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転生無双  作者: 平朝臣
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第百十八話「負の連鎖」


ミコ「――フランっ!」


ティア「そんな…。こんな…、こんなことって……。」


 わたくしの体がわたくしの意思に関わらず勝手に震えてしまいます。ミコも思わず立ち上がってどこかへ駆けて行こうとしています。


キツネ「………落ち着きな。どこへ行くって言うんだい?」


ミコ「落ち着いている場合ですか!?フランが…、フランがっ!!!」


 どうなったのか詳しいことはわかりません。ただ感じることが出来るのはアキラ様を通して繋がっていたわたくし達の魂が…、フランの魂の繋がりが感じられなくなったということです…。


 それはつまりフランは………。


キツネ「だから落ち着きなって言ってるんだよ!………確かにフランに何かあったのは間違いないよ。アキラが眠ったままなのにこんな時に魂の繋がりが切れるなんて確かにおかしい。フランがアキラを嫌いになって魂の繋がりが切れるようなことがあったわけでもない。」


ミコ「だから!フランの身に何かあったんです!すぐに助けにいかないと!」


キツネ「落ち着けっ!いいかい?もしすでにフランが死んでるんだったらここでノコノコ他の嫁達まで出て行ったら皆死んじまうんだよ!別の理由で切れたのならフランはまだ無事ってことだし、もう死んでるんだとしたら今から行っても無意味なんだよ!冷静に考えな!」


 キツネ様の言っておられることもわかります…。ですがそれではあんまりではないですか?


ミコ「フランの身に何かあったかもしれないのにどうしてそんなに平気でいられるんですか!」


キツネ「誰が………。誰が平気だって!いい加減にしな!」


 キツネ様がドンッと叩いたテーブルは粉々に砕け散ってしまいました。その手を見てようやくわたくしとミコも気がつきました。


 キツネ様の手はきつく握り締められていて血が滲んでいました。キツネ様だって平気だったわけではなかったのです。


キツネ「ここで冷静にならなきゃますます犠牲が出るだけなんだよ!私はこれ以上誰も死んで欲しくないんだよ!これ以上誰かを失ったらアキラが目を覚ました時に何て言えばいいんだい!!!」


 キツネ様の叫びが響きました…。


ミコ「………ごめんなさい。キツネさんの気持ちを全然わかってなかったです…。」


キツネ「………とにかく、まずはフランの安否確認とこれからどうするのかを考えよう…。」


 この場を暗く重い空気が支配します。そうです。忘れていました。国に居た頃は常に誰かが死ぬのは当たり前だったのです。


 アキラ様のお傍があまりに満たされ安らかすぎたために忘れていました。そうです。わたくし達は死ぬのです。それもいとも容易く、ほんの些細なことで。


 まさか死ぬことなどないと思っていたような方でもあっさりと死んでしまうのです。それがこの世界なのです。


クシナ「お爺様は見ておられたのでしょう?フラン達に一体何があったのですか?」


 そうです!そういえば最古の竜さんが向こうの様子を見れる道具を渡していたはずです。それならば最古の竜さんが全てを見ていたはずです!


龍魂『………。』


クシナ「………お爺様?………お爺様っ!どうなさったのですか!」


最古の竜『…ああ。大丈夫だ。………どうした?』


 とても大丈夫だとは思えません。最古の竜さんは一体どうされてしまったのでしょうか。


クシナ「大丈夫ではないでしょう!一体どうされたのですか?」


最古の竜『そんなことが聞きたいのか?もうわしは余命幾ばくもない。さっきのように意識が混濁することも多々ある。わかったか?』


クシナ「そんなっ!それならばどうしてもっと早くに言ってくださらなかったのですか!?」


 そうです!孫娘であるクシナさんがすぐ傍にずっと居たのになぜ今まで教えてくれなかったのでしょうか。もっと早くに教えてくれていればもっとちゃんとお別れも出来たかもしれないのに!


