第百二十一話「変わらぬ結末」
ヤタガラスさんが出してくれた門を潜るとそこは………。
クシナ「ここは………、どこでしょう?」
気候的に東大陸だとは思うのですが場所がまったくわかりません。
シュラ「ここぁ…、俺の里の近くのようですなぁ。」
クシナ「シュラさんは場所がわかるのですか?」
シュラ「ええ…、まぁ…。でもここからドラゴニアまでは結構距離がありますぜ。」
どうやら東大陸の中でもファング側の南西方面に出てしまったようです。
クシナ「それはやむを得ませんね。場所がわかるだけでも助かります。案内していただけますか?」
シュラ「へぇ…。ドラゴニアとの国境はこっちです。」
シュラさんの案内で先へ進みます。道のわかる方が居られて助かりました。私一人なら早速躓いていた所です。ドラゴン族は空を飛べば良いということで地上の道をほとんど覚えていないのが問題ですね。
クシナ「それでは参りましょう。」
ルリ「………ん。」
当然街道など通ることなく森でも山でも一直線に突っ切ります。
クシナ「コンヂさんはいつも情けないのでついてこれないかと思っておりましたが…。どうやら心配ないようですね。」
結構な速度で移動しているのでコンヂさんはついてこれないかと心配していましたがしっかりついて来ていました。
コンヂ「ひどいっすクシナ様。俺っちだってこれくらいは余裕っすよ!」
クシナ「あら?それは侮って申し訳ありません。それではもっと速度を上げましょうか。」
コンヂ「うぇ!そっ、それはちょっと…。また今度ってことでどうっすかね?あ!そうっす!あまり急いで敵に会う前に疲れたら大変っすよ。それから~…、そうっす!敵に気付かれるかもしれないっす!慎重に進みましょう!ね?」
コンヂさんは大袈裟な身振り手振りでこれ以上速度を上げないように理由を考えて説明しているようです。
シュラ「まったく…。見栄を張るからだ。身の丈にあったように振舞えって教えただろう!」
コンヂ「は~い…。すみませんっす…。」
シュラさんに怒られてすっかり大人しくなってしまいました。ですがコンヂさんのお陰で空気が軽くなった気がします。
もしかしてコンヂさんはそれを狙ってわざとこういう風に振舞っているのではないでしょうか。
クシナ「コンヂさんありがとうございます。」
コンヂ「へっ?何のことっすか?」
どうやらコンヂさんは狙ってやっているわけではないようですね。ですが狙ってか偶然かは関係ありません。こうしてコンヂさんが私達を和ませてくれているのは事実なのですからそのことへの感謝に変わりはないのです。
クシナ「ふふっ。何でもありません。ただコンヂさんには感謝していますよ。」
コンヂ「ほわぁ~………。クシナ様ってそうやって柔らかく微笑んでると女神様みたいっすねぇ…。」
コンヂさんは何かうっとりした顔で私を見つめています。
クシナ「って!めめめ女神!?わわわ私がですか!?」
そのようなことを言われたのはアキラさん以外では始めてです。どどどどうしたら………。
コンヂ「はいっす!アキラ様の次に可憐で美しいっすよ!」
………あっそうですか。はいはい…。アキラさんの次にね………。
コンヂ「えっ?あれ?クシナ様急にどうしたっすか?何か能面みたいな顔になったっすよ?」
クシナ「………何でもありません。先を急ぎますよ。」
コンヂ「あっ!待ってくださいっす!速いっすよ!」
私はコンヂさんを放って速度を上げて移動します。
それはアキラさんは私から見ても惚れ惚れするほど綺麗ですけど………。それでもやっぱりアキラさんより美しくないとか二番目だとか言われたら色々ショックくらい受けます。
何より私が美しくないと言われるのはまるで『お前じゃアキラに釣り合わない』と言われてるようで何だか胸がモヤモヤするのです………。
そんな気持ちを振り切るように私は速度を上げていったのでした。
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ドラゴニアの国境を越えた辺りから先導役をシュラさんと代わります。さすがに私でもこの辺りまでくれば何とかわかるのです。
