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転生無双  作者: 平朝臣
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第百二十三話「兎人種の里にて」


 ヤタガラスさんの開いてくれた門を通るとそこは~……。


キュウ「ここは~…。」


ガウ「がうがうっ!」


 ここは九十九つくもさんと出会った辺りです~。つまりここは南大陸の東部地方で、西部地方にある兎人種の里とは正反対の位置です~。


キュウ「遠くに~、出てしまいましたねぇ~。里まで~、距離があるので~、急ぎましょう~。」


ガウ「がうっ!」


 九十九さんがいないかと思って少しだけ洞窟に寄っていきましたが九十九さん達はおられませんでした~。


 その後は一直線に里に向かうつもりでしたが大樹に近づくにつれて強い気配を感じるようになりました~。最初に出会った頃の太刀の獣神さんより強い気配が四つあります~。


 でも今の太刀の獣神さんより強いのは一人だけのようですね~。それが大獣神なのでしょう~。


キュウ「この~、強い気配の~、四人が~、他の獣神達ですか~?」


 あまり誰にも相手にされずまるでいないかのように扱われている太刀の獣神さんに聞いてみます~。


太刀の獣神「………知らん。会ったことがない。」


 あまり周囲に興味を持たない方なのでそうじゃないかとは思っていましたが使えない人です~。


キュウ「使えない人ですね~。」


太刀の獣神「―ッ!………。」


 あ~あ~…。また眼に涙を溜めてます~。使えない上に面倒臭い性格です~。


ソンプー「私の予想ではこの一番強い気配が大獣神でしょう!」


 ソンプーさんはソンプーさんで誰もが考え付くことを得意気に述べながら踊っています~。


ガウ「がうっ!そんなことがうでも思いつくの!」


ソンプー「なるほどなるほど~!つまり私とガウ様は思考が似ていると!」


ガウ「がうっ!違うの!ソンプーと一緒なんて嫌なの!」


 ガウさんが本気で嫌がっています~。ソンプーさんは決して頭が悪いとか突飛な思考をする方ではありません~。ですが私でもソンプーさんと同レベルだと言われたらきっとこんな顔をするでしょう~。


キュウ「それより~、先を~、急ぎましょう~。」


ガウ「がうがう。」


ソンプー「それでは向かいましょう!」


カンスイ「お前が仕切るな。」


ソンプー「カンスイ!貴方はどうしていつも良い所だけ持っていくのですか!」


 また騒がしくなり始めたので『するー』して移動を続けました~。



  =======



 兎人種の里の近くまでやってくると里の前でツノウちゃんと誰かが対峙していました~。


キュウ「ツノウちゃ~ん!」


ツノウ「えっ?…キュウお姉さま?どうしてここに?」


 ツノウちゃんは私達を見て驚いた顔をしています~。でもそれほど驚くことでしょうか~?里が危険だと知れば駆けつけるのは当たり前じゃないでしょうかぁ~?


キュウ「よかった~。無事だったのね~。」


ツノウ「………はい。まだ今のところは…。」


 ツノウちゃんはチラチラと自分の前に立つ者を見ながらそう答えました~。里の前に立つツノウちゃんと後ろからやってきた私達に挟み撃ちにされる形になっているのに、その敵と思しき人はまるで動じた様子がありません~。


???「お前達も大樹の民に従わぬ者の一味か?」


 こちらを振り返ることもなくその人は私達に問いかけてきました~。


キュウ「はい~。私は~、前玉兎の巫女です~。ですから~、この里を~、守る立場の者です~。」


オシミ「そうか。ならば遠慮は無用だな。俺の名はオシミ。ツクヨミ様の使者だ。」


 オシミと名乗った男がゆっくりこちらを振り返って~………。


キュウ「―ッ!」


 目が合った瞬間私の全身の毛が逆立ちました~。嫌です~。ここに居たくないです~。本能が今すぐ逃げろと叫んでいます~。ですが逃げるわけにはいきません~。


 私はぐっと歯を食いしばって精一杯虚勢を張って応えます~。


キュウ「私は~、キュウと申します~。」


オシミ「………なるほどな。俺を前にしてなおその態度。どうやらお前が本命のようだな。こちらの小娘ははずれだったか。」


 オシミがチラリとツノウちゃんを一瞥します~。それだけでツノウちゃんの肩がビクリと跳ねました~。ですがツノウちゃんは気丈にもオシミを睨んでいます~。本当なら逃げ出したいはずなのにツノウちゃんも暫く見ない間に立派になりました~。


