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転生無双  作者: 平朝臣
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第百三十二話「目覚めた後で」


 俺の意識が覚醒する。ようやくファルクリアへと戻ってこれた。随分長い間眠っていた気がするが一体どれほど経ったのだろうか。


イチキシマ「え?アキラ様?」


タキリ「―ッ!アキラ異母姉様!!!」


タギツ「アキラ~~~!!!」


 どうやら俺は社に寝かされていたようだな。見覚えのある景色を見て俺がどこにいるのかわかった。上半身を起こした俺に気付いたイチキシマが声を上げるとタキリとタギツが振り返って俺に抱き付いてきた。


イチキシマ「二人ともずるいですよ!」


タキリ「私が長女なのですから私が一番最初です。」


タギツ「ぶっぶ~。早い者勝ちで~す!」


 右前と左前をタキリとタギツに奪われたイチキシマは俺の後ろに回って後ろから抱き付いてきた。まだ未発達の少女らしい少し硬い胸が………。って違う。こいつらは異母妹だ。こいつらに欲情してどうする。


アキラ「あまり過激なスキンシップはするなよ。お前らは異母妹なんだ。お前らに手出ししたとあってはサカルムカイツに会わせる顔がない。」


タキリ「………え?どうして母の名前を…?」


 やはりというか、当然ではあるが母親はサカルムカイツだったらしいな。スサノオは九尾の女神とサカルムカイツの間にしか子供をもうけていなかったので当然なのだが…。


 そしてこのカムスサの中にサカルムカイツの気配は感じられない。どういう理由でかは知らないが恐らく亡くなったのだろう。


アキラ「それは今はいいだろう?とにかく俺は今の状況を知りたい。」


イチキシマ「実は…、それなのですが………。アキラ様の奥様も親衛隊の方も皆様いなくなられてしまいました。」


アキラ「ああ。各大陸に助っ人に行ったんだろ?それはわかってる。俺が知りたいのは………。」


タギツ「悲しまないでアキラ!タギツお姉ちゃんがアキラのお嫁さんになってあげるから!ね?だから皆死んじゃったけど泣かないで!」


タキリ「あぁ…、アキラ異母姉様…。」


 三人がさらにぎゅっと俺に抱き付いてくる。ちょっと甘い少女の匂いが…。ってだからやめろ。異母妹にまで手を出すのはだめだ。


アキラ「誰も死んでないってば。勝手に俺の嫁達を死んだことにしないでくれよ。」


三人「「「………え?」」」


 三人は驚いた顔で固まっていた。っていうかそもそも何で嫁達が死んだことになってるんだ?


アキラ「とにかく一度出よう。外で待ってる者達もいるだろ。」


 何か変な誤解が広がってるような気がするけどここで説明しても、また外にいる者達に説明することになりそうだ。だからとにかく一度ここにいる者全員で集まった方がいいだろう。