シュラ「ドラゴニアの王城に向かうんですかい?最古の竜様の所へ向かわれた方がよろしんじゃねぇですかね?」
シュラさんもお爺様の心配をしてくれているようです。それはうれしく思いますがやるべきことを間違えてはいけません。
クシナ「お気遣いは感謝いたします。ですが私達の目的はお爺様ではありません。ドラゴン族を少しでも救うことが目的です。」
シュラ「本当によろしいんで?こう言っちゃあ何ですがさっきの様子からして最古の竜様はそう長くないんでしょうよ?これが最後の別れになるかもしれねぇのにそこへ会いに行ったからって誰も何も言いやしやせんぜ?」
確かに実の祖父で育ての親でもあるお爺様の死に目に会いに行くことすら許さない人などよほど情けの無い人だけでしょう。
私達の中にそのような血も涙もない人はいません。ですがそれに甘えて自分のやるべきことを忘れて私情に流されても良いということにはなりません。
クシナ「私達は私達のするべきことをしましょう。私が訪ねて行ってもお爺様はきっと喜びません。」
そうです。それどころかきっと怒られてしまいます。それに…、私もすぐにお爺様と同じ場所に行くことになるでしょう。いえ、私の方が先に向こうへ逝くかもしれません。
それほど長い別れになるわけでもないのですからお爺様に『ドラゴン族の誇りを貫き通し出来ることは全てしました』と言える方が良いでしょう。
シュラ「まぁクシナ様がそれでよろしいってんなら俺が言うことじゃねぇんですけどね。」
クシナ「いえ。シュラさんのお心遣いは感謝しております。」
コンヂ「そんなことよりこれからどうするっすか?下手に近寄ったら俺っち達も前までの二の舞じゃないっすかね?」
シュラ「おい!そんなことって何だ!」
コンヂ「痛いっす!すんませんっす!」
コンヂさんはシュラさんに怒られてこめかみを拳でグリグリされています。
クシナ「まぁまぁ、それくらいで…。それよりもお爺様から話を聞いて思ったことがあるのです。」
そう言うとコンヂさんの頭をグリグリしていたシュラさんも動きを止めて私の話に耳を傾けました。
クシナ「まずこれまでのパターンは二つとも味方の拠点には突入せずに周囲で様子を窺っている間に敵に見つかっています。」
シュラ「それはそうですが…。そりゃあ当たり前じゃねぇですか?もう救援に向かっても助けられないなら下手に近寄って自分達まで見つかるより少し離れたところから状況を窺うもんでしょ?」
シュラさんはまだコンヂさんの頭を掴んだまま当然の考えを口にします。
クシナ「誰もがそう考えるでしょう。そう…。敵もね。」
シュラ「………あっ!あぁ~…、そういうことですかい…。」
シュラさんもようやく思い至ったようです。そう。つまり誰もが当たり前のこととして考えることは敵も考え気付くのです。
敵はその当たり前のことに対して適切な対処をしておけば良いのです。そうすれば相手から勝手にその対処へと嵌ってくれるのですから敵にとってもこんな楽なことはありません。
クシナ「ですから敵が『まさかそんなことをするとは』と思うようなことをしなければ、こちらの動きは読まれてしまいます。」
コンヂ「………そうは言ってもじゃあ何をすればいいっすか?」
そうですね…。それは私もまだよくわかりません…。一体どうすれば敵の裏をかけるのか………。
ルリ「………ん。王城に突っ込む。」
三人「「「………え?」」」
王城に突っ込む?それは………。
シュラ「いくら何でもそいつぁ無茶ですぜ。」
コンヂ「敵はそんな行動予測してないかもしれないっすけど、それをしたら敵の思う壺っすよね。」
クシナ「………そうでしょうか?敵もまさか正面突破してくるとは思っていないでしょう。敵の不意を突いて正面から突破して城に残った者達と合流。その後すぐに全員で脱出…。どうでしょう?いけそうじゃありませんか?」
シュラさんとコンヂさんは目を丸くして固まってしまいました。ルリさんだけがウンウンと頷いてくれています。
