第百十五話「開戦」
アキラに龍魂を預けて以来、このたった僅かな期間に一万数千年生きてきた俺の知識ですら知らないことばかりに触れてきた。
所詮はどれほど書物で知識を得ようとも実際に体験したことに比べてどれほどの理解も価値もないということだろう。
わしの肉体はそろそろ限界のようだ。肉体が死んだ時にこの龍魂に分かった魂も消滅してしまう。龍魂に魂を分けたことで寿命が縮まったようだ。
だが悔いはない。この旅のお陰でこれまで知らなかった数々の知識を得ることが出来た。何より旅の間中アキラに講義することが出来た。
後継者を得たことでわし自身が死のうともわしの知識は消えることなく受け継がれる。
………本当にそうか?まだ俺は真理を解き明かしてはいない。
………本当にそうか?僕はまだ死にたくない。
………本当にそうか?わしは………。
狐神「戻ってこれたね。………それはいいけど何でシルヴェストルがアキラと同じ技を使えるんだい?」
シルヴェストル「それは………。」
周囲の者達の声で俺の意識は現実へと帰って来た。………どうも最近意識が、いや、記憶が混濁しているような時がある。龍魂に魂を分離した影響であろうか。
いや…、それはいい。それよりも今シルヴェストルが大転門を使ったことだ。こちらを考えることが優先だ。
精霊族であるはずのシルヴェストルが海人種の力を使うなどあり得ないはず……、だった。それなのに使ったということは紛れもない事実であろう。これは一体…。
タキリ「アキラお異母姉様!これは一体どういうことですか?」
三姉妹の長女が転移で戻ってきた我らを見て驚きの声を上げる。いや、倒れているアキラを見て…、か。
狐神「どうやら力の使いすぎみたいな感じになってるよ。ゆっくり休ませてやりたいからさっさとどいて欲しいんだけどね?」
タキリ「貴女方が………、貴女方がアキラお異母姉様の言われた通りにここで大人しく待っていればこのようなことにはならなかったのではないですか?!」
普段は物静かなタキリもアキラの様子を見て取り乱しているようだ。
ティア「わたくし達が居たからアキラ様は帰ってこれたのかもしれませんよ!一方的に好き勝手言わないで下さい!」
うむ…。そういう見方も出来るな。アキラ一人であったならばあのままあそこで倒れたままになっていたかもしれないと考えることも出来る。
狐神「黙りな!今はアキラを運ぶのが先だってわからないのかい?ぐだぐだ揉めるのは後でやりな!」
狐神の一喝で全員静まり返る。やはりこういう迫力は力の強さだけでは決まらぬようだな。狐神よりも力の勝るはずのタキリですらその迫力に押し黙ってしまった。
ようやくやるべきことに気付いた者達は急いでアキラを社へと運んでいったのだった。
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社に運び込まれたアキラは布団に寝かされた。それはいい。しかし………。
最古の竜『クシナ…。クシナっ!布団を捲ってくれ。これでは何も見えん。』
アキラの首からさげられているわしまで布団を被せられているから何も見えんのだ。
クシナ「お爺様…。ゴホンッ!それではお爺様に言われたのでやむを得ず手を入れますね!」
そう宣言するとクシナはゴソゴソと布団の中に手を突っ込んできた。しかし明らかに俺のいる場所とは違うところを弄っている。どうやらわしの言葉にかこつけてアキラの体を撫で回すのが目的だったようだな。
クシナ「えっとぉ~、こちらでもなくてぇ~。あちらでもなくてぇ~。あれあれぇ~?お爺様どこですかぁ~?」
何ともわざとらしい棒読みの台詞でアキラの体を弄っている。可愛い孫娘のために黙っておいてやりたいところではあるが、意識のない者の体をこのように撫で回すのは感心しない。
最古の竜『クシナよ。意識の無い者の体を撫で回すのは感心しないぞ。そういうことをしたければアキラが起きている時にしなさい。お前はアキラの妻なのだろう?もっと堂々としなさい。』
クシナ「うぇっ!いっ、一体何のことでしょうか?私はお爺様を取り出そうと………。」
最古の竜『その上言い訳までするつもりか?クシナは一体どこに誇りを落としてきたのかね?』
クシナ「うぅっ………。申し訳ありません…。」
最古の竜『わしに謝ってどうするのだ。アキラが起きたらきちんと説明して謝りなさい。』
クシナ「はい…。我が家の誇りにかけて必ず…。」
うむうむ。アキラに対してもこれくらい素直ならばもっと可愛がってもらえるというのにな。
狐神「まぁまぁ。かたいことは言いっこなしだよ。クシナだってアキラの嫁なんだからもっとやったっていいんだよ?それどころかクシナがそういう面で積極的になるなんて良いことなんだから水を差しちゃいけないよ。」
最古の竜『ふむ…。言わんとすることはわからんでもないが、意識の無いアキラを撫で回すのではなく起きている時に迫るべきだろう?』
狐神「はぁ…。これだから男ってのは……。いいかい?これまでそういうことをしたことがないおぼこがいきなり積極的になれるわけないだろ?まずはアキラの意識がない間に慣らしておくのがいいだろう?」
クシナ「ちょっ、ちょっと待ってください!もういじめないで………。」
クシナが両手で自分の顔を覆ってイヤイヤと首を振っている。どうでもいいが俺を持ったままブンブン振るのはやめてもらいたい。
タキリ「………。それよりも事の顛末を…。」
狐神「ああ。そうだったね。それじゃ………。」
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タキリ「………やはり貴女方のせいではないですか?」
狐神「誰のせいであるのかはわからないけど結果はこの状態さ。ただ言えることはアキラが自ら選択した結果であってそこに当事者でもない者が何か言うことはないと思うけどね?」
タキリ「………。」
狐神「アキラは自分の嫁や仲間を見捨てたりはしない。もしここで私らが自分達のせいだなんて自分を責めて後悔でもしようものならアキラはきっと怒るよ。『これは自分が招いた結果であって人のせいじゃない!』ってね。」
そうだな…。アキラの性格ならそう言うだろう。この結果を招いたのは自分の選択だと…。
イチキシマ「それはもういいではないですか。それよりも今はこれからどうするのかを考えましょう。」
タギツ「涎垂れてるぞ!アキラを看病する振りして色々する気だな!」
イチキシマ「あら?何のことでしょう?………ただアキラ様のお体を拭いたりする時に少しくらいお体に触れてしまったりするかもしれませんねぇ………。えへへっ。」
タギツ「やっぱり何かする気だー!」
まったく騒がしいものだ。
僕は小さい頃から本の虫だった。一人で静かに本を読むのが好きだった。
だが何故だろう。今ではこういう騒がしい時も楽しいと感じる。この俺が死の間際になって人恋しくなったか?
あるいはわしが年を取って丸くなったからであろうか?
その時この世界全てを大きな神力が包み込んだ。………信じられん。これは第一階位に迫るほどの力だ。かつてこの世界で第一階位の高みへと到った者はただ一人。最強の武神スサノオのみ。そのスサノオに届くほどの力を持つ者など誰であるのか考えるまでもない。
アマテラス『ファルクリアに住む全ての生き物達よ。聞くが良い。わらわの名はアマテラス。この世界の真の統治者。』
頭の中にアマテラスの映像が浮かび上がり声が聞こえる。これは恐らく俺だけではなくこの神力に触れている者全てが見て聞いているのだろう。
どうすればこのような術が使えるのか?ということはわからんが、これがアマテラスの術であることはわかる。
アマテラス『そなたらには二つの選択肢がある。一つはわらわに服従する道。もう一つはわらわに逆らい滅ぼされる道。どちらでも好きな方を選ぶが良い。』
タキリ「何を勝手なことを…。」
狐神「まったくだねぇ…。もう一つの選択肢を忘れてるよねぇ。自分達の方が滅ぼされるってね!」
タキリ「その通りですね。貴女とは気が合わないかと思っておりましたがその点だけは同意します。」
タキリと狐神はお互いに顔を見合ってニヤリと笑う。
アマテラス『そうそう。わらわに逆らう者達に一つ教えておいてやろう。そなたらの希望であったアキラ=クコサトはもうこの世にはいない。それでもわらわに逆らって戦うという者は逆らうが良い。』
一同「「「「「???」」」」」
この場にいる全員が顔を見合わせて頭に『?』を浮かべている。俺だってそうだ。アキラがこの世にいない?それでは今わしの目の前にいるこれは誰だ?いや…、ここがこの世ではないということか?
ミコ「もしかして…、なんですけれど…。」
全員が『?』を浮かべたまま固まっているとミコがおずおずと手を上げながら何かを言い出した。全員の視線が集まる。
ミコ「アキラ君の力が感じられなくなったから死んだと思ったのかな…、とか?」
一同「「「「「ああ~………。」」」」」
なるほど。確かに今のアキラからはまるで力が感じられん。遠くからただ神力だけを感知している者からすれば死んだと勘違いしてもおかしくはない。
狐神「………でもこれは好機だね。」
ティア「え?どういうことでしょう?」
狐神は良いところに目を付けたようだな。わしの考えたことと同じことに気付いたのだろう。
狐神「今まで姿を現さなかった敵がアキラが死んだと思ったことで出てきてくれたんだ。これを利用して敵の尻尾を掴もうじゃないかい。」
その通りだ。月人種と太陽人種はこれまで表立って動いてこなかった。それがようやく現れてくれたのだ。これを利用しない手はない。
シルヴェストル「なるほどのぅ…。確かに言っておることは間違いではないが…。問題はわしらだけで月人種と太陽人種を相手に出来るのかの?」
フラン「そうですね………。」
ふむ…。全体が暗い雰囲気になってしまった。アキラなしで強敵と戦うなど今までにない経験だ。何より敵の強さと規模が桁違いすぎる。
この中に死を恐れる者はおらんが、勝ち目のない相手に我武者羅に突っ込むだけの戦闘狂もおらん。まったくと言って良いほど勝ち目を感じない相手にどう戦えば良いのかわからず悩んでおるのだろう。
最古の竜『まずお前達は勘違いをしておるぞ。』
ミコ「………え?勘違い?」
全員の視線が俺に集まる。まったく…、世話の焼けるヒヨッコ共だぜ。
最古の竜『最初に…、お前達は強い。例え海人族の三種のどれと比べようとも紛れもなくこの世界の上位に入る存在だ。海人族の者達だからと言って全ての者がお前達よりも強いわけではない。』
キュウ「なるほどぉ~。」
最古の竜『それから何も正面から戦争して勝たねばならんというわけではないということだ。主神格の者はアキラか海人種の上位の者に相手にしてもらうとしても、それ以外の者の相手をするなり情報を集めるなり出来ることはいくらでもある。』
ルリ「………ん。」
ガウ「がうがうっ!」
どうやらこの二人は最初からわかっていたようだな。何も正面から敵を殲滅することだけが戦いではない。それぞれが出来ることをすれば良いのだ。
イチキシマ「私達もお手伝いしますよ。ね?」
タキリ「………アキラお異母姉様の敵は海人種の敵です。」
タギツ「よーし!アキラのために頑張るぞー!」
うむ…。海人種の協力を取り付けられたようだ。これならば何とかなるだろう。いくら正面から戦うだけが戦争ではないと言っても自陣の確保もままならないのでは常に逃亡生活を送らなければならないからな。
最古の竜『それではアキラが目を覚まして神力が戻っても敵に気付かれないように何か結界のようなものを張ろう。』
クシナ「そうですね………。」
こうして途中でアキラが目覚めて神力が戻っても敵に気付かれないように社ごと結界を張り匿うことにした。
我々には神力を遮断する結界を張れる者はアキラ以外にはいないが三姉妹には張れるようだ。このことから神力を遮断する効果というのは海人族か海人種、あるいはスサノオの力を継いでいる者しか使えない能力なのかもしれんな。
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アキラの身の安全も確保してこれからのことを話し合っているとあの人間族がやってきた。
フリードリヒ「アキラが帰ってきたんだろう?何故会わせられないんだ?!アキラはどこにいる?」
結界を張った社の外で会議をしているとフリードリヒが詰め寄ってくる。
狐神「アキラは今休んでるんだよ。会いたきゃまた今度にしな。」
フリードリヒ「………また今度?また後でじゃなくてか?アキラに何かあったんだな?そうなんだろう!?」
ふむ…。この皇太子は中々鋭いようだな。嘘を付くわけにもいかない狐神が言葉を濁したがそこに気付いたようだ。
狐神「アキラが疲れて休んでるのは本当だよ。ただいつ目覚めるかわからないだけさ。」
フリードリヒ「いつ目覚めるかわからないって!おい!どういうことだ!」
狐神「はぁ…。うるさいねぇ。私はまた同じ説明をするのは嫌だから誰かに聞きな。」
フリードリヒ「ちっ…。おい!誰か教えてくれ!」
こうしてまたこの皇太子に説明することになった。
………
……
…
フリードリヒ「おい!それ大丈夫なのかよ!?アキラはちゃんと目覚めるんだろうな?」
狐神「私にわかるわけないだろ!」
フリードリヒ「………。」
珍しく狐神が声を荒げたことでこの場が凍りつく。平気なように振舞ってはいても狐神もアキラが心配なのだろう。
狐神「ただね…。私らはアキラは大丈夫だって信じてるんだ。だからアキラが目を覚ますまでに出来ることをしようとしてるんだよ。あんたはそうやってただ喚き散らすだけかい?アキラを信じないのかい?」
一同「「「「「………。」」」」」
その一言が決め手となった。この場にいる全員の気持ちは一つになったようだ。
フリードリヒ「はっ!言われなくても信じてるぜ。ただ結界とやらを張る前に俺にも会わせてくれたってよかっただろ?」
狐神「あんたみたいなケダモノの前に無防備なアキラを出せるわけないだろう?」
フリードリヒ「待て待て待て。いくら俺でも今の小さくなったアキラにそういうことしようとは思わないぞ!」
ふむ…。それは嘘だな。これまで観察してきた限りでは小さくなっているアキラにも性的興奮を覚えていたのは間違いない。
………その時再びアマテラスの神力が世界を包んだ。
アマテラス『わらわに従わぬと答えた国を一つ潰すことにした。これより大ヴァーラント魔帝国を滅ぼす。まだ決めかねておる国々は愚か者の末路をよく見ておくが良い。』
それだけ言うとまたアマテラスの神力は消えた。どうやらこの映像と声を届けるためには世界中に己の神力を満たさなければならないようだな。
黒の魔神「………帰る。」
フリードリヒ「あ?何て?」
黒の魔神「国へ帰る!」
黒の魔神が帰ると騒ぎ出した。子供になっていてもやはり自分の国が心配なのだろう。
狐神「いくらクロでも一人で行かせるわけにはいかないね。そもそもクロは封印状態だけど大丈夫なのかい?」
黒の魔神「体がちぢんでるだけで力は封印されてないから大丈夫だ!」
狐神「そうかい…。でもやっぱり一人は駄目だよ。」
フラン「それでは私もご一緒しましょう。」
どうやらフランツィスカも故郷が心配のようだな。
狐神「ふむぅ…。親衛隊の者達は故郷を守りにいかなくていいのかい?これが最後の別れになるかもしれないよ?」
ジェイド「俺達は大ヴァーラント魔帝国や故郷や家族を守るためにいるわけじゃありません。俺達が命を賭けて守るのはアキラとその奥方達です。」
狐神「だったらフランも守らないとね?」
リカ「はいっ!はいっ!私が同行します!」
狐神「それで…、どう思う?最古の竜。」
狐神が意見を求めてくる。ならばわしの思った通りに答えよう。
最古の竜『うむ………。まだ戦力的に不安ではある。戦力の分散や逐次投入は愚策ではあるが敵の戦力も狙いも不明なところに全戦力を投入するわけにもいくまい。今打てる手としてはこれで良いのではないだろうか?』
狐神「そうだね…。……というわけでこれ以上の戦力は割けないよ。当然命の保障もないし援軍も出せないかもしれない。それでもいいのかい?」
フラン「はい。ウィッチの森が心配ですから。」
黒の魔神「じゃあ俺達三人で片付けてくるぜ!………ところでどうやって大ヴァーラント魔帝国まで帰るんだ?」
それは盲点であったな………。今から走って向かうのならそれなりの時間がかかってしまう。さて…、どうしたものか。
ヤタガラス「片道でよければ手転門で北大陸まで転移してやろう。」
その時、影が盛り上がり人型になりヤタガラスが出て来た。海人種の転移は基本的に門を開いてそれを潜るもののようだから一度向こうへ行ってしまうと帰りは一度迎えに来てもらわなければならない。
行きは門を出してもらって潜ればすぐだが、帰りは自力で帰るしかない。だが自力で帰ろうにも転移か虹の橋なくしてカムスサへと帰る方法がない。
最古の竜『アキラが動けぬ以上虹の橋は使えぬ。転移以外でどうやって戻ってくればいい?』
ヤタガラス「暇があれば後でそのうち迎えに行く。だがこちらも余裕があるかはわからない。迎えが遅くなっても責任は取れない。」
ふぅむ…。分散したまま戻れるのがいつになるかわからないのは少々危険か?
狐神「危険を承知で行くって言ってるんだよ。そうだねフラン?」
狐神はフランツィスカを真っ直ぐに見つめる。
フラン「はい。アキラさんと一緒に旅をするようになってから…。いいえ、ウィッチの森に居た時から大ヴァーラント魔帝国が攻めてきて死ぬかもしれないという覚悟はしていました。」
どうやら決まりのようだな。あとは流れに任せるしかない。
ヤタガラス「それではこれを潜るがいい。」
ヤタガラスが手を翳すと空間にぽっかりと穴が開いているかのような黒いものが出現した。
フラン「それではいってまいります。」
最古の竜『おお!そうだ。クシナ。この龍魂の紐に通している玉を一つフランツィスカに渡してやるがいい。』
クシナ「え?これですか?」
クシナが紐から一つ玉を取り外した。
最古の竜『それだそれだ。フランツィスカよ。これを持って行くがいい。』
フラン「これは何でしょうか?」
素直にクシナから受け取ったフランツィスカはしげしげと玉を眺めていた。
最古の竜『それはわしが入っている龍魂に近いもので、わしにはその玉を通した景色を知ることが出来る。それがあればわしがそちらの状況をいくらか知ることが出来るというわけだ。』
フラン「へぇ!そうなんですか!どのような構造になっているのでしょうか………。」
フランツィスカがおもちゃを与えられた子供のような顔になった……。
最古の竜『貴重な物だから分解はしないでくれ。』
フラン「え?えぇ…。もちろん?」
眼が泳いでいる。やはり何かするつもりだったのか…。これも龍魂ほどではないが貴重な物なので壊されては大変だ。
フラン「それでは今度こそ行ってまいります。」
黒の魔神「よーし!一万年前の決着をつけてやるぜ!」
三人が門を潜る。するとまるで最初からそこにいなかったかのように静かに消え去ったのだった。
~~~~~フラン~~~~~
ヤタガラスさんが出してくれた門を潜るとそこは………。
黒の魔神「ここはヴァルカン火山の少し南だな。」
フラン「やはり…。見たことがある場所だと思いました。」
アキラさんと旅をしている間に少し離れた場所からでしたが、ここが見える所を通った気がしました。
黒の魔神「パンデモニウムに向かうぞ。」
フラン「………はい。」
本当は大ヴァーラント魔帝国やパンデモニウムよりもウィッチの森が心配です。ですが敵がパンデモニウムを狙ってくるのならパンデモニウムで受けてたった方が良いでしょう。そう決めた私は黒の魔神さんについて行くことにしました。
リカ「フランツィスカ様はあたしが命に代えても守ります。」
リカさんが真剣な表情で覚悟を語ってくれました。アキラさんが言うにはこのリカさんは私に興味があるとか………。ですが私の全てはアキラさんのものなのでその想いには応えられません。
フラン「あまり無理はなさらないでくださいね。リカさんが傷ついたらアキラさんも悲しむと思います。」
リカ「それは………。」
リカさんもアキラさんがどういう方かわかっているので私の言っていることが分かるのでしょう。
黒の魔神「おい。そんなことはいいから行くぞ。」
フラン「はい。」
リカ「ええ。」
こうして黒の魔神さんに急かされてパンデモニウムへと急いだのでした。
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まだパンデモニウムに到着していませんがこの距離ですでにわかります。火と血の臭い。それに誰かが争っている気配。パンデモニウムではもう戦いが始まっているのでしょう。
黒の魔神「くそっ!もう始まってやがる!」
黒の魔神さんがさらに移動速度を上げて暫くするとパンデモニウムが見えてきました。
フラン「これは………。こんなことって……。」
黒の魔神「うおおぉぉぉっ!!!」
黒の魔神さんが叫び声を上げます。私だってウィッチの森がこんな風になっていたら同じようなことをしたでしょう。
あの大きくて綺麗に整備されていたパンデモニウムはあちこちが崩されて火の手が上がっていました。あれほど数多くいた住人達もその数を大きく減らしています。
フラン「こんなことって………。」
大ヴァーラント魔帝国にはマンモンが居たはずです。マンモンほどの者が居てもこれほど一方的に蹂躙されるというのでしょうか…。
私は敵を甘く見ていたかもしれません。マンモンは確かに私達よりも弱いです。ですが普通の者とは比べ物にならないほどの強さを持っているはずなのです。それがこれほど一方的な戦いになるだなんて………。
黒の魔神「今行くぞ!」
フラン「駄目です!」
そのまま駆け出そうとした黒の魔神さんを捕まえます。
フラン「このまま考えもなしに突っ込んでも良い結果にはなりません!本当に皆さんを救いたいと思っているのならきちんと結果を出せるようにするべきです!」
今の小さくなっている黒の魔神さんに言っても通じるかどうかわかりません。ですがそう言うしかないのです。
フラン「リカさんも私から離れないでください。」
リカ「しかし…。」
フラン「いいですね!」
リカ「はいっ!………でもこれじゃどちらが護衛だかわからないですね。」
そんなことを言ってる場合ではありません。よく考えて慎重に行動しないと私達でも危険です。
もう少し余裕があるかと思いましたが……。アキラさん…。私はこんな所で命を落としたりしません!必ずアキラさんの所へと帰ります。ですから待っていてくださいね。