第十二話「さらばブレーフェン」
夕暮れのブレーフェンの街を歩く。今日は中々収穫があった。人間族の常識からガルハラ帝国や周辺国家の状況等様々な情報が手に入った。何より記憶の景色の場所が見つかったのは大きい。まさか旧市街があったとは思わなかった。能力全開で探し回ればすぐに見つかっただろうが目立ち過ぎてしまうので制限した能力で歩いて探すには手間取っただろう。召喚されてきた異世界人が例の幼馴染三人組という確認も取れた。別にあの三人組だったからと言って何かするわけではないのだが…。
一つだけおぞましい記憶があるとすれば俺の腹の辺りで野郎の息子さんがもぞもぞと大きくなってくる感触を味わってしまったことだろうか。思い出しただけでも悪寒が走る。男同士でもハグすることはあるしあの時の俺は少々興奮状態だったから落ち着かせるのにハグした所までは許してやろう。だがあの息子さんの感触だけは許せない。いっそ殺っちまうかと思ったが今日はそれなりに世話になったので命だけは助けておいてやった。どうせ二度と会うことはないのだ。もう気にするのはやめよう。さっさと忘れてしまいたい。…まぁあのフリードなんとかは頭も悪くない。良い皇帝になるかもしれないな。
それよりも露店で売っていた串焼きのソースを俺なりにアレンジして作りたい。味自体は悪くなかったが少し酸味がきつくて癖が強い。秘伝だと言われて細かい製法までは教えてくれなかったが基本的な材料くらいは教えてくれた。ベル村と違って様々な料理があったのでこの世界の料理や調理方法が少しわかった気がする。まぁど素人がちょっとTV等を見てわかった気になって作ってみたらまるで出来ないオチに似ている気はするがやってみなければ前には進まない。
そんな取り留めもないことを考えているとミケの家の近くまで戻って来ていた。少しうるさい子供の声がする。
タマ「ミィなんかよりずっと綺麗なんだからな。それにおっぱいも大きくて柔らかくて良い匂いなんだからな。」
ミィ「ミィがタマちゃんのお嫁さんになるって約束したのに~~。え~ん。タマちゃんのばかー。」
ミィと呼ばれた子供が泣き出した。ガウより大きくタマより小さいくらいだ。何となくこの会話だけで何の話か想像が付いてしまう。一番小さいガウが一番大人びている気がする。こいつ等は年相応な感じだ。むしろタマは俺が考えていたより精神年齢は低いかもしれない。実年齢がいくつかは知らないが…。やはりガウは特別か。
タマ「なっ泣くなよ。そんなに言うならミィもおいらのお嫁さんにしてやるから。」
ミィ「ほんとに?」
タマ「ああ。一番はアキラちゃんだから二番目でよかったらな。」
ミィ「え~~~っ!ミィが一番がいいっ!」
タマ「お前なぁ…。あっ!アキラちゃんお帰り!」
タマが目敏く俺を見つける。近づいてみるとミィも猫人種のようだ。それにしてもガキのくせに何番目の妻とか猫人種はそういうのがありな種なのか?