コンヂ「………アキラ様がクシナ様は脳筋だって言ってた意味がやっとわかったっす。」
………『のうきん』とはどういう意味でしょうか?話の流れとニュアンスからしてあまり良い意味ではないような気はします。
シュラ「どちらにしろ奥方二人がその気になってるのに護衛の俺達がいかねぇわけにはいかねぇよな。」
コンヂ「そうっすね…。腹を括るっす!」
どうやら皆さんの覚悟は決まったようです。そこでどう突入してどう脱出するか話し合いました。
ここはまだドラゴニア王城から遠く現地がどのような状況になっているのかも敵の配置もわかりませんが、下手にこれ以上近づくと今までのように敵に気付かれてしまう危険が高いのでここで予測だけで話し合います。
もちろん誰もそんな予想通りに行くとは思っていません。ですから細かい打ち合わせはなしです。大まかな作戦だけ決めてお互いの認識をすり合わせておきます。
あとは出たとこ勝負でお互いに指示を出し合って連携するしかありません。本来このような場合はもっとお互いにやり慣れた相手と組んだ場合にしかしてはいけないと思いますが、今はそんなことは言っていられません。
こうして出来る限りの準備をしてドラゴニア王城へと近づいて行ったのでした。
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今までのパターンからして目的地の近くでウロウロしていては敵に見つかってしまう可能性が高いでしょう。ですから私達は王城から少し離れた所で最後の打ち合わせをしてから一気に城まで駆け抜けました。
敵は城を包囲していましたが、全周囲を隙間なく包囲しているわけでもなく、さらにまさか後方から敵がやってくるとは思っていなかったのか簡単に通り抜けることが出来ました。
あるいはこれも敵の罠なのかもしれませんが、罠かもしれないから突入するのはやめようなどと言っていては救援作戦など出来ません。
無事に包囲を突破して王城へと辿り着いた私達は謁見の間へと向かいました。
西の竜「クシナ殿!よくぞご無事で!」
謁見の間の前に西の竜が立っていました。私達を待っていたわけではなさそうですが…。一体どうしたのでしょうか。
クシナ「西の竜。竜王に話があります。私達が敵を突破してきたことで敵が乱れているはずです。この隙に城から脱出しましょう。」
背後から私達が駆け抜けたために敵も多少なりとも動揺しているはずです。さらに他の援軍がいるかもしれないと背後への警戒もしているでしょう。この隙に脱出しなければこの城で籠城してもいずれ殺されるだけです。
西の竜「陛下は………。」
西の竜が暗い顔をしています。………もしや竜王の身に何かあったのでしょうか。
クシナ「とにかく竜王の所へ案内しなさい!」
このままここで西の竜と押し問答をしていても時間の無駄です。早く行動しなければ敵の包囲網が立て直された後では脱出もままなりません。
西の竜「………こちらへ。」
西の竜に案内されてどこかの部屋へとやってきました。西の竜は扉をノックして声をかけると中からの返事も待たずに扉を開けて入っていきました。私達もそれに続いて中へと入ります。
その部屋の中央には明らかに不自然な形でベッドが置かれています。恐らく本来はベッドなどを置いて休む部屋ではない所にベッドを持ってきて置いているのでしょう。
理由は恐らく警備上の問題ではないかと思います。後宮のような場所はきっと防衛や籠城に不向きなのでしょう。ですからこちらにベッドを運び込み王族達を守りやすいここで寝泊りさせるつもりなのでしょう。
そのベッドには竜王が寝かされています。見なくとも気配で誰だかわかりますし生きていることもわかります。
クシナ「竜王。私達が敵陣を突破してきたことで敵の包囲網が緩んでいるはずです。今のうちに脱出するように全員に指示しなさい。」
竜王「………クシナか。余はもう駄目だ。長くはない。そこでそなたにドラゴニアの全権限を移譲しよう。そのために最後に余と結婚してくれ。」
………。