 というわけで社を出て長い階段を下りる。下には五龍神とムルキベルが待っていた。


ブリレ「主様ぁぁ~~!!!」


ハゼリ「あぁ主様。」


 ブリレとハゼリが抱き付いてくる。この二人は三女神と違って俺の愛妾なのだから遠慮なく抱きとめる。皆ちょっと目に涙を浮かべてるな。


 どうやら俺が意識を失っていたことで心配をかけたようだ。そして一人様子のおかしい者がいる。


アキラ「おい最古の竜。大丈夫か?」


龍魂『………。』


 返事がない。ただのしかば…。って危ない危ない。俺まで危険な言葉を言うところだった。あまりスレスレのことを言うと大人の事情で大変なことになってしまう。


アキラ「おい最古の竜。もう死んだか?」


最古の竜『……おお。アキラか。どうした?』


 よかった。まだ生きてたようだ。間に合ってよかった。


アキラ「まだ生きてたか。間に合ってよかったな。お前そのままだともうすぐ死ぬと思うけどどうする?」


最古の竜『どうするとはどういう意味だ?』


 まぁそうなりますよね~。俺も聞き方が悪かった。


アキラ「お前そのまま死んでもいいのか?何の未練もないのか?」


最古の竜『良いわけないだろう!まだわしは世界の真理を究明してはいない!しかしこれが定めだ。』


アキラ「ふむ…。つまり納得はしてないけど仕方ないと諦めるってわけだな?」


最古の竜『他にどうしろと言うのだ!』


 そうだな。普通に考えれば寿命で死ぬのはどうしようもない。納得していようがいまいが受け入れるしかない運命だ。


アキラ「肉体の死は免れない。それはお前が言った通り運命だと言えるだろう。だがこの龍魂に込められた魂を保護する方法ならある。どうする?お前が自然のままに死を望むのなら俺はそれを見届ける。しかしお前がまだ生きたいというのなら俺はその手伝いをしよう。」


 俺も自然の摂理を曲げて死ぬはずの者を死なせないのはあまり良いこととは思わない。だがこの龍魂に分けられている最古の竜の魂は『死ぬ運命』とは言えないのではないかというのが俺の考えだ。


 都合の良い解釈と言われればそうだが、この龍魂に込められている最古の竜の魂は肉体に残っている魂とは別のものだと俺は思う。


 意識も記憶も共有してはいるが龍魂に込められた魂は龍魂に魂を分けた瞬間に生まれた新しい命だと俺は思う。それが生まれて間もなくすぐに本体が死ぬことで自分まで死ぬことになるなんて何か可哀想な気がするのだ。


 だから龍魂の魂がまだ生きたいというのなら俺は干渉しようと思っている。


最古の竜『自然の摂理を曲げようというのか?』


アキラ「いや。ドロテーが死にそうだから生き長らえさせてくれと言われても俺は手助けしないだろう。だが龍魂に込められているお前は最古の竜から分かれた新しい別の命だと俺は思ってる。それが生まれてからたったこれだけの期間で死んでしまうのはおかしいと思う。だから本体の最古の竜を生き長らえさせることはしないが龍魂のお前だけなら生かそうと思う。どうする?」


最古の竜『………。詭弁だな。結局は自然の摂理を曲げて俺を生き長らえさせるだけのことだろう?』


アキラ「そう言われたらそうなる。お前がいらないならいいよ。余計なことを言って悪かったな。」


 どうやら最古の竜は乗り気じゃないらしい。もう死ぬ覚悟を決めているのに俺が余計なことを言って覚悟が鈍ってしまったのなら悪いことをした。


最古の竜『おいおい。勘違いするなよ。自然の摂理を曲げようが何だろうが俺は生きたい。だから頼む。』


アキラ「………そうか。わかった。」


 どうやら最古の竜はまだ生きたかったらしい。それなら最初からそう言えばよかったのに…。それに何か話し方も変わってるな。やはり意識や記憶が混濁しているのだろう。


アキラ「それじゃいくぞ?」


最古の竜『おう!』


アキラ「魂封陣。」


 俺は手に持った龍魂に今作ったばかりの術をかける。最古の竜の本体が死ぬとこの龍魂に込められた方の魂まで抜けてしまう。それが本体が死ぬと龍魂の方も死ぬ原因だ。


 最古の竜は魂を分けて龍魂の方と本体の方を同時に見て知ることが出来るものとして使っている。だがこの龍魂とは本来別の目的で作られていたのだと今の俺にはわかる。


 龍魂とは本来多くの竜の魂を込めて保存しておくためのものだったのだ。何故ドラゴン族がそのようなものを作っていたのかは知らない。


 もしかしたら魂を置いておけばいずれ復活出来ると考えていたのかもしれない。地球で言うところの復活のためにミイラを残していたような発想だと考えることもできる。


 本当のところは知らないがとにかく死者の魂を置いておくのが龍魂というアイテムの使い方だ。しかし最古の竜は生きたまま魂を分けて封入することで両方を同時に見聞き出来るアイテムとして使っている。


