかけるとタヂカラオは血走った目でこちらを睨みさらに技を撃ってきます。ですが私の言葉通りこの技は効きません。全て私に触れる前に砕けて飛び散ります。
タヂカラオの技から私達を守ってくれているもの…。それはアキラさんがくれた新しい装備です。私はほとんど鎧のようなものを着けていませんがそんなことはこの装備には関係ないのです。
この不思議な金属で出来た装備は普通の鎧のように直接覆っている部分だけを守るものとは違います。どういう仕組みでかはわかりませんが、装備している本人が攻撃されそうになると自動的にバリアのようなものを張ってくれるのです。
ですから私達にはタヂカラオの攻撃は一切効きません。私達が負けることはないのです。ですが一つだけ問題があります………。
タヂカラオ「ちぃ!それなら直接殴ってやる!くらえ!」
タヂカラオは巨体に似合わず私達では目で追えない速さで私の前にやってくると手を開いたまま突き出してきました。
しかし例え直接攻撃であろうともアキラさんに頂いた装備が私を守ってくれます。
………ですが、問題が……。そうです…。私達が殺されることはありませんが勝つ方法もまたないのです。
何しろこのタヂカラオと私達の力量差は圧倒的です。いくら攻撃を食らう心配はないと言っても相手を倒す方法がなければ勝つことも出来ません。
それにこのバリアのようなものも永久に私達を守ってくれるとは限りません。何らかの力で発動しているのだとすれば、その力が切れた時にはもう私達を守ってくれはしないということです。
いつまでもつかわからないバリアが切れるまでにタヂカラオを倒す方法か、少なくともこの場から脱出出来る方法を考えなければなりません。
それに私達はこれで安全だとわかりましたが、まだ安全ではない人達もいるのです。
タヂカラオ「あ゛あ゛あ゛!!!いらいらするぜ!お前はどうだ!」
リカ「―ッ!」
とうとう私以外の相手に攻撃を始めてしまいました。もちろんリカさんもアキラさんから装備を頂いているので平気です。
平気とはわかっていてもタヂカラオほど圧倒的な力を持つ相手に攻撃されてリカさんも表情が固まっています。
タヂカラオ「ちぃっ!!!お前はどうだ!」
黒の魔神「へっ。効かねぇよ!」
黒の魔神さんは平然としています。もちろんアキラさんのお陰で大丈夫だとわかっているからだとは思いますが、あの神経の図太さは羨ましい限りです。
タヂカラオ「………。ふへっ。うへへへっ!けどお前らは効くはずだよな!」
マンモン「………っ!」
あぁ…。とうとうバレてしまいました。私達三人はアキラさんからヒヒイロカネで出来た新しい装備を貰いました。そのお陰で私達にはタヂカラオの攻撃は通じませんがマンモン達は違います。
アキラさんの装備を持っていないこの三人には普通にタヂカラオの攻撃が通じるのです。ここで三人に死なれては何のためにここまで来たのか分かりません。ですが私には三人を救う手立てはないのです。
フラン「………。」
三人がタヂカラオによってミンチにされているであろうことを想像して私は目を瞑ります。………ですが三人が殺される音が聞こえてきません。ソロッと目を開けるとそこには………。
タヂカラオ「なんっっっで効かねぇんだよ!何で死なねぇんだよ!くそっ!くそっ!」
タヂカラオが力任せにマンモン達を殴ろうとしますが当たる前に何かに阻まれて触れることすら出来ません。
ですがアキラさんから装備を貰っていない三人が何故守られているのでしょうか?