クシナ「…私はアキラさんの妻です。貴方と結婚など出来ません。」
竜王「格好だけで良いのだ。妃となれば王が死んだ後に執政を行うのは当然であろう?余に代わってドラゴニアを救ってくれ。」
クシナ「………貴方は言葉までわからなくなりましたか?私には夫がいるから他の男と結婚など出来ないと言っているのです。」
竜王「………わかった。それならば最後の頼みを聞いてくれ。」
………まるで良い予感がしません。竜王は頭がおかしくなったのでしょうか?………いえ、最初からこういう愚か者でしたね。
クシナ「話を聞くだけ聞いてみましょう…。」
竜王「結婚は諦める。だから余と口付けしてくれ。それでクシナに王権を移譲したこととしよう。一度唇を許すだけでドラゴニアが手に入るのだ。悪い話ではなかろう?」
………もう駄目です。我慢の限界です。
クシナ「いい加減にしなさい!先ほどから黙って聞いていれば好き放題言ってくれるではないですか。そうやって権力や同情で女をどうにかしようなどと言う性根がもう腐っていると言っているのです。気持ち悪い。そんなことだから貴方は誰にも相手にもされずまともな家臣は出て行き嫁も来ないのです。貴方には何の魅力もないどころかその腐った性根に嫌悪感すら覚えます!我が夫と貴方では比べる器が違います。我が夫から私を奪いたいと言うのならせめてもう少しまともになってから口にしなさい!汚らわしい!」
西の竜「クシナ殿ちょっと抑えて!」
西の竜が慌てて私とベッドに寝ている竜王の間に入ってきました。言いたい放題ぶちまけてしまいましたがお陰で少しすっきりしました。
竜王「何故だ…。何故余はこうも報われぬ人生なのだ…。一体余の何が悪いと言うのだ………。」
まだ言ってる………。自分では何の決断も下せず楽な方や人の言う方にばかり流されて何もしていない。そして結果が伴わなければ人のせいにする。
そういう所が駄目な所で性根が腐っていると言っているのだとこれだけはっきり言っても理解出来ない竜王にはもう何を言っても無駄な気がしてきました。
クシナ「とにかくここを脱出するチャンスは今しかありません。ここでモタモタしていれば籠城した所で全滅するだけです。竜王が愚図で決断出来ないというのならば西の竜でも他の将軍でも誰でもいいです。今すぐ脱出する準備を命令しなさい。」
西の竜「むぅ…。しかし…。脱出しようとしても大きな犠牲が出るのではないのか?」
クシナ「ではお聞きしますがこのままここに留まってどうすると言うのですか?敵がその気になれば城ごと全員消し飛ばすことが出来ることくらいおわかりでしょう?そしていくら籠城しようとも敵はそんなことをしなくとも正面から堂々と攻めてくるだけでいつでもこの城を落とすことが出来ます。それもおわかりでしょう?」
西の竜「それは………。」
西の竜は反論出来ずにただ顔を背けて俯いただけでした。
竜王「ならば問おう。クシナの言う通りだったとして、ここに残れば死ぬだけだとしても脱出したならばその後はどうする?結局ここで死ぬか外で死ぬかの違いしかないのではないのか?それならば余は生まれ育ったここで死にたい。」
クシナ「確かに脱出出来たとしても、だからと言って助かったとは言えません。より長く辛く苦しい思いをするかもしれません。ですがここに留まれば確実な死です。脱出すれば九分九厘死ぬとしても僅かな可能性でも生き延びられる可能性があります。貴方が死にたいと言うのなら勝手にここで死になさい。ですが他の者にまでそれを強要するのはやめなさい。脱出したい者だけでも集めて脱出しても良いと認めなさい。」
本心では脱出したいと思っていても竜王の許可がなければ脱出しない者が大半でしょう。とにかく竜王に脱出することを認めさせなければ私達がここまでやってきた意味がありません。
竜王「皆余を捨てて行ってしまうというのか……。うぅ…。」
今度はめそめそと泣き出してしまいました………。何なのでしょう…。色々ひどすぎてもう言葉もありません。この竜王がひどいのでしょうか?それとも世の中の者はこの程度の者が多いのでしょうか?