アキラ「ミィって子と二人っきりで末永く幸せに暮らせ。」
タマ「お?お?もしかしてアキラちゃんヤキモチ焼いてくれてるのかい?」
ミィ「この人がアキラちゃん?」
ミィが小首を傾げながら俺を見上げてくる。俺はしゃがんでミィの目線に合わせてからフードを取る。
アキラ「よろしくミィちゃん。タマはミィちゃんにあげるからミィちゃんがタマの一番のお嫁さんになれよ。他の女なんかに浮気させないようにな。」
そう言ってミィの頭を撫でる。
ミィ「うん!ミィがタマちゃんの一番になる~!」
アキラ「よしよし。」
俺がニッコリ微笑みかけるとミィもかわいらしい笑顔で答えた。これ以上関わる気はないのでさっさと家に入る。
ミケ「おやおや。おかえり。」
ミケに出迎えられた。
アキラ「今夜もお世話になっても大丈夫ですか?」
ミケ「ああ、いいともいいとも。いっそ三人ともここで暮らしてもらいたいくらいのものじゃ。」
それは御免蒙る。俺はいつまでもここで足を止めているわけにはいかない。
ミケ「ほっほっ。わかっとる。そう遠くないうちにまた旅に出るんじゃろうな。タマの初恋も叶わぬ恋というわけじゃ。」
俺は何も言っていないが察したようだ。そんなに顔に出てたのだろうか。それに結婚の約束をしているなら初恋はミィじゃないのか?恋はしてないけど嫁に貰う約束はしてるのか?何か不誠実な奴だな。まぁガキなんてそんなもんか。俺も昔は………。
???『………どうして?』
………
……
…
???『………どうして?………あっくん。』
………
……
…
狐神「ただいま。」
ハッと我に返る。もうやめよう。地球での過去なんて今更悔やんでもどうにもならない。悔やむ?そもそも俺は悔いてなんかいない。選択を間違えたとは思っていない。だた………ほんの少しだけ…気になっているだけだ。あの子があの後どうなったのか………。
ガウ「ご主人どうしたの?」
アキラ「なんでもない…。おかえり。」
今は…今出来ることをしよう。
アキラ「って師匠なんですかそれ?」
狐神「今日の成果だよ?」
師匠は巨大な猪のような物を引き摺っていた。もしかしてこれが露店で聞いたグレートボアーだろうか。
アキラ「師匠達は今日狩りに行ってたんですか?」
狐神「ああ。獲物が獲れたのはたまたまだよ。近くにいたからついでに獲っただけさ。」
アキラ「狩りに行ったんじゃないんですか。それじゃあ今日は一体何を?」
ガウ「がうがうっ!秘密なの!」
狐神「そうだね。秘密だね。」
アキラ「何か仲間はずれで疎外感を感じますね。」
狐神「アキラは今日は逢引だったんだから良いじゃないかい。」
アキラ「え?」
タマ「えええええっ!」
いつの間にか家に帰ってきていたタマが大声を上げる。これだけ大きな獲物を見て驚いたんだろう。
タマ「アキラちゃんおいらってものがありながらデートしてきたのかよ!」
そっちかよ…。俺とタマは相思相愛でも恋人でも何でもないだろうが…。しかもどさくさに紛れて抱きつきながら胸に顔を埋めてやがる…。このエロガキがっ!
アキラ「タマ…。俺が本気で怒る前にやめた方が身のためだぞ。」
タマ「はっはいっ!」
俺の殺気に気づいたタマは冷や汗を流しながらすぐに離れた。しかし…師匠とガウは気づいていると思うが相変わらず周辺の住人らしき者がこの家を覗いている。
アキラ「覗きをしてるお前らも不愉快だ。とっとと失せろ。」
その言葉に反応してちらほら何人かの気配が離れていく。しかし未だに覗いてる奴もいるな。
ミケ「すまんのぅ。こんなスラムじゃ。碌でもない者も入り込んでくるのでみな新しく来た者には敏感なんじゃ。」
アキラ「ミケが謝ることじゃない。それより今日は師匠とガウが獲ってきた獲物を解体しましょう。それと俺は逢引なんてしてません。」
狐神「照れなくてもいいのにねぇ。」
ガウ「がうがう。」
ミケ「これほどの大きさのグレートボアーは初めて見たのぅ。炊き出しをしてスラムの者に配っても良いかの?」
アキラ「食いきれなければ保存食にしておけばいいんじゃないか?」
狐神「持ちすぎるのも危険なんだよ。私らならともかくね。」
結局どこでもどんな種族でも一緒というわけだ。一般民衆に対してはスラムはスラムで結束するがスラム内でもさらに持たざる者は蔑まれ持ちすぎた者は妬まれ奪われるということか。ミケのじいさんとタマみたいなガキじゃ襲われたら一溜まりもないというわけだ。虫唾が走るがフリードなんとかの言う通りいちいち全員殺して回っていたらキリがない。