………あ。わかりました。黒の魔神さんがアキラさんから頂いた装備を展開して三人を守っていたのです。私達にはバリアが張られ、マンモン達三人は黒の魔神さんの装備が膜のように包み守る。
これでマンモン達も死ぬことはなくなりました。後は何とかして現状を打破しなければ………。
タヂカラオ「あ゛あ゛!いらいらするぜ!おい!出て来い!」
我慢の限界が来たらしいタヂカラオは額に血管を浮き上がらせたまま後ろに向かって叫びます。誰か仲間が潜んでいたようです。
レヴィアタン「うひっ。うひひひっ!!!」
あれは…、レヴィアタン?何か様子がおかしいです。それにその手に持っているのは………。
マンモン「………っ!ゼブル翁!」
バアルペオル「何でレヴィアタンがゼブルのじいさんを……。」
アスモデウス「………。」
三人の六将軍はあまりの光景に驚いているようです。アスモデウスに至っては目を背けてしまいました。私も目を背けたい気分です…。なぜならば………。
レヴィアタンの手には、無理やり引きちぎったせいか少し潰れて目玉が飛び出しているバアルゼブルの頭が握られているからです………。
マンモン「………どういうつもりだレヴィアタン。」
レヴィアタン「うひひっ!いいいいいつもいつも、わわわわわしを、ばばばばかにしおってててててっ!」
レヴィアタンが口から泡を吹きながら魔力を高めます。その力は以前に見たバアルゼブルを上回っていました。レヴィアタンはもっと弱かったはずなのにどうして急にこれほど強くなったのでしょうか。
タヂカラオ「こいつがこそこそ逃げ出そうとしてたからな!捕まえて望みを叶えてやっただけだ!げははははっ!!!」
バアルペオル「レヴィアタンの望み?」
タヂカラオ「おう!こいつはどうやら不遜な態度を取ってるような振りをしながらも、本心では自分の矮小さを思い知っていたようだ。だから本当に自分が一番になりたいと願っていたのよ!だから俺様がその願いを叶えてやっただけだ。ぐはははっ!」
どうやらタヂカラオがレヴィアタンに力を与えたようです。それが原因かどうかはわかりませんが、もしかしたらその力に耐えられずにレヴィアタンは狂ってしまったのかもしれません。
マンモン「………レヴィアタン。陛下はどうした?」
レヴィアタン「うひひひひぃぃぃぃぃっっっ!!!」
どうやらもうレヴィアタンとはまともに会話も出来ないようです。その力はマンモンには劣りますがそれはあくまでマンモンが万全だったならばの話です。今の負傷しているマンモンではこのレヴィアタンには勝てないでしょう。
ならばどうすれば良いのでしょうか。六将軍の三人を守れるのは黒の魔神さんだけです。そして黒の魔神さんならばこのレヴィアタンとも戦えます。
黒の魔神さんに向こうを任せて私とリカさんでタヂカラオを何とかするしかないでしょうか。ですがタヂカラオに勝つ方法がありません…。一体どうすれば………。
バアルペオル「マンモン。陛下のことも気がかりだが今はここを脱するのが先決だ。」
マンモン「………わかっている。」
とにかくここは六将軍を守りながら脱出に専念するしか………。
リカ「あの~…。フランツィスカ様?」
私がそう考えているとリカさんが話しかけてきました。
フラン「どうしました?」
リカ「それはなんですか?」
フラン「それ…?」
リカさんが指差す先を追います。それは私のお尻の辺り?
フラン「って!えええぇぇ!!??」
何かお尻の辺りのマントが膨らんでいます。それも何かちょっとピコピコ動いています。ていうか何か感覚があります。これは私と繋がっている………。
ソロリソロリとマントを捲ります。そこにあったのは………。
フラン「あぁ…。そんな気はしました………。」
リカ「可愛い……。」
私のお尻の辺りにあったのは尻尾です………。少し短くてふわっとしている尻尾。よく見て触った覚えのある尻尾です。
私の着ていた服には穴はなかったはずですが、今着ている服はキツネさんのお手製で体の状態に合わせて最適に変化すると聞いていたので、尻尾が生えてきた時に自動的に尻尾を出す穴が出来たのでしょう。
このちょっと短くてフワフワの触り心地の良い尻尾はアキラさんの尻尾です。何故それが私のお尻にあるのかはわかりませんが、私がアキラさんの尻尾を間違えるはずはありません。
リカ「何かアキラ様の尻尾によく似てますね…。」