 だから本来の龍魂と同じ働きをさせれば良いのだ。最古の竜の本体が死んだ時に龍魂の魂が抜けてしまわないように、魂が通り抜けられない結界で龍魂を包んでしまう。


 もっとちゃんと魂が抜けないように処置した方が良いのは確かだが今は他に方法もなく、処置のしようがない。だからとりあえず応急処置として結界で包んだのだ。


 これで本体が死んでも龍魂から魂が抜けることはなく、龍魂の方の魂は死なないだろう。


最古の竜『おいアキラ………。お前やりすぎだ………。』


アキラ「あ?何のことだ?」


 俺はただ龍魂を結界で包んだだけだ。それ以外は何もしていない。


最古の竜『何をしたのか知らないが、どうやらこっちの魂は完全に独立した新しい命になっちまったぞ。』


アキラ「どういうことだ?最古の竜の肉体との繋がりがなくなったのか?」


最古の竜『いや、それはさっきまでと変わってない。だけど…、そうだな。わかりやすく言えば二人の別々の存在がお互いの見ているものや考えていることがわかる状態。そんな感じだ。』


 ふむ…。俺と虚無の意思の関係みたいなもんか?まぁ俺達は見ているものまでは共有していないがな。


虚無『視界も共有しようと思えば出来るぞ。』


アキラ(うおっ!びっくりした。急に話しかけてくるなよ。っていうかお前話せるのな。)


虚無『当たり前だ。我は今お前の中にいるのだからな。』


 どうやら虚無は自由に俺に話しかけることが出来るらしい。今までそんなことなかったから急に話しかけられてびっくりした。


アキラ(そうか。それじゃお前とは話したいことが山ほどある。だから後で話そう。だけど今は最古の竜の方を片付ける。)


 とにかく一人で驚いたりしてたら変な人と思われてしまう。虚無とはいつでも話せるようだしこいつは一先ず後回しだ。まずは最古の竜のほうから片付けよう。


アキラ「それじゃお前らは二人になったってことか?」


最古の竜『それもどうだろうな。まったく別の存在として二人になったわけでもない。口では説明するのは難しいな。それに肉体を持つ方はもうすぐ死ぬ。だから結局残るのは俺一人だ。』


アキラ「なるほど…。それじゃお前は別の存在みたいなもんになったんだから最古の竜って名乗るのはおかしくないか?改名するか?いや、この場合新しく生まれたお前に名付けか?」


最古の竜『そうか…。そうだな。俺はもう肉体を持っていた最古の竜とは別なのだ。だから名付けよう。我が名はヤゴコロオモイカネ。俺のことはヤゴコロオモイカネと呼んでくれ。』


 その瞬間龍魂が光り輝いた。そして新たな神が誕生したのだとこの世界全ての者に知れ渡ったのだった。


アキラ「………そうか。ドラゴン族ではなくなったから、ドラゴン族に新しい神が生まれないという制約から外れた存在になったんだな。だから名付けで神になった。」


オモイカネ『想定外だったんだが?どうすればいいんだ?』


アキラ「別にどうもする必要ないだろう?お前はこれからオモイカネだ。それだけだろ?」


オモイカネ『………そうだな。』


 これで最古の竜の問題は片付いた。いや、片付いてはいないんだけどね?もうすぐ前の本体は死にそうだしそっちの問題はある。けどとりあえず龍魂の方は片付いたということにしよう。


 ちなみにこのオモイカネは龍魂が自分の本体になったようだ。神力を使えば自分で浮き上がって移動も出来る。しかし力は揮えない。あくまで自力で移動する知恵のある玉になったというだけのことだ。


