第百二十話「崩れる世界」
ミコ「そんな…。ティア…、シルヴェストルちゃんまで………。」
ティアとシルヴェストルの魂の繋がりまで切れてしまいました………。
最古の竜『西大陸に向かった者の様子からしてどうやら敵の狙いはお前達のようだ。お前達が出て行けば必ず殺される。アキラが目覚めるまでここで大人しくしておくのが良いぞ。』
クシナ「そうですね…。お爺様の言われる通りです。………私達の身の安全だけを考えるのなら…ね。ですが私達が出て行かなければ、私達をおびき寄せるためにさらなる犠牲が出るのではないですか?」
私達を狙っているのならおびき寄せるために私達の縁のある者が次々に狙われるはずです。
最古の竜『………そうだな。』
ミコ「もう…、もうやだよ!これ以上誰にも死んで欲しくない!」
狐神「私らはアキラを通じて一心同体だからね…。誰かの魂が切れるたびに半身をもぎ取られたような痛みを伴うよ………。」
それは私も感じていました。誰かの魂の繋がりが切れるたびに我が身が切り裂かれたかのような感覚がします。
もちろん魂が引き裂かれる痛みだけではなく、これまで苦楽を共にしてきた仲間を、友達を失うことの辛さもあります。
ガウ「がうぅ………。」
クシナ「ガウさんも元気がありませんね………。」
空気が重い………。これほど重い空気は感じたことがありません…。私達は一体どうすればいいのでしょうか…。
狐神「………一つ、先に言っておくよ。」
キツネさんの言葉に全員の視線が集まります。一体何を言われるのでしょうか…。
狐神「もう次に出て行くとか言う者が居たら力ずくでも止めるからね。私はアキラの傍から離れないしあんたらも行かせない。それが納得出来ないなら私を倒してから行きな。」
キツネさんの言っていることもわかります。私にとってもここにいる人達が一番大切な人達です。見ず知らずのその他大勢の人達となど比べるべくもない大切な人達…。
ですが私は………。
キュウ「そもそもぉ~、どうしてぇ~、私達を~、狙っているのでしょうねぇ~?」
確かにそうです。これまでのことを考えると敵にとって私達など歯牙にもかけない存在のはずです。それなのに私達を執拗に狙う理由がわかりません。
狐神「………そうだね。」
ミコ「どうしてなんてもういいです!もう外のことなんて放っておきましょう!」
ルリ「………いつもなら一番に救おうって言うミコが今日は逆。」
ミコ「当たり前だよ!いつものことなら私達が解決出来るから言ってたの!アキラ君だっていつも言ってたよ!手に負えないことには手を出すなって!今回の件はもう私達の手に負えるレベルを超えてるんだよ!」
ルリ「………ん。」
ミコ「だから私もキツネさんと同じ意見!もう誰も死なせない!ここから出るなんて認めないから!」
確かに私達のことだけを考えればその通りです…。
クシナ「ですがそれでどうするんですか?シルヴェストルさんも言われていたではないですか。ずっとここに引き篭もっていればいいと言われるおつもりですか?」
ミコ「クシナ………。まさかここから出るつもり?駄目だよ…。駄目。絶対にさせないんだから!」
ミコが本気の眼で私を見据えています。私のことを想ってくれているからこそこう言っているのはわかっています。それはうれしく思いますがだからと言って私の考えを変えるつもりはありません。
クシナ「それでは私も先に言っておきましょう。もしドラゴン族に災いが降りかかるのならば私はドラゴン族のために戦います。」
ミコ「どうして!?どうしてよ?ドラゴニアはクシナや最古の竜さんにあまり良いことはしてなかったんでしょう!それなのにどうしてドラゴニアを守るためにクシナが命をかけなきゃいけないの?!」
なるほど…。そうですね…。でもそうではないのですよミコ………。
クシナ「私が命を賭けるのはドラゴニアのためではありません。私が命を賭けるのはドラゴン族のためです。」
ミコ「そんな…。そんなの結局一緒じゃない!詭弁だよ…。ずるいよ……。自分の種のためだって言われたら止められないじゃない………。そんなのずるいよ……。」
とうとうミコは泣き出してしまいました。私のために泣いてくれるその気持ちはうれしく思います。
