表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生無双  作者: 平朝臣
140/225

第百十七話「最初の犠牲者」


 まずは冷静に状況を確認しなくては………。少し集中して敵の気配を探ります。敵かパンデモニウムの住人や兵士かわからない者や、気配を殺したりしている者もいるので完全に全てを把握することは出来ませんが、大まかに数えてパンデモニウム内にいる敵と思しき者は約三万でしょうか。


 それから……、恐らく残党狩りでしょうか…。周囲に放射状に広がるように移動している敵が五万ということろです。


 パンデモニウムの町の中にいる三万の中でも強さはまちまちのようです。神力から全員が最低でも神格を得ているか神になっているとわかりますが、強さだけで見てみると第九階位ほどの力しか感じないような者もいます。


 巧妙に力を隠している可能性もありますが、第九階位程度ならば私達の敵ではありません。問題なのはそれ以上の者達。


 中でも指揮官と思しき者は………。これは第三階位に届くのではないでしょうか…。この者の相手は私達では出来ません。黒の魔神さんがいても手も足も出ないでしょう。


 最古の竜さんが言っておられた通り正面から戦って敵を排除するのではなく、こっそり裏から出来ることをするしかありません。


 そのためにはまずはマンモンを見つけたいところです。マンモンならばある程度は私達の強さに付いてこられるはずですし、大ヴァーラント魔帝国の残った兵力を指揮することも出来るはずです。


 大勢の仲間は敵に見つかる原因になるのでいりませんが、いくらか大ヴァーラント魔帝国と連携して協力出来る人物は必要です。


 ということでまずはマンモンを探しましょう。この状況でノコノコとパンデモニウムに侵入すれば私達もすぐに捕まってしまうでしょう。無闇に突っ込むのではなくマンモンがどこにいるのか考えてから行動しましょう………。


 パンデモニウムの状況と敵の動きから考えるとここで戦闘があったことは確かでしょう。そして大ヴァーラント魔帝国は敗走し、敵は現在それを追跡する追撃部隊とパンデモニウムを占領する占領部隊に分かれている。


 当然、六将軍で序列一位のマンモンも戦場に出て指揮したはず。ならばマンモンは敗走している大ヴァーラント魔帝国軍の中に?あるいはすでに戦死している可能性も?


 ………考えてもわかりませんね。とにかく何か情報を集めないと…。


フラン「まずは森に入って少しだけパンデモニウムに近づきましょう。このままここに居ても情報がなくて何もわかりません。」


黒の魔神「当たり前だ!早く行くぞ!」


フラン「黒の魔神さん。先に言っておきますが勝手な行動はしないと約束してください。貴方も感じていると思いますがあそこには私や貴方では手に負えない相手がいます。感情に流されたまま敵に突っ込むような真似はしないと約束してください。もしここで私達まで敗れるようなことがあっては世界は大変なことになってしまうんです。」


 私は小さくなった黒の魔神さんを真っ直ぐ見据えます。黒の魔神さんも私を真剣な眼差しで見つめ返してくれました。


黒の魔神「………わかった。」


フラン「本当ですね?約束ですよ?」


黒の魔神「わかったって言ってるだろ!」


 本当でしょうか…。子供の姿だとどうも信用し切れない部分があります。これまでも感情のままに行動されることも多々ありましたし、実際に戦闘になっている場所に行けばつい飛び出してしまうのではないかという不安が拭えません。


フラン「そうですか。それではお願いしますね?まずは情報収集。それから状況次第で出来ることをしましょう。最初は残った大ヴァーラント魔帝国軍と連携が取れるようにマンモンを探しましょう。」


リカ「………はい。」


 ………どうやらリカさんの顔色が優れないようですね。故郷がこんな風になっていたら誰でもこうなってしまうでしょう。


フラン「大丈夫ですか?」


リカ「…え?ええ…。大丈夫…です。」


 そうは言いながらもじっとパンデモニウムを見つめています。


フラン「もしかしてリカさんはパンデモニウムのご出身ですか?ご家族やお友達がおられるとか?」


 もしそうならリカさんの行動にも気をつけないといけません。いくら冷静なつもりでもそういう大切な人が危険な目に遭っている場面に遭遇すれば誰でも飛び出してしまうでしょう。