キュウ「当たりとか~、はずれとか~、勝手なことを~、言わないでください~。里の方は~、老若男女も~、強いも~、弱いも~、関わらず~、皆さん~、里を守ろうと~、戦う方々ばかりです~。」


 そうです~。こんな方にとやかく言われる筋合いはありません~。この里の方は里のためには命を惜しまない方ばかりです~。


オシミ「よかろう。ならば一刻後に攻め込む。それまでに精々出来る限りのことをしておくがいい。」


 それだけ言うとオシミと名乗った方はいなくなりました~。私達が完全に包囲していたのにあっさり突破されて逃げられたのです~。それはつまり私達とは圧倒的な実力差があって本来正面から戦ってはいけないような相手ということです~。


ツノウ「………はぁ。どうやらいなくなったようですね。一先ず助かりましたキュウお姉さま。」


 ツノウちゃんは少し疲れた笑顔で近寄ってきました~。


キュウ「もう~!ツノウちゃ~ん!あまり無茶したら駄目ですよぅ~。」


 私はツノウちゃんをぎゅ~っと抱き寄せます~。


ツノウ「キュウお姉さま!溺れます!キュウお姉さまの胸で溺れてしまいます!」


 ツノウちゃんがバタバタともがいていますがまだ離してあげません~。


キュウ「まだ~、許して~、あげません~。玉兎の巫女が~、無茶を~、してはいけません~!」


ツノウ「むきゅぅ………。」


 途中で変な声を上げて目を回したツノウちゃんを抱えて里へと入って行ったのでした~。



  =======



 ツノウちゃんを抱えて巫女の家に行くとお母さんがいました~。


サキム「あら~?あらあら~?どうしてツノウちゃんは目を回していて、ここにいないはずのキュウがいるのかしら~?」


 お母さんは大体事情を察しているようなのにこうしてニヤニヤしながら聞いてきます~。


キュウ「ツノウちゃんは~、名誉の~、負傷です~。」


サキム「キュウに抱き締められて締め落とされるのが名誉の負傷なのかしら~?」


 やっぱり知ってて聞いていたんですね~。


キュウ「知ってるなら~、聞く必要は~、なかったではないですか~。」


サキム「キュウが何て答えるか聞いてみたかったから~。」


 相変わらずニヤニヤと笑いながら気にしている風もありません~。


サキム「それでアキラ様は~?」


 お母さんはキョロキョロとアキラさんを探し始めました~。なので事情を説明します~。


ツノウ「えぇっ!それでアキラ様は大丈夫なのですか?」


 気を失って寝かせていたはずのツノウちゃんは話を聞いた途端に勢い良く起き上がって大声を上げました~。


サキム「アキラ様なのよ~?それくらい平気よ~。ところでツノウちゃ~ん。いつから目覚めていたのかしら~?」


ツノウ「………え?あっ!それは…、その…。」


 ツノウちゃんが口篭ります~。本当は家に着く前から気付いてたもんね~?


サキム「私がいるから面倒だと思って寝た振りしてたのかな~?よよよ~。サキムちゃん悲しいわ~。」


 お母さんがよよよと泣き真似をしています~。そういう所が面倒だからツノウちゃんに寝た振りされるんじゃないかなぁと思いますけど~………。


ツノウ「あああぁぁぁ!ちちち違いますよ?そういうことではないんです!」


サキム「じゃあどうして寝た振りをして私を無視していたのかしら~?」


ツノウ「それは…、その…。」


 ツノウちゃんがチラチラと赤い顔をして私の方を見ています~。私と何かあったでしょうかぁ~?


