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転生無双  作者: 平朝臣
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閑話23「鈴木太郎」


課長「こんなことも出来ないのか!お前は一体何年勤めてるんだ!?」


太郎「すみません………。」


課長「すみませんじゃすまないんだよ!お前のミス一つで全員が困るんだ!しっかりやれ!」


 それは私のミスじゃない。しかしそれを言っても『後輩をきちんと管理するのがお前の仕事だろうが!』と言われる。


 そしてそれは後輩じゃなく先輩がやったミスですと言えば『誰がやったかじゃない!きちんと管理していないお前が悪い!』と言われる。


 指導するために言っているのではなく私に怒鳴って八つ当たりしたいから言っているのだから、正論を言っても火に油を注ぐだけになることはよくわかっている。こういう時はただ反論せずに謝り続けるしかない。


 理不尽だ。本当に理不尽だ。学校を卒業してから二十年以上…。もう二十年以上になる。


 零細企業と言うほどではないが大手というほどでもない。少し業績が傾き始めた落ち目の商社。こんなつまらない会社に勤めて二十年以上。


 この程度の会社だ…。縁故で入ってくる者も多い。大して仕事も出来ないのにゴマ擂りが上手で世渡りの上手い奴や、縁故で入ってきた者だけが出世する。


 私は自分が特別出来るとは思っていない。だが私より確実に出来るだろうと思う者達ですら平の席に座らさせられ、入社数年の若造がこうして課長になってふんぞり返っている。


OL「鈴木さんまた課長に怒られてる…。」


後輩「あの人本当に要領悪いよなぁ…。課長なんて適当によいしょしてりゃ機嫌良くふんぞり返ってるだけなのにな。」


 後ろからヒソヒソと後輩達の内緒話が聞こえてくる。確かにお前達の言ってることも半分は正解だよ。確かにお前達なら適当にゴマを擂ればすぐに許されるだろう。


 でも私は違うんだよ。この課長は私を目の敵にしている。だから何をどうしようが私を許す気などないんだよ。いや…、そもそも私に怒鳴るのは間違いだとわかっていて私に怒鳴っているんだ。


 ただのストレスの捌け口にされているだけだからどうしようもない。何のミスもしなくとも、どれだけゴマを擂ろうとも、全ては無意味。ただ課長の気が済むまで怒鳴られるしかない。


課長「はぁ…。お前が鈴木太郎じゃなくて鈴木一朗だったらもっと使えたのかもねぇ…。親もどんなつもりでそんなくだらない名前にしたのかね?」


 こいつ……。私に八つ当たりするのはまだいい。でも名前をつけてくれた両親まで馬鹿にする気か!許せん!


 ………本当ならこの二十代前半の若造に色々と教育してやりたい。人様の親にまで悪口を言うような真似はやめろと言いたい。しかし私にそんな甲斐性などあるはずもなく…。いつも通り課長の気が済むまで怒鳴られたのだった。



  =======



 仕事を終えて自宅へと帰ってくる。誰もいない…。両親は他界し嫁も子供もいない私の家に誰かいるほうがびっくりだな。はははっ……。


 私は一体何をしているのか…。何のために生きているのか…。ただ毎日同じことを繰り返し、会社に行き、縁故で出世している若造に怒鳴られ一日の大半を消費して、家に帰れば飯を食って風呂に入って寝るだけ。


 私の生に一体何の意味がある?ただ会社のために一生働き続けることだけが私の存在意義なのか?


 しかしだからと言って会社をやめる覚悟も度胸もない。ただこのまま定年まで飼い殺しか?あるいはもう再就職も難しい頃になってからリストラか?


 どちらにしろ私の人生で良いことなど何もない。ただこのまま碌でもない人生を送るだけだ。


 あるいはそれは私だけではなくほとんどの人間がそうなのだろうか?人生の大半をただ働き蟻のように捧げて、ほんの少しだけ家族と過ごしたり、趣味に没頭して、それで自分は幸せな人生を送っているのだと錯覚して自分を騙して生きているのだろうか?