アキラ「さて。それじゃ次の問題を………。って何してる?」


ブリレ「えへへぇ~。ちょ~と尻尾がなくなったっていう話を聞いて~…。ボクも確かめてみたいなぁって。」


ハゼリ「あぁ…。主様の臀部…。この美しい曲線。さすが主様です。ハゼリは…、ハゼリはもう…。」


 ブリレが俺のお尻を撫で回し、ハゼリがじっと俺のお尻を見つめながら自分の体を抱いている。こいつらは一体何をしているんだ………。


 さすがに男達の前で俺の尻を曝け出すようなことはしていないが…。っていうかそれでも他の男達がブリレに撫でられてる俺の尻を凝視してるな。


タイラ・アジル・サバロ「「「ぶっ!!!」」」


 あっ…。鼻血吹いた。キュロットパンツの上から尻を撫でられてるのを見ただけでそれほどか?俺が男の当時でもそこまでではなかった気がするぞ。


アキラ「おい。あまり遊ぶなよ。」


ブリレ「遊びじゃないよ!ボクと主様の愛の営みだよ!」


アキラ「あぁ……、そう……。」


 真顔ではっきりそう言い切られたら何と言っていいのかわからない。


 そうだ。それより体を元に戻そう。虚無の意思を抑えるために力を割かれて幼女化していただけだ。今は虚無とも一応和解?したからいつまでも幼女のままでいる必要はない。


アキラ「ほいっと!」


 どうしたら元に戻るかわからないのでとりあえず力を解放してみる。するとスルスルと俺の体が大きくなって………。


アキラ「っておい!何だこれ!きついきつい!」


 服がパツンパツンになった。股間が食い込んでやばい。それに胸もはち切れそうだ。やばい。こんなところでスッポンポンになったらまいっちんぐだ。


 この服は師匠のお手製で不思議仕様だから体の変化に合わせて変化するはずなのに今はそれがない。幼女状態に合わせたサイズだから元のサイズに戻るときつい!