リカ「いえ…。生まれも育ちも田舎なのでここに家族はいません。………ただ、兵士になってからこのパンデモニウムに配属されたこともあります…。ですから知り合いがいたり行きつけの店はありました………。」


 家族ほどではないにしても多少の動揺はあるのでしょう。何より知り合いなどと言ってもどの程度の相手なのかはわかりません。


 もしかしたら恋人とか………。もしそうならきっとすぐに飛び出してしまうでしょう。ここは知り合いというのがどの程度の相手なのか問い詰めるべきでしょうか………。


 いえ…。そこまでは出来ませんね…。もう黒の魔神さんとリカさんを信じるしかありません。


フラン「それでは森へ入りましょう。敵が残党狩りをしているようなので気をつけてくださいね。」


黒の魔神「おうっ!」


リカ「はい。」


 こうして私達はパンデモニウムの隣にある森へと入って行ったのでした。



  =======



 森へ入って暫く経ちますが敵とは接触していません。どうやらこの辺りはもう調べた後のようで移動しているようです。


 それにしても……。敵は一体何を探しているのでしょう?あるいは誰かを探しているのでしょうか?敗残兵を追い立てるだけならばここを調べるような動きはおかしいです。これではまるで誰かを捜索しているような………?


 希望的観測ではありますが、もしかすると敵は皇帝や将軍などの指揮官を探しているのではないでしょうか?


 だとすればマンモンとは言わなくとも誰か皇帝か六将軍の一人と合流出来るかもしれません。ただ問題なのは敵があれほどの人海戦術で探しているというのに見つからない者を私達だけでどうやって見つけるのかということです………。


黒の魔神「おい。この森に隠れてるんだとしたら丁度良い隠れ家があるぞ。」


フラン「えっ!?どういうことですか?」


 黒の魔神さんが急にそんなことを言い出しました。もしかするとウィッチの森の聖地のような場所があるのでしょうか?


黒の魔神「この森には海人種の太古の遺跡がある。そこなら月人種と太陽人種にも見つからないはずだ。」


 大ヴァーラント魔帝国に伝わる秘密の場所ということでしょうか。それならばそこに誰かがいる可能性はあります。そしてその人物はかなり上位の地位にいる者だから敵に追われていると考えればしっくりきます。


フラン「わかりました。それではそこへ向かいましょう。黒の魔神さん、案内していただけますか?」


黒の魔神「おう!こっちだ!」


 暫く黒の魔神さんについて森の中を進むと一本の枯れた木のもとへとやってきました。


フラン「特に何もないようですが?」


 少なくとも私には何も感じられません。ウィッチの聖地ならばアキラさんの力が感じられました。ここはウィッチの聖地とは様子が違うようです。


黒の魔神「こっちだ。……これだ!これに触れろ。」


 枯れ木の根元に何か小さな石のようなものが埋め込まれていました。特に宝石のように輝いているということもなく一見ただの石が落ちているように見えます。


フラン「はい。全員触れましたよ。」


 小さな石に皆で手を伸ばしているので密集状態です。こう言っては申し訳ないですがはっきり言って暑苦しいです。アキラさんとならどれほどくっついていても暑苦しいとは思わないのにこの差は何なのでしょうか。


黒の魔神「いいか?いくぞ!?『スサノオのあほたれ!』。」


フラン「………え?」


リカ「………。」


 一瞬黒の魔神さんが何を言い出したのかと思いました。ですがその言葉が終わった瞬間フワリと穴から落ちたような浮遊感がやってきたと思ったらどこかに着地したような感触がしました。恐らく先ほどの石は転移するための石だったのでしょう。


 転移した先は森とは違い草原のようになっていました。少し先に林があります。今見えている範囲には人工物は見当たりません。唯一不自然と思われる物は、私達が転移してきたこの場所にも、向こうで転移するために触れた石と同じ石があるということだけです。