 ただ一つ言えることは私は現状に不満を持ちながら何も変えることが出来ないただの意気地なしだということだけだ………。


 その時私の足元が光り輝いた。


太郎「何だ!?」


 下を見てみる。そこはマンションの床だったはずなのに何か幾何学模様のような物が浮かび上がっていた。これは確か…、テレビゲームなんかに出てくる……?何と言ったか…。


 そんなことを考えているとふと急に足元がなくなったような浮遊感に包まれたかと思うと下へと引き摺り込まれていったのだった。



  =======



 確か下に落ちていくような、どこかに引き摺り込まれるような感覚がしたと思ったはずなのに、気がついたらテレビやドラマに出てきそうな中世ヨーロッパの城の一室のような場所に立っていた。


???「ようこそおいでくださいました勇者様。」


 鈴の転がるような澄んだ声が聞こえて私は慌てて振り返る。そこには………。


 今まで四十余年生きてきて一度も見たことがないような可憐で透き通るような美少女が立っていた。


太郎「勇者?それは私のことかね?ここは一体どこなのかね?」


フレーデグンテ「ここはファルクリアにあるロベリアという国です。そしてワタクシはロベリアの王女、フレーデグンテと申します。貴方様にこの世界を救っていただきたく…。うぅっ…。」


 そこまで言うと可憐な少女は口元を抑えて泣き出してしまった。


太郎「ああぁ…。とにかく落ち着いて。ね?おじさんが話を聞くから。ね?」


 もし私に家族がいたならば自分の娘ほどであろうと思われるフレーデグンテの涙にうろたえてしまう。こういう時にどうすればいいのか私にはよくわからない。


フレーデグンテ「ありがとうございます。それでは落ち着ける場所でお話しましょう。」


 フレーデグンテと名乗った少女は私を先導するように歩き始めた。周囲に強面の騎士のような格好をした男達に囲まれて私の方は落ち着かない………。


 フレーデグンテと騎士達に付いて暫く廊下を歩いていると立派な扉の前に辿り着いた。


フレーデグンテ「ここはワタクシの大切なお客人をお招きする応接室になっております。」


 フレーデグンテがそう言いながら騎士達に目配せすると騎士達は中へと入ってこなかった。どうやら私に害がないと判断されたのかもしれない。


 その応接室はテレビでも観たことがないような豪華さだった。私もそういうものに詳しいわけじゃないが、我が社の社長室とは比べ物にならないのは間違いない。


フレーデグンテ「それではお聞きください。この世界は………。」


 フレーデグンテに聞いた話は壮絶なものだった。ここは私が住んでいた地球のある世界とは違うそうだ。そしてこの世界は海人族という者達に支配されているらしい。結局…、結局どの世界でもほとんどの者は搾取され一部の者だけが潤う世界なのか!


 その海人族の圧政があまりにひどいために反旗を翻そうと画策中らしい。ただ現時点で世界を征服している国を相手に戦争を仕掛けるわけだからそう簡単な話じゃない。それくらいは私にもわかる。


 そこでどうやらこのロベリアという国は勇者召喚という方法に頼ることにしたらしい。そして召喚された勇者というのが私だと………。


太郎「ちょっと待ってくれ。私はこれまで喧嘩らしい喧嘩だってしたことがないんだよ?それなのに戦争に参加しろと言われても何も出来ないよ。」


フレーデグンテ「いいえ。勇者召喚で呼ばれる方はそれに相応しいお方だけなのです。ですからタロー=スズキ様はきっと強いお力をお持ちのはずです。」


太郎「そうは言われてもねぇ………。」


フレーデグンテ「ご心配には及びません。きちんと訓練を積んでいただきます。」


太郎「えぇ!?ただのしがないサラリーマンでしかない私は運動だって得意じゃないんだよ…。」


 私は必死でそう言っているのにフレーデグンテは『大丈夫大丈夫』と言うばかりで無理やり私を運動場へと連れて行ったのだった。



  =======



 私がこの世界に来てからもう一ヶ月が経っている。どうせ私には地球に残してきた家族などいない。この世界に骨を埋めることになってもかまわない。


 それに何より…。この世界は素晴らしい!最初のうちはまるで敵わなかった屈強な騎士達を相手に私はすでに負けることがない。もうこのロベリアで私に勝てる人間など存在しないのだ!