最古の竜『言ったからといって何か変わるのか?わしがもうそれほど長くないという事実は変わらん。』


クシナ「何を言っているのですか!全然違うでしょう!もっと早くに言ってくださっていればもっと色々出来たではないですか!」


 本当に…。どうして男の方はこうなのでしょう…。


最古の竜『お前が聞きたかったのはそんなことか?もっと大事な話があったのではないか?』


クシナ「そんなこととは何ですか!………もういいです。お爺様がそういう方だというのは遥か昔から存じておりました………。それで…、フラン達に一体何があったのですか?」


最古の竜『………わからん。』


クシナ「わからんて…。何かアイテムを渡していたではないですか!あれで見れるのでしょう?」


最古の竜『音は聞こえんのでな。見えていたことだけでよければ教えよう。』


 こうして最古の竜さんに聞いた話はこうです。


 フラン達はパンデモニウム付近まで移動しました。そこに着いた時にはすでにパンデモニウムは半壊して火の手が上がっていたそうです。


 それを見たフラン達はパンデモニウムの隣にある森へと入って行ったようです。


キツネ「恐らく情報収集と生存してる六将軍達の確認だろうね。」


キュウ「当然の行動ですねぇ~。」


 森に入ると黒の魔神に先導されて一直線にどこかへと向かったようです。その場所に着くと転移したのか一瞬視界が途切れたようですが再び見えた景色は先ほどまでの森とは違ったようです。


 そこから草原を歩き林を歩き隠し扉を潜ると妙な地下空間に入ったそうです。そこでマンモン達六将軍と合流出来ました。ここまではよかったのです…。


 マンモン達と話していたはずなのに急に視界が反転します。どうやら後ろに振り返ったようです。そこにはとても大柄な男が立っていました。


 その男が何か笑っているようです。そして掌をこちらに翳して………。


最古の竜『後は光の奔流に飲み込まれて何も見えなくなった。恐らくはその攻撃で………。』


一同「………。」


 もしかしたら何らかの理由で魂の繋がりを切っただけで無事かもしれない。そんな淡い期待を全て消し飛ばされてしまいました。


 むしろこんな話なら聞きたくなかった!フランはっ!!!フランは…、もう………。


シルヴェストル「フラン達がマンモン達の隠れ家へ行ったことで後をつけられて場所がバレたのかの?それとも最初からマンモン達の居場所はバレておって監視でもされておったのかの?」


ティア「それに何の違いがあるというのですか!今の話を聞いてどうしてそう関係ないことを考えていられるのですか!」


 シルヴェストル様の態度にわたくしも腹を立ててしまいました。


キツネ「いや…。これは重要なことだよ。フラン達が追跡されていたのなら敵の陰形の術は私ら以上ってことさ。それからマンモン達を探すためにフラン達を利用したのか、フラン達を嵌めるためにマンモン達を利用したのか。この違いは大きいよ。敵の狙いが大ヴァーラント魔帝国の上層部だったのか私らだったのかってことだからね。」


ティア「だからってこんな時にそんな冷静に分析している場合ですか?!どうして冷静でいられるんですか!」


 先ほどの話もきちんと覚えています。キツネ様だってシルヴェストル様だって心の中では色々な思いがあるのだとわかっています。


 ですが!それでもまるでフランが死んだことなど些細なことであるかのように冷静でいられる二人に対して叫ばずにはいられませんでした。


キツネ「だったら嘆き悲しんで泣き叫んでりゃ満足なのかい?そんなものに何の意味があるんだい?それでフランが浮かばれるってのかい!!ええっ?答えてみなティア!」


ティア「ヒッ………。」


 キツネ様に本気で怒鳴られて縮み上がってしまいました………。

わたくしだってわかっています。皆さんの方が建設的で犠牲を無駄にしないためのものです。


 わたくしはただ感情的に叫んでいるだけです。それはわかっています。ですが頭で理解出来るからと言ってフランを失った悲しみがなくなるわけではないのです!


一同「「「「「………。」」」」」


 とても険悪な空気です…。少し…、ほんの少し前までは皆さんであんなに楽しく暮らしていたはずなのに…。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか………。


シルヴェストル「ともかく…じゃ。敵がわしらを狙っておるのなら迂闊に動かぬ方が良いのじゃ。」


ルリ「………だったらどうする?ずっと海人種に守られて隠れておくつもり?」


ガウ「がうっ!」


キュウ「アキラさんがぁ~、目覚めるまでぇ~、このまま~、待機しておいた方が~、良いのではないでしょうかぁ~?」


 確かにそれが一番確実で安全な気がします。無理にわたくし達が何かしようと思ってもまたフランのようなことが起こるだけです………。


 わたくしだってもう誰も失いたくない!ここに隠れていて何が悪いというのですか!嵐が過ぎるまでここで隠れてやりすごして、皆さんでまた一緒に面白おかしく暮らせば良いではないですか!