ツノウ「えっと…、キュウお姉さまに抱っこしてもらうのが気持ち良くて…。起きたら下りなければならないと思って寝た振りを続けていたんです………。そしたらもう起きる機会を失してしまって………。」


 赤い顔でチラチラと上目遣いにこちらを見てきます~。


キュウ「ツノウちゃん~、可愛すぎます~。」


 私はまたしてもツノウちゃんをぎゅ~っと抱き締めます~。


ガウ「がう。またつのうが落ちるの。」


ツノウ「んん~!」


 ツノウちゃんがバタバタと溺れています~。またまた締め落としてしまうところでした~。



  =======



 お母さんとツノウちゃんを加えて皆さんで対策を考えます~。


キュウ「とにかく~、里の方達を~、どこかに~、逃がしましょう~。」


サキム「どこへ逃げるというのかしら~?逃げるあてもないのならここにいるほうが安全じゃないかしら~?」


 ここを脱出しても安全な場所なんてありません~。ですがオシミの強さからしてここにいても死ぬだけです~。


ツノウ「キュウお姉さまも言われたではないですか。この里の者は老若男女も強さも関係なく皆里のために命を惜しまないと。」


キュウ「そうだけど~、命を惜しまず~、立ち向かうことと~、戦えることは~、別です~。無駄に~、命を~、落とすより~、脱出して~、兎人種の~、未来を~、紡ぐことも~、大事です~。」


ツノウ「それは………。」


 オシミの強さを直に見たツノウちゃんならわかるはずです~。


キュウ「三玉家の方に~、里の方達の~、護衛を~、してもらって~、脱出してもらいましょう~。」


サキム「………キュウ。貴女はここで戦うつもりかしら~?」


 お母さんには隠し事は出来ませんね~………。


キュウ「はい~。足止め役が~、必要ですし~、敵も~、戦えば~、少しは~、満足すると~、思います~。」


 最古の竜さんに聞いた限りでは、これまでの敵は程度の差はあっても戦いを求めている節がありました~。ですから全員が逃げ出せばかなり厳しく追い立てられてしまう気がしますが、ここで誰かが戦えば敵もいくらかは満足する気がするのです~。


ツノウ「だったら私が戦います!この里を守るべき今の玉兎の巫女は私なんです!」


 ツノウちゃんがぐっと近寄って真剣な眼差しで訴えてきます~。


サキム「ツノウちゃんは駄目よ~。ツノウちゃんはまだ若いんだからこれからの兎人種を背負ってもらわないとね~。だから私が残るわ~。」


ツノウ「いえ、私が残ります!」


サキム「私が戦うわ~。」


 二人が自分が自分がと争っています~。


ツノウ「………それならば三人で戦いましょう。」


サキム「そうね~。」


キュウ「駄目です~!」


 二人とも残ることで話が纏まりそうだったので割り込みます~。


キュウ「降魔の眼鏡を~、持つのは~、ツノウちゃんと~、私と~、お母さんだけです~。その三人が~、全員残って~、巫女を~、失うことになれば~、三玉家の~、力が使えません~。それでは~、里の方達も~、守れません~。」


 そうです~。降魔の眼鏡を持つ者が全員ここに残ってしまったら里の方達を守る者がいなくなってしまいます~。


サキム「そうね~………。それじゃあやっぱり若いツノウちゃんが生き残るべきね~。私はもう長く生きたから~。」


ツノウ「何を言っておられるのですか?トカ様はどうされるのです?これから次代の巫女たるトカ様を守り育てる大事な役割があるではないですか。」


サキム「う~ん…。親はなくとも子は育つものよ~?キュウの話通りなら~…、敵は戦うことに喜びを感じる者が多いのよね~?だったら強い者が戦うべきだわ~。眼鏡の性能は私の方が劣るけどまだ私の方がツノウちゃんより強いわ~。」


キュウ「どっちも駄目です~。私達だけ~、ここに残って~、戦います~。」


 私達はそのためにここに来たんです~。こうなることは最古の竜さんの話を聞いてから予想済みでした~。だからついてきて下さった方達とはすでに話してありましたし納得済みです~。