フラン「…それはいいんですがあの言葉は何なんですか?」


黒の魔神「あれは合言葉だ。合言葉を言わないと転移出来ないからな。」


フラン「これは海人種ゆかりの施設なんですよね…?それなのに海人種が自分達の神であるスサノオと言う方の悪口のような合言葉を設定されるのですか?」


黒の魔神「確かに施設を作ったのも使われてる技術も全部海人種だけど合言葉を設定したのは俺だ!」


 黒の魔神さんはふんぞり返ってそう宣言しました。威張るところではないと思うのですが…。それよりも………。


フラン「黒の魔神さんは海人種と関わりがあったのですか?」


黒の魔神「あ?当たり前だろ?俺は太古の神だぞ?太古の大戦の前から生きてる!それにスサノオは俺の命の恩人で親友だ。それからスサノオの嫁でアキラの母親は俺の初恋の人だ!」


フラン「えっ!今サラッと大変なことを言わなかったですか!?」


 まさか黒の魔神さんがアキラさんのご両親とお友達だったなんて………。


フラン「というか何故知っていたなら今まで黙っていたんですか?アキラさんに教えて差し上げればよかったじゃないですか?」


黒の魔神「俺だって最近まで知らなかったんだよ!な~んか九尾の女神に似てるなぁとは思ってたけど妖狐って皆似てるのかなとか思ってたし!」


フラン「………そうですか。それなら仕方ないですね………。」


 普通に考えれば気付きそうなものですが、アキラさん曰く『小さい状態のクロは頭が残念』らしいのでこれが限界なのかもしれませんね…。


リカ「それより早く進んだ方が良くないですか?」


 そうでした。リカさんの言葉でようやくここに来た目的を思い出しました。


フラン「そうですね。それでは先に進みましょう。もしかしたらマンモンや他の六将軍がいるかもしれません。」


 どうやら黒の魔神さんが言うにはこの場所は大ヴァーラント魔帝国に伝わっているそうなので、隠れ家としてここに身を潜めている可能性は高い気がします。


 大ヴァーラント魔帝国の方がここに隠れていないか探すために黒の魔神さんを先頭に林の方へと向かっていきます。


黒の魔神「この先に建物がある。もし隠れてるとすればそこだ!」


 どうして断定出来るのかはわかりませんが、確かに緊急用に施設があるのならそこにいる可能性は高いでしょう。何より林の中に入ると人の気配を感じたので誰かがいるのは間違いありません。


 草原を歩いている時には気配を感じなかった理由はこの林と草原の境目に結界が張ってあるからです。その結界を越えると普通に中にいる人たちの気配を感じることが出来るようになりました。


 この先にいるのは三人ですね。うまく気配を消そうとしていますが私達を欺くことは出来ません。それから一人は弱っているようです。気配が弱弱しく回復に専念しているような印象を受けます。


バアルペオル「何者だ!……ってそっちのウィッチのお嬢さんは知ってるな。他の仲間はどうした?三人だけか?」


 六将軍の一人、バアルペオルが出てきました。どうやらここで当たりだったようです。他の二人も知っている気配です。六将軍が三人もいるなんて幸運でしたがマンモンの気配は何か弱っているような気がします。


フラン「私達三人だけです。マンモンがいるようなのでお話がしたいのですが?」


バアルペオル「そうか…。俺達も聞きたいこと…、いや、相談したいことがある。他に二人いるから合流してから話そう。」


 前までの印象からはバアルペオルはこれほど的確な判断が出来る者とは思えませんでしたが、今の対応は冷静なものだったと思います。何か心境の変化というか、内面の成長というか、そういうことでもあったのでしょうか。


 バアルペオルに案内され四人で林の中を歩いていると何か違和感を感じる木の前にやってきました。


バアルペオル「さぁどうぞ。ようこそ俺達の隠れ家へ。」


 バアルペオルがそう言い木に手を置くと木の幹が開きました。どうやら隠し扉だったようです。私が感じた違和感は木の一部が扉になっているために微妙なずれがあり違和感があったのでしょう。