ツクヨミ『俺の名はツクヨミ。アマテラスの弟にして海人族の長男、そして月人種の種長だ。』


 その時またしても世界中に強大な神力が満たされ誰かの姿と声が頭の中に直接映し出されました。


ツクヨミ『次は姉上に代わって俺がお前達を楽しませてやろう。西大陸の精霊族国家群は我らへの恭順を拒んだ。よって大ヴァーラント魔帝国に続いて精霊族国家群も滅ぼしてやろう。我らに従わぬ愚か者共よ。我らに逆らいし者の末路をよく見ておくがいい。』


 それだけ言うとツクヨミと名乗った者の気配は消えました。


ティア「―ッ!お母様!」


シルヴェストル「待つのじゃティア!迂闊に動いては駄目なのじゃ!」


ティア「離してください!このままではお母様が!水の国が!」


 もうこのままカムスサに引き篭もっていようだとかそんなことを考えていたことすら忘れ去っていました。


 ああ…。そうか。そうだったのですね。フランも今のわたくしと同じような気持ちだったのでしょう。だから危険を冒してまで出て行ったのです。


 フランが出さえしなければこんなことにはならなかったのにと思っていました。ですがそんな簡単な話ではなかったのですね…。今のわたくしにはあの時のフランの気持ちがわかります。


 例え自分が殺されようとも国のため、民のため、何より家族のために命を賭けてでも動きたい。


水の精霊神「まったく。ちょっとは落ち着きなさい。この私みたいにね!」


ティア「水の精霊神様………。」


 水の精霊神様はわたくしの前に立って腰に手をあてふんぞり返っていました。


火の精霊神「火の国もやばいだろうからな。俺も帰るぞ。」


ティア「火の精霊神様まで…。」


シルヴェストル「はぁ…。戦力分散は愚策なのじゃ。フランの時は偵察のつもりじゃったがもうそんな段階ではないのじゃ。フランですら成す術なく……、なのにわしらだけでどうする気じゃ?」


ティア「………『わしら』?まさかシルヴェストル様まで?」


シルヴェストル「当然じゃろ?わしはこれでもかつて風の精霊王だったのじゃ。精霊王たるものが国を見捨てるわけにはいかんじゃろ?」


 これなら。これだけいれば何とかなるのでは………。


キツネ「駄目だよ。この程度の戦力じゃフランの二の舞さ。一撃で消されるのがオチだよ。」


 キツネ様は椅子に座って疲れた声でそう言いました。その言い方には少し引っかかるものを覚えましたが、なぜそんな言い方をしてまでこんな言葉を言っているのかはわかっています。


ティア「キツネ様。もうおわかりなのでしょう?」


キツネ「………ほんとに馬鹿だね。」


 キツネ様は寂しそうに笑っていました。それはわたくし達を止めることが出来ないとわかっているからです。あんな言い方をしたのもわざとわたくし達を怒らせて矛先を自分に向けようとしたからです。