狐神「ミコが諦めたって私は認めないよ。クシナ。出るつもりなら私を倒してからにしな。」
キツネさんがチリチリと痛いほどの神力で私に迫ります。はっきり言って私ではキツネさんに敵いません。ですが勝てなくともただ黙って引き下がるわけにはいきません。
ルリ「………今戦っても意味ない。クシナが出るかどうか決まってないし、今倒しても出る時に回復してたらまた何度も戦うことになる。」
狐神「………。」
クシナ「………。」
ルリさんが間に入ってそう言ったので私とキツネさんはお互いに顔を見合わせました。
狐神「はぁ…。白けちまったね。」
クシナ「ルリさんの言われる通りですね。」
まだドラゴン族が狙われて私が出て行くとも限りませんし、今戦って負けてもドラゴン族が狙われて私が出ることになるまでに時間があれば、回復した私はまた戦うでしょう。それならば何度も戦うより出る前になってから戦えばいいはずです。
もしかして…。ルリさんは私を助けてくれたのでしょうか…。チラッとルリさんを覗いてみてもいつも通りの無表情でどこを見ているのか虚ろな瞳をしていました。
クシナ「………ありがとうございました。」
ルリさんがどう考えているのかはわかりませんが、私が助けられたのは事実です。だからお礼を言っておきます。
ルリ「………ん。」
ルリさんは私の方を見ることもなくただそれだけ答えました。これはやっぱり私を助けてくれたということでしょうか…。それとも私が何故お礼を言ったのかに関係なくただ答えてくれただけなのでしょうか…。
その後は非常に険悪な雰囲気でした。キツネさんとミコは私に相当怒っているようです。すでに三人もいなくなって心が荒れていたところに私達の間にも大きな亀裂が入ってしまった気がします。
もう…、皆で笑い合っていたあの頃のようにはなれないのかもしれません………。
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お爺様にこれまでの見てきたことを細かく聞いてみました。やはり話を聞く限りでは敵は私達を狙っているようです。
狐神「………フランの時だけならまだどっちかわからなかったけどこれで決まりだね。」
キュウ「そうですねぇ~。」
ミコ「どうして私達を………。」
そうです。どうして私達を狙っているのかまるで見当がつきません。
クシナ「そもそも…、どうして私達の存在を知っているのでしょう?」
ミコ「え?それはだって……。あれ?どうして?」
どうして私達のことを知っているのか?いつから知っているのか?
狐神「………相当前からかなり詳しく私らのことを知ってるのは間違いないね。」
私達をおびき寄せることが出来る所ばかり攻撃してきています。それはつまりどこを攻撃すれば私達が出て行かざるを得ないか知っているということです。
クシナ「つまり次に狙われるのは…。」
キュウ「兎人種の里かぁ~、ドラゴン族ということに~、なりそうですねぇ~………。」
ガウさんの里はもう滅ぼされています。キツネさんは妖狐の里が襲われても気にも留めないでしょう。ミコとルリさんはこの世界の生まれではないそうなので故郷や家族を狙われることはありません。
となると残るはキュウさんか私の故郷ということになるでしょう。そして私はドラゴン族が狙われるのならば例え死ぬとわかっていても戦います。
チラッとキュウさんを見てみれば、キュウさんもいつも通りの笑顔のように見えてその顔には覚悟が見て取れました。
恐らくキュウさんも自分の故郷が狙われたら出て行く覚悟を持っているのでしょう。いつもニコニコ笑顔でそんな覚悟を持つような人には見えませんが、こういう人ほど一度腹を括るととことん行くタイプです…。
狐神「キュウ!クシナ!絶対駄目だからね!」
ルリ「………キツネにはわからない。」
ルリさんがボソッと何か言いました。
狐神「あ?何のことだい?」
ルリ「………守りたい故郷がないキツネには皆の気持ちはわからない。」
いつも虚ろなルリさんの瞳がキツネさんを真っ直ぐ捉えている気がします。あくまで気が………。
狐神「ああわからないね!私は例え死ぬとしてもその最後の一瞬までアキラと一緒に居たい!それなのに死ぬとわかっててアキラから離れてアキラ以外の者のために命を捨てる奴の気持ちなんてわからないよ!それともあんたらのアキラへの気持ちなんてそんなもんなのかい?」
クシナ「………取り消しなさい。」
狐神「あ?」
クシナ「取り消しなさい!他の何を許したとしてもアキラさんへの想いを貶すことは許しません!取り消しなさい!」
キツネさんの一言で完全に頭に血が上ってしまいました。
狐神「だったら何でアキラを放って他の者のために死にに行くんだい?」
キツネさんは疲れた顔で力なくそう言いました。そうか…。そうだったんですね…。キツネさんも私達の気持ちを馬鹿にしたり貶したりしようと思って言ったのではなかったのです。
クシナ「………アキラさんへの想いと故郷や仲間への思いは別のものです。そして敵が強いから、勝てないからと言って自分の想いを曲げるようなことをアキラさんは嫌うはずです。アキラさんならきっと『死んでも想いを貫き通せ』とか言うんじゃないでしょうか?」
ブリレ「違うよ~。主様なら『絶対勝って貫き通せ』って言うよ!」
一同「「「「「………。」」」」」
狐神「ぷっ…。あはははっ!そうだね!アキラならまず負けるとか死ぬって前提がないよね!あははは!」
クシナ「そうですね…。私もまだアキラさんのことをわかってなかったようです。ふふっ。」
一気にこの場の空気が軽くなりました。ブリレさんに感謝ですね。その時また世界にアマテラスの神力が満たされました。
アマテラス『それではわらわに従わぬ次の愚か者を処分する。ドラゴン族ドラゴニア。わらわに従わぬ愚か者は新しき世界にはいらぬ。古き世界と共に滅びよ。』
とうとうこの時が来てしまいました。
クシナ「止めないでくださいねキツネさん。」
狐神「………じゃあ約束しな。勝って帰ってくるんだよ?」
キツネさんだってそんなことは不可能だとわかっています。ですがそう言わずにはいられないのでしょう。それはつまりそれだけ私のことも想ってくれているということです。
クシナ「………必ず、帰ってきます。」
私はそれだけ言うと頭を下げました。もちろんそう願ったからと言ってそうはなりません。頭の片隅では冷静な私が生きて帰る方法などないと告げています。それでも…、その冷静な分析を握りつぶしてキツネさんを真っ直ぐ見据えて帰ってくると宣言します。
ルリ「………ん。大丈夫。ルリが付いてるからクシナは死なない。」
クシナ「えっ!ルリさん…。ついてきてくださるのですか?」
こう言っては何ですがまるで理由がわかりません。もちろん私とルリさんの関係自体は他の方達同様良好だったと言えます。ですがルリさんが命を賭けてまでドラゴン族のために尽くしてくれる理由がわからないのです。
ルリ「………ドラゴン族のことなんて知らない。ルリが行くのはクシナのため。クシナはルリによくしてくれた。ルリにはこんなことしか出来ないけど恩返し。」
クシナ「―ッ!ルリさん………。」
私がルリさんに命を賭けてもらうほどの何かをしたという記憶はありません。ただルリさんの言葉が私の心に染み渡ります。
ですがそんなルリさんの命まで私のせいで失くすわけにはいきません。私が口を開こうとすると…。
ルリ「………クシナはルリが寝てる時に毛布をかけ直してくれた。女の子の日で辛い時に楽になる方法を教えてくれて看病してくれた。嫌いな野菜が食べられるように料理を工夫してくれた。いっぱい…、いっぱいしてくれた。」
クシナ「そんな…。そんなこと当たり前ではないですか…。そんなことのためにルリさんまで命を賭けることは…。」
ルリ「………命賭ける違う。ルリはあっくんの所へ帰ってくる。クシナも帰ってくる。」
クシナ「うっ…。ルリさん…。うぅ……。」
駄目です。涙が溢れて前が見えません…。私はそっとルリさんを抱き寄せました。
ルリ「………ん。気にすることない。ルリもクシナもあっくんの所へ帰ってくる。」
クシナ「―ッ!はい…。そうですね…。そうですね………。きっと帰ってきましょう………。」
私はいつまでもルリさんを抱き締めたまま泣き続けました。
シュラ「それじゃちょっくら里帰りと行きますかい。」
クシナ「………え?」
シュリ「ちょっとお父さん?!」
まさかシュラさんまで?
シュラ「ドラゴニアのことは知りやせんが東大陸は俺の故郷ですからねぇ…。俺じゃ足手まといなのは百も承知ですが連れていってくだせぇ。いや、何と言われてもついていきやすぜ。いざとなったら俺のことを盾にでもしてくだせぇ。」
シュリ「………お父さん。」
シュラ「そんな顔するんじゃねぇ。ちょっくら里帰りしてくるだけだ。………隊長、娘のこと…、頼みましたぜ。」
シュラさん…。自分の命を賭けてまでジェイドさんとシュリさんをくっつけるおつもりですか………。ジェイドさんのアキラさんへの想いは変わりそうにありませんが…。情に厚いジェイドさんならばシュラさんの最後の願いを聞き届けるのでしょうか?
ジェイド「親衛隊でシュリの身の安全は守ると約束する。だがシュリと結ばれるかどうかはそんなことでは引き受けないからな。」
おや…?今の言い方は何か引っかかります。今までのように頑なに拒むというわけではなくなったようですね。これはいずれ本当にジェイドさんとシュリさんが結ばれる日が来るのかもしれません。………その日を見られないのが残念です。
コンヂ「俺っちもご一緒するっすよ。」
クシナ「シュラさんはまだわからなくもないですがコンヂさんがどうして?」
コンヂさんはファングにもドラゴニアにも東大陸にはまったく無縁だったはずです。それがなぜ一緒に来るのでしょうか?
コンヂ「いや~。俺っちはお調子者でしょ?調子に乗ってよく失敗してるんすけど、そんな時シュラさんがいつも俺っちのフォローしてくれてたんすよ。それに色々アドバイスもしてもらいました。だから俺っちもシュラさんへの恩返しっす。」
コンヂさんまで………。
シュラ「俺ぁ色々な傭兵団を渡り歩いたからよ。お前みたいなヒヨッコに教育してやったってわけだ。………でもおめぇ全然わかってねぇじゃねぇか。俺ぁ勝ち目のねぇ戦いはすんなって教えただろ?」
コンヂ「ちゃ~んとわかってるっすよ。俺っち達はちょこっと東大陸にクシナ様とシュラさんの里帰りに行って帰ってくるだけっしょ?すぐにアキラ様の所に帰ってくるっすよ。」
シュラ「コンヂ………。そうだな。ああ、そうだ。すぐにアキラ様のもとへ帰ってくる。ぱぱっと行ってぱぱっと片付けてくるぞ!」
コンヂ「はいっす!」
これで行くメンバーは決まったようですね。
クシナ「それでは行ってまいりますお爺様。」
最古の竜『何百年も待ってようやくアキラの傍に居られるようになったというのに馬鹿な孫だ。………これを持っていきなさい。』
クシナ「はい。」
私はお爺様からこちらの様子が見れるという玉を一つ取り出しルリさんに渡し、もう一つを自分の分として持ちました。
クシナ「ですが私を馬鹿だと断ずるのはまだ早いですよ。私はアキラさんのもとへと帰ってきますから…。」
ルリ「………ん。ルリもクシナも帰ってくる。」
クシナ「ね?二人で帰ってきますものね?………それではいってまいります。」
コンヂ「俺っち達も帰ってきますってば!二人だけにしないでくださいっすよ。」
クシナ「そうでしたわね。それでは…。ヤタガラスさんも…、お世話になりました。」
私達に湿っぽいのは似合いません。最後くらい皆で笑って逝きましょう………。
ヤタガラス「………。」
ヤタガラスさんはただ黙って門を開いてくれました。最後に一度だけアキラさんの眠る社に向かって頭を下げます。
これを潜ればもう戻れない。それをわかった上で覚悟を決めた私達は門を通り抜けたのでした。
~~~~~竜王~~~~~
まさか最古の竜が言っていたアマテラスやツクヨミが実在していたとは………。その上、遠呂知様まで身罷られたとは…。余は一体どうすれば良いのだ。
西の竜「竜王様…。我らはどうすれば良いのでしょうか?」
竜王「そんなこと余にわかるはずなかろう!」
西の竜「はっ…。申し訳ありませぬ…。」
西の竜は引き下がったように見えるが四人の将軍達は余を冷めた目で見ておる。貴様らに言われずともわかっておるわ。余には王たる資質がないと言いたいのであろうが…。
右大臣「陛下!ここは一先ずアマテラスと言う者に従ってはいかがでしょうか?」
竜王「ほうっ!ほうっ!申してみよ。」
西の竜「陛下………。」
竜王「なんだ!お前は意見もないくせに余の言うことも聞けぬと言うのか!右大臣よ。申してみよ。」
まったく西の竜め。余が意見を求めても何も考えなどないくせに他の者の意見の邪魔をしようなどと百万年早いわ。
右大臣「はっ!すでに六カ国同盟とやらも半壊している様子。さらに遠呂知様まですでに亡き者になっておるというのならば我らには六カ国同盟とやらに手を貸す謂れはありません。そこで先ずはアマテラスなる者に従い様子を見てはいかがでしょうか?」
なるほど…。悪くない。それでアマテラスが世界を征服したならばそのまま与しておけば良い。逆にアマテラスが負けるのならば六カ国同盟側のような顔をしておれば良い。
どちらに転んでも余に損はない。それが最上の策のようだな。
西の竜「陛下…。誇り高きドラゴン族たるものがそのような不義はなさいませぬよう…。」
何なのだこいつは先ほどから…。
竜王「西の竜よ。貴様先ほどから一体何なのだ?まともな意見があると言うのなら言うてみよ。尤も右大臣よりマシな策などないであろうがな。」
くくくっ。どうだ?西の竜よ。ぐうの音も出まい。
西の竜「それでは言わせていただきます。陛下…、いや…、竜王よ!貴方は一体ドラゴン族の誇りをどこに捨ててしまわれたのか!例え負け戦であろうとも、一度でも遠呂知様と六カ国同盟に与したのであれば、誇りを持って最後まで貫き通してみせよ!敵が強いからと己を曲げておもねようなど言語道断!誇りを持たぬ者に王たる資格なし!」
西の竜への怒りで余の腕がブルブルと震える。余に誇りがない?余に王たる資格がない?余を侮辱した罪許せぬ!
竜王「余を侮辱した罪万死に値する!北の竜よ!西の竜を斬り捨てよ!」
北の竜「………。」
右大臣「ほれ!はようせんか!王命であるぞ!」
それでも北の竜は眼を瞑ったまま動かぬ………。
竜王「ええい!もう良いわ!南の竜よ!西の竜を斬り捨てよ!」
南の竜「………。」
もしや…。もしや四将軍全てが余に逆らうつもりではあるまいな…。
竜王「東の竜よ。反逆者を処罰せよ!」
東の竜「………。」
ええい!何故誰も余の言うことを聞かぬのだ!
左大臣「どうした将軍共!貴様らは武力でしか役に立たぬだろうが!さっさとやらんか!」
大臣達「「「「「そうだそうだ!」」」」」
大臣達が将軍達をなじる。しかし将軍達は顔色一つ変えることはない。
北の竜「信も義もない王に従う故なし。」
南の竜「俺様ぁ難しいこたぁわからねぇが、ここでアマテラスに降るのは違うんじゃねぇか?」
東の竜「志は曲げぬ…。」
………。余は本当にこのままで良いのか?
右大臣「ええい!貴様らそれでも陛下に仕える将軍か!陛下の言うことが聞けぬなら将軍は首だ!さっさと出ていけ!」
大臣達「「「「「そうだそうだ!出て行け出て行け!」」」」」
左大臣「陛下!これより国政は全て我ら大臣にお任せください。我らはあのような裏切り者の将軍達とは違います!」
果たしてそうか?自らの保身と権力欲しかないこの大臣達に国を任せて国が良くなるのか?
将軍達は何故余に斬られる覚悟まで持ってこのように忠言しておるのか?誰が真の味方であるのかよく考えた方が良いのではないのか?
竜王「………アマテラスに従わぬ方が良いのか?」
右大臣「何を言われるのですか陛下!」
左大臣「そうです!アマテラスに逆らえば我らは滅ぼされます!」
確かに大臣達の言う通りだ。戦えばドラゴン族は滅ぼされよう………。
四将軍「「「「………。」」」」
四将軍達は余の決断を待っておる……。余は…。余は……。
竜王「………どちらにも与することなく様子を見る。」
四将軍「「「「………。」」」」
四将軍達は明らかに落胆した様子だ。逆に大臣達は喜び踊り出す者までいた。やはり選ぶべきは………。
竜王「………ごふっ!………何だ?」
急に胸に違和感が走り喉から何かが上がってきて口から出る。違和感を確かめようと自らの胸を見下ろすと………。
竜王「手?余の胸から…腕が…?」
何なのだこれは?余の胸から腕が生えておる………。
西の竜「陛下ぁぁぁ!!貴様ぁ!」
西の竜が一番に飛び出す。あれほど余に厳しいことを言っておきながら死ぬとわかっていて余を助けようと行動する…。やはり選ぶべきは将軍達であったのか…。
大臣達は未だに一人も動かん。しかし将軍達は西の竜に続いて余の胸を貫いておる者に向かっている。余は真の忠臣を無下にしていた。そして無下にされていても今尚余のために命をかけて敵に立ち向かってくれているこの者達を死なせてはならん。
竜王「全員動くな!!!」
余は最大限の覇気を放って声を上げる。こちらへ駆け寄ろうとしていた四将軍達も止まった。よし…。これで今すぐ殺されることはあるまい。
竜王「余を貫いておる貴様は何者だ?名を名乗れ。」
いきなり攻撃してくるような相手だ。名乗るとも限らないが少しでも時間を稼ぐにはこれしかない。その間に四将軍達に目で合図を送る。
コヤネ「都合の良い方に付こうなどという薄汚いドラゴンに名乗る名などないと言いたいところだが、最後の手向けに名乗ってやろう。俺の名前はコヤネ。アマテラス様に仕えし者だ。」
西の竜「不意打ちをしてくる貴様が我らを薄汚いなどと言う資格はない!」
馬鹿。西の竜よ。今のうちに逃げる用意をしておけ!余の合図をわかっているはずだ。敵を挑発してお前に目を向けさすな!
コヤネ「例え弱かろうとお前達が正々堂々と我らと戦う道を選んだのなら相応の礼を持って接してやっただろう。だがお前達はこそこそと裏で画策するような礼儀も恥も知らないことをしようとした。そのような薄汚いゴミどもには相応の態度で応えるのみ。」
駄目だと言っているだろう。四将軍達よ!逃げよ!………こうなれば。
竜王「この場は余が何とかする!全員この場から逃げよ!」
大臣達「「「「「ひぃぃぃっ!!!」」」」」
………うむ。大臣達はいの一番に逃げ出したようだな。
コヤネ「………。」
西の竜「陛下っ!」
東の竜「今お助けします!」
四将軍達は余を救おうとコヤネに向かっていく…。圧倒的力量差があることはわかっているのに…。殺されるのはわかっているのに………。余は何と愚かであったことか…。
………この忠臣達を死なせてはならん!
竜王「四将軍よ来るな!コヤネよ!余が相手だ!」
コヤネ「………どうやらあちらが奸臣であったようだな。お前達は今暫く生かしておいてやろう。一刻後に攻め込む。それまでに覚悟を決めておくがいい。」
竜王「ぐっ!」
コヤネが余の胸から腕を引き抜く。右肺は潰れているが今すぐ死ぬというほどではなさそうだ。
西の竜「待て!」
竜王「追うな!」
余の胸から腕を引き抜いたコヤネは大臣達が逃げて行った方へと進んで行った。どうやら余達は今は見逃されたようだ。
駆け寄ってきた四将軍に看病されながら思う…。今見逃されても結局助かる道はない。あの者と戦えばドラゴン族に勝ち目はない。
将軍達が言うように敵対する道も、大臣達が言うようにどっちつかずで様子を見る道も間違いだったのではないのか?
ドラゴン族が未来に渡って存続するためには最初から素直に降伏しアマテラスに従うのが正解だったのではないだろうか…。
薄れ行く意識の中で余はそんな後悔ばかりしていた………。