 それにフレーデグンテ…。あの可憐なお姫様は私を慕っている。それはそうだ。この国最強にして救国の英雄なのだから!ははははっ!


 そうだ!私はこの時のために生まれてきたのだ!私はこの世界で国を救い姫を娶り王となる。これまでの無意味な人生はこれからの人生のためにあったのだ!


 そのためには戦争だ。そうだ!まずは戦争に勝ち、私が英雄となる。どんなことをしても勝たねば。そうしなければフレーデグンテは手に入らない。


フレーデグンテ「タロー様。今日の訓練は終わられたのでしょうか?」


タロー「ああ。終わりましたよ。」


フレーデグンテ「そうですか。それでは父がお呼びですのでご一緒に向かいましょう。」


タロー「はい。それでは行きましょう。」


 くくくっ。ロベリアの王の信頼も勝ち取りフレーデグンテを手に入れる。これからが私の本当の人生の始まりだ!ははははっ!!!



  =======



 さて…、ようやく初めての狩りです。魔獣とかいうケダモノを狩りに出かけてみましたが………。なんと貧弱な生物でしょうか。この世界の住人達はこんな物に苦労しているというのですか。ふふふっ。笑ってしまいますね。


 いや…。やはり私が強すぎるのでしょう。そうです…。私だけが素晴らしすぎるのです。あぁ、なんということでしょうか…。そうだったのです。他の者達は生まれた時から死ぬまで愚かだったのです。私だけが特別だったのだと今更ながらに知ってしまいました。くふふっ。あはははっ!!!


 その後も魔獣狩りに出ても私だけが強すぎて他の者達とは出来が違うのだと証明されるような出来事ばかりでした。


 そしてとうとう私の国際デビューの日がやってきました。そう。この世界には人間以外にも人間のような二足歩行である程度知能のある生物がいるのです。


 その者達は独自に国を持っている。その各国と連携するための交渉に私が出向くのです。本来ならば尊い私がわざわざ出向くなどおかしな話ではありますが、人間以外の生物達は二足歩行で知能があるとは言っても未開な生物達なのです。そういうことがわからないのも無理はありません。


 寛大な私は最初はこちらから出向いてあげようと思ったのです。いくら未開で知能の低い生物達でも一度私を見れば私がいかに尊い存在であるのか気付くことでしょう。それでは私の国際デビューを飾るとしましょうか。



 ………

 ……

 …



 どういうことですか!なぜこの未開で野蛮な生物達は私の言うことがわからないのです!私が黒だと言えば白いものも黒くなるのです!お前達はただ黙って私の指示通りに命を投げ出して戦えばいいのです!


 ………いけませんね。私としたことがあまりの事態につい興奮してしまいましたよ。


 他の種族達を集めた会議はまったく思い通りに進みません。やはり低脳は低脳なのでしょう。私の戦略の意味がまったく理解出来ないのです。


 ………そうだ。何も真っ当に説得する必要などないではないですか。どうせこいつらは私が世界を救ってフレーデグンテと結ばれるために死んでいく駒なのです。だったら何もこの者達に真実を話す必要などないではないですか。ふふふっ。



 ………

 ……

 …



 おや?妙に話がスムーズに行くようになったと思ったら私の頭から何やら細い糸のような物が伸びて会議に出席している者達の頭に繋がっているではありませんか。これは一体………?