ダザー「私も一緒に行きます!」


シルヴェストル「………ダザーまで一緒に死ぬことはないのじゃ。」


 シルヴェストル様…。やはり西大陸へと戻れば死ぬとおわかりでありながらわたくしと一緒に……。


ゴンザ「俺も行こう。女子供ばかりに苦労させるわけにはいかない。」


 あまり話したことはありませんが親衛隊のゴンザさんもご一緒してくださるようです………。皆さん行けば死ぬとわかっているはずなのに…。それなのに………。


 駄目です。目の前が滲んでよく見えません。


シルヴェストル「何じゃティア。行く前から泣いておるのかの?」


ティア「だって!だってだって!行けば死ぬんですよ!それなのに皆さん同行してくださるなんて……。え~ん!!!」


キツネ「………わかってるんだったら残って欲しいんだけどね。」


 やっぱりキツネ様は寂しそうな笑顔でそう言いました。


ティア「わたくしだって本当は怖いです。死にたくないです。ですが今ならフランの気持ちがよくわかります。」


キツネ「はぁ…。私はただ皆でアキラを囲んで楽しく暮らせたらそれでよかっただけなのにねぇ…。どうしてこんなことになっちまったんだろうね…。」


 キツネ様もやはりわたくしと同じことを考えておられたのですね…。ですがわたくしにはもう引き返す道はありません。


 お母様が、水の国が、民達が危険なのです。例え絶対死ぬとわかっていてもわたくしは国へ帰らなければなりません。


ヤタガラス「良いのだな?この門をひとたび潜れば空間移動出来る精霊族といえども自力で戻ってくる術はない。ここにいる間はアキラ様の仲間として守るが一歩でも外に出れば我らは関知しない。それでも良いのだな?」