アキラ「じゃあ表で解体してそのまま料理します。」
ミケ「タマはスラムのみなに知らせておいで。」
タマ「わかったよじーちゃん。」
タマが外へ駆け出したのを見届けて俺達はグレートボアーの解体作業に入る。ミケの家の横には空きスペースがあるのでそこに血で汚してもいいテーブルを持ってくる。時々焚き火をしているのか地面が焼けた場所があるので岩で囲い網を置き大きな鍋を載せる。これほど大きな獲物は捌いたことはないが俺はファルクリアに来てからすでに何度も獲った魔獣を解体しているので手馴れたものだ。獲ったその場で師匠がすでに血抜きをしてくれているのでどんどん解体していく。一部の骨はスープの出汁にするため鍋に放り込んでおく。
わらわらとスラムの住人が集まってきていた。ほとんど獣人族だ。数が多すぎるのでもう一つ鍋を準備して同時に進めるがそれでも足りないであろう人数が集まってきていた。ミケとタマに集まって来た者を整列させて師匠とガウはできた料理を並んでいる者に各自が持ってきた器に配っていってもらった。俺はスープを作る。ひたすら作る。並んでいた者全てに配り終わった時にはスープはほとんど残っていなかった。
アキラ「残りは4~5杯分くらいだな。」
結局材料や調味料を大量に使っただけで一食分しか残っていなければミケの家は大赤字だろう。調味料の大半は俺が出した物だが貧乏な旅人の設定である俺達が新鮮な野菜等の食材を出すとおかしいからだ。
アキラ「ミィか?どうした?」
ミィとその両親と思しき三人が少し離れたところからこちらを見ていた。配膳の時に並んでいなかったのは気配でわかっている。俺は一度覚えた気配はどれが誰かわかるからだ。きっと貰い損ねたのだろう。俺はミィに手招きをする。
ミィ「アキラちゃん……。」
ミィはなんだか泣きそうな顔をしていた。両親も後ろから付いてくる。
アキラ「ほら。」
ミケとタマの分を除いてもこの三人がぎりぎり食えるだろう。ミィと両親らしき人に最後のスープを渡す。
ミィ「アキラちゃんのがなくなっちゃうよ!」
アキラ「俺達はいいんだよ。」
ミィ「……でも。」
アキラ「ミィは優しい子だな。でもミィのお腹は正直みたいだな?」
ぐぅ~とミィのお腹が鳴っていた。ミィを言いくるめ三人にスープを渡すとお礼を言いながら帰って行った。俺は味を確かめるために少しスープを舐めていたがはっきり言って俺達にとっては具も貧相で味も薄い。どうしても飲みたいスープというわけでもなかった。それでもスラムの住人は大喜びだった。それほどこのスラムは貧しい。
アキラ「すみません。師匠とガウが獲ってきたのに。」
勝手に二人の分のスープまで渡してしまったのだ。
狐神「私はいいんだよ。あの子供にスープを渡してた時のアキラの慈愛の顔っていったらもう…。それだけでお腹一杯だよ。」
師匠が両頬を押さえイヤンイヤンと言うように体をクネクネさせていた。
ガウ「がうも別にいいの。他のもとれたからししょーと食べてきたの。」
狐神「あっ!ガウ!なんてことを…。」
どうやらそういうことらしい。師匠達はこうなると予想して先に自分達の分は食べてきたのだ。師匠もガウも料理ができないのでおそらく旅用袋に入れてある塩胡椒で焼いて食べただけだろうけど…。
タマ「でもアキラちゃんの分が……おいらのをあげるよ!」
アキラ「それは宿代だ。お前が食え。俺は街の露店で食べてきたからな。」
ガキのくせに良い所を見せようと我慢してるんだろうがさっきからタマの腹もぐぅぐぅ鳴っている。そもそも俺達はほとんど食べる必要はない。趣味で食べているだけだ。ガウはそんなに食べなくてもいいくせに食いしん坊だが成長期だからかもしれない。こうして思わぬ炊き出しは終了した。
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後片付けも終わり部屋へと戻ってきた俺は少し考え事をする。炊き出しに並んだり少し離れて様子を伺っていた者の中に今日の夕方に旧市街で襲ってきた追い剥ぎ達の仲間がいた。確実に仲間だという証拠はない。だがあの時遠くに潜んで俺とフリードなんとかが襲われている様子を伺っていた奴らだ。俺の気配察知を甘く見ていたようだが潜んでいたのはバレバレだった。追い剥ぎに獣人族が混ざっていたことといい何らかの繋がりはあると見た方がいいだろう。
その時タマが家から出て行くのを感じた。
アキラ(こんな時間にガキが一人でどこへ?)