さすがはリカさんですね。リカさんもこの尻尾がアキラさんの尻尾だとわかったようです。ですが私のお尻に急にアキラさんの尻尾が生えてきたとは思えなかったのでしょう。似ているという言葉に留めています。
それから……、私とアキラさんのスピリットリンクが切れています…。ですがそれは悲しむべきことではありません。
何故ならば今の私とアキラさんはスピリットリンクのように『魂の繋がり』ではないのです。今二人の魂は一つになっています。そう。スピリットリンクのさらに先。繋がりではなく一体となっているのです。
フラン「心配はいりませんよリカさん。この場は私が何とかします。」
リカ「え?あの敵をどうにかされると言うんですか?」
フラン「はい。黒の魔神さん。タヂカラオとは因縁があるそうですが、私が倒してしまっても構いませんか?」
別に確認を取る必要はないのですが一応聞いておきます。
黒の魔神「ちっ…。俺じゃ勝てねぇからな。譲ってやらぁ。俺はこいつで我慢しとくぜ!」
黒の魔神さんは正気を失っているレヴィアタンと向かい合いました。六将軍達を守ってくださるようです。これで何の心配もありません。私はタヂカラオに集中することが出来ます。
リカ「フランツィスカたん無理しないで!」
リカさんが後ろから私の手を握って止めてきました。どうやら心配させてしま……ったわけでもないのかもしれませんね。
リカさんは私の手で頬擦りしたりしています。ただ私の手を握りたかっただけかもしれません………。
リカ「はぁ…。フランツィスカたんのお手手…。小っちゃくて可愛い…。はぁはぁ…。」
ハァハァしながら私の手を舐めようとし始めたので流石に止めます。
フラン「大丈夫です。無理ではありません。それからあまり度が過ぎるとアキラさんに叱ってもらいますよ?」
リカ「ヒィ!ごめんなさい!もうしません!お許しください!!!」
またしてもアキラさんの名前を出したら途端にDOGEZAをしました………。アキラさん…。本当にリカさんに何をしたんですか?
フラン「ふぅ…。今回は目を瞑りますが気をつけてくださいね?」
リカ「はい!ありがとうございます!」
アキラさんに言われないとわかると途端に笑顔になりました。…アキラさんはどうしてここまで恐れられているのでしょうか?
フラン「まぁいいでしょう…。それよりも…。これが絶対強者の視点なのですか。まるで世界が違って見えます。」
リカ「え?それはどういう?」
リカさんが私の呟きを聞いて不思議そうな顔をしています。今の私の爽快な気分はきっと誰にもわからないでしょう。
フラン「アキラさんの尻尾から莫大な魔力が流れてきます。今の私ならばタヂカラオなど敵ではありません。」
アキラさんの第一階位に達するほどの…、いえ、第一階位を超えるほどの力が流れ込んでくるのです。今の私に敵う者などアキラさんくらいのものでしょう。
タヂカラオ?いえいえ。それどころかツクヨミとアマテラスを同時に相手にしても圧勝できるだけの自信と根拠があります。
これが普段のアキラさんから見た世界なのでしょう。これを知ることが出来てよかった………。アキラさんはこれほど孤独な世界にずっと居たのですね………。
確かに最初はこの強大な力で爽快感や高揚感を得ることが出来ます。ですがそれと同時に空しさや寂しさも感じるのです。
何故ならば自分に並び立つことが出来る存在がいないから………。この絶対的な強さは同時に対等の者が存在しないということでもあるのです。
フラン「アキラさん…。帰ったらいっぱい甘えさせてあげますからね。」
孤高のアキラさんの寂しさを少し理解出来た私は帰ったらきっとアキラさんを甘えさせてあげようと決意しました。そのためにはまずはちゃんと帰らなくてはなりません。
フラン「さぁ。タヂカラオ。それでは私が相手をしてあげましょう。」
私は体内を巡る莫大な魔力をコントロールしながらタヂカラオの前に立ちます。
タヂカラオ「あ゛あ゛?攻撃が効かねぇからって図に乗ってんじゃねぇぞ!この雑魚がっ!」
タヂカラオが腕を振るいます。ですが私は慌てず片手を上げました。
タヂカラオ「なぁっ!馬鹿な!こんなチビが俺様の張り手を片手で止めただと!」
フラン「何もわかっていませんね。」
タヂカラオ「あん?何のことだ?」
私の言葉を聞いてもタヂカラオは何のことかわからないようです。