もしかしてアキラさんの迷うことなく即断即決即実行が特別なのでしょうか…。私はアキラさん以外の男性とお付き合いしたことがないのでよくわかりません………。
アキラさんを基準に考えるとこの竜王はあまりに情けない。これが王たる者でしょうか………。
クシナ「はぁ…。よくこのような者を王として仕えることが出来ますね………。」
私は知らず知らずうっかり本音を漏らしてしまいました。
西の竜「陛下は素晴らしいお方だ!先ほどもこの負傷をした状態で我らを助けるために敵に立ち向かわれたのだ!いいか。そもそも………。」
西の竜の何かに触れたようで懇懇といかに竜王が素晴らしいか、これまでどれほどの偉業を成し遂げたのか説明されてしまいました。
終わったかと思うとまだまだ続き、途中で切り上げさせようとするとさらに熱く詳しく語り出し、結局その話は半刻ほども続いたのでした。
竜王「西の竜よ!そなたは余のことをそのように思ってくれていたのか!」
西の竜「はっ!当然でございます!」
竜王「西の竜よ~~!!!」
西の竜「陛下~~!!!」
………この茶番は何なのですか?ヒシッと抱き合う竜王と西の竜を冷めた眼で見つめます。それでも自分達の世界に入っている二人は気付きもしません。
クシナ「そんな茶番をしている時間はないと言っているでしょう!そんなことは後でやりなさい。とにかく今は脱出したい者だけでも脱出して良いように手配しないさいと言っているのです!」
竜王・西の竜「「はいっ!」」
ルリ「………クシナも中々の迫力。」
えっ!?どういう意味でしょう…。何かルリさんの一言が心に刺さりました………。
クシナ「とにかく脱出を………。」
???「逃がすわけにはいかんな。」
クシナ「―ッ!………貴方名前は?」
まるで気付かなかった…。いつの間にか私達が入ってきた扉にもたれかかりながら一人の男が立っていました。その強さは私達では歯が立たないと一目でわかるほどに強い…。
コヤネ「俺の名前はコヤネ。お前達を殺す者だ。」
コヤネ………。この者とここで戦っては全員死んでしまう…。何とかしなくては………。
コヤネ「………あまり小賢しいことを考えるなよ。戦いがつまらなくなる。」
…どうやら武人のようです。それならば………。
クシナ「ここには多くの非戦闘員がいます。その者達を守りながらではこちらは力を出せません。それに無抵抗の非戦闘員まで犠牲にするのが貴方のやり方ですか?」
これでどうでしょうか…。何とかこれに乗ってきてくれれば良いのですが…。
コヤネ「………いいだろう。お前達が正々堂々と全力で戦うと言うのならこちらが一つ折れてやろう。」
どうやら乗ってくれたようです。恐らく私の考えをわかった上で尚乗ってくれたのでしょう。
クシナ「聞いてみましょう…。」
コヤネ「城の外で俺と正々堂々と戦え。その条件で戦うのなら城に残している者達まで巻き添えにはなるまい?」
どうやらここから少し離れた所で戦えばここに残す者達は巻き添えにならないと言いたいようですね。
クシナ「ですがそれで私達がここを離れた後に包囲している貴方の兵が………。」
コヤネ「馬鹿にするなっ!勝負が終わるまで兵達には一切手出しはさせない。」
クシナ「勝負が終わるまでは?それでは勝負が終わった後は?」
コヤネ「もちろんお前達が負ければこの城を攻め落とす。」
クシナ「そんなっ!非戦闘員まで殺すのが貴方のやり方ですか!?」
コヤネ「何を勘違いしているか知らないがドラゴニアは俺達と敵対する道を選んだ。そこを攻め落とすのにとやかく言われる筋合いはない。非戦闘員を犠牲にしたくないのならこんな所に非戦闘員を置いていた方が悪い。」
………どうやらこれ以上は譲歩してくれそうにないですね。とにかく外で戦えばその間は手出ししないと言うのですからそれを信じるしかありません。
クシナ「わかりました。それでは戦闘員だけ外で戦うことにします。」
コヤネ「ならば半刻、表で待つ。」
それだけ言うとコヤネは出て行きました。少しだけ時間を稼ぐことには成功しましたが、あの手のタイプはこちらが約束を破れば容赦なくこちらを皆殺しにするでしょう。