ティア「ヤタガラスさん。色々とありがとうございました。それでは…、御機嫌よう。」


ヤタガラス「………。」


最古の竜『クシナ。オーレイテュイアとシルヴェストルにもこの玉を渡してあげなさい。役に立つかどうかはわからんがな。』


クシナ「………はい。」


ティア「ありがとうクシナ。………さようなら皆さん。」


 これで最後のお別れです。目の前が滲んで見えません………。


シルヴェストル「違うのじゃティア。こういう時は『いってきます』なのじゃ。………それではいってくるのじゃ。」


ティア「………そうですね。いってきます。」


 シルヴェストル様と二人で皆さんに頭を下げました………。


 ヤタガラスさんが開いてくれた転移の門を潜ります。これでもう戻る術はありません。あとは前に進むしかないのです…。例えどのような結末が待っていようとも………。




  ~~~~~ウンディーネ~~~~~




 アマテラスという者の全世界への宣戦布告とも取れる言葉を聞いて水の国は大騒ぎになってしまいました………。


ウンディーネ「落ち着きなさい!まずは火の国へ使者を出しなさい。その間にこちらでも対応を協議しますよ!大臣を集めなさい。」


 そうです。婿殿があのような者に敗れるはずなどないのです。我らはただ同盟国としての務めを果たせば良いのです。


 ………

 ……

 …


伝令「火の国よりただちにザラマンデルンにて精霊王会談を開く旨の要請が届いております!」


ウンディーネ「おおっ!精霊王会談!やはり婿殿は健在ということですね。」


 そうです。婿殿があのような者に遅れを取るはずなど………。


伝令「はっ………。それなのですが…。火の国からは精霊王代理としてポイニクス様がご参加なされるとのことです………。」


ウンディーネ「な…にを………?」


 そんなはずは…。そんなはずはないではないですか!あの婿殿がそのような……。…いいえ、これはきっと火の国に戻ってきていないというだけのことのはずです。


 婿殿はわらわまで口説かれたのですよ!まだ迎えにも来てくださっていないのに婿殿に何かあるなどあるはずないではありませんか。


 わらわが美しいだなんて…。あぁ。そのような熱い眼差しで迫られてはわらわの中の女が目覚めてしまいます…。あぁ…、体が熱く火照って…、もう…、わらわはもう…。


 婿殿…、このような場所で……、ティアに見られてしまいます。え?ティアと一緒に三人で楽しみたいだなんて…。あぁ、恥ずかしい。ティアに母ではなく女のわらわを見られてしまいます…。


 このようなやらしい姿を見られてはティアに軽蔑されてしまいます。何より婿殿に呆れられてしまいます…。え?淫らなわらわも美しい?あぁ婿殿。わらわはもう…。


伝令「あの…、ウンディーネ様………?」


ウンディーネ「はっ!ごほんっ………。何でもありません。」


 もう!皆の前であんな妄想をしてしまうだなんて婿殿のせいですよ!婿殿があのような熱い眼差しでわらわに美しいだなんて…。


 ティアを産んで以来女を忘れて母として生きてきたというのに…。婿殿にあのように迫られてからわらわの中の女が目覚めてしまいました。


 この熟れた体を持て余して夜な夜な婿殿を想って淫らな………。あぁ、婿殿ぉ~。


伝令「ウンディーネ様………?」


ウンディーネ「はっ!ごほんっ………。何でもありません。それでは精霊王会談のために火の国へと向かいます。」


大臣達「「「「「ははっ!ただちに準備いたします。」」」」」


 はぁ…。まだ火照っています…。もう!このようなことになったのは婿殿のせいですよ!後で必ずわらわを女にした責任を取っていただきます!



  =======



 物質世界のザラマンデルンへとやって来ました。ここへ来るのは初めてです。それはそうでしょうね。ついこの前までは火と水は犬猿の仲だったのですから。


ウンディーネ「おや?わらわが一番最後ですか?」


ノーム「水のはいつものことだろう。」


ウンディーネ「どういう意味ですか!」


ノーム「言葉通りだ。前回の精霊王会談も一番最後であったろう?」


ウンディーネ「うぐっ!それは………。」


 もう!相変わらず土の精霊は何て嫌な人達なのでしょうか!確かに前回も今回もわらわが一番最後でしたが、前回は水の精霊神様が約束の時間になっても来られず、お迎えに上がっても何だかんだと言われて中々出発してくださらなかったのが原因です。


 そして今回は下着が汚れ………、ではなくて、人に会うのですから恥ずかしくない格好をするために湯浴みをしていたからです。決してわらわのせいではありません!


エアリエル「まぁまぁ…。それでは始めましょう?」


ポイニクス「え~っと…、今回は僕の要請に応じてくださりありがとうございます!」


 ポイニクス殿がちょこんとお辞儀をしました。何と愛らしいのでしょう。火の精霊などと馬鹿にして見ていましたが、こうして偏見のない眼で見てみれば何のことはありません。


 我ら水の精霊も火の精霊も変わらないではありませんか。その初々しく精一杯頑張っている姿はまるで幼き頃のティアのようです。


 はぁ…。もう一人くらい産んでも良いですよ?いえ、婿殿が望むのなら二人でも三人でも?毎日種付けして孕ませてくださっても良いのですよ?


 この熟れた女の体を滅茶苦茶にしてください………。


エアリエル「水の精霊王様…。涎が…。」


ウンディーネ「はっ!ごほんっ…。これは涎ではありません。水の精霊魔法です。」


ノーム「ほう…。水の精霊魔法のう…。精霊力の発動は感知されんかったがそういうことにしておくかのう…。」


 うぐっ!土の!何て嫌な奴なのです!これだから土のじじい共は嫌いなのです!


ポイニクス「あの~…。進めても良いですか?」