 その扉の先は下りの梯子になっていました。これを下りろということでしょうか。


バアルペオル「俺が先に下りて下にいる奴らに説明してくるよ。いきなり誰か下りて来たら下の二人が驚いて何かしないとも限らないからな。」


 キラーンと歯を光らせて右手の親指を突きたててそう提案してきました。ですがそれは受け入れられません。何故なら………。


リカ「あんたね!女性が下りるってのに男のあんたが下になるって言うつもりかい?!」


 そうです。それが問題です。私はロングスカートですがいくらロングスカートでも流石に下から見上げられたら丸見えです。


リカ「あたしだってフランツィスカたんのパンティーを見たことがないってのにあんたなんかに見させてたまるか!!!あっ………。」


三人「「「………。」」」


 最初は女性の立場にたって良いことを言ってくれていると思ったのですが………。それが本音でしょうか………。黒の魔神さんとバアルペオルもリカさんのあまりの言葉に固まってしまいました。


 リカさんは一瞬遅れて『しまった!』という顔をして固まってしまいました。自分が何を口走ってしまったのか気付いたのでしょう。


リカ「ゴホンッ………。え~っと…。それじゃ安全確保のためにあたしが一番最初に下りるよ。フランツィスカ様はあたしの次にどうぞ。」


フラン「………。」


 さっき本音を思いっきりぶちまけたところなのに尚そう言えるところがすごいです。さっきの言葉がなければ素直に信じたかもしれませんが、すでに本音を聞いた後なのでただの建前にしか聞こえません。


リカ「………。わかった。わかりました!あたしはフランツィスカたんのパンティーが見たいです!だからあたしが先に下りるのでその次にフランツィスカたんが下りてきてください!」


 ええぇぇ………。リカさんは真剣な表情でもう一度本音をぶちまけると頭を下げてきました。そこまでして私のパン…が見たいのでしょうか………。なにより私はタイツを穿いているので見てもほとんど見えていないのと変わらないと思うのですが…。


フラン「……私が最初に下ります。次はリカさん。あとの二人は好きなようにしてください。」


 本当はリカさんに下から覗かれたところでそれほど気にすることではないとは思っています。さすがに男性に見られるのは恥ずかしいですしアキラさんへの裏切りのようでとても見せられません。


 ですが女性であるリカさんに、それもタイツを穿いている状態で見られても平気な気がするのです。まぁ…、だからと言って覗かれるのがわかっているのに覗かれるようなことをする気にはなれません。


リカ「あたしがフランツィスカたんに見られるのか…。それはそれで興奮するね…。あっ!今日下着大丈夫だったかな?汚れてないかな………。」


 リカさんは自分でちょっとだけスカートを捲って自分の下着を覗こうとしています…。ここには男性が二人もいるんですよ…。もうちょっと気をつけましょうよ………。


 何でしょう…。三人で出てきて以来リカさんのイメージが総崩れです。完全崩壊です。木っ端微塵です。これまでは頼れる姐御肌みたいに思っていましたが…。アキラさん風に言えば『ただの変態』にしか見えなくなってきてしまいました…。


フラン「とにかく!下りますからね!」


 これ以上リカさんのイメージが崩れてしまわないうちに早く次に進むことにしました。………もう手遅れな気はしますが。


 空洞になった木の幹の中にある梯子を下ります。それほど長くはなかったようですぐに下に着いてしまいました。


フラン「大丈夫で……。」


 下に着いた私は上の人に声をかけようとして固まってしまいました。私が指示した通り私の次にリカさんが下りてきていました。それはいいです。


 ですがリカさんは明らかにわざと下着が丸見えになるように足を開きお尻を突き出しフリフリと振っていたのです………。


 ただの変態じゃなかったです…。本物のド変態でした…。


フラン「リカさん。あまり度が過ぎるとアキラさんにおしおきされますよ?」


 あまりアキラさんに負担を押し付けたくはなかったのですが、他にどうすれば良いのか思い浮かばずアキラさんが怒るぞと注意することにしました。


リカ「ひっ!ごめんなさい!もうしません!アキラ様に言いつけるのはお許しくださいぃぃぃっ!」


 お尻を振りながらゆっくり下りてきていたリカさんは私の言葉を聞くと即座に下まで駆け下りDOGEZAをして謝ってきました。


 ちょっとは効果があるかと期待して言っただけで本当にアキラさんに言いつけるつもりはなかったのですが………。


 リカさんのこの怖がりよう…。アキラさん…。一体リカさんに何をしたんですか………?