 ……ふむ。暫く観察してみてわかりました。これが繋がっている相手は私が多少無理のあることを言っても何となく納得してしまうようですね。所謂思考誘導のようなものでしょうか…。


 くふっ…、くふふっ!あはははっ!素晴らしい!私はなんと素晴らしい存在なのでしょうか!人々を自由自在に操る。これぞまさに神の御業ではないですか!あははははっ!


 そう!これこそが神!人の身でありながら神!人神です!


火霊神「ああ。それで人神………。ん?何で今俺は人神なんて呼んだんだ?」


土霊神「それはあやつが人神だからであろう。」


 会議の場がザワザワと騒がしくなってきましたよ。


人神「皆さんもう少し落ち着きを持たれてはいかがですか?仮にも皆さんは各国の神々なのでしょう?少しはこの私、人神を見習っていただきたいものです。」


水霊神「………そうね。」


 はははっ!素晴らしい!全ては私の思い通りになる。そう。この人神のね!!!



  =======



 他種族達を海人族にぶつけてお互いに消耗させてもうすぐ私が世界を手に入れられるはずだったのに!それなのにどうしてこんなことに………。


 私の指揮の下、順調に進んでいた中央大陸戦線の閲兵式にフレーデグンテもやってくることになっていた。私が制圧した地域は安全だったはずなのに!それなのに姫はなぜか予定されていたルートを逸れて隣にある小国内を通っていこうとしたのです。


 そこで小国の護衛や王子共々皆殺しにされてしまいました!なんということです!フレーデグンテは私の妻になる女だったのですよ!


 あぁ…、二人で一緒に駆けた花畑。一緒に潜ったバラのアーチ。私が戦から帰ると慰労と称して私の部屋を訪ねてきてくれていたフレーデグンテ。


 地球に居た頃の会社のOL達は私のことを臭いだの気持ち悪いだのと言って近寄ってすら来なかったというのに…。フレーデグンテはそんな私を愛してくれていたのに!


 憎い!憎い憎い憎い!私からフレーデグンテを奪ったこの世界全てが憎い!フレーデグンテのいない世界など何の価値もない!全て滅んでしまえ!



  =======



 戦争は予定通り五族同盟の力を消耗させながら勝利するという目的を達成出来ました。私が指揮しているのですから当然です。


 ですがフレーデグンテのいないこの世界で戦争に勝っても何の意味もないのですよ!全てを…。私からフレーデグンテを奪ったこの世界を破壊し尽してあげましょう!


???「お前が人神か?」


人神「―ッ!」


 いつの間に…。この完璧である私に気付かれることなくこの部屋に侵入して私の後ろに立っていたというのですか?一体何者でしょうか…。五族同盟にはこんな者はいないはずです。


???「お前が人神か?」


 その男は再度同じ台詞で問いかけてくる。その声にはおよそ感情の類は感じられない。あまり下手に刺激しないほうが良さそうですね。


人神「そうですが…。貴方は一体どちら様でしょうか?」


タケミカヅチ「我が名はタケミカヅチ。我らが主がお前との引見をご所望だ。」


 何と言う言い草でしょうか。それではまるでこの私が下の身分のようではないですか。ですがここは逆らわない方が得策でしょう。


 この者も並の者ではありません。私の眼は誤魔化せませんよ。もちろん私の力を持ってすればこの者に勝てる可能性はあるでしょう。ですが口ぶりからしてもこの者は一人ではないのです。


 もしここでこの者と敵対した場合に、敵が一人なら私が勝てるとしても大勢ではそうはいかないのです。何しろ私の手駒は弱い者ばかりで私の足しにもならないような者ばかりですからね。


 ここは穏便に済ませて後で対策を考えましょう。それがベストな答えです。ふふふっ。さすがは私ですね。瞬時にこれだけの判断が出来るのも私だけでしょう。


人神「それで…、貴方の主と言う方はなんと言われる方でしょうか?」


タケミカヅチ「来るのか来ないのか。それだけ答えろ。」


 なんという無礼者でしょう…。ですがここで怒っては大人気ない。こちらが大人の対応をしてあげましょう。


人神「………それでは行きますが、どうすれば?」


タケミカヅチ「それでは行くぞ。」


 どこへどうやって行くのかもわからないうちに、タケミカヅチと名乗った者に掴まれたかと思うと一瞬のうちに移動していました。


 瞬間移動?いえ、違いますね。僅かに空気の動きを感じました。恐ろしく速い速度で移動したということでしょう。


タケミカヅチ「こっちだ。ついてこい。」


 どうやらまだ先があるようです。タケミカヅチに先導されながら建物内を歩きます。…どうせなら謁見の間まで移動してくれれば無駄な手間が省けたと思うのですがねぇ。


タケミカヅチ「人神を連れてまいりました。」


???「ご苦労。そなたは下がりなさい。」


タケミカヅチ「はっ!」


 謁見の間の中には玉座の上に美しい女性が座っています。この女性が私を呼び出した主ですか?この程度の者に顎で使われているなんてタケミカヅチとやらも大したことがないようですね。


???「人神よ。先の戦争は大儀であった。」


 この女は一体何を言っているのでしょうか?戦争は私が望み私が導き私が終わらせたのです。この女に労われる謂れなどありません。


人神「言っている意味がわかりませんが?そもそも貴女は一体どなた様で?」


アマテラス「わらわはアマテラス。そなたらの働きによりわらわの願いが成就された。よくぞわらわのために命を惜しまず働いた。」


 本当に何を言っているのかわかりません。見た目は美しい女性なのに頭はおかしいようですね。とても残念です。尤も私の愛しいフレーデグンテと比べてはただのおばさんになってしまいますがね。ふふふっ。


人神「私は別に貴女のためになど働いておりませんが?」


アマテラス「そなたがそう思っておることこそがすでにわらわの術中。ロベリアが反旗を翻したのも、召喚の技術を手に入れそなたを召喚したのも、五族同盟が海人種に戦争を仕掛けたのも、全てはわらわの意のまま。そなたらはそうと気付くことすらなくわらわのために働いておった。」


 何をくだらない……。いえ…。そういえば確かに不可解な点もありますね。召喚は私が初めてだと聞いています。今までそんな技術があったのなら何故してこなかったのか。それはそんな技術を持っていなかったから?それを齎したのがこの女だと言うのですか?


 それに五族同盟。確かにこれもおかしなことがあります。何故ほとんど全ての種族が海人族を裏切るような真似をしたのですか?


 最初にこの世界に来た時に聞いた話と違って海人族の支配はそれほどひどいものではありませんでした。むしろ食料は安定供給され、生活関連の技術は向上し、平和で安全な暮らしが保障されていました。


 これを蹴ってまで五族同盟に参加する必要などなかったはずです。それなのにロベリアの呼びかけに当たり前のように応えて反旗を翻した。こんなことがあり得るでしょうか?普通にはあり得ないでしょう…。そう。誰かが裏で糸を引いていない限り…。


 つまりそれをしていたのがこの女だと?もし仮にそうだったとして何故私を?今まで気付かれずに裏で操っていたのならば今姿を現した理由がわかりませんね。


アマテラス「人神よ。そなたの働きに褒美を与えてやろうかと思って呼び出したのだ。」


 褒美?私の欲しい褒美など誰にも与えることは出来ない。そんなくだらないことのために………。


アマテラス「言う必要はない。そなたの欲するものはわかっておる。わらわならばその願いを叶え………。」


人神「ふざけないでいただきたい!死んだ者を生き返らせることが出来るとでも言われるつもりか!」


 私は感情的に叫んでいた。もちろん私の望みはフレーデグンテを生き返らせることだ。しかしそんなことが出来るはずなどない!そんなことが出来るのは神くらいのものでしょう!


アマテラス「ふざけてなどおらぬ。信じられぬのなら外にいる生き物を殺して持ってくるが良い。そなたの目の前で生き返らせてみせよう。」


人神「………。」


 私は居ても立ってもおれずに駆け出した。もちろんこんな女の言うことなんて信じていない。信じていないはずなのに何故私は外に出て生き物を殺してもってきているのだろうか………。


人神「出来ると言うのならこれを生き返らせてみせてください。」


 この魔獣は私が外で偶然見つけて殺してきたものだ。何か仕掛けをしておくとかは不可能。本当に死んでいることは私が確認している。さぁ…。出来ると言うのなら見せてみなさい!ですが出来なかった時には私の命を賭けて相応の報いを受けさせてさしあげますよ!


アマテラス「ほれ。」


 アマテラスが掌を翳すと温かい光が私が持ってきた魔獣を照らし出す。すると…!


アマテラス「これで良いか?」


人神「馬鹿な…。こんなこと………。」


 私が殺して持ってきたはずの魔獣が生き返って歩き回っている!こんなことが可能なのですか!


アマテラス「そなたの望みはロベリアの姫フレーデグンテを生き返らせることであろう?今少しわらわのために働くというのなら、その仕事を成した暁には生き返らせてやろう。」


 くふっ。くふふっ!いいでしょう!いいですもと!貴女の手駒になって動いてあげようじゃありませんか!私には他の選択肢などない。フレーデグンテのためならば狗にでもなりましょう。


 しかし…、本当にフレーデグンテを生き返らせるつもりでしょうか?もし嘘であったのならばこの世界もろとも全てを滅ぼしてあげましょう。そのための準備はしっかりしておかなければね。ふふふっ。



  =======



 あれから一万年ですか…。私の望みとアマテラスの望みのためにこの一万年の間、命を刈り取り、陰謀を巡らせ、仲違いさせお互いに殺し合いをさせてきました。


 ありとあらゆる方法で欺き操り、このファルクリアの世界に不幸をばら撒き続ける。もう私の望みとかどうでもよくなってきましたよ。


 そうです。私の偉大さがわからない愚か者達に神罰を与えましょう。それこそが私の役目。私の偉大さがわかる賢い者のみを次代へと導き古き無能な者共を粛清するのです。


 あははっ!そうです!それこそが私の使命ではないですか?!


シホミ「相変わらず一人でニヤニヤして気持ち悪い。」


人神「おぉ。これはこれはシホミ様。一体このような気持ち悪い場所に何のご用でしょうか?」


 まったくいけ好かない馬鹿娘だ。アマテラスの娘でさえなければとっくの昔に始末してやっているところです。


シホミ「御母様の命令ですわ。でなければこのような場所にはまいりませんわ。」


 本当に腹の立つ小娘ですね…。その生意気な口に私のモノを突き込んでヒィヒィ言わせてやりましょうか!


人神「それはそれはご苦労様です。それでアマテラス様のご命令とは?」


シホミ「わらわと共に下界へ降りますよ。」


人神「下界へ?何故?」


シホミ「アキラ=クコサトと接触します。場合によっては力ずくで従わせても構いませんわ。」


 アキラ=クコサト。よくわからない人物ですね。もちろん名前や姿形は知っていますとも。そういうことではなくこの存在が起こす騒動のことです。


 この者が動くと私の予定が悉く狂ってしまいます。一万年の準備の中でこれまでもイレギュラーや予定外なんてことはたくさんありましたとも。それらはいつもうまく修正してきました。


 ですがアキラ=クコサトはその修正をすることすら出来ないほどに狂わせてくるのです。本当に目障りな存在ですよ。


 それを始末出来るというのなら私にとっても願ったり叶ったり。いいでしょう。それでは私のための新しい世界を作りにいきましょうか!



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