師匠の方を見ると師匠も俺を見つめて頷いた。俺達は完全に気配を消して後をつける。タマは家を出るとすぐにずっと家を覗いていた奴の一人についてどこかへ歩いていく。少し離れた所にあったボロい倉庫のようなところに入っていったので中の様子を伺う。
人間A「おい。本当にこんなので大丈夫なんだろうな?」
獣人A「あの女はこのガキ共を大事にしてるようだ。必ずうまくいく。」
倉庫の中には三人の人間族と五人の獣人族がいる。そしてそれ以外にミィとタマだ…。
獣人B「あいつら相当腕が立つ。まともにやったら今日の奴らの二の舞だ。このガキ共を人質にして動きを封じなければな。」
もうこれだけで大体想像が付く。こいつらはやはり夕方の追い剥ぎの仲間だ。なぜ俺を狙うのかあるいはフリードなんとかが狙いかはわからないがまともにやっても勝ち目はないと見てあの二人を人質に使うつもりだ。
タマ「ミィ大丈夫か?」
ミィ「タマちゃ~~ん!うえ~~~ん!」
獣人A「うるせぇ!クソガキが!」
バシンッ!
タマとミィは縛り上げられ転がされていたが泣き出したミィを叩こうとした獣人Aの平手にタマが間に入ってかわりに殴られた。その瞬間俺の頭は沸騰した。
ドオオォォンッ!
倉庫用の巨大な引き戸は俺の一押しで斜め上に吹き飛び天井を突き破って遥か遠くへと飛んでいった。
獣人A「なっ!なんだ?!」
八人の男共は突然のことに騒いでいたが真正面から堂々と入ってくる俺に気づいたようだ。
獣人B「てってめぇ何しやがった?」
人間A「おい!止まれ!それ以上近づいたらこのガキ共の命はねぇぞ。」
ミィ「ひっ!」
人間Aがミィにナイフを向ける。
アキラ「その子たちに指一本触れてみろ。その瞬間地獄を見せてやる。」
俺の妖力の渦に耐え切れず外套の留め金が外れて飛んでいく。薄暗いはずの倉庫が俺の青白い妖力に照らされ神秘的な輝きに染まる。普段は20cmほどに縮められている尻尾が溢れすぎた妖力で長くなっていく。
人間B「おっ、おまっ、お前何者…だ…。」
全員の驚愕の視線が俺に集まる。問いには答えずに俺はゆっくりとこのクズ共に近づいていく。
人間A「おい!止まれっていってんだろうが!刺すぞ!」
ゴキッ!
人間A「………あ?」
ミィにナイフを近づけようとした人間Aの腕は本来関節のない部分で折れ曲がっている。
獣人A「ぐあぁぁっ!」
獣人B「いてぇぇぇぇっ!」
あちこちで呻き声が聞こえる。残りの七人は全て足をへし折った。捕まえるのは造作もないがいちいち逃げられたら面倒だからだ。
アキラ「大丈夫か?」
タマ「ヒッ!」
俺の差し出した手から逃れようとするようにタマが這いずりながら後ずさった。
アキラ「…。師匠、二人をお願いします。」
狐神「…わかったよ。」
師匠が二人を抱えてここから離れてくれた。
アキラ(ここから先は子供には見せられないからな。)
二人を抱えた師匠を見送り未だに呻いているクズ共へと向き直る。
アキラ「お前らの狙いはなんだ?」
人間A「ばっ化け物め!」
ボキッ!
人間A「ぎゃぁぁぁっ!」
アキラ「俺の問いにだけ答えろ。目的はなんだ?」
人間A「ひぃぃっ!」
ゴキッ!
人間A「ぐわぁぁぁっ!」
アキラ「さっさと答えろ。」
人間A「おっお前とブレストプレートの男を始末すれば金をくれるという者がいたんだ。お前らの持ち物と女は好きにしていいって言われてとにかく殺せとっ!」
アキラ「そいつは何者だ?」
人間A「知らないっ!この街じゃ見たことない!」
アキラ「次はどこを折られたい?」
人間A「まっ待て!嘘じゃない。本当に知らないんだ。」
アキラ「どんな奴だ?」
人間A「お前達のようにマントにフードで顔を隠しててわからない。普通の旅人みたいな格好だ。」
アキラ「それで俺には敵わないと見て二人を人質にしようとしたのか?」
人間A「そうだ。ブレストプレートの男は後回しにしてスラムにいるお前から先に始末しようと思ったんだ。男は金を奪って殺すしかないが女は違う楽しみもあるからな。あっ!いやっ…。」
どうしようもないクズだな。それにしても俺が狙いか?それともフリードなんとかか?あるいは両方…。こいつらは使い捨ての駒だ。これ以上何も知らないだろう。フリードなんとかはガルハラ帝国の皇太子だ。命を狙う者もいるだろう。だが俺はどうだろう?そもそも俺の存在など誰が知っている?もし俺が狙いだとすれば聖教関係か?
人間A「もう知ってることは何もないっ!頼むっ!助けてくれ!」
グシャッ!
獣人A「ひぃぃぃ!」
………
……
…
倉庫には恐怖と苦痛に顔を歪めた八つの死体が転がっている。俺は飛んでいった外套を拾い上げて身に纏う。ぎゅっと俺の外套を掴む者がいた。
ガウ「………。」
ガウは何も言わず俺の外套を掴みながら心配そうな顔で俺を見上げている。
アキラ「…。」
俺も何も言わずガウの頭を撫でる。二人で師匠の元へと向かう。師匠はミケの家の前で待っていた。俺は一度だけミケの家に入りテーブルの上に置手紙と小袋を置いてすぐに出る。
狐神「行くかい?」
アキラ「はい。」
ガウ「がう。」
俺達三人はその夜のうちにブレーフェンから旅立った。
~~~~~おまけ~~~~~
女の子「パパ~!パパの初恋のお話聞かせて~。」
男の子「え~!そんなの面白くないよ。パパの武勇伝聞かせてよ。」
ソファーで寛いでいると二人の子供が俺に話しをせがんでくる。大変なことも色々あったが今では家族に囲まれて幸せな生活を送っている。上が男の子のゴロタ。下が女の子のミュウだ。もうすぐ三人目も生まれる。妊娠している妻はお茶を入れるとダイニングキッチンの椅子に座ってこちらの話を聞いているようだ。
パパ「それじゃ二人とも満足できるお話をしてあげようか。パパが子供の頃の話だ。それは………
………
……
…
俺はじいちゃんと二人でブレーフェンのスラムに住んでいた。家は貧しかったけどじいちゃんはもう年で俺は子供だからまだ稼ぎに出ることもできなかった。ブレーフェンは港の拡張工事で人で溢れかえっていた。昔はガルハラ帝国も種族差別が今より厳しくて獣人族はみんな貧しかった。仕事を求めてやってくる獣人もたくさんいたが宿にも泊まれないような者達が多かった。だから家で泊めてあげる代わりにお代や食料をわけてもらってたんだ。
その日も宿を探している旅人に声をかけた。三人組の旅人だ。大きい人は女性だとすぐわかった。マントを羽織ってフードを被っているがそれでもなおわかるほどにおっぱいが大きかったからだ。大きい人と中くらいの人は獣人族だ。耳がフードを押し上げている。旅人では珍しくない格好だからすぐに見分けがつくようになっていた。小さい子はわからない。耳の小さい獣人族もいるからだ。声をかけたら中くらいの子の返事を聞いて声で女の子だとわかった。
三人を家に連れて行って三人がフードを取った時俺は初恋をした。うちの近所で猫人種の子供は俺より小さい女の子一人しかいなかった。あとは大人ばかりだった。中くらいの子は猫人種で俺より少し年上のように見えた。黒髪に金色の毛並の耳と金色の瞳が美しかった。大きい女の人も綺麗だったし小さい子も女の子だとわかりかわいかったが年が近くて同じ種の黒髪の女の子に俺は夢中になった。
三人は室内でもマントを脱がなかった。だけどそれは別に珍しいことじゃなかった。脛に傷を持つ者も多い旅人やスラムに住む者にはそういう者も大勢いた。俺はそんなことよりも黒髪の子の気を引きたくてたくさんちょっかいをかけた。最初は偶然だった。ちょっかいをかけている間に黒髪の子のおっぱいに触れてしまったんだ。マントに隠れて気づかなかった黒髪の子のおっぱいはすごく大きかった。俺はおっぱいに夢中になった。黒髪の子が強く怒らないのをいい事に遊んでる振りをして何度もおっぱいを触った。時には抱きついておっぱいに顔を埋めた。
おっぱい万歳!おっぱい万歳!
その夜俺は生まれて初めて寝ている間にパンツを汚した。
???「おい。それは子供達に言うようなことか?」
ダイニングキッチンの方から声をかけてくる。声の主は椅子に座りテーブルに片肘をついて頬杖をついている。妻は片手で自分のお腹を撫でながら少し呆れた顔をしている。そろそろ出産予定日が近い。
途中で話を止められたので気を取り直して続ける。
次の日の朝三人組はそれぞれ出掛けていった。俺は近所に住む猫人種の年下の女の子と遊んでいた。夕方に黒髪の子が帰ってきた。俺はまたおっぱいに抱きついた。さすがにその時は黒髪の子に怒られた。大きい女の人が持って帰ってきた大きなグレートボアーで炊き出しをした。近所の猫人種の子の一家に最後の炊き出しをあげたから黒髪の子たちの分はなくなってしまった。俺の分をあげるといっても自分達はいいと言われたのは少し悔しかった。
その夜窓の外から妙な人が家を覗いていた。手には何か持っている。その持っている物に気づいた時俺は声を上げそうになった。それは近所の女の子のハンカチだった。だが覗いていた男が口に指を当てているのを見て俺は声を上げなかった。静かにしろというジェスチャーだ。そして手招きをするので俺は素直に外に出た。男について来いといわれてついていく。スラムの外れにある廃倉庫だった。そこには近所の女の子が捕まっていた。俺も捕まって縛り上げられた。俺は泣き出しそうだったが近所の女の子を安心させるためぐっと我慢した。だが近所の女の子が泣き出してしまったので男の一人が手を振り上げた。俺は咄嗟に女の子を庇った。叩かれて痛いと思ったのも一瞬で痛みを忘れるほど衝撃的な光景が広がった。
突然の大轟音とともに廃倉庫の扉が吹き飛んだ。そして悠然と誰かが歩いてくる。それは黒髪の子だった。フードを被っていたし逆光で顔は見えていなかったが見た瞬間にすぐにわかった。男達と言葉を交わしている声はやはり黒髪の子のものだった。だけど俺の知ってる声とはまるで違う。美しいはずのその声はまるで地獄の底から響いてくるかのように恐ろしかった。
男達との言葉のやり取りの途中で突然黒髪の子の周りで突風が吹いた。初めて目にした黒髪の子の全身。黒いドレスを着ている。おっぱいはやっぱり大きい。だけどそんなことは気にならない。全身を青白い不思議な光に包まれ長い黒髪は浮かび上がっている。金色の毛並の耳と同じ毛並の九本の尻尾がゆらゆらと揺らめいている。金色の瞳は見た者の命を吸い取る死神のようだった。
子供の俺には何が起きたのかわからないくらい一瞬で男達は倒れ呻いていた。それを成した人物が俺に手を差し出した時俺は恐怖した。その手が俺に何かするはずなどないのに俺にはその手は恐怖の象徴のようだった。俺の態度を見た手の主は一瞬だけ物凄く悲しそうな顔をした。だがすぐに何事もなかったかのような顔に戻り大きい女の人に俺達のことを任せると言った。その時俺は自分を殴り飛ばしたいほど後悔したがついにその時は何もいえず大きい女の人に連れられて家へと戻った。
明日お礼とお詫びを言おう。そう思っていたが翌朝起きたら三人組はもういなくなっていた。俺があの時あんな態度をとらなければ…。助けてくれた相手にひどい仕打ちをしてしまった。俺は後悔し落ち込んだがじいちゃんに後悔するくらいなら反省して次に活かせと言われて立ち直った。その日から俺は頑張って生きてきた。次に黒髪の子に出会ったら必ずお礼とお詫びを伝えようと…。
そして俺はその黒髪の子と再会を果たした。その後も色々と大変な目にあったが今ではこうして幸せに暮らしている。
………
……
…
ミュウ「その黒髪の子ってもしかして…。」
ミュウがダイニングキッチンを振り返る。そこに座る人物は美しい黒髪に金色の毛並の耳と九本の尻尾がある。金色の瞳が全てを見透かしているかのようだ。少女のような身長なのにおっぱいは大きい。二十年以上経っているのにその姿はまるで変わらない。
ゴロタ「すげー!そんなに強かったんだ。俺にも教えてよ。」
子供達が駆け寄っていく。
アキラ「ゴロタにはまだ早い。」
慈愛の表情を浮かべながら子供達二人をうまく宥める。微笑ましい光景だ。昔は気づかなかったが子供の頃の俺やミィの相手をしている時もきっとこんな顔をしてたんだろうな。
タマ「幸せだな。早く三人目も見たい。」
俺もソファーから立ち上がりダイニングキッチンにいる愛する妻のもとへと行き、そっと三人目の子供のいるお腹を撫でる。
アキラ「…まったく子供達の前で。ほどほどにしておけよ?」
俺の初恋の人は少し呆れているようだ。
………
……
…
ミィ「大丈夫よアキラちゃん。うちはこれで幸せなんだから。」
アキラちゃんの向かいに座る妻が返事をする。
アキラ「どうでもいいが子供が出来るたびに呼び出すのはやめて欲しいんだが?」
ミィ「アキラちゃんにも祝って欲しいもの。アキラちゃんは世界中どこに居たってすぐに来れるんだからお祝いしてくれてもいいじゃない。」
アキラ「呼ばれて来るたびにバカップル夫婦のお惚気を見せ付けられる俺の身にもなれ。」
ミィ「アキラちゃんだってあんなにモテモテなんだからいいじゃない。」
アキラ「ちっともよくない。」
ミィ「それにまだうちの旦那様の一番はアキラちゃんだからこうして見せ付けとかないとね。」
タマ「おいおい。ミィのことも愛してるよ。」
ミィ「『も』でしょう?未だにアキラちゃんに未練があるのは知ってるんだから。」
タマ「………そんなことは。」
ミィ「ほら!またアキラちゃんのおっぱい見てる!三回も私を孕ませておいてひどいパパね。」
タマ「あうあう…。」
アキラ「もう帰っていいか?」
ミィ「だめよ。もうすぐ生まれるからアキラちゃんも立ち会って!女神様に取り上げてもらえるなんてうちの子達は幸運ね。」
近所に住んでいたたった一人だけの年の近い同じ猫人種の年下の女の子。今では愛すべき我が妻にはファルクリアの女神様もたじたじだった。