黒の魔神「おい。何してんだ?さっさと行くぞ。」


 今までのやり取りを全て見聞きしていたはずなのに黒の魔神さんはまるで素知らぬ顔でそのままリカさんと私の脇を抜けて奥へと進んで行ったのでした。


 梯子を下りると続いていた通路を暫く進むと広い空間に出ました。この場所はウィッチの聖地と同じく地下空間を何らかの力で拡げているのだとわかります。


 そしてここからは何か温かい力を感じます。その力は少しアキラさんに似ていて…。もしかするとアキラさんのお父さんが作られた場所なのかもしれないと、ふとそんなことを考えたのでした。


 この地下空間には木々が生えていて小川のようなものまで流れています。小さな自然をそのまま取り込んだような不思議な空間でした。


 そこの中心に一軒の家が建っています。そこからマンモンとアスモデウスの気配を感じるのであそこにいるのでしょう。


バアルペオル「ちょっとアスモデウスに説明してくるよ。」


 そう言うとバアルペオルだけ先行して家へと向かいました。私達は走ることなくゆっくりとその家へと近づき中へと入っていきました。


マンモン「………何故こんな場所にやってきた?」


フラン「いきなりとんだ言い草ですね。貴方がたを助けに来たなどと驕ったことを言うつもりはありませんが、魔人族の危機と知って駆けつけたというのに…。」


 さすがにマンモンの言い草にはカチンと来ました。まるで来たことが迷惑だったような言い方です。


アスモデウス「でもたった三人じゃ……、ねぇ?敵の強さは桁違いですわぁ。アキラ殿が来られても危ないかもしれないのに………。」


 どうやらマンモンもアスモデウスも私達では頼りないと言いたいようです。もちろん私達だけでここにいる全ての敵に太刀打ち出来るとは思っていません。


 ですが敵を打ち倒すためにも情報を集めておくことが重要です。今のうちに敵の情報を集め有利な状況に運んでいけばアキラさんや海人種の人達が戦う時に少しでも楽になるはずなんです。


フラン「今のうちから敵を掴んでおくのは重要なことです。」


マンモン「………それはわかっている。だがお前達だけでやってきても死体が三つ増えるだけだ。」


黒の魔神「あ゛あ゛?マンモンてめぇ!この黒の魔神様が死ぬっていいたいのか!?」


 マンモンの言葉に黒の魔神さんも怒り出しました。何か大変なことになってきた気がします。


マンモン「………例え黒の魔神様と言えどもタヂカラオには敵わないでしょう。」


フラン「タヂカラオ?」


マンモン「………少なくとも俺が見た限りでは今回パンデモニウムに攻め込んできた奴の中で一番強かった奴だ。」


 もしかして第三階位に達しそうなほどだった者のことでしょうか。


黒の魔神「おい!タヂカラオのヤロウが来てやがるのか!」


 黒の魔神さんが飛び跳ねました。


フラン「……何か因縁でも?」


黒の魔神「さっき言ったスサノオが命の恩人ってのは俺がタヂカラオに殺されかけてた所を救われたからだ。あのヤロウ今度こそぶっ殺してやる!」


 黒の魔神さんがぐっと拳を握り締めた時に声が聞こえてきました…。ありえない…。私達でも気付かなかった?