とにかくコヤネとの約束を破らず、かつ出来るだけ多くの非戦闘員を脱出させる方法を考えなくては…。
クシナ「西の竜。貴方は私達がコヤネと戦って時間を稼いでいる間に城の者を連れて脱出しなさい。」
西の竜「しかし………。」
クシナ「このまま黙って全員を犠牲にするつもりですか?少しでも逃がせる可能性があるのならそちらに賭けなさい。」
西の竜「本来ならば我らがしなければならないことを…。………かたじけない。」
話は纏まりました。私達は少しだけ準備をしてから城の外へと出ました。後は西の竜達がうまく脱出して一人でも多く逃げ延びてくれることを願うだけです。
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出来るだけ時間を稼ぐために約束の時間ギリギリに表に出ました。私達が出てくるまでにわざわざ用意したのか、兵士達が囲う場所の中心には何か闘技場のようなものが用意されていました。
コヤネ「四人だけか?」
クシナ「そうですが何か問題でも?」
コヤネ「………いや。結局ドラゴニアは援軍に頼るだけで自らは戦うことすらしないのだな。」
………結果的にはそういうことになってしまいましたが、少なくとも四将軍達辺りは城を枕に最後まで戦う覚悟だったはずです。
何もドラゴン族が自分達では戦わずに私達に押し付けた卑怯者というわけではありません。
クシナ「それで誰から戦いますか?」
コヤネ「何を言っている?全員同時に来い。」
それではこちらが困るのですよ!貴方を相手に四人同時でも勝負にならないことはわかっています。ですが私達の目的は少しでも時間を稼ぐことです。
四人が順番に戦って、時間を稼ぐために逃げに徹すれば少しは粘れると考えていたのです。それなのに全員同時にされては稼げる時間が減ってしまいます。
クシナ「それでは正々堂々ではないでしょう?」
この者は武人気質でこういうことを気にしていたはずです。先ほどこの者自身が言った言葉なのでこれならば納得させられるかもしれないと期待しましたが無理でした。
コヤネ「全員で来い。」
静かな、しかし重い声でそう言い切られてしまいました。どうやらこれ以上粘っても無理のようです。
三人を振り返ってみました。皆が頷き返してくれます。止むを得ません。順番に戦って時間を稼ぐのは無理でも同時に戦えばそれだけ粘れる可能性があります。それで時間を稼ぐしかありません。
クシナ「それではいきます。」
ルリ「………ん。」
シュラ「………。」
コンヂ「ガクブルっすね………。」
コヤネ「冥土の土産に見せてやろう。これが天津神の力だ!」
対峙した瞬間コヤネが力を解き放ちました。
クシナ「―ッ!これが………。」
こんな相手に時間を稼ごうなどと…。私はなんと愚かだったのでしょうか…。
ルリ「………厳しい。」
………言葉とは裏腹にルリさんは結構余裕そうに聞こえるのは何故でしょうか?いつもと同じ調子だからでしょうか………。
シュラ「すまんシュリ…。お別れだ。」
コンヂ「あぁ~…。俺っちもここで終わりっすか。」
………ん~?シリアスなはずなのですが何かコンヂさんのせいかな?軽く感じてしまいます………。
ですがいくらこちらに緊張感が足りなくとも現実は変わりません。コヤネを相手に私達に出来ることは何一つないのです………。
コヤネ「正々堂々挑んできた心意気に免じて楽に殺してやろう。センジュゴン!!!」
コヤネが翳した掌から白い塊がプカプカと出てきて空を漂い始めました。ですが見た目のコミカルさに反してそれを見ると私の背筋にぞくぞくと悪い予感が走ります。
コンヂ「何すかこの技?」
クシナ「それに触れては駄目!」
シュラ「そうは言ってももう周囲を完全に囲まれてやすぜ………。」
次々に掌から出てくる白い塊に完全に囲まれてしまっています。もう避けることすら出来ません。
コヤネ「終わりだ。フッシ!!!」
周囲の白い塊が破裂して………。自分の体に飛んでくるのがひどくゆっくり感じます………。
ルリ「………あっくん。」
アキラさん。ごめんなさい………。私はここまでだったようです………。