第百十九話「止まぬ惨劇」
ヤタガラスさんの出してくださった門を潜りました。するとそこは…。
シルヴェストル「………ここはどこなのじゃ?」
ティア「え?シルヴェストル様は御存知ないのですか?」
シルヴェストル「うむ。わしはほとんど禁忌の地の中におったからの。ティアがわかるのなら案内を……。」
ティア「わたくしにもわかりません。」
わたくしもここがどこだか、どっちへ行けば良いのかもわかりません。
シルヴェストル「………そもそもわしらがどこにいるかわからぬなどあり得ぬ事態なのじゃ。」
そうなのです。精霊族は空間移動を行うために優れた空間把握能力を持っているのです。目隠しされたままどこかへ連れて行かれても自分が今どこにいるかわかるはずなのです。
それなのに今は自分達がどこにいるのかすらわかりません。こんなことは初めてです。一体どうすれば良いのでしょうか?
ティア「ああどうしましょう!これでは国へ帰れません!」
シルヴェストル「うむ…。それに空間移動出来ぬのじゃ。恐らくじゃが敵がわしら精霊族の特性である空間移動を封じておるに違いない。」
ティア「そのようなことが可能なのですか!?」
シルヴェストル「パンデモニウムやカムスサでも空間移動出来なくなっていたのじゃ。何かそういう方法があるのは間違いないのじゃ。そして精霊族と戦争をするつもりなら空間移動を封じるのは当然なのじゃ。」
ティア「そんな………。」
もしそんなことが可能なのだとすれば一体そのような相手とどうやって戦えば良いと言うのでしょうか…。
ダザー「あのー…。差し出がましいようですが現在の居場所がわからないのでしたらどこか一方向へ進んではいかがでしょうか?」
どういうことでしょうか?それで逆方向へと進んでしまっては大変です。
シルヴェストル「う~む…。それしかないかの…。」
シルヴェストル様まで?!
ティア「それで逆方向に進んでしまったらどうされるのですか?!」
シルヴェストル「それもあり得るがの…。じゃが現在地も方向もわからぬまま闇雲に動いても同じところをグルグル回ることになったりして先に進めぬようになるのじゃ。こういう時はまず一方向に進んでどこか場所のわかるところへ出るべきじゃ。」
ティア「なるほど~!」
わたくし達ならば山や森で遭難したり魔獣に襲われて死ぬという心配はありません。それならどこか知っている場所に出るまで真っ直ぐ進めばどこかに出るはずです!さすがシルヴェストル様です!
シルヴェストル「じゃがティアの言うておったことも重要なのじゃ。何も考えずに方向を決めて逆方向に進めば辿り着けはしても時間を無駄にするのじゃ。出来るだけ目的地に近い方向へと進みたいのじゃ。………それにどこへ行けば良いのじゃ?」
ティア「え?皆さんアクアシャトーまでついて来てくださるのではないのですか?」
シルヴェストル「うむ…。それなのじゃがの。ティアの行く所へついて行くのはかまわぬのじゃ。問題はアクアシャトーに行ったとしてもウンディーネがおるのか?ということなのじゃ。」
意味がわかりません。どういうことでしょう?
ティア「どういうことですか?」
シルヴェストル「つまりの…。空間移動を封じられる前にどこかへ移動しておる可能性が高いのじゃ。」
ティア「どこへどうしてですか?」
わたくしにはまるでわかりません。敵が来るかもしれないのなら国を守るために国にいるのではないでしょうか?
シルヴェストル「例えばじゃが敵が強すぎるのを感じたはずじゃから精霊の園まで撤退している可能性もあるのじゃ。あるいは同盟国同士がどこかに戦力を結集しておる可能性もあるのじゃ。じゃから絶対に水の精霊王がアクアシャトーにおるとは限らんわけじゃ。」
ティア「そんな!それではどこへ向かえば良いのですか?!」
シルヴェストル「………それがわからんから困っておるわけじゃ。」
あぁ~!こんな時どうすれば良いのでしょうか!教えてくださいアキラ様!わたくしを導いてください。
ティア「………あっ!そうです!わたくし達は気配を感じることが出来るではないですか!精霊王の気配のある場所へ向かえば良いではないですか!」
さすがわたくしです!これでお母様の所へ迷わず行けます!
シルヴェストル「ティアよ…。じゃからそれが感じられんからわしらは空間移動出来ぬのじゃろ………?」
ティア「あぁ~!そうでした!感じることが出来ません!これではお母様の所へ行けません!」
結局振り出しです!これではいつまで経っても進めません!
シルヴェストル「こうなったら勘で進むかの…。」
ダザー「………はい。」
水の精霊神「私はどっちでもいいわよ。とにかく早く行きましょう!」
水の精霊神様はせっかちですねぇ…。少しはわたくしを見習ってもらいたいところです。
水の精霊神「ちょっとティア!あんた今何かふざけたこと考えてるわね!」
ヒェッ!こんな時だけ勘が良すぎです!
ティア「考えてません!何も考えてません!」
火の精霊神「………そんなことより早く行こうぜ。」
水の精霊神「ちょっと!エンのくせに偉そうなんですけど!そんな偉そうに言うならあんたが何とかしなさいよ!」
どうして水の精霊神様と火の精霊神様はいつもこうなのでしょうか…。確かに昔は火と水の関係は悪かったかもしれませんが今では良くなったはずです。
このお二人も仲良くしてくだされば他の者達も仲良くしやすくなると思うのですが……。
火の精霊神「たぶんだけど俺は方向がわかるぞ。確証はないけどザラマンデルンならいけると思う。」
水の精霊神「ちょっと!それならどうしてもっと早く言わないのよ!それに皆わからない中であんただけわかるとかエンのくせに生意気なんですけど!」
水の精霊神様……。それは流石にひどすぎではないでしょうか…。それなのに言われている火の精霊神様はあまり気にしていないようです。
火の精霊神「とにかく絶対合ってるって自信はないけどザラマンデルンはたぶんこっちだ。」
火の精霊神様が一方向を指し示します。
シルヴェストル「ならばそちらへ向かうしかないのじゃ。」
ティア「はいっ!」
こうして火の精霊神様の言われる方向へと進んで行ったのでした。
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暫く火の精霊神様の先導で森の中を歩きます。すると次第に景色が荒野のようになってきました。
水の精霊神「ちょっと!ここってあれじゃないのよ!」
火の精霊神「ああ…。スイも覚えてたのか?」
どうやら火の精霊神様と水の精霊神様に何か思い出のある場所のようです。
水の精霊神「何よ!知らないわよ!あんたとの初デートなんて覚えてないんだから!」
あぁ…。どうやらそういうことらしいです。あれ?でも確かお二人の頃にはすでに火と水は犬猿の仲だったのでは…?
水の精霊神「………どっかの馬鹿は種を取ったのか、異種だからびびったのか、ここでこんな良い女に振られて未だに惨めな独り者なのよね。」
火の精霊神「確かに俺達は種の未来を背負って立つ者だと嘱望されてた。だけど別に俺は種を取ったからとか、異種だからってスイと別れたわけじゃない。」
水の精霊神「ちょっと!その言い方だと私の方が振られたみたいに聞こえるんですけど!」
火の精霊神「ああ…、うん…。俺が振られたってことでいいよ…。」
水の精霊神「当然よね!」
………どうやらこの感じだと水の精霊神様の方が振られたようですね。
火の精霊神「俺がスイと別れることにしたのは…、俺達火の精は男に見えるけど無性だから…。スイの家系は子供を残さないといけないだろ…?だから無性の俺とじゃ子供が出来ないから………。」
水の精霊神「黙りなさいよ!何が子供よ!本当に好きならそれくらい何とかしてみなさいよ!」
水の精霊神様…。それは無茶ってものじゃないでしょうか………。
火の精霊神「………そうだな。だから俺はスイのこと好きじゃなかったんだろ。」
水の精霊神「なっ!!!このっ!」
水の精霊神様が火の精霊神様に襲いかかろうと飛び上がりました。
シルヴェストル「やめるのじゃ。いい加減にせぬとアキラに代わっておしおきしてやるのじゃ。」
水の精霊神「………ふんっ!」
火の精霊神「………。」
シルヴェストル様が間に入って止めたので何とか収まりましたがとても険悪な雰囲気です…。
水の精霊神「大体あんた無性だとか言っときながらアキラに欲情しているじゃないの!」
火の精霊神「………そうだな。あいつなら両性だからスイとでも子供を作れるし、無性の俺とでも特殊な力で何とかするかもな。」
水の精霊神「……否定…しないんだ?」
一瞬、ほんの一瞬だけ水の精霊神様は悲しそうな顔でぼそりと呟きました。恐らく隣にいたわたくし以外には誰も気に止めていなかったでしょう。
ですがわたくしは聞いてしまいました…。もしかしたら水の精霊神様は今でも………。
その後は誰もしゃべることなく重い空気の中を歩き続けたのでした。
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荒野をさらに進むと燃え盛る火山が見えてきました。
火の精霊神「ザラマンデルンが見えてきたぞ………。」
ようやく目的地の一つが見えてきたというのにわたくし達の空気は重いままです。いえ、さらに暗く重い空気になっています。
理由は…、この先にあるザラマンデルンの状態のためです………。
精霊族の気配は感知出来なくなっているとは言ってもこの距離ならば神力の動きは感知出来ます。その神力の気配がはっきりと伝えてくるのです…。すでにザラマンデルンは壊滅しているのだと………。
すでにザラマンデルンに居たはずの火の精霊達の神力はほとんど感知出来ません。これまで何度も立ち寄ってどれほどあそこにいるのか知っています。その記憶とは数がまったく合わないのです。
そしてまるでその代わりとでも言わんばかりに大勢いる見知らぬ神力を持つ人達。その全てが神様です。そうです。敵がすでに大量にザラマンデルンへと侵入しているのです………。
ゴンザ「これ以上近づくのはやめた方がいい。北大陸で起こったことと同じことになる。」
確かにその通りです。ザラマンデルンの方々には申し訳ないですがこのままわたくし達が援軍に入っても何の役にも立てません。この敵は強さの格が違うのです。
ここで無策のまま突入するよりも何か有効な策を考えて行動しなければなりません。まぁわたくしは何の策も思い浮かばないわけですが………。
ティア「無策のままザラマンデルンに入っても駄目でしょう。どなたか良い作戦を考えてください。」
シルヴェストル「………ティアよ。考える気すらないのかの?」
ティア「もちろん考えています!ですがわたくしはそういうことを考えるのは不得意なのです!戦略とか作戦とかを考えるのは他の方にお任せします!」
シルヴェストル「………そういうこと以外で考えるのが得意なことなどあったかの?」
ティア「どういう意味ですか!わたくしだってちゃんと物事を考えることくらいありますよ!例えば~…、今日のお昼ご飯は何だろうとか、今日の晩ご飯は何だろうとか!」
シルヴェストル「そうか…。ティアがそれで良いのなら良いのじゃ………。」
何かシルヴェストル様に可哀想な子を見るような目で見られている気がします。
ダザー「そういうところも可愛いです。アキラ様の奥方でなければ私も異種間恋愛を頑張ったかもしれません。」
何かダザーさんに熱い視線で見つめられている気がします。
ゴンザ「自分達の居る場所はわかったんだ。無理に襲われているザラマンデルンに侵入するより、まだ安全な違う場所を見に行った方が良いんじゃないのか?」
ゴンザさんの言われる通りです。まだ敵に襲われていない他の国を見に行った方が…。
シルヴェストル「恐らく無駄じゃの…。ここにいる敵の数からして他の三国も同時に攻められておるじゃろう。聞いた話では敵はもっとおるはずじゃからな。こんなに少ないはずはないのじゃ。」
ティア「そんな!それではアクアシャトーももう?」
シルヴェストル「こう言っては悪いが手遅れなのじゃ…。フランのことを聞いてわしらも敵のことをわかっておるつもりじゃった。じゃがわしらはわかっておらなんだのじゃ。………この敵はどうしようもないのじゃ。わしらの手に負えぬのじゃ……。」
全員が俯いて黙ってしまいました。確かにその通りです。フランがどういう最後だったのか聞いたはずなのにそれでもまだ楽観しているわたくし達がいたのです。
今までもなんとかなったのだから今度もなんとかなるんじゃないかと…。そんな甘い幻想を抱いていたのです。ですが今目の前に敵を感じるとはっきりとわかりました。
わたくし達など何人集めようともこの敵には太刀打ち出来ないのです。どちらにしろ今更カムスサには戻れないのです。ならば出来ることをしましょう!
ティア「もうカムスサに戻る方法はないのです。それならばわたくし達に出来ることをしましょう!」
シルヴェストル「出来ること?わしらに何が出来ると言うのじゃ?」
ティア「それは………。」
わたくしにも何も思い浮かびません。
ウンディーネ「ティア……?まさかそこにいるのはティアではありませんか?」
この声は…、それにこの神力も…。わたくしが間違えるはずはありません。これはお母様のものです!
ティア「お母様!」
喜びがこみ上げてきたわたくしはお母様の声のする方へと振り返りました………。ですがそこでわたくしの笑顔は固まってしまいました。
ティア「お母様っ!?どうなされたのですか!」
お母様はお腹を抑えていて…、ドレスは真っ赤で………。
ティア「あ…、あぁ…、あああぁぁっ!お母様っ!」
わたくしは必死でお母様のもとへと飛んで行きました。
ウンディーネ「落ち着きなさいティア。それからウンディーネ様と呼びなさいといつも言っているでしょう?」
ティア「そのようなことを言っている場合ですか!それに今は公ではありません!私的な時間です!」
近づいてわかりました。お母様の左脇腹は…、何もありません………。どう見てもそれはもう致命傷で………。出血が少なく、まだ意識があって動けるのは傷口を神力で覆い出血を抑えているからです…。
でも重要な臓器がなければそう長くは生きられません………。そしてこれだけ損傷した状態から治せるのはアキラ様だけです。そのアキラ様が動けない今はこの傷を治す手立てはありません…。
ないのです!お母様を救う方法が!今目の前にいるのに!わたくしにはどうすることも出来ないのです!
シルヴェストル「………後ろにいるのは土の精霊王殿か?」
シルヴェストル様の言葉でお母様の後ろを見ます。そこには二人の火の精に抱えられた髭の人が……。
ティア「嘘…。嘘です!こんなの嘘です!」
その小さな髭のお爺さんは右肩から左脇腹までばっさりと切り落とされ半身がありませんでした。確認するまでもありません。誰の目にも一目で息絶えているのだとわかります。
ウンディーネ「ノーム殿です。他の二人がどうなったのかはわかりません…。」
シルヴェストル「他の二人とはポイニクス殿とエアリエルのことかの?」
ウンディーネ「そうです…。アマテラスと言う者の宣戦布告が全世界に響き渡ってからポイニクス殿の要請で精霊王会談が開かれました。そして………。」
………
……
…
あれが今回の敵ですか…。まるで勝つ方法など浮かびません。ですが泣き言を言っている場合ではありませんね。出来ることをしなければ…。
ウンディーネ『イフリル殿。扉の前におられるのでしょう?先ほどの敵が言っていたようにあと一刻で敵が攻めて来ます。非戦闘員の住人達を避難させるのです。』
イフリル『………ポイニクス様。そのように手配してよろしいでしょうか?』
ポイニクス『………ううん。皆逃がして。』
おや?ポイニクス殿の様子が?
イフリル『は…?皆とは?』
ポイニクス『皆だよ!子供も兵士も皆!ここにいる全員をすぐに逃がして!』
イフリル『ははっ!ただちに!』
イフリル殿の気配が急いで離れていきます。それにしても……、ポイニクス殿のこの焦りようは何なのでしょうか?
今までポイニクス殿がこのように声を荒げたことなどアクアシャトーでわらわが婿殿に攻撃した時以来です。
普段は大人しくてお行儀の良い子で、それ以来怒ったり声を荒げたりしている所など見たこともありませんでした。
ポイニクス殿はわらわ達よりもずっと強い力を持っています。そのポイニクス殿がこれほど取り乱すということは、わらわ達ではわからなかった何かを先ほどの敵から感じ取ったのかもしれません。
ウンディーネ『とにかく今のうちに出来ることはしておきましょう。』
エアリエル『………残念ながらもう打つ手はないようです。』
エアリエルが暗い顔でそんなことを呟きました。一体どういうことでしょうか?
ウンディーネ『それはどういう?』
エアリエル『精霊族の移動を封じられているのです…。最早私達は伝令を出すことも逃げることも出来ません………。』
ウンディーネ『―ッ!』
言われてわらわもすぐに試してみます。………移動出来ません。これでは国に帰ることも…、指示を出すことすら出来ません。
移動の出来ぬ精霊族など良い的でしかありません。………始まる前からすでに絶望的な状況になってしまいました。
ノーム『だからと言ってここで座して死を待つわけでもあるまい?とにかく出来ることを考えようではないか。』
エアリエル『………そう…ですね。そうですねっ!まだ何か出来ることがあるはずです。皆さんで一緒に考えましょう!』
こうして空元気でしょうが元気に振舞っているエアリエルの声で精霊王会談が再開されました。
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残っている住人の避難や空間移動出来ずとも地上を飛んで伝令を出すことなどが決められて実行されていきました。
ノーム『そろそろ時間だな。』
ノームの言葉で会議室に緊張が走ります。またあの敵と対峙するかと思うだけで震えてきそうになるわらわの足に力を入れてぐっと堪えていると…。
ウケモチ『きひひひっ!約束の時間だよ~ん!』
おどけた様子で闇から這い出るようにウケモチが現れました。
ノーム『何をふざけたことを…。え…?ごふっ…。』
ウケモチ『わしは女の柔肌を切り裂くのが好きでな。でもむさい男はどうでもいい。死んどれ。』
エアリエル『あっ…、ああっ…、あああぁぁぁ!!!土の精霊王様!』
何をしたのかすらわかりませんでした。ただ気がついた時にはノーム殿は右肩からばっさりと袈裟切りに切り落とされていました………。
この敵は…、これはわらわ達でどうにか出来るものではありません………。
ウンディーネ『全員逃げなさい!早く!』
エアリエル『―ッ!』
ポイニクス『うぅ…。うわぁ~!!!』
二人が何か反応する気配は感じました。ですが二人がどうしたのか見ている余裕などありません。これと戦ってはいけません。これはわらわ達が触れてはならないものなのです。
とにかくわらわは体だけでもゲーノモスに返そうとノームの半身を掴んですぐにここから逃げ…。
ウケモチ『きひひっ。お前は切り裂き甲斐がありそうだなぁ?』
ドシュッとかドチャッとか何かそんな感じの音がお腹のほうから聞こえてきました。
ウンディーネ(ああ…。わらわも切られて………。)
足がもつれて倒れこみました。うまく動けません…。でも少し軽くなった気がします。最近は少し太り気味でお腹のお肉が余っていたからこれで少しは婿殿に喜んでいただける体型になったかしら?
なんてね…。ふふっ…。
ウケモチ『もう終わりかぁ?わしは女が泣き叫びながら許しを請うておるところを切り刻むのが好きなんだ。もっとわしを楽しませろ~!!きひひひっ!!!』
………切られたのは…、脇腹ですね。これならば…。
ウンディーネ『―ッ!フォグイリュージョン!!!』
ウケモチ『あぁ?………なんだぁ?』
わらわは濃霧を発生させます。これはただの霧ではありません。わらわの神力が込められているために神力が撹乱されてわらわの本体がどこにいるのか隠すためのものです。
これで暫くはウケモチに見つからないはずです。わらわは切られた脇腹に水の膜を張りこれ以上臓器と血が出ないように抑えてからノームの半身を掴んで部屋から脱出しました。
後はザラマンデルン内を逃げている間に見つけた火の精二人を伴って脱出しました。
………
……
…
お母様のお話を聞いたわたくしの体が勝手に震えてしまいます。こんな…、こんなことどうすれば良いと言うのでしょうか?
ウンディーネ「とにかくここに居ては危険です。早く逃げなさい。」
???「きひひひっ!そうだねぇ?危険だねぇ?きひひひひっ!!!」
どこからともなく…、わたくし達を馬鹿にするような笑い声が響き渡りました。
ウンディーネ「ウケモチ!?なぜっ!?」
ウケモチ「きひひっ!本当に自力で脱出出来たと思ってるわけぇ?わしが逃がしてやったんだよ~ん!きひひひっ!!!」
ウンディーネ「何故そのような………?」
ウケモチ「隠れてるお前らの仲間と合流すると思ったからさぁ~!!!きひひっ!!」
シルヴェストル「どうやらまんまと罠に嵌ったようじゃの………。」
その言い方ではまるでお母様のせいでわたくし達がこんな状況になったような言い方ではないですか!と叫びたかったのですが声が出せません。
このウケモチと言われた者を見ているだけで体が震えて頭が働かないのです。とにかくここから逃げ出したい!もうわたくしの頭の中はそのことだけで一杯でした。
水の精霊神「ここは私が時間を稼ぐからあんた達は逃げなさい!」
ティア「水の精霊神様………。」
水の精霊神様がわたくし達の前に立ってウケモチからわたくし達を庇ってくださっています。
ウケモチ「きひひっ!!いいねっ!いいねっ!!!無駄な足掻きだってわかってるのに必死に足掻くその様がいいよ!!!そして結局徒労に終わってその顔が絶望に染まるのがだ~い好きなんだぁぁぁ!きひひひひっ!!!あっ…、そぉ~れ!」
火の精霊神「スイっ!!!」
水の精霊神「あっ………。」
ウケモチが手を翳すと咄嗟に火の精霊神様が水の精霊神様に飛び掛りました。二人は抱き合って地面に倒れます………。
水の精霊神「ほんっとに…、この馬鹿エン。もっと早く私を掴まえに来なさいよ…。あんたが遅いから他の男の子供産んじゃったじゃない…。今度生まれ変わったら…、今度こそ私のこと幸せにしなさいよね…。」
火の精霊神「次はアキラに頼もう…。アキラを通じて俺もスイも繋がればいい…。」
水の精霊神「あんたってほんっと…、意気地なし…。あんまりそんな意気地のないことばっかり言ってたら私本当にアキラに乗り換えちゃうわよ?」
火の精霊神「ああ…、いいよ。スイの気持ちが変わっても俺の気持ちは変わらないから…。ずっとスイを想ってるから…。」
水の精霊神「だったら…、次こそは一緒に………。」
火の精霊神「………。」
そこで…、二人の会話は途切れました…。もう…、永遠にこの続きが紡がれることはありません………。
ティア「あ…、あぁ!いやあぁぁぁぁぁ!!もうこんなの嫌です!どうして!どうしてこんなことに!」
胸から下を失った状態で水の精霊神様と火の精霊神様はそれでも尚仲睦まじそうに抱き合って息絶えていました………。
ウケモチ「さぁ次は誰がばっさりいっちゃう?いっちゃう?皆でいっちゃううぅぅぅ?きひひひひっ!!!」
シルヴェストル「ティアっ!!!………アキラ。」
ダザー「―ッ!」
ティア「………あ。」
ウケモチの手が振られました。その手を振った直線状にいる人は全員………。
もうどうすることも出来ません。あの手から攻撃は放たれているのです。そしてわたくし達では防ぐ方法も回避する方法もありません。
アキラ様…。アキラ様っ!!!いやです!もっと一緒にアキラ様と………。