サキム「だめよ~。キュウとツノウちゃんは逃げなさい~。」


キュウ「私達は~、こうなるとわかっていて~、いえ~、このために~、ここへ来たんです~。ですから~、私達は~、残りますぅ~。」


 この後暫く残るだ残らないだと口論になって中々決着がつきませんでした~。



  =======



 暫く口論が続いた頃でした~。


キュウ「とにかく~、あまり~、時間がないんです~。こんな言い争いを~、している間に~、里の方達を連れて~、少しでも遠くに~、逃げてください~。」


サキム「だからそれはツノウちゃんが~…。」


 その時でした…。


キュウ「うぅっ!」


ガウ「がうぅ…。」


サキム「え~?どうしたの~?大丈夫~?」


 お母さんが心配して背中をさすってくれました~。ですがそれに効果はありません~。ガウさんも同じ感覚を味わっていることからもこれは~………。


キュウ「クシナさ~ん……。ルリさ~ん……。」


 まるで半身をもぎ取られたような…、魂を引き裂かれたような痛みと共に繋がっていたはずのクシナさんとルリさんの魂が感じられなくなりました~…。


キュウ「………。また私の~、お友達が~、いなくなってしまいました~。お母さ~ん、ツノウちゃ~ん。すでに~、多くの方が~、犠牲に~、なっています~。私は~、これ以上~、大切な人達を~、失いたくありません~。」


サキム「キュウの言ってることもわかるわよ~。でもだ~め。お母さんは~…、譲りませ~ん。娘だけ犠牲にして逃げるなんて出来ないわ~。」


 どうやらお母さんの説得は無理なようです~…。


ツノウ「わっ、私も…!」


キュウ・サキム「「ツノウちゃんは駄目~。」」


 お母さんと声が揃いました~。やっぱり考えることは同じなんですね~。


ツノウ「どうして…。どうしてですか?」


キュウ「ツノウちゃんにはまだお役目があります~。」


サキム「ツノウちゃ~ん。巫女は一番に体を張って皆を守る義務があるわ~。でもね~。もう一つ義務があるのよ~。」


 お母さんが語り始めました~。これは私も何度も聞かされた話です~。


ツノウ「もう一つの義務…、ですか?」


サキム「そうよ~。もう一つの義務はね~……。巫女は最後まで死んではならないっていうことよ~。」


ツノウ「最後まで?どういうことですか?」


サキム「それはね~。皆を守るために体を張るのは役目だけど、だからって死んでは駄目なのよ~。守るべき人達がいる間は玉兎の巫女は死んではいけないの~。だから何があっても~…、どんなに無様でも~…、最後まで生き残るために行動しなくてはいけないのよ~。」