ムルキベル「ぶっ!!!」


 えぇ…。今度は女型になってるムルキベルまで鼻血を吹いた。それに五龍神の男三人はバタンと倒れた。どうやら刺激が強すぎて気絶したらしい。


オモイカネ『ほう。サービスが良いな。俺が産まれたことに対するお祝いか何かか?胸のポッチリが浮いてるぞ。』


 オモイカネの言葉で自分の胸を見下ろす。………確かにあれが浮いてる。


アキラ「………き。」


オモイカネ『き?』


アキラ「きゃああぁぁぁぁぁああああああ~~~!!!!」


 その瞬間頭が真っ白になった俺は爆発した。何か変な言い方だけど確かに俺は爆発した。この後俺の爆発で穴が空いて海水が流れ込んできたカムスサを修繕するはめになったのだった。




  ~~~~~最古の竜~~~~~




 俺様に敵う奴なんていないと思ってた。それなのに………。


遠呂知「あのぅ…、私はあまり戦いは好まないのですが…。これでご満足いただけましたか?」


咬竜「………俺様の負けだ。殺せ。」


 俺は寝転がったまま完膚なきまでにぶちのめされた相手を見上げる。


遠呂知「殺したりしませんよ。負けた方が勝った方に従う約束だったでしょう?勝手に死んだりしないでくださいね。」


 そう言ってにっこりと微笑みかけてくる。九頭竜の遠呂知…。ドラゴニアの王と将軍を従えたと聞いて挑んでみれば、まるで美の女神のような美しさだった。しかしその強さは鬼神かと思うほどのものだった。


 遠呂知の美貌に見とれて負けたのだなどと言い訳する気はない。俺様とは強さの器が違う。天地がひっくり返ろうとも俺様が勝つことなどないだろう。


咬竜「わかってる。これから俺様は遠呂知様の舎弟だ。」


遠呂知「舎弟というのはよくわかりませんけど…。」


 そう言って笑う遠呂知様は大人な見た目に反して少女のようだった。これが後に神以外で最も長く生きたドラゴンと九尾の女神となる者の最初の出会いだった。



  =======



 それから暫くして遠呂知様が海神と結婚されると聞いた。最初は遠呂知様が海神に敗れて無理やり手篭めにされたのかと思っていたがどうやら違ったようだ。


 結婚してから訪ねてきてくださった遠呂知様と海神が説明してくれた。二人はとても仲睦まじく幸せそうだった。


 それ以来俺の何が気に入ったのか海神はよく俺の所へと遊びに来るようになった。世界を支配している海人族の族長にして史上初めて第一階位にまで至った最強の鬼神。


 遠呂知様と戦った時よりも成長している今の俺にはわかる。戦うまでもなく海神は次元の違う存在だということが。


 遠呂知様だって今見ればとても俺なんかでは敵わない存在だとわかる。あの頃は俺も若かったのだな。


 それはいい。世界を支配する最強の神がどんな奴かと言えば気さくで面白い奴だ。それに気配りも出来る。この圧倒的なまでの存在感がなければこいつが本当に海神か?と疑うところだ。


海神「おい青。お前何か変なこと考えてないか?」


 ちっ。勘だけは妙に鋭い奴だ。俺がよからぬことを考えているとすぐに気付きやがる。


咬竜「何も考えてないぞ?それから青って呼ぶのはやめろ。」


 海神は俺のことを青と呼ぶ。別に俺は竜化しても青い竜にはならない。青と呼ぶ理由は俺にとってはあまりうれしくない理由だ。


海神「あ?青二才だから青だ。青二才の竜、略して青竜でいいだろ?」


 そうだ。これが理由だ。腹が立つ。しかし海神から見れば俺が青二才なのも事実なのであまり強くは反論出来ない。


海神「そもそも本の虫だったくせに何で自分が最強だと思ってたんだ?外の世界なんてほとんど知らなかったんだろ?それなのにダキに挑むとはなぁ。」


咬竜「ドラゴニアの者達は見たことがある。俺の方が強かった。だからドラゴニアで俺が一番だったのは事実だ。」


 あまりに青二才扱いされることに腹が立ってきたので反論してやる。確かにあの時の俺は若かったがドラゴニアで最強だったのも事実だ。


海神「ばーか。それは何もわかってねぇよ。ドラゴニアには今の青よりさらに強い奴もゴロゴロいるぞ。昔に青がドラゴニア最強だったなんて何の笑い話だ?」


 海神が笑い出す。そうなのか?今でも?俺も随分強くなった。それに俺より強いと思ったのは遠呂知様と海神くらいだ。他の者に負けると思ったことなど一度もない。


海神「くくっ!わからないって顔してるな。だからお前は青二才なんだよ。」


 そう言ってさらに笑われた。



  =======



海神「おう!青。遊びに来たぞ。」


遠呂知「久しぶりね。」


咬竜「おお!これはこれは遠呂知様。ようこそおいでくださいました。」


 今日は突然海神が遠呂知様を連れて訪ねて来た。


海神「おい。俺にはそんな挨拶したことないだろ。」


咬竜「俺は貴様に仕えた覚えはない。俺が仕えるのは遠呂知様のみだ。………っていうか遠呂知様!その抱いておられるのは一体!!??」


 遠呂知様の胸に赤子が抱かれている。まさかこれは………。


遠呂知「スサノオと私の子供です。名前はアキラ。今日はこの子をあなたに見せるために来たのよ。どう?可愛いでしょう?」


 そう言って遠呂知様が抱いている赤子をこちらに見せるように少し傾ける。しかしここは何と答えたら良いのだ?アキラという名前からすると恐らく男?


 それならば可愛いというより格好良いと言う方が?いや…、しかし遠呂知様が可愛いでしょう?と問いかけられたのだから可愛いと答えた方が?


海神「おい。青。お前また変なこと考えてるな?」


咬竜「失敬な!今回は別に変なことなど考えていない!」


海神「くくっ!それってつまりいつもは考えてるって自白してるよな!はははっ!」


 ぐぬぬっ!確かに認めたも同然だ。おのれ海神!誘導尋問とは汚いぞ!


海神「おお!そうだ。青。お前が一人前になったらお前の子か孫とアキラを結婚させよう。アキラは立場上何人とも結婚することになるかもしれないが、お前とお前の子孫がそれでよければどうだ?」


 ………ふむ。何人も娶るということはやはり男の子か。


咬竜「良いだろう。我が子孫で飛び切り可愛い女の子を嫁に差し出してやろう!」


海神「おっ…、おう?女の子?まぁ…、女の子でもいいか?」


遠呂知「………そうですね。妖狐はどちらでもいけるので…。咬竜がそうしたいのならば貰う側のこちらが注文をつけるべきではないかと?」


 その後暫く俺はアキラが女の子だったと気付くことはなかった。気付いた後も今更男の子と勘違いしてたから女の子を嫁にやると言ったのだと言えなくなった俺はもうアキラに女の子を嫁がせる覚悟を決めたのだった。



  =======



 きな臭くなり始めていたと思っていたがとうとう全世界を巻き込んだ戦争が勃発してしまった。ドラゴン族は遠呂知様に従って海人族側に立つ。俺はそう信じていた。しかし………。


竜王「暴虐の限りを尽くす悪神スサノオを討伐するのだ!」


四将軍「「「「はは~~っ!!」」」」


 竜王の言葉にドラゴニアの将兵が応える。遠呂知様に従うと決めたのではなかったのか!誰を問い詰めても悪神スサノオ討つべしとしか応えない。一体ドラゴン族はどうしてしまったというのだ。


 このままドラゴニアに留まっていては俺まで遠呂知様との戦争に駆り出されてしまう。そこで俺は王城を抜け出したのだった。


 そしてその時俺はとんでもない話を聞いてしまった。何と五龍神様を生贄に捧げて海人種を封じる結界を張るらしい。その上ドラゴン族には二度と神は生まれないという制約をするというのだ。


 そんなことをしてはドラゴン族の進化が止まってしまう。そうなれば後は衰退するしかない。ドラゴン族は破滅へと向かっている。何としても止めなければ………。


 俺は五龍神様達が生贄として各地へと移動する前に集まったところへと乗り込んでいった。


咬竜「お待ちください。」


天龍神「何用だ?」


 天龍神様に睨まれただけで足が震えそうになる。今更ながらに海神の言っていたことがわかった。俺の上をいく者など掃いて捨てるほどいるのだ。俺がどれほど矮小な存在であったのか思い知った。


 しかし恐れている場合ではない。ここで何とかしなければドラゴン族に未来はない。


咬竜「五龍神様が生贄になり、今後二度とドラゴン族の神が生まれないという制約をされるという話。これはおかしいと思いませんか?」


火龍神「あ?何がおかしいってんだ?」


 よし。食いついてきた。ここでうまく説得しなければ…。


咬竜「そもそも何故封印の対象が『海人族』ではなく『海人種』だけなのですか?」


 そうだ。これは誰が考えてもおかしいとわかる。海人族の支配に逆らうのだと言いながら何故同じ海人族の月人種と太陽人種は封じずに、海人種だけ封じるというのか。この矛盾に気付かせるだけでも説得出来るはずだ。


天龍神「悪しき海人種を討つ。そのためだ。何がおかしい?」


咬竜「なっ?!それでは何故同じ海人族の月人種や太陽人種を封じないのですか?」


天龍神「何故封じる必要がある?」


 ………。五龍神様達が冷めた目で俺を見つめる。ゾクゾクと背筋に悪寒が走る。どうやら俺も敵として認定されつつあるようだ。


火龍神「そういやこいつ海神と親交があったよな。海人種の間者じゃねぇの?」


 ざわざわと毛が逆立つ。完全に敵として敵意を向けられている。俺の額から冷や汗が流れる。ピクリとも動けない。動けばその瞬間に殺される………。


咬竜「うっ…、ごっ!」


 気付いた時には俺は殴られていた。足を踏まれているために吹っ飛ぶことも出来ずにメリメリと拳が俺の腹に食い込む。そのまま突き破られるかと思うほど腹を抉られた時に足を離されて吹っ飛んでいった。


天龍神「殺すのは忍びない。お前への断罪はドラゴニアの者達に任せることとしよう。」


 薄れゆく意識の中、五龍神達が飛び立つのが見えた………。



  =======



 それからどれほどの月日が流れただろうか。五龍神にぶっ飛ばされた俺は気がついた時にはドラゴニア王城の牢屋にぶち込まれて繋がれていた。


 牢番から聞こえてくる話は戦争の話ばかりだ。皆は浮かれているようだが俺は笑っていられない。五龍神は生贄になり、新たにドラゴン族の神が生まれることもなくなり、戦争で膨大な数の犠牲が出ている。


 それなのに皆は戦争に勝っていると大喜びで連日宴まで開かれている。これがドラゴン族か…。こんなくだらないものが………。


 もういい…。俺はもう疲れた。ドラゴン族など知ったことじゃない。俺はこれから先俺のためだけに生きる。


 牢から出された時にはもう戦争は終わっていた。あれほど居たドラゴン族達の姿がまばらになるほど減っている。


 ………いや。もういいんだったな。俺はもうこれから残りの命を真理を究明するためだけに使おう。俺はまだ見ぬ叡智を求めて世界へと旅立ったのだった。



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