???「ぐははははっ!誰が誰をぶっ殺すってぇ?ええ?」


 信じられません。力では私達の方が劣るとしても技術や能力ではそう劣らないと思っていました。ですが違いました。この敵は私達に気付かれることなくこれほど接近してきたのです。


 つまり私達の陰形は通用せず向こうはこちらに気付かれることなく隠れられるということです。これは私達には逃げる術はないと言っているのと同じこと………。


フラン「貴方は誰ですか?」


 力も相手の方が圧倒的に上。逃げるにもこちらは隠れてもすぐに気付かれてしまうのに向こうが隠れているとこちらは気付けない。絶望的状況です。


 ですから口で時間を稼いで考えを纏めながら少しでも情報を得ようと相手に話しかけます。


タヂカラオ「俺様はタヂカラオ。アマテラス様の一の腹心とは俺様のことよ!」


 どうやらうまくしゃべってくれるようです。私達に助かる方法がないから話しても問題ないと思っているのかもしれませんね。


リカ「まさかあたしらがつけられてここが知られちまったのかい?」


 ………もしそうだとすればマンモンの言った通りですね。私達など来ない方がよかったということになります。折角うまく隠れられていたこの三人に悪いことをしてしまいました。


タヂカラオ「あ゛あ゛?逆だ逆!そこの魔人族共をわざと見逃して監視してたのよ!そうすりゃてめぇらみてぇに仲間がノコノコやってくるだろうと思ってなぁ!どうだ?俺様は天才だろうが?ぎゃははははっ!」


 よかった。どうやら私達のせいではなかったようですね。私達が自ら罠にかかったのは事実ですが、私達のせいで六将軍達の居場所がばれて巻き添えになったのではないのなら少しは気が楽になりました。


マンモン「………ならば俺達が助かったのもお前の狙い通りか?」


タヂカラオ「おうよ!てめぇが思いのほか頑張ってやがったからそのまま見逃すことにしてやったんだよ。」


 ………微妙に会話がかみ合ってませんね。それでは『おうよ!』じゃなくて途中でそれを思いついて実行したと答えるべきでしょう…。


 どうやらこの方も力は強いようですが『頭が残念』な人のようです。………それならばそこを突いてなんとかここから脱出を。


タヂカラオ「おう。忘れてたぜ。てめぇらはもう俺様を倒すしか脱出する方法はねぇからな。」


 そう言ってタヂカラオが私達に見せたのは………。


フラン「それは転移の時に触れた石?それではそれを奪わない限り私達は………。」


タヂカラオ「そういうこったなぁ?ぎゃはははっ!少なくとも俺様からこいつを奪い取らないと永久にここから出られないってわけだ!」


 なんということでしょう…。倒さなくて良いとしてもあの石を奪うだけでもほぼ不可能です。戦って勝つ見込みもなく逃げる術すら失いました。


 ………私はここまでなのでしょうか。アキラさん…。私は愚かな行動をしてしまったのですか?


タヂカラオ「さぁて。それじゃぁ今度はてめぇらが俺様と遊んでくれよぉ!ぐはははははっ!」


一同「「「「「―ッ!」」」」」


 さらにタヂカラオの力が増しました。まだ上がるというのですか………。こんな…、こんなもの…。こんな理不尽な力の差を一体どうしろと言うのですか!


 ………それはいつもアキラさんの敵になっていた人達の気持ちと同じなのかもしれません。この圧倒的な力の前ではどのような小細工も知恵も役には立ちません。


タヂカラオ「それじゃ吹き飛べ!テンガンド!ぎゃはははははっ!!!」


マンモン「………俺の時とは比べ物にならない威力だ。…もう駄目だ。どうしようもない。」


 やけにはっきりとマンモンの呟きが聞こえます。タヂカラオが翳した掌から巨大な神力の塊が撃ち出されて私達に迫ってきています。


 これほどの威力…。私達では回避することも防御することも出来ません。まさかこのようなところで終わってしまうなんて…。


 覚悟はしていました。敵の強さを侮ったつもりもありません。ですがこれが結果です………。


 アキラさん…。アキラさんっ!!!死にたくない!アキラさんと離れたくない!アキラさんっ!!!



 いきなり鬱展開!


 いつも通り平気だと思うでしょう?でもどうでしょうねぇ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