 これは私も何度もお母さんに聞かされた話です~。


ツノウ「そんな…。だからって私だけ逃げろと言われるんですか?」


キュウ「ツノウちゃ~ん。逃げるんじゃ~、ないんですよ~。皆さんを~、守るために~、ついていくのが~、巫女の役目です~。」


ツノウ「うっ…、うぅ…。ずるいです。キュウお姉さま~、サキム伯母さま~!うわぁ~ん。」


 ツノウちゃんが泣きながら私に飛びついてきます~。


サキム「ツノウちゃ~ん?おばさんはなしって約束したでしょ~?」


ツノウ「ひぃぃ~。」


 お母さんが怖い笑顔でツノウちゃんに迫ります~。私でもちょっと怖いです~。


 この後どれだけ説得してもお母さんは引き下がりませんでした~。こうして残る者、脱出する者が決まりました~。


 私達四人に加えてお母さんが残ることになり、五人でオシミを迎え撃つために準備を進めたのでした~。



  =======



 もうあまり時間がありません~。ツノウちゃんは里の皆さんを連れてすでに脱出しました~。お母さんはいつもと変わらない笑顔でニコニコしています~。


 一つだけいつもと違うのは~………。


サキム「むふふ~。私もまだまだいけるじゃな~い。ね~?どう~?似合うでしょ~?現役の頃の衣装がまだ入るのよ~?体型が変わってないのよ~!!!」


 お母さんは巫女の正装をしています~。現役を引退して以来着ていなかった巫女服を着て喜んでいるようです~。


キュウ「でも~、お腹の~、お肉が~、余ってます~。」


 お母さんのお腹のお肉がぽっこりと乗ってます~。


サキム「まぁ~!何てことを言う娘なんでしょう~!貴女だって余ってるじゃない~!」


キュウ「いた~い!摘んじゃだめ~!」


 お母さんが私のお腹のお肉を摘んできます~。


サキム「ほらほら~。貴女の方が余ってるんじゃないの~?」


キュウ「アキラさんは~、このお肉を~、触るのが~、大好きで~、触ってると~、気持ちいいって~、言ってくれます~!」


サキム「あら~。それじゃサキムちゃんのお腹も気にってくれるかしら~?」


 お母さん…。もしかして本当にアキラさんのハーレムに入ることを狙ってるんですかぁ~?


 ………お母さんとのこんな掛け合いもこれが最後になるかと思うと少し涙腺が緩んでしまいます~。


サキム「あらあら~?キュウは大きくなっても泣き虫ね~。よしよし~。」


 少し涙目になっていた私の頭を抱き寄せてお母さんがよしよししてくれます~。


キュウ「お母さん~。今までありがとう~。」


サキム「何を言っているの~?キュウにはまだ先があるのよ~。」


 ………二人で暫く抱き合ったまま過ごしました~。暫くしてから名残惜しいですが離れます~。そして最後の準備に取り掛かります~。


キュウ「………それでは~、準備します~。月兎開放………。」


 私の中に黒いモノが流れ込んできます。本来なら正気を保っていられず自我を失うほどの黒いモノを受け入れてもまだ私の意識はなくなりません。アキラさんがくれた新しい降魔の眼鏡のお陰です。


 これによって私は普通の玉兎の巫女なら受け入れ切れないだけの力を受け入れ、兎人種ではあり得ない力を出せるようになりました。


 さらに私の神力の変化に反応して普段は耳と尻尾を覆っているだけのアキラさん特製の装備が展開されます。耳に巻いている布のようなものが自動的に展開されて体を覆います。


 それから尻尾を包むように出来ている鎧が広がり全身を覆った布のさらに上から装着されます。鎧は全身を覆うほどにはありませんが、下には全身を覆う布があるので要所だけの鎧でも防御力に問題はありません。


 これらの装備からアキラさんの私への愛を感じることが出来ます。うふふっ。アキラさぁ~ん。帰ったらいっぱいい~っぱいえっちぃことしましょうねぇ~。


ガウ「がう!キュウの変身格好良いの!がうも変身したいの!」


 ガウさんが私の周りを駆け回ります。ガウさんは可愛いですねぇ。命を賭けてこんな場所まで来てくださったガウさん達は何とかして生き延びて欲しいところです。


サキム「やるわねキュウ~。お母さんも負けないわよ~。月兎開放~!」


 お母さんも月兎開放で月のチャクラを受け入れます。ですが眼鏡の性能差のために私ほど多くは受け入れられません。


 あの眼鏡はあくまでアキラさんが護身用に作ってくださったものです。本来ならばこんな勝ち目のない相手と戦うためのものではありません。


 それでもお母さんは限界ギリギリまで月のチャクラを受け入れて最大限の力を出します。それにしても流石はお母さんです。まだあれをアキラさんにもらってからあまり日も経っていないはずなのに完璧に使いこなしています。


キュウ「さすが年の功です。制御は完璧ですね。」


サキム「まぁ~!何て言い草かしら~!年の功っていうほど年じゃありません~!まだアキラ様の子供も産める年なんですからね~!」


 お母さんは怒っています。ですが本気で怒っているわけではありません。お母さんはこういう楽しい人なんです。


オシミ「約束の時間にはまだ少し早いが…、もう揃っているようだな。これから始めるか?」


 突然オシミが話しかけてきました。………油断したつもりはありません。それでもその接近にすら気付きませんでした。


キュウ「気が早いですね。約束くらい守ればどうですか?」


 ここまで接近されても気付かなかった動揺を出さないように努めて冷静を装って応えます。出来るだけ時間を稼ぎたいのでこれで約束の時間まで粘れるのなら粘りたいところです。


オシミ「………どうせ約束の時間までそれほどなかろう?だがまぁ…、親子や仲間との最後の別れの時間だ。それが終わるまでは待ってやろう。」


 どうやら私の言葉に乗ってくれたようです。お母さんやガウさん達と別れの時間が欲しくて言ったわけではありませんが、折角くれた時間なのですからお別れを済ませましょう。


キュウ「お母さん。今までありがとう…。ガウさん、ソンプーさん、カンスイさん、………一応太刀の獣神さんも、命を賭けてここまで来てくださってありがとうございました。」


サキム「まったくだめね~。この娘は~…。」


 私が頭を下げるとお母さんがやれやれと言う感じで一歩前に出てきました。


サキム「敵の口車に乗せられてるみたいだけど~…。いい~?これはお別れじゃないの~。貴女達は生き残るわ~。だからお別れじゃないのよ~。」


ガウ「がうがう!さきむのお料理また食べるために来たの!」


ソンプー「私はアキラ様のもとへ帰りますとも!」


カンスイ「そうだな。これで終わりではない。」


太刀の獣神「………。」


キュウ「皆さ~ん………。そうですね…。ええ、そうです!皆さんで帰りましょう!」


 そうです。お別れじゃありません。皆さんでアキラさんのもとへ帰るんです!


オシミ「別れは終わったか?ならば始めよう。」


 オシミが一歩近寄っていきました。それだけで逃げ出したいほどの圧力を感じます。ですが逃げるわけにはいきません。


キュウ「別れではありません。私達は必ず生きて帰ります。愛しい方のもとへと!」


オシミ「そうか…。ならばお前達のその生きる力を見せてもらおう。いくぞ!」


全員「「「「「―ッ!!!」」」」」


 駄目です。まるで動きが見えません。オシミが消えたようにしか………。


サキム「キュウ!!!」


キュウ「うっ!」


 お母さんにどんっと突き飛ばされました。その瞬間私が元々立っていた場所に何かが通り抜けた気がしました。


サキム「キュウ無事?」


キュウ「うん…。ありがとうお母さん。お母さんが突き飛ばしてくれてなかったら私はオシミの攻撃を食らっていました。」


サキム「いい…のよ~。キュウが無事で…、よかったわ~。」


 お母さんの声が変です。微妙に震えて何かを耐えているような………。そこで私は顔を上げてお母さんを見ました………。


キュウ「あっ…、ああ…、ああっ!お母さん!」


 私を突き飛ばしたであろう右腕が…、いえ…、右胸の半分から先が全部なくなっているんです!


サキム「後は私が相手をするからキュウ達はもう逃げなさい~。」


キュウ「何を言って…。そんなお母さんを置いて逃げられるはずないでしょう!」


サキム「この傷では…、私はもう長くないわ~。逃げても足手まといになるし~…。敵の強さがわかったでしょう?私が残りの命を使って時間を稼ぐから貴女達は逃げなさい~。」


 そんな…。そんなこと出来るはずありません。


サキム「このままじゃ全滅よ~。早く逃げなさい~。」


 お母さんがなおも私達に逃げろと言います。でもそんなこと…。私達だって死ぬ覚悟でここに来たはずです。


オシミ「一人も逃がさん。死ぬがいい!」


 またしてもオシミが消えます。今度はまるで時間がゆっくり流れているかのように少しだけオシミが見えます。


 オシミは私達の方へと駆けてきています。その手からは影のような黒い物が伸びています。恐らくあれで槍のように突いてお母さんの右胸から先を消し飛ばしたんでしょう。


 じわじわと迫ってくるオシミの黒い影が見えますが反応出来ません。体が重くてまるで思い通りに動かないんです。


 両手からいくつにも枝分かれした黒い影のような物が私達全員を捉えています。このままでは全員が貫かれて消し飛ばされてしまうでしょう。ですが動けません。


 ただゆっくり刺し貫かれるのを眺めて味わうしかないのでしょうか………。


ガウ「がう。ご主人……。」


キュウ「アキラさん………。」


 こんなことなら…、意識がなくてもいいから出てくる前にアキラさんと口付けしておけばよかったですね………。さようならアキラさん。



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