表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生無双  作者: 平朝臣
145/225

第百二十二話「それぞれの決断」


 クシナさん達が出ていかれてから暫く経ちましたがまだ魂の繋がりは切れていません~。きっとクシナさんとルリさんは無事なのでしょう~。


最古の竜『敵と思しき者がやってきたようだがすぐには戦いにならなかったようだ。』


 最古の竜さんに少しお話を聞いてクシナさんはうまくやっているのだと思いましたぁ。


ミコ「クシナ…。もしかしてこのままクシナはうまく脱出出来るんじゃ……。」


狐神「そこまで甘かぁないだろうね…。時間稼ぎはうまくいってるようだけどそれも時間の問題だね…。」


ミコ・キュウ「「………。」」


 ミコさんも黙ってしまいましたぁ。やはり同じことを感じておられたからでしょう~。


ミコ「そっ、そうだ!海人種の方に帰りの門を開いてもらえばクシナ達は………。」


ヤタガラス「断る。スサノオ様ならともかく我らが開ける転移門は一方通行だ。向こうからこちらへ帰ってくるには一度我らが向こうへ行かなければならない。我らはアキラ様の傍を離れる気はない。片道しか用意しないと言って了承して出ていったはずだ。今更帰りも用意してくれと言われても知らぬ。」


ミコ「うっ…。それはそうですけれど………。ちょっと行って帰ってくるくらい駄目なのですか?」


 ミコさんは藁にも縋る思いでヤタガラスさんに頼み込んでいます~。


ヤタガラス「………我らは前回スサノオ様から離れた。スサノオ様のご命令に何の疑問も持たずに離れたのだ!まさかあれほど強かったスサノオ様の身に何か危険があるなど誰も思わず離れたのだ!……そして我らの知らぬ所でスサノオ様は身罷られた。お前にわかるか!守るべき主君のもとを離れて一緒に戦うことすら出来ずに主君を失った者達の気持ちが!我らはもう二度とそのような形で主を失いたくなどない!だから例え主君の命令であろうとも我らは主から離れぬ!」


 ヤタガラスさんの心の…、いえ、魂の叫びが響きますぅ~。その言葉で全員黙り込んでしまいましたぁ~。


 私もヤタガラスさんのお気持ちがよくわかりますぅ~。いえ、私だけではありません~。故郷のために出て行かれた方は皆さんきっと同じ気持ちだと思いますぅ~。


 自分の知らない間に故郷が滅ぼされてしまうと知ってしまえば、例え行っても自分も殺されるだけだとわかっていても飛び出さずにはいられません~。


 他の何を犠牲にしても守りたいという気持ちはよくわかります~。


ミコ「それは……。えっと…、ごめんなさい。これまでも十分良くしてくださっていたのにヤタガラスさん達のことを全然考えられていませんでした…。」


 ミコさんがヤタガラスさんに頭を下げます~。ミコさんの気持ちもヤタガラスさんの気持ちもわかってしまうので私まで苦しくなってしまいますぅ。


ヤタガラス「俺に頭を下げてでも仲間を救いたいというお前の気持ちもわかる。だが今の我らにとっては主君アキラ様こそが全て。お前達の仲間を救うために出て行ってもし我らの中の誰かが犠牲になるなど許せぬことなのだ。」


 どうやらヤタガラスさんがミコさんの謝罪を受け入れてくれたようですぅ。これでこの件は終わりですね~。


キュウ「クシナさん達のためにぃ~、何か出来ることはぁ~、ないでしょうかぁ?」


狐神「祈るくらいかね………。」


 そう言ってしまうと身も蓋もないのですが実際に他に出来ることはありません~…。


 その時またまた世界が強大な神力に包まれましたぁ~。こっちはツクヨミと名乗った方の神力ですね~。


ツクヨミ『次の処分者を知らせよう。大樹の民は我らに恭順を示した。よって大樹の民は残すが大樹の民に従わぬ獣人族は処分することにした。大樹の民に従わなかった愚か者共よ。自らの愚かさを悔いながら死に絶えるがいい。』