フラン「分からないのならば教えて差し上げましょう。体の大きさや腕力など関係ないのですよ。あなたの張り手とやらが通じないのは私とあなたの神力量の差によるものです。アキラさんが言っていました。この世界の現象で最も影響があり最優先されるのは神力であると。ですからその程度の神力しか持たないあなたの攻撃では私を動かすことすら出来はしないのです。」
タヂカラオ「なっ、なっ、何だとぉぉ!この雑魚が!お前の方が神力も腕力も小さいだろうが!死ね!テンガンド!テンガンド!テンガンド!!!」
私の言葉に逆上したタヂカラオは先ほどの技を連発してきます。ですが今度はアキラさんの鎧のバリアは出ません。何故ならば今の私はこの程度でダメージを受けることはないから。
このバリアは優秀です。どうやって判別しているのかはさっぱりわかりませんが、私がダメージを受けないような攻撃の時は、私が望まない限りバリアを無駄に張ることはありません。
そして今はタヂカラオのテンガンドでは私に傷一つ付けることは出来ず、鎧にもバリアを張るように望んでいないので無駄に張られることもなく、テンガンドは私の体に直撃します。
タヂカラオ「はっはぁ~!今度こそ当たったぞ!どうだ!当たればお前なんぞ………、え?」
フラン「満足しましたか?次は私の番で良いですね?」
タヂカラオ「え?え?え?」
私が無事であったことも、私が言っていることも理解出来ないという顔でうろたえています。ですがタヂカラオの同意など必要ありませんので待つ理由はありません。
フラン「アキラさんのお陰で私も真理の一端を垣間見ることが出来ました。せめて最後の手向けにその真理の一端をお見せしましょう。」
タヂカラオ「………ひぇ!ばばばばばかな!何だこの魔力は!ままま待ってくれ!助けてくれ!」
タヂカラオが何か言っているようですがすでに詠唱に入っている私にはよく聞こえません。
フラン「混沌より出し紅き魔力。傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲。七つの守護者よ。長き眠りにつきし偉大なるものよ。今こそ目覚めて力を示せ!七極紅滅波!」
七条の魔力がタヂカラオへと殺到します。タヂカラオにはこの魔法を回避する方法も防御する方法もありません。
タヂカラオ「え?ちょっ、待っ…。」
その言葉を最後にタヂカラオは完全に消滅しました。七極紅滅波を食らった者は混沌へと還ることになります。ですからタヂカラオの遺体だとか、魂だとか、生まれ変わるだとかそんなものは全てありません。
完全かつ永遠に存在そのものが失われたのです。この宇宙から存在そのものを消し去る究極の魔法。アキラさんの魔力が流れ込んでくることで知りえた真理の一端です。
これは対象となった者とその極周辺のみにしか影響を与えないので、周囲を巻き込んだり破壊したりする心配がないのが良い点です。
リカ「………フランツィスカ様すごすぎ。」
リカさんがキラキラと恋する乙女のような目で私を見ています………。あまりに私の貞操が危なそうなら本当にアキラさんに相談する必要があるかもしれません………。
フラン「とにかく…。こちらは片付いたので向こうを見てみましょう。」
タヂカラオとの戦いに夢中になりすぎて黒の魔神さん達の方を完全に忘れていました。黒の魔神さんの方へと視線を向けてみます。
黒の魔神「おお。すげぇ威力の魔法だな。俺にも使えるか?」
フラン「………あれ?もう終わったんですか?」
黒の魔神「おう。当たり前だろ?俺は黒の魔神様だぞ?マンモンより弱い程度の奴に苦戦すらするはずねぇだろ。」
どうやらそういうことらしいです。でも黒の魔神さんはレヴィアタンを元に戻そうとか、何とか救う方法はないかとか、考える気すらなかったんですね………。
フラン「レヴィアタンを救おうとかいう気はなかったんですか?」
黒の魔神「あ?ああなったらもうお終いだ。戻す方法なんてねぇ。あれはツクヨミの闇の力につけ込まれた結果だ。本人の意思でああなったんだからもう殺すしかない。」
なるほど…。確かに救う術がないのなら躊躇して味方を危険に晒すことはないですね。早く開放してあげるのも救いでしょう。
フラン「わかりました。…それで、これからどうしましょうか?」
私は残った六将軍達を見ながら問いかけます。
バアルペオル「いやいやいや!そんなあっさり流すなよ!こっちは驚きの連続だよ!君美しいお嬢さん並の強さなの?っていうか前にパンデモニウムでルキフェルと戦った時とは桁違いの強さだよね?近寄って大丈夫?」
バアルペオルがちょっと恐れた目で私を見ています。そうですね。普通はこういう反応が正しいのでしょう。リカさんや黒の魔神さんの反応がおかしいのです。そのせいで私まで少し常識から外れてしまっているかもしれません。
アスモデウス「あぁ。フランツィスカ殿も素敵ですわぁ…。私もアキラ殿のハーレムに入ればフランツィスカ殿とも楽しめるのですよね?うふふっ。」
ブルブル…。ここにももう一人危険な人がいました…。アスモデウスが熱い瞳で私を見つめています。アキラさん。私は帰るまで貞操を守れるでしょうか………。
マンモン「………まずは陛下を探そう。レヴィアタンは陛下を殺していないかもしれない。恐らくゼブル翁がその身を賭して陛下を守り逃がしたのだろう。」
フラン「なるほど…。一理ありますね。それにいくら今の私が強くなったとは言っても敵が多すぎます。全てを守りながら敵を殲滅することは出来ません。大ヴァーラント魔帝国の残存兵力と協力する必要があります。」
アキラさんと同じ高みに至ってわかりました。確かに圧倒的な力ですが、これでは強すぎて守るには不向きなのです。
単体の敵ならばどんな相手でも勝てます。ですが大勢の敵を相手にするのが難しい。何故ならば威力が大きすぎて殲滅魔法を使えば北大陸ごと消滅させてしまうからです。いえ、少し強く撃てばこの世界そのものを消滅させてしまうのです。
敵を倒すために味方も、世界も丸ごと消滅させていては意味がありません。だから大勢の敵が散らばっているのを倒すのは手間がかかるのです。
それにいくら私が桁違いに強くなったと言ってもこの身は一つしかないのです。各地に散っている敵が住民達を襲っても全てを救うことは出来ません。対応できるのは一つずつなのですから…。
今更ながらにアキラさんが力を持て余していたことがよくわかりました。まだキツネさんとガウさんとミコと私だけだった時にパンデモニウムでアキラさんが悩んでいた威力の高すぎる話がようやくわかっただなんて………。
と、今は昔のことを反省している場合ではありませんね。とにかく住民達を守って敵を殲滅するにはこちらにも協力者が必要です。
そのためにはまず残っている大ヴァーラント魔帝国の将兵達と皇帝を見つけなければなりません。
フラン「それではここを出て大ヴァーラント魔帝国の残存兵力を探すということで良いのですね?」
マンモン「………ああ。それでいい。」
マンモンが平然と立ち上がります。どうやら黒の魔神に回復してもらったようです。これならば六将軍達も足手まといになることはないでしょう。
フラン「どこか目星はあるんですか?」
マンモン「………いや。ここまで圧倒的に負けていれば事前に決めていた退却先に篭るということも出来ないだろう。自力で探すしかない。」
隠れ家のあった林から移動しつつそんな話をします。他の六将軍達もどこに味方がいるか想像も付かないそうです。どうやら地道に探すしかないようですね…。
黒の魔神「派手に敵をぶっ飛ばして戦闘してたら誰か見に来るんじゃねぇの?」
黒の魔神さんの意見に全員が固まります。
リカ「あのねぇ…。そんなことしたら敵がワラワラ寄って来てそれどころじゃないだろ?」
ですよねぇ…。リカさんの意見と同じです。
黒の魔神「フランがいりゃ俺達は負けることはねぇだろ?敵が寄ってきたってぶっ飛ばせばいいじゃねぇか。そうして敵が減りゃ味方も様子を見に近寄ってくるかもしれねぇだろ?」
なるほど…。敵をなぎ倒している味方がいればそこに自然と皆集まってくる可能性は確かにあります。ですがそれはリスクも高いし確実とは言えません。何より私達に近寄ろうとする味方が敵に見つかって余計な被害が出てしまうかもしれません。
その辺りのことを黒の魔神さんに説明します。
黒の魔神「だったらどうするってんだよ!」
フラン「それは………。って、あっ!」
リカ「……あまり良い予感がしませんけど。どうしたんですかフランツィスカ様?」
私は林から平原に出たところであることに気付きました。
フラン「あの…。そもそもタヂカラオを転移の石ごと消滅させてしまったので、私達はここから出る術もないのではないでしょうか?」
一同「「「「「あっ………。」」」」」
そうです。転移の石はタヂカラオがここから奪って持っていたはずです。ですがタヂカラオはもう混沌へと還ってしまいました。当然石も一緒に………。
これからのことも何も、まず私達がここから脱出する術すらなくなったのです。
どうしましょうアキラさぁ~~~ん!!!