 ポイニクス殿がおずおずと聞いてくるこの姿がまた…。あぁ、可愛すぎて連れ去って我が子にしてしまいたい!


 ………そうです。火の精霊は水の精霊に敵いません。ならば火の精霊達を連れ去ってアクアシャトーで囲ってしまうというのは………。はっ!わらわは何ということを!この身は婿殿に捧げたのではありませんか!他の者になど現を抜かしていては婿殿に呆れられてしまいます。


エアリエル「えっと…。ポイニクス様、お気になさらずに進めてください。」


ポイニクス「はい…。それでは…、まずママは動けません。」


エアリエル「やはりあの言葉は嘘だったのですね。それで火の精霊王様はご無事なのですか?」


 おや?知らない間に何か話が………。それよりも婿殿の話をしているようです!聞き逃してはなりません。


ポイニクス「詳しくはわかりません。途中から伝令も通じなくなりました。ただわかるのは今はママの力がすごく弱くなってるってことです。だからママは動けないんだと思います。」


 弱っている…。あの婿殿が?あぁ、今すぐかけつけて看病してあげたい…。


ノーム「つまりアキラ殿の力はあてに出来ぬと?我らだけであれの相手をするのは至難だぞ。」


ポイニクス「はい。それで今回のことは同盟に縛られずそれぞれの判断で行動してください。火の国は戦います。あの敵と戦えば種族そのものが滅びかねません。ですからそれぞれ種のことを考えて決断してください。」


ノーム「むぅ………。」


エアリエル「………。」


 ふんっ。普段偉そうに言っているくせに土も風もこの程度の決断も出来ないようですね。


ウンディーネ「考えるまでもありません。水の国はもう決まっています。」


 わらわの言葉で全員の視線が集まります。


ウンディーネ「火と水は遥か昔から犬猿の仲。最近少しばかり接近したからと言って長年の蟠りがそうすぐになくなるはずもありません。」


ノーム「………。」


エアリエル「水の精霊王様………。」


ウンディーネ「ですからここでお互いに体を張って相手を守り信頼を築きましょう。そうすれば一気に両種の蟠りも解けるはずです。」


 わらわの言葉を受けて全員が驚きの表情を浮かべています。


エアリエル「水の精霊王様!」


ノーム「ふんっ。まさか水のが一番にそんな選択をしようとはなぁ…。」


ウンディーネ「ふふんっ!判断の鈍い土と一緒にしないでください。」


 わらわは胸を反らして土の前でふんぞり返ります。


ポイニクス「ウンディーネ様ありがとうございます!」


 ポイニクス殿がわらわの前まで飛んできて勢い良くお辞儀をしました。あぁ、何と愛らしい…。あまりの愛らしさにそっと胸に抱き寄せます。


ウンディーネ「良いのですよポイニクス殿。何しろ火の精霊が滅んでしまえばこのように愛らしい男の子を愛でることも出来なくなってしまうのですから。」


 抱き締めたポイニクス殿をスリスリします。あぁ…、何てサラサラの髪でしょう。そしてきめ細かい肌。そしてとうに乳離れしたはずなのに何やら甘ったるいミルクのようなこの匂い。あぁ…、食べちゃいたい。


ノーム「男日照りが過ぎてショタに走ったか?」


ウンディーネ「どういう意味ですか!可愛い男の子も好きですがわらわには婿殿という立派な伴侶がいます!」


エアリエル「まぁ!まぁまぁ!!!どういうことでしょう?水の精霊王様も火の精霊王様の奥様になられるのでしょうか?」


ウンディーネ「そうです!あれほど熱く力一杯わらわのことを口説かれたのですからもうすぐお迎えに来てくださるはずです!」


エアリエル「まぁ!素敵ですねぇ…。それならばあれほどあつ~いキッスをした私も一緒にお迎えに来てくださるでしょうか…。」


 ………え?今何て?


ウンディーネ「『あつ~いキッス』?婿殿と?」


エアリエル「はい~…。そんなにはっきり言われると照れてしまいます。」


 エアリエルは頬に手を当ててクネクネしてますよ!


ウンディーネ「どういうことですか!?」


ノーム「それは後ほど本人に聞け。今はそれよりも喫緊の課題があろう?」


 うぐっ!土のは気に食いませんがやむを得ません。後でエアリエルは問い詰める必要がありますが今は置いておきましょう。


ノーム「土も参戦する。」


エアリエル「もちろん風も戦います。」


ポイニクス「ありがとうございます!」


 ポイニクス殿がわらわの腕から離れて二人の精霊王にもお辞儀をしてまわります。…もっと抱いていたかった。


???「きひひひっ!それが精霊族の総意ということで良いのか?」


ノーム「何奴?!」


 いつの間にか…、本当に誰にも気付かれることなくいつの間にかこの精霊王会談を行っている部屋に入り込んでいる小男がいました。


ウケモチ「わしの名はウケモチ。ツクヨミ様の使者だ。精霊族の総意は我ら天津神に従わぬということで良いのか?」


ポイニクス「従いません!」


ノーム「当然じゃな。」


エアリエル「はい。脅されても変わりません。」


 おお…。まさかこのような時が訪れようとは…。いえ、これこそが本来の精霊族なのでしょう。今までのいがみ合っていたことこそが異常だったのです。


 これならば…、精霊族が一つになれば負けることなどありません!


ウンディーネ「アマテラスでもツクヨミでも知りません。どちらでも好きなほうに我ら精霊族は従わないと伝えなさい!」


ウケモチ「きひひひっ!愚かなり!一刻後に攻め込む。首を洗ってまっておれ。」


 それだけ言うとウケモチと名乗った者は闇に溶けるように消えていきました。これで後には引けません。我ら精霊族の覚悟を見せてあげましょう!



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