 あぁ~…。とうとうきてしまいましたぁ~…。


狐神「ノコノコ出て行けば殺されるだけだよ…。それでも行くのかい?」


 キツネさんが寂しそうな顔で私に最後の確認をしてきます~。


キュウ「はい~。もちろんです~。玉兎の巫女は~、こういう時のために~、今まで村人達に~、生活を支えてもらっていたのですぅ~。」


 そうです~。私達は農作業もしたことがありませんし猟に出たこともありません~。三玉家の生活は全て村人達から納められる貢物で成り立っていたのです~。


 そうして普段生活を支えてもらう代わりにこういった有事の際には身命を賭して村のために戦うのが三玉家の務めです~。


ミコ「止めても……、行っちゃうんだよね……?」


 ミコさんは俯いたまま暗い声でそう言いながら私の前にやってきました~。


キュウ「はい~。それが~、玉兎の巫女の~、務めですからぁ~。」


ミコ「やだ!いやだよ!行かないで!ううん。行かせない!駄目!行かせない!」


 ミコさんは急に顔を上げたかと思うと両手でがっちりと私を抱き締めました~。冗談とかじゃなくて本当に実力行使で私を止めるつもりのようです~。


キュウ「ミコさ~ん。お気持ちはうれしいですが~、これは私の~………。」


ミコ「何で?何でよ?キュウはもう巫女をやめたんでしょう?もう務めは果たしたじゃない!」


 そうですねぇ~。確かに立場としてはそうなりますよ~。でもそうではないのですよ~…。


キュウ「ミコさ~ん…。玉兎の巫女を~、引退したからと言って~、それで全てが~、お終いとは~、いかないのですよ~。」


ミコ「………わかってる。わかってるよ!でもキュウを行かせたくないよ!」


 ミコさんがぎゅっと私に抱き付いてきます~。先ほどのように行動を阻害するために抱き締めているのではなくまるで泣いている子供が縋り付いて来ているようです~。


キュウ「ミコさ~ん。私のために~、泣いてくださって~、ありがとうございます~。ですが~、ここまで育ててくれた~、兎人種の里の人達を~、見捨てることは~、出来ません~。」


ミコ「だったら…、だったら絶対帰ってきて!」


キュウ「はい~。ミコさんは済ませましたが~、私はまだ~、アキラさんと~、口付けをしてません~。ですからぁ~、必ず帰ってきて~、私もします~。」


 泣いているミコさんの頭を撫でながら少しだけおどけた調子でそう言いました~。するとミコさんも少しだけ泣き止んでくれたようです~。


ミコ「そうだよ!まだ私とルリちゃんしかしてないんだから!ううん。ルリちゃんがしたのは前のアキラ君なんだから今のアキラ君としたのは私だけなんだから!だから皆帰ってきてアキラ君とキスしなくっちゃ!ね?絶対帰ってきてね!」


キュウ「はい~。もちろんですぅ~。」


 私とミコさんはギュッと抱き締めあいました~。


ガウ「がうがうっ!がうも行くの!」


狐神・ミコ「「………え?」」


キュウ「えぇ~?ガウさんもですかぁ~?どうしてでしょう~?」


 どうしてガウさんが兎人種の里のために命を賭けるのでしょうかぁ~?


ガウ「さきむの料理がおいしかったの!だから助けるの!」


 あぁ~…。そういえばガウさんはお母さんに随分懐いていましたぁ~。ツノウちゃんともとっても仲良しでしたしガウさんにとっては兎人種の里が第二の故郷のようなものなのかもしれません~。


ガウ「それにばか弟子を叱りに行くの!」


狐神「馬鹿弟子って…、ティーゲのことかい?」


ガウ「がうがうっ!」


 怒った表情でコクコクと頷いています~。そういえば大樹に滞在している間もよく獣王を継いだティーゲと修行と称して遊んでいました~。


 何でも南大陸に渡る前に中央大陸のアルクド王国という所で戦って以来ガウさんはティーゲを弟子にしたつもりのようです~。ティーゲがどう考えているのかはわかりませんが~…。


 ガウさんにとっては弟子のつもりのティーゲが敵方についたのが許せないようですね~。


ソンプー「それならばこの私!ソンプーがお姫様方をエスコートいたしましょう!」


 クルクルと回りながらソンプーさんが飛び出してきました~。最初の頃はもっと普通の人だったと思いましたがこの方も何か段々変になってきているようです~。


狐神「ソンプー。あんたアキラを諦めてガウに乗り換えたのかい?」


ソンプー「おおぅ…。キツネ様なんということを言われるのですか。私のアキラ様への愛は永遠に変わりません!そのアキラ様が愛娘であると公言されているガウ様をお守りするのもまた私の愛の証でございましょう!!!」


 クルクル回ったり途中でポーズをとったりしながらオーバーな身振り手振りで話しています~。


ミコ「つまりキュウは守る気がないってことかな?」


 ミコさんがじっとりとソンプーさんを睨んでいます~。私は別にソンプーさんに守っていただかなくても良いのですがミコさんはそれでは納得出来ないようです~。


ソンプー「お~う…。ミコ様!それはとんだ誤解です。もちろんアキラ様の奥方様であらせられるキュウ様もお守りいたしますとも!」


カンスイ「俺も行こう。」


ソンプー「おお~う!カンスイ!後から出てきて良い所だけ持っていこうと言うのか?」


 ソンプーさんとカンスイさんで何やら言い争いが始まってしまいました~。いちいち聞いていられないのでアキラさんがいつも言う『するー』というのをすることにします~。


太刀の獣神「………俺も行く。」


 ………。あれあれ~?太刀の獣神さんも行くと言われているのですが声が小さすぎて誰も気にしてません~。もしかしたらちゃんと聞いてたのは私だけかもしれませんね~。


 ………あ~。太刀の獣神さん少し涙目になってます~。でも面倒臭そうなので『するー』しておきます~。


狐神「はぁ…。もう止めても無駄だってわかってるから止めないけど…、絶対帰ってくるんだよ?」


 キツネさんも『するー』されるんですね~。私も聞かなかったことにしておきます~。


キュウ「はい~。アキラさんと~、あ~んなことや~、こ~んなことを~、するために~、必ず帰ってきます~。」


最古の竜『それではこの玉を持って行くがいい。』


キュウ「はい~。ありがとうございますぅ~。」


 私の分とガウさんの分を受け取ってそれぞれ持ちます~。


キュウ「それではいってきます~。」


ガウ「がうがう!いってきますなの。」


ミコ「キュウ、ガウちゃん、絶対帰ってきてね?」


狐神「早く帰って来ないと私が先にアキラと子作りしちまうからね!それが嫌ならさっさと帰ってくるんだよ!」


ガウ「がうがう!」


 私はただお辞儀をします~。それほど長い時間ではありませんでしたが、私はこの温かく居心地の良い場所にいられて幸せでした~。


 ………いってきますアキラさ~ん。




  ~~~~~ツノウ~~~~~




 ああ~!どうしましょう!どうしましょう!いいいい一体どうしたら………!


サキム「ツノウちゃ~ん、少しは落ち着いた方が良いと思うの~。」


ツノウ「サキム伯母さま…。そうは言っても………。」


サキム「ツノウちゃ~ん!サキムお姉ちゃんかサキムちゃんって呼ぶ約束でしょう~?」


 私の言葉の途中でサキム伯母さまが怖い笑顔で割り込んできました。ちょっと…、いえ、かなり怖いです………。


ツノウ「サキムちゃんはちょっと………。」


サキム「だったらサキムお姉ちゃんでお願いね~?」


ツノウ「それもちょっと…。」


サキム「だったら何て呼ぶつもりかしら~?まさかおばさんなんて言わないわよね~?」


 近いです…。怖いです…。ぐいぐいと怖い笑顔で迫ってくるサキム伯母さまが怖くて頭が働きません。


ツノウ「とととととにかく!一体どうしたら良いのでしょうか?」


 何とかサキム伯母さまの追及を逃れるために話題を逸らします………。じゃありません。こちらが本題でした。


サキム「う~ん?難しく考えることはないのよ~?ツノウちゃんが~、したいようにすれば良いの~。」


ツノウ「したいように………。」


 私がしたいように…。私はどう思っているんでしょう…。


サキム「ツノウちゃんはキュウを困らせたいのかしら~?」


ツノウ「まさか!私はキュウお姉さまが大好きです。キュウお姉さまにご迷惑をかけたいはずはありません。」


サキム「ツノウちゃんはアキラ様を裏切りたいのかしら~?」


ツノウ「そんなはずありません!アキラ様は私の初恋の……!あっ……。………何でもありません。」


サキム「良いのよ~。私もアキラ様の側室を狙ってるから~。」


 えぇ…。キュウお姉さまがすでにアキラ様の奥様になられているのにサキム伯母さままで狙っておられたのですか………?


サキム「だったらもう答えは決まっているわよね~?」


 サキム伯母さまが背中を押してくれました。そうです。私は何を悩んでいたのでしょうか。悩む必要などなかったのです。


ツノウ「………わかりました。兎人種は何があろうとアキラ様についていきます。アマテラスでもツクヨミでも従いません。」


サキム「ツノウちゃんがそう決めたのならそれで良いと思うわ~。兎人種は全員ツノウちゃんの決定に従うから~。」


 サキム伯母さまはそっと私を抱き締めてくれました。この大きな胸に抱き締められると何だか安心します。


サキム「ツノウちゃ~ん。そんなにおっぱい揉み揉みされたらくすぐったいわ~。子供の頃のことを思い出させちゃったかしら~?」


 私は知らず知らずのうちにサキム伯母さまの胸を揉みしだいていたようです。赤子をあやすように『ヨシヨシ』と頭を撫でられて急に恥ずかしくなってきた私はサキム伯母さまから離れました。


ツノウ「えっと…。ごめんなさい。」


サキム「謝らなくても良いのよ~?むしろもっと甘えて欲しいわ~。」


 一度離れたのにさらに抱き寄せられてまたヨシヨシと撫でられてしまいました。少し恥ずかしいですがそのまま少しだけ甘えます。


 落ち着いた私はそっとサキム伯母さまから離れます。サキム伯母さまはまだ物足りないのか手をワキワキさせていますが、いつまでもこうしているわけにもいきません。


ツノウ「ありがとうございましたサキム伯母さ……。」


サキム「ツノウちゃ~ん?それはなしって言ったでしょ~?」


 またまた怖い笑顔で迫られてしまいました。


ツノウ「とにかくありがとうございました。」


サキム「いいのよ~。またいつでもこのおっぱいに甘えてね~。」


 胸に抱き締めてもらったことではなくて、皆を戦いに巻き込んでしまうことを悩んでいたのを後押ししてくれたことに対してなのですが………。


サキム「アキラ様もこのおっぱい大好きなんだから~。」


ツノウ「えっ!どどどどういうことですか?」


 サキム伯母さまとアキラ様の間に何かあったのでしょうか?もしアキラ様がサキム伯母さまにまで色々されたのならばもしかして私にもチャンスが………。


サキム「アキラ様は大きなおっぱいが大好きで~、私と会うと一番最初におっぱいを見て~、おっぱいに話しかけるのよ~。それがまた可愛くってぇ~。………ってあら~?ツノウちゃんどうしたの~?」


ツノウ「………。」


 私は自分の胸を両手で寄せてみます。………ですがあまり集まりません。サキム伯母さまやキュウお姉さまは胸がとても大きいのに私だけとても小さいのです。


 いえ、伯母さまやお姉さまだけではありません。一族中の女性が全て大きな胸をしているのに私だけ小さいのです。私だけ他所の子だと言われてもこの胸を見れば納得してしまいそうです………。


サキム「あら~?ツノウちゃん~?もしかしておっぱいが小さいことを気にしてるのかしら~?」


ツノウ「うっ………。」


 そこまではっきり言われるとちょっと苦しくなります。


サキム「いいのよ~?気にしなくてもトカちゃんだってぺったんこなんだから~。」


ツノウ「………当たり前ではないですか。」


 トカさまはキュウお姉さまの妹さまで私の従妹にあたります。本家筋の方なので私はトカさまが成長されて巫女を継がれるまでの間だけ巫女をお預かりしているにすぎません。


 トカさまはまだ幼い子供ですので私の方が胸が大きくて当たり前です。私はこれでも兎人種の掟ではもう結婚も出来る年です。幼子のトカさまより私の方が小さかったらそっちの方が問題です。


サキム「まぁまぁ…。私もキュウもツノウちゃんくらいの頃はおっぱいが小さかったのよ~?だから気にしなくてもこれから大きくなるわ~。それに大きいと肩こりがひどくって~…。あまり良いことはないわよ~?」


ツノウ「本当に大きくなるでしょうか……?それに大きくても良いことはないってあるじゃないですか…。アキラ様は大きい方がお好きなのでしょう?」


 私はもう一度自分の胸を両手で寄せてみます。谷間すら出来ません………。サキム伯母さまやキュウお姉さまが私くらいの頃に小さかったなど信じられません。


 私のお母さまだって大きいのに…。どうして私はこう胸が小さいのでしょうか………。


サキム「よく考えてツノウちゃ~ん。アキラ様の奥様方の中にはおっぱいの小さな方もおられたわ~。アキラ様は大きなおっぱいが好きだと思うけど小さいおっぱいも好きなのよ~。」


ツノウ「それはそれで………。」


 何だかそんな言い方をするとアキラ様は女性の胸なら何でも良いように聞こえてしまいます。


サキム「あ~。勘違いしては駄目よ~?アキラ様は好きな相手ならどんなおっぱいでも気にしないってことよ~。だからツノウちゃんもアキラ様に気に入ってもらえればどんなおっぱいかなんて関係ないのよ~。」


ツノウ「なるほど…。」


 それならば私も気に入っていただけさえすれば胸が大きいか小さいかなど関係なく………。


ツノウ「って違いますよ!私はアキラ様とそのような大それたことをしようだとか思っていません!」


サキム「あらあら~。照れなくても良いのに~。二人でアキラ様の側室になりましょう~?」


 それはもちろんそうなりたいですけど………。って違います!私は別にそこまで高望みしていません。


ツノウ「とにかく今はそのような時ではないでしょう?里の者達に指示を出しましょう。」


 そうです。もう兎人種の里はアキラ様に与すると決めたのです。アキラ様のお役に立つために早く動かなくてはなりません。


サキム「そうね~。それじゃこれからちょっとトカちゃんの様子を見てくるから三玉家には私から伝えておくわ~。」


ツノウ「お願いします。里の者達には私から伝えます。」


 こうしてサキム伯母さまと別れて準備を進めたのでした。




  ~~~~~ティーゲの苦悩~~~~~




 アマテラスとは一体何者なのだ…。あれほどの力を持つ者に大樹の民は対抗する術を持たない。我らはどうすれば良いのか主要な者達が集まって緊急会議を開いているが議論は平行線を辿り結論が出ない。


一同「「「「「王よ。ご決断を!」」」」」


 皆が俺に決断を迫ってくる。我らは獣神様にしか従わぬとして例え負けようともアマテラスと徹底抗戦を主張する者と、アマテラスに従い新秩序の中に入ろうと言う者の意見が拮抗している。


 どちらを選んでも俺は批判の矢面に立たされるであろう。普段は俺のことなど軽んじているくせにこんな時だけ王だ何だと持て囃して責任だけは俺に取らせようとする。


 何とも腹立たしい奴らではあるがこいつらがいなければ大樹の民を纏め上げ動かすことが出来ないのも事実だ。所詮お飾りの獣王でしかない俺の力などこの程度のものか………。


 その時会議室へと誰かが入ってきた。ここまで近づかれるまで気配すら感じなかった…。この者達は一体何者だ?姿は獣人族だがこれほど腕が立つ者達がいたなど聞いたこともない。


大獣神「鎮まれぇい!我輩が大獣神である!」


 入ってきた四人のうち中央に居た者がそう声を張り上げた。それを聞いて見てみればそのお方が大獣神様であるとわかる。太古の大戦以来神界より出られたことがないと聞いている大獣神様が一体何故このような時においでになられたのだろうか?


 そのお姿は父や兄と少し似ている。虎人種なのだろう。いや…、そもそももしかしたら我が家系は大獣神様の血を引いているのかもしれん。


 後ろの三人はそれぞれ力の獣神様、技の獣神様、風の獣神様と名乗られた。力の獣神様は熊人種のようだ。技の獣神様は獅子人種で風の獣神様は豹人種だった。


 風の獣神様は時々大獣神様の伝令としてやってくることがあったそうだが、他の方々まで来られたなどと言う話は聞いたことがない。


 まぁ尤も俺は獣王になってから日が浅い。俺は風の獣神様ですら見たことはなかったがな。


大獣神「大樹の民はアマテラス様に従え!我らはこの時のために遥か昔から人神に協力してきたのだ。」


一同「「「「「はは~っ!」」」」」


 こうして大獣神様の一言で全ては決した。たかが獣王でしかない俺が大獣神様の決定に異を唱えることなど許されざる行為だ。


 だが本当にそれでいいのか?俺はその決定に納得しているのか?


 他の者達は大獣神様と三人の獣神様を歓迎するために宴会を開くことになりそちらへ向かった。だが俺は気分が優れないと言って席を辞した。


 大獣神様達に対して失礼だとして渋い顔をする者も多かったが知ったことか。確かに大樹の民にとって偉大な方ではあるということはわかっているが俺は別に大獣神様に忠誠を誓っているわけではない。


 今まで俺達が苦労して運営してきた国のことを、何の苦労もすることなくただ眺めていただけの奴らにいきなり指示されなければならないのか。


 もちろん俺が獣王になってからは日が浅い。だが父も兄も獣王を継いできたのだ。父の苦悩も兄の迷いも見てきた。兄は父を超えようと色々と無茶をして褒められる王ではなかったがそれでも大樹の民のために身を粉にして働いていたのは間違いない。


 そういう者達が代々守り育んできた大樹の民を、いくら過去の英雄とは言え今まで大樹の民のために何もしてこなかった老害が突然やってきて偉そうに指示するなど認めたくはない。


 だが俺一人が異を唱えても俺に従う者は誰一人いないだろう。それほど大樹の民にとっては大獣神様というのは重い意味がある。


 本当に大獣神様の言われる通りアマテラスという者に与して良いのか?我らは兎人種との戦争に敗れて彼らに従うことにしたのではなかったのか?


 本来敗戦すればもっとひどい条件を突きつけられてもおかしくはなかった。歴史的経緯も前回の戦争になったことへの理由も全て兎人種に非はない。我らが戦争を吹っ掛けた上で負けたのだ。


 それでも厳しい条件を出すこともなく責任を追及されることもなくこうして大樹の民は残してもらえた。それなのに彼らを裏切ってアマテラス側について良いのか?


 俺のあまり良くない頭では答えが出ない。ただ同じ自問自答がずっと頭の中で繰り返される。


 そしてもう一つ俺の頭に浮かぶのは幼い少女…、いや、幼女の姿。ガウ様……。我らはガウ様を裏切ることになってしまいました………。


 あぁ…。ガウ様はきっとお怒りでしょう…。せめてガウ様に直接申し開きをしたい…。ガウ様にお会いしたい…。


 ………俺がガウ様に懸想している?待て待て…。そんなことはない…、はずだ。確かにあれ以来寝ても覚めてもガウ様のことを考えているがきっと違う。


 そうだ。これはあれだ。憧れとか尊敬とかそういうものに違いない。あの純真な笑顔が見たい。可憐な姿が見たい。………いやいや。だからこれはきっと尊敬だ。そうに違いない。


親衛隊「何やってんすか隊長…。じゃなかった。獣王様。」


 俺が布団を抱き締めてベッドでゴロゴロしていると親衛隊達がいつの間にか部屋の中に入っていた。


 こいつらはアルクド王国出向虎人種部隊だった者達だ。今は俺の親衛隊になっているが未だに俺のことを隊長と呼ぶことが多い。


ティーゲ「勝手に入ってくるなよ…。」


親衛隊「え~?ちゃんとノックもしましたし隊長が返事をしたんじゃないですか。」


 したっけか?わからん。覚えが無い。ただ無意識にいつも通りに返事をした可能性はある。


親衛隊「どうせいつもの、ガウ様を想ってハァハァしてたんでしょ?」


ティーゲ「なっ!ばっ、馬鹿!そんなんじゃないぞ!」


親衛隊「またまた~。誤魔化さなくてもいいですよ。俺達だってガウ様のことをお慕いしていますから。」


ティーゲ「何だと!おい!ガウ様に手を出したら俺が八つ裂きにしてやるからな!」


親衛隊「いやいや。お慕いはしてますけどそこまで度胸ないですよ。そもそもガウ様のご主人が怖すぎます。あの人に逆らってガウ様を奪おうなんて思えませんよ。」


 そう言えばそうか。あのお方がガウ様を守っている以上は手出し出来る者などいまい。これでガウ様の貞操も安全だ。……やっ。違うぞ。俺は別にガウ様にそんな気はないからな!


ティーゲ「とにかく…。大樹の民はどうやらアマテラスにつきそうだが、万が一の場合は俺達だけでもガウ様につくぞ。いいな?」


親衛隊「わかってますよ。それを言いに俺達もやってきたんです。」


 うむ…。やはりこいつらは他の者とは違う。こいつらならばガウ様につくと信じていたぞ。宴会場では大獣神様達と大樹の民の上層部でアマテラスとの協力について話し合われているだろう。


 だがこちらはこちらで別の話をさせてもらおう。俺達はどうやってガウ様の手助けをするか話